Fate/Sweet Zero   作:フロンサワー

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 遅れてすみません。
 そしてもう一つ謝る事が。次回予告のあれ、書けませんでした。なんか、書こうと思ったら中途半端なとこで途切れてしまうから、次の話で明らかにする事にしました。ある意味、一番の見せ場なのに。なんで書けないんや。



英雄達の宴 ―混沌の始まり―

 

「ライダー…… マジでやる気か?」

「フハハハ! 当たり前であろう。そうと決まれば、冬木で一番旨い酒でも略奪せんとなあ。征服王の血が騒ぐのう」

 

 ライダーの提案に三人は絶句していた。

 なんと、ライダーは英霊たちの酒宴を開こうというのだ。何でも、聖杯に懸ける願いを互いに語り合う為の酒宴らしい。

 とてもではないが、聖杯戦争の真っ只中とは思えない提案である。固定概念に囚われない豪快な気性のライダのだからこそ、こんな大胆な案を考え付くのだろう。

 

「……まさか、盗む訳じゃないよな?」

「んな訳なかろう。闇に紛れて逃げ去るのなら匹夫の夜盗。だが、我らが行う其れは凱歌とともに立ち去る征服王の略奪だ。此れほどの差異もなかろうて」

「同じじゃないですかヤダー!!!」

 

 思い立った瞬間に実行へと移すのは流石の行動力である。しかし、それに付き合うマスターへの精神的負担は大きいだろう。

 現に、ウェイバーの胃はキリキリと悲鳴をあげている。胃薬も買っとけばよかったと絶賛後悔中である。

 

「……………………」

 

 胃痛に苛まれる憐れなウェイバーの姿を見て雁夜は思う。買い物に付き合わされるものの、自分のサーヴァントは病的な甘党なだけまだマシだと。そんな甘党サーヴァントも、同情的な目でウェイバーを見詰めていた。

 

「まあ、うん…… 成功するといいな。それより、あまり自分のマスターを苛めるなよ。まだ子供なんだしさ」

「僕は19歳だ!!!!」

「見栄を張るな。じゃあな」

 

 他人事のように呟いた後、さっさとその場から去ろうとするバーサーカー陣営。

 二人とも嫌な予感がしてならない。こういう感覚は人一倍鋭いのである。伊達に、周りが引き起こすトラブルに巻き込まれていない。

 まあ、結局は巻き込まれる運命なのだが。例に漏れず、今回もバーサーカーと雁夜の不幸体質が存分に発揮されてしまった。

 

「何を言っておる? そなたらも参加に決まっておるだろう」

 

 ピキリッ…… と、雁夜とバーサーカーの動きが硬直した。

 

「今宵は宴だ!! きちんと酒の肴を持って来るのだぞ。さて、他の者にも声を掛けてやらんとな。ではなあ、バーサーカー!」

「ふざけやがって、ふざけやがってバーサーカーめ!! 絶対に! 僕を馬鹿にしたのを絶対に後悔させてやる~~!!」

 

 必死に叫んでいるウェイバーの襟を掴んで、ライダーはずんずんと人混みを進んでいく。まるで、駄々をこねる子供が父親に連れていかれるようだった。

 あの様で19歳と言われても説得力がまるでない。百歩譲ってそうだとしたら、13~15歳辺りで成長が止まってしまったのだろうか?

 ふと、バーサーカーは雁夜を一瞥する。そりゃあ、173㎝という日本人の平均身長だが……

 

「いいよな。小さくても健康そうなマスターで」

「うるせえ。仕方ないだろ」

「やっぱ、帰ったらもう一度GEチョコを食ったほうが―――」

「さーて、バーサーカーのお菓子が楽しみだな!!」

 

 わざとらしく呟き、日が昇っているというのに薄暗い裏路地に逃げ込む。進めば進むほど、闇が濃くなれば濃くなるほど、商店街の喧騒が小さくなっていく。

 まるで、今の自分の状況を示しているかのようだ。聖杯戦争を生き延びれば生き延びるほど、かつての日常が遠ざかっていく。

 魔道へと陥った自分にお似合いな場所だと、雁夜は薄く自嘲の笑みを浮かべた。

 そのまま、何処かぎこちなく歩みを進める。左半身がバーサーカーの宝具で回復したとはいえ、完治に至るまではほど遠い。

 その隣には、パンパンに膨れた買い物袋を持ったバーサーカーがいた。両手には各々二つの買い物袋があり、一つ一つが相当な重量を誇っている事が分かる。

 常人なら指が千切れるような痛みを感じ、お菓子の重量に翻弄されてマトモに立てないだろう。

 しかし、バーサーカーは顔色一つ変えないでしっかりと歩いている。鍛え上げられたバランス感覚とその指は、流石英霊と言うべきか。

 試しに一袋だけ持ってみた雁夜は、歩くことさえできなかった。

 

「!!」

 

 不意に、バーサーカーが立ち止まった。それに連られて雁夜も立ち止まる。

 

(敵か……? まさか、サーヴァント!!)

 

 考え得る限り、最悪の想像を働かせる。

 仮にサーヴァントならば、残されたのは逃げの一手だけだ。

 こんな場所で刃を交えれば、周囲にもたらす被害は計り知れない。多くの人が犠牲となってしまうだろう。

 しかし、たとえ聖杯戦争に関係無い人々が居ようと、神秘の秘匿さえ守れれば躊躇いもなく攻撃を仕掛けるのが魔術師だ。

 自然と体が強張る。何が現れるのかと、身構えた次の瞬間―――!!

 

「ふしゃーー!」

 

 一匹の猫が雁夜達の前に現れた。バーサーカーのお菓子を狙っているのか、低く唸り声をあげながら近づいてくる。

 

「……猫じゃねえか」

 

 白、茶、黒の毛並みを持つ三毛猫だった。毛を逆立てながら、一歩ずつジリジリと距離を詰めてくる。

 魔術師やサーヴァントでないと分かり、雁夜は幾分か気が緩む。気性が立ってる野良猫も、今となっては可愛いものだ。

 しかし、バーサーカーは違った。むしろ、サーヴァントと相対するような気迫を滲ませている。

 

「失 せ ろ や !」

 

 バーサーカーの殺気が猫へと襲い掛かる。

 怯えるように大気が震える。重りを身に付けたかのような錯覚すら覚える。

 常識の枠から逸脱した英霊の殺意に、ただの野良猫が堪えれる筈もない。先程の威勢はどこへやら。間抜けた叫び声を撒き散らしながら、何処かへと逃げ去っていく。

 雁夜は溜め息を吐く。お菓子が絡むと、相変わらず英霊とは思えない心の狭さである。

 

「……英霊気ないな」

「俺もそう思った」

 

 再び歩みを進める。やがて、バーサーカーが思い出したように雁夜へ問いただした。

 

「そういや、終始無言だったな。少しくらい相手のマスターと舌戦を交えても良かったんじゃないか? 情報を引き出すなり何なりしてさ」

「魔術師なんかに話すことはない」

「……まあ、だろうな」

 

 吐き捨てるような返事をする雁夜。

 何を言っても無駄だと匙を投げたのか、バーサーカーは肩を竦める。

 雁夜が遠坂時臣…… ひいては、魔術師そのものへの憎みは並大抵でない。故に、ライダーのマスターであるウェイバー・ベルベットとは一言も言葉を交わしていなかった。

 バーサーカーは雁夜が抱える憎しみを理解している。大切な人が傷つけられたというなら、そんな感情を持つは当然だ。だから、バーサーカーはそれ以上言及しなかった。

 その会話以降、二人は一切話すことなく黙々と薄暗い裏路地を歩き続けた。

 しかし、時間が経つに連れて雁夜の歩くペースが遅くなっている。その変化に気づいたバーサーカーは、心配そうな表情で雁夜にじっと目を向ける。

 その視線に気づいたのだろう。大きな溜め息を吐いた雁夜は、思い詰めたように呟いた。

 

「……なあ。やっぱり俺も行かなきゃ駄目か?」

「行くしかないな。仮に俺がすっぽかしたら、ライダーに何されるか分からない。それに、マスターの護衛から離れる訳にもいかないだろ?」

「…………くそ。憂鬱だ」

 

 ライダーが提案した宴にあまり乗り気でない雁夜。時臣以外の魔術師と接触するつもりはなかったし、この惨めな姿を晒したくないからだ。

 しかし、もう手遅れである。覚悟を決めて英霊の宴に参加するしかない。

 重い足取りで雁夜は間桐邸へと向かっていく。

 対照的に、バーサーカーの足取りは羽のように軽かった。いつもと変わらない澄まし顔だが、その行動からは嬉々とした感情が伝わってきた。

 

「……随分とご機嫌だな」

「ああ。帰ったらお菓子を作れるからな」

「桜ちゃんの為か?」

「いいや、違う。歴史に名を刻んだ偉人に俺のお菓子を振る舞えるんだぜ? パティシエとしての腕がなる…… 腕がなるぞお! あ、憂鬱だけど」

「…………………………そう、だな」

 

 キャラ崩壊したバーサーカーにかける言葉が見つからず、仕方なく同意する雁夜。

 口では憂鬱と言ってるものの、何だかんだでバーサーカーも酒宴に乗り気である。きっと、歴史に名を馳せる英霊達に自分の技量(お菓子作り)が通用するか試したいのだろう。

 バーサーカーがこの調子では孤立無援。病的な甘党サーヴァントも全然マシじゃなかった。

 ライダーのマスターに微妙なシンパシーを感じた雁夜は、次に会う時は一言くらいは喋ろうかと密かに思うのであった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 相も変わらず不気味な幽霊屋敷へ戻ると、妙にソワソワした桜が出迎えてくれた。俺には解った。きっと、極甘ジュースが飲みたくて仕方がないのだろう。アレには不思議な中毒性があるあらなあ。

 何はともあれ、極甘ジュースの味が理解できる数少ない同志だ。期待に応えて、直ぐに極甘ジュースを作ってやった。渡した瞬間、それはもう嬉しそうに飲んでくれた。製造過程を知ったらどんな顔をするのだろう……

 そういえば、製造過程を監視していたマスターが「桜ちゃんにゲテモノを飲ませるな!!!」とか喚いて殴りかかって来たな。まあ、GEチョコを食わせてソッコー気絶させたが。

 それにしても、最初の頃と比べたら随分と健康になったものだ。きっと、GEチョコを食べ続けた恩恵なのだと思う。

 昔なら絶対にできなかった芸当だ。P53偏食因子を接種していない人間に神機を食べさせるとか、もはや人体実験レベルだし。

 幸い、今の神機はオラクル細胞で構成されていない。宝具としてこの世に存在している。だから、ゴッドイーター以外の人間にもGEスイーツを食わせることができる訳だ。

 極甘ジュースを作った後、酒宴の準備の為にキッチンに引き籠った。勿論、作ったのは酒宴に持っていくお菓子だ。夜中まで没頭した甲斐あって、満足のいく出来映えになったと思う。根を詰めすぎたのか、バスケットから溢れる程の量になってしまったが。

 桜に半分ほどのお菓子を預け、ライダーが催す酒宴へと出向いた。マスターもぶつくさ愚痴っていたが、結局は素直に出向いてくれた。

 夜の冬木を歩き回る。聖杯戦争が始まった不穏な空気を感じ取っているのか、誰一人としてすれ違わなかった。

 そして、彷徨うこと数分。今になって重大なミスに気づいてしまった。

 

「酒宴って何処でやんの?」

「俺に聞くな」

 

 ごもっともです。

 ライダーめ…… 場所ぐらい言っておけよ。まあ、何も聞かなかった俺らも悪いけどさあ。

 しかし、どうしたものか。ライダーがいる場所なんて検討もつかないぞ。このままだと作ったお菓子が無駄に…… ならないか。ライダーたちが見つからなかったら全部食っちまおう。

 

「よし帰ろう。今すぐ帰ろう。桜ちゃんが待っている」

「そんなに行きたくないか」

 

 マスターが背を向けて歩き出す。俺的には、もう少し探し回りた―――

 

「マスター、待て!」

 

 マスターを呼び止め、振り返った瞬間にバスケットをパスした。

 幽かにだが聞こえた。何かが雷鳴のように鋭い音を響かせるのを。

 間違いない。この感覚、サーヴァントだ……!

 右手を前に突きだす。白い光が段々と武器へと型どられていき、GEスイーツが具現化する。

 

「サーヴァントか!? どこからだ!!」

「前…… いや、空からだ!!」

 

 次第に音が大きくなっていく。

 GEケーキに変型させ、肩越しに構えて狙いをつける。深く息を吐き、気持ちを沈める。銃口も定まった。後は標的(サーヴァント)に引き金を引くだけ。先手なんぞ譲ってたまるか。

 ふと、一条の閃光が夜空で跳ねた。稲妻…… なのか? どちらにせよ、間違いない。彼処にサーヴァントがいる。

 極限まで意識を尖らせ、引き金に指を掛けた次の瞬間―――

 

「―――!!」

「んん……?」

 

 やっべえ。超、聞いたことがある声が……

 思わず間の抜けた声を漏らす。なんというか、一気に緊張感が削がれた。

 無言で銃口を下ろすと、マスターが面食らった表情をした。そりゃあ、この距離じゃあ魔術師でも聞こえないよな。

 

「魔力なら気にするな! はやく狙撃しろ!!」

「……いや。撃てないっつーか、なんつーか」

「はぁ!?」

 

 うん。そろそろ、聞こえると思うよ。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!!!」

「ライダーなんだな。これが」

 

 野太い声が響き渡る。戦車の御者は勿論ライダーだ。

 チャリオット(戦車)型宝具が俺たちの真上を駆け抜けた。同時に、目を開けられない程の突風が吹き荒れた。マスター…… 吹き飛ばされていないよな? 心配して振り返ったが、マスターは“ギリギリ”踏ん張っていた。とりあえず無事そうでなによりだ。

 それにしても、とんでもない速度で駆ける戦車だな。雷まで纏ってたし。アレに突撃されたら、どんな英霊でも重傷は免れない。流石は征服王イスカンダル、末恐ろしい限りだ……

 暫くすると、ライダーの戦車がUターンをして舞い戻ってきた。速度を落として俺たちの前に現れる。

 改めてライダーの宝具を観察すると、やはり並外れた神秘と威圧を感じた。少なくとも俺のGEスイーツと同等か、それ以上ってとこか。今回の聖杯戦争って戦力インフレしすぎじゃねえの?

 

「探し回ったぞ。いやあ、まさか場所を伝えてなかったとはうっかりしておった」

「」ピクピク

 

 ライダーが戦車から飛び降りた。右手にはグッタリしているライダーのマスターがいる。気絶してないか、あれ?

 数秒して、ライダーのマスターが意識を取り戻した。降ろせとか叫びながら腕と足をブンブンと振り回す。そんな抵抗などまったく気にせず、ライダーは高らかに笑って少年を降ろす。

 

「うぅ…… また気絶したのか………」

「………」

 

 気持ち悪そうに呟くライダーのマスターに、俺のマスターが近づいていった……?

 

「……お互い、苦労するな」

「「!!??」」

 

 肩に手を置いて、心底哀しそうに呟いた!? あれだけ魔術師が嫌いなのに!!

 それだけ呟くと、マスターが踵を返して戻ってきた。どんな心境の変化があったかは知らんが、良い傾向…… なのか?

 つーか、お互いってどういうことだ。マスターの体を治してやったり、絶品のお菓子を作ってやったりしてるだろ。

 

「ど、ど、ど、同情すんなし!! 苦労してるのはお前だけだ!!」

 

 一方、ライダーのマスターは顔を真っ赤にしていた。目には涙が溜まっているように見える。

 それにしても、すっごい強がりだな。嬉しそうに見えるのは俺だけか?

 

「坊主、そう簡単に泣くもんでないぞ」

「な、泣いてる訳ないだろ!」

「おお、そうだそうだ! 酒宴を開くに相応しい場所を見つけたのでな、乗っていくか?」

「「え?」」

 

 その後、冬木市の上空で絶叫する羽目になるなんて知る由もなかった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 銀色の髪をたなびかせながら窓辺に立つ女性がいた。彼女の名はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。セイバーのマスターである衛宮切嗣の妻でもある。

 彼女は何をするでもなく、じっと窓の外に広がる森を見詰めていた。傍から見ても、その顔色は優れていると言えない。

 それは、アイリスフィールが第四次聖杯降霊儀式の依代として錬成されたホムンクルスであるのが原因である。サーヴァントが消滅し聖杯が本来の機能を取り戻していくごとに、アイリスフィールとしての生体機能・人格は塗り潰されていくのだ。喩え、脱落したサーヴァントがキャスターのみだとしても、その負担は大きい。

 その心情を…… 苦しみを理解できる者は、誰一人としていないだろう。しかし、それでも彼女は戦い続ける。そう、愛する者の為に。

 

「きゃっ!?」

 

 突然、ほんの一瞬だが激痛が疾った。思わずその場に膝をつく。

 この痛みは結界が破られた際に生じる疑似的なダメージだ。つまり、誰かがこの城に張ってある結界を突破したということだ。それも、かなり強引なやり方で。

 

「アイリスフィール! ご無事ですか?」

「ええ、大丈夫よ。すこし、不意を討たれただけだから……」

 

 異変を感じ取ったセイバーが駆け付けた。決して弱音は見せまいと、アイリスフィールは気丈にも立ち上がる。

 

「まさか、切嗣が不在のタイミングで仕掛けてくるなんて……」

 

 切嗣と舞弥はタイミング悪く出払っている。

 こうなった以上、セイバーとアイリスフィールの二人で出迎えるしかない。幸い、バーサーカーの働きでセイバーの左腕にかけられた『必滅の黄薔薇』の呪いは解かれている。

 切嗣が帰ってくる迄の時間なら稼げるのだろう。しかし、いつまでも彼に頼ってはいけない。今、彼が行っていることは聖杯を勝ち取る上で重要となるのだ。

 切嗣の為にも、セイバーと二人でこの事態を乗り越えるしかない。

 

「この雷鳴。そして、憚ることを知らないこの出方…… 恐らく、敵はライダーです」

「ええ…… いきましょう、セイバー」

 

 セイバーの周りに蒼い魔力が吹き荒れる。次の瞬間にはドレスのような青い戦衣装に変わっていた。セイバーの殺る気も十分のようだ。

 玄関へと出迎えた二人が目にしたのは、ボロボロに破壊された木製の扉とライダーの宝具『神威の車輪』だった。

 

「いよう、セイバー!」

「ライダー…… と、バーサーカー!!?」

 

 満面の笑みで手を振るライダーの横に、青白い顔でグッタリしているバーサーカーがいた。

 セイバーの頬に一筋の冷や汗が流れた。状況は頗(すこぶ)る悪い。それも、撤退という選択しか余地が無い程に。

 彼女らが相対すのは誰もマケドニアの征服王イスカンダル。片や、お菓子の宝具を得物とする謎に包まれたサーヴァント。しかも、ランサーの助力があったとはいえ暴走したキャスターを討ち取り、挙げ句の果てに狂化まで克服している。

 セイバーとアイリスフィールは最大まで警戒を強める。知っての通り、バーサーカーは味方がいてこそ真価を発揮する。状況に応じて近距離・遠距離を自在に戦いこなす厄介なサーヴァントなのだが―――

 

「うげぇ……… うぉっえぇ!!」

「「!!??」」

 

 グロッキー状態のバーサーカーがその緊張感を吹き飛ばす。使い魔を通して目にしたあの姿…… キャスターの海魔相手に無双していた面影は微塵もない。

 よくよく見れば、ライダーとバーサーカーのマスターも似たような状態だった。御者台には屍のように横たわっている。この三人はライダーの無茶苦茶な運転の犠牲になったのだろうと、何となく理解した。

 

「締まらんなぁ。坊主は兎も角、バーサーカーはもう少しシャキッとせんか。英霊の名が泣くぞ」

「ライダー…… マジか!? お前、マジか!!?」

「城を構えていると聞いたが、なんともしけた所だのぉ」

「聞けよ!」

 

 半ギレ状態のバーサーカー。しかし、ライダーは何処吹く風といった様子である。

 

「貴様等、何をしに来た?」

 

 純粋な疑問をぶつけるセイバー。ユルッユルな空気だとしても、決して戦闘態勢を解かない。

 セイバーの問い掛けに対し、ライダーは大樽を肩に抱えて高らかに答える。

 

「そう殺気立つな。なにも、余は剣を交える心積もりで来た訳でない。時を越えてこの冬木に七騎もの英雄が集まったのだぞ。盃を酌み交わして語り合うには絶好の機会ではないか!という訳で、酒を呑むのにうってつけの庭園はあるか?」

 

 セイバーとアイリスフィールは互いに顔を見合わせる。どうすれば良いのか解らないのだろう。結局、ライダーたちを庭園へと案内することになった。

 自分のマスターと大樽を肩に抱えながら、ズンズンと大股で足を進めるライダー。一方、バーサーカーは自分のマスターを肩を貸しながら必死に足を進める。

 信頼関係(?)を築けている2つの陣営を見て、羨ましいと僅かに羨望の眼差しを向けるセイバーであった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 白い華が絨毯のように敷き詰められているアインツベルン城の庭園のど真ん中で、サーヴァント三騎が座していた。セイバーは礼儀正しく正座し、他の二人は胡座をかいている。その後ろでは各々のマスターが緊張の面持ちで見守っている。

 ライダーは豪快にも担いできた大樽の蓋を拳で破壊した。何処に隠し持っていたのか、木製の柄杓で中身の酒を掬い出して口に運ぶ。ゴクリと喉を鳴らし、満足そうな表情で喉越しで味わう。

 再び柄杓で酒を掬い、それをセイバーへと手向ける。セイバーは素直にその柄杓を受け取り、口に運んで一気に喉へ流し込む。

 お返しと言わんばかりにライダーへと柄杓を手向ける。ライダーは満足げにその柄杓を受け取り、同じようにバーサーカーへと手向ける。しかし、返ってきた言葉は―――

 

「……すまん。俺、酒飲めないの忘れてた」

「なんと。下戸だったか」

「貴様は本当に何をしに来たのだ……」

 

 バーサーカー、この場でまさかのカミングアウト。ライダーは少し残念そうな表情を浮かべ、セイバーは呆れかえっていた。

 

「あ、そうだ。代わりと言っちゃ何だけど、これでも酒の肴にしてくれ」

「「おぉ……!」」

 

 思わず感嘆の声が漏らす。

 バスケットの中からクッキー、チョコレート、ケーキ等々のお菓子が取り出された。

 全てのお菓子を出しきったバーサーカーは、妙に得意気な顔でバスケットを元の位置に戻した。

 

「随分と豪勢よのう、バーサーカー。大事そうにその籠を抱えておったが、まさか甘味の類だったとは。酒には合わなそうだ」

「これは…… 本当に、本当に頂いていいのか?」

「ああ。遠慮せずに食べてくれ」

 

 サーヴァントが酒宴を楽しんでいる(セイバーは兎も角)間に、アイリスフィールは各々のマスターの様子を観察する。自然と、その視線は雁夜へと向けられた。

 薄紫がかったパーカーを深く被っており顔を伺うことができない。なにせ、セイバー陣営には間桐雁夜に関する情報が不足している。元々、雁夜は一年しか魔術の鍛練を積んでいない付け焼き刃の魔術師なので、調査にあまり時間を割かなかったのが原因だ。

 情報を引き出すとしたら今しかない。何とかして、対話を試みようとしたが―――

 

「戯れは其処までにしておけ、雑種が」

 

 光の粒子が集まっていく。次の瞬間、明らかに場の空気が変容した。否応なしに、声の主へと意識が集中する。

 そこには、金色の鎧を身に纏ったアーチャーがいた。カチリ、カチリと鎧と地面がぶつかる音が響き渡る。アーチャーはバーサーカーたちの元へ真っ直ぐと向かって行った。

 

「………アーチャー! 何で!!?」

「丁度見掛けたのでなあ。誘うだけ誘ってみたのさ」

 

 バーサーカーはライダーを睨み付ける。

 正直に言えば、確かにバーサーカーもこの酒宴には乗り気だった。英雄たちに自分の作ったお菓子を振る舞えるとずっと楽しみだった。

 だが、アーチャーが来るとなれば話は別。絶対にこの酒宴には足を運ばなかっただろう。

 遠坂時臣は雁夜が憎んでやまない魔術師だ。そのサーヴァントであるアーチャーと対峙すれば、雁夜は真っ先に始末しようとするだろう。最悪の場合、令呪の使用すら有り得る。

 決して表には出さないが、内心では焦りまくっていた。もしかしたら、バーサーカーの聖杯戦争は此処で幕を降ろすかもしれない。

 

(落ち着けよ…… マスター。間違っても令呪は使うなんて真似はよせ。此処にいる三人を敵に回したらそれこそ詰みだぞ……!)

(………分かってる。それくらいの判断ならできるさ)

 

 バーサーカーが思ったよりも雁夜は冷静だった。釘をさす必要はなかったらしい。

 

「態々この我が足を運んだと思えば、よもや狂犬。貴様がこの宴に居合わせるとはな」

「狂犬じゃない。バーサーカーだ」

「戯けが。どちらも同じだ」

 

 アーチャーが不快そうに辺りを見渡す。ウェイバーとアイリスフィールは思わず一歩退けてしまった。しかし、雁夜だけはどす黒い感情を籠めてアーチャーを睨み付ていた。パーカーに隠れているので、その表情は伺えないが。

 アーチャーは静かに地面へと座り込む。マスターの三人は直感した。きっと、この酒宴は更に混沌を究めるのだろうと。

 

 





 スイーツイーターも Fate/Sweet Zero もいつ更新できるか解りませんが、チョイチョイ時間を見つけて頑張ります。
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