ペルソナ 鏡の国のアリス   作:時価ネットこみなと

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4月初旬① ―ベルベットルーム―

 ここは……全面鏡張りの部屋……? ……夢か。

 この部屋には、俺の他に二人の住民がいた。

 一人は鼻が長く、瞳を大きく開いたスーツ姿の老人。もう一人は肩にかかる位の銀髪に、青いスーツに黒のストッキングを着用して、瞳は髪で隠れている女性だ。膝の上には辞書のような大きな本が乗っている。

 老人が口を開ける。

 

「ようこそ……我がベルベットルームへ……

 ほう、これはまた様々な覚悟を決めた方がいらしたようだ

 申し遅れましたな。 私の名はイゴール。お初にお目にかかります」

「私は、お客様の旅のお供を勤めさせて貰います、オリビアと申します」

「この部屋……夢と現実

 精神と物質の狭間にある場所……

 本来は何かの形で契約を果たされた者が訪れる部屋……

 貴方には、近くそうした未来が、待ち受けているのやもしれませんな……」

「では、再びお会いするその時まで」

 

 銀髪の女性がそう言うと、俺の意識が闇の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 たんぽぽ荘。ここでは学生を中心に格安で部屋を提供してくれるアパートだ。

 二階建ての合計六部屋。一階は個室二部屋と共同リビング、キッチン、浴槽、トイレ。二階は個室四部屋の割り当てがされている。

 俺は二階の一番奥にある部屋に割り当てられた。内装は六畳一間の和風な部屋だった。そしてドラえもんが住んでいそうな押入れが一つあった。

 部屋は埃が被って汚い。しょうがないので俺は箒(ほうき)と雑巾で部屋を綺麗にする。

 全ての掃除が終わる頃には、雑巾は黒くなっていた。

 掃除が終わり、部屋に俺が到着する前に届いた私物を持ち込んだ。一人で。

 他の住民は全員学校、更にたんぽぽ荘の大家は留守で手伝ってくれる人はいなかった。

 五つほどのダンボールと、大きな包みに入った布団一式を部屋に持っていった。

 だが何もないな、この部屋。

 持って来た小説や漫画を置く為の本棚が無い。ついでに洋服を入れるタンスも無い。だが机が備え付けてあった。椅子無しの。

 今日の所はダンボールに入れたまま押し入れに入れておこう。使いそうな物は机の上に置いて。

 一通り部屋が片付いた。作業が一段落したので、……何をしようか。

 時刻は午後四時。思えば俺、朝食べた飛行機の機内食以外、何も口にしていない。

 ここに来る途中、設楽中華って店があった。そこに行ってみるか。

 

 

 

「いらっしゃい、空いてる席へどうぞ」

 

 店に入ると、三角巾を頭に巻いた若い女性が接客してくれた。紅色に染まった瞳に、下ろしたら腰近くまでありそうなブラウン色の髪が特徴的な綺麗な人だった。

 注文表をパッと見て、そこにデカデカと書かれたシタラーメンとなるものを注文。

 出て来たのは醤油ベースのスープに、チャーシューと炒めたもやし、メンマが山盛りとなったラーメンだった。

パキッと割り箸を割り、メンマを一口。

 美味い! あっさりとした醤油味に肉厚なチャーシュー、メンマも味が濃くて少し太めの麺。今まで食べたラーメンの中で一番美味しい。

 箸が進む。

 気が付けば俺は替え玉を三つ頼んでいた。

 

 

 

 たんぽぽ荘へ戻ると、一人の四十代後半と思わしき白髪の男性がリビングのソファーで、女の人が裸である雑誌を顔に被せて熟睡していた。

 近づくと、男性は俺に気付いたのか雑誌の下から顔を出す。

 

「おはようさん、羽海野海音《ウミノカイト》くん」

「どうも、大家さん。これからよろしくお願いします」

「あー堅苦しい挨拶は抜きにしようや。これからお前は、このたんぽぽ荘の家族だ」

「はあ。わかりました」

「ここの住人はお前合わせて四人だけだがな!」

 

 がっはっは、と笑う大家さん。確か名前は――

 

「自己紹介が遅れたね。俺の名前は幕張恵亮《マクハリメグル》。皆にはメグさんって呼ばれている」

「はい。よろしくお願いします、メグさん」

 

 出されたメグさんの手を握り、握手をした。

 

「たっだいまー! あれ? この人誰、メグちゃん」

 

 振り向けば、一人の女性がいた。

 赤いネクタイに紺色のブレザーを着た少女がいた。黒い髪を後ろで一つに纏めたポニーテールに、目もパッチリして、かなり可愛い。見た目は中学生ほどの体格だが、このたんぽぽ荘にいるということは、高校生以上なのだろう。

 

「おかえり、岬ちゃん。昨日言っただろ? 今日から此処に住む、海音くんだよ」

「おぉ! 君が噂の海音くんか!! 私の名前は天野岬《アマノミサキ》だよ。これからよろしく!」

 

 元気百パーセントの笑顔で挨拶をする岬ちゃん。俺も「よろしく」と挨拶を返す。

 

「磐城商業高校一年情報システム科、ソフトボール部に所属しております!」

「はぁ。俺は羽海野海音。三年です。明日から磐城西高校に転入予定です」

「す、すげー! 西高って言えば、ここらではかなり有名な進学校ですよ!! 頭良いんスね!!」

 

 終始ハイテンションな岬ちゃんの質問に受け答える。

質問に答える度にすげー!!と叫びまくる岬ちゃんに、うるせーぞ、近所迷惑だとチョップして注意する。

 

「じゃ、じゃあ最後の質問です。なんで転校してきたんですか?」

 

 頭を擦りながら俺的に触れて欲しくなかった部分を質問する。

 まいったな。流石にこれを答える気には、俺は無い。適当に答えるか。

 

「家庭の事情だよ。そこら辺は触れないで」

「あ、す、すいません。ちょっと無神経でした」

「いや大丈夫だよ。俺、そういうの気にしない性質だから」

 

 するともう一人、今度は黒い男性用学ランを着込んだ人が帰って来た。しかし、どう見ても女顔だ。服装が男ということで、性別の判断が付かない。

 

「ただいま。……ああ、この人、昨日メグルさんが言ってた人ですね」

「初めまして。羽海野海音です」

「初めまして。僕の名前は西園寺暁《サイオンジアキラ》と申します。磐城工業高校二年電子科に所属。誤解の無いよう言って置きますが、僕は女です」

 

 やはり女か。俺の目に狂いはなかった。

 

「おや? どうやら羽海野さんは僕に興味があるようですね?」

「勿論。男装した女性は初めて見たし」

「正直ですね。僕はその時の気分で、制服を変えるんです。女の子になりたい時は女性用、男の子になりたい時は男性用。……因(ちな)みに、僕は両刀で、今は彼女がいます」

「そう……別にそこまでは聞きたくなかった……」

 

 これで、紹介されてない住民は残り一人か。最後はどんな人だろう。男だろうか。

そう思っていた矢先、メグさんから最後のメンバーについて説明される。

 

「もう一人の住民についてだが、そいつは苦学生の大学生でな。バイトを掛け持ちして、帰ってくるのは深夜遅くなんだ。そいつの紹介は、また明日な」

「そうですか。それは大変そうですね」

「本人は苦労してるって自覚は無いけどな。あーあと風呂についてだが、女子は八時から九時まで、男子は九時から十時までを原則としてっから。それ以降は湯船で異性と出会っても、問題にしないこと。あとはキッチンに関しては――」

 

 その後、詳しくたんぽぽ荘の規律を教えられ、俺は部屋へ戻った。

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