女好きボーダー隊員   作:ベリアル

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第5話

夜9時を少し過ぎた時間帯、ホワイトマジックというダーツバーに高校生の九条が隅の席でグラスに入った氷入りコーラを半分ほど飲んだところで眺めていた。ズボンの左ポケットにはスマートフォンがある。暇は潰せる道具を使わずにただただ、水滴のまとわりついたグラスを眺めているだけ。

 

バーに窓はなく、耳を澄ませばマスターの趣味なのか、ジャズが流れているのが分かる。マスターは白髪交じりの老齢である。カウンター側の巨大な水槽の中には、色とりどりの魚が泳いでいるが、九条は見慣れているのか興味ないのか目もくれない。

 

カウンターの向かいには机と椅子がひっそりと置かれている。客も九条しかいないからか置物のようだ。その先には4つのダーツボードが置かれている。九条にとって飽きる程やっているので、暇つぶしの選択肢にすら入っていない。

 

酒を取り扱っている店で九条一人で入店できたのは、マスターとは少しばかり付き合いの長い知り合いだからだ。

 

九条は待ち合わせ場所をここに呼び出され、先に到着した次第である。呼び出した本人はまだ到着していない。

 

店の出入り口から微かに話し声が聞こえてくる。次第に近づいて、九条は舌打ちをしてグラスの水滴など気に止めずコーラを一口。

 

ドアベルが鳴ると、男女が入店した。入り口の方に目を向けると、服装や時間帯を考えれば一目で大学生だと分かる。バカ騒ぎこそしないもの、静かな時間を邪魔されて理不尽にも苛立つ。

 

「いい雰囲気じゃん~」

「俺ダーツ得意なんだよ」

 

中身のない会話が耳に入り、運が悪いと悪態を吐く。

 

カップルなのだろうか、男が矢(ダーツ)を投げ始める。男が矢を中心からずれたシングルブルに当てると、女がわめく。彼らを気にしても仕方ないので、再びコーラを一口含み、口内で弾ける炭酸の刺激を2秒3秒味わって喉を鳴らす。

 

そうして腕時計の長針が真上を横指した時、新たな客がやってきて大学生らの話し声は止まる。

 

ハイヒールの足音が近づいてくる。

 

今度は目線を向けずに向かいの席に座ったところで、先制を放つ。

 

「遅い」

 

「遅れてごめんなさいも言わせてくれないわけ?」

 

A級部隊加古隊の隊長加古望は悪びれるわけでもなく、若干不機嫌な九条に笑顔で対応した。待ち合わせ時間は本来9時だったが、腕時計で確認してみれば15分の遅れ。九条は明日予定があるわけでもないし、15分くらいどうとでもないが、待たされた身としては遅刻に対して不満を漏らしたくなった。

 

「双葉も来たがってたんだけど、この時間に中学生はね」

 

「そのまま二度と俺の前に現れなきゃいいんだけどな」

 

頬杖をついて敬語を使わずにため息交じりに愚痴を溢す。

 

「ふふ、気に入られちゃったわね。」

 

「用件をどーぞ。世間話をしに呼び出したんじゃないんだろ?聞き飽きた内容なんだろうけどな」

 

無駄な会話を省き、手短に済ませようとする気を隠さずに本題へ促す。九条は高校2年生の17歳。加古は20歳で3つも離れているのに、九条は敬語を使うことはない。

 

加古はそれに対して、気にするわけでもなく鼻歌で歌いそうなほど上機嫌である。

 

「もちろん。お察しの通り」

 

「加古ちゃん、偶然じゃん」

 

本題に差し掛かったところで第三者の声がかかった。加古が後ろを振り向けば、先ほどのカップルの男が馴れ馴れしく声をかけていた。髪を染め、アクセサリーを身に着けた今どきの大学生という言葉が当てはまる。

 

「あら、いつ以来かしらね。森下くん」

 

森下と呼ばれた男とその後ろにいる女の姿を確認すると一瞬険しい表情を浮かべて、すぐに愛想笑いを浮かべる。店に入ったときは彼女は彼らに気付かなかったのは単純に付き合いの浅さから、ただダーツを楽しんでる客にしか思わなかったからだ。

 

加古は森下に言い寄られていた時期がある。直接好きだの言われこそしなかったもの、遠回しに脈がないと伝えてもしつこく、少々自信家な彼を加古は敬遠している。悪いことに髪を染め、加古を睨んでいる森下を好いている女もいる。

 

加古が気に入らないのか嫌味をネチネチ言ってくる。

 

そう言った人間関係が煩わしく別の人間と関わるようになったが、偶然ここで会うとは思ってもいなかった。

 

心の中でため息を吐き、頬に手を当てる。

 

「俺たちダーツしにきたんだけど、加古ちゃんは?」

 

森下は僅かに九条に目線をずらした。九条と加古の関係が気になったのだろう。視線の動きから加古は名案が浮かぶ。

 

「彼とデート中なの」

 

「え?」

 

「は?」

 

森下はもちろん、九条も声を出して驚いた。すぐに否定しようと前のめりになって否定しようとした時、予測していた加古は人差し指を九条の唇に当て黙らせる。

 

黙っていろ。そう目で訴えかけられ、口を紡ぐ。

 

加古は考えた。このまま別れても再び森下が言い寄ってくる可能性が高い。ならばここで、嘘でも彼氏がいることにしてしまおうと。そうすれば森下もこれ以上言い寄ってくることはない。

 

「へ、へえ。そうなんだ。彼氏いたんだ、初耳だよ」

 

「彼照れ屋だからあんまり言わないようにしてるの」

 

九条はいまいち状況を把握しきれていない。このまま口を挟むのも面倒なので腕を組んで背たれに体重を預ける。

 

「そうだ!よかったらダーツしないか?親睦を深める為にもさ」

 

深めるような関係でもないが、森下の心情としては狙っていた女が高校生くらいの子供に奪われたのが我慢ならない。ここで自分のいいとこを見せて、九条の負けを晒してやりたい気持ちでいっぱいだった。

 

「え~、どうしよう。彼女さんに悪いんじゃないかしら」

 

「いやいやいや、俺とあいつそんなんじゃないから」

 

彼の声が聞こえたのか女の顔は益々険しくなっていく。森下はそれに気づきもせず、加古から視線を外さない。

 

「そうねぇ、どうせだから、やってみましょうかしら。あなたもやるでしょ?」

 

「好きにしろよ」

 

疲れたように返事をして九条と加古はダーツボードの前に立つ。

 

「丁度男女2人ずつだから、俺とこいつ。加古ちゃんと彼氏くんのタッグでいいよね?」

 

森下と女。加古と九条は向かい合ってそれぞれのダーツボードの前に立つ。森下に惚れこんでいる女は加古に敵意むき出しでいる。

 

「モテる女は辛いな。デッ!」

 

九条は小声で軽口を叩くとわき腹を肘でドツかれる。

 

「それはいいけど、ダーツのタッグなんて聞いたことないわよ」

 

「難しく考える必要はないよ。カウントアップを前後で分ければいいだけだからね」

 

カウントアップ。

 

ダーツゲームの中でオーソドックスなタイプのゲーム。最も初心者向けのゲーム。プレイヤーが交代で1ラウンド3投していき、8ラウンド24投での合計得点を競う。シンプル故にプレイヤーの腕が重要である。

 

今回の場合、一人4ラウンド12投となる。

 

「あんた腹黒いよな」

 

「お付き合いいただけるんでしょう」

 

九条は加古の意図が読めたのか、呆れたように言葉を送る。

 

先手は森下チーム。後手は加古チーム。まず女性陣が先に4ラウンド済ませ、男性陣が後半の4ラウンドを済ませる。森下は女に軽くアドバイスをして投げさせる。対照的には加古は既に撃ち始める。

 

ボーダーA級6位の隊長にして、シューターである彼女の腕はいかほどのものか。

 

結果、前半の総得点。

森下チーム 177

加古チーム 134

 

「こんなものかしら」

 

「ここ来るたびに撃ってんだろ、ど下手か!?」

 

以前から加古はここに来るたびにダーツをやっているもの、上達する気配はない。本人は楽しそうだが、その度に九条は対戦させられるのでたまったものではない。ましてや、今回は巻き込まれた形での対戦。張本人がこの様である。

 

一方、森下チームはハイタッチをして盛り上がっている。女は加古の方をニヤニヤと歪んだ顔で見ている。

 

「43点差か。どうにかなんだろ」

 

「どうにかなるのかな?」

 

九条の独り言に森下が答えて、そのまま投擲する。矢は50点・25点・25点で100点を獲得。

 

ダーツはブルを狙うのが定石で、最高得点の20のトリプル60点は現実的ではない。面積の問題で20のトリプルよりもブルを狙った方が当てやすいのだ。この時点で森下はそれなりの腕をしているのが分かる。

 

これにより森下チームは第5ラウンドにして277点となる。

 

「いやー悪いね。俺負けず嫌いだからさ、特にダーツなんかは手は抜けないかな」

 

九条の肩に手を置いて、僅かに高い身長から九条を見下す。腹の中ではお前では加古は釣り合わないんだよ、とあざ笑っている。本人はそれを加古がいる手前では出さないようにしているも、気付かない加古ではない。

 

森下は高校からダーツを始め、最高得点が1000点越えなのが自慢である。故にこの勝負には勝利の確信があった。女性陣には自分のいいところを見せられて、九条には無様に負けてもらう。

 

「あんた可哀想だな」

 

九条は言うなり、3本投擲。店に置かれた矢は九条の思った通りの場所に飛んでいく。

 

「あ?」

 

20点のトリプル60点に3本の矢が刺さっていた。よって134点は180点加算され、314点となり逆転を果たす。

 

「はあああああ!??」

 

ダーツ経験者ならば分かるだろう。ダーツにおいて180点を獲ることなどほとんど不可能である。マイダーツでもない店に置かれたダーツならば尚更。

 

森下はあまりの事態に硬直していた。

 

加古は最初からこうなることを最初から分かっていたのだ。大学でも森下はダーツ自慢を謳っていた。九条を彼氏だと知れば、恥をかかせにくる。ここはダーツバー。どういう動きをしてくるか最初から最後まで予期していた。

 

九条の腕前は誰よりも知っているし、絶対に負けない確信があった。

 

「嘘だ、ありえない」

 

ぶつぶつ呟きながら震えた手で矢を投擲する。それを見て口元に人差し指を当てて一言。

 

「哀れね」

 

 

 

 

 

夜9時32分。森下達は逃げるように去っていって、心地よい音楽が店内に届く。

 

「加古隊に入らない?」

 

「いい加減にしてくんない?その話何回目よ。入らないってんだろ」

 

森下達のことなど、話題にもあげず本題に入ると九条からは断りの返事。少なくともスコーピオンがマスタークラスになるまでは、どこのチームにも所属する気はない。

 

今のところA級、B級からのアプローチを掛けられている。

 

目的は九条というよりも”銃探知機”のサイドエフェクトだろう。サイドエフェクト一つでチームの戦力が上がるのは風間隊しかり、前例がある。欲しがらない部隊はないだろう。

 

「俺が集団行動好まないの知ってんだろ」

 

友人達とつるむのは楽しいとは思えても、こういった部隊といった統率を必要とするものは苦手だった。慣れれば問題ないし、慣れるまでが問題なのだ。そういう意味では他の部隊と比べれば自由性のあるB級2位の影浦隊は九条の性格にぴったりなのだろうが、九条は全ての部隊を把握しているわけではない。

 

とはいえ、ボーダーに入ったのには目的があったからで、部隊に所属しないわけにもいかない。そんなわけで、スコーピオンのマスタークラスを自分に課して、どこの部隊でも所属できるように自身を育成してる。

 

ただ、マスタークラスになるのもそう遠くはないだろう。元々学んでいた武術を駆使して、ボーダーの武器と九条の技術がかみ合ってスコーピオンのポイントは7000に差し掛かっている。

 

アタッカーの上位陣は流石に厳しい。それでも中堅クラスなら7:3で白星を得られる。

 

「あなたの目的には実力のある部隊、A級に入った方がいい」

 

加古は九条がボーダーに入隊した目的を知っている。ボーダー内では米屋達に誘われたからとなっているが。

 

事実は少々異なり、九条自身めんどくさいので話すつもりもない。

 

「その通りではあるが、必ずしもA級がいいとは限らない。理由として、まず一つ」

 

九条は人差し指を立てる。

 

「部隊に所属するには相性が重要だ。俺が加古隊と合うとは思えない」

 

「相性は時間が解決してくれるわよ。慣れの問題」

 

キランと目を光らせた加古に対して、口を一文字に閉ざし顎を引く。負けじと中指を立てる。

 

「俺はガキが嫌いだ。黒江がいる」

 

「好き嫌いしちゃ駄目よ」

 

「そういうことを言ってんじゃねえよ。ガキはめんどくせえから嫌いだし、感情のコントロールがまともにできやしねえから嫌いだ」

 

この男、基本的に女へのだらしない姿ばかりに目が行くのであまり知られていないが、学校側からは優秀な生徒として認められている。祖父の教えで武術や礼儀や勉強を教わっているからだ。第一次侵攻までは年上に囲まれて生活していたが故に、少々大人びた性格をしているのもまた事実である。

 

同時に年下との交流も少なく、舐められることも多かった。

 

「双葉はそんな子じゃないわよ。あなたもいい子だって分かってるじゃない」

 

「三つ目に」

 

言い負かされそうになって声を大にした。薬指を立てて、加古隊を拒む最後の理由を述べる。

 

「隊服が無理。紫色とか目に優しくない。視覚的攻撃も狙ってんのアレ? というか隊服自体男の俺にはキツイわ」

 

前半はイラッとしたが、後半は一理ある。色はともかく、デザインはガールズチームの為に作られた隊服。男性用に作れなくもないだろう。しかし、言ったところで九条はまた適当な理由で加古隊へ入ることを拒むだろう。

 

加古としては、戦力的にも個人的にも九条には来てほしい。更に言えば、九条に自ら来てほしい。九条は遠征を狙っているので、それを餌に部隊に九条を入れればいいのだが、その方法は加古としても望むべく手段ではないので、最後の手段としても使うか決めあぐねていた。

 

九条自身、分かってはいるもの乗り気がしない。

 

「いずれにしても部隊に入らなきゃいけないんだから」

 

遠征を狙っている以上、部隊に所属しなくてはならないのは必然だ。

 

「話がそれだけなら、もう帰らせてもらうぞ」

 

席を立ち、帰ろうとしたところで腕を掴まれる。

 

「明日、時間空いてるわよね?」

 

「いや全然全くこれぽっちも」

 

嘘である。明日は誰にも邪魔されず、ナンパかゆっくり読書を楽しもうと思っているが、重要な用事ではない。

 

「よかった。やっぱり暇なのね」

 

しかし、平然と嘘を見破ったのか、最初から知っていたのか九条に明日の用件を伝える。

 

「明日の朝10時にボーダー本部に来て」

 

「理由を言えよ、望」

 

「それは来てからのお楽しみ。じゃあね、辰馬くん」

 

もったいぶった様に謎だけを残す。店に残ったのは九条とマスターだけとなる。

 

「女には気ぃつけろよ。お前の場合は特にな」

 

マスターが透明なグラスを眺めて、九条に助言を促す。

 

 







九条 辰馬

ボジション:アタッカー
年齢:17歳
誕生日:10月7日
身長:177cm
星座:時計座
職業:高校生
好きなもの:女・読書・的に当てる系(ダーツや射撃など)・和食
家族構成:父・母・兄

パラメーター:

トリオン 14
攻撃 7
防御・援護 2
機動 7
技術 7
射程 2
指揮 1
特殊戦術 5

TOTAL 45

TRIGGER SET
○MAIN TRIGGER
 スコーピオン
 シールド
 バックワーム


○SUB TRIGGER
 スコーピオン
 シールド
 グラスホッパー
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