「きちんと待ってるだなんてなかなか殊勝な心がけね」
ルイズの今日の第一声はそれであった。ちなみに今の状況はと言うと、俺は日の出くらいに起きて、平民用宿舎で女子寮の場所を聞くついでに厨房でまかないをもらって(その時にマルトーさんやシエスタに挨拶は済ませた)、少し体を動かした後に女子寮の前で待機していたのだ。
「ご主人に迷惑はかけられないからね。それに使い魔が同伴してないと周りがうるさいんじゃないか?」
と、多少猫を被ったセリフを言う。完全に敬語じゃないのは後々ボロを出すよりはいいかと思ってのことだ。
「もう少し畏まった言葉遣いはできないの?」
「ある程度ご主人の意見は尊重するけど、変にしゃちほこばってどこかでボロを出すよりかはこっちのほうがずっといいと思ってね。なので多少は大目に見てくれると助かるんだけど」
「まあいいわ、昨日の今日で態度をいきなり変えられても気持ち悪いし」
片眉を上げて少し不快感と言った具合に返される。だが仕方がないとも思ってるようなのでこのままで通すことにした。
「ではご主人様、朝食を取りに食堂に行く間に、使い魔としての心得をご教授して頂けますか?」
「なんかあんたがご主人様って言うと気持ち悪いわね。あと敬語がやっぱり気持ち悪いからさっきの通りでいいわ」
そう区切って、歩きながら使い魔がやることを教えてくれるルイズ。
「まず、使い魔は主人の目となり耳となることが出来るの」
「何か見える?ご主人」
「いいえ、何も。多分コントラクト・サーヴァントをしてない影響だと思うわ」
「次に、主人の役に立つものを取ってくるの。秘薬の原料とか」
「それなら図書館で図鑑を借りて、材料を覚えてから探せばいいな。動物だったら鼻が効いたりするんだろうけど、人間なら現地の人に聞いて探せばいいからその地域出身の動物より広く探すことが出来るし」
「最後に、主人の身を守ること」
「それもなんとかなりそうだな。サモン・サーヴァントで呼ばれた直後に見せたのもあるし、熊までなら狩った事がある」
そう言うとルイズは思い出したと言う顔をして、「そう言えばあんた昨日のアレは何したの?連発出来る銃なんて聞いたことがないわ」 と、質問をぶつけてきた。ばらしてもいいかも知れないけど、「お前のものは俺のもの」と言うジャイアニズムあふれる理論を持ち出されたらたまったものではないので、「んー科学技術。俺の住んでたところでは魔法なんてなかったから」 と、簡潔に終わらせた。ルイズも銃は平民の武器だと認識してるせいか、「そう」とそっけなく返すだけで深くは聞いてこなかった。
「ご主人、食堂に着いたな。俺はここで待ってるから」
立場はわきまえてますよーと、言外で示すがルイズは俺が朝食を取った事を知らないので、「あんたも来るの。今日は特別に『アルヴィーズのの食堂』に入れてあげる」と言った。
ここで断ったらシエスタを助けるのが多少難しくなってしまうかも知れない。なのであえて乗る事にした。
「わかったよご主人。それじゃご一緒させて頂きます」
アルヴィーズの食堂内はもう先に席に着いてる生徒がたくさん居た。まあ遅刻ではないのだろう。ルイズも慌てず入って行ったので、俺は先行して椅子を引く。
「多少は立場と言うものをわきまえてるのね」
と、平民だから作法なんて知らないだろうと思っていたらしい。
「まあこれくらいはね。真似事くらいなら出来るけど本格的に学んだ訳じゃないから多分後でボロが出ると思うからその時はよろしく」
その言葉に「そう、分かったわ」と短くルイズは返してくる。
飯は食ってないのだろうと、その後にルイズは「あんたのご飯はアレ」とテーブルの端っこ、その下を指差す。
「アレ?」
「そうよ。アレよ」
「ご冗談をご主人。平民でももっと良いものを食べてますよ」と苦笑しながら答えるとルイズは、「う、うるさいわね。じゃあいらないのね?」と、食事を盾にアドバンテージを取りたいらしく、そう告げる。
「ええ、食事は自分でなんとかしますからご心配なく」
その態度が気に食わないのか小さく舌打ちが聞こえてきたが、俺は涼しい顔をして後ろで待機する。
「それじゃあ食べ終わるまでそこで待ってなさい」
そう言い終えると食事前のお祈りが始まるまで静かになった。
食事を終え、授業の時間になったので教室に移動する。ルイズと俺が入ると先に教室に居た生徒たちが一斉に振り向き、クスクスと笑っていた。
「ヴァリエール、あなたの使い魔ってそれ?」
褐色の女の子が馬鹿にしたような態度で俺を指差し、そう言った。実際馬鹿にしてるのだろう。
「そうよ」
苦虫を噛み潰したような顔でルイズは肯定する。
「サモン・サーヴァントで平民なんかを呼んじゃうなんてあなたらしいわ。流石ゼロのルイズ」
ルイズの頬に朱がさした。
「言わせておけってご主人。使い魔の真価が分からないってのは可哀想だな」
そうルイズにだけ聞こえるように言う。
「使い魔が平民じゃ犬と狼くらい違うのよ」
そうルイズが反論してくるが、「じゃあ熊狩った事がある俺は熊以上だな」と軽口で返す。
「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で成功よ」
そう言うと、椅子の後ろからにゅっとサラマンダーが顔を出す。
「どうせ使い魔にするんならこういうのがいいわよね~。フレイムー」
「あっそ」
ルイズはプイと向こうの方向へ向くとさっさと席に座った。
「俺は後ろに控えておけばいいのか?」
尋ねると、「後ろの邪魔になるから床に座ってなさい」と言われた。
が、俺は「一応身分はオールド・オスマンが保証してるから椅子でもいいだろ」と返し、隣に座った。
ルイズはこちらをチラッと見たが、特に何も言わなかった。
しばらくすると扉が開いて、先生が入ってきた。中年の女性で、紫色のローブに身を包み、帽子を被っている。優しそうな雰囲気のおばさんだった。
彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
ルイズはうつむいた。
「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
シュヴルーズがとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。
「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」
ルイズは立ち上がろうとしたが、俺が手で制して、代わりに立ち上がる。
「おい、お前、名前はなんて言う?」
「平民!無礼だぞ!」
「俺は名前を聞いたんだ。それとも名前すらろくに言えない能無しか?」
「~っ!マルコリヌだ!俺は風上のマルコリヌだ!平民!」
「そうか、じゃあマルコリヌ、円周率の計算くらい出来るよなぁ?」
そう言うとぽかんとした顔をし、「は?計算?」と呟いている。
「円周率っておよそ3だろ!」
「足りないな。計算すると円周率は3.14159265358979323846と言うように無限に近い数が続いて行く。現在5兆桁を超える桁数まで計算されているのだ。そんな事も分からないでよく俺の事を馬鹿に出来たな」
俺はトリビアの中からひとつ、平民じゃ全く分からないであろうお題を挙げてマルコリヌを攻撃した。つーか俺も暇つぶしに語呂合わせで途中まで覚えただけだ。ウィキペディアって暇を潰す時結構役に立つんだよな。
「で、デタラメだ!」
「デタラメだと思うなら今度コルベール先生にでも聞いてみろ」
他の生徒も「ただの平民」が絶対知らない事を俺が知っていたのが驚いたらしく目を丸くしている者もいた。ルイズも知らなかったらしく驚いている。
尚も「デタラメだ!」とわめきたてるマルコリヌの口に赤土の粘土が押し付けられる。
「使い魔さん、無礼を言ってしまってごめんなさい。ミス・ヴァリエール、あなたは素晴らしい使い魔を召喚しましたね。それと、ミスタ・マルコリヌはそのまま授業を受けなさい」
シュヴルーズ先生は重々しく咳をした。
「では、授業を始めますよ」
そして先生は杖を振ると、机の上に、いくつかの石ころが現れた。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね?ミス・ヴァリエール」
「はい、ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです」
先生は頷いた。
「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知っての通りです。その五つの系統の中で『土』は最も重要なポジションを占めていると私は考えます。それは、私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私の単なる身びいきではありません」
先生は再び重々しく咳をした。
「『土』系統の魔法は、万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。この魔法がなければ、重要な金属を作り出すこともできないし、加工することもできません。大きな石を切り出して建物を建てることもできなければ、農作物の収穫も、今より手間取ることでしょう。このように、『土』系統の魔法は皆さんの生活に密接に関係しているのです」
この魔法があるから冶金術などが発達しないんだろうなと思った。何しろ『錬金』で好きな金属に変えることが出来るのだ。まあ純度は使い手の技量次第なんだろうけど。
「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます。一年生のときに出来るようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいすることに致します」
そうしてシュヴルーズ先生は石ころを金属に変えると、キュルケが身を乗り出した。
「ゴゴ、ゴールドですか?ミセス・シュヴルーズ!」
「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……『トライアングル』ですから……」
勿体つけて言うな。自慢したいのだろうか?
「では、ミス・ヴァリエール。あなたにやってもらいましょう」
「え?わたし?」
「そうです。ここにある石ころを望む金属に変えてご覧なさい」
そう言って促すシュヴルーズ先生。いかん、これは危険だ。だが失敗魔法を知らない俺が我先にと避難しては不審に思われる。キュルケが止めるまで我慢だ。
「先生」
「なんです?」
「やめておいたほうがいいと思いますけど……」
「どうしてですか?」
「危険です」
きっぱりとキュルケが言う。そして頷く一同。ちなみにタバサは既に避難済みだ。
「危険?どうしてですか?」
「ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「ええ、でも彼女が努力家だと言う事は聞いています。さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってご覧なさい。失敗を恐れていては、何も出来ませんよ?」
「ルイズ、やめて」
キュルケが真っ青な顔で言う。
しかし、ルイズは立ち上がった。
「やります」
そう言って、緊張した顔で、教室の前へと歩いて行った。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
こくりと頷くルイズ。集中していてこちらに一切注意を払っていない。俺は物音を立てずに机の下に潜り込んだ。
短いルーンの詠唱が聞こえ、次の瞬間、石ころは机ごと爆発した。
爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズ先生は黒板に叩きつけられた。悲鳴がうるさい。
教室が阿鼻叫喚の大騒ぎになる。キュルケが立ち上がり、ルイズを指差した。
「だから言ったのよ!あいつにやらせるなって!」
「もう!ヴァリエールは退学にしてくれよ!」
「俺のラッキーが蛇に食われた!ラッキーが!」
シュヴルーズ先生の様子を見る。たまに痙攣してるから死んじゃいないだろう。
ルイズが立ち上がる。煤で真っ黒で、見るも無残な格好だった。
大騒ぎの教室を意に介さず、ハンカチを取り出し、拭きながら、淡々とした声で言った。
「ちょっと失敗したみたいね」
「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」
「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」
そうして罵声を浴びせられるルイズをどうやって慰めようか考えるのであった。
原作読んだ後に書いたから多少被るところがあると思う。6話くらいまでは一気に書き上げたから、こんな調子が続くと思いますが、ご了承ください。