「モモンガさん、流石ですね。どこからどうみても、魔王さまになってましたよ。あと、とんでもないことになりましたね」
「アルベド、モモンガさんに完全にホの字ですねぇ、リアルでエロゲのようなことを始めようとするとは思いませんでした」
イズナとペロロンチーノはニヤニヤしながらそう言ってくる。
「あ、あれはつまらない冗談だったのに……まさか、こんなことになると知っていたら、あんなことはしなかった……お、俺はぁ、タブラさんの作ったNPCを汚してしまったのかぁ……」
モモンガは膝と手を床に付き嘆いている、そこにぶくぶく茶釜が寄り添い肩に手をかけ、
「過ぎたことを悔やんでも仕方ないよ。それに、タブラさんNTR属性もあったはずだから問題ない所か、両手を上げて喜びそうかな」
「そうでしたね……ギャップ萌にNTR属性。流石タブラさんですよね〜。想像を絶する変態さですよ。まぁ、むしろそれこそタブラさんなんですけどね」
ぶくぶく茶釜とイズナの、その言葉にモモンガは撃沈した。確かにタブラさんならあり得る、そう理解してしまったからだ。
「モモンガさんいじるのはこの辺にして、いろいろ試さないといけませんね。魔法やスキル、アイテムがちゃんと使えるのかとか、発動の感覚とかゲームとの差違もですかね。
モモンガさんもそれが目的で闘技場を集合場所に決めたみたいですし」
ぶくぶく茶釜がモモンガの復帰を待ちながら言葉を続ける。
「まずはこのリングからですね」
イズナは自分の左手人差し指にはまっているリングを見る、リング『オブ・アインズ・ウール・ゴウン』、ギルドの紋章が刻まれた指輪、ギルドメンバーの証であり、大墳墓内、玉座の間とギルドメンバー達の部屋以外なら自由に転移することができる物凄いマジックアイテムだ。
すると、凹んでいた状態から復帰したモモンガとペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜は頷き、リングに転移先である闘技場の通路を念じ、転移する。
ナザリック地下大墳墓・第六階層 闘技場への通路
「成功ですね」
イズナは辺りを見回しそう告げる、
先程までの光景が一変し、周囲は薄暗い通路へと変わっている、ここは闘技場へと続く通路、
皆は歩き、光が指す方へと通路を進む、出口が近づくにつれ草木の匂いが鼻腔は入ってくる、強い青臭さと大地の匂い、 それは深い森の匂いだ。
通路を出て視界に映ったのは、何層にもなる客席が中央の空間を取り囲む場所、 円形闘技場があった。
モモンガ達は闘技場の中央に歩を進めながら、空を眺める、そこには真っ暗な夜空が広がっていた。
もし周囲に明かりが無ければ、空に浮かぶ星すらも見えたことだろう。
勿論、この場はナザリック地下大墳墓の第六階層、地中であり今見上げているのは偽りの空だ、ただ星が好きなとあるギルドメンバーによってかなりのデータを割り振っており、時間の経過と共に変化する仕組みになっており、日光と同じ働きをする太陽すら浮かぶ。
モモンガ達は周囲に目をやる。たしか、ここにはぶくぶく茶釜が作り出した双子が居たはずなのだが……
「とあ!」
4人で探していると、掛け声と共に貴賓席から跳躍する影、六階建ての建物に匹敵する高さから飛び降りた影は、空中で一回転し着地した。
「ぶい!」
両手にピースを作る。
飛び降りてきたのは10歳ほどの子供で、幼い子供特有の少年とも少女とも取れる可愛らしさがある、金の絹のような髪を肩口で切り揃え、耳は長く尖っており、薄黒い肌、森妖精エルフの近親種、闇妖精ダークエルフと言われる人種だ。
「アウラか」
モモンガは登場した闇妖精の子供の名前を呟く。
ナザリック地下大墳墓第六階層の守護者であり、幻獣や魔獣等を使役する魔獣使い(ビーストテイマー)、アウラ・ベラ・フィオーラ。
アウラは小走りにモモンガに近づいてくる、小走りではあるが獣の全速力と同等のスピードだ、瞬時に二人の距離が近づく。
アウラは急ブレーキをかけ、地面を削り土煙を起こす。
そして子犬がじゃれついてくるような笑顔を浮かべ、モモンガに挨拶する。
「いらっしゃいませ、モモンガ様。あたしの守護階層までようこそ」
アウラは挨拶のあとモモンガの後ろの人影が気になったのか、覗くように体を右に傾ける。
「――――あっ」
すると、アウラは視線の先には手を振るような感じで体を変形させているぶくぶく茶釜が居た。
「ぶ…ぶくぶく茶釜……さま?」
「ええ、そうだよ。久しぶり、アウラ」
アウラはふるえながらそう聴くと、ぶくぶく茶釜は優しく言った。
「ぶ…ぶ……ぶくぶく茶釜様あぁーー!!」
アウラは、すぐさま飛び込んで行く。ぶくぶく茶釜は体をくねらせアウラを優しく受け止め、その頭を撫で始めた。
「久しぶりだね、アウラ。長い間留守にしてごめんね。
マーレもおいで!」
ぶくぶく茶釜が呼ぶと、先程の貴賓席からもう一人、履いているスカートの裾を押さえながら飛び降りた。
マーレ・ベロ・フィオーレ、その容姿はアウラとそっくりだが、姉より幾分大人しい。
マーレはテッテッテという擬音が似合いそうな速度で走ってくる。当然、全力で走っているのだろうが、アウラと比べるとかなり遅い。モモンガの元に付くと、
「お、お待たせしました、モモンガ様……」
びくびくと、モモンガを窺うように上目遣いをし、モモンガの後ろにいるぶくぶく茶釜が気になるのか、ちらちらと視線がそちらに行く。
それを見たモモンガはマーレの頭を撫で、
「存分に甘えてこい」
そう言ってマーレをぶくぶく茶釜のもとへ行くように促す。マーレは一礼し、ぶくぶく茶釜の胸に飛び込んだ。
自分を創造したぶくぶく茶釜に甘えるアウラとマーレ。そのアウラとマーレを優しく包み、頭を撫でるぶくぶく茶釜、その光景は実にほほえましかった。
「微笑ましいけど……卑猥な肉塊とじゃれ合う美少女2人………ふむ。いい!」
「うるさい。愚弟!」
それを見ていたペペロンチーノがそんな事を口走り、聞こえていたのか、ぶくぶく茶釜が怒った声で言った。
そんな2人を見ていたモモンガとイズナは、ただただ苦笑するしかなかった。
――――――――――――――――――――――
「……さて。そろそろ、いいでしょうか? 御三方」
イズナの言葉に、ひとしきりアウラとマーレを撫で回したぶくぶく茶釜は、アウラとマーレから離れて、表情どころか顔がないのでわからないが、どこか満足そうな雰囲気を出していた。
「いや〜、もう充分に私の子供達とじゃれ合えたわ。うん。満足」
「えへへ。私もぶくぶく茶釜様と会えて嬉しかったです!」
「ぼ、僕も、嬉しかった、です!」
どうやら、アウラとマーレも随分と満足そうだった。
「さて、モモンガさん。いまからスキルとか魔法とかいろいろ試さないといけないのではないですか?」
「……そうですね。なら早いとこやりませんと。」
モモンガとイズナが2人でコソコソと話していると、それを見ていたペペロンチーノとぶくぶく茶釜の2人が近づいてきた。
「おーい。2人で何をコソコソと話しているのかなぁ〜? ――はっ! まさかモモンガさん…イズナちゃんに手を出して……!」
「ちょっ!? そんな事しませんよ!?」
「モモンガさん……ハレンチね♪」
「えぇ!? ぶくぶく茶釜さんまで!?」
ニヤニヤしているペペロンチーノとぶくぶく茶釜のダブルモモンガ弄りに当被害者のモモンガは項垂れていた。
「あははは……。ペペロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さん、そのような事はありませんから、モモンガさんを弄るのをそろそろやめてあげてくださいね? ――それにまだ近くにはアウラとマーレもいますから。
音遮断の魔法を使いこちらの声は聞こえていませんが、流石にモモンガさんのせっかくの威厳が台無しになりますからね。だから、これ以上はやめてあげてくださいね?」
イズナが言うと、笑いながら2人はモモンガから離れた。
「いや〜、やっぱりモモンガさんをいじるのは楽しいですね」
「そうね〜」
「ペペロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さん、本当にやめてくださいよ……こっちの心が持ちません……さっきからむっちゃ光ってるし」
モモンガは疲れた顔をしつつも、異形種系のプレイヤーに付いている精神作用無効の特殊能力がついておりそれが常時発動していた。
この能力は一定数の感情が高まったり下がったりすると落ち着かせるために発動する能力だ。
しばらく4人で今後についての話をして、その話が終わるとペペロンチーノとぶくぶく茶釜がこれから行う実験のため闘技場の観客席の方に移動していた。それをみたイズナは音遮断の魔法を断ち切る。
それを見計らったのように、アウラが近づいてきた。
「それでモモンガ様何の御用でこの階層に?」
「ああ、コレの試し撃ちをしようと思ってな。」
すると、モモンガの言葉にマーレが反応する。
「あ、あ、あの、そ、それがあの最高位武器、モモンガ様しかさわることを許されないという伝説のアレですか?」
それにモモンガは自慢気に頷くと説明をしだした。
「その通りだ。これが、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ」
モモンガがそう言うと、アウラとマーレは瞳をキラキラさせて、まるでヒーローに憧れる、子供(見た目は子供だけど…)の様な顔をしていた。
「コレこそ我々全員で作りあげた最高位のギルド武器だ。スタッフの七匹の蛇が咥えたそれぞれの宝石は、全てが神話級のアーティファクト。更に、この杖自体に秘めた力も、神話級を超越し世界級に匹敵するレベルだ。最も凄いのは、この武器本体に組み込まれた自動迎撃システムは――」
そんな様子を知ってか知らずか、モモンガは自慢そうに説明をしていた。
イズナはその様子を親と子供がじゃれている様に見えて、微笑ましく見ていた。
「(……と、こんな事をしている場合じゃありませんでした。)」
微笑ましく見ていたイズナだが、本来の目的を忘れかけていたので、慌てて意識を切り替えモモンガに話しかける。
「モモンガさん、話し込みたくなる気持ちは凄く分かりますが、ここは抑えてくださいね。でないと、日が暮れてしまいますから(モモンガさん! 自慢したくなる気持ちはわかりますが抑えてください! ほら、ペペロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんも変な目でこっちを見てますよ)」
「む?……あ、ああ、スマンなイズナ(す、すみませんイズナさん! 危うく忘れかけてました。ありがとうございます!)」
イズナとモモンガは口を開けて喋りつつ、頭の中では『伝言(メッセージ)』というプレイヤー特技で話していた。
「す、すごい!」
「凄いですよ!モモンガ様!!」
さらにキラキラと目を輝かせるアウラとマーレに思わず頭を撫でようと衝動にかられてしまい、慌てて意識を切り替え、伸びかけた手を引っ込めるイズナ。
観客席では遠目で見ていたぶくぶく茶釜が、あまりの可愛さに体をクネクネと動かして悶えていた。それを隣にいたペペロンチーノは少し引いていたのだった
「そういうわけでここでスタッフの実験を行いたい。色々と準備をして欲しいのだが?」
「畏まりましたモモンガ様」
「ああ、それとアウラ。全階層守護者をここに呼んでいる。予定では後一時間もない」
「分かりました。ん?シャルティアもですか?」
「全階層守護者だ」
「はあ、分かりました」
そうしてアウラは準備に向かった。
――――――――――――――――――――――
今現在、藁人形の前にイズナは佇んでいた。
イズナはおもむろに右手を上げ、藁人形の方へと向ける。
「狐火」
ゴウゥッ!!
手のひらから出た炎の玉が藁人形に着弾。藁人形が燃え尽きた。
何をしているのかと言うと、イズナとモモンガは、魔法やその他の、言わば自身の力の確認をしていたのだ。
『どうやら魔法は使えるようですねモモンガさん。後フレンドリーファイアも解禁されているようですよ?』
『そのようですね。フレンドリーファイアが解禁されたということは超位魔法は味方を巻き込むのでなかなか使えませんね。』
『……でも、イズナちゃん。こっちから見ても、ユグドラシルの時と比べて随分と爆発等が派手な気がするけど、イズナちゃんの“狐火”ってそこまで威力が大きかったっけ?』
『いえ、ユグドラシルでは、この"白面金剛九尾"……正確には、狐族のモンスター又は狐キャラのプレイヤーが使える初級の魔法なのですが、ユグドラシルではせいぜい、木で出来た一軒家程度の大きさの建物を燃やすか、level10以下のモンスターを倒す程度の威力しか無かったはずです。しかし、どうやら威力が上がっているのかわかりませんが、いまなら全力を出して射てばlevel30以下のモンスターならこれだけで消し飛ばせそうです。……恐らく、ゲームのがリアルになった為かのか、種族値と相まって威力が上がっているのかなと推測します。あと、なによりもゲームではあり得ない現象だったもこが、現実になったことにより、なにが起こってもなんら不思議はなさそうですよ』
『そうですか。わかりました。今後、魔法を使うときは鳴るべく魔力を調節する必要がありますね』
『そうですね。』
『ならさぁ、私達ものちのちスキルとか魔法とか調べとかないといけないね。』
『確かに、姉ちゃんの言う通りだな』
『ならこの場所で今度、私達4人で久しぶりに模擬戦しませんか? 腕試しにもなりますし、なにより現実になったいま、いい運動にもなります』
『そうですね。それもいいでしょう……さて、次は私ですか』
『お?次はモモンガさんか、頑張ってください。モモンガさん』
『はい、ペペロンチーノさん』
「《根源の火精霊召喚(サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル)》!」
そういってモモンガさんが発動したのは、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの7つの宝石に秘められた魔法の一つ、《根源の火精霊召喚(サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル)》
その余波で召喚した地点にあった的は消し炭と化した。
『………………みなさん』
『はい、なんでしょう。モモンガさん』
『なに? モモンガさん』
『ん? なんだモモンガさん』
『私の記憶が正しければ……。この魔法はこんな派手なエフェクト入っていましたっけ』
『いいえ。おそらくこれもまた、先程話した通り現実となった影響でしょうね』
『そうだね。イズナちゃんの言う通りよ』
『まぁ、俺も姉ちゃんとイズナちゃん同様、それしか考えられないよな』
4人は、《伝言》で喋りながら、魔法の確認をしていた。
「す、凄い!」
「うわぁ……!」
その凄まじい光景を、アウラとマーレは見ていた。
これだけの強力な召喚魔法となれば、普通はMPだけでなくなんらかのコストを支払って発動するものなのだ。
それをただMP――魔力だけで召喚し、使役しているのはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの性能の凄まじさをまじまじと実感してしまった。さすがギルド武器なだけはある。
「プライマル・ファイヤーエレメンタル……レベル80後半だ。アウラ、戦ってみるか?」
「い、良いんですか!?」
「あ、あの僕、しなくちゃいけないことを思い出したので」
「マーレッ!こんなチャンス、滅多にないんだよ!!」
「えええええ……わかったよ、おねえちゃん……」
モモンガの言葉に嬉しそうにする双子のダークエルフ。
モモンガが覚えている多種多様の様々な攻撃魔法を試さず、杖に記録されたこの召喚魔法を使用した理由は、フレンドリーファイアの設定が外れているのかの確認も込めているのである。
ついいつもの感覚で撃って味方に誤射するなんてシャレにならない。ここまで現実的になってしまっていると、もはや間違いなく可能な事であろうが、それでも確認せずそのままでいるよりもよっぽど良いだろう。……そう考えた4人はアウラとマーレに悪いが、実験に付き合ってもらおうと思ったのだった。
おどおどしてるが、レベル的にマーレやアウラならば、それ程苦労せず倒せる相手なのだ。危険も、ほどほど程度だろうと踏んでの実験だった。
闘技場の中心で、召喚された火の精霊と、アウラ達が構える。
「プライマル・ファイヤーエレメンタル!双子を攻撃せよ!!」
モモンガの命令と共に動き出した、アウラとマーレだった。
――――――――――――――――――――――
しばらく戦っていたが、戦闘はアウラとマーレのペースだ、余裕を持った攻防が続く。
ふとモモンガを見ると何もないはずの空間に手を入れ、ごそごそと何かを探っていた、どうやらアイテムボックスに手を突っ込んでいるようだ。
空中に溶けるように根源の火精霊の巨体が消えていく。周囲に撒き散らされていた熱気も急速に薄れていった。
桁外れの破壊力と耐久力を持つ根源の火精霊だったが、アウラとマーレの前では意味がなかったようだ。
「うちの子達はすごいでしょ」
ふと声が聞こえた方をイズナが見ると、ぶくぶく茶釜を見ると、我が子を自慢し、胸を張っているのだろうが、体をグニュっと曲げたようにしか見えない。
再び闘技場へ視線を移すと、モモンガがアウラとマーレに水を飲ませ、二人の頭を撫でていた。
観客席に居たぶくぶく茶釜、ペロロンチーノはモモンガ達の所まで移動し、ぶくぶく茶釜が再びアウラとマーレの頭を撫で始めた。そこに声がかかる。
「おや、私が一番でありんす――か!?」
途中で驚愕の声をあげたのはシャルティア・ブラッドフォールン第1から第3階層守護者だ。
そのシャルティアは、胸が揺れるのも気にせずイズナの側に走って近づき跪いた。
「ご帰還しておりましたかぶくぶく茶釜様、イズナ様!心より歓迎致します!」
「ありがとうございます。シャルティア」
「とんでもごさいません。至高のお方々のご帰還を歓迎するのは当たり前でありんす」
「いい心掛けですねシャルティア。さすがですね」
そう言いながら、イズナはシャルティアの頭を撫でた。そんなシャルティアの顔は女の子がしたらダメなほどとろけていた。
「……転移が阻害されてるナザリックで、わざわざ〈転移門(ゲート)〉なんか使うなって言うの。闘技場内まで普通に来たんだろうから、そのまま歩いてくればいいでしょうが、シャルティア」
モモンガのすぐ側から呆れたような声が聞こえる。その凍りつかんばかりの感情を含んだ声音に、先程までの子犬の雰囲気は無い。あるのは満ちすぎてこぼれだした敵意だ。
その横ではマーレが再び、ブルブルと震えだしている。少しずつ姉の側から離れていっているのはなかなか賢い。実際、アウラの豹変には、モモンガもちょっとばかり引いていた。
シャルティアはアウラを一瞥すると、イズナから離れ、すらりとした手をモモンガの首の左右から伸ばし、抱きつくかのような姿勢を取る。
「ああ、我が君。私が唯一支配できぬ愛しの君」
真っ赤な唇を割って、濡れた舌が姿を見せる。舌はまるで別の生き物のように己の唇の上を一周する。
妖艶な美女がやれば非常に似合っただろうが、彼女では年齢的に足りないものがあり、ちぐはぐ感が微笑ましくさえある。だいたい、身長が足りないので、伸ばした手も抱きつくというより首からぶら下がろうとしているようにしか見えない。
それでも女性に慣れていないモモンガには十分な妖艶さだったが。
困惑しているモモンガは、シャルティアの製作者であるペロロンチーノを見る。だが、ペペロンチーノは先程モモンガをからかっていた時と同じように親指を立てていた。
モモンガの視線の先が気になり、シャルティアもそちらを見る。そこには自分の創造主、ペロロンチーノが立っていた。
「そしてペロロンチーノ様、お久しゅうございます」
モモンガの首からぶら下がったまま言う。
「あれ!? なんかさっきのイズナさんと姉さんといまのモモンガさんの反応と随分違くない?!
もっとこう、ぎゅっと抱きついてくるとか、耳元で色っぽく囁いたりとか。――はっ! こ、これがNTRか!NTRってやつか!?」
ペロロンチーノが頭を抱えてうんうん唸っている。
するとシャルティアがモモンガの首から離れ、ペロロンチーノの抱きついて、その耳元で甘い声で囁く。
「冗談でありんす。ペロロンチーノ様、お会いしたかったでありんす!」
「シャルティアァーー!!」
ペロロンチーノはすぐさま復帰し、シャルティアを抱き締めた。
「……あはは。ペペロンチーノさんも大概ですよね。そう思いません? ぶくぶく茶釜さん」
「そうね。まぁ、愚弟だし仕方が無いわね」
ペペロンチーノを見ていたイズナとぶくぶく茶釜はそんな話をしていて、その後ではモモンガが苦笑していた。
「いい加減にしたら……」
重く低い声に初めてシャルティアは反応し、嘲笑を浮かべながらアウラを見た。
「おや、チビすけ、いたんでありんすか? 視界に入ってこなかったから分かりんせんでありんした」
ぴきりとアウラは顔を引きつらせ、それを無視するようにシャルティアはマーレに声をかける。
「ぬしもたいへんでありんすね、こな頭のおかしい姉をもって。こな姉からは早く離れた方がいいでありんす。そうしないとぬしまでこなになってしまいんすよ」
マーレの顔色が一気に悪くなる。シャルティアが自分を出汁に姉に喧嘩を売っていると悟っているためだ。
だが、アウラは微笑む。そして
「うるさい、偽乳」
爆弾が投下された。
「――んなっ?!」
素を出したシャルティアは随分と慌てていた。
「図星ね! だからわざわざ〈転移門(ゲート)〉を使ってやって来たんだ。急いで来たいのに盛りすぎてて、走る度に胸がどっかいっちゃうから〜」
アウラの言葉に狼狽えるシャルティア。そこにあるのは年相応の表情だ。それにたいしてアウラは邪悪な笑みを浮かべる。
「黙りなさい! このちび! あんたなんかまったく無いでしょーーー?!」
シャルティアの必死の反撃。その瞬間、更に邪悪な笑みを浮かべるアウラ。シャルティアは押されるように一歩後退する。さりげなく胸をかばっているのがなんというか悲しい。
「……あたしはまだ七六歳だけど、あんたはアンデッド。成長しないから大変よねー。」
シャルティアはぐっ、と呻き、さらに後退する。アウラは亀裂のような笑みをさらに吊り上げ、もう一言追撃する。
「今あるもので満足したら? ぷっ!」
「おんどりゃー! 吐いた唾は飲めんぞー!」
その台詞と同時、シャルティアとアウラが戦闘体勢に入る、
「平和だなぁ」
「平和ですねぇ」
「平和ねぇ」
その光景を見ていたペロロンチーノとイズナとぶくぶく茶釜からそんな台詞がこぼれる。
「サワガシイナ」
声が飛んできた方、そこには何時からいたのか、冷気を周囲に放つ異形か立っていた。
二・五メートルはある巨体は二足歩行の昆虫を思わせる。 冷気がまとわり付き、ダイヤモンドダストのように煌めく、ライトブルーの硬質な外骨格は鎧のようだった。
それはナザリック地下大墳墓第五層の守護者であり、凍河の支配者 コキュートス。
「御方々ノ前デ遊ビスギダ……」
「この小娘がわたしに無礼を働いた 」
「事実を 」
「あわわわ……」
再びシャルティアとアウラがすさまじい眼光を放ちながら睨み合い、マーレが慌てる。モモンガはさすがに呆れ、意図的に低い声を作ると二人に警告を発した。
「……シャルティア、アウラ。じゃれ会うのもそれくらいにしておけ」
びくりと、二人のからだが跳ね上がり、同時に頭を垂れた。
『もうしわけありません!』
モモンガは鷹揚に頷き謝罪を受け入れると、現れたものに向き直る。
「良く来たな、コキュートス」
「オ呼ビトアラバ即座ニ」
白い息がコキュートスの口器から漏れている。それに反応し、空気中の水分が凍りつくようなパキパキという音がした。
「オヤ、デミウルゴス、ソレニアルベドガ来タヨウデスナ」
コキュートスの視線を追いかけると、そこには闘技場入り口から歩いてくる人影が二つ。先に立つのはアルベドだ。その後ろに付き従うように一人の男が歩く。十分に距離が近づくと、アルベドは微笑み、モモンガに対して深くお辞儀をする。
男もまた優雅な礼を見せてから、口を開いた。
「皆さんお待たせして申し訳ありませんね」
身長は一・八メートルほどもあり、顔立ちは東洋系、オールバックに固められた髪は漆黒、丸眼鏡をかけており、来ているものは三つ揃えであり、ネクタイまでしっかり締めている。
後ろからは銀プレートで包んだ尻尾が伸びている。
その男こそ 炎獄の造物主 デミウルゴス。
ナザリック地下大墳墓第七階層の支配者であり、防衛時におけるNPC指揮官という設定の悪魔だ。
呼んだ皆が集まった。
モモンガを中心に、右にぶくぶく茶釜、左にペロロンチーノ、ペロロンチーノの少し後ろにイズナが立ち。
モモンガ達の目の前に、守護者達が並んでいる
「では皆、至高のお方々に忠誠の儀を」
「第1、第2、第3階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」
「第5階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」
「第6階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」
「お、同じく、第6階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。御身の前に」
「第7階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」
「守護者統括、アルベド。御身の前に」
「第4階層守護者ガルガンチュア及び第8階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。………ご命令を、至高なる御身よ。我らの忠義全てを御身に捧げます」
それに反応し絶望のオーラを出しながらモモンガが答える。
「面をあげよ」
全員の頭が一斉に上がる。
「よく集まってくれた、感謝しよう」
「感謝なぞおやめください。我ら至高のお方々に忠義のみならずこの身の全てを捧げた者たち。至極当然のことでございます」
「それと、どうやら至高のお方々はお迷いの様子。当然でございます。至高のお方々からすれば私たちの力など取るに足らないでしょう。
しかしながら至高のお方々よりご下命頂ければ、階層守護者全員、如何なる難行といえども全身全霊を以って遂行致します。造物主たる至高のお方々、アインズ・ウール・ゴウンの方々に恥じない働きを誓います」
「「「「「誓います!」」」」」
アルベドの声に合わせて全員が唱和する。それを見たモモンガ達4人は少し前に忠誠を疑っていたことを恥じていた。
「ふむ。実に素晴らしいぞ、守護者達よ。お前達ならば私の目的を理解し、失態なくことを運べると今この瞬間、強く確信した」
モモンガは守護者全員の顔を見渡す。
「さて多少意味が不明瞭な点があるかも知れないが、心して聞いてほしい。現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明かつ不足の事態に巻き込まれていると思われる」
守護者各員の顔は真剣で、決して微妙にも崩れたりしない。
その後、モモンガの説明が続く、ナザリックのあった沼地は無くなり、今は草原のど真ん中にいると、その原因は現在はいまだ不明で、セバスに見に行かせていること。これからのことを話していくのだった。