小さな泊地の無人提督   作:スズミ提督

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第三話「水雷戦隊、着任す」

 出迎えのために朧が海に出た昼頃には、件の水雷戦隊は泊地まで目と鼻の先というところまで来ていた。艦隊旗艦と思しき艦娘が、近づいてきた朧に声をかける。

「あなたが、クラビウスに先行して着任してた朧ね?」

「はい、そうです。第一水雷戦隊旗艦の大井さん、ですね?」

「ええ。それと、駆逐艦のみんなも…そういえば、みんな別々の拠点から来てるからちゃんとした自己紹介がまだだったわね。名前だけでいいからみんな簡単に挨拶してもらえるかな?」

「じゃあ、僕から…白露型、時雨だよ。みんな、これからよろしく」

「陽炎型駆逐艦、雪風です!よろしくお願いします!」

「…初雪、です。よろしく」

「響だ。Очень приятно.」

「アタシは、ここの秘書艦で綾波型の朧。よろしくね」

「そして私が、重雷装巡洋艦の大井よ。…ところで、まだ泊地の中の様子とかをあまり知らされていないのだけど、朧、着いたら泊地を案内してもらえないかしら?」

「はい、もちろん」

答えながら朧は、この五人が執務室で提督のことを知った時どんな反応を示すか、少し楽しみにしていた。

 

 提督の正体を知った水雷戦隊の面々は響を除けば概ね予想通りの反応を示し、泊地に着任してすぐの自分を見ているような気持ちに朧をさせた。しばらくすると皆その事実にすっかり慣れてしまったようだったが、これは上層部が艦娘の選定条件に「提督という存在に対する先入観が薄いこと」を入れた判断が功を奏したようだった。この泊地のもう一つのイレギュラーである給食システムはかなり好評で、連日の航海でヘトヘトの皆を大いに喜ばせた―但し初雪だけは、嗜好品の中にスナック菓子の類いが含まれていないことをしきりに残念がっていたが。

 皆の疲労を鑑みてこの日の作戦行動は一切なしとされ、艦娘たちは各々割り当てられた部屋で荷物の整理をすることになった。同室になった大井の荷解きを手伝っていた朧は、荷物の中から一つの写真立てを見つけた。開いてみるとそれは艦娘二人のツーショットで、一人は大井だがもう一人は見たことのないお下げ髪の艦娘だった。

「大井さん、この写真の人って誰なんですか?」

「ああ、その人は北上さんって言ってね、私と同じ重雷装艦なの。そして…私のかけがえのない人…」

「え?」

「北上さんはね、とっても優しくて、でも自分の主張は崩さなくって、それでいてどこか飄々としたところもあって…」

「…えーと、大井さん?」

 突然「北上」なる艦娘について熱く語りだした大井に困惑しながら、朧は薄々気づいていた。条件に当てはまるのは、自分のような新参者ばかりではないようだ、と。

 ドアがノックされ、朧が返事をすると入ってきたのは時雨だった。

「あれ、そっちはまだ荷解き終わってなかったのかい?」

「うん、途中で大井さんがあんなことになっちゃって…」

もはやこちらのことなど視界に入っておらず延々と語り続ける大井を尻目に、時雨はひとつ提案をしてきた。

「こっちはもう荷解き終わっちゃって、暇になったから泊地を探検してみようかと思うんだけど…よかったら案内してくれないかな?」

「わかった。大井さんは当分戻ってきそうにないし…実を言うと、アタシもまだ見てない場所もあるんだ。いい機会だし、一緒に見に行こ!」

話していると、雪風と響も入ってきた。

「探検行くなら、私も一緒に行っていい?」

「もちろん。どうせ行くなら、みんなで行ったほうが楽しいしね。響ちゃんもくる?」

響が無言のままこくりと頷くと、朧は立ち上がった。

「よーし、じゃあ行きますか!」

「「おー!」」

 

「ここが、この泊地自慢の大浴場。どう?かなり立派でしょ?」

「凄いね…まるで旅館の温泉みたいだ」

「見かけだけじゃないのよ。ここのお湯は本物の温泉なの。すごく気持ちいいから、楽しみにしててね」

「ここには、コーヒー牛乳の自販機はないの?」

「…それは、離島だから、ね?」

―――――

「そういえば、初雪ちゃんは?」

「あぁ…一応誘ったんだけどね、昼寝したいって部屋から出ようとしなかったんだ」

それぞれがクラビウスへの配属が決まった理由が、少しずつ見えてきた。大井は提督など眼中になく、初雪は引きこもり。響はあまり人付き合いが得意ではないようで、自己紹介の時以来ほとんど何も喋っていない。雪風は…

「雪風ちゃんは、ここに来る前はどこの鎮守府にいたの?」

「私は艦娘学校を卒業したばっかり。まだ新人なの」

「それなら、私と同じだね。時雨ちゃんは?」

「僕は…タウイタウイにいたのは覚えてるんだけど、なぜだかその時の記憶がほとんど無くって…ここに来るときは佐世保から出航したんだけどね」

「そうなんだ…」

時雨が記憶を失った原因を、この時の朧は知る由もなかった。

―――――

「ここは…応接室かな?」

「そうみたいだね。とっても豪華な内装…あっ、ちょっと雪風!?」

「すごーい!このソファー、ふかふかして気持ちいい!」

「あんまり勢いよく座っちゃダメだよ…それ、高そうだし…」

―――――

「倉庫には来たことあったけど、工廠まで入ったのは初めてね…」

「学校にいたときに見た工廠より、ちょっと小さいね」

「装備専門なのかな。そういえば、工廠なのに妖精さんが一人もいないな…ここも自動化されてるのかい?」

『そうだよ、シグ。工廠の設備も、基本的に全部私が単独で動かせるようになっている』

 執務室で対面した時に、名前が短い大井以外の四人は朧同様ハルからニックネームを与えられていた。英語式のニックネームはそこそこ好評だったが、自分たちが使うと気安く聞こえすぎるのでハル以外が使うことはほとんどなかった。

「なるほど。今までになにか作ったことは?」

「開発資材が無いから、まだ稼働させてはいない。しかし君たちが出撃で資材を獲得してくれれば、作ることはいつでもできるようになるな」

 

 泊地の探検を終える頃には、すっかり日は落ちていた。翌日から始まる出撃に備えて、艦娘たちは食事と入浴を終えると早々にベッドに入ったのだった。

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