女好きボーダー隊員   作:ベリアル

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第4話

九条がB級に上がってから早3週間が経過していた。順調にポイントを増やしながら、ナンパ・告白に励んでいる。

 

銃型トリガーも上っ面の知識としてだけではなく、実際に使用して理解する。すぐに理解できたのは、サイドエフェクトの恩恵が顕著に表れた日々であった。彼に教えていた若村や奈良坂もこれには驚いていた。

 

銃型トリガーを一通り試した後はトリガーの組み合わせで模擬戦を時々やるようにしている。

 

ある日はショットガンとマシンガンの2丁、ハンドガン2丁とスコーピオン。誰かのを参考にしていることが多い反面、やはり自分の基本スタイルが定まらないのが悩みである。聞いた話では、出水や米屋はほぼ直感で決まった。

 

相談に乗ってくれた三輪も九条同様悩んだらしく、部隊に合わせたりで今のトリガーに基本が決まった。しかし、九条の場合は部隊を持たないフリー。考える要素がないのは厳しい。スコーピオンとイーグレットを入れるのは確定なのが、不幸中の幸いだ。

 

現在は8つの内、7つトリガーを使っている。

 

普通ならば8つの内、7つも埋まっているならば十分だ。ただ、銃型トリガーがないので、九条の持ち味が活かされない。相談に乗ってくれた隊員は勿体ないと口を揃えて言う。

 

課題は解決しないままだった。

 

「ぴ~ひゃらら~ ぴ~ひゃらり~」

 

あまり重く受け止めていない本人は今日も女子で頭がいっぱいだった。

 

九条は3週間でソロランク戦をしてわかったことは、今スコーピオンと銃型トリガーを両立させるのは厳しいと判断した。故に肩の荷が下りた。今は銃型トリガーは無視して、アタッカーに専念しようとしている。

 

「あっちぃこっちぃ探しゃ嫁探し~ 恋の病は恋で治す~ 誰か救済を~」

 

訳の分からない下手くそな歌を口ずさみながら、ランク戦をするべくロビーへの廊下を歩いている。

 

「三上ちゃん? エンジェル三上? ミカエル?」

 

ふと目にした先に大天使三上が段ボールを抱えているのを、目に映すと迷わず駆け出そうとしたとき、横から何者かにぶつかる。生身なら肺の空気がごっそり抜けていた。

 

「んだあ!?」

 

「九条先輩」

 

「……げ」

 

上記のぶつかったには語弊があった。正しくは抱き付かれた。

 

「こんにちは」

 

「離せ。俺のエンジェルが去ってしまう」

 

九条に抱き付いてきたのは、A級6位加古隊の黒江双葉だ。

 

彼女も中学生ながらでかわいいに十分分類されてもおかしくないのに、九条の態度が冷たい。

 

「あなたのエンジェルはここにいます」

 

「いねえよ。あそこにいんだよ。ちょマジ離せ! 行っちゃうから! 三上ちゃん行っちゃうから! あぁぁぁ!」

 

「もういませんよ」

 

「~~ックソォ! 邪魔すんなよ!」

 

「私も立派なレディです」

 

「3年早えんだよ!」

 

九条辰馬は子供が大の嫌いだ。

 

那須隊の日浦茜も嫌いだし、A級の緑川駿も嫌いだ。一個下の後輩がギリギリである。もう少し歳を取れば守備範囲に変化があるのかもしれない。ただ、その兆しは見られない。

 

皮肉なことに九条は年下に好かれてしまう。九条にとってそんなものは呪いでしかない。

 

いつかの防衛任務も日浦茜がいれば、彼は代理を務めていなかった。彼女もまた九条を慕っていて、黒江も彼が大好きである。傍から見れば、甘えたい盛りの妹に意地悪する兄にも見えなくない。

 

当の本人は本気で嫌がってる。

 

「なんのようだ! クソガキ!」

 

「加古隊に入りましょう」

 

「いやでーす!でーすでーす!どぅえったいにいやでーす!」

 

九条のテンションはおかしく、ガールズチームの勧誘を蹴り飛ばした。

 

「加古さんが待ち遠しいそうですよ」

 

「入りたくないチームランキングぶっちぎりの1位は加古隊なんだよ!」

 

「入りましょう」

 

「めげねえな!」

 

腰に抱き付いた黒江の頭を引きはがそうと腕に力を込める。子供と言えどトリオン体でしがみつかれたら、やはり厳しい。

 

「九条せんぱーい! 合同訓練行きましょー!」

 

「ウゼえの一匹増えた!」

 

日浦の登場に九条は額に青筋を立てる。

 

「えーそんなこと言わないで、行きましょうよ!」

 

「こちとらぁお子様の相手する暇はねえんだよ」

 

「茜、邪魔しないで」

 

「先輩独り占めにしないでよ、双葉ちゃん」

 

日浦と言い合いを始めた黒江は、九条に抱き付く腕を緩めてしまう。2人の意識が互いに向かいっている隙に、足音に細心の注意を払って、その場から抜け出し、ランク戦のロビーに到着した。

 

ちびっ子から逃げられて、一息吐く。ソファーに座り、B級アタッカーのランク戦があったので、観戦することにした。対戦者は村上と辻。両者共にボーダー屈指の実力者。

 

特に村上はNo.4アタッカーと名高い。辻はB級1位の8000点越えのマスタークラスでかなり強い部類に入るも、村上相手には分が悪いだろう。現に8対1で負けが確定している状態だ。

 

(やっぱ強えな、村上さん)

 

会話したことはないが、何度かランク戦で観戦していたので、村上の実力が遥か高い位置にいるのは十分承知済み。それだけに部隊の順位が低いことは惜しいと思っている。口には出さないでも、九条以外に同じ感想を抱いている隊員は多くいるだろう。

 

(まっ、強い弱いよりは好きか嫌いかか)

 

何事も継続には好みが重要で、それによって成長速度は変化するのは言うまでもないだろう。

 

「俺も入るなら面白そうな部隊がいいな」

 

九条はかなりの女好きだが、特別ガールズチームがいいという考えはない。彼も高校生で友達と馬鹿をやりたい時もある。男同士が気楽な時だってある。

 

「九条先輩じゃん!」

 

「チッ!」

 

ただし、子供がいないことが限定だ。

 

「舌打ちって酷いよ」

 

「酷くねえよ、わんぱく小僧」

 

厄日だ、と心中で呟き、緑川が正面に現れたところでモニターが背景になってしまう。緑川の顔を横に押すように邪魔だと言ってどかす。

 

「ランク戦しようよ!」

 

「しませーん、米屋に遊んでもらいな」

 

「負けるのが怖いの?」

 

「あー怖い怖い怖すぎてポイント取られちゃうわー」

 

「ブーブー!」

 

「るせえ、豚。迅さんに遊んでもらえよ」

 

「簡単に会えたら苦労しないよ。そもそも俺は本部で、迅さんは玉狛支部なんだし」

 

「玉狛って本部と仲悪いんだっけ?」

 

ボーダーには大きく分けて3つ派閥がある。上層部の城戸のネイバー許さない派、同じく上層部の忍田の街を守ろう派、玉狛支部のネイバーと仲良くやっていけるよ派。出水に聞いた話を思い出しながら、顔を向けないで緑川に問う。

 

もっとも玉狛支部に関しては、何度か訪れている。

 

「うん。俺は迅さんに憧れてるから玉狛に入りたいんだけどね」

 

「ふーん。宇井ちゃんに告白してくるわ」

 

先輩の視界の端に映った柿崎隊のオペレーターに疾走していく姿に呆れた緑川だが、女子に本気でぶつかって打ちのめさる姿が若干迅に似ているので、彼の行動が少し好きだった。

 

柿崎隊のオペレーターに告白した九条は通りがかった熊谷と来馬隊のオペレーターからサンドイッチラリアットを受けていた。

 

「どぅえっふ」

 

遠くから見ていた嵐山はマヌケな顔よりケツが高い体勢で床に伏している姿に笑みを浮かべていた。

 

嵐山は弟妹を溺愛しているので、2人の危機を救ってくれた九条を気にかけている。

 

 

 

九条がボーダーに入る以前のある日の夕暮れ時である。

 

九条は学校から帰宅する途中、安売りしている8個入り卵パック108円を購入していた。

 

「きゃわゆい女の子~女の子は~世界を救う~」

 

センスのない歌を口ずさみながら、自宅までの人通りが少ない道を歩く。C級で順調にポイントを稼ぐ彼は機嫌がいい。今夜の晩ご飯はカニ玉にしよう、そう気分よく商店街から少し離れた通りを歩いていると不快な声が届く。

 

「いいから来いよ」

 

視線の先には三門市立第三中学校の制服を着た男女2人が髪を染めた5人組に絡まれていた。通りがかりの人々は見て見ぬフリをしている。九条も例外ではなく、子供が嫌いな彼にとっては2人を助ける理由はない。どちらかが女子が高校生以上なら迷いなく、助けにいったであろう。

 

いつの間にか止めていた足を進めようとしたら、中学生2人と目が合ってしまった。よく見ると2人の顔立ちは似ている。姉と弟、あるいは兄と妹のどちらかなのだろう。

 

ここで見捨てられるが、彼にも多少の良心がある。

 

深く重いため息を吐く。

 

「俺の後輩になんか用か?」

 

無論、彼等とは初対面だ。しかし、知らない人間より関係のある人間の方がいいだろう。

 

「あぁ。誰だテメエ?」

 

「こいつらの先輩だよ。で、年下に5人絡んでなんのようだよ?」

 

「電車代に困ってんだよ。こいつらから借りようと思ってよ。なんだったらお前が払ってくれんのか?」

 

「一人1万円でーす!」

 

その言葉に男たちは下品な笑いを上げる。

 

九条は正面に立つ男、それから後ろにいる4人。最後に怯えてる中学生2人を観察して、行動を起こした。

 

「うっ!」

 

鳩尾を思いっきり殴ると、抑えるように前のめりの体勢になった男の後頭部に肘を落とす。脳が揺れ、意識を失わないでも地面にうめき声を上げて転がる。なにが起きたのかようやく理解したところで、動き出そうとした4人。

 

卵の入った袋を男の傍にいた不良の顔に投げつけ、視界を一瞬だけ奪う。その一瞬で股間を蹴り上げる。蹴られた箇所を抑えて2人目はうずくまる。

 

3人目が殴りかかってきたところで、顎を引き一直線に飛んできた拳を回避し、逆に顔面を殴りつけ、足を払い転ばせる。

 

「これ以上続けても意味ねえから、帰らせてもらうぞ」

 

残ったチンピラの2人は完全に弱腰になっている。卵の入った袋を拾う九条に攻撃することなく、ただ黙ってみていた。

 

「行くぞ」

 

中学生の男女を連れて九条は人通りの多い商店街に戻っていく。

 

「あの、ありがとうございました」

 

「ありがとうございました!」

 

少女から礼が来ると、少年の方からも大きな声で礼が飛んでくる。

 

「……るせえ」

 

袋に入った中身が飛び出た玉子を眺め、肩を落とす。全滅しているので、かに玉はおろか、玉子かけご飯もままならない。

 

内心、見捨てればよかったと後悔している。大嫌いな子供からの礼などで腹は膨れない。彼自身、いい人みたいにはなりたくはないのだ。だから、礼など言われたくはない。

 

「副ー!佐補ー!」

 

落ち込んでいると、遠くからの声が近づいてくる。それに反応した少年少女。

 

声のする方角を見れば、ボーダーで先輩にあたる嵐山が手を振って走ってくる。

 

「「兄ちゃん…!」」

 

(こいつら嵐山准の弟妹だったのかよ)

 

「会いたかったぞー!偶然会えると思っていなかった!」

 

「やめろー!」

「ひっつくなー!」

 

長男は勢いを止めずに2人に抱き付いて頬擦りをする。必死の抵抗も虚しく、逃れられる様子はない。

 

そんな兄弟の触れ合いに思うところがあるのか、目頭が熱くなるのを堪える。

 

副と佐補の2人を見ながら、羨ましいと感じてしまう。

 

そう考えていた矢先に、嵐山の長男が九条に気付く。

 

「彼は?」

 

「あ、そうだ。兄ちゃん、この人に助けてもらったんだよ!」

 

妹の方は声を上げて、嵐山准に事の経緯を説明する。弟妹揃って興奮して説明するので、九条は去らない方が賢明だと、話が終わるまで口を開かずに終わるのを待っていた。

 

「そうなのか!君は2人を助けてくれたんだな。兄として礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

真っ直ぐな瞳を向けられ、戸惑ってしまう。彼の瞳はまるで穢れなどないような力強い正義感が感じられるからだ。

 

九条は嵐山准が苦手だ。

 

彼の真っ直ぐな性格。そして、今はもういない兄を思い出してしまいそうになるから。

 

 

 

 




ひっさしぶりの投稿!

黒トリ争奪戦、大規模侵攻編やりたいのに最近アホみたいに忙しい。

次回はいつになるやら。

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