では本編どうぞ!
「はあ……」
睦月型姉妹の部屋にてため息をつく小さな影があった。
姉妹の中でも幼い部類に入る声や体躯とは裏腹に睦月型の長女である睦月だ。
「どうしたの?睦月ちゃん」
ため息をついている睦月に声をかける少女がいた。
睦月よりも圧倒的に大人びた雰囲気。艶めいた声。二人を並べたら十人中十人が睦月ではなくこちらの少女を姉と勘違いするだろう。如月だ。
「あっ、睦月ちゃん」
机に突っ伏していた睦月は如月がいるとわかるやガバッと起き上がり、目をキラキラと輝かせ早く座ってと如月を急かした。
「はいはい、どうしたの?」
と如月が聞きながら睦月の対面側に腰を下ろすなり、睦月は目を潤ませ机から身を乗り出し如月に顔を近づけ
「最近……、妹たちから姉としてみられてない気がするの!」
「……え?」
睦月ちゃん曰く最近妹たちが自分に対して遠慮がなくなっているように感じるみたい。
というより姉であると感じることが少なくなっているといったほうがいいわね。
「どうしよう……、如月ちゃん……」
「うーん……」
(姉っぽくないというより、自分が姉っぽいことをしている自覚がないだけなのよねぇ……)
私は思わず頭を抱えた。すると睦月ちゃんは私がどうしようもないと思ってると考えたのか瞳をうるうるとさせた。
「やっぱり……、どうにもならない……?」
(ぐはっ、可愛い! じゃなくてなんとか不安を解いてあげないと)
とはいうものの方法が全く思い浮かばない。無自覚でしていることを自覚させることはとても難しいことだもの……。妹たちに感謝されれば少しは姉っぽいと思うのかしら……。
(ハッ、そうだわ!)
「睦月ちゃん、一緒に散歩に行かない?」
「お散歩?」
「鎮守府にいる困っている妹を助けたら姉っぽく思われるんじゃないかしら?」
「なるほど!」
さっきまで涙目になっていた睦月ちゃんはパァァと笑顔になり大きくうんと頷いた。
「というわけでとりあえず食堂に来てみたけど……」
「さすがに人が少ないわねぇ……」
現在時刻はおよそ午後2時。お昼時を過ぎてもう人が少ない。10人近く妹がいるのだから1人くらいは食堂にいてもいいものだと思ったけど。全くいない可能性も……。
「う~ん、我が妹は見受けられな……おりょ?」
睦月ちゃんがそれまで巡らせていた視線を一点に集中させる。
「どうしたの? ……ってあら? あれは……」
私たちの視線の先に誰もいない場所で壁に向かってポーズを決める艦娘がいた。弥生と同じ服を着ていて、特徴的なクセのあるピンク髪。卯月ちゃんだ。
「が、がんばるぴょん! びしっ! ……はあ」
どうやら悩んでいるみたい。 彼女だったらもしかしたら相談に乗ってあげられるかもしれない。私が卯月ちゃんをみると目をらんらんと輝かせていた。「おおぉぉぉぉ」とか言っている。そしてスタタタタタと走って卯月ちゃんに抱きつく。
「うーちゃんっ! どうしたのっ?」
「ふぇ!? あっ……、睦月お姉ちゃん……」
見るからにしょんぼりしているというかなんともいえない表情をしている。思わず睦月ちゃんは「うっ……」と引き下がりそうになったけど、その足をどうにかその場所に固定することに成功した。
「とりあえず、話をするなら席に座らない?」
「なるほどねぇ……」
「つまりこういうこと?」
卯月ちゃんは鎮守府の近くの山にて目を覚まし、それを私たちの艦隊が保護し鎮守府に着任した。そしてその後すぐに執務室に向かい、司令官に挨拶すると提督が
『他の鎮守府の卯月は元気らしいけど、君は違うんだね』
と言ったみたい。
「だから……、うーちゃんが元気になった方が、提督も喜ぶかなって……」
確かに他のところの卯月ちゃんはいたずら好きだったり、はしゃぐのが大好きだという話をよく聞くが、うちの卯月ちゃんは弥生ちゃんをもう少しビクビクさせたような性格をしている。ただ今の言葉を聞く限り
((提督LOVEなのね……))
心の中で私たちは完璧に一致した。ただ同時に引っ掛かりも覚えた。あくまで想像だから実際は違うかもしれないが多分……
「う~ん、多分提督は今のうーちゃんが不満なんじゃないんじゃないかなあ?」
「え……?」
睦月ちゃんが私の思っていたことと全く同じことを言う。司令官は艦娘に対してほとんど嫌な顔をしない。恐らくただ単に今まで演習で当たってきた卯月ちゃんとの違いに驚き、つい口から出てしまったのだろう。そこに『性格が嫌』だの『他にたいな卯月がいい』といった感情は一切ない。純粋な驚き。司令官のことだからきっとそうだろう。
「提督は性格で好き嫌いを決めているわけじゃないし」
「で、でも……」
「大丈夫だよ。だってうーちゃん可愛いし!」
「……!?」
卯月ちゃんの頭からボッと音がして煙が出たような錯覚をした。そのくらい顔……というよりも首くらいまでが真っ赤だ。めったに可愛いと言われないからかしら。
「ためしに提督に聞いてみよっ!」
「えっ……、いや……」
「はやく、はやくぅ~♪」
「ちょっ……、如月お姉ちゃん……、助けて……」
「私も一緒に行くわ♪」
「うぇ~ん」
睦月ちゃんが強引に卯月ちゃんを引っ張っていく。まあこれも卯月ちゃんのためだ。仕方ない。ちょっと強引すぎるかも……。もはや引っ張っているというより引きずっているし……。まあ2人とも可愛いからいいかしら。ちなみに他の娘たちが一瞬なにがあったのかみたいな視線を向けてくるけど、すぐに微笑ましいものを見る視線に変わる。
(ぜ、全然……そんなのじゃないぴょん……)
「たのもー!」
執務室に卯月が元気に入ってきた。扉さんが軽く逝きかけそうな勢いで開かれたが、まあ気にしないことにする。
「睦月。元気なのはいいことだけど、もう少し扉は丁寧に開こうな?」
「はぁ~い」
うん。素直だから許そう。ノックとかを一切してこなかったことは、みんなやっていることなのでもう慣れている。ところで先ほどから睦月の後ろに如月と、ちらちらとこちらをのぞいてきているのは……。卯月……かな? がいる。はて。睦月型姉妹の長女と次女と四女がそろいもそろって、俺に一体なんの用だろう? 特別今日は執務が少ないから相談だったら思う存分聞くことができる。
「どうした、睦月? 俺に何か用か?」
「今日は! うーちゃんが提督に! 用事があるそうです!」
「む……睦月お姉ちゃん……!」
卯月が俺に用事……? 他の鎮守府の卯月ならいたずらの可能性もあるが、うちの卯月では考えられない……。いや、今までのが全て演技だった可能性も……。いやいや、それこそありえない。そんないたずらをしているのなら弥生か誰かがツッコミを入れているはずだ。全く思い当たる節がない。仕方ないから卯月が話すのを待とう。
「ジー……」
「…………」
「ジー……」
「…………」
ボッと音がして卯月の頭から煙が立ち昇った(ように見えた)。何故だろう。話し出すまで見つめていただけなのに。しかも視界の端の方で睦月と如月が話しているのが写る。
(なにしてんの、あれ?)
(恋人なのかしら。微笑ましいわ~♪)
(ちょっ……如月ちゃん!)
気のせいか睦月の頭からも煙が出ているように見える。話がしたいといっていた卯月も俯いて黙りこくってしまっている。もう意味がわからない。誰か助けてくれ。
「あの……、提督……」
……救いが来た。卯月がどことなく微妙な空気をぬぐってくれた。口を開いてくれた。思わず俺は内心ガッツポーズをした。よくやったぞ卯月。
「なんだ、卯月?」
「あの……その……」
「うんうん」
やっと用事を言ってくれそうだ。一体どんな用事だろう。遊びに行きたいとか、買い物に行きたいみたいな感じだろうか。
「その……、うーちゃんが元気な方が司令官は……喜ぶの?」
「……へ?」
なんかわけのわからないことを言っている。俺は今の卯月が嫌だとでも言ったのだろうか。いや、言った覚えは全くない。ちなみに卯月が着任してからおよそ一週間経つが、交流はまあまあある。遠征や演習へ出向かせたりする際に作戦概要説明や、見送りで2,3言葉を交わして……。
あれ? もしかして卯月に話しかけたとき俺、避けられてた?
(な、なんか……、司令官の顔が青いぴょん……)
どうしよう。やばい。なんか一気に気分がブルーになっていく。気が重いなんてレベルじゃない。なんか俺が変なことを言ってそれ以降嫌われているのかも。と、とりあえず表面だけでいいから平静を装う。
(あ……、戻ったぴょん……)
さっきから卯月がこちらを観察するように見ているが、さっきの質問をなぜしてきたのかを聞くまで何とも言えない。
「なあ卯月。なんでそう思ったんだ?」
「だっ、だって……。最初に会ったとき『他の鎮守府の卯月は元気らしいけど、君は違うんだね』って……」
確かにそれは言った。が、それは他の鎮守府の卯月との違いによる意外性から発した言葉で……。
もしかして誤解された……? 意外性から発せられた言葉じゃなくて、いまの卯月の性格が嫌だから発せられた言葉だと思ってしまったのか。……確かに聞きようによってはそう聞こえることもできるかもしれないが……。
(い、今のため息って……、もしかしてあきれられたぴょん……!?)
「卯月……」
「は、はい……」
(な、なにを言われるんだぴょん……)
卯月が何やらびくびくしながら答えているが、これだけは言わなくてはならない。
「ごめん……」
「……ふぇ?」
なんか素っ頓狂な声を上げているが続ける。
「誤解を招くようなこといって、慣れてない鎮守府だっただろうに、余計な不安を抱かせちゃって……ごめん」
艦娘は深海棲艦と戦えるとはいえその実態はただの少女だ。本来戦闘そのものがストレスになるはずなのだから鎮守府内ではなるべくストレスを抱かせないようにしなくてはいけないのにその原因となってしまうことを俺はやってしまったのだ。だから謝らなくては。
「じゃあ……。うーちゃんが今の性格のままでも……、司令官は喜ぶ……?」
思わずそんなことを聞いてしまうくらい不安にさせてしまっていたのか……。
「これは卯月だけじゃなくて全員に言えることだけれど……」
ひそひそと話をしていた睦月と如月もこれから俺が話そうとしていることに耳を傾けるようだ。正直そこまですごいことを言うわけでもないしそこまで長い言葉を言うわけでもないのだが……。
「俺は、みんながありのままの姿で過ごしているのを見るのが大好きだから」
「「「…………」」」
……あれ? なんでみんな黙ってしまったのだろう。そんなに変なことを言ったか? 思わず全員を見回すと睦月は唖然としているし、如月はなにやらにまにましているし、卯月はまたも俯いてしまっている。
(あらあら、大好きとはねぇ///)
(し、司令官が大好きって言ったぴょん……)
またわけのわからないことになっているがもう気にしないことにしよう。気にしてたらもう精神的にもたない。さて、どうしたもんか……。
「じゃ、じゃあ……これ以上執務の邪魔するのも……なんだし……。もう……、戻るぴょん……」
「あ……、うん。またな」
……わけがわからないまま帰ってしまった。最後の微妙な空気は一体何だったのだろう。っと、そんなことよりも執務に戻らなくては。もし今吹雪が帰ってきたら下手するとお小言を言われる可能性もなきにしもあらずだし。
「ただいま戻りまし……た?」
帰ってきちゃったよ。吹雪が書類に目を向けている。自分が執務室を出てから全く量に変化がないことに気づいてしまったのだろう。こちらに向き直り、ぷんぷんと怒りながらやってくる。
「司令官! 執務サボってましたね!」
「い、いやあ、これには深あ~いわけがだね……」
「ごまかさないでください!」
「よ、よかった……ぴょん」
卯月ちゃんが安堵のため息をつく。心なしか顔が赤い気がするのは先ほどの司令官の言葉が原因だろう。無事に卯月ちゃんのお悩み相談を成功させたわけだし睦月ちゃんにも達成感があるだろう。
「あ、ありがとう……睦月お姉ちゃん……」
「どういたしまして!」
睦月ちゃんの声が多少いつもより元気なのは卯月ちゃんから感謝されたことによる嬉しさからかしら。今まであまり人と話さなかった卯月ちゃんからだものねえ。ついでに睦月ちゃんが妹から姉っぽく思われていることもわかったかしら。
「ところでうーちゃん。睦月そこまですごいことしてないのになんでお礼したの?」
「「え?」」
今日改めてわかったことがあるわ。
睦月ちゃんは天然たらしなのね……。
なんか長くなっちゃいました。
今回は三人称視点、如月視点、提督視点を行ったり来たりしてみました。
睦月型は微笑ましいですよね。
では、今回もありがとうございました!