下劣自愛領域 キャメロット   作:射干

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続いた()

追記
ハサン先生ファンの方には謝罪いたします。申し訳ありません


第2話

山の民の隠れ里。それは獅子王により先祖代々の地を追われ、その獅子王により造られた理想郷を受け入れられぬムスリムの民が暮らしている場所。遊撃騎士の追っ手の追撃すら躱すそれは隠れ里と呼ぶに相応しい山里であった。

それもそのはず、この山里を含めたムスリムの隠れ里は、ハサンの名を冠する暗殺者が頭領を務める暗殺教団が幾十幾百年と暮らしてきた山里であったり、その暗殺教団が此度の大惨事に際して直々に建てた里などである。隠蔽や人の死角に潜り込む暗殺者の根城は、円卓の真っ当な騎士様方に見つけられるようなチャチなものではない。

 

––––しかし、そんなことなど無駄だったと嘲笑うかのごとく天より降り注いだ汚泥により、信心深いムスリムの最後の砦であった隠れ里は、一瞬にして穢らわしい自己愛を謳う白痴の下劣畜生が蔓延る天狗道へと成り果ててしまった。

 

「俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺。俺こそが至高の存在にして覇を唱えるものである。故に俺以外の万象一切消え去るべし。汚い汚い。怖気が走る。見るに耐えん」

 

つい先ほどまで同じ仕事を共に果たした同僚たちを殺して殺して殺し尽くしている男が爛々と目を輝かせ呟いた。

辛かった労働を励ましあってきた同僚など不要。己のみが優れた存在なのだから、己にとって糞の役にも立たぬ要らないものを駆逐するのは当然であるが故に。

 

「石くれ如きが呼吸をしないで、穢らわしいわ。何を我が物顔で私が吸うべき空気を吸って生きているの? もはや私を輝かせるアクセサリーはいらない。ゆえに死になさい。もう用済みなのよ塵が」

 

夜を共に過ごした伴侶を刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して殺した女が嗤う。

共に苦楽を過ごしてきた伴侶など不要。元来、伴侶など装飾品だろうに。要らなくなった装飾品を棄てることに何の憚りがあるという。

 

「永く生きた儂こそが至高である。短い時しか生きておらぬ屑が何をのうのうと儂の眼前にて生きているのだ。道理が通らないであろう。汚物でしかない貴様らがどうして生きているのか、全くもってさっぱり理解できぬ」

 

自らを必死に山里まで連れてきてくれた娘と婿を絞め殺した老人が当然の所業だと喚く。

己を護る存在など不要。己よりも下劣な塵が己を護ろうなどと烏滸がましい。貴様らなんぞに護られた日には己の価値まで暴落してしまうだろうが。

 

「友達なんて僕を輝かせるための装飾品であり暇潰しの道具でしょ。要らなくなったら棄てるだけ。なんのこともない当然の真理だ」

 

少年はつい先ほどまで遊んでいた友達の腹を貫手で刺して殺し、首をかしげる。

唯一無二の親友? なんだそれは。おまえがへばりついてきただけだろう。それを親友などと、穢らわしいぞ己に触れるな。

 

そして––––

 

「ははははははははははは! 死ね死ね死ね死ね死ねぇーーッ! 我がシャイターンの呪腕でどいつもこいつも死ぬがいいわァッ! はははははははははははははははははははははァーーッ!」

 

かつての恋人も故郷も、果ては己が名さえ捨て、暗殺者の頭領となった■■の■■■(雑音)。かつて胸に抱いた暗殺者の矜持も、己が轍にしたかつての恋人に対する罪悪感も、人間であるための感情理性倫理その他諸々すら忘れた彼は高らかに謳いあげる。

 

––––我こそ至高、我こそが至高である。ゆえに我以外の万人すべて死に絶えろ。我が腕の呪いの餌食となれ。我が輝くための踏み台になれ。これぐらいしか貴様ら塵屑にはできぬだろうがよ。

 

本来ならば十全に使いこなせぬその呪腕。しかし今の彼にとって魔神の残照など恐るるに足らぬ。悪意の、我執の、自己愛の桁が文字通り違うのだ。

そうして彼は文字通り押さえつけ隷属させ、自らに融合させた魔神の呪腕を以ってして、視界に入る人間動物を問わずあらゆる生物全てを一瞬で呪い殺していく。

 

––––あな素晴らしきかな我が力。まだだ、まだ足りぬ。もっと我を輝かせろ。もとより貴様ら塵屑はそれしか出来ぬだろうが。

 

そんな誰もが喚き狂騒し自己愛を謳いあげるなか、村から少し離れた岩陰に潜んでいた東方の大英雄、アーラシュ・カマンガーは荒い息を整える。

 

「クソッ…頭が割れそうだ…。

いや、それよりもなんだありゃあ。みんな急に殺しあい始めやがった…。本当にどうなってんだ…⁉︎」

 

聖都とエジプト領の外にいる者は根源より流れ出る波旬の泥により人間英霊例外なく皆射干へと堕ちる。だというのに、アーラシュはそんな泥など知らぬ存ぜぬと言わんばかりに正気を保っていた。…いや、知らぬ存ぜぬと言わんばかり、というには語弊がある。アーラシュは実際問題、先ほどまで普通だった者らが何故こうまで穢らわしい様になってしまったのか知らぬしわからぬのだ。

––––頑健スキルEX。聖杯をして規格外と評されたその肉体と精神の頑強さは、やる気が本当に、本ッッッッッッッッッッッ当に著しく欠損していたとはいえ波旬の精神汚染を耐えきったのだ。

だが、そんな規格外の英霊たるアーラシュでさえ、彼ら射干を正気には戻せなかったうえに少なくない怪我すら負ってしまった。

 

「ぐっ…これも円卓の奴らの仕業か…? …いや、そんなことはどうでもいいか。はやくあいつら戻す方法考えねえと…!」

 

表情を歪ませるアーラシュ。高ランクの千里眼を持つ大英雄たる彼をして、状況は控えめに言って詰み一歩手前だ。

彼らは自己愛の継子、波旬の赤子と化した。ゆえに波旬がばら撒く糞を食って戦い続けることができるし、自己愛を高めるだけで波旬の法に従って強化される。

このままではいずれこの地、時代で出会った友であるハサンの方が自分よりも強くなるのは自明の理。ただでさえ数が圧倒的に劣るというのに一人一人が次第に強くなるというのだから、どれぐらい状況が絶望的かたとえ稀代の阿呆にすら理解できよう。

 

「…本当は元に戻してやりたいがそんな悠長なこと言ってる暇もねえ…。それにあんなに優しかった彼らにあんな醜態はこれ以上晒させられない…。くそっ…殺すつもりでやるしかねえな…!」

 

しかし、あれほど気が狂っている相手を無力化するのは至難の技だ。有象無象の民草ならともかく、今のハサンを相手に手加減をしようものならたちまち不利な状況に持ち込まれるだろう。暗殺者でありながら善の良識を保っていた彼が殺戮の限りを尽くす姿はおぞましさとともに悲痛を覚える。これ以上、彼らの魂を穢すわけにはいかない。

それに敵はハサンだけではない。先ほどは有象無象と言ったが、「一人でも近代の英霊などの低位の英霊ぐらいなら殺せるのではないか」と思わせるほど強くなった者もいる。

ゆえに殺すつもりでかからねばアーラシュ自身が殺されかねない。

 

しかし、彼は救世の大英雄であり殺戮の限りを尽くした化物ではない。正真正銘、大英雄の名に恥じぬ素晴らしい人格者なのだ。

絶対に殺さずして助けてやる––––静謐でありながら、しかし激烈たる熱量を秘めた決意がアーラシュの内側で高められる。

波旬の赤子と化した憐れな民草とハサンを助けるため、聖なる献身を果たした大英雄が今、秘めたる覚悟を胸に抱き、矢を解き放ったのだった。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「ーーニトクリス」

 

「はい、ファラオ・オジマンディアス」

 

所変わって熱砂吹き荒れる砂漠。突如発生したその砂漠は1200年代のシリア地方に不釣り合いな気候であり、砂漠内部では風にのって神代もかくやと思わんばかりの魔力が吹き荒れていた。

そんな砂漠の中心街、古代エジプトを思わせる意匠の建築物ーー平たく言えばピラミッドの内側では、この砂漠の支配者にして偉大なるファラオ・オジマンディアスとニトクリスなるファラオが神妙な表情で話し合っていた。

 

「おまえはこの状況、どう見る」

 

「………私見にて述べさせていただく無礼をお許しください」

 

「よい、許す。疾く述べるがよい」

 

「はっ……見るに、非常に危うく、不自然な状況かと」

 

「不自然とは?」

 

「は、外界で何が起こったのかは私めにはわかりかねますが、ファラオ・オジマンディアスの対界結界が先ほど全力で駆動し、なんらかの衝撃を結界自体を引き換えに防ぎきったことから考えれば、超A級…否、それ以上のサーヴァントもしくはエネミーが攻めてきた…と見るのが妥当かと存じます。

しかし、その後の動きがまったくありませぬ。敵方からの侵攻はおろか、気配すら感じられぬ始末…。不自然としか言いようがございませぬ」

 

ニトクリスの筋道が通っている弁論を聞き、オジマンディアスは玉座に掛け直す。

不自然、たしかに不自然である。しかし、最大の不自然はそのような些細なこと(敵が侵攻してこないこと)ではない(・・・・)

 

「ふむ…そうか。貴様の見識は理解した。

ならばニトクリスよ、エジプトの中心より万象を見遣るファラオとしての貴様ではなく、天空神ホルスの化身としての貴様に問おう。貴様は、外界の…外の(そら)に違和感を感じなかったのか?」

 

「空…ですか? いえ、特には………なッ!?」

 

何かに気がついたニトクリスを一瞥し、オジマンディアスは天を見げる。まるで忌々しい汚物を見るかのごとく眉を寄せ、フン、と鼻を鳴らした。

 

「ようやく気がついたか…外界の異常に」

 

「こ、これは…ッ。なんと、なんと、なんと…おぞましい…ッ!」

 

外界に漂うのは歪なる魔力。それはさながら汚泥のごとき醜悪さと悪臭を備えている汚濁。その異変にニトクリスは気がついたのである。

 

ニトクリスは確信した。結界が壊れたこととこの外界の異常は無関係ではない。

それと同時に、彼女はいち早く状況を理解していたオジマンディアスに対してさらに尊敬の念を強め、それと同時に不甲斐ない自らへの苛立ちがふつふつと湧いてくる。

 

「申し訳ありません…! 私に無知を知らしめてくださるなんて些事にファラオ・オジマンディアスのお手を煩わせてしまってしまいました…!」

 

だが、最も彼女の心のうちを占めていたのはオジマンディアスへの申し訳なさであった。己が考えたらずであり、無能であったがために偉大なるファラオ・オジマンディアスがわざわざ己に答えを示してくださった。偉大なるファラオが、わざわざ、である。不敬と言う他ない、とニトクリスは自らを責め立てる。

 

「良い、許す。余はこの程度のことで咎めはせん。この失敗を糧に、次は注意を払うがよい」

 

「はっ…! ご寛大な処断、感謝致します!」

 

だがオジマンディアスはその不敬を不問にした。

おお、なんと寛大なことであろう。愚かな私めをファラオ・オジマンディアスは許してくださった。ならばもう二度と同じ過ちはするまい、とニトクリスは心に刻む。

 

「それはそうとして…穢らわしいな。見るに耐えぬ。余の眼前にあることすら忌々しい」

 

オジマンディアスはまるで腐り果て悪臭を放つ死骸を見たかのように眉をひそめる。

 

「穢らわしいとは…外を取り囲む異質な魔力のことでございましょうか」

 

「ああ、と言っても、外を取り囲む魔力というよりはこの天を握った何かに対してだがな。

一目見た時からわかったぞ。これは、この天を統べた何かは腐り果てた汚物だ。まるでこの世の忌避物を掻き集めて釜で煮詰めたかのごとき悪辣さよ。これを見れば強かなことで知られるイシスすら裸足で逃げ出すだろう」

 

「は、はぁ。天を握った…ですか。お言葉ですがファラオ・オジマンディアス、天空はホルス神の象徴であるはずです。その天空を握ったというのは…」

 

「違うぞニトクリス。余が口にした天空はそういう意味の天空ではない。

余が口にした天とは我らが属するエジプト神話、ギリシアの神話や北欧神話などを統括したガイアをさらに超越した機構よ。常人どころかたとえラー神ですら辿り着けぬ、まさしく前人未踏の境地…よもやそこにこのような排泄物にすら劣るものが就くとは思わなんだが」

 

「なっ…!? それではその話はこの惑星では収まらぬということですか!?

魔術王がまさかそのような境地に…」

 

「……いや、それも違うな。天を握ったのはおそらく魔術王ではないだろう。やつはこの惑星に収まる規模よ。ここまで大掛かりではない。

…実に腹立たしいが、神王たる余ですらわかるのはここまで。ここまでだが、一つだけ断言できることがある」

 

オジマンディアスが玉座より立ち上がり、天を睨む。

 

「この天を覆すのはーー円卓を打倒することよりも、魔術王を打倒するよりも、ちと骨が折れるだろうよ」

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

ーーさあ殺せ、やれ殺せ、貴様ら全員残らず殺し合って消え失せろ。

 

おまえら塵屑に住まわせる場所なんて俺の身体(宇宙)のどこにもありはしない。なのに、ああ何故なんだ。何故消え失せない。おかしいだろう、俺はただ一人になりたいだけなんだ。触れるな、触れるなよ気持ちが悪い。

 

だから、俺以外の手で消え失せろ。せめて俺の手を汚してくれるな。勝手に湧いたんだから勝手に喰らいあって死に絶えろ。

 

 

それが天のーー座の意志と知れ。

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