「ブラックブレット」 赤い瞳と黒の剣   作:花奏

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第二章 vs神算鬼謀の狙撃兵
第一話 宴のその後に


何でこうなったのだろう。

目の前を見て、ふと考えてしまう。

自分はつい最近倒したゾディアックガストレアについて調べようと思い、研究所に行きたかったのではなかったのか。

 

———目の前には、何やら楽しそうな人たち。

 

事の始まりは三十分前......

 

「沙耶ちゃん。ちょっといいかしら」

 

顔ぐらいは出しておこうと会社に出勤したら、木更に呼び止められたのだ。

 

「何?用事があるんだけど」

 

すると延珠がそばへ寄って来た。

 

「今から焼肉パーティーするのだっ」

 

「先日の闘いに勝利したお祝いと、新入社員歓迎のパーティーらしいです」

 

「焼肉♡焼肉♡」

 

はしゃいでいる社長とツインテールの少女とは裏腹に、落ち着いている新入社員の少女。

何方が先輩なのか分からなくなりそうだ。

 

「茉里亜ちゃんと蒼太さんも来るって」

 

「先生、絶対食べますよね?」

 

抜けれない状態になった、と思ってしまった。

ふと、一人足りない事に気がつく。

 

「あれ?蓮太郎君は?」

 

周囲を見渡してもいない。

 

「蓮太郎先輩は買い出しですよ」

 

買い物に駆り出された男子高校生。可哀想だ。

 

「ただいま......」

 

「えんじゅー。久しぶりです」

 

「今日は呼んでくれてありがとうね。木更」

 

蓮太郎だけだと思っていたが、茉里亜と蒼太もいた。

 

「あれ?駆り出されたのは蓮太郎君だけじゃないの?」

 

「僕達は、来る途中に合流したんだ」

 

何処からかホットプレートを出し、早速お肉を焼き始めている木更は何だか嬉しそうだ。

 

「お肉♡お肉♡久しぶりのお肉♡」

 

「妾もだぞ!まさかタダで焼肉パーティーが出来るとは思ってもみなかったぞ」

 

「タダ......?」

 

タダというのは可笑しすぎるのではないか。会社のお金なのだからタダにはならないだろう。

 

「そうなのよ!沙耶ちゃんってお金持ちね〜」

 

「.......は?」

 

蓮太郎は頭を抱えている。

 

「それ、言ったらいけないだろうが.....」

 

杏も頷きながら

 

「社長さんもお姉ちゃんも普通に言うんだ......」

 

「まさか......」

 

「はい。私が先生の食費とホットプレートを出し......凄い剣幕です......よ?」

 

「私の食費......」

 

いくら自分の従姉妹であり、助手であろうとも大切な食費を盗られて怒らないわけがない。

 

「神代さんは我が儘ですね。杏さんは快く許可してくれたのに」

 

「沙耶はお椀が狭いです」

 

日常茶飯事である茉里亜のあやふやな日本語も、今日は苛ついてしまう。

 

「茉里亜!其れを言うならお皿が狭い、なのだ!」

 

いつも明るい延珠の声も、今日はむかついてしまう。

 

「茉里亜も延珠も間違ってるよ。正解は器が狭い、だからね?」

 

溜息をつき、二人に呆れる蒼太。

 

「沙耶さんは器が狭いですね」

 

「ほんとほんと!器が狭いわ」

 

「俺たちよりお金があんだからちょっとぐらい良いだろ。器、狭いな」

 

此れだけ散々言われたら、沙耶も我慢の限界。

 

「器、器、うるさいわッお金がある訳でもないし。そもそも食費は民警での給料だし、蓮太郎君たちと変わんないし。

あーもう。好きにしてッ」

 

そこにいる全員が呆然としていた。みんな、情けなく口を開けている。

 

「さあ、お肉が焼けたわよ!食べないと焦げるわ」

 

木更の声に全員が我に返る。

 

「木更〜妾たちにも分けるのだ!其れに、木更はそのおっぱいで何日も生きられるであろう!」

 

「なッ......そんな訳、ないでしょ」

 

「お前ら、焦げるぞ」

 

「私はここのお肉が良いです。蓮太郎先輩、とって下さい」

 

「千代さん。自分で取った方が早いと思います」

 

「ん!このお肉、おいひいでしゅ」

 

「茉里亜、飲み込んでから喋ってね?行儀悪い」

 

人のお金で買ったお肉で騒いでいる人たちの輪から、杏がお皿を持って自分の席にいた沙耶のほうへやって来た。

 

「沙耶?食べないの?もしかして、まだ怒ってる?」

 

杏が心配そうに聞いてくる。沙耶はそんな彼女に申し訳ないと思いながら

 

「ううん。もう大丈夫だよ。それより、持って来てくれてありがとう」

 

「よかった〜まだ怒ってるんだと思った。

みんなと一緒に食べようよ」

 

杏は安心したのか、笑顔になっていた。

 

「私は此処が良いかな。杏は向こうに行ってて良いよ?」

 

「うん!分かった!」

 

杏は蓮太郎たちの輪に入っていく。

 

「杏!天誅ガールズについて話そうぞ!」

 

延珠の声に反応した夏世は首を傾げている。

 

「天誅ガールズは、どの様な話なのですか?」

 

「天誅ガールズはアニメです!」

 

元気よく答えた茉里亜にイニシエーターたちが顔を見合わせる。

 

「アニメだという事は分かっています」

 

「そうだ!今度、みんなで天誅ガールズの格好をしようではないか!」

 

「良いね!それ」

 

幼い子たちは天誅ガールズの話で盛り上がっている。

蓮太郎と木更と千代は時折、彼女たちの可愛らしい話を聞きながら、何か話している。

賑やかになったな、と沙耶は思った。

 

 

 

「どうしたの?何か考え事?」

 

振り返ると蒼太が立っていた。

沙耶の隣の席の椅子を引きながら聞いてきた。

 

「別に。なんか賑やかになったな、と思って」

 

「良いんじゃない?それもそれで」

 

うっすら口元に笑みを浮かばせながら言った。

 

「そうかなぁ」

 

「でもほら、むかついた時とか、苦しい時とか、不安な時とかはさ、笑顔になれるじゃん?」

 

確かに、さっきまではむかついて、笑える状態では無かったが、今は笑える。

 

「.......そうかも」

 

蒼太は満面の笑みで

 

「うん。素直でよろしい」

 

と言い、沙耶の頭を撫でた。

 

(そういうの弱いって知ってるじゃん)

 

「..........バカ」

 

「さ、食べよ。冷めちゃう」

 

「うん」

 

 

 

 

 

焼肉パーティーの後、沙耶は千代と一緒にホットプレートを置きに研究所へ行った。

外はすっかり暗くなっている。

じゃんけんの結果、負けた二人が片付けをする事になったのだ。

 

「先生」

 

「ん?どうしたの?」

 

「先生は10年前の事、憶えていますか?」

 

10年前。其れは二人にとって一生忘れることの出来ない、辛くて、でも大切な思い出だ。

 

その出来事が鮮明に蘇ってくる。

 

 

 

沙耶が家族を失ってから、父親の弟で、母親の実家、柊家に養子に入った宅造が引き取った。

 

『私は今まで沙耶に酷いことをした。研究者として、否、ヒトとして。

だから、私にその責任を負わして欲しい』

 

其処には宅造だけではなく、彼の愛娘の千代もいた。

まだ4歳だった。

 

『よろしくね。おねーちゃん』

 

第一次関東会戦によって、柊家の生存者は宅造と千代だけだった。

二人とも、地下にある研究所にいた為、被害に遭うこともなく、食料もそこそこあり、飢え死にする事も無かった。

 

 

 

沙耶が柊研究所で暮らし始めて数日後のことだった。

その日は良く晴れていた。

遊ぶには絶好のタイミングだった。

 

柊研究所は中心部に比較的近い位置の街にある。

街は壊滅的な状態だったが、ガストレアの姿を確認したのは2週間前程の事だったし、最近は数も減っていたので残った住人は安心して暮らしていた。

だからこそ、気を付けなくてはならなかった。

ガストレアに対しての対策がこの街には無かった。

 

『おねーちゃん。かくれんぼしよ!」

 

『うん。いいよ』

 

ガストレアに母親を殺された沙耶は兎も角、まだ幼い千代には、ガストレアの恐さなど分かっていなかった。

 

『じゃんけん、ポンッ』

 

沙耶はグー、千代はパーだった。

 

『おねーちゃんがおに!』

 

『いーち、にーい、さーん、しーい』

辺りは瓦礫か、家しかない。

非常に隠れやすかった。

 

ヒトも、ガストレアも。

 

『ろくじゅう!

もーいーかい?』

 

聞こえるように大きな声で言う。

しかし、返答が無かった。

 

『もーいーかい?』

 

10回言ったが、返答が返ってこない。

遠くには行かないと約束していた。

4歳ながら、約束は絶対守る子だった。

 

だから、余計心配になった。

 

わざと答えていないのかもしれない。

寝ているのかもしれない。

答え方を忘れたか、もしくは知らないのかもしれない。

遠くに行ったのかもしれない。

 

 

ガストレアに出会ったのかもしれない。

 

沙耶は走り出した。

 

『千代ちゃんッ』

 

走り続けた。

 

『千代ちゃんッ』

 

疲れた。

 

『千代ちゃんッ』

 

走らなきゃ。

 

『千代ちゃんッ』

 

瓦礫の裏も、家の裏も 、隠れれる場所は全て探した。

 

『千代ちゃんッ』

 

見つけた。

 

『ッ』

 

千代はいた。

でも……()()もいた。

 

『ガストレア......』

 

犬のようなガストレアだった。

そのガストレアは千代の片方の靴を咥えていた。

 

千代は、恐くて、動けないようだ。

腰を抜かしている。

 

ガストレアと千代の間は3メートル程。

ガストレアは千代の方へと、一歩ずつ、一歩ずつ進んでいる。

 

沙耶は無意識に走り出していた。

 

『危ないッ』

 

ガストレアが噛み付こうとするのと、沙耶が千代の前に立ったのは、同じタイミングだった。

 

『うッ』

 

『おねーちゃんッ』

 

何回も図突かれたり、噛まれたりされた。

 

初めは痛いと思っていた沙耶もどんどん感覚が無くなっていく。

視界がぼやける。

 

千代が泣いていた。

 

 

 

 

 

数日後、ガストレアに人間は敗北した。

豊富な知識も、ガストレアには通用しなかった。

 

 

 

 

 

目を覚ますと、真っ先に病院の天井が見えた。

 

(あれ......?)

 

左手脚と右眼がズキズキする。

 

(私、生きてるの?)

 

『やあ。室戸菫だよ。覚えているかい?』

 

沙耶は首を横に振った。

 

『覚えていないかい?そうか.....』

 

菫は急に黙り込んだ。

表情からして、何か考えているとだと思う。

 

『君は手術直前、一度だけ目を覚ました。

その時、私は君に聞いたんだ』

 

『君は助からない。ただ、生きる方法もある、とね』

 

『生きる....方法?』

 

『生きるのなら、君には命以外の全てを差し出して貰わなければならない』

 

『君は生きる方を選択した』

 

『君のご家族にも話したが、生きる方法、其れは、新人類創造計画だ』

 

『新人類創造計画?』

 

『ああ、そうだ。身体を起こせるかい?』

 

沙耶はコクリと小さく頷いた。

 

(何.....これ......)

 

自分の身体を見て目を見開いた。

沙耶の左手脚は黒色の義肢になっていた。

菫に鏡を貰い、自分の顔を見た。

右眼も黒い義眼になっていた。

 

『新人類創造計画の機械化兵士だ』

 

菫は部屋を出て行った。

 

『おねーちゃん』

 

か細い声がドアの向こうから聞こえる。

 

『千代ちゃん?入ってきていいよ』

 

涙で顔がくしゃくしゃになった千代が入ってきた。

 

『おねーちゃん。ごめんなさい。わたしのせい、わたしのせいで.....』

 

沙耶は痛い身体を無理矢理動かして千代の頭を撫でた。

 

『ううん。千代ちゃんのせいじゃないよ。私のせい』

 

俯いていた千代が顔を上げる。

 

『おねーちゃん......の.....?』

 

沙耶は可愛い妹ににっこり微笑みかけた。

 

『うん。私が弱いから。強かったら、ガストレアに勝てたんだよ。きっと。

だから私は、強くなる。誰にも、何にも負けない。強くなって、今度こそは、大切なものを守るんだ』

 

千代は泣くのをやめた。その代わりに、微笑み始めた。

 

『わたしもつよくなって、ガストレアにかつ。おねーちゃんといっしょに』

 

『二人で頑張ろう?ガストレアをこの世界から無くして、みんなが、安心して笑顔で暮らせるように』

 

『うん!』

 

 

 

 

 

其れから、沙耶は宅造の知り合いの天童家へ戦闘術を。

千代は宅造から神代式神槍術を学んだ。

 

 

 

「忘れてた」

 

「何を.....ですか?」

 

「私が民警を目指した理由」

 

「私もです」

 

千代は少し恥ずかしそうに言った。

 

「先生は、怒っていますか?恨んでいますか?」

 

「何を?」

 

沙耶は分かっていた。

誰のことかを。

でも、聞いた。

そうであって欲しくなかったからだ。

 

「私です」

 

やっぱりな、と沙耶は思った。

身体の傷は直ぐに消える。

しかし、何年経っても心の傷は消えたりしない。

 

「怒ってないし、恨んでもいない」

 

「え....」

 

「だって、他の人よりも強くなれるじゃない?夢に一歩、近くなる」

 

暗くてよく見えなかったが、千代は笑ったのだと思う。

 

「先生らしいです。その考え」

 

「そう?ありがと」

 

(あの頃の、自分に伝えたいな。私達には、沢山、仲間が出来るんだよって)

 

 

 

 

 

焼き肉パーティーの翌日。

その日は木更からの電話で目覚めた。

 

『起きてる?沙耶ちゃん』

 

電話の向こうの木更は少し焦っている。

 

「今起きたところ。其れより何?」

 

電話の着信音で起きてしまったのだろう。

杏が側へ寄ってきた。

 

『聖天子様が、里見君と沙耶ちゃんに話があるって』

 

「話?聖天子様が?」

 

杏は不安そうに沙耶のトレーナーの裾を掴んだ。

 

『ええ。だから、直ぐに行って欲しいの。出来れば、里見君と沙耶ちゃんだけで』

 

「分かった」

 

 

其れが再び始まる恐怖への始まりだとは、誰も思っていなかった。

勿論、聖天子様も。

 




こんにちは!こんばんは!クルミです。お久し振りでございます。
先ずは謝罪を。
この度、中々更新出来ず、誠に申し訳御座いません。最上級生、受験生となりました。忙しくて忙しくて筆が進みませんでした。この場合は手が進まない、ですかね?
謝罪はこの辺にして。
どうでしたか?二章に突入でございます。
でも今回は少しほのぼのとした、でもシリアスな話です。
沙耶が何故、機械化兵士になったのか、何故、民警を目指したのかが明らかになりました。
沙耶の過去についてはあと二つぐらい書かなければいけません。
宅造が何故出てこないのか、そして沙耶の父親は今何をしているのか、其れは楽しみにしていて下さい。
話の内容は大方決まっているんですけど、其れを形にするのが難しくて難しくて.....
自分なりに頑張っていきますので、御付き合い下さい。お願いします。
其れでは、後書きはこの辺で。後書きは、手が進むのになぁ。頑張ります。
感想、評価、どしどしお待ちしております。どんな些細なことでも、大きなことでも、教えて下さい。言われたことは其れなりにやっていこうと思っていますので。
では。また次話で会いましょう‼︎

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