女好きボーダー隊員   作:ベリアル

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第12話

「ぷっ。ぷふふ。うふふふふふ」

 

「うるせえよ!」

 

「あっははははは。あはははははははは!」

 

「そこまで!?」

 

腹を抱えて笑う加古に、苛立ちを隠すことはなかった。

 

「せっかく希望した部隊に、拒否されるなんて、ぷふ、残念だったわね」

 

「人の不幸は蜜の味ってか」

 

昨日の混成チーム戦直後、受付で影浦隊、那須隊へ希望を出すもの、翌日の今日にはお断りの返事が伝えられる。

 

「那須隊はともかく、影さんにまで拒否られるとか。ショックなんだけど。嫌われてんのか?」

 

「影浦くんの場合は、肩を並べるよりも、敵として戦った方が面白そうだと考えてそうだから、あんまり気にすることはないわよ」

 

「あーくそ。荒船隊から勧誘の連絡がヤバいんだよな。半崎はダルいダルい言ってダルいし」

 

「昨日の戦いぶりを見せられたらね」

 

「加古隊に入るしかありませんね」

 

「ねえよ」

 

九条は来馬隊も希望しようとしたが、思うところがあったので出さずにいた。

 

九条宅の居間でソファーに座っているのは、加古と九条。黒江は九条の隣に座って蜜柑を食べている。当初は、九条の足の上に座ろうとしたところを、邪魔だの一言で転がされた。

 

それでも、隣に座ることを許されたあたり、九条なり黒江へ心を開いている証拠なのだろう。木虎が見たら発狂する。

 

九条は自覚していないが、黒江への好感度はかなり高い。言っても、本人は絶対に認めない。

 

加古と黒江は特に用事があるわけではない。ボーダー本部から近い九条宅に訪れることがあるだけだ。寝泊まりすることもある。

 

だからなのか、加古隊が九条宅に訪れる際は、「お邪魔します」から「ただいま」になっていた。九条も違和感がなかったので、別にいいかで終わらせた。

 

3人は本を読んでいた。九条の家にはたくさんの本が並んでいる。彼女達はその影響なのか、自然と手に取るようになっていく。

 

加古はミュージック好きが死神の本を読んでいた。短編の連続なので、合間合間に読めるところが、加古は気に入っていた。今は殺人事件の館の章を読んでいた。

 

黒江は本というよりかは、図鑑を見ていた。黒江は本を読むよりも体を動かす方が好きなタイプであるが、九条から「本なんて敷居の高いもんじゃねえんだから、図鑑眺めてるだけでもいいんだよ」と言われ、中身を開けば綺麗に写った背景を眺めていた。

 

そのあとは、注釈を読んでいた。言葉も難しくないので、図鑑に没頭していた。因みに中身は世界遺産に関する図鑑だった。

 

九条は今日買ってきたばかりの、日本語訳されたドイツの本を読んでいた。映画化されるほどの作品で、世界的に有名な独裁者が現代にやってきた話だ。

 

本屋で立ち読みした時点で、気に入ったのでそのまま購入に至る。上下巻あったが下巻も買って、上巻は今日中に読み終える予定だ。

 

3人の時間は、このように過ぎ去っていくこともある。

 

翌日、目が覚めると、玄関に加古と黒江の靴がなくなっているので、出ていったことがわかる。

 

テーブルには、ラップに包まれた焼き魚と卵焼きがある。鍋にはまだ、温かい味噌汁が。

 

加古が作ったのだろう。朝食を済ませると、私服に着替えて、ボーダー本部へ歩き出す。

 

目的はランク戦ではなく、後輩たちからの頼みごとだった。

 

食堂には、既にメンバーが揃っている。食事時ではないので、食堂はガランとしている。

 

「揃ってんな」

 

「九条先輩、よろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「お願いしますもつけろやクソガキ」

 

「一個しか違わないじゃないですか」

 

食事の4人席に座っているのは、風間隊の歌川と菊地原だ。

 

「んじゃ、パパっとやっちまうぞ。はいこれ」

 

歌川と菊地原はシャーペンで書き込まれた2枚のA2プリントを九条に渡して、九条は2人に新たなA3プリントを1枚手渡す。

 

「採点してる間に、やっとけ」

 

九条は赤ペンを出して、2人から受け取ったプリントに丸とチェックをつけていく。歌川と菊地原は、返事をすることなく渡されたプリントに英語を書き込んでいく。

 

九条は時々こうして、歌川達に限らず、勉強を教えている。この男、普段のアホ言動に似合わず、普通校組の癖して進学校組よりも勉強が出来る。得意科目は英語。

 

切っ掛けは、風間に頼まれて歌川と菊地原の勉強を教えていたのだが、どこから聞き付けたのか他の隊員もやって来ることになった。

 

「年下嫌いの癖に、面倒見いいから好かれるんですよ」と歌川に言われたが、「そんなことはない。面倒見良くない」と否定していた。

 

A級1位の隊長にレポートを手伝うように頼まれたときは、本気で頭を痛めた。手伝ったが。

 

「うい。歌川、菊地原。よく勉強したな」

 

「比較的易しい問題でしたから」

 

「もっと難しい問題でいいですよ」

 

「予習、復習ちゃんとやってりゃあそんなもんさ。あ、これ、次の宿題。あと間違ってるところ、解説入れといたから」

 

歌川と菊地原に宿題と採点した宿題を渡す。早速、採点された問題を見る二人は、各々反応は違うものの、いい反応ではなかった。

 

共通してる感情は悔しさ。九条がその様に問題を製作したので、当たり前なのだ。程よい悔しさと程よい喜びを与える。

 

どちらかが片寄っても駄目だ。

 

「まだ勉強するなら、ここにいるぞ。分かんないことあったら聞け。昼飯も奢ってやる」

 

「ありがとうございます」

 

「ゴチになります」

 

「ご馳走になりますだろがクソガキ」

 

「一個しか違わないじゃないですか」

 

「飽きませんね二人共」

 

その後、二人の勉強は英語だけでなく、数学と国語まで教えることなった。

 

九条自身、大学に行くかは決めあぐねているので、勉強はそこそこしている。意外と、ほんっとうに意外と将来を見据えて勉強している。

 

午後になりボーダー本部を出ると、家ではなく玉狛支部へ向かっていく。

 

S級隊員迅 悠一に呼び出されているからだ。

 

「用事っていう用事じゃないんだろうけどよ」

 

時おり迅に呼び出されて、玉狛に招待されることがある。招待といっても、お留守番や買い出しをさせられるだけだ。

 

玉狛支部は川の上に立てられている。その川沿いを歩いていると、見知った背中に気付く。

 

「京介じゃん。うぃーす」

 

「九条先輩。玉狛来るんですか?」

 

「ああ、迅さんに呼び出されてな。さっきまで、歌川と菊地原に勉強教えてた」

 

「そうなんですか?俺も行けばよかったな」

 

「分かんないとこあったら、教えてやるよ」

 

玉狛支部所属の烏丸 京介。もさもさしたイケメンだ。イケメンだけど、九条とは仲がいい。九条と違ってモテる。まさに月とスッポンだ。

 

「京介が玉狛行くってことはお留守番じゃねえか。他の雑用か」

 

烏丸が玉狛に行く途中であることから、別の用件であると結論づける。

 

「この間はありがとうございました。家族も喜んでました」

 

「あ?ああ、あれね。うん、気にしなくていいよ」

 

二人が話しているのは、以前三門市内の商店街での福引きが関わっている。

 

なんてことはない。ただ、福引きで3等の家族用もつ鍋セットが当たり、居合わせた後輩の烏丸に譲ったのだ。

 

最初は遠慮していた烏丸も、九条の出した家族というキーワードの連発により、ありがたく受け取ってしまう。親切心というよりは、前日にもつ鍋を食べたので別にいいかと考えていた九条だった。

 

しかし、全くの他人ならば九条もこんなことはしない。

 

家族を失った九条は、家族を大切にする烏丸に好感を持っているのだ。

 

「お邪魔しまーす」

 

玉狛支部に到着すると、眼鏡をかけた少女が出迎えた。

 

「いらっしゃーい、九条くん」

 

玉狛支部オペレーター宇佐美 栞。元風間隊オペレーターから異動した経緯を持っている。誰にも優しく、眼鏡をかけている人間にはより優しい。

 

尚、三輪隊スナイパー古寺は宇佐美に好意を抱いている。

 

「君を連れ出してしまいたい。付き合ってください」

 

「諦めないねえ。眼鏡派になったら、考えるよ」

 

「じゃあ今度眼鏡かけてくるから、付き合ってくれる?」

 

「わたしのお眼鏡にかなうかな」

 

「っしゃい!」

 

「考えるだけですよ、きっと」

 

モチベーションが上がった所で、烏丸の不意打ちが突き刺さり露骨に肩を落とす。

 

「そもそも、わたしもう好きな人いるし」

 

「「え?」」

 

これには九条はおろか、常にポーカーフェイスを保っている烏丸も口を開けて、驚いていた。同じ部隊に所属しながら、宇佐美からはそんな浮わついた話を聞いたことがなかったからだ。

 

「マジすか?」

 

口を開いたのは、烏丸だった。九条は放心している。

 

「マジだよ」

 

「初耳なんすけど」

 

「初めて言ったもん。好きになったのも昨日一目惚れしたからね」

 

「「一目惚れ!?」」

 

九条と烏丸は再び声を重ねる。

 

「Whom!?When!?Where!?What!?Why!?How!?」

 

「だれに。いつ。どこで。なにを。なぜ。どのように。」

 

九条は何故か早口で英単語を並べ、烏丸はなんとか平静さを保ち、九条の言葉を訳した。九条は混乱している。

 

「聞かれても分からないんだよね~」

 

「っていうと?」

 

「本屋で見かけてさ、立ち読みしてるところに心を奪われちゃったんだよね」

 

宇佐美は顔を赤くしている。我ながらちょろいね、と頬に手を当てていた。

 

宇佐美は容姿もさることながら、人当たりもいいので十分モテる部類に入る。九条は宇佐美のそういった部分が好きだった。

 

「で、その人は?声かけなかったんですか?」

 

「見とれちゃってて、声をかけるタイミング逃しちゃったんだよ。読んでた本ともう一冊買って行っちゃった。あ~勿体ないことしちゃった~」

 

肩を落として嘆く姿は、九条に似ていた。まさに今、失恋に嘆いている九条の様にだ。

 

「当たり前のこと聞くようで、悪いんだけどさ」

 

涙を流している九条は、震える足で立ちつつ、宇佐美に問いかける。

 

「眼鏡、かけてた?」

 

宇佐美は親指を立てた。

 

「もち!」

 

「「ですよね」」

 

九条と烏丸の言葉が重なったのは、これで3度目になる。

 

後日、三輪隊の古寺に教えてやると、古寺も同様に涙を流していた。

 

風間隊は少しだけ殺伐とした空気を漂わせていた。

 

「で、あれ?俺がお呼ばれした理由は?迅さんは?」

 

「迅さんはいないけど、用件は預かってるよ。晩御飯当番頼んだ、だって」

 

「えっ!?玉狛の人間じゃないのに!?」

 

「九条先輩、よく迅さんに用事頼まれますよね」

 

九条は過去に迅に命を救われた。ボーダーに入ると、恩を返したいとのことで、迅から出された雑用をよくこなしている。

 

迅が個人をここまで使うのは珍しく、烏丸を含め、迅をよく知る人物は首をかしげていた。だからこそ、なにか考えがあるのだろうと、いい意味でも悪い意味でも、触れないでいた。

 

「昔助けられたからな、安いもんだろ。っし、冷蔵庫覗かせてもらうぜ。つうか、晩飯の用意なら、メッセージ送ってくれりゃあいいのに。海鮮トマトパスタにするかな」

 

「九条くんなら、そういうだろうと思って迅さんが材料用意しといてくれてよ」

 

「はは、未来視のサイドエフェクトは侮れないね」

 

「飯まで時間ありますから、勝負しません?」

 

「オッケイ。なんなら、トリガーチップ指定してくれてもいいぜ」

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

「トリガーの編成なら、わたしも手伝わなきゃだね」

 

九条はこのように、ポイントがかからない勝負なら相手に選ばせることがある。九条が状況に適応するためでもあるし、相手の苦手分野克服や練習台として協力を頼まれることもある。

 

トリガーの編成を終えた2人は、玉狛支部の訓練ルームに入って、退治していた。建物も何もない空間は、単純な腕比べを目的としている。

 

「後悔するがいい。お前が編成したトリガーは俺に適したトリガーであると。そして、俺の失恋パワーをお前にぶつけさせてもらう」

 

「八つ当たりっすね」

 

「その通り!」

 

両手にハンドガン、両手にスコーピオン。香取隊の香取と同じスタイルだ。手首の甲からはスコーピオンが出されているのは、手に持つハンドガンの邪魔にならないためだ。

 

どうでもいいことだが、このスタイルでアタッカーNo.4と十本勝負2セットして、2セット白星を上げたのは、アタッカー界隈で話題になった。

 

烏丸に勝てるかどうかは別の話だが。

 

「ガイストON」

 

「へ?」

 

「全力で行きます」

 

「ズルいやつじゃんそれ」

 

玉狛支部のトリガーは、本部のトリガーとは大いに異なる。それはボーダーのように継戦を重要視したものではなく、短期戦に重きを置いたトリガー構成である。

 

その技術はボーダーでなく、ネイバーの技術が使われていること他ならない。

 

短期戦と言うだけあって、短い時間が限界だが、試合形式ならば俄然烏丸が有利だ。

 

結果、十本勝負は烏丸が全勝する。

 

「お前さ、ほんとお前さ」

 

「すいません。時たま使っとかないとなんで」

 

「そうなんだろうけどさ、何もできずに斬られただけじゃん」

 

「っすね。レイジさんの全武装(フルアームズ)に勝った九条先輩ならイケるかなって」

 

「相性差考えろよ!?」

 

烏丸は一つ息を吐いて、床に尻餅をついている九条を見下ろす。

 

「ガイストなしでやればいいんですね。ガイストなしで」

 

「なんでやれやれみたいな顔してんの?なんで俺が悪いみたいになっちゃってんの?」

 

九条と烏丸のバトルは夕方まで続き、最後は烏丸がガイストで締めくくった。九条は半泣きだった。

 

 




九条 辰馬
 
現在

パラメーター
トリオン 14
攻撃 9
防御・援護 4
機動 7
技術 11
射程 12
指揮 2
特殊戦術 8

TOTAL 67

ただし、部隊やトリガーチップをコロコロ変えるので、頼りにならない数字。


九条辰馬

女好き。初対面の女性には、告白して振られる。子供も嫌いで非モテに拍車がかかる。言うまでもなく、交際経験ゼロ。子供などには好かれやすい。本人には不本意この上ない。眼鏡とコンタクトを気分で使い分ける中立派。格闘技、読書家、ダーツ、勉強、モテ要素がそろっているので、容姿と性格と年下嫌いを修正すればモテる。もはや別人だ。

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