九条は現在、ボーダーのラウンジでで困り果てていた。東隊所属小荒井が九条の左足にしがみついて、必死に同じ単語を繰り返しているからだ。
「東隊に入ってくださいよ~」
「入らねえって」
ボーダーのソファーに座って、腰を落ち着かせるものの。鬱陶しいことこの上ない。すぐそばにいる、同隊の奥寺にどうにかしろと目線を送るも「これで東さんが入隊してくれたんです。東さんには許可もらってます」と返され、あの噂本当だったんだと心の中で呟く。
「丁度いいといえば、丁度いいか」
九条は腕時計の確認すると、小荒井と奥寺に向かいのソファーに座るように促す。
そもそも九条がラウンジにいるのは、先約があったからだ。小荒井と奥寺は、なにかを待っている様子の九条に質問をしようとする直前で、来馬と柿崎が一緒にやってきた。来馬は九条から見て、左側に。右側には、柿崎が一人掛けのソファーに座る。
来馬と柿崎は緊張した面持ちをしており、小荒井と奥寺はこれからなにをするのかわかっていないので、戸惑うのみだ。
「んじゃ、始めますか。これから、自分の部隊の魅力を語ってください」
「九条先輩なんですかこれ」
「柿崎さん。説明お願いします」
奥寺の質問に九条は説明をめんどくさがり、流れるように柿崎へと押し付ける。
「聞いてないのか?でも、ここにいるってことは九条を自分のチームに入れたいんだろ?」
柿崎の言葉に小荒井と奥寺は頷く。
「俺たちも同じだ。九条を自分のチームに引き入れたい。だから、これから自分の部隊の魅力を隊長が伝えるってことだ」
「なるほど。でも、隊長だったら……ああ、そいういうことか」
奥寺は言いかけて、気づいた。
今回のプレゼンとも面接ともいえる状況で、東を呼んだ方はいいのではと思うも、九条が自分たちを座らせたのは、東隊が他の部隊とは少々事情が異なることを考えてこそのものだと気づいたからだ。
東隊は隊長こそ東であるものの、小荒井に懇願され、尚且つ指導者的立場にあるのは有名な話だ。となれば、このような状況では東ではなく、弟子である小荒井と奥寺であるべきだと席に着かせた。
「なんの準備もしてないんですけど」
重要性に気づいた小荒井は焦りを見せる。
「自分のチームの長所くらい簡単に言えないようじゃ話にならねえよ。それと俺はA級目指す前提だから。順番は最後にしてやるから、来馬さんと柿崎さんを見てろよ。では、来馬さんから始めます」
小荒井と奥寺は真似できる部分は真似ようと、試験10分前の顔つきで来馬を観察する。柿崎も同じ様子で、それが来馬の緊張を高まらせる。
小荒井と奥寺は気づいていないが、来馬隊と柿崎隊の隊員たちは隠れて、この様子を見守っていた。他にも野次馬がちらほらと見えるが、九条は気にしない方向で進めていく。
「では、来馬さん。あなたのチームの魅力は何でしょうか?」
「はい。私が隊長を務めさせて頂いている来馬隊は現在B級で中位にいます。しかし、私の部隊にはアタッカー4位の村上が所属しています。彼の実力は何度も戦ったことのある九条さん自身ご理解しているはずです」
「はは、そんなに緊張しなくてもいいですよ。肩の力抜いてください。普段も敬語じゃないじゃないですか」
「すみません。つい緊張しちゃって。このまま続けさせていただきます」
来馬が緊張するのはわかる。今日の九条は、髪の隙間からみえる目付きが違うし、隊長二人を呼び出して、プレゼンさせるのは九条の本気度が伺える。この状況はまさに逆面接だ。そんな状況で、敬語を使わなくてもいいと言われ、素直に使わないのはまさに面接で『私服OK』と言われ、本気で私服でくる人種だ。
しかし、来馬は馬鹿でもなければ、いいとこの出の坊ちゃんである。礼儀などはもちろん学んでいるので、そんなヘマは犯さない。
「今は中位に留まっていますが、九条さんが来ていただければ、B級上位は当然として、A級に行くことだって夢ではありません。すぐ入っていただければ、今日にでもチームの練習も始められます。以上になります」
(うまいッ!)
これを聞いていた三輪秀次は驚愕した。
九条がどこの部隊に入るのか知るため、盗み聞きしていたが、来馬の最後の一言に感想を抱く。九条のように本気で上を目指す人間にとって、すぐに練習を始められるというのは僅かであるが効果的。その僅かをチームの紹介で行うのは、来馬を見直すほどだった。
(ただ優しい人ではなかったか)
それもそうだ。来馬もまた必死なのだ。アタッカー4位を抱えているにも関わらず、上位にすらいないのは隊長である自分に問題があると感じているからだ。それならば、自分にできることを全力で取り組むしかなかったのだ。
「なるほど。確かに来馬隊の目玉は村上先輩です。しかし、アタッカー4位がいるにも関わらず、B級中位にいるのはなぜでしょうか?同じような編成で、影浦隊は元A級で現在は不動の2位にいます。影浦隊と来馬隊の違いはなんでしょうか?」
少しだけ雲行きが怪しくなってきた。九条の言葉を聞いている隊員たち全員が感じた。
「それは私の力不足によるところが大きいでしょう」
「具体的には?」
「え?」
「具体的には、どのあたりがでしょうか?」
「えっと」
ここで来馬が発言に戸惑えば戸惑うほど、自分のチームに入れやすくなる。のだが、柿崎の胃が痛くなってきた。
「鋼、いや、村上が落ちてしまえば、それで終わりという部分です。私自身の力不足もあります。しかし、オールラウンダーをやるにも、そこまでトリオンがあるわけでもありません。村上の負担を補うためにも、九条さんの力が必要なんです」
焦りはあったものの、なんとか凌げた達成感に来馬は内心ガッツポーズをとる。
それでも面接はまだ終わってない。
「それでは私を来馬隊に入れたあと、どのようなイメージを持っていますか?」
「イメージですか?それはやはり臨機応変な対応力を持っているので、それを活かしていただければと」
「具体性に欠けますね。では、二宮隊とぶつかると想定してください。障害物はなく、更地で戦闘を行う場合、来馬さんであれば、どのような対応をしますか?」
九条の声は普段の明るいものとは考えられないほどに、冷たく淡々としている。その温度差が徐々に聴いている者の動悸を激しくさせる。
「それはやはり村上と九条さんを前面に出して……」
「出して、どうするんですか?」
「いえ、あの。そうですね。2人を二宮さんにぶつけて、犬飼くん、辻くんを僕と太一で倒して、その後、二宮さんを倒し、ます」
「できると思います?」
「……できません」
「そうですよね」
来馬は頭の中でイメージして、結論に辿り着く。これでも勝つのは厳しいかもしれないと。
まず前提として、二宮にサシで勝てるほど、九条も村上も強くはない。No.1シューターは伊達ではない。彼の放つ弾は高い攻撃力を誇る。村上のレイガスト。九条のシールド。更にエスクードを加えれば、かなり有利に運べる。それだけだ。
では、来馬の想定を考えてみよう。来馬の考えている通り、九条と村上が二宮にぶつかるとする。では、二宮ならば、どうするか?単純に時間稼ぎをするはずだ。むしろ、中距離から犬飼、辻の援護を行うことだってあり得る。
来馬は犬飼と辻を倒すというが、二宮隊が不動の1位にいるのは、二宮単独の力だけでなく、犬飼、辻の力によるところが大きい。それこそ、来馬がよくわかっているはずだ。来馬の言うように、2対2でぶつかったとしても、返り討ちにあうのが、目に見える。
これはあくまで更地をイメージしたもので、事実ではない。市街地などを想定すれば、話は変わってくるも、頭の回る二宮相手には、余計に不利になるだけだろう。
「確かに俺は万能ですけど、無敵ってわけでもないんですよ。来馬さん自身、俺が入ったあとのイメージが漠然としすぎてるんです。まあ、それはいいんですよ。話し合いの繰り返しで解決する部分でもあるんですから」
「はい」
「でもね、A級目指す上で、二宮隊への対処が曖昧なのもどうですかね。今話した状況は、もしもですから、実際はもっとすんなりかもしれません。ただね、俺もそれなりに警戒されてるわけですから、頭の回る二宮さんが対策しないわけがないんですよ」
「……はい」
「例えば、対二宮隊ではどんな銃と弾を使うなどの言って頂かないと。向こうだって、俺を警戒するでしょうから、エスクード張られるとこっちも厳しいんですよ。シューターは苦手なんですから」
「……はい」
九条は机を指でトントンと叩きながら、ふーっと長いため息を吐く。
「来馬さん。チームに入れる権利を持っているあなたにこう聞くのはどうかと思うのですが、本当に俺を入れたい思ってます?」
「それはもちろんです!」
「ならですよ。なら、ね。俺を入れて、ね。4人編成となった来馬隊をどんなチームにしたいか考えて貰わないと。明確にじゃなくても、あなたが隊長なんだから、しっかりしないと」
「はい。すいませんでした」
この時点で来馬の顔は白くなっており、泣き出しそうになっている。九条は来馬から目を離さず、終わらせにする。
「では、前向きに検討させてもらいます。次は、柿崎さんなんですが、少しお手洗いに行かせていただきます」
「は、はい」
九条はソファーから立ち上がって、トイレへと向かう。その背中が消えたところで、一同は心を一つにしていた。
(怖えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!)
小荒井、奥寺、柿崎はズボンの裾を握って、目の当たりにした光景に恐怖した。なにか話そうにも、落ち込んでいる来馬を前に、話す勇気などない。
顔を伏せ、ただただ沈黙していた。
「俺もっと軽いもんだと思ってたわ」
「俺も」
見ていた米屋と出水が、想像していたのは、アホらしい九条が質問責めにするといった感覚だった。
(やべぇ、他人事じゃねえぞ!来馬うめえなとか思ってたのに、蓋を開けてみればボロクソじゃねえか!もう俺が泣きてえ!なんだよ、この圧迫面接!?九条が九条さんじゃねえか!)
柿崎はカウントダウンが迫る中、必死に脳内シミュレーションをして、対策を練っていく。柿崎的には、来馬が終わったあと、すぐに始めてもらいたかった。
「お待たせしました。それでは、柿崎さんお願いします」
「ははははいっ!!!」
(柿崎さん、頑張って!)
柿崎の視線の先には、柿崎隊の面々が揃っており、口パクで応援しているのがわかった。
(そうだ。俺の部隊がこんな順位にいるのは、俺の責任だ。あいつらの力はあんなもんじゃねえ)
柿崎の瞳に確かな覚悟が宿る。
(小太郎は小学生でボーダーに。文香は新人王候補にまでなってたんだ。だったら、俺はなにがなんでも上に行かせなきゃいけねえんだ!)
「よろしくお願いしますっ!」
(ぜってえ九条をうちに引き入れてやっからな!)
次回、柿崎死す