「服装といい、物珍しいもんばっかり持っとるもんじゃな。これも、うましうまし」
「そりゃよかったな」
盗品蔵に入ってから数時間後。腹も減ってきたので、俺たちは弁当を食べていた。
最初、ギフトカードから弁当を取り出したときは二人ともかなり驚いていたが、俺が弁当を食べ出すと二人ともこちらを羨ましそうに見てきたので、ギフトカードにあった残りの弁当を二人にも渡した。
そういうわけで、今俺たちは弁当を食べている。
「しっかし、最初つっくんがカードから弁当出したときは驚いたぜ」
「だろうな」
俺たちが弁当を食べ終え、しばらくたったあと、ノックの音がなった。
それに反応し、ロム爺が扉に向かい戸に耳を当てる。
「大ネズミに」
「毒」
「白鯨に」
「釣り針」
「我らが貴きドラゴン様に」
「クソったれ」
これが合図と合言葉か。
「――待たせちったな、ロム爺。意外としつこい相手でさ。まくの手間取っちまった」
けっこう時間かかったな。まあ、それだけあいつから逃げるのが大変だったってことだな。
フェルトが蔵に入ると、スバルが音をたてて立ち上がった。
「あ?誰だよ、オイ。ロム爺、アタシ大口持ち込むから人払い頼んどいたはずだろ?」
「お前さんの気持ちはわかるがの。あの小僧らはお前――フェルトに用があってここにおるんじゃ。ま、その大口と無関係ってわけでもない」
ロム爺の答えにますます顔を不審にしかめるフェルト。
「なんだよ、あの兄ちゃんたち。まさか、アタシを売ったんじゃないだろうな」
「儂とお前の付き合いでそんな不義理はせんわい。お前さんにとって、悪い話にはならんと踏んでおる」
片目をつむり、ロム爺は「のう?」と俺たちに同意を求めてくる。
「ま、そうだな。それじゃ、単刀直入に言うが、あんたが懐にしまってる宝石入りの徽章がほしい。持ってんだろ?」
「……ああ、持ってるぜ」
そう言ってフェルトが懐に手を入れると、そこから抜き出したものをテーブルの上に置く。
「今度はそっちのカードを見せな。徽章はこんだけの代物で、しかもアタシはそれなりに苦労して手に入れた。それに見合うカードだと、あ互いに嬉しいよな?」
「悪い笑顔でこっち試してるとこ悪いが、俺の出せるカードは一枚こっきりだ。何せ俺は、栄枯盛衰の一文なし」
そう言ったスバルに渋い顔をするフェルト。
なんでスバルはあんなに正直に言うんだ?
そして、テーブルに叩きつけるように携帯電話を置くスバル。
へえ。……確かに携帯はこの世界にはないからな。交渉ではかなりいいものだろう。
携帯を見て、困惑顔のフェルトに向かって携帯を向ける。
「食らえ!秒間九発連続撮影!」
「わっ、わわわわわわ!おい、なんの音、眩しいっつの!」
スバルの急な撮影に、文句言いたげなフェルト。そして、スバルは携帯の画面を見せつけた。
「これって……」
「そう、お前を写し取ったのさ!これは、時間を切り取って凍結させる不思議アイテム。この道具でさっきのフェルトの時間を切り取って、この中に閉じ込めたってわけさ」
んー……スバルも何か出したし俺も出すべきか?
「なるほど、そりゃスゲーな。で、ロム爺。この道具は売ったらどんなもんよ」
「……正確な金額まではわからんがな。結論から言って、比較にならん。その徽章もかなり金になると思うが……その道具――『ミーティア』には劣るじゃろう。つまるところ、この交渉はフェルト、お前さんがかなり儲かるってのが儂の結論じゃな」
「そっかそっか。ならま、いいんじゃねーかな」
ロム爺の太鼓判に、気をよくした様子のフェルト。
俺が手を伸ばして徽章を取ろうとすると、フェルトが俺を制止する。
「カードの切り合いは互いに終了。だけど、アタシの吹っ掛けはまだおわらねーぜ?それに、そっちの兄ちゃんはまだ何も出してないだろ?」
そう言ってこちらを見るフェルト。
確かに、俺はまだ何も出してないな。
なら、あまり出したくないがあれを出すか。
「それじゃあ、俺はこれだな」
俺はそう言って、ギフトカードからあるものを取り出す。
「……なんだこれ」
「これは魔力……魔法を扱うための力を貯めておける道具だ」
そう言って俺は、フェルトにペンダントを見せる。
本当はクリスのために作ったんだがな。作り方は覚えてるから問題はないが。
スバルは驚いた表情で、俺に小声で聞いてきた。
「え、つっくんって魔法とか使えんの?」
「使えるぞ。今度見せてやろうか?」
「是非!」
俺とスバルが話していると、ロム爺はそのペンダントを見ながら呟く。
「ふむ……こやつの言うことがもし本当なら、かなりの値段になるじゃろうな。
見たこともない素材を使っておるようじゃし、嘘だとしても安くはないじゃろう」
ロム爺が机に置いたペンダントを、俺はギフトカードにしまう。
そりゃあ、異世界の素材を使ってるからな。ギフトカードの中に色々入っているから作れなくはないが、俺以外は作れないだろうし。
「それでフェルト。吹っ掛けが終わらないってのはどういう意味だ?」
「ん?ああ、簡単な話。アタシの交渉相手は兄ちゃんたちだけじゃないってこと」
やっぱりか。スバルは分かってないみたいだが。
「そもそも、アタシがこの徽章をギッてきたのは頼まれたからなんだよ。これ一個で、聖金貨十枚と引き換えるって話でな」
「盗みの依頼が先約かよ!金貨十枚って、相場がイマイチわかんねぇけど……」
スバルがちらりとロム爺を見ると、ロム爺は頷く。
「この徽章だと、儂ならうまく流して金貨四、五枚。叩かれて三枚の可能性もある」
「なら、単純に買い取り価格は倍ってことか」
「いや、聖金貨と言ったじゃろ?市場に流れとる金貨と違って、聖金貨は素材が希少な聖金を使っておるから、聖金貨十枚の価値は金貨二十枚近くある」
「四倍強かよ!?」
「何を驚いとる。お前さんが持ってきた『ミーティア』なら、最低でも聖金貨二十枚。場合によってはもっと出す好事家もおるじゃろ。
こっちの道具も、こやつが本当のことを言っとるのなら、聖金貨十枚は出すじゃろ」
なら、スバルの携帯だけでも問題ないか?
「それで、盗みの依頼人には何て言って断るんだ?」
「だから、吹っ掛けるって言ってんだよ。兄ちゃんたちがこんなバカ高いもんを出したんだ。徽章が欲しいなら、あっちもそれなりの報酬を追加してくるかもしれねーだろ?」
つまり、向こうが聖金貨二十枚以上出した場合は、俺のも売らなきゃいけないってことか。
「それで、その依頼人ってのはどこでいつ落ち合う予定なんだ?その交渉のテーブルには、もちろん俺たちも一緒につかせてもらえるんだろ?」
「ああ。一方的に兄ちゃんたちが不利になるだけじゃ、アタシの儲けも減るかもわかんねーしな。それと、交渉場所なら心配すんなよ。――ここさ」
俺の質問にテーブルの端を指で叩きながら言うフェルト。
フェルトは背もたれに身を預けながら、ロム爺を見上げる。
「ロム爺がいりゃ、大抵の相手から暴力って選択肢消せっからさ。この見た目のジジイとケンカなんか、考えただけでする気なくなるし」
同意を求めてくるフェルトに、スバルもロム爺を一瞥してから「うんうん」と肯定。
まあ、見た目と強さは一致するとは限らねえけどな。
ロム爺は、そんな二人の評価に悪い気はしないらしく、
「儂がおらんとなんにもできんのか。まったく、嘆かわしい。ミルクのお代わりいるか? 少しなら甘いもんもあるが」
孫を猫可愛がりするバカなお爺ちゃんみたいな感じになっていた。
上機嫌のロム爺になみなみとミルクを注がれているフェルト。その様子を見ながら、スバルは呆れたため息をこぼした。
「しかし、最初からここにその相手を呼んでるってことは、俺たちのことがなくても値段交渉する気は満々だったのか」
「そらそーだろ。どんだけ苦労したと思ってんだ、これ盗るのに。それにアタシみたいなか弱いのがひとりで相手して、踏み倒されたりしたらどーする。浮かばれねーだろ?」
「「か弱い、ねぇ……」」
確かに、見た目はか弱いかもな。
「なんだよ。なにか言いたいことでもあんのか?」
「いや、別に」
フェルトのジト目に、俺は即答で返す。
「それで、その待ち合わせ相手はいつくんだ?」
「アタシが日没までに仕事終わらせるって言ったら、日没後にここでって言ってたし……日も沈んだからそろそろくるんじゃね?」
フェルトがそう言うと同時に、扉を二度叩く音がふいに蔵の中に響き渡った。
俺たちが顔を見合わせ、ロム爺が「符丁は?」とフェルトに問う。
「あ、教えてねーや。たぶんアタシの客だし、見てくるわ」
ロム爺の言葉に跳ねるように立ち上がり、フェルトの姿が入口の方へと行く。
「いいのかよ、あんな勝手ばかりさせて」
「ま、知らん仲じゃないしの。付き合いも短くない……頼られてやるとするわい」
心なしかうきうきと、蔵の奥から棍棒を持ち出す。
長さは竹刀程度で、材質はたぶん木材。だが、先端からはちらほらと棘が突き出していた。
「釘バットっつーかなんつーか、やっぱ異世界でも棍棒って標準装備なんだな……」
「そうとは限らないんじゃないか?俺が知ってる異世界人はチェーンソー持ってたし」
「つっくんが知ってる異世界人っておかしくない!?」
そう言われてもな……
しばらくすると、へたくそな愛想笑いをしているフェルトが戻ってきた。その後ろには、人影が立っていた。
「やっぱアタシの客だったよ。こっちだ、座るかい?」
俺たちにどくように手振りで指示して、彼女の愛想は背後の相手へと向かう。
フェルトが招き入れたその人物を見れば、身長の高い女性が立っていた。
スバルと同じぐらいの背丈に、年齢は二十台前半くらい。
そして、スバルと同じでこの世界では珍しい黒髪を編むように束ねて、指先でその先端を弄んでいる。
思わずといった様子で、スバルは自分の席をフェルトに譲ってしまう。
俺も邪魔にならないようにスバルの隣に移動し、フェルトたちを見る。
女性は俺たちを見て小首を傾げる。
「部外者が多い気がするのだけれど」
「踏み倒されたら困るかんな。アタシら弱者なりの知恵だよ。んで、兄ちゃんたち飲み物」
手振りで言うフェルトに、俺はギフトカードから買っていた飲み物を取りだし、コップに注いで出す。
俺が出した飲み物を見て、不思議そうな表情をする三人。
「これ、なにかしら?」
「俺の故郷にある『サイダー』っていう飲み物だ。飲みたくないなら他のものを出すが」
俺がそう聞くと、少し考えたあとで口をつける女性。
「あら、おいしい」
「そりゃあ、よかった」
俺がそう言うと、ロム爺たちも俺が出した飲み物に口をつけ始めた。
「うまっ!」
「うむ。確かにこれもうまいな」
そう言ってごくごく飲むロム爺とフェルト。
少しして、女性が俺たちを値踏みするように見てくる。
「そちらのご老人はわかるのだけれど、こちらのお兄さんは?」
スバルの立ち振舞いと雰囲気から、場馴れしていない感を読み取ったのだろう。
純粋な疑問の言葉に、フェルトは悪い顔を作る。
「この兄ちゃんたちはアンタのライバル。アタシのもうひとりの交渉相手さ」
と、宣言通りの吹っかけを始めたのだった。