Fate/Sweet Zero   作:フロンサワー

4 / 12

 更新できました。頑張ったよ俺。
 これからも頑更新し続けます。ゆくゆくは、ゲージに色をつけれるように頑張ります。


狂戦士の背中

 

 コンテナターミナルに怒鳴り声が響いた。

 声を潜めるのも忘れ、雁夜が声を張り上げているのだ。他のマスターに気づかれる危険があるが、雁夜にとっては知ったこっちゃない。

 

「このクソ兄貴! 何の為の見張りなんだよ!!」

『仕方ないだろ!? まさか、こんな真夜中に桜が脱走するなんて!!』

「~~~ッ!!」

 

 臓硯が死んだ今、間桐に縛られる理由は確かに無くなった。それでも、こんな真夜中に脱走するような娘じゃない筈だ。

 いや、今は理由を考えている場合じゃない。かぶりを振るい思考を切り替える。

 聖杯戦争が開幕し、唯でさえ冬木市は不安定な状況なのだ。一刻も早く見つけ出さないと、桜に危険が及んでしまう。

 

(蟲の大量使役は堪えるが桜ちゃんの為だ……! 耐えきってみせる……!!)

 

 背に腹は変えられない。体内の魔術回路を総動員させ、限界ギリギリの量の蟲を使役する。

 冬木市の至る場所を探索させたが、桜が見つかる気配は一向にない。時間だけが過ぎていき、どんどんと焦心に駆られていく。

 それだけではない。魔術を行使する間も、刻印蟲は雁夜の肉体を容赦なく喰らう。

 

「ぐっ……! がっ!?」

『おい!? 雁――』

 

 鶴野との通信が途絶える。

 強張った左顔からは血管が浮かび上がる。左腕に至っては膨張しすぎた血管がそのまま破れ、血がポタポタと滴っている。

 倒れるように膝を着く。いよいよ、体力的にも限界が近い。視界がブラックアウトする寸前―――

 

「いた!!!」

 

 先程まで衰弱などまるで嘘のように、雁夜は勢いよく立ち上がる。

 一匹の蟲が冬木市の下水道の入り口に連れていかれる桜を捉えた。しかも、赤髪の青年に手を引かれ。

 雁夜の右脳が嘗て無いほどフル回転する。雁夜の目には、その赤髪の青年の顔が酷く上ずっているように映った(当人比)。

 もしかして…… いや、もしかしなくても。あの青年は間違いなくロリコンだ。下水道に連れ込んだ次の行動を、光の速さで考え至る。

 そこからの雁夜の対応は迅速だった。

 

「………令呪をもって命ずる。桜ちゃんのいる場所まで俺を連れていけ! バーサーカー!!」

 

 一ミリの躊躇もなく令呪を使用する。掲げた右手の令呪の一画が淡い光と共に消えていく。

 喩え聖杯戦争に関係なかろうと知ったこry)。

 限界したバーサーカーが雁夜を担ぐ。ランサーの宝具を捕食した恩恵か、ほんの僅かな魔力しか消費しないので大した影響はないが……

 

「く、苦しッ!?」

 

 運び方が悪かった。フードを掴み、引き摺る形で雁夜を連れて行くバーサーカー。だんだんと脚を回転させるスピードは増していく。地面を蹴り、宙を舞い、夜の冬木を颯爽と駆け抜ける。

 バーサーカーの右手で掴まれている雁夜は、泡を吹きながら気絶していた。

 雁夜が気絶している間に、バーサーカーは野を越え、山を越え、街を抜け、橋を越え、いよいよ下水道への入り口に辿り着いた。

 右肩に乗せていた雁夜を、荷物の如く地面へと落とす。それでも、ギリギリのラインを理解しているのか、いないのか。荒い呼吸をしながらも、雁夜は一応生きていた。

 

「葵さん、俺も今そっちへ…… いや、葵さんは死んでないだろ!」

 

 自分で自分にツッコミを入れながら、雁夜はガバリッ! と起き上がる。周りを見渡せば、いつの間にら下水道への入り口にいた。

 

「ここは……?」

 

 そして、気づいた。下水道の奥からは唯ならなぬ邪悪な気配が漂っている。

 何処かの魔術師の工房なのだろうか? もしそうだとしたら、この先は危険極まりない。魔術師工房は、幾多ものトラップが張り巡らされた要塞のようなものだ。そんな場所に踏み込んだら、いかにサーヴァントを連れていようと、命の保証はできない。

 だが、喩えそうだとしても、雁夜は立ち止まる訳にはいかない。此の先に桜が居るというなら、敵魔術師の工房だからといって逃げ出すなど、断じてない。

 

「行くぞ、バーサーカー」

 

 覚悟を決めて足を進める雁夜。

 その先に立ち塞がる困難を喰い破ろう。そう言わんばかりに、お菓子の宝具を肩に担いだバーサーカーが雁夜と並んで足を進める。

 バシャ…… バシャ…… と水の上を進む足音が響く。暫くしてバーサーカーの足が止まった。それにつられ、雁夜の足も止まる。

 バーサーカーを一瞥する。眼前の暗闇を睨み付けるその目は、幾度と無く浮かべた『獲物を探し当てた』歓喜の目に変わっていた。

 

「ギイイィィィィィ!!!!」

「!!??」

 

 次の瞬間、触手なのか蛸なのかよく解らない生物が二人に襲いかかる。

 しかし、たった一閃が。横一閃に振るわれたバーサーカーの板チョコが、その生物を真っ二つに引き裂いてしまった。

 夥しい量の血飛沫が弾け跳ぶ。同時に、どす黒い血液がバーサーカーを紅く染め上げた。しかし、さして気にした様子もない。化物の顎を作り出し、ピチピチと跳ねる残骸に喰らいつかせる。肉と骨を噛み砕く生々しい音が響いた。

 未だに獰猛な目を浮かべたバーサーカーは、下水道のその先へと視線を移す。

 

「「「「ギギギギイイィィィ!!!!」」」」

 

 バーサーカーの捕食が口火を切ったのか、次々と蛸が飛び掛かってくる。バーサーカーは満面の笑みを浮かべながら、優に音速の域に達した剣撃が魔物達を斬り捨てた。

 

「クソッ……! 数が多すぎる……!!」

 

 歯痒い表情を浮かべる雁夜。

 魔術師にマトモな奴などいない。こうしている間にも、間桐臓硯のように桜を苦しめているかもしれない。

 ―――今、桜ちゃんを救えるのは時臣じゃない。他でもない俺なんだ………!!

 誓ったのだ。約束したのだ。あの娘は、桜だけは幸せにしてみせると。

 気づけば、声の限りにバーサーカーに指示を飛ばしていた。

 

「殲滅しろぉぉぉ!!!!! バーサーカァァァァアアアアァァァァ!!!!!」

 

 その想いに応えたのかは解らない。だが、バーサーカーは宝具をケーキへと変型させてくれた。

 雁夜は頬を吊り上げる。きっと、バーサーカーは命令を聞いた訳ではないのだろう。それでも、この魔物達を一掃することができる。

 銃口が標的に向けられる。アーチャーの宝具群すら防ぎきった銃弾が―――

 

『キュゥゥン!!!』

 

 一閃の光が暗闇を駆け抜ける。

 輻射の誘導放出による光増幅。俗に言う、レーザーが放たれた。

 蒼白い光に接触した魔物達は、否応なしに次々と焼け爛れていく。その光景自体は悲惨なものなのだが、全く頭に入らなかった。

 

(ケーキから…… REーZAー……? れーざー……?? レーザー……??? )

 

 ケーキからレーザー。それだけが頭の中を埋め尽くしていたのだ。

 

「………………………………まあ、いっか」

 

 とりあえず足を進める雁夜。しかし、バーサーカーが残骸を捕食しようとするので、結局足止めをくらった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

「うーん…… 迷うなあ。まさかこんな一級品の素材が手に入るなんて! どんな芸術(アート)にしようか? ねえ、旦那ぁ」

 

 キャスターのマスター『雨生龍之介』が、心底幸せそうな表情を浮かべる。

 龍之介は魔術師ではない。先祖の代に魔術師がいただけでマスターに選ばれた。しかし、生粋の連続殺人犯(シリアルキラー)という面を持つ異常者でもある。

 壁際に視線を移す。その先には、瞳に怯えの色を見せる子供たちが何十人といた。その中で唯一、他人事のように無表情な間桐桜も。

 

「それはいけませんよ龍之介! 彼女は聖少女降臨の生け贄となるのです!! きっとジャンヌもお気に召すでしょう!」

「えええぇぇ!? そんな~~~!?」

 

 キャスターのクラスで現界したサーヴァント『ジル・ド・レェ』は、カエルのように飛び出た双眸を桜に向ける。ソレは、およそ人間に向けるものでない。

 

「「「ひっ……!!??」」」

「…………」

 

 邪悪な視線を悟ってか、多くの子供たちが恐怖で竦む。しかし、桜だけは違った。表情どころか眉ひとつ動かさない。

 キャスターはその様子を見て顔をしかめる。

 静的な状態ではなく、変化の動体こそが彼の求める恐怖なのだ。そんな彼からしてみれば、なんの反応もない桜が不快でしかたがない。右腕の一本でも握り潰そうとした瞬間――― 桜の右腕へと伸ばした手が止まる。

 

「 龍之介…… どうやら、狂犬の御出座しのようですよ」

「うん?」

 

 龍之介が首を傾げた。

 イマイチ状況を掴めていないマスターの為、千里眼の水晶を覗かせる。

 

『ァァァァア"アア"ァアァア"ア"ア"!!』

 

 人が発したとは思えない咆哮。水晶に映ったのはケーキの宝具を構えたバーサーカーだ。

 一本、二本、三本。眩い閃光が次々と海魔を焼き殺していく。龍之介の目には、ケーキからレーザーが発射されたように見えた。というより、事実その通りなのだろう。

 

「……これは少しマズいんじゃない?」

 

 さすがの龍之介も口許が引き吊く。彼のような異常者でも、この光景は相当ブッ飛んでると感じたらしい。

 心配した目をキャスターに向ける。確かに今なら逃げることも可能だが、折角集めた素晴らしい素材たちを失うことにもなる。それに、久し振りに一級品の素材を手にいれたのだ。逃走だけは何としても避けたい。

 

「問題ありません。私たちの冒涜の儀式を妨げようとする狂犬など、私の『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』で事足ります」

「さっすが旦那!! 期待してるよ!」

 

 キャスターの手ひは一冊の魔導書が開かれていた。キャスターが持つ唯一にて、凶悪な性能を誇る宝具『螺湮城教本』。魔力炉を持ち、魔術師でない者にも深海系の海魔を召喚できる宝具だ。

 一匹だけなら英霊に敵わないだろう。だが、それが数十、数百匹と数を成したら? 一匹一匹が脆弱だとしても、数を成せば十分な脅威だ。

 次々と現れる無数の海魔を従え、バーサーカーを迎え撃つ体勢を整える。そして、とうとう―――

 

「桜ちゃん!!!」

 

 狂戦士を引き連れたマスター、間桐雁夜が現れた。

 

「…………雁夜おじさん?」

 

 僅かに、ほんの僅かに表情が綻ぶ桜。

 その姿を見た瞬間、雁夜は体から力が抜けるような感覚を覚えた。

 桜が臓硯の手によって穢された時、どれだけ自分に絶望し、どれだけ後悔したことか。だが、間に合ったのだ。今回は桜を守ることができるのだ。

 安堵感で崩れ落ちそうになる雁夜を支えたのは、憎悪と責任だった。ありったけの憎悪を籠めた形相で二人の男を睨み付ける。

 一目見て理解できた。痩せ細った長身の男は確実にサーヴァントだ。ステータスを透視すれば、案の定、キャスターだという結果も出てる。

 雁夜の口許が歪に吊り上がる。聖杯戦争に参加したマスターなら好都合だ。殺してしまっても、なんの問題もない。

 

「うわっ、すっげえ!! この人今にも死にそうじゃん!」

 

 それに対し、龍之介は呑気な声を上げていた。雁夜も表情を強張らせ、何が目的で桜を拐ったのか探りを掛ける。

 

「…………お前、キャスターのマスターか。桜ちゃんをどうする気だったんだ?」

「んー、もしかしてこの娘のこと? そうだなー…… 人間パイプオルガンの鍵盤かな! この娘の腸なら綺麗な音色を響かせると思うんだよ! どう? 素敵でしょ?」

 

 そのたった一言が、雁夜の逆鱗に触れた。

 

「………………殺せ!! バーサーカー!!!」

 

 雁夜の叫び声と共に、バーサーカーが板チョコを構えながらキャスター達に突貫する。

 しかし、無数の海魔の壁にバーサーカーは遮られてしまう。斬りつけようが、喰らい付こうが、僅かな突破口も開けない。寧ろ、バーサーカーの周囲が海魔に埋め尽くされていく。

 

「わーお。超FOOL」

「これはこれは。そのように巫山戯た宝具で私達に歯向かおうなど、愚行の極みですぞぉ!!」

 

 二人の注意がバーサーカーに向いてる間に、闇に紛れて雁夜は行動をおこす。

 ランサーの宝具に加え、キャスターの召喚した海魔を喰らった恩恵なのだろう。バーサーカーがどれだけ暴れようと、刻印蟲が過度に肉体を貪ることはなかった。

 桜を助け出すには今しかない。海魔に気づかれぬよう、息を殺して慎重に近づこうとするが―――

 

「しまっ―――!?」

 

 複数の海魔が雁夜に襲いかかった。

 ゆっくり、ゆっくりと海魔が迫ってくる。しかし、意識に反して体は動かない。

 絞め殺される。喰い殺される。圧し殺される。頭の中では様々な死に様が反芻された。

 ここまでなのか。大切な人を守れずに、ここで終わるのか。いよいよ、海魔の牙が雁夜に喰らい付こうとした―――その時!

 

『ドォン! ドォン! ドォン!!』

 

 三発の銃声が響く。次の瞬間、雁夜の目の前に迫っていた海魔が断末魔をあげる。銃弾に貫かれた3匹の海魔は血飛沫をあげながら、力なく地べたをのたうち回る。

 更に一匹が雁夜へと襲いかかるが、醜い奇声をあげて地面へと縫い付けられる。バーサーカーが板チョコで海魔を突き刺したのだ。

 マスターの無事を確認するかのように、バーサーカーはそっと視線を移す。そのまま、海魔だったモノから板チョコを引き抜いた。

 

「バーサーカー…… お前……」

 

 クルリと雁夜に背を向け、次々と飛び掛かってくる海魔を斬り伏せる。その姿は、決して狂戦士などではない。大切な人を護るために闘い続けた男の姿に見えた。

 

「サ…… クラ…… ヲ、コドモ…… タチヲ……… タノ…… メルカ?」

 

 海魔の下卑た断末魔の中、辿々しい発音だが妙に威厳のある声が響いた。最初こそ耳を疑ったが、今はもう確信している。この声はバーサーカーのものだ。

 桜達がいた場所に目を向ける。

 キャスターのマスターが桜たち全員を引き連れて撤退しようとしていた。暗示の魔術が掛かっているのか、子供たちは覚束ない足取りで進んでいく。

 

「……勿論だ!」

 

 無論、桜達を渡すつもりは微塵もない。外へと脱出すべく、侵入した経路を逆走する。

 ふと、海魔を屠り続けるバーサーカーへと視線を移す。「任せたぞ」と、バーサーカーの背中が語っていた気がした。

 それが、何よりもの後押しになった。バーサーカーの言葉を胸に留め、左半身を引き摺りながら再び走り出す。

 

「甘く見られたものです。まさか、たったの一人で私の海魔を相手取るつもりですか? まあ、あの死に損ないが加勢した程度で、この状況を覆せるとは思えませんが」

「………」

 

 『螺湮城教本』により、新たな海魔が召喚される。バーサーカーは獰猛な笑みではなく、決意を秘めた鋭い眼孔を向けた。

 

「さあぁぁああ! そこな狂犬を喰い尽くしなさいぃぃい!!」

 

 キャスターの号令を合図に、無数の海魔がバーサーカーへと飛び掛かった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 冬木市地下の下水道は赤一色で染め上げられていた。キャスターの召喚した海魔達も、同族の血で赤く染めらている。

 目眩がする程の赤一色の中、魔の群れを縦横無尽に駆ける黒い影が一つ。この光景とはあまりに不釣り合いな宝具…… 板チョコを振り回しているバーサーカーである。

 飛び掛かってきた海魔の一匹が、大きく開かれた禍々しい黒の顎へ吸い込まれていく。力強く顎が閉じられ、骨と肉が噛み砕かれる音が響く。

 それでも恐れることはなく、いや…… 恐れる知能すらないのか、次々と海魔が襲いかかる。

 

「この『数の差』を覆すことなど不可能! フフフ…… いつまで抗えるのか見物ですねえ!!」

 

 拮抗こそしていれど、かれこれ数十分はこの状況である。

 バーサーカーの魔力消費は唯でさえ激しい。加えて、それに相応しい魔術師としての素養がマスターにあると思えない。

 このまま闘い続けさえすれば、バーサーカーの自滅は目に見えている。キャスターは勝利を確信していたのだが……

 

「………… 馬鹿な!? 海魔が召喚されない!!!??」

 

 『螺湮城教本』に幾ら念じようと、海魔の一匹すら召喚できない。

 両手で髪を掻きむしり酷く狼狽するキャスター。まさか、自らの宝具が封じられようなど、夢にも思わなかったのだろう。

 滑稽とも取れるキャスターの姿を見たバーサーカーは、不敵な笑みでこう告げた。

 

「ゴチソウ……サマ……」

 

 倒れた海魔の魔力が『螺湮城教本』還元され、半永久的に海魔の召喚が可能な筈なのだ。

 しかし、知る由もないだろう。バーサーカーの宝具とキャスターの宝具は最悪な相性だと。

 バーサーカーの宝具は『喰らった物の魔力を自身に還元する』のだ。今頃、倒された海魔の魔力は、バーサーカーの宝具の中だろう。

 沸々と、キャスターの内から激情が沸き上がってきた。

 

「思い上がるなよ匹夫めがぁぁぁぁあああぁ!!!」

 

 キャスターの呪詛の如き金切り声が木霊する。

 しかし、バーサーカーは一瞥もせず、血濡れた赤い板チョコから純白のショートケーキへと変型させる。

 銃弾、果てにはレーザーまで撃ち出される現代(?)兵器。多対一の状況なら、此程有利な宝具もない。

 轟音と共に、雨のような銃弾が海魔目掛けて空を切る。着弾した瞬間、圧倒的熱量の爆風が海魔のいた空間に吹き荒れる。

 

「ひぃぃいぃ!!??」

 

 まさにそれは絨毯爆撃。残ったのは、黒く焼け焦げた無機質な床のみである。これで、バーサーカーを遮る壁はなくなった。

 これぞ、バーサーカーが狙っていた千載一遇のチャンス。『螺湮城教本』に魔力が還元されたが、海魔を召喚する隙など与えない。瞬時にキャスターへと肉薄し、板チョコの先端をキャスターへと向ける。

 

「ぐぅがああぁぁあああぁ!!!??」

 

 黒い顎がキャスターの左腕を噛み千切った。

 肩口から血が溢れる。しかし、キャスターは心の底から安堵していた。倒れ込むように躱していなければ、今頃宝具の口の中だ。

 今や隻腕となったキャスターは、荒い息遣いをしながら立ち上がり、狂気を孕ませた双眸をバーサーカーへと向ける。

 

「己…… 己…… オノレ、オノレ、オノレ、オノレオノレオノレオノレオノレオノレェェェェェェ!!!」

 

 バーサーカーは板チョコを構える。このままで終わる筈がない。仮にも、百年戦争でフランス軍元帥を務め、救国の英雄とまでいわれた騎士なのだから。

 キャスターの憎悪に呼応するかのように、足元から巨大な魔法陣が展開される。

 反射的に魔法陣から飛び退くバーサーカー。次の瞬間、無数の触手がキャスター(・・・・・)を呑み込んでしまった。

 

『クックック……!!! クハハハハハハ!!!』

 

 少しずつ、少しずつ魔法陣からナニカが這い出してくる。最終的に、下水道の空間を埋め尽くす超弩級の海魔が召喚された。

 本来の全長ならば100メートルを優に越えるのだが、バーサーカーに喰われた魔力が多大な為、随分とスケールダウンしてしまった。それでも、巨大なことには変わりない。

 

『―――ッシ!!!!』

 

 巨大な触手の横薙ぎが、柱ごと砕きながらバーサーカーへと迫る。にも関わらず、その勢いは衰えることを知らない。

 咄嗟キャンディーの装甲を展開する。しかし、人一人覆う程の巨大なキャンディーも、超弩級の海魔の触手の前では微々たるものだ。

 

「グガァ……!!??」

 

 宝具諸とも一直線に弾き飛ばされた。あまりの衝撃に、口から鮮血が飛び散る。ボールのように地面を何度もバウンドし、柱に激突して漸く止まる。

 立ち上がろうとするも、それを許す相手ではなかった。幾多もの触手がバーサーカーへと叩き込まれる。土煙があがり、バーサーカーの姿が完全に呑み込まれる。

 

『潰れろ! 潰れろォ!! ぶっ潰れろォォォォ!!! 慟哭と絶望の果てに、己の愚かさを呪うがいいィィィ!!!』

 

 何度も、何度も、何度も、何度も。執拗な程に触手を叩き込む。

 確信した。今度こそ、今度こそバーサーカーを仕留めたと。

 触手の動きを止める。煙が晴れた先の光景は、血溜まりと陥没した地面だけだった。

 

『ふはははは!! やはり神は、私を罰しなどしなかった!!! ははははは―――』

「そこまでだ。キャスター」

 

 祝勝の雄叫びを遮るように、鋭い剣のような張りのある声が響いた。

 

「この俺を差し置いて、我が愛槍の仇を討ち果すことだけは断じて許さぬ。ここより先は、フィオナの一番槍『ディルムッド・オディナ』が相手になろう!!」

 

 血まみれのバーサーカーを肩に担ぎ、深紅の『破魔の紅薔薇』を巨大な海魔へと向けたランサーが佇んでいた。

 

 

 





 アマトさんのステータスがアップしました。まあ、狂化してるとはいえマスターの雁夜がしょっぼ…… 急造の魔術師なので、魔力供給が十分じゃないんですね。ところがどっこい、色々食べてパワーアップです。

ステータス:筋力B、耐久B、敏捷B、魔力D、幸運E、宝具A+

 それでもキャスター in 海魔に勝てるビジョンが浮かばない……… という訳で、ランサーの参戦です。






次回予告

「いまだ! 殺れ、バーサーカー!! ………ちょっと待て、何故ケーキ先端を此方に向ける? そんなことしたら、俺まで巻き込まれて…… アアーーーー!!?」
「ランサーが死んだ!?」
「この死でなし!」

嘘です。多分、次で決着です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。