いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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様々なところで、いろいろな疑問が飛び交っていた。




 

「…ん?」

 

目が覚めると、僕はなぜか自分の部屋にいた。

なんでだ?

 

(確か…、十六夜さんに縛られて…、それで…、灰村さんを…)

 

助けられなかった。

そう思った時に、頭の中に違和感を覚えた。

なんだろう、何か違う。

 

(えーと…、そうだ、確か彼女のお芝居に付き合ったんだっけか。 あー、もう。 なんでこう忘れっぽいかなぁ…、僕…)

 

そうだ、思い出した。

僕はあの時、十六夜さんのお芝居に付き合ってたんだ。

確か、彼女は劇団に所属してて…、頑張った成果を見せてくれたんだったね。

 

いやぁ、すごかったな。

まさか僕が騙されるなんて思わなかったな。

だって本当に縛ってきたんだもん。

突然だったから、殺されちゃうんじゃないかと思ったよ。

なんか力も強かったし。

 

…、あ、そうだ。

灰村さん…。

大会に参加できなくなっちゃったけど…。

 

…まぁ、優勝できなくても道はいくらでもある。

なんでか知らないけどゴドウィンは僕のカードにご執心のようだし。

僕自身には下手に手を出せないだろう。

その気になれば本拠地に乗り込めばいい。

うん、なんとかなる。

あわてちゃいけない。

 

僕はそう思うことができた。

いや、そう思うことしかできなかった。

なんでか知らないけど、他の事を考えられなかった。

まるでエスカレーターに乗っているのように、思考が一つの方向にしかむかなかった。

 

(うーん、不思議なこともあるものだ)

 

まぁいいか。

そのおかげで落ち着くこともできた。

ここで寝てるのも、きっと十六夜さんが送ってくれたんだろう。

後でお礼を言わなきゃね。

 

そう思って、僕は背筋を伸ばして軽く運動をすると、服を着替えてデッキを持った。

 

(この世界はデュエルで全てがまかり通る。 だったら…)

 

デュエルで勝てば、薬をもらえるかもしれない。

そう思った。

できれば手荒なことはしたくない。

ていうか、勝てる気がしない。

警察相手とか無理だ。

 

(…、とりあえず直接ゴドウィンに話ができる機会を…)

 

そう思って外に出ると、マンションの外に見覚えのあるDホイールが見えた。

あれは、…そうだ、不動のDホイールだ。

うん、間違いない。

あの真っ赤なボディは不動のヤツだ。

ってことは…。

 

「ん? 不動、お久しぶり」

 

「ッ!! ここにいたか! 恵介、…いや恵一か。 久しぶりだな」

 

「うぃ、ところで、なんで僕がここに住んでるってわかったの? たしか言ってないと思うんだけど」

 

そう、僕の居場所は彼に言ってなかったはずだ。

今僕が住んでいるのは前に住んでいた西区のマンションだ。

もう部屋ないんだろうなー、って思ってたけど、なぜかまだ残ってた。

いやぁ、よかったよかった。

 

「それなら、サテライトにいた時に岬から聞いた。 お前は教師のころからここにいたようだな。 …いや、それよりも、ここに岬が来なかったか?」

 

「え? いや、彼女はまだ眠ったままだよ。 キミも知っているだろ?」

 

タチの悪いブラックジョークを言うなぁ、この子は。

 

「…、やはり来てないか。 彼女のことで話がある。 込み入った話なんだが、一度上がってもいいか?」

 

どういうことだ?

よく分からなかったけど、僕は彼を部屋に招いた。

 

 

 

「…ここがお前の部屋か。 随分片付いてるな」

 

「モノが少ないんだよ。 趣味が特にないし。 あ、その箱だけは開けないでね。 カードが散乱してるから」

 

僕は不動に座布団を渡すと、とりあえず麦茶を取り出した。

元来、日本人は麦茶だ。

緑茶でも、紅茶でもない。

最強は、麦茶だ。

 

「はい、最強の麦茶です」

 

「? 何を言ってるんだ? …、まぁ、ありがとう」

 

そう言うと、不動は最強を一気に飲み干した。

 

「…それで…、一体どうしたのかな?」

 

「あぁ、お前があのフォーチュンカップの参加要因になった岬の事なんだが…」

 

うん、そのことが聞きたかった。

不動が彼女のことを話すなんて珍しい。

 

もしかして、恋に落ちた?

よーし、ならお兄さんめっちゃ応援しちゃうぞー!

 

「いや、それは違う」

 

あ、そうですか。

 

「それで、彼女の事なんだが…何と言ったらいいか…」

 

「…、まぁ、大会に出られなくなったのは僕のせいだし。 キミが気にすることじゃないよ」

 

あぁ、この子は灰村さんの事が純粋に心配なんだな。

完全に僕の失態なんだ。

彼が気にすることはない。

…、あ、でも突入するときにDホイール借りれたら…。

いや、やめとこ。

巻き込みたくない。

 

…、だけど、どういうことなんだろう…。

そう思いながら、僕は不動の言葉を待った。

 

「いや、違うんだ…」

 

そして、不動が言ったことは予想の範疇を大幅に超えるものであった。

 

 

 

「単刀直入に言うぞ。 ジャッカル岬が失踪した」

 

 

 

…は?

その瞬間、僕はまったく理解できてなかった。

しっそう?

疾走?

失踪…、………失踪!?

 

「ちょ、ちょっと待って不動! 彼女は今眠っているはずだろ! なんで居なくなったりするんだ!? いったい何が…!!」

 

「落ち着いてくれ、恵一! まず何が起きたか順に説明する」

 

そう言うと不動は、息を荒げる僕を落ち着かせて、何があったのかを教えてくれた。

 

 

 

 

 

俺はあの日、ジャックとのデュエルに備えるとともに、とある計画を立てていた。

それは、ジャッカル岬を救うための解毒剤の獲得である。

 

サテライトで知り合った山崎恵一の大会に参加した理由。

ソレを何としても彼の代わりに取ってやりたかった。

しかし、それ以外にも理由があった。

 

なぜ、そう思ったのか、それは第一回戦後まで遡る。

 

 

 

彼は大会にて、次の決戦を前に失踪してしまっていた。

噂では、対戦相手である十六夜アキに拉致されてしまった、と聞いた。

ソレを来た時、俺の中では怒りが止められなかった。

 

恵一が、彼女を助ける一心で、あの邪悪な神を使ったのだろう。

あの邪神。

確かデュエルキングである武藤遊戯が持っていた神と連なる三体だったか…。

伝説は本当だったんだな。

 

あれだけの闇。

あんなものが、この世にある事が信じられなかった。

抑えるには並大抵の精神ではできないだろう。

 

しかも、噂が本当ならアイツは死ねない体だ。

永遠に続く邪神からの闇に、アイツは苦しみ続けている。

そう思うだけで、胸が苦しくなった。

仲間になったというのに、恵一を助けることができない。

そんな自分が、情けなく思えた。

 

(いつか、助けるからな…、恵一…)

 

荒ぶる邪神を召喚したアイツを見て、俺は静かにそう決意した。

 

 

 

その後での、彼の拉致。

到底許せるものではなかった。

永遠を生きる彼にとって、仲間は決して失いたくない物だろう。

それを救うための権利を、奪われたのだ。

許す事などできない。

 

俺は恵一を助けるために、十六夜アキの関係者たちの所に向かった。

素直に教えるとは思っていない。

強引にでも、教えてもらう。

そう思って俺は、彼女の控室にまで至った。

 

 

 

しかし、目の前に広がる光景は、想像を絶するものであった。

 

「…! ……これ…は…!?」

 

惨劇。

言い例えるならば、それしか浮かばなかった。

壊れ、砕けた備品が散乱し、ガラスが一面に散らばっている。

彼女の組織のものと思われる書類がビリビリに破かれた状態で放られており、原形を保っているものなど存在していなかった。

そしてそれは、人に対してもあてはまる。

俺は、部屋の隅に人の影らしきものを見つけ、何があったか聞こうとした。

 

「おい! いったいここで何があった! しっかりしろ、おい!!」

 

俺は倒れるソイツを抱き上げ、介抱しようとした。

しかし、それすらできなかった。

 

「………!? これ、は…!」

 

真っ黒。

そうとしか言えなかった。

人の形を持つソレは、肌も、髪も、全てが真っ黒になっており、手を伸ばしたまま固まってしまっていた。

おそらく、何かから逃げようとしたのだろう。

 

(…ダメだ、死んでいる…。 何だこれは。 死因は、何が起きたんだ…?)

 

俺は手がかりを探すために、もう一度周りを見渡し…。

そこで、最悪のものを見つけた。

 

「…!!」

 

そこには、まだ肌を黑くしていない人がいた。

ソレを見て、少し安堵したが、すぐに消えた。

 

ソレはもう、人ですらなかった。

グチャグチャされ、二度と機能しないだろう四肢。

所々風穴を開けられ、潰されている胴体。

飛び出ている黄色を帯びた赤いナニか。

 

そして、まだ原形を残していた頭部。

その顔は、まるで幸せを感じているかのような、絶望しきったような、狂笑を浮かべたまま固まっていた。

 

すでに光のないその眼を見たとき、形容できない恐怖を感じた。

精神を揺さぶられ、立っていることができない。

座り込んでしまい、まともに考えることができなくなってしまっていた。

 

何が…、ここで何があったんだ…。

 

 

 

少し経ち、俺は自分を立て直すことができた。

一度深呼吸をして、状況を確認する。

 

まず恵一と十六夜アキの手がかり。

周りを見てみたが、とても情報と言えるものはなかった。

地図のようなものも見つけたが、すでに微塵になっており、解析ができない。

 

(雑賀に頼むか…?)

 

そう思った時、ある違和感に気付いた。

壁。

何もないはずの壁に何かができていた。

真っ黒いナニカ。

穴でもない。

傷でもない。

汚れでもない。

 

(なんだ、これは…?)

 

ソレに触れようとした瞬間、異変が起きた。

ソレはいきなり渦を巻くと、形を変えて大きくなり、平面である壁から抜け出て輪郭を確かなものにしていく。

 

そしてソレは、何かの腕になった。

緑色の、人間ではありえない色だった。

だが、この腕に見覚えがある。

 

「…お前は……邪神か…?」

 

そうだ、確かあの対戦で恵一が使っていたカード。

雲を突き抜けるほどの大きさを持つ、化け物。

確か、名前はドレッドルートだったか。

 

なぜ、ただのモンスターであるはずの此奴がここにいるのか。

それは分からない。

だが、何か手がかりになればいい。

そう思って、俺はソレに話しかけた。

 

『…ア゛れ? ここに゛もレイザーいなイの゛…?』

 

…、思っていたのと少し違うな。

なんというか、もっと、人間には理解できないようなものを覚悟していたんだが…。

 

まぁ、そんな事言っていられない。

 

「…お前は、誰なんだ…?」

 

『んオ゛? わ、見られタダ。 …ヴー、殺じたぐないンだども…、っでア゛れ?』

 

腕は強烈な殺気を放ってきたかと思うと、直ぐに引っ込めた。

…、なんだ、コイツは。

 

『…あ゛ぁー…。 だシか、ブどーユぜい…だっげカ…。 よがっだダ、おマ゛エなら殺ざなぐてもいいダ…』

 

「殺さなくて、いい…? どういうことだ?」

 

『…ゴメンダ…。 ゾれは言え゛な゛いダ…。 …ンが? おマ゛エは、オラを見でも怖ぐないダか…?』

 

…、この腕は、一体なんなんだ…?

ただの化け物ではないのか。

変に人間味を帯びているような…。

いや、そんな事よりも今は情報だ。

 

「…いや、怖いと思うが、大丈夫だ。 それより、教えてくれ。 この惨状は、お前がやったのか? …いや、それよりも、山崎恵一、お前たちの主はどこに行ったんだ?」

 

『いや゛、オラがやっだんじゃないだ。 どいうガ…、ひょっどシデ、オウザマを助げようどしてるダか…? だっだら安心するダ。 オラ達がなんどかするダド。 おマ゛エは大会にぜんねんするダ…』

 

…、状況はよく分からないが、とりあえず恵一の邪神達も動いているのか。

ならば、ジャックとの約束のためにも甘えるべきなのか…?

 

「そうか、だがジャックとの対戦までにはまだ時間がある。 何か手伝えることはないか…?」

 

そう言うと、腕はウロウロと周りを彷徨いながら唸り始めた。

もしかして、考えているのか?

 

『ん゛ー…。 あ゛。 だっダら…、ア゛の女の子のぐずりヲ取ッできで欲じいダ』

 

「薬…? もしかして、ジャッカル岬の解毒剤か?」

 

『んダ。 オラ達がオウザマをだすげた時に、あ゛のごが無事ダド…、えっど…ツゴーがいいダ…』

 

「…そうか、分かった。 彼女の薬はこちらでどうにかする。 そちらは任せた」

 

『ンだ、たのむダ』

 

そう言うと、腕はスゥーっと消えていき、どこかへ消えて行った。

…、邪神。

あれはいったいなんなんだ。

恵一は、一体何か知っているのか?

 

(分からないが…、とりあえずできることをしよう)

 

そう思って、俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

結論を言うと、解毒剤は簡単に入手できた。

突入時、ゴドウィンは大会に行っており不在だったために、特に障害となることはなかった。

セキュリティのロックにも必ず穴がある。

なんとかして侵入し、俺はそのまま薬をゲットした、というわけだ。

 

さっそく俺は岬の眠る病室まで向かった。

部屋に着くと、変わらず彼女は眠ったままだ。

…、とりあえず、これであの邪神との約束も守れる。

恵一も、彼女が無事なら安心するだろう。

そう思いながら、俺は彼女に薬を溶かした水を飲ませた。

 

「ん…」

 

しばらくすると、岬は目を覚ました。

よし、薬は効いたようだな。

 

「…岬、体の様子はどうだ…?」

 

俺が岬にそう言うと、彼女は何も言わずに周りを見て、最後に俺を見てこういった。

 

 

 

「…先公は…どうした…。 狂ったり…してねぇだろうな…」

 

 

 

狂っている?

 

「何を言ってるんだ、岬…?」

 

「あぁ、クソ。 自覚はないんだったな。 俺もこんな感じだったのかよ、腹が立つ。 ダメなんだ。 このままじゃ先公は、振り向いてくれない。 見向きもしない。 先公、先公…!」

 

「おい、大丈夫か岬…?」

 

「! 触るんじゃねぇ!」

 

彼女が心配になって手を貸そうとしたが、彼女はそれを払い除けると、勢いよく立ちあがった。

その眼は、光を宿していない。

 

「俺は、俺は絶対に先公を救う。 お前らの力なんて借りない! 俺の力で何とかするんだ! 見てろ、絶対に救ってやるんだ!!」

 

「!? 何をするつもりだ、岬!」

 

彼女は窓まで走りだし、そのまま勢いよく飛びおりた。

ガラスが割れる音が響き、辺りは騒然となる。

 

俺は、いきなりすぎて何が起きたか理解できなかった。

ここは六階だ。

いくらなんでも危険すぎる。

それなのに、彼女は飛び降りて行った。

それに彼女が言っていたことは?

恵一を救うとは、どういうことなんだ。

俺たちは、何をしてるっていうんだ…。

 

分からないことが多すぎて、俺はただ茫然とその場に立ってしまっていた。

そして、岬は見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時は戻る。

ここは、闇。

異形の者が集う場所。

大会が終わり、夜を迎えた頃、異形の竜がその場に降り立った。

 

王を救い、自宅に届けた後だった。

 

『…タダイまダ、レイザー』

 

すると、次いでそこに新たな住民が舞い戻った。

 

異色の魔人。

暴力を振りかざす、力の権化。

暴力の邪神、ドレッドルートである。

 

魔人はそのままゆっくりとイレイザーの下に来ると、そのまま背伸びを始めた。

 

『…ん゛ぁぁー…。 遠いどころに行っだがら、ちょっど疲れたダ…。 レイザー、ちょっど腰も゛んでほじ…』

 

『ダイナミック★ゴルァァァァァアアアアアああァァァァア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

 

『ウゴブェエエエええェェェ!!?』

 

竜はいきなり魔人に強烈な尻尾ビンタをし、魔人はその威力に負けて吹っ飛んだ。

いくら最強に近い防御力を持っていても、相手は自分と同じ邪神。

身構えもせずに攻撃を喰らうと、ひとたまりもない。

 

『い、イダいダ! いっだいどうじタダ、レイザー!?』

 

魔人は倒れたまま頬を手で撫で、理不尽な攻撃をした竜に抗議する。

竜はそのまま魔人の近くまで行くと、ギロリと睨みつけた。

その姿には黒いオーラが出ている。

 

『どうした、だぁ? よくもまぁその口が言えるよなぁオイ!』

 

竜は尻尾の先を殴っていない側の頬に押し付け、グリグリと押さえつけはじめた。

 

『テメェ分かってんのか? 俺たちの使命は王様の絶対的な勝利だろうがよ。 そのためならアイツらでも危険なら殺すべきだ。 そう思わねェのかよ!』

 

『イダダダダ…! お、オラもそヴ思うげども…、やっばり簡単にごろしぢゃイげナイだ…』

 

『はん! そんなだからテメェは甘いんだよ、そんなデカい図体してよ…』

 

『うぐぅ…、体のごとはやめで欲じいダ…』

 

そう言うと、魔人は腕で足を抱え、座り込んでしまった。

しかし、竜はそれでは止まらない。

 

『…、まぁ、それはいい。 問題は他にある。 …、テメェ、なんで遅れた?』

 

その言葉に魔人はビクゥっと体を振るわした。

おそらく、竜が何を言っているのか理解しているのだろう。

 

『テメェの任務はナスカとかいうトコの視察だっただろうが。 でもよぉ、その任務って王様が一回戦終わるまでに帰れないほどの難しさじゃねぇよなぁ…。 ていうか、アバター様がここを不在にさせるような無茶なシフト考えるわきゃあネェよなぁ!?』

 

『え、えっど…ゾレは…』

 

『おっと…、嘘つくんじゃねぇぞ…。 今日の俺は気が立ってんだ、半端な言い訳だったらもっとキッツいのくれてやるからな…』

 

そう言うと、竜は自分の尻尾をヒュンヒュンと大振りした。

邪神とは、一切の容赦がないものである。

 

『あ、あ゛の…ぞの…』

 

『んんー…? なんだってんだぁー?』

 

竜は聞きやすいように魔人の近くまで行き、そば耳を立てた。

すると、魔人は意を決したかのように竜を見つめると…

 

 

 

『…、ど、動物とあぞんでたダ…』

 

 

 

そう答えた。

 

『…あ?』

 

あまりにも予想外な答えに、竜はまるで理解できなかった。

 

『すまん、ちょっと耳が遠くなったみてぇだ。 もう一度聞くぞ…? お前は、いつ、どこで、何してたんだぁ…?』

 

竜はあえて、魔人にもう一度回答の機会を与える。

しかし、魔人の言ったことは一緒だった。

 

『だかラ…、ナスカの動物たぢとあぞんでて、おぐれちゃっだダ…』

 

『テメェ邪神の自覚あんのかゴルァアァアア゛!!!』

 

遂に竜の怒りが沸点を超えてしまった。

闇のオーラが吹きあられ、地鳴りが止まらない。

もし外の世界でこの状態になったら、相当恐ろしいことになっていただろう。

 

『俺らのぉ! 使命はぁ! 王たるぅ! 山崎恵一様のぉ! 守護だろうがぁ! その使命をほっぽって…、動物だぁあああ!? テメェどういう了見ダァ!』

 

そのあまりにも恐ろしい形相に同じ邪神である魔人も若干尻込みしてしまっている。

しかし、魔人は自分の失態が原因なために全く何も言えない。

 

『で、でも…、オラごんな体だがら、皆ごわがっちゃっで…、久しぶりに゛嫌わない子がいで…、うれじぐっで…つイ…』

 

魔人は縮こまると、竜にそう言った。

邪神は、異形であるがために他者からの親交は全くない。

協力することも、助けることも少ないのだ。

 

絶対的存在であるがゆえに持つ悩み。

それが孤独であったのだ。

ソレは、例え同族がいたとしても拭えるものではない。

そのことは、竜もよく分かっている。

 

だからこそ、それ以上の罰を与えることができなかった。

魔人の抱える寂しさを知っているからこそ、もう咎める気など起きなかったのだ。

竜は尻尾を引っ込めると、深いため息をついた。

 

『ハァーったく、お前は…。 どうせその動物とやらも殺してねぇんだろ?』

 

『き、記憶はちゃんど消したダ! だから殺ず必要なんでないダ!!』

 

『アホ。 この世界に絶対なんてネェ。 記憶を消したくらいで許されるかよ…。 …でもまぁ、今回だけは見逃してやる。 今度同じことをしたらキッチリとアバター様にチクるからなぁ!』

 

竜がそういうと、魔人の表情は晴れやかなものになった。

と言っても、表面上の顔はあまり変化せず、あくまで心情的なものである。

 

『あ、あリがどうダ、レイザー!! オラ、もうこんなごとじないダ!』

 

『うっせぇ! だったら次の仕事をしっかりしやがれ! ていうか、俺の名前はイレイザーだボケ!』

 

そう言って、竜は魔人の頭を軽く突いた。

邪神にも、心があるということだ。

 

 

 

そうしてしばらくたった後、魔人は竜に話しかけた。

 

『…ぞういやレイザー。 アバダーザマはどこにいっでるダ?』

 

『あ? …、さぁな。 アバター様は自分が何してるか教えてくれねぇし…、探る気にもならん。 何されるか分からんしな…』

 

『ンダか…。 なにやっでるダかナァ…。 もじかじで、砂漠の中を転がっでるがもしれないだ』

 

『はんっ! んな面白いことやってたら、人間の女の服着てスタジアムで踊ってやるよ!』

 

『ア゛ハハ! 確かに、ぞんなわげないダ…』

 

『オラ、バカ言ってないで王様見守るぞ』

 

『分がったダ』

 

 

そう言うと、魔人と竜は自分たちの王を静かに見守った。

 

 

 




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