ボーダー本部にて、九条はコロンビアポーズを取っていた。アホである。
「キタコレ」
喜びを体で表現する中で、友人たる米屋と出水は生憎不在であった。なので、一人でこのポーズをしてるのは、周囲の目線が悲しいものであるのは、十分把握できる。
それでも、せずにはいられなかった。
「マスタークラスおめでとう」
「ありがとうって言っていいのか分からんけど、ありがとう。辻」
素直に感謝の言葉を伝えるのに戸惑いながらも、ここは言った方がいいと判断した。
スコーピオンのポイントが8000に突入した。マスタークラスに仲間入りしたことを意味する。
最後に得られたポイントはスーツ姿の辻からだったので、やや気まずさを感じて、辻の表情を観察すると、本人はなんてことないようだ。
スーツ姿という珍しい隊服だが、九条は辻の所属する部隊を知っているので、今更気にすることはなかった。
ポーカーフェイスを気取っているわけでもなく、単に九条よりも長くボーダーにいるので、ままあると知っているからだ。今回は自分の番だった、というのが辻の感想だ。
それを察してか知らず、辻の肩を組み、こう言った。
「お祝いにナンパ行こうぜ」
「やだ」
「えー、辻モテるっしょ?俺はお前のおこぼれにあやかりたいんだよ」
「プライドはないの?」
「プライドなくして彼女が出来るのなら捨ててやるさ」
尚、スコーピオンがマスタークラスになったことで、銃型トリガーが解禁になったが、本人は辻をナンパに誘うことで頭がいっぱいだ。
そもそもとして、辻は九条とは根本的な部分が真逆だ。
「ふっふふ。マスタークラスおめでとう」
「!?」
「あっやつじちゅわあん!」
やってきた綾辻がお祝いの言葉を送り、辻は硬直し、九条は綾辻の前に膝を着く。
「あなたの左薬指を予約してもよろしいでしょうか?」
「ごめんなさい」
「ぅあ、あが、ああ、ああああり得ないぃ」
涙を溢しそうになる九条を尻目に辻は顔を赤くしてロビーから逃げるように去っていく。いや、逃げるようにではなく、実際に逃げだした。
「行っちゃった」
「シャイボーイめ」
九条と違い、辻は女性が苦手で、綾辻を前にしたように赤面にしてしまう。ある意味、九条とは相容れない隊員となる。
「よーし、綾辻ちゃん。俺と一緒にランチしようぜい」
「マスタークラスおめでとうございます。九条先輩」
綾辻を昼食に誘おうとしたところで、別の声がかかる。
それに対して、九条は綾辻に見せた笑顔とは一変して、青筋を建てて、眉間に皺を寄らせる。
「あ゛?」
家族には家族への、友人には友人へと使う顔がある。
人は様々な仮面を持っていると言えよう。表情は喜怒哀楽を伝えるツールで、人が社会に出る上で重要なコミュニケーションと言っても過言ではない。
上司、教師、部下、後輩。立場一つで新たな仮面が生まれ、時として仮面は形を変える。
どんな無表情な人間でもほんの僅にでも所持している。
そういう意味では九条は非常に分かりやすい人間と言えよう。
友人、異性。この2つへの表情は常に明るく、暗くもなりやすい。その波はそれだけ九条にとって、重要なものであることを示している。
「チッ。木虎かよ」
その瞬間、九条の雰囲気は冷たいものとなる。被った仮面は普段からは想像も出来ないほど、不機嫌なものだった。
ご存知のように年下というのは九条が、嫌悪する存在であった。
ただ、前述したように仮面というのは、変化する。
事実、日浦や緑川など出会った頃に比べ、柔和なものへとなっていく。その変化していく様を周囲はニヤニヤしていた。
しかし、悲しいかな。
人によっていい方向に行くこともあれば、その逆も十分に想定できる。
「相変わらず、不健康そうですね。髪もボサボサで、身だしなみを整えたらいかがです?」
「デコピカお嬢様がなにかおっしゃいましたか?眩しいので、太陽拳やめてもらえます?」
両者、額に青筋を浮かび上がらせる。
「ふふ、どうして額の話が出てくるんですか?ボーダー隊員としての立場を離しているんですが?私に負け越しているB級さん」
「あっはっは。いやあ、お強いっすね。前にやったときは叩きのめされっちゃのは苦い記憶だわ。B級に上がったばかりだったからな。なあ、初心者狩りぃ」
木虎は口元を手で押さえて笑い、九条は大きく口を開けて笑う。無論、見た目ほど友好的ではない。
「地道に上がり立ての新人潰しとか、努力を怠らない姿勢に尊敬しますわぁ」
「なにを根拠に言ってるんですか。言いがかりはよしてくれます?あぁ、男の嫉妬ほど醜いものはありませんね」
「お前のどこに嫉妬する要素があるの?黒江からウザがられてる木虎ちゃん」
「……白黒つけてあげますよ」
「頼むから泣くなyゴォっ!」
「あ、きゃっ!」
突如、九条の後頭部を重たい衝撃が襲う。
「こんなとこで喧嘩しないでください」
「
「こんなところで騒いでたら、先輩も後輩もありませんよ。木虎も立場を指摘する前に自分を見直さなきゃだよ」
「すみません。時枝先輩」
眠そうな目をしたのキノコ頭をした時枝と呼ばれた男は、綾辻、木虎、同様の嵐山隊の一人だ。手には分厚い本が抱えられており、これで2人の頭を叩いた。どうやら、木虎に説教したところを聞けば、最初から見ていたようだ。
「綾辻ちゃんは?」
「いないですよ。仕事残ってますから」
「ヌォー!」
お決まりのひざまづきポーズ。
「プフッ!」
「笑ってんじゃねえぞコラ。京介に会えてねえから、イラついてんだろクソガキ」
「なななんで烏丸先輩が出てくるんですか!?」
「丸分かりなんゴォ!」
「やめなさいて」
九条の頭に時枝の抱えていた本が振り下ろされる。トリオン体だから平気だ。
それから、木虎が如何に嫌いかを再認識した九条は、食堂でうどんを
何時もつるんでいる出水と米屋は生憎、自部隊の都合によって不在である。今の九条にとってはありがたいものであった。
銃型トリガーが解禁になったことで、新しいトリガー構成と自分が入る部隊を考え込んでいた。
(マージでどうっすかな。スコーピオン8000になったらチームに入るみたいなこと公言しちまってるからな。まだ、考え中なんだよな)
優柔不断な性格ではないにせよ、こればかりは時間がかかるようだ。候補はあるにせよ、いまいちピンと来ないのが、本音である。
(整理しよう。A級はない。入りたいとは思うが、A級の箔が邪魔だ。
B級の候補はある。影浦隊。来馬隊。那須隊。この3チームだな。他にも諏訪隊とかあるけど、置いとくとしてだ。
戦術の遠中近の3つの要素が揃い、3人編成だからだ。それもそれなりに高いレベルで。これなら、単独でも、連携でもイケる。諏訪隊のように、スナイパーがいないと、俺の負担がかかるし、オペの負担がデカくなる。最悪俺はオペレーターなしでも動ける。
連携もこの3チームなら、俺は遠中近の連携が出来る。これはチームにとって大きいと言える。
今まで混成で戦ったけど、連携は重要だし、トリガーの組み合わせは重要だな。となれば早く試したいな。色々と)
空になった器を片すと、スマホを開き、何人かに連絡を入れて、開発部に足を運ぶ。
(ただ、影さんのとこはやや自由なきらいがあるから、連携らしい連携はムズいかもな。A級に上がる気がないないのは痛手だ。というか、B級降格とかありえんだろ。
来馬隊は、言っちゃ悪いが、村上さんへの戦力に偏りがありすぎる。もうちっと、他の2人が動けるようになりゃな。俺が入って、指摘するのもどうかと思うしな。
那須ちゃんとこは那須ちゃんと熊谷ちゃんでそこそこバランス取れているが、肝心の志岐ちゃんは男が苦手だからな。それこそ、オペなしで動く手もあるが、長期的となると駄目だ)
息を深く吐き、愚痴を一つこぼす。
「勧誘は結構されんのに、希望したところに、入れるかどうか怪しいのはキツいな」
肩を落とし、開発部に足を入れる。
「トリガーチップ、交換お願いしまーす」
原作まで進まねえ。他の作品も進まねえ。なのに、新しい作品をやり始めたい。