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35話『魔王』
衛士隊隊長の名の通り、ワルドは幾度とない命のやり取りで勝利を納めてきた歴戦の戦士だった。遍在のひとりが剣を下に構えながら、地を滑るようにルイズへと向かっていく。
誰ひとりとしてワルドの動きに反応ができない。グリフォンを用いての強襲と同じく、不意を突いた目にも留まらぬ早さの攻撃だった。
しまった、とウェールズは内心で舌打ちをする。
剣を抜く暇もない。瞬きの時間があれば、ワルドはルイズの首を狩るだろう。ウェールズはどうか間に合ってくれと甲板の床を強く蹴って、ルイズの前に体を滑り込ませた。
勢いのままに、ワルドが横薙ぎに剣を振るう。風のように早い一閃だった。
――止まれ。
声ではない声を聞いた。その場にいる全員が、直接脳内に響いてくるような音を脳で捉えていた。
ワルドの剣が、ウェールズの腹の手前でぴたりと動きを止める。
誰かが発声したものでないことは、はっきりと分かった。男の声でも、女の声でも、動物の鳴き声でもない。強いていうなら、自己が生み出した思考そのものだった。
ワルドは自分の手元を見下ろして、理解できないという表情をする。
このまま剣を振り切ってしまえば、邪魔なウェールズを退けて、ルイズの喉に切っ先を突きつけられる。だというのに、腕は石のようになって言うことを聞かない。
ルイズが周囲を見渡せば、誰もワルドの行動を止めようとはしていなかった。
それどころか、身一つ動かそうとしていない。ワルドに刃を向けられているウェールズですら、そこから逃れようとしていなかった。
闇色のもやだけが、その場にゆらゆらとたゆたっている。
煙のようにも見えるが、空気のような軽さを感じさせない。それには、重さも形もない。宙に浮いているはずなのに、沼のような深さを感じる。色すら失ったような、深い闇色。
「なんだというのだ……これは」
「シャイターン。『虚無の悪魔』、魔王」
修道服姿のアニーが、呻くワルドに向かって歩みを進める。
この場において、ルイズとアニー、アルレットは行動を制限されていなかった。虚無の血によるものか、あるいはシャイターンの意志によるものか。この場の人間にとっては、王党派側だけが自由を手にしているという事実だけで十分だった。
「悪魔……」
ワルドがアルレットを見やる。意識は取り戻しているものの、とてもあの奇妙な先住魔法を扱える状態ではない。だというのに。
「止まれ」。その声が響いたときから、ルイズとアニー、アルレットを除いた全員がシャイターンの支配下にあった。
「あれは、アルレットの中に居たもの。あの子は器で、わたしは餌」
「なにを言っている――」
「『生の力』を扱うことに長けた虚無の担い手が悪魔になれば、同じ『生の力』を宿した人や動物、悪魔すらも思いのまま。だから、賢者はあれを魔王と呼んでいました」
アニーはワルドを見ておらず、ルイズに対して語りかけていた。それに気付いたワルドは心外そうに表情を歪めて怒りを表そうとするものの、依然として体が動かず、ただ黙り込むしかなかった。
人が火を起こすにはある程度の労力が必要であるものの、火の精霊にかかれば、呼吸するかのごとき容易さで薪を燃やしてみせる。『生の力』を扱う素質を持つものが、歪んだ『生の力』そのものである悪魔と化したのなら。
元来有していた虚無の力は、生きとし生けるものすべてを支配する王の力へと進化する。
「魔王っていうのは、アルレットのことじゃなくて」
「あの子の中に居た『虚無の悪魔』のこと。あの子はメイジですらないし、目も耳も不自由でした。体だって、何日生きられるかわからないほど虚弱だったそうです」
「そう、だったんだ……」
アルレットは魔法を使っていたし、目も見えて音も聞こえていた。それは、悪魔の力を借りていたのだろう。
瞳のアメジスト色は……内に潜んだ悪魔の色だった。今のアルレットは、ラピスラズリで染め上げたような深い青色をしている。あれこそが、本来の瞳の色に違いない。
彼女がルイズやアニーの精力を求めるのにも、何かしらの理由があった。例えば、虚弱な体に悪魔を封じ込めておくことは、多大な精力を消費するのかもしれない。
「……それで?」
今、この状況でアルレットについて話すには理由があるのだろう。
「あれは今のところ不定形をしていますが、やがて本来の姿に戻るはずです。そうなれば、影響はハルケギニア全体に及ぶでしょう」
「あの悪魔を、アルレットの中へ戻さなきゃいけないってことね」
「……本当に、それで納得できますか?」
「それは、どういう意味?」
「今なら、魔王を葬ることもできます」
心臓が波打つのを感じる。はっとして、アルレットへ視線を向ける。
悪魔の力がなければ長くは生きられなかったかもしれない。しかし、悪魔の力さえなければ、アルレットは人並みに幸福な人生を送れたかもしれない。
ルイズが杖を捨てたように、アルレットも悪魔の力を捨てられれば、と思う。目や耳が不自由なのも、水の精霊が豊かなハルケギニアならきっと良い治療方法が見つかる。
……でも。
アルレットは、悪魔とすら心を通わせて、涙を流すことができる。アニーの提案を受け入れて、アルレットが喜ぶとは考えられなかった。
たとえ、悪魔がすでに命を落とした存在であっても、葬ることはできない。
「大丈夫。アルレットを、元に戻す」
「……わかりました」
アルレットの周囲にいる人間は、アルレットを受け入れてくれる。ルイズやシエスタはどんな事実を知っても裏切らない。キュルケやタバサ、イルククゥとは友だちになれた。敵対したギーシュや女王のアンリエッタとも気持ちを通じ合わせることが出来た。
学院での生活は間違いなく幸せだった。忌むべき力を持っていたとしても、幸せになれないなんてことはない。いつもルイズが見守って、手を取っていればいい。今まで通り、隣にいればいいだけの話。
「『虚無の悪魔』がアルレットから離れたのは、極度の生命力低下と、精力の不足が原因です。いま動けるのは、わたしたちだけですから」
「さっきまでと同じように、水の魔法をかけて、血を与えればいいのね」
「はい。ただ、それで事態が収拾しても、今度はレコン・キスタ軍が待っています。消耗したところを突かれてしまえば、結果は同じです」
「なら……」
「――魔王として、利用するまでです」
♪
日が昇ると同時に、レコン・キスタの陸兵は上層部から指示された配置に付いていた。陽気な歌などを口ずさみながら、これから戦場に身を投じるとは思えないほど緩みきった空気で上司の指示を待つ。中には、昨晩飲んだ酒が抜けきれず、居眠りを始める者まで現れる始末だった。
相手はわずか300。この戦も、敵の姿を見ずに終わる可能性のほうが遥かに高いものであることは、厳然たる事実だった。兵士たちの「まさか負傷することはないだろう」という心構えは、楽観的と責められるものではない。
しかし、その厳然たる事実を、前提ごとひっくり返す出来事が起こった。
それは閃光だった。
空戦が始まったと空を見上げていた手すき陸兵たちは、ひとつのアルビオン艦体からほとばしる光を前にして、言葉を失った。
その光はレコン・キスタ艦隊を覆い尽くし、光が晴れた頃にはすべての艦体が無力化されていた。前傾して、為す術もなく墜落へと向かっていく。あの閃光によって操縦者を失ったことは、軍に携わるものであれば誰もが理解した。
常識に収まるものではなかった。それを陸兵の誰かが、虚無の魔法と表現した。
すると、言葉を失っていたものたちが、まさしくそれだと騒ぎ立てはじめる。あの魔法が陸にも及べば、ただでは済まない。寝こけていた者は跳ね起き、楽観視していたものは顔を青ざめた。
楽観的な意識は、とたんに危機的な意識へと裏返った。そして、とどめを刺したのが、悪魔としか形容しようのない、闇色の巨人だった。
話が違う。誰もがそう思った。傭兵や亜人兵はその姿を認めると、真っ先に逃走を始めた。
わずか300の兵をなぶり殺すだけの戦争が、いつしか得体の知れないものへと変わっていた。
しかし、ある上官の意識は違った。
今朝の宣戦布告を告げる通達。そこには、目を疑うような内容が書かれていた。
上官は背筋の凍るような思いで、突如現れた巨人を見上げていた。半信半疑ですらない、ほとんど虚偽と見切っていた通達の内容が、現実に起き始めている。
『始祖と魔王はアルビオン王室の大義とともに有り。その奇跡を認めたのなら、降伏されたし。
一つ、閃光の魔法はレコン・キスタ艦隊を滅ぼす。乗員の命を取らぬことは、我々の大義である。
二つ、黒い巨人はレコン・キスタ艦隊を救い出す。乗員の命を取らぬことは、我々の大義である。
三つ、それでも刃を向けるのなら、魔王はアルビオンに夜を齎し、その後、人の世を常闇に沈めるだろう』
奇怪な通達があったことは、部下には一切知らされていない。
知っていたとして、何ができようか。戦場に残ったものは、レコン・キスタ艦体を鷲掴みにする巨人を、ただただ見上げて立ち尽くしていた。
やがてアルビオンの太陽が陰り始める。上官は通達の内容を思い返した。
『それでも刃を向けるのなら、魔王はアルビオンに夜を齎し、その後、人の世を常闇に沈めるだろう』。
つまりは、誰かが刃を向けたのだ。あの閃光や巨人を前にしてもなお、戦意を失わずに。
陰りはじめた周囲に、うっすらと黒い霧が生まれていく。
声が、聞こえた気がした。男の声でも、女の声でも、動物の鳴き声でもない。意識の内から生まれ出て、脳髄を支配していく。
――返して。
頭が混乱する。『返さなければ』という考えが、強く意識を叩く。しかし、返すものなど持ち合わせていないし、そもそも誰に返せばいいのかすら分からない。
何らかの力によって、逆らえない命令を下されている。しかし、その命令を遂げる手段を持ち合わせていない。
脳を左右に引っ張られるような頭痛に襲われて、地に膝を付きそうになる。しかし、ここで折れてしまうことは、命令に逆らうことに繋がってしまう。
返さなければ。返さなければ。返さなければ――
命令には逆らえない。視界の端に映る部下たちも、まったく同じく様子で苦しみ悶えている。
どれだけ思考しても、命令に従う術を見いだせない。意識を失うことも許されず、ただ狂人のように踊るしかなかった。
♪
盲目の暗がりが怖いのか、アルレットはルイズの体にしがみついて治療を受けていた。声をかけたくとも、アルレットには届かない。暗闇と無音の中、アルレットにとって確かなものは、いつも抱いていたルイズのぬくもりだけだった。
昏い色の霧が立ち込めている。
シャイターンの力はスクエアメイジや歴戦の将軍ですら、ただの一言で制圧する。『返して』……その声が戦場に響いてからというものの、イーグル号は阿鼻叫喚だった。
苦しみ続ける乗員に対して手を差し伸べることもできない。シエスタやマチルダも例外ではなかった。ルイズは胸が引き裂かれるような思いで彼らに背を向けて、アルレットの治療に専念する。
徐々にアルレットの顔に生気が戻ってくる。そろそろだろうと、ルイズはアニーの顔を見る。
「まだ……降伏する見込みは高くありません」
「でも」
「そう、ですね……」
現状では戦の趨勢は見通せないものの、この状況が長引けば相手は間違いなく降伏する。しかし、こちらも被害を受けていることに変わりはない。切り上げるタイミングが肝要だった。
「言うとおりに、この子を返せばいいのよね」
「はい。差し出せば元に収まろうとするはずです。それですべて、終わりです」
「……求めるところは、ただそれだけなのね。悪魔なんて呼ばれてるのに」
「結局は、人が姿を変えたものですから」
どこか諦めにも似たような表情を見せる。向こうの世界の人間であり、賢者の娘を名乗る彼女は、嫌というほど悪魔を見てきたのだろう。
ルイズはアルレットを抱き上げる。甲板の中央付近でたゆたい続ける闇色のもやへ視線を向ける。
周囲には、シャイターンの発する声によって苦しめられている乗員たちが見える。そして、シャイターン自身もまた、なにかに喘ぐように闇色をたたえて佇んでいる。
一歩、歩みをすすめる。
――返して。
聞こえる。邪気のない、ただ一心に願う声。
『虚無』の悪魔。同質の存在だからこそ、ルイズとアニーはその声に対して静かに耳を傾けることができる。
ルイズは抱きかかえていたアルレットを、闇色のもやの下にそっと寝かせ、アニーの傍まで下がった。ルイズの腕から離れたアルレットは、盲目の視界の中、泣きそうな顔でルイズの姿を探している。
もやの揺らめきが穏やかになった。そして、ゆっくりと吸い寄せられるように、アルレットのもとへと降りていく。
それがアルレットの体にまとわりつく様は、禍々しい呪いのようにも、子を守ろうとする母親のようにも見えた。
霧が溶けるように消えていく。アルレットを覆い尽くす闇色が、徐々に薄っすらと透け始める。
「アルレット」
「ルイズ……いるの?」
もやの中で、アルレットがルイズの方へ顔を向けたのが分かった。
「ちゃんとそばにいる。もうすぐ、治るから」
「……うん」
ルイズの声が聞こえているらしい。もう、シャイターンはアルレットの中へと戻り始めていた。
「ごめん、なさい」
アルレットはかすれた声で言う。
「どうして謝るの」
「わたしがいなかったら、ルイズに、こんな」
頭に血が上る。ルイズはほとんど反射的に、アルレットの元へと駆け寄っていた。
なにを言ってやれるかわからない。なにをしてやれるかもわからない。
闇色のもやをかき分けて、アルレットの体に手を伸ばす。
ただ、いつものようにアルレットの小さな体を抱き寄せる。
それ以外に思いつかなかった。
けれど行動に移してみれば、それが一番しっくりくるような気がした。心臓と心臓が一番近くにある距離。お互いの心臓が脈打ってることを、ふたりで証明する。
それだけでよかった。きっと、意味なんていらない。
気付けば、霧ももやも、どこにも見当たらなかった。はるか遠くに蒼天が広がっている。
体を離して、アルレットの顔を見る。青色だった瞳は、今はもう、アメジストの色を奥深くにたたえていた。
「ルイズ……」
アルレットは不安げな表情でルイズの顔を見る。何もかも見透かしてしまう、その瞳で。
彼女の中には、ルイズの気持ちを知ってなお、拭うことのできない陰が落ちている。ルイズの気持ちがアルレットの心まで届くのを、邪魔している。
なら、届くまで、何度だって同じことをする。
「アルレット……!」
もう一度、強く抱きしめた。アルレットが小さく声を漏らす。
「もう二度とこんな目に合わせないから。もしあなたがいなくなったら、どこまででも追いかける。ずっと……ずっと、離さない。嫌がったってあなたを幸せにする」
「ルイズ……」
「どれだけ迷惑かけたっていいから、そばに居てほしいよ」
「どうして、そんな」
……好きだからに決まってる。
「……ねえ、わたしのこと、好き?」
言葉にせずとも、アルレットにはルイズの気持ちが見通せる。けれど、アルレットの気持ちは言葉にしないと伝わらない。
それでも、分かりきった答え。ルイズは知っている。それを言葉にして伝えてほしいと、促す。
「ねえ、好き?」
「……大好き」
「うん。じゃあ、これからもずっと、そばにいて」
「うん……ルイズっ」
ルイズの肩口で漏れる、嗚咽。アルレットは堰を切ったように泣き出した。
前のめりになって、寄りかかってくる。体も……心も。溜まっていた何もかもを投げ出すように。
♪
気付けばイーグル号の甲板は騒がしくなっていた。乗員たちは身を乗り出し、覗き込むようにしてフネの下を眺めている。
ルイズたちがニューカッスルを訪れてから、一度も感じたことのないような雰囲気だった。今までの、薄氷の上で成り立っているような、まるで張り詰めた緊張と穏やかさが入り交じった、胸が苦しくなるあの空気とは違う。
乗員たちに、自然とこぼれ出たような笑顔が垣間見える。
ワルドとグリフォンの姿は消えていた。騒ぎに乗じて逃げたらしい。少なくとも、戦意は失ったようだった。
「白旗だ! 白旗が見えるぞ!」
乗員の誰かが叫んでいる。
レコン・キスタと王党派の戦いは、終わった。じきにレコン・キスタは解体され、アルビオンには平和が訪れる。
弛緩した空気の中で、ルイズはアルレットに笑いかける。
「良かったわね。全部、解決」
「ルイズ、ワルドのことは……」
最後の最後まで、裏切られた。そして明確な殺意を向けられた。一歩間違えばルイズもアルレットも、彼に命を奪われていた。
胸が痛まないといえば嘘になる。けれど。
「平気。わたしは、最初っからあなたを選んでいたから。でも……出来るなら、会って話がしたい」
「優しいね、ルイズは。だから好き」
「あなたも同じこと言うでしょう? きっと、似ただけ」
「そうね。わたしも、ルイズのことを支えてくれたひとなら……助けてあげたいって思う」
昔、ルイズがワルドから受け取ったぬくもりは本物だった。何度も心を助けられて、だからこそ今のルイズがある。
ワルドも、人に与えられるような暖かなぬくもりを持っていたはずだった。
……人は、心を歪めてしまう。
アルレットの居た世界では、その歪みが悪魔という現象を引き起こした。けれど、ハルケギニアでは、どれほど嘆こうとも人知れず消えていくだけ。
彼らにとって、どちらが救われるかは分からない。けれど、どうしようもない嘆きを抱えたまま、人知れず命の灯火を燃やし尽くしてしまうことは、寂しいことに違いなかった。
「ワルドは……母親を亡くしてからだと思う」
「母親……」
「なんのために生きるのか、分からなくなった。きっと、そういう人」
その瞳がある限り、アルレットは人の悲しみを覗き続ける。
見て見ぬふりができるほど強くないから、今回のように、危険に身を投じてまで助けてしまう。
マチルダの件もそうだった。一度は盗賊に身をやつし、ルイズらの命を奪おうとした彼女を、アルレットは救った。
「わたしね、たくさん勉強して、ヴァリエール家を継ぐから」
「ルイズが、公爵?」
「うん。アルレットにはそれを手伝ってほしい。まずは自分のところの、ヴァリエール領から……悲しみのない場所にしていく。いつかは、姫さまの隣に立って、トリステインを、それからハルケギニアを」
もう、アルレットを危ない目には合わせない。そう約束した。
見て見ぬふりが出来ないなら。力を持つ責任がつきまとうなら。
原因から取り除くことに力を注げばいい。例えば、アルレットが元の世界でしてきたことのように。
レコン・キスタとアルビオンには、虚無と魔王の力が知れ渡っている。追い詰められていた王党派が勝利したのは奇跡以外の何物でもなく、ふたつの力は他国に対しても一定以上の信憑性を発揮するだろう。
ふたつの奇跡を抑止力として他国と平和な外交を築くことを、アンリエッタとウェールズは承諾してくれている。抑止力が「脅し」と取られてしまうかどうかは、女王のアンリエッタと次期国王のウェールズに掛かっている。しばらくは、ふたりを信頼するしかない。
王党派・レコン・キスタ双方に人死を出さずに戦争を納めたことは、ふたつの奇跡が与した『大義』が民衆の味方であることを示した。
やりようはいくらでもある。少なくとも、戦争が起こってから直接止めにかかるよりもずっと簡単で、傷つかない。
「ルイズなら、きっとなれる。わたしも頑張って勉強する」
「そう? 抜かされないようにしなくちゃ」
「わたしがルイズを守ってもいいのよ?」
「だーめ」
「……どうして?」
アルレットは頬を染めながら、ルイズに尋ねる。答えは聞かずとも、その瞳に映っているはずだった。
「好きだから」
唇が、そっと触れ合った。