全ての始まりは些細なことからである。
これは真実の一部を語る日常にして、ボーダーを脅かす元凶を産んだ話だ。
ある日常、大規模侵攻から時間が立った日のことである。
九条 辰馬は道場の真ん中に立っていた。
九条の家は元々武芸に秀でた家系である。剣術や槍術、様々な武器はもちろん、実践的な格闘術を受け継がれてきた。
しかし、時代と共に廃れていくのは目に見えており、辰馬の父は時代遅れだと言って、途中でやめだしてしまう。
一方で、辰馬と辰馬の兄は、「暇だからやるか」程度で祖父に付き合っていた。時代錯誤も良いところで、かなりスパルタだったのは、辰馬にとって忘れられない。
それでもめげずに続けられたのは、やっていれば小遣いを祖父から頂けるからだ。現金この上ないクソガキであった。
結局、大規模侵攻によって、祖父はおろか、九条一家は辰馬1人を残してこの世を去っていった。
「ふっ!」
道場内に床を踏む音が響き、ボクシングでいうシャドーを行っている。
家族を失い、残ったのは道場と耐震性の高い一軒家。それと祖父母、両親の財産だった。いや、祖父に与えられた武芸も残っている。
家族に数少ない財産を忘れないために、研鑽を怠ったことは一日もなかった。
忘れないためにも、傷つかれないためにも、二度と失わないために。
大規模侵攻後は、治安が一気に悪くなっているので、不良に絡まれる頻度が増えた。全て返り討ちにしているが。
右手には短い木の棒がナイフに見立ててられている。身に付けている服は、ジャージのズボンだけ。上のジャージとシャツは道場の隅に、乱雑に置かれていた。
シャツは辰馬の汗で重くなっている。長時間の運動をした証拠他ならない。意外にも九条の体は細く引き締まっており、筋肉の陰影がはっきりとわかるほどだ。
日課が終わると、来ていた服を家の洗濯機に入れて、シャワーを浴びる。それが終われば、冷凍庫から取っておいた米をレンジで長めに温める。
米を温めている間に、ネギを刻み、卵をとく。
米が温まるまで時間は余っており、辰馬はシンキングタイムに入っていた。
「今日は~どうする~」
オリジナルソングを口ずさみつつ、幾つかの真空パックを並べる。
「昨日はキャベツだったからな。今日はこいつかな」
辰馬が手に取ったのは、桜エビ。更に野菜室から一つの食材を取り出す。アボカドだ。
辰馬は炒飯を作ろうとしている。桜エビアボカド炒飯。これは酷い。
辰馬は基本的に食事を作る割合はあまりなく、基本的にコンビニ飯だ。よくて、米を炊いてお惣菜を買うくらいだ。辰馬自身も、祖母と母が作るような家庭的な食事が食べたいに決まっている。
放課後や特訓の後に料理は疲れるし、面倒なのであまり作らない。食器も増えるので、気力も奪われる。よくラノベの主人公が料理UMEEEEEEEEEEEEとかあるけど、料理の上手さよりも、毎日作れて食器の後片付け出来る方が凄いと、辰馬は思っている。
そこで折衷案として生まれたのが、炒飯だ。具材も自分好みで、洗い物も抑えられるので、辰馬にはぴったりだった。
そうして、夜10時に回った頃に二人分の炒飯が完成し、玄関から声が聞こえてきた。
「ただいま」
リビングにやって来たのは、進学校の制服に身を包んだ加古望であった。
「おかえり。炒飯出来たとこだから、先に飯にする?風呂も沸いてるけど」
「ご飯にしましょ。防衛任務の後だから、お腹ペコペコなの」
「はいよ」
平皿に炒飯を盛り付け、レンゲで食事を始めた。
「また炒飯なのね」
「炒飯バカにすんなよ。奥が深いんだぞ。様々な食材に合うのはもちろん、調味料の量で味を一変させる錬金術だ」
「そこまでかしら?」
「疑うんなら、今度一緒に炒飯作ろうぜ。食材から何やら買い揃えよう」
「ふふっ、楽しみね」
炒飯を一口、食べると二口も進んでいき、あっという間に平皿から、炒飯は消えていた。
「中々だったわね」
「お粗末さん」
加古の食器を下げて、汚れた調理器具と皿をさっと洗い終えると、再びリビングに戻る。リビングには、既に加古の姿はなく、風呂に入っているのだろうと確信した。
そうして、九条 辰馬の一日が終わる。
後日、炒飯作りに熱中する加古がいた。
彼女の炒飯に対する創作意欲、熱意は本物である。ボーダーでも話題だ。
加古チャーハン。
犯人はこいつ。
加古との関係よりも加古との日常を書きたかった。
その内、加古隊とか他の女子との日常も書きたい。