いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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青年は、かなり参ってました。


逆鱗

逆鱗

 

少女から情報を聞き出した後、彼の行動は早かった。

すぐさまそこから姿を消すと、十六夜アキが使っていた控室を探した。

 

向かった先には、案の定少女が言っていた関係者らしき男が複数名いた。

 

竜はすぐさまその男達のうち一人のみを吊し上げ、十六夜アキの居場所を言うまで拷問を始めた。

他の男たちは何が起きたかも分からないままにこの世から姿を消した。

男にはすでに肢体の感覚が無くなっており、碌に抵抗することもできていない。

 

『オラァ! さっさと吐かねぇと一気にお陀仏だぞぉ!!』

 

その行為に一切の手加減はない。

どれだけ男たちが苦痛に顔をゆがめ、悲鳴を上げようとも決してやめない。

 

「ぎ、ギャアアあぁぁアァァアア!!!? や゛めろ゛ぉ! はなず! すべではなずから゛ぁ!!」

 

『あぁー? 聞こえねぇよ。 もっと相応しい喋り方ってもんがあるだろぉが!!』

 

竜は男の態度が気に食わないのか、情報を言うと言ったのにもかかわらず苦痛を与える。

情報の提示を目的としていたのに、すでにストレス発散にすり替わってしまっていた。

 

『テメェら! クズが! 勝手に! 王様を! どっかに! 連れてったんだろうがよォ!!』

 

「ヒギャアアあぁぁアアアアア!!!」

 

足、膝、腕、腹、胸、首。

死なない程度に、ありとあらゆる部分に風穴を開けていく。

いつ狂ってしまっても可笑しくない状況だった。

 

『はぁー、はぁー…。 ホントならこんなもんじゃ済まさねぇが…、おい、終わらせてやるからさっさと吐けや』

 

そう言って竜は男を地面に叩き落とし、解放した。

 

「ぐぁ!? ゲホッゲホッ…。 た、助けて…。 なんでもする…、まだ死にたくない…。 うあ…、ひぃぃ…。 誰か…、助け…」

 

『ア゛ぁ!!? 誰がンな事言えっつった!? さっさと居場所いわねぇと今度こそぶっ殺すぞゴラァッ!!!』

 

的外れなことを言う男を見て、竜はさらに苛立ちを募らせる。

しかしこの男、すでに小一時間ほど邪神である竜からの拷問を受け続け、すでに精神は崩壊寸前にまで至っていた。

まともに対話することなどできない。

まだ人語を発することができるだけでも奇跡だった。

 

「ヒぃッ!? やめ、やめて…。 嫌だ…、助け助け助け…イギィィあぁっぁぁああッッッ!!!」

 

そして竜の恫喝によって、たった今男の精神は崩壊した。

まともに機能しない四肢を芋虫のように這いずらせ、意味の分からない行動をとる。

その瞳に光はなく、口からは唾液が流れている。

 

「あひ…ひひ…ヒハハハはははぁ…いひひひいひひひいひひひひひひ…!!」

 

先程まで言えていた人語も喋れなくなり、笑い声しか出すことができない。

身を小刻みに震わせ、尿を垂れ流し始める。

その姿を見て、竜は落胆した。

 

『? おい…、チッ。 壊れやがったか、クソが。 せっかく楽にしてやろうと思ったのによ…』

 

だが、少しは気が済んだ。

王が消えたというストレスでかなり参っていたが、いつものように、冷静に状況を考えれるようになってきた。

 

…王?

 

『あ、やべ。 結局聞いてねェ…。 やりすぎたか…。』

 

冷静になったために、自分がやってしまったことに気付いた。

 

(どうしようか…。 これならさっきの奴らも殺さずにとっておけば…ん…?)

 

これからどう動こうが迷っていると、ふとテーブルの上に置いてある何かに目がいった。

よく見ると、ここら一帯の地図のようだ。

 

(地図…か…。 こうやって見るのは初めてだな。 えーと、多分ここが今の位置か。 …お?)

 

ジッと地図を見ていた時、一部が赤く塗りつぶされていることに気が付いた。

今まで行かなかった所のようだ。

 

…もしかして。

 

(…ここか? ここなのか? コイツらバカかよ。 こんなおおっぴろげに本拠地書いといていいのか…)

 

この位置がホントに目的地ならば、秘密組織の名が聞いてあきれる。

いや、どちらかというとしっかりとした情報管理をしないこの男に問題があるか。

 

『…まぁいいか。 場所も分かったし、行くか』

 

そう言って、竜はその場を離れて行った。

その際、部屋の隅でケラケラと笑っていた人間のなれの果てにとどめを刺し、自分の証拠をなくした。

 

 

 

 

 

「…んー、ん…?」

 

山崎恵一が目覚めると、目の前は真っ暗だった。

目を閉じているのではない。

しっかりと見開いているのに、見えない。

 

(なんだこれ。 …まぁ、動いてみるか…)

 

とりあえず寝ている体を起こそうと体に力を入れてみる。

しかし、起きない。

というより、動けない。

 

(んー…? なんだぁ…? 金縛りかぁ…?)

 

よく分からないが、動かないことには始まらない。

強引にも動こうとして、体をよじらせる。

 

(んしょ んしょ…、ダメだ、腕も動かない…あ、足なら少しは…)

 

脚部のふくらはぎより下はどうしてか動くのだが、それだけでは立つこともできない。

 

(うぃー…、とにかく動くか…)

 

だが、動くところがあるのなら、まだ救いはある。

山崎は少しでも現状を打破しようと考え、さらに体をよじらせていった。

すると…

 

 

 

「ん…んぅ…。 んあ…」

 

 

 

なんか聞こえた。

なんだろう、女の人の甘い声。

しかも聞き覚えある。

ついさっき聞いた…、そうそう十六夜さんの…。

 

(十六夜さん…さっき…サブデッキを……………!!! そうだ! 大会!!)

 

先程まで半分寝ていた頭が完全に覚醒し、事態をようやく理解した。

 

(い、今何時なんだ!? っていうよりここ何処だ? 十六夜さんの声がするのなら、近くにいるのか。 だったらすぐにでも…)

 

十六夜さんに呼びかけを…。

そう山崎は思い、声を発しようとした。

 

「フゴー、フゴゴ…ホガー……、フグゥ?」

 

声が出ない。

いや、出るのだが人語じゃない。

 

なんというか、くぐもってる。

そういや、さっきから顔が熱い。

ていうか、全体が熱い。

でも、気持ち悪くはない。

むしろ心地よいというか…。

 

「あんッ…。 ダメよ先生…。 悪戯しないで…んんぅ…」

 

そんな声が聞こえたと同時に、自分の拘束が強くなった。

そして山崎はようやく理解した。

 

彼は今ベッドの上にいる。

そして元教え子である十六夜アキに抱きしめられ、横になっていたのであった。

しかもこの十六夜という女。

自分の大きすぎる胸に山崎の顔を埋め、足を絡めさせて全体を密着させていた。

道理で動けない。

力も半端でない。

 

(いや、違うだろそうじゃない! なんでこうなってるのかも知りたいが、今は大会だろ! 今何時だ!? ここはどこだよ!!)

 

着々と進む時間を前に、山崎の焦りは増していく。

目の前の複数の異変を前に、どんどん余裕がなくなって行く。

 

「ぶぐ…ブハァ! い、十六夜さん! ここは!? ていうか今何時!? 早く大会に行かないと、灰村さんの薬が…!!」

 

無理やり彼女の拘束を解き、山崎は身を起こした。

すると十六夜も瞳を開いて、軽く背伸びをした。

 

「んぅー…、ッはぁ。 おはよう先生。 どうしたの? さっきまでスヤスヤ寝てたのに、突然起きたりして…」

 

 

 

(あれ、あんまりあわててない…?)

 

十六夜さんの様子を見て、僕はそう思った。

さっきまで僕に抱き着いて寝ていたところや、起きてすぐに猫みたいに背伸びしているし、なんていうか、この場所に慣れている。

 

「もしかして、喉乾いたの? …それなら、お茶がここにあるけど…」

 

そう言って、十六夜さんは近くにあった棚からお茶を出した。

…、そこって冷蔵庫だったんだ。

 

(…ここは彼女の部屋なのかな…。 さっきの様子から見ても、そう思っていいか…)

 

「いや、お茶はいいよ、ありがとね。 それよりさ、ここって十六夜さんの部屋?」

 

「えぇ、そうよ。 ここは私が身を寄せているアルカディアムーヴメントっていうところの施設なの。 これからは、先生もここに住むんだから覚えておいてね」

 

そうか、僕もここに住むのか…ん?

 

「ウェ? どういうこと? 僕の家はあのマンションなんだけど…。 ていうかそうだよ! 十六夜さん今何時!? 早くしないと大会が…」

 

「…大会? …あぁ、あれね。 あの大会ならもう決勝戦が始まっている頃よ。 私と貴方は不戦敗で失格になってるわ」

 

…は?

なんだ?

今この子はなんて言った?

不戦敗?

失格?

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 失格って…! ダメだよ! 僕は大会に優勝しないと、灰村さんを助けられな…グァッ!?」

 

最後まで言おうとしたとき、いきなり彼女に押し倒されてしまった。

彼女の顔が目の前まで迫ってきて、ちょっと怖い。

お目目が真っ黒だよ。

 

「…何言ってるの先生。 灰村さんって誰の事? 先生は私とずっと一緒にいるんだから、他の人の事なんて考えないで」

 

「君こそ何言ってるんだ! 灰村さんはキミのクラスメイトだっただろう! 覚えていないのかい? 彼女は今ゴドウィンのせいで眠らされてる。 僕が勝たないと、解毒剤が手に入らないんだよ!」

 

僕は必死に彼女に説明する。

最早一刻の猶予も許されない。

彼女の言うとおり大会が終わってしまっていたら、盗むことも考えなくてはならない。

途方もない焦りが僕を襲っていた。

 

しかし、十六夜さんは僕の様子など全く気にせず、微笑みながらゆっくりと顔を近づけてきて…

 

そのまま、キスされた。

 

「…!? ~~~!! ~~~~ッ!!!」

 

いきなりの事で、僕はさらに混乱した。

何やってるんだ彼女は。

先生をやめたとしても彼女は僕の生徒だったんだ。

こんなの可笑しい。

っていうより、彼女は僕の言ったこと理解してるのか!?

 

そんなことを思っていると、口の中に違和感を覚えた。

 

彼女に、舌を入れられたんだ。

 

「はむ…ジュルッ…。 んんぅ…、んふぅ…チュ…グチュ…んはぁ…」

 

艶めかしく、艶やかに、ディープなキスが襲ってくる。

どういうことなの。

ダメだ、思考がまとまらない。

 

そもそもなんで僕はこんなとこにいるんだ。

家にいたはずだ。

灰村さんは眠っている。

僕が助けないといけないのに。

ここはどこなんだ。

大会は本当に終わったのか。

だったら…、だったら灰村さんは…?

 

何が、起きてるんだ…。

 

 

 

しばらくしたら、十六夜さんは満足したのか口を放した。

 

「…プハァ…。 フフ、先生の口…。 すごくおいしかったわぁ…」

 

顔を赤く染めて、彼女はこちらを再度見つめてきた。

…、かなりかわいくなりおったな。

 

…いや違う違う違う!!

 

「そうじゃないよ! 灰村さんは今も眠ってるんだ! 僕が助けないといけないんだ! 十六夜さん、お願いだから解放してくれ。 クソ、こうなったら直接ゴドウィンの所に行って…」

 

そう言って立ち上がると、僕は外に出ようとする。

しかし、扉があかない。

 

「い、十六夜さん。 この部屋の鍵貸してくれない? すぐにここを出ないと…」

 

そう言って振り返ると…。

 

 

 

十六夜さんはまた目の前まで迫ってきていた。

 

「………………」

 

十六夜さんは、鼻と鼻がくっつきそうなほどの距離にまで近づいてきて、一言もしゃべらず僕を見続けている。

何だこの子、瞬間移動でも体得しているのか。

 

「………………!!?」

 

あまりに唐突だったので、思わず倒れそうになってしまった。

上げそうになった悲鳴を必死にこらえる。

 

「…先生……、どうして私から逃げるの?」

 

…、なんだ、何を言っている。

 

「あのカードから離したはずなのに…、まだ拒絶する…。 おかしいわ、こんなの…。 …そうよ、まだ体の中にアイツらの力が残ってるのよ。 だったら…」

 

ブツブツと彼女は何かを言うと、いきなりポケットからカードを取り出した。

なんでかわからないけど、今の十六夜さんは怖くて仕方がなかった。

早く離れないと、そう本能が告げている。

 

「…何をしてるの? どうしたんだ、十六夜さん…。 早く鍵…」

 

「大丈夫、私が助けてあげるから。 行きなさい、ブラックローズ…」

 

彼女は不気味な笑みを浮かべると、何かのカードを僕の前に出した。

…あれは、ブラックローズドラゴン…?

そのカードは怪しく光り出すと、いきなり植物の茎みたいなものを無数にだし、数本を僕に括り付けてきた。

 

「な、なんだよこれ! 十六夜さん、これは!?」

 

「フフ、分かってるくせに。 本当に先生はかわいい…」

 

ダメだ、話が通じない。

何言ってんだこの子。

 

「いざよ…グァ…!?」

 

僕を縛り付けていたモノの強さが増していった。

いかん、苦しい。

息ができない…。

 

「…、先生。 大丈夫、落ち着いて」

 

そう言って、彼女は縛られてる僕に抱き着き、全身を密着させてくる。

何だ、この茎みたいなものは。

彼女が操ってるのか?

いや、ありえない。

そんなバカなことあってたまるか。

 

彼女は普通の学生なんだぞ。

僕だってただの元教師だ。

変な力なんてあるはずがない。

オカルトなんて、この世にあるわけない。

 

 

 

…、でも、だったら、この力はなんだ。

気を少しでも緩めたら、意識を失ってしまいそうなほどの力で縛ってくる。

あきらかに殺傷能力があるだろう。

ありえない。

馬鹿げてる。

なんなんだ、この子は。

何が起きてるんだ…。

 

ダメだ、怖い。

目の前にいるこの子が、途方もなく、怖い。

 

「あ…、うあぁ…」

 

「先生、教えて。 貴方にとって何よりも大切なものは誰…? かつて、永遠に一緒にいると誓った相手は、誰かしら…」

 

彼女は何かを言いながら、僕の頬を優しく撫でる。

やめて、離れて…、嫌だ…。

怖い。

助けて…。

 

足がガクガクと震える。

焦点が定まらない。

碌な抵抗もできない。

 

「先生…、お願い。 早く答えてくれないと、もっと先生を傷つけなくちゃいけないの。 お願いだから、もとに戻って…」

 

…傷つける?

僕を…?

 

「…ッヒぃ!? やだ…、来るな! 助けて、誰かぁ! ここから出してェッ!」

 

彼女の言葉で、僕の我慢は限界に達した。

恐怖を振り切り、必死に逃げようと抵抗する。

全く動かない体をなんとか動かそうとして、助けを呼ぶ。

 

「…、そう。 まだ残っているのね…。 分かったわ、今度はもっと強めにしてあげるから…」

 

そう言って彼女は先程のカードを掲げる。

…!?

まさか、もっと強くなるのか。

やめてくれ。

これ以上されたら本当に死んでしまう!

 

「ぐ、グアアァァ!? 誰か、早く来てくれ! 誰かぁっっ!!!」

 

妖艶に微笑む彼女を前に、僕は必死に叫ぶ。

ダメだ、もう意識を保ってられない。

視界が黒く染まっていく。

 

…ゴメン灰村さん…。

 

耳も遠くなっていき、体の感覚もなくなっていく。

結局、僕は彼女を助けられなかった。

なぜ、十六夜さんがこんなことをしたのかも分からない。

あの力はなんなんだ。

なんで彼女はこうなってしまったんだ。

分からない…、何も…。

 

 

 

薄れゆく意識の中、僕が最後に見たのは、いつも使っているモンスターだった。

 

 

 

 

 

『王様ァァァァァァァァぁああアアアアア!!!!』

 

けたたましい轟音をあげ、竜は施設の中を回り続ける。

どこだ、王はどこにいる。

 

「クッ!? 報告にあった邪神か!? みんな集まれ! 奴を止めるんだ」

 

王を探していると、組織の下っ端らしき者たちが大勢出てきた。

姿は消していても纏っている闇まで消すことを忘れていた。

しかし、何の障害でもない。

 

『雑魚が邪魔すんじゃネェ!! 消えろカスがァぁっぁああああああアッッッ!!!』 

 

竜は大きく雄たけびを上げると、男たちは全員吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。

壁にすら、なっていない。

 

(どこだ、何処にいる! 早くしねぇと手遅れになっちまう!!)

 

王が不在であることを知ってからすでに何時間もたっている。

自分たちが消えていないことから死んでないことは分かるが、それ以外何をされているか分かったものではない。

竜は王の安否を心配しながら、必死に探す。

 

そして、見つけた。

 

『…!! あの部屋かぁ!!!』

 

自分の見ている先の部屋。

あの部屋から何か強い力を感じる。

王の部屋に残っていたヤツと同じものだ。

 

『オオオオおおおおオオおおぁぁぁァァァァアアア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』

 

未だ邪魔してくる男たちを吹き飛ばしながら、その部屋へと一直線に飛ぶ。

壁を壊し、天井を突き抜け、ただひたすら王の下へ。

 

そして、やっと王を見つけることができた。

しかし、同時にその光景は竜を絶望させるものであった。

 

自分たちが王と崇める山崎恵一が、十六夜アキによって縛られ、今まさに精神を壊されるところであった。

 

『ッッッ!!!! 何晒してんだボケがぁぁぁッッ!!!』

 

竜は一瞬で王に纏わりついていたモノを切り刻み、十六夜アキを部屋の隅まで吹き飛ばした。

 

「な!? キャアッ!!」

 

十六夜はいきなりの事に対処しきれず、そのまま強く体を打ってしまった。

 

『王様! しっかりして下さい! 俺です、イレイザーです! 心を落ち着かせて、自分を持ってください!!』

 

竜は必死に王に呼びかけ、回復を促す。

しかし、王は全く動かない。

 

『…こりゃあ!? ダメだ、かなりダメージがイッテやがる。 俺たちの呼びかけに答えないたぁ…、仕方ねぇ…。 我慢してくださいよ、王様ァッ!!』

 

そう言うと竜は体を完全な闇に変え、王の体に入って行った。

 

「…!? ダメ、やめて! 先生の中に入らないで! 私から先生を奪わないでぇッ!」

 

彼女は必死に止めようとするが、竜は止まらずにそのまま王の頭の中に入りきった。

 

 

 

 

 

『さて…、ここに来るのは久しぶりか…。 まずは…』

 

竜がたどり着いたのは、王の精神の部屋。

ゲーム機やカード、よく分からない書類やスーツ。

子供とも大人とも取れる、よく分からない部屋だった。

 

その部屋の中心で、王はうずくまって泣いていた。

いや、王ではない。

強いて言うならば、その姿は王の幼少期の姿である。

王であり、王で無い。

彼は、王の精神の姿であった。

 

『…王様、俺の声が聞こえますか…?』

 

竜は優しく声をかけた。

王は体をびくりと震わせ、静かに竜を見た。

 

「…イレイザー…?」

 

『はい、そうです…。 王様、何があったのですか。 貴方がこんなに怯えるなど、ありえないでしょう…』

 

「…聞いて、イレイザー。 彼女が…、十六夜さんが…。 僕を縛り付けて…迫ってきて…、早く灰村さんを、助けないといけないのに…うあぁ…」

 

王は途切れ途切れに竜に伝えると、頭を抱えてまた泣き始めていた。

 

(クソ、精神が限界まで来ている。 このままじゃ本当に自我を保てなくなるぞ…)

 

そう判断した竜は、強引に王を安定させようとした。

薄めの闇を発すると、ソレを王に纏わりつかせ、優しく包ませる。

 

「………温かい…」

 

王はその形無い闇を抱きしめるようにすると、ようやく微笑んだ。

それを見て、竜は次に行動に移る。

 

『王様、よく聞いてください。 あの女に妙な力はありません。 前に灰村岬とショーを見に行ったでしょう。 あの時の魔女役が彼女なのです。 貴方を縛っていた何かも、彼女が用意した小道具に過ぎません』

 

優しく、しっかりと王に言い聞かせる。

強引ではあるが、王の心を安定させる。

 

「…本当に? 本当にそうなの?」

 

『はい、彼女は今アルカディアムーヴメントという劇団に参加し、日々稽古を積んでいるのです。 今回彼女の部屋に連れてこられたのも、彼女の芝居を見てもらいたかったのでしょう』

 

本来ならば信じられないこと。

ありえないと否定するはずの言葉を、王は受け入れた。

 

「そう…なんだ…。 うん、イレイザーがそう言うんだもん、そうだよね。 …、でも、灰村さんはどうすれば…」

 

『ご安心ください、すでにアバターが動いております。 もう少し経てば、灰村岬はもとに戻っております』

 

実際は竜も分からないが、とにかく今は、王を安心させることが先決だ。

王は、目をトロンとさせ、竜の言葉にうんうんとうなずく。

おそらく、成功したのだろう。

 

『王様、貴方は少し御身を労わるべきです。 後の事は私が何とかします。 …ですので、今はお眠りになり、完全な回復をお待ちください』

 

そして竜は、王に最後の一言を言った。

王はその言葉に納得し、部屋にあったベッドに行くと、そのまま静かに眠りこけてしまった。

 

『おやすみなさい、王様…』

 

竜は王を優しく撫でると、外へと出て行った。

王は、心底安心しきったような顔をして、幸せそうに眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜が外に戻ると、十六夜アキが茫然とこちらを見ていた。

…ちょうどいい、ここでやってしまうか…。

 

『…よぉ、クソガキ。 ずいぶんと舐めた真似してくれたじゃネェか…』

 

先程までの優しい口調は嘘のようになくなり、乱暴なものになる。

十六夜はいきなり現れたそれに少し怯えたが、目の前に倒れる先生を見て、それを払拭させる。

 

「お前は…、あの時のカードの一枚か…。 先生を奪う、忌むべき存在…!!」

 

彼女はそう言うと、また自分の竜のカードを掲げ、現実に召喚させた。

大きな雄叫びを上げ、邪悪な竜を威圧する。

 

『…あぁ、あの時の竜かよ。 …くだらネェ、アバター様はなんでこんなのにやられたんだ…?』

 

そう言って竜は無数の闇の触手を出現させ、目の前の薔薇のような龍に向かわせる。

 

「!? ブラックローズ、あの邪魔な闇を焼き払って!」

 

ブラックローズドラゴンは彼女の呼びかけに応えるかのように唸り声を上げると、口から異色のブレスを吐き散らした。

そのブレスは闇を圧倒し、闇は動きをやめて徐々に後退していく。

 

『あぁ? なんだよ、ちったぁやるみてぇだな。 …そうか、だったらコッチもガチでいくか…。 一発で沈むなよォォオッッ!!』

 

そう言うと、異形の竜は頭部にある竜口にエネルギーをためる。

途方もない、闇の力が集約していく。

 

「…!? なに、このエネルギー! これが、邪神の力…なの!?」

 

十六夜はその力に押され、膝をついてしまう。

しかし、少しでも抵抗しようと考え、自分の竜に迎撃を命じる。

彼女の竜も口にエネルギーを貯め、渾身の一撃に備える。

 

『…、行くぞクソガキ、テメェだけはゆるさねぇ…。 喰らえやぁッ! ダイジェスティブ…『ちょっト待つダ、レイザー!』』

 

竜が凶悪なブレスを吐く寸前、二頭の竜の間に巨大な手が現れ、攻撃を阻害した。

竜は攻撃をやめ、十六夜も混乱している。

 

『な!? 何止めてんだルートォ! コイツはここで殺さなきゃ何ねーだろォがッ!!』

 

『…何言ってるダ。 ごの人はアバターざまの言っでた人たぢの一人ダド…。 殺しぢゃダメダ…』

 

『ンな事分かってるわボケ! いいか! コイツのせいで王様は廃人になりかけたんだぞ! コイツは後で絶対邪魔になる! 殺すべきだろぉが!』

 

十六夜は何が何だか分からなくなっていた。

先程まで強烈な力を発していた竜は、巨大な手と意味不明な抗議をしている。

 

(なんなの…、一体何が………、そうだ、先生!)

 

十六夜アキは思った。

先生を救うなら、今だ。

そう思い、化け物たちに悟られないように先生に近づき、その身を確保しようとした。

 

しかし、あとちょっとまで迫った時に竜の尻尾がソレを阻止した。

 

「く…、邪魔をしないで! 貴方たちは…、先生を使って何をしようとしているの!?」

 

『…、なんにも知らネェバカが…。 オメェらが当たり前だと思っててもなぁ、全てがそうだと思うなよ…』

 

「…なに…? 何を言ってるの?」

 

『言う義理はねぇよ、自分で考えろ。 …これだけは言っておいてやる。 王様はテメェらの好きにはさせねぇ、絶対に、だ…』

 

そう言うと、竜は王を自分に乗せて、外へ出て行こうとした。

ソレを見て、十六夜は必死にソレをさせないとする。

 

『ルート、話はあとだ。 とりあえず俺は王様を連れて行く。 オメェも早く戻ってこいよ』

 

『分がったダ』

 

「! やめて! お願いだから先生を連れてかないで! 考える! 貴方の言ったことも、今までの事も全部受け入れる! だから…!」

 

彼女の姿を見て、竜は落胆したように首を横に振る。

 

『ちげぇ…、ちげぇんだ…。 お前らがいる限り、王様は自由に生きられねぇんだよ…』

 

「いや、いやぁぁッ! 先生、行かないで、先生!!」

 

必死に呼びかけても、眠っている先生は応えない。

竜はそのまま外に出ると、彼を自宅に連れて行った。

もちろん、自分の姿を消して。

 

 

 

「先生…いや…、先生…」

 

竜が王を連れて行ったあと、十六夜アキは膝を折り、うなだれてしまっていた。

なぜ、どうして連れ去られてしまったのだ。

私は、何を知らないというのか。

彼女は、竜の言葉を理解できずに苦しんだ。

そこに…

 

『…ア゛ー…、ぞんなニ落ぢ込まな゛いデもいいダ…』

 

手の主が話しかけた。

その手は小さくなっていくと、その全体が見れるようになった。

 

異色の体。

骨のような鎧。

圧倒的な威圧感。

 

その姿に、彼女は見覚えがあった。

 

「…ドレッド…ルート…!」

 

それは、彼女がかつて見た邪神であり、大会にて山崎が使っていたカードであった。

 

「…お前たちのせいで…、先生は…」

 

『…ゾの事は謝るダ…。 でも、オウザマは、オラ達がいないとごの世界で生きでいげないダ…』

 

ある意味で予想外だった返答に、十六夜は驚いた。

 

「…お前は、あの竜みたいに乱暴じゃないのね…。 そんなに怖い姿をしてるのに…」

 

『…姿のごとは言ワナいで欲じいダ、オラも気にジデるダ…。 レイザーは…、オウザマのごとになるど、ちょっど…』

 

そう言って、魔人は頭をポリポリと掻きはじめた。

まだ、コイツとなら話ができる。

十六夜はそう思った。

 

「…、ねぇ…私は何を知らないの? どうして先生と一緒にいられないの? 教えて、なんでもするから」

 

『んん゛―…、残念だげド、ゾれは無理だド。 オウザマの事は、教えら゛れないダ…』

 

その言葉に、十六夜は苛立ちを覚える。

 

「なんで…! 私は、先生を救いたいの! お前たちも、自覚があるのならその手助けをして!」

 

『…御免ダ。 デモ、これだげハ言えるダ。 与え゛るごとと押じ付げるごとは違う…ダ…。 ホンドウにオウザマを救いだいなら、別の道を考えるダ…』

 

そう言って、魔人もその姿を消した。

 

(なんなの…、私は、間違っていたの…? 分からない、どうしたらいいの? 先生…)

 

 

 

一人だけになった部屋で、十六夜アキはただ考えていた。

 

 

 

 




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