Fate/Sweet Zero   作:フロンサワー

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俺の名前は

 俺がこの戦争に参加した理由は至極単純。どうしても叶えたい望みがあるからだ。

 どれだけ努力しようとも、決して叶わなかったその願い。

 思い返してみても、夜空に輝く満点の星食べよ…… じゃない、星を掴もうと必死に手を伸ばすような、身に余る願いだった。

 だが、あと少しだ。あと少しで、その星にも手が届く。どんな望みでも叶えてくれる万能の願望器『聖杯』を勝ち取ればいいのだ。それだけで、俺の願いも現実となる。

 しかし、それは容易な事ではない。立ち塞がるのは超一級品のサーヴァント達。半端な相手など一人もいない。アラガミなんぞよりも、遥かに強大な化物どもだ。

 本能に身を任せて行動していたが、俺の記憶にはハッキリと焼き付いている。セイバー、ランサー、ライダー、アーチャーの姿が。

 こいつらは、英霊の中でも更に格が違う。

 特に、アーチャーが一番ヤバイ。サーヴァントの切り札である筈の宝具を、湯水のように使用する規格外の戦法。しかも、一発一発が並外れた威力を内包しているときた。何の冗談だよマジで。

 それでも、俺はこの戦争に負ける気はない。

 俺の半生は、唯ひたすらなアラガミとの喰らい合いだった。この経験は嘘をつかない。並みいる強敵とも、互角に渡り合わせてくれる。

 

「―――っと、ここか」

 

 郊外に広がる鬱蒼とした森。ここに、マスターがいる。早速、神機を片手に駆け抜けた。

 小規模だが、ただ闇雲に探し回ったらそれなりの時間が掛かるだろう。だが、ラインが繋がっているからか、マスターの大体の位置なら把握できる。

 しっかし、最弱と名高いキャスターが相手でもあの様とは。強敵とは解っていたが、此方の手の内も随分と晒してしまった。ランサーの援護も無かったら、今頃どうなっていたか……

 そういや、マスターの方は大丈夫だろうか?

 見た感じ、キャスターのマスターは魔術に関わっていない。だが、向こうには沢山の子供たちがいる。人質にとられたら、マスターは何もできないだろう。

 そもそも、あんな死にかけだと猫にも負けそうな気がするんだが。

 

「…………ッ!」

 

 血の臭いが強くなったな。そろそろ近いか?

 脚を速める。茂みを抜け出すとそこには―――

 

「ほら! おじさんと一緒にお家へ帰ろう!!」

「「「怖いよーーー!!」」」

「お、おじさんは悪い人じゃないからさ!!」

「おじさん。無理がある」

 

 ギャンギャン泣き喚く子供達。マスターはそれを必死に宥めようとしてる。が、顔のグロさと血みどろの相乗効果で、更に事態を悪化させている。

 あんた、一回鏡を見ろ。目から血涙を流して、顔中の血管が浮き出ているんだぞ。軽くホラー映画に出てきそうな状態なんだぞ。今にも死にそうなんだぞ。

 つーか、無反応のあの子すげえわ。なんでマスターの隣にいるのに平然としてるんだ。

 しかし、あんな人数の子供をどうする気なんだ?

 厄介事を押し付けられるのは御免だし、霊体化して見守った方がいい―――

 

「……って、バーサーカー!」

 

 げ、気付かれた。

 

「………よう、マスター。マトモに話すのは、これが初めてだな」

「…………は? な、なんでそんな流暢に話せて…… 狂化はどうしたんだ!?」

「まあ、その疑問も最もだが、先に子供たちを何とかしないとな」

 

 子供達の元へと歩み寄る。

 まあ、混乱するのは仕方のない事だ。キャスターみたいなのに拐われたとなったら、冷静でいる方がおかしい。

 なにせ、殺されかけたのだ。こんなに平和な世界なのに…… いや、平和ではないか。こんな戦争を起こす巫山戯た魔術師がいるのだから。

 うーん…… その点、俺のマスターはマトモな方なのか? 外見はイかれてるが。

 

「「「うわーーーん!!!」」」

 

 より一層、泣き声が激しくなる。

 そろそろ子供たちを落ち着かせるか。いい加減に泣き止ませないと、近所の人が警察に通報するかもしれない。

 もしも警察がこの場面を見たら、マスターは確実に容疑者にされる。断言してもいい。多分、近くにいる俺も共犯者扱いだろう。

 そんな理由で行動が制限されるなんて、ガチで笑えない。唯でさえ格上が相手なのに、自らハンデを背負うってどんな無理ゲーだ。

 とりあえず、膝をついて子供と目線になる。

 

「みんな、俺はお菓子帝国の兵隊長だ」

「……はあぁぁぁ!!!??」

「…………やっぱり……!」

 

 マスターが叫んでるな。なんか、肯定の声も聞こえた気がする。まあ、いいか。無視しておいても問題ないだろ。

 子供たちが泣き止み、一斉に注目が集まる。掴みはバッチリみたいだ。

 だが、その瞳には未だに恐怖の色が浮かべている。まだまだ半信半疑ってところか。

 

「「「ほんとに……?」」」

「ああ。ほら、城の兵隊長しか持てないお菓子の武器もある」

 

 右手に持つGEシリーズを見せる。

 次第に、子供たちの目が確信へと変わる。キラキラと耀く目が眩しいです。

 

「「「ほんとうだ……!」」」

「蛙っぽい怪人(キャスター)を退治して、皆を無事に助ける為に来た。だから、安心していいぞ」

「「「うん!!!」」」

 

 どうにか子供たちは泣き止んでくれた。アナグラでも100%通用しただけはある。

 立ち上がって振り返ると、マスターが呆けた顔で俺を見ていた。まさかとは思うが、お菓子帝国の兵隊長を本気で信じているのか。

 

「ねえねえ、あの人は誰なの……?」

 

 女の子が不安そうにコートの端っこを握る。あの人というのは、俺のマスターのことだろうか。

 

「…………あれは、怪人『死にかけ男』だ。倒すからちょっと待ってろ」

「ちょ…… おい! バーサーカー!!??」

 

 面倒だからマスターは怪人で処理しよう。あれが味方なんて言ったら、子供たちの信頼が一気に崩れてしまう。

 神機を地面へと突き刺す。相変わらず、見かけによらず鋭い切れ味だ。

 さて、これで両手をフリーになった。マスターには暫く眠ってもらうとするか。

 

「その娘を離せ……!!」

「いや、離すもなにも………」

 

 喋りきる前にマスターの目の前へ肉薄する。そのまま、ボディーに軽く拳を叩き込んだ。マスターの体がくの字に曲がる。そのまま、地面へと倒れ込んでしまった。

 転倒に巻き込まれる前に、マスターが手を繋いでいた娘を抱えあげる。何が起こったのか分からないのか、きょとんとした表情を浮かべていた。

 それにしても、軽く小突いたのにこの有り様か。サーヴァントの筋力を差し引いたとしても貧弱すぎるだろ。

 

「ごはぁ……何、で………!?」

 

 気を失ったのか、ぐったりとしたまま動かなくなった。白目を向きながら、体の端々をピクピクと痙攣させている。

 やった俺が思うのも何だが、気持ち悪い。こりゃあ、暫く起きそうにないな。

 

「大丈夫か…… えっと……」

「…………桜です」

 

 抱えていた女の子、桜を下ろす。確か…… マスターの家族だったか?

 ぼんやりとだが、俺の作ったケーキを尽く横取りされたのを覚えている。いや、霊体化させたマスターのせいだったな。魔力供給を絶たれたら、俺にはどうしようもない。

 死にかけ男は此処に置き去りにしたくなるが、一応マスターなので肩に担いで運んでいく。成人男性とは思えない軽さだが、大丈夫なのか?

 一先ず、その疑問は頭の隅に追いやる。地面に突き刺した神機の元へと歩み寄り、柄を掴んで一気に引っこ抜く。

 マスターと神機も回収したし、子供達も全員無事だ。これ以上に無い程上手くいっただろう。

 そういえば、キャスターのマスターを見ないな。一体どうなって―――

 

「―――ああ、そういうことか」

 

 ふと、視線を移した先には、赤い液体がまばらに散乱としていた。服の切れ端から判断するに、間違いなくキャスターのマスターがいた。

 道理で、子供たちが怯えている訳だ。きっと、俺のマスターが殺ったのだろう。

 だが、それについてマスターにとやかく言うつもりはない。何かを守るためには、それ相応の代価を支払わなくてはいけない。俺自身、その事実を嫌というほど実感している。

 ―――筈なのだが、やる背の無い感情が心の底から込み上げてきた。

 割りきれ。これも、聖杯を勝ち取る為だ。

 

「…………帰るか」

 

 子供たちを引き連れ、足早に森を抜け出した。全員の家を回るのは骨が折れたが、子供たちが懐いてくれたのもあり何事もなく遂行できた。

 因みに、送り返した先の家々で怒鳴り声が響いたのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 冬木市ハイアットホテル。冬木市の町並みを一瞥できる高度を誇る、都内随一の高級ホテルだ。

 その最上階の一室では、たった二人の人物が椅子に腰かけていた。不愉快そうに顔を歪めているケイネスと、静かに項垂れているランサーである。

 

「何故、バーサーカーを仕留めなかった?」

「……」

 

 ケイネスの問い掛けにも、ランサーは口を固く結ぶだけだった。

 ランサーを差し向けた理由は、キャスターとの戦闘で消耗したバーサーカーを討ち取るため。断じて、バーサーカーを援護する為ではない。

 

「何故かと聞いている!! 貴様は、あの愚かな狂犬を討ち取る機会をみすみす逃したのだぞ!! わかっているのか!!」

 

 テーブルに拳を叩きつける。怒りを顕にしたケイネスは、感情のままにランサーを糾弾した。

 その言葉が耳に届いたランサーは、固く閉ざされた口をおもむろに開いた。

 

「御言葉ですが、ケイネス殿。あの場にいたバーサーカーを討ち取るのは、騎士道に…… いや、人の道にすら反します。どうか、御理解を……」

「黙れッ!!」

 

 頭に血が昇っているのか、ランサーの言い分もまったく聞き入れないケイネス。

 そんな彼の前に立ち塞がったのは、奇しくも彼の婚約者である『ソラウ ・ヌァザレ・ソフィアリ』だった。

 

「情けないわね、ケイネス」

「ソラウ……!」

 

 あくまでも冷静に、冷徹に言葉を紡ぐ。

 

「貴方も分かっているのではなくて? キャスターの暴走を放っておけば、聖杯戦争どころではななくなる。それに、一時期とはいえ同盟を組んだ相手を裏切るなんて、ロード・エルメロイの名折れではなくて?」

「………私は」

「貴方自身、ランサーに令呪での強制もしなかった。つまり、バーサーカーを討ち取る気なんて更々なかったってこと。とどのつまり、貴方がしている事は単なる八つ当たりよ」

「く……!!」

 

 ケイネスは何も言わない。いや、言えない。ソラウの言葉があまりに的を射てるからだ。

 そもそも、ケイネスが聖杯戦争に参加した目的は、聖杯戦争を勝ち抜いたというステータスが欲しいだけなのだ。

 叶えたい望みなど、今の彼には持ち合わせていない。強いて言えば、婚約者であるソラウに認められたいくらいか。しかし、その願いを聖杯で叶えてしまったら意味はない。

 

(分かっているのだ、そんなこと……!!)

 

 時計塔きっての天才『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』にとって聖杯戦争は、己の魔術の技量を競い合う神聖なものだ。徒党を組んだ相手を陥れるような、ドブネズミの頼る戦法は必要ないのである。

 にも関わらず、バーサーカーを目の前にして戦場を後にしたランサーを責めるのは、言葉通りの意味なのだろう。

 

「それに貴方は―――」

「ソラウ様、そこまでにして戴きたい」

 

 ケイネスへの攻撃(誤字に有らず)を遮ったのはランサーだった。俯きながらも、静かな怒気を孕んだ声を響かせる。

 

「それ以上は我が主への侮辱となります。幾ら貴女でも見過ごすわけにはいきません」

「あ…… ご、ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ………」

 

 ランサーの心情を悟ったのか、慌てて謝罪を述べるソラウ。冷徹な表情を、初恋をした少女のように綻ばせて……

 

「――――ッ!!!」

 

 ケイネスですら引き出せなかった笑みを、ランサーはいとも簡単に引き出した。

 ケイネスに尋常でないストレスを与えている原因の一つ。ランサーの持つスキル『愛の黒子』に毒されたソウラである。

 その美貌にケイネスの心は一瞬で奪われた。俗に言う、一目惚れだった。しかし、ソラウの眼中にあるのはランサーだけ。自然と、ランサーへと向ける懐疑心は大きくなっていた。

 

(バーサーカーさえ…… バーサーカーさえ脱落させればソラウも……)

 

 ―――バーサーカーを討ち取る。

 新たな決意を決めたケイネス。しかし、それが裏目に出てしまうことなど、今のケイネスには知る由もない。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 夢を見ていた。

 そこは、大きな十字架が奉られている教会のような場所だった。何人もの人が、長椅子に腰を掛けて静かに座っている。その真ん中には、真っ赤なレッドカーペットが敷かれていた。

 カーペットの先へと視点が変わる。

 黒いタキシードを着こなしたバーサーカーの隣には、純白のウエディングドレスに身を包んだ女性がいた。ベールを被って顔までは解らなかったが、綺麗な女性だと想像できる。

 バーサーカーがベールに手をかける。いよいよ、その顔が拝める時に―――

 

「!!!」

 

 意識が現実へと引き戻される。

 フカフカとした感触が心地良い。どうやら、ソファーに寝かせてくれたみたいだ。

 目に飛び込んだのは、テーブルに並ぶ無数のお菓子だった。普通なら『まだ夢を見ていたのか』と二度寝をする所だが、雁夜のサーヴァントはあのバーサーカーだ。きっとこれは、現実なのだろう。

 それにしても、何だか腹立たしい夢を見ていた気がした。雁夜の堪えかねるロンリーヘイトをモロに刺激するような夢を。

 

「遅かったな、マスター。半日は寝てたぞ」

「バーサーカー……」

 

 背後から声をかけられる。痛む体に鞭を打ち、ゆっくりと振り返る。

 更なるお菓子を運んでいるバーサーカーと、ピンクの缶ジュースを持った桜がいた。

 バーサーカーの姿を見た瞬間、ボディーブローをされて気を失ったのを思い出した。恨みと多少の感謝を込めて睨み付ける。

 

「そう睨むなよ。俺が子供たちを親元へ帰したんだからな」

「………そうか 。よくやった」

 

 それを聞いた雁夜は、ひどく深い溜め息をついてソファーにもたれる。長い緊張から解き放たれたせいか、どっと疲れが襲ってきた。

 

「このジュース…… 美味しい……」

 

 缶ジュースを飲んでいた桜がそう呟いた。それを聞いたバーサーカーが感激したように頷く。

 桜の頭に手を置いて優しく撫でた。しかし、桜の無表情は変わらない。

 

「……桜は数十年に一度の逸材だな。まさか、極甘ジュースを美味しいと言ってくれるとは」

「極甘…… は?」

 

 そう言ったバーサーカーは、テーブルの上に置かれたクッキーを右手一杯に掴み取る。

 口を上に向け、右手に掴んだクッキーを放して一気に頬張る。そのせいか、両頬がリスのように膨れていた。その姿を見た者は、彼が英霊であると夢にも思わないだろう。

 ガリゴリとクッキーを噛み砕き、喉を鳴らしてクッキーを飲み込む。

 幸せそうな表情を浮かべた後、妙に真剣な顔で部屋の扉の元へと歩く。

 

「桜、ちょっと席を外す。俺のお菓子もちゃんと残しとけよ。絶対だぞ」

「……はい」

 

 妙に念を押すバーサーカー。そこまでしてお菓子を食べられたくないのかと呆れてしまう。しかし、バーサーカーの纏う雰囲気が変わっていると直ぐに気づけた。

 ソファーから立ち上がり、部屋の外へと出ていったバーサーカーの後を追う。

 

「桜ちゃん…… 好きなだけ食べててもいいんだよ」

「……うん」

「おい、聞こえてっぞ。残さなかったら本気で暴れるからな?」

 

 そう言い残し、雁夜はドアノブに手をかけた。

 ドアを開くと、手を組んで壁に寄り掛かっていたバーサーカーの姿があった。

 鋭い眼孔が雁夜を捉える。二人の間に漂う空気は聖杯戦争の其れだった。

 

「何から聞きたい?」

 

 バーサーカーがおもむろに口を開いた。

 聞きたい事と言われると、それこそ山ほどの疑問がある。

 

「まず…… なんで狂化していないんだ?」

 

 普通、狂戦士のクラスに身を堕とせば、言語能力はおろか理性までも奪われる。

 最初こそは狂戦士の振る舞いだった。

 お菓子を作ったり、雁夜をキャスターの海魔から庇ったりなど、徐々にバーサーカーらしからぬ行動をとり始めた。

 雁夜のような三流魔術師にバーサーカーの制御など不可能だ。にも関わらず、戦士のように振る舞うその姿に疑問が尽きなかった。

 

「俺は今でも狂っている」

「……?」

「俺の場合は、捕食したいって欲求が狂化していてな。感情を狂わされた訳じゃないから、満腹の時は理性を保てる」

 

 ランサーの宝具『必滅の黄薔薇』と、臓硯と蟲たちも喰らった。極めつけは、サーヴァントである『キャスター』さえも喰らったのだ。

 満腹という理由も納得もできた。同時に、己のサーヴァントの特性に舌を巻く。

 ステータスの増幅というメリットを残しつつ、魔力の多大な消費と狂化による理性の喪失というデメリットを排したのだ。

 これでまた、時臣を殺す可能性が跳ね上がった。雁夜の口角が卑屈に吊り上がる。

 

「それでも、俺の本質はバーサーカーだ。空腹のときは見境無くなんでも喰らうぞ……」

 

 雁夜の浮わついた考えは、バーサーカーが地を這うような声色で掻き消された。

 バーサーカーの瞳に僅かな狂気の色が見え隠れした。自分が喚んだ英霊は狂っているのだと、まざまざと実感した。そして、彼が幾多もの修羅場を潜り抜けた英霊であると。

 

「わ、わかった。じゃあ、あの宝具は……!!」

「これか?」

 

 お菓子を型どったあの宝具。正直、バーサーカーに抱く一番の疑問だ。

 その疑問に応えるように、バーサーカーが大きく右腕を翻す。光の粒子が次第に集まり、巨大な板チョコを模した剣が現れた。

 

「ガファッ!?」

「こいつは周囲に漂う魔力(マナ)を喰らっているから、マスターが僅かな魔力を供給してくれれば常時展開でき…… 大丈夫か?」

 

 魔力の消費で思わず吐血した。バーサーカーは一歩引いてそれを見ている。

 

「だ、大丈夫だ。続けて……くれ」

「………この宝具は主に5つの機能に別れていてな。1つが大剣、2つが銃、3つが装甲、4つ魔力を喰らう顎(あぎと)って感じだな。そして、最後の5つが回復だ」

「……回復?」

「実践した方が早いか……」

 

 バーサーカーは板チョコの峰(?)を掴んだ。パキリッ! と良い音を響かせたと思うと、一口大の板チョコの欠片を手に持っていた。

 バーサーカーはジリジリと近づいて来る。それに合わせ、雁夜はジリジリと後退する。

 食べろと言うのか。英霊の持つ至高の武具『宝具』と斬り結んでいた板チョコを、武器として機能している板チョコを、食べろと言うのか。

 

「マスター、あーん」

 

 初めて言われた「あーん」も、欠片ほど嬉しくもなかった。そりゃあ、ゲテモノを片手にした大の男に言われても、嬉しくないだろう。

 退路を壁に遮られた時、雁夜は悲壮な声でバーサーカーに抗議した。

 

「い、嫌だ!!! 絶対に食わないぞ!! 大体、それでキャスターの海魔を斬りまくってたじゃねえか!!」

「あんたの体、猫にも負けそうなくらい貧弱なんだぞ! 回復するから食っとけって!!」

「あ、あれだ!! この身体じゃあ、ろくに食物も飲み込めないんだよ!!」

「……マスター! あーん!!」

 

 板チョコの欠片を口に突っ込まれた。

 噛まざるを得なかったが、地獄のような苦味と甘味が舌先を蹂躙していた。

 不味い。不味い。ひたすら不味い。ほのかに蛸の味がするのは気のせいだろうか?

 

「極甘ジュースで流し込むか……」

(極甘ジュースって何!!?)

 

 口を開けられたと思うと、缶ジュースからドロドロとしたピンクの液体が流れ出てきた。

 舌に触れた瞬間、悶絶するような甘味が雁夜の脳髄を狂わせる。そして、口の中に残っていた板チョコの欠片を流し込んだ。

 

「あ、甘い!!!!!」

 

 そう叫んだ後、目の前が真っ暗になった。

 

「――――はっ!!」

 

 意識が戻る。無様に地面で這いつくばっていた。今回はバーサーカーの夢は見なかったが、どうでもいい。

 二回もマスターの気を失わせたサーヴァントを睨み付ける。まさか、訳のわからない食べ物で気絶させられるとは。

 

「5分は気絶してたぞ。まったく」

「も、元はと言えばお前が……!!」

 

 勢いよく立ち上がり、左手で(・・・)バーサーカーを指差す。そして、普通にとった己の行動に驚愕した。

 

「…………え?」

 

 動かない筈の左腕が、動いた。間桐の一年間の修行の果てに動かなくなった左腕が、僅かにだが動いた。

 雁夜は細々とした白い手を見詰める。五本の指をそれぞれ動かす。ぎこちない動きだが、指先までも確かに回復していた。

 

「……バーサーカー。最後に1つ、聞きたいことがある。お前の真名は何なんだ」

 

 宝具は食えるわ、甘党だわ、謎だらけのサーヴァント。全ての疑問に決着をつけるべく、雁夜はいよいよ核心をつく。

 バーサーカーは妙に改まった顔で一つ息を吐き、誇るように己の真名を打ち明けた。

 

「バーサーカーのクラスをもって現界した。俺の名前は…… スイーツイーターの桐永甘斗だ」

「いや、真面目にやれ」

「いや、真面目だって」

 

 




 スイーツイーター=お菓子を食べる人……
 ついでに、そのスイーツイーターの勇姿が此方。


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