「ずばりギャップよ」
「は?」
面接を終えて一週間が経過した頃、九条はボーダー本部の食堂でデミグラスソースとホワイトソースのかかったオムライスを食べていた。
ついさきほどまで、相席していた古寺が座っていた席に、どかりと向かいの席に座ると来馬隊の
「女なんてギャップに弱いのよ」
「急にどうしたの?
「ほら、ワンパなのよ。会うなり、告白宣言で飽きがくるの。最初は頭のおかしい男だなって思ってたけど、今じゃ可哀想な男に思えてくるの。目も当てられない」
「たった数秒間でボロクソに傷つけられたんですけども」
「パターンを増やしなさいよ。アピールポイントを見せたりとか。その上でギャップをつけるの」
「ギャップたって、
「逆!捨てられてんの子犬の方!子犬人語話してるし!?」
裁判沙汰になりうるファンタジー的な想像に
「ようするにただでさえ女子からの評価が底辺なんだから、少しかっこいいところ見せれば口説きやすくなるんじゃないの?」
「今ちゃん……。俺のために?実は俺のこと好きなの?付き合う?」
「なわけないでしょ。そのパターン飽きたって」
「じゃあどうしろと?」
「例えば、逆のことやってみるとか」
「逆のことねぇ。オッケ、やってるわ」
「?」
九条が言うやいなや歩きだした先には、A級1位オペレーター国近が歩いていた。その歩調は少しばかり早く、肩に力が入っている。
「国近さんのことなんて別に好きじゃないんですから。勘違いしないでくださいね!」
「なんでツンデレ風なのよ!?」
国近が九条に首をかしげたところで今の飛び蹴りによって、一瞬で視界から消え去った。
「なるほどなるほど~そういうわけですか。それなら恋愛ゲームをこなしてきたわたしにむぅあかせなさ~い」
「二次元と三次元を一緒にしていいの?」
今のツッコミを聞き流して国近がどんと胸を張る。
その胸と
「これは九条くんにこそ相応しい秘策なのだよ」
「本当ですか、先生!わたくしめにご教示ください!」
「ふぉっふぉっ。焦りなさるな若人よ」
九条の下手っぷりに国近は気分を良くする。
「九条くんは控え目に言って、見た目も言動もスペランカー並みに酷いから、そこを修正だよね」
「先生!控え目という峰打ちのつもりかもしれませんが、鉄の棒でガンガン叩いてるようなものです!」
「せめてたけのこよね」
「たけみつ!」
「九条くんは何度も打ちのめされてきたから平気だよ。で、九条くんがやることはイメチェンだよ。特に髪型」
「このボサ頭だものね。不潔感あるし。でもこれ、くせっ毛でしょ。難しいんじゃないの?」
九条の髪は目が隠れるほど長い。それでいて、くせっ毛なのだから、引っ張ったら唇まで届いてしまう。本人はそれを気にしないし、髪を切るのを時間の無駄だと感じている。
加古も国近のイメチェン案同様、九条のくせっ毛に思うところがあり、櫛で梳かそうしていた。しかし、くせが強すぎて櫛が髪に絡みつき、強く引っ張っれば髪が抜けてしまう。
その後も工夫を凝らしながら髪型を整え、服選び含めて上手くはいったが、加古はある理由でこれをやめてしまった。
当時の九条はその事を告げられず、遊び始めたな程度にしか考えていないので、国近のイメチェン案を初めてだと思い込んでいる。
「そこは今ちゃん、ネット見ながらやっていこうよ~。じゃ、早速やっていこっか~」
「お願っシャァッス!これで彼女とか出来たら焼き肉奢りやぁす!」
「気合いの入りかたが野球部みたい……。いい加減、彼女でも作って落ち着いて貰わないとね」
そうして、国近と
髪を濡らしてドライヤーをかけたり、試行錯誤の末に国近と
「いやー、苦労しましたな~」
「くせっ毛の呪いでかかってんのかしら」
ソファーにもたれ掛かり、ぐったりした。もっとも天上を見上げているのは、九条から目線を逸らすためだ。
「はは、ありがとね」
「「どういたしまして」」
九条はカジュアルスーツを来ており、白シャツからは鎖骨が見えかくれしている。天パはくせっ毛を僅かに残したセンター分けの髪をしている。その結果、隠れていた目が露になって、優しげな瞳が国近と今を捉えている。
((隠れイケメンかよ……))
この状態の九条を直視しないよう、天上を見つめるしかなかった。
「んじゃあ、九条くんにはやって貰いたいことがありまーす」
「押忍師匠ッ!」
「うむ、この試練は厳し、ぃぞ」
師匠呼びに舞い上がって、一瞬だけ九条と視線を合わせてしまったが、すぐに体勢を戻す。自分でも顔が赤くなっているのが、分かっているからだ。
九条は国近師匠からの試練内容を聞いて、早速諏訪隊の小佐野の元へ用事も兼ねて歩き出す。
その試練内容は、告白せずに異性と会話するというものだった。他にも幾つかの条件はあるが、メインはこれである。
また、その様子を胸ポケットにあるボーダー産のペン型カメラで九条の試練を国近と
九条が諏訪隊の部屋に行こうとしてると、ちょうど目当てのオペレーターが反対側から歩いてきた。向こうも九条を目にすると、目を見開き、足を止めてしまう。
「く、じょう?」
「九条だよ?」
「だよね……」
「どうしたの、小佐野ちゃん?」
「あ、いや、国近先輩からイメチェンしたって聞いてたけどさ、印象変わるなって」
「そう?でも、小佐野ちゃんにかっこいいって思われたなら大成功だね」
「………うん」
「お世辞でも嬉しいよ。これありがと」
九条から小佐野に借りていた本を渡す。九条は諏訪隊の隊員と本の貸し借りをする仲で、今回は九条が借りていた側だ。
「じゃまた今度ね」
「えっ!?」
去ろうとした九条に小佐野は思わず、声を上げてしまう。どうしたのかと、九条は足を止めて小佐野の元へ戻る。
「小佐野ちゃん?」
「な、なに?」
「なにはこっちの台詞だよ。なんか今日変だよ。困ってるなら話聞かせて?俺が力になるからさ」
(こ、こいつッ!)
用件だけ済ませて去ろうとしたところ、急に親身になってくる。その普段髪で隠れていた瞳は本気で彼女を心配していた。それを感じ取った小佐野のペースはどんどん狂わされていく。
小佐野は認めたくはなかったが、顔がよろしくなっている上に普段の奇行もないので、今の九条にどう対応していいかわからないでいた。
ぶっちゃけ心配されて嬉しい気持ちで一杯だった。
「なんでもない。ただ今日はいつもみたいに告ってこないんだなってだけ」
言ってて恥ずかしくなったのか、耐えきれず目線を九条から外してそっぽを向いてしまう。が、九条はわざわざ小佐野の目線を合わさるために一歩近づく。
「もしかして好きって言われたかった?」
少し悪戯めいた顔で、冗談を言う。
「ッ!??」
小佐野は九条を蹴り飛ばし、隊室に駆け足で飛び込む。
「ええー……」
九条は嫌われたのではないかと、ショックを受けた。小佐野にもこれまで、告白ラッシュをかましてきたが、暴力をうけたことはなかった。涙が零れそうになるのをグッと堪える。
「さーて、次はと」
「乙女の顔してたわね」
「ね~」
スナック菓子を食べながら、小佐野の様子を見ていた2人。
「次、誰にする?」
「次はね~」
約2年半ぶりの投稿
ハンターハンターの作者はこれより間があるから平気かな。