魔女
実際の所、竜の判断は正しかった。
邪神の王たる山崎恵一は対戦終了後、一時的に帰宅し、その後十六夜アキに眠らされてアルカディアムーヴメントに連れて行かれたのである。
これは邪神の留守という偶然があったからこそできた奇跡であり、もしその場に邪神がいたら彼女の命はなかっただろう。
彼女の力では、神に到底かなう筈もないのである。
しかし、彼女は山崎恵一の誘拐を成し遂げた。
完全ではないとはいえ、邪神達の力の一部が残るカードの魔力を押しのけて、である。
では、なぜ彼女は邪神の包囲網を突破することができたのか。
時間は大会開催の時にまで遡る。
開会式の時、十六夜アキの心は穏やかなものではなかった。
その原因は、自分の隣に立っている男である。
山本恵介。
先程の紹介では山崎恵一と紹介されていたが、間違いない。
かつて自分が愛し、共に歩む約束をした大切な人物。
そして、自分のせいで無い罪に問われて消えてしまった人であった。
(せ、んせい…? ち、違う。 私は先生なんて知らない。 いや…! 思い出したくない…!)
最初、十六夜アキは信じられなかった。
いや、認めたくないという方が真実であった。
そして彼の存在を頭から消そうとした。
大会当日まで、十六夜アキは山崎恵一という人物を記憶から抹消していた。
それは、彼女は彼の事をどこまでも深く愛しすぎていたことが原因となっていた。
十六夜アキは彼がいないという現実に耐え切れず、数年前にディヴァインの勧誘に乗って、全てを捨ててしまったのである。
かつて彼とした約束も破り、拒絶の道を歩んでしまっていたのである。
アルカディアムーヴメントに入った後は、本格的に魔女として動くようになり、ますます人から遠ざかる毎日を送っていた。
それもこれも、全て山崎恵一という人物を忘れるためであった。
(もういや、苦しみたくない…。 先生なんて…知らない…。 お願いだからもう私を苦しませないで…!)
だからこそ、廃遊園地でも彼と再会した時、その事実を認めたくなかったのである。
しかし、見てしまった。
顔にマーカーを付けても変わらない。
かつてと同じ優しい顔。
それが、目の前にあった。
(あ…、………せん、せい…)
否定し続けて作っていた、脆いアイデンティティが崩壊していく。
止めることができない。
この数年をかけて、やっと捨てることができたというのに。
あの顔を見てしまったがために、簡単に戻ってしまった。
それほどまでに、彼との再会は尋常なものではなかった。
認めてしまったその瞬間、かつて逃れた苦しみがまた戻ってきた。
先生は、きっと自分を恨んでいる。
どんなひどいことを言われるか分からない。
今更、どの面下げてあの人と会えというのか。
かつて自分は先生との約束を破り、別の道を歩んだ。
その苦しみを感じたくないために、もう考えることすらない人形の道を選んだのだ。
それなのに、先生との再会なんてできる筈がない。
いや、あってはいけないんだ。
そう思うからこその、否認。
もし、先生と出会ってしまえば、今の自分は完全に砕けてしまう。
会いたくない、会いたい、会えない、会うべきはでない。
矛盾をはらんだ感情が、彼女をさらに蝕んでいってしまっていたのである。
その苦しみが、一気に彼女を襲っていったのだった。
(話しちゃいけない、そんな資格ない。 でも…、話したい。 また、またその手で…)
抱きしめてほしい。
そう思ってしまった。
否定に否定を重ねる冷徹な魔女は、彼という存在を見た瞬間、かつての少女に戻ってしまったのである。
(せん、せ…い…。 せんせい…。 先生!)
もう自分の気持ちを抑えることなどできなかった。
すぐにでも話したい。
大会なんて気にしていられなかった。
早く終われ。
そう思い続けていた。
そして開会式終了後、彼女はすぐに彼の下へと駆け寄った。
「あ、あの…! 先生…!」
喉がカラカラでうまく話すことができない。
しかし、確実に。
確かに声を響かせて、届かせる。
(先生、私を見て。 もう一度だけ…、私を見て…)
そう切に願った。
しかし、現実とは奇しくも残酷なもので。
「せ…、んせ…い…」
愛しの先生は、振り向かずに自分の部屋へと戻ってしまったのだ。
自分の声に足を止めることもせず、ただただ前へと、遠くへと言ってしまった。
「待って、先生… お願い…先生…」
唐突に胸が苦しくなった。
言いようもない喪失感と焦燥感が襲ってくる。
息ができない。
かつて、先生を失った時の苦しみを、再び感じてしまっていた。
「はぁっ…う…せん…せ…」
何度読んでも、先生は答えなかった。
やがて曲がり角に差し掛かると、その姿は消えてしまった。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ…)
再び現実を否認する。
分かっていた。
私は先生が堕ちてしまった原因だ。
許されないことも、分かっている筈だ。
だけど…
(やだ…やだよぉ…。 せんせい… せんせい………)
再度認めてしまった現実を、もう一度忘れることなどできなかった。
先生という存在を再び消そうにも、かつての幸せと、それを再び得られると思った淡い期待が、記憶の消滅を阻害する。
この苦しみから、もう逃れられない。
その事実は、すでに退廃していた彼女の精神をさらに蝕んだ。
「ひ…、やだ…せんせ…たすけ……」
許されるはずのない願いを唱える。
二度と得られない幸せを願う。
そしてそのことを分かっているからこそ、さらに胸の苦しみは増す。
まさに負のスパイラルであった。
その苦痛は、16年しか生きていない少女には耐えがたいものであった。
すべてを捨て、捨てたはずのものに縋り付く矛盾。
傲慢とも取れる願いを抱いていまい…
遂に限界が訪れた。
(せんせい…先生…先生…先生…!!)
精神が限界を超え、本来ではありえない思考が彼女の中で巡っていた。
理不尽な願いを現実のものだと思い込むことによって、心の崩壊をとどめた。
(違う、先生は私を愛してる…。 あの時だって、私の誓いを受け入れてくれた。 ずっといてくれるって言った)
その内容は、純粋な彼への肯定。
彼の態度を都合よく否定し、その真実を曲げようとした。
そこに、先程まで抱いていた先生への罪悪感はなく、ただただ歪んだ愛のみが満ちている。
かつて自分を抱きしめてくれた、一緒にいてくれた彼を再び想起させる。
まるで変っていない、優しく微笑む彼を思いうかべる。
(アは、先生…。 うん…私も先生の事大好き…)
ただ、ひたすらに彼を思う。
自分の中に、彼がいることを浮かべる。
そして、思考はさらに曲がって行く。
(そうだ、先生と私は愛し合ってる。 さっきの態度だって、先生に何かあったんだ…。 助けなくっちゃ…)
自分と彼との関係を正当化させるために、仮想の敵を作り出した。
愛しの先生は、誰かのせいでああなった。
だから、救えば元に戻ってくれる。
また、抱きしめてくれる。
そう思い込み、自らの思考を安定させる。
そして、その敵も決まってしまった。
(…そうだ、思い出した。 あの時のカード…)
矛先を向けられたのは、かつて少女が見た三枚のカード。
気持ち悪い巨人と竜と、球体が描かれたカード。
その中の一枚、最も恐ろしく感じたカードの名前を、彼女は覚えていた。
(邪神、アバター…。 あのカードだ…。 きっとあのカードのせいで、先生は…)
ここまで来てしまうと、もう思考を止めることはできない。
十六夜アキの中で、邪神という存在がどんどん憎悪の対象として大きくなっていく。
(あのカードから遠ざければ、先生は戻ってきてくれる! そうだ、そうに決まってる。 アハは、じゃあ、すぐに助けなくちゃ)
そう決断すると、彼女はすぐに実行に移した。
彼女はおもむろにポケットから携帯を取り出すと、自分が身を寄せている者へ電話を掛けた。
『どうしたんだい、アキ?』
「突然すみません。 ディヴァイン、スカウトしたい者がいました」
『スカウト? 君が何かを欲しがるなんて珍しいな。 それで、それは誰なんだい?』
「はい、フォーチュンカップに参加している山崎恵一、という人物です」
その言葉に、電話の向こうの人物は驚いた。
『…、山崎恵一…。 もしかして、先程邪神とかいうカードを使っていた人かな?』
「はい、そうです。 彼は私たちと同じ力を持っています。 しかし、邪神達に操られていて、助けなくては今後大変なことになりかねません」
嘘は言っていない。
彼は、邪神達に操れらている。
それは真実だ。
『…アキ、一つ聞きたいのだが…。 彼を救った場合、彼がこちら側に来てくれる可能性はあるのか?』
「はい、彼は邪神の呪いが晴れたら、必ず私の下に来てくれるはずです」
一切の淀みなく答える。
その言葉に納得したのか、ディヴァインは了承した。
『分かった、彼の救出をするとしよう。 しかしアキ、彼の持つ邪神は強大だ。 並みの能力者じゃ返り討ちだぞ』
「問題ありません。 その点に関しては私がなんとかします」
そう言って、彼女は恵一を連れだす作戦をディヴァインに告げた。
ディヴァインにとって彼女は優秀な戦力だ。
下手に妙な相手に手を出して、失ってしまってはどうしようもない。
そう思ったが、彼女の作戦を聞くとその確実性に納得したのか、受け入れたのだった。
『そうか…、分かった。 ならば、私は彼を連れて行くための人員を用意すればいいんだな?』
「はい、協力に感謝します、ディヴァイン」
『気にするな、アキのためだからね。 それじゃあ、成功を祈っているよ』
そう言って、男は電話を切った。
彼女は携帯を戻すと、すぐさま行動に出た。
(フフ…、待っててね、先生…)
その考えがどれだけ曲がったものかも知らず、ただ動く。
(あ、サブデッキ忘れた…)
大会終了後、山崎恵一は忘れ物に気付き、一端自宅に帰ろうとしていた。
(クソ、情けない。 こんなんで灰村さん助けられるのかよ…)
先程のデュエルは圧勝だった。
レベルアップを使われた時は少し焦ったが、バーン効果もあまり強くなく、難なく邪神を召喚することができたのだ。
「それにしても…、こいつらホントにいつでも来てくれるんだな…」
自分の切り札たちを見て、彼はそう言った。
やっぱちょっと異常だよな、コイツら。
異常に強いし。
何かこう、世界を揺るがすようなもんが乗り移ってたり…
………、まぁ、いいか。
別にそんな事気にすることないか。
ありえないありえない。
そう思うと、彼は次の試合に間に合うために、さっさと自宅に戻って行った。
「フフ…先生…」
後ろに元教え子がいるのにも気づかずに…。
部屋に着くと、彼はカードケースをあさり始めた。
「あー、これじゃないしこれでもない。 ヴぁー、なんでしっかりまとめなかったかなー…僕…」
そう愚痴りながら、カードをかき分ける。
(別になくてもいいかな…、いや、ミラフォとかあるし、あった方がいいに決まってる)
そう考えて、探すスピードを速める。
「んー、おー…。 お、あったぁー!」
底の底にそれはあった。
間違いない。
違うカードと混じっているか心配だったが、とりあえずそのまま残っていた。
「えーと今何時…、11時か」
時計を見ると、11に短針が向いていた。
次の対戦まで3時間ある。
「…、そこまで急ぐ必要なかったか」
一気に肩に入っていた力が無くなり、その場に座り込んだ。
「んー、となると逆に暇だなー…、いや、次戦う相手のカード見るか」
そう言うと、彼はスタジアムの方に向かおうと立ちあがた。
その瞬間、自宅のベルが鳴った。
誰かいらっしゃったみたいだ。
「うぇ? こんな時に? …、まぁいいか。 はーい、どなたー?」
デッキをその場に置き、軽快に入り口まで向かってドアを開けようとする。
しかし、ドアノブに触ろうとした瞬間、勝手にドアノブが動いた。
(ふぉ。 なんとも、アグレッシブな人だ。 新聞の勧誘かな?)
そう思って、すかさずチェーンを掛けようとした。
すると…
「先生…、私よ。 開けて…」
そんな声が聞こえた。
聞き覚えがある。
(どこだっけ? 最近聞いたような…聞いてないような…)
思い出そうとするが、思い出せない。
なんか、頭の中に黒い靄ができているようだ。
(まぁ、思い出せないならしょうがない。 先生って言ってたし、もしかして昔の生徒かな…?)
チェーンを掛けようとしていた手を放し、誰が来たのか確認する。
その姿を見て愕然とした。
「久しぶり、先生…」
「えーと、どなた…?」
整った綺麗な顔。
女性らしい丸みを帯びたからだ。
真っ赤で鮮やかな服。
明らかにおかしい大きさの胸。
美しい赤髪。
見覚えがない。
見覚えが…、赤髪?
…、もしかして…。
「…、十六夜さん?」
「フフ、変わらないわね先生。 わざとおちゃらけて、皆を笑わせる…」
おぉ、やっぱり十六夜さんだ。
変わったなー。
昔は美少女だったけど、今は完全に美女だな。
確か今は高校生、だっけか?
いや、おかしい。
なんだこの胸。
おかしいだろ。
半分出てるじゃん。
まさか、自分が見ない間にこんなにヤラシイ服を着るようになったなんて…。
「どうしたの、先生? 顔が少し赤いわよ?」
ふぉ!?
いかんいかん、何考えてんだ相手は生徒だぞ。
「い、いや、なんでもないよ。 それより、ホントに久しぶりだね。 最近どうだった? ちゃんと友達はできたかい…?」
「…やっぱり、カードを持ってなかったら、先生は元に戻ってる…フフ…」
十六夜さんは顔を曇らせてなんかブツブツ言いだした。
なんだぁ?
お腹痛いのかぁ?
「どうしたの? どっか体悪いのかい?」
「…いいえ、大丈夫よ。 …、それより、そのことでちょっと話があるの。 外に出ないかしら?」
彼女は僕を外へ促した。
んー…、どうしようか。
さっさと他の人のデュエルが見たいんだけど…。
…、んー、やっぱやめよう。
十六夜さんも大切だけど、今は灰村さんだ。
彼女を助けるために、少しでも情報を集めないと。
と、言うわけで丁重にお断りしよう。
「えーと、ゴメン。 キミとお話ししたいのも山々なんだけど、僕やらなきゃいけないことがあってね、直ぐにスタジアムに行かなきゃいけないのよね」
ホントに申し訳ない。
終わったら山ほど話をしよう。
そう付け加えようとしたとき、彼女に異変が起きた。
「…、どうして? 私を置いてまでスタジアムに急ぐ理由があるの?」
あー、こりゃ面倒になった。
十六夜さん拗ねちゃったよ。
子供っぽいとこ抜けてないなー、まったく。
(どうしよう、真実を言って巻き込ませるのはアレだし、でもある程度深刻な事を言わないと、多分許してくれないよな…)
「…、えーとね…。 最近仮面ライダーがね、地球から隕石をね…」
アカン、なんも思い浮かばん。
十六夜さんなんかうつむいちゃったし。
どうしよう、…逃げちゃおうか。
そう思って走る構えになった時、彼女は僕のお腹に何かを押し当てた。
「大丈夫、私が救ってあげる。 だから、安心して」
はて、何を安心しろと?
僕まだ何も言ってないんだけど…。
そう思った瞬間、僕の目の前は真っ暗になった。
「…フフ、おやすみなさい、先生」
静かに眠る彼を見て、十六夜アキは満面の笑みを浮かべる。
「さて、早く連れて行かないと。 邪神に感づかれないうちに…」
そうして彼を運ぼうとした瞬間、部屋の奥にある机に異変が起きた。
正確には、机の上にあるカード。
そのカードは突然震えだし、彼女がかつて見た黒い煙を出し始めた。
「…チッ。 邪魔をするな!」
ソレを確認した瞬間、彼女はポケットからカードを取りだし、その力を開放する。
するとカードから、無数の薔薇の鞭が飛び出した。
「いいわ、その調子よブラックローズ…」
自分のドラゴンの健闘を讃えながら、外で待っていたディヴァインの配下を呼び、彼を運び出した。
退散する瞬間、もう一度あのカードを見ると、先程まであった煙は完全になくなっていた。
おそらく、先程の攻撃で消失したのだろう。
「…おかしい、なんでこの程度の攻撃で…?」
少し疑問に思ったが、目的は達成できた。
その事実を確認して、彼女は足早に退散していった。
また愛しの先生に褒めてもらえることを想像しながら。
(アハは、先生、私やったよ。 先生のために頑張ったよ。 だから、後で一杯褒めてね…)
その後、異形の竜は帰宅し、王が不在という事実を知ったのである。
竜は空を舞う。
闇を纏い、自分の王を探し続ける。
探す相手は決まった。
後は見つけ、殺すだけ。
しかし、問題があった。
神であろうとも覆すことができない問題。
それが竜を焦らせていた。
『クソガァァ!! あのガキどこにいんだァァァァッッッ!!!』
そう、竜は太陽より十六夜アキがどのような存在かを教えられていたが、彼女が現在住んでいる所の住所までは知られされていなかった。
それは完全な落ち度であった
しかし、竜は太陽を咎める気にはなれなかった。
無理もない、王を見失うなど考えもしなかったのだ。
誰がこのような事態を想像できようか。
とにかく探し続けるしかない状態だった。
様々なところを飛び回る。
人がいない所、いる所関係なしに、探していった。
その途中、人が大勢いる所に出た。
(なんだぁ、ここ? …クソ、こんな所にいたら探すに探せねぇじゃねぇか…。 イライラしてきたなぁオイ!!)
そんな時…
『ッガアアァァ!! こうなりゃ辺り一面溶かしつくして…「ひ!? なに、あの竜…!?」…あぁ?』
誰かが、自分を視認していた。
ありえない。
霊体化している自分の存在を確認できる人間など、王以外に聞いたことがない。
誰だ、自分を見ることができるのは。
『クソが、なんでこうもあり得ねェ事ばかり起こるんだ!? 誰ダァ! ゴルアァッ!!』
「あ、うあぁ…」
「ん? おい、どうしたんだよ龍可」
『…ん?』
声がする方を見ると、そこには淡い緑色の髪をした双子がいた。
様子からして、見えるのは女の方だけか…。
なぜ見られたのかは分からない、人間には見られないはずだ。
…だが、ちょうどいい。
『おい、ガキ…』
竜はものすごい勢いで彼女のもとまで行くと、話しかけた。
「あ、あぁ…。 だれ…なの…?」
『…へぇ、ダメもとだったが、俺を直に見て言葉を言えるのか。 …んん? へー、よく見たらお前、アバター様が言ってたやつじゃねぇか。 …、だったら話せるのも納得だな…』
竜はその姿に見覚えがある。
十六夜アキと同様に、太陽が教えてくれた要注意人物の一人だ。
「あ、ばたー? 貴方…は…? なんで、こんな…ところ…に…?」
『おぉ、俺の名前はイレイザーってんだ。 まぁ、覚えても覚えなくてもいいわ。 ところで…、ちょっと聞きたいことがあるんだけどよぉ…』
「…なに…?」
『おいおい、そう怯えるなよ。 お前も他の奴らも殺しちゃいけないからな。 別に取って食やぁしねぇよ。 …、あのガキ以外はな…』
「…ひ!?」
竜は思わず殺気を出してしまい、彼女はそれに怯えてしまった。
『…あー、悪かった悪かった、冗談だ。 で、聞きたいことなんだが、十六夜アキって女知らねぇか?』
竜は彼女をこれ以上怯えさせないように、できる限り柔らかな態度で話そうとする。
殺気のない言葉にやっと安心したのか、少女は口を開いた。
「い、十六夜…? それなら、さっきこの大会に出てたけど…、どこかに行っちゃったみたいで…不戦敗になってたわよ?」
その言葉に竜は内心舌打ちを打った。
『…、そうか。 ………、なぁ、あの女の居場所が分かる奴とか知らねぇか?』
竜の言葉を聞いて、少女は少し考えると…。
「…、確か、あの人の関係者みたいな人が、まだここに残ってたみたいだけど…」
そう言った。
すると、竜は『そうか…ありがとよ、嬢ちゃん』と言って姿を消した。
隣にいた双子の兄や老人、個性的な髪形の人は、最後まで彼女が何をしていたのか分からなかった。
少女は、完全には理解できなかったが、とりあえず脅威が去ったことに安堵し、同時に不安に思った。
おかしい、突然現れたあの巨大な竜はなんなのか。
あんなもの見たことがない。
自分が迷い込む精霊の世界の住人なのか?
いや、違う。
あの世界に、あそこまで恐ろしく、異形な存在はいないはずだ。
突然現れた恐怖を目の当たりにし、ソレが消えた後も彼女は怯え続け、ずっと兄の手を握っていた。
ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。