黒印
俺は恵一を闇から救い出すために、スターダストの効果を発動して邪神を振り払おうとした。
その瞬間スターダストは強烈な光を放ち、俺の意識は遠のいていった。
辺りに光が満ち、気が付くと俺は見知らぬ場所にいた。
(…体が動かない…。 どういうことだ?)
なぜか体が効かず、動くことができないでいた。
周りを見ると、多くのカードが棚に置いてあり、部屋の隅では多くの子供たちがデュエルをしている。
しかし、置かれているカードは、俺たちが使っているカードばかりではなかった。
キラキラと光るカード、左下に信じられない数値が書かれているカード、女性が描かれているカード。
様々なカードが、その部屋にはおいてあった。
あっけにとられていると、左の方から声が聞こえた。
誰かが泣いている。
大声で、嘆いていた。
ソレを、自分の反対側にいるらしい違う誰かがなだめている。
仕方がない、運命だろと言っている。
なんなんだ…、これは、いったい…。
その時、部屋の住人らしき者が、隅の方に行ってとあるカードを持ち運んでいた。
とても丁重に扱っている所から、かなり高価なものなのだろう。
どんなカードか見てみたかったが、裏側しか見れなかった。
あの柄は、俺たちのカードと同じ…?
『…クハは…』
直後、俺はとてつもない寒気を感じた。
なんだ、あのカードは。
ただのカードにしか見えないのに、そこから途方もない邪気を感じた。
純粋な悪意。
どす黒い何かを発するそれは、部屋の奥に運ばれ、俺の視界から消えて行った。
(あのカードは…、いったい…)
「お、あった。 すいませーん、ちょっとここお願いできますかー?」
その時、誰かの声が聞こえた。
多くの人がいる部屋の中、その人の声がとてもクリアに聞こえた。
(…あれ…は…)
そこで、景色は途切れた。
「…ここは…?」
「あ、遊星! おーい龍可ー、遊星起きたよー!」
目が覚めると、俺は見たことのある部屋にいた。
龍可と龍亞の部屋だ。
「遊星、起きたのね! ホントに、心配したんだから!」
龍亜の言葉に反応し、エプロン姿の龍可がキッチンからやってきた。
…、いい匂いがする。
恐らく、おかゆか何かを作ってくれていたんだろう。
「…いったい…何があったんだ…」
「分からない、イレイザーの効果をスターダストが止めようとした時に周りが真っ白になって…、晴れた時には二人とも倒れていたの」
「二人とも…。 ! 恵一、恵一はどうした!?」
そうだ、あの時恵一の様子はおかしかった。
おそらく邪神の召喚時に心を操られてしまっていたんだろう。
もしあの時に救えていなかったら、大変なことになる。
「それが…、まだ起きなくって…」
そう言って龍可が後ろを向いたその先には、ベッドに横たわり未だ眠っている恵一がいた。
生きてはいるのだろうが、どうなってしまったのか伺えない。
その姿を見て、悔しさがあふれてきた。
「くそ…、俺があの時、もっとしっかりしていれば…!」
ジャックに勝ち、新たなデュエルキングになったとしても、俺は仲間一人救えなかった。
その悲しみが、胸を締め付けてくる。
恵一…。
「…、遊星が気にすることはないわ。 できることはしたんだもの。 あとは恵一さんがどうするか、だよ…」
龍可はそう言って俺を励ましてくる。
…そうだな、こんなところでうなだれている暇があったら、恵一を助ける方法を探すべきだ。
「…すまなかった龍可、お前の言うとおりだ。 …いつまでもこうしてはいられない。 俺は今から邪神について調べてくる。 二人は恵一が目覚めたら、どこかに行かないように見ていてくれ」
「ちょ、遊星!? 大変なのはわかるけど、今は休むべきよ。 せっかくおかゆ作ったんだから!」
「そうだよ遊星! このおっさんだって寝てるんだから、今は休まないと!」
「すまないが、それは恵一に食べさせてやってくれ。 時間が惜しい。 少しでも情報が必要なんだ」
「「…分かった」」
二人の返事を聞き、俺は外に出て行った。
Dホイールに乗り、ある場所へ向かう。
行先は管理局長官室。
あそこに、恵一の情報がある…。
「…恵一さん、大丈夫かな…」
遊星が出発した後、私は彼を見つめながらそう言った。
あの恐ろしいデュエルの後、恵一さんは目覚めない。
彼の事も心配だったけど、それ以上に気になったことがあった。
邪神 イレイザー。
彼が高らかにその名を呼んで召喚したその竜は、かつて私が出会ったあの恐ろしい竜だった。
あの竜は十六夜っていうあの大会の選手を探していたけど、その理由は全く分からなかった。
分かっているのは、その選手が使っていた控室で惨殺事件があったっていうことだけ。
死因も、犯人も分からない奇怪な事件。
私はあの竜が犯人だと確信していた。
そして、その竜を彼が召喚したんだ。
気になってしょうがない。
あの竜は自分で行動していたのか。
それともこの人が命令したのか。
そもそも何が目的なのか。
イレイザーは、悪い竜なのか。
知りたいことが、多すぎた。
(イレイザー…、貴方はいったい…)
ジッと彼を見つめ、そんなことを考えていた。
その時。
彼が、起きた。
「…!! 恵一…さん…!」
「どうしたの、龍可!? もしかして…、あ! おっさん起きたのか!」
彼は目をパチリと開け、勢いよく上体を起こして周りをキョロキョロと見始めた。
その眼を見て愕然とした。
白がなく、真っ黒な目。
深い闇のような黒を宿していた。
「…ふむ、ここは双子の家か。 なるほど、イレイザーの言っていた通りだな」
口調も、雰囲気も違う。
厳格な雰囲気を醸し出すその人が、私はとても恐ろしく思えた。
「あの…恵一さん…?」
「…小娘、私は王ではない。 …それよりも、川井静香、という人物を知らぬか?」
「け、恵一さん…、じゃない…? ふ、ふざけないでください! 貴方は恵一さんでしょう! それに誰なんですか、川井静香って「狼狽えるな、小娘」」
いきなり言われた訳の分からない言葉に混乱し、私は声を荒げてしまった。
だけど、恵一さんはそれを軽くいなし、話を続ける。
「私は一時的に王の御体をお借りしているだけの事。 すぐにお返しするつもりだ。 …その様子だと、あ奴には会っていないか…」
そう言って彼は考える素振りをして、独り言を始めた。
…、なんなの、何が起きてるの?
隣で龍亞も訳の分からない顔をしている。
「…あ奴、こちら側には不干渉か…。 何が目的なのだ…、外宇宙の力まで入手しおって…」
「ちょ、ちょっと待ってくれよおっさん! 外宇宙って、いったい何のこと言ってんだよ!」
「…、小僧、おぬしが知ることは何もない。 いずれ来る決戦に備え、準備を怠るな」
「な!? なに訳分からない事言ってんだ! それに、川井静香って…」
「知ってはならぬと言っているだろう。 ここで消されたいか…?」
声を荒げる龍亞に対して、恵一さんでないナニカが殺気を飛ばしてくる。
隙のない、底のしれない恐怖。
それが一気に襲いかかり、龍亞は勢いを無くして座り込んでしまった。
「…、ここを離れるか。 同じ場所にいれば、必ずあ奴は嗅ぎつける。 すぐにでも消えるべきか…。 住所も変えなくてはな…」
…!?
ここを出ていくつもりなの!?
「待ってください! 恵一さんの体はまだダメージが残っているの! 下手に動かしたら大変なことになるわ!」
「…案ずるな小娘、主の御体はすでに完治済みだ。 それよりも、お前たちは王の事は忘れ、今後に備えるのだ。 いいな、忘れるでないぞ」
私の忠告を無視して、ナニカは外へと歩き出す。
その時に、ナニカは体中から闇を出して私たちを恐怖させ、戦意を喪失させた。
止めようとしても、体が震えて動けない。
目の前の異質が、怖くて仕方がなかった。
でも、知らなくては…、せめて、あの竜だけでも…。
遊星の為にも、恵一さんのためにも…。
「あ…う…、…い…れい…ざー…」
「…なに…?」
必死に出した言葉に、ナニカは驚いたように振り返った。
同時に殺気が増し、龍亞に向けていたものが私に襲い掛かってくる。
「邪神…イレイザー…。 遊星とのデュエルで…、彼が召喚した竜よ…。 貴方は…、あの竜を知っているの…? 邪神とは…いったいなんなの…?」
お願い、それだけでも…。
「…、あの愚か者め、名まで明かしていたか…」
苦々しそうな表情を浮かべ、ナニカはそう言った。
今まで無表情だったナニカが、その時だけ表情を変えたんだ。
…、やっぱりコレは邪神を、あの竜を知っている…。
「…、あの竜は、今己がしたことに対して罰を受けている。 畏れ多くも王の眼前で、だ」
罰?
罰っていったい…。
「…あの竜は、何をしたんですか…」
「我らが誓いを破り、好奇心に駆られ王を敗北に貶めようとしたのだ。 当然の報いである」
そう言い切ってナニカは、再び振り返ると外に向かっていった。
「私が言うことはここまでだ。 私が先ほど言ったことを忘れるでないぞ」
「ま、待って! 答えになってないわよ! 邪神の、竜の正体を教え…、!?」
私の要求に対して、返ってきたのは真っ黒な刃だった。
何の動作もなく、彼の陰から這い出てきたソレは私の目の前でピタリと止まり、その圧倒的な存在感を放っている。
「あ、あう…」
「龍…可…」
震える龍亞が、心配そうにこちらを見てくる。
殺されるかもしれない。
でも…!
「お願い、答えて…」
震える手を握り締め、彼を睨みつけてそう言った。
もはや遊星との約束は守れない。
ならば、少しでも情報を得ないと…。
「…俺からも、頼むよ…」
気が付くと、龍亞も立ち上がり彼を睨みつけていた。
崩れそうな体を壁にもたれかけさせ、まっすぐに見据える。
「俺にだったら何してもいい。 だから、教えてくれ…」
「…本気か、小僧」
振り向くこともせず、ナニカは龍亞に聞いてくる。
ダメ、龍亞。
コレは、きっと容赦しない。
差し出すなんて、言っちゃダメ。
「龍亞…ダメよ…」
「何にも言うなよ龍可。 俺は兄ちゃんなんだ、妹に苦労かけさせるかよ…」
違う、そんなのダメだよ。
知りたいけど、そんな事…。
「…私を、殺してください」
「龍可!?」
「どうせ殺すなら、私にして。 私が言ったことなんだから…。 その代り、龍亞に手を出したら、許さないんだから…」
消えそうな声で、確かにそう言った。
後悔はない。
私が死んでも、きっと龍亞が遊星に言ってくれる。
あの竜の事が分からないことが残念だけど、もうこれ以外手がない。
私達は、開けてはいけない箱を開けてしまったんだ。
「…、話にならぬ。 やはりお前たちに言うことは何もない」
しかし、返ってきた言葉は残酷なものだった。
「な、なんで…! 何が、話にならないのよ!」
「その高貴すぎる精神が、だ。 少なくとも今は、お前たちには何も言えぬ。 今一度言うぞ、邪神の事は忘れろ。 そして、自分の戦いに備えろ」
そう言って、ナニカは玄関を爆発させ、悠々と去っていった。
空虚となった部屋。
そこで私は、悔しさと悲しさ、安堵が入り混じった感情でぐちゃぐちゃになった。
結局、何も知ることができずに生き延びてしまった。
「う…、くうぅ…」
あふれ出る涙が止まらない。
見ると、龍亞も同じだった。
安堵した自分が情けなかったのだ。
私たちは二人で抱き合って生きている喜びを実感し、自分のふがいなさを嘆いた。
助けることも、刃向うことすらも許されなかった。
そんな無力な自分が、許せなかった。
そして力を得ようと思った。
あの化け物に対抗できる力を、身に付けるんだ。
そして、邪神のことを、あの竜のことを知るんだ。
今度こそ負けない。
私は震える体に喝を入れ、静かに決意した。
ここは、闇。
知られることのない、虚無の間。
その空間に、とある人物が降り立った。
「…うぇ? ここどこ?」
邪神に王と崇め奉られる人、山崎恵一である。
彼は不動遊星とのデュエルの後意識を無くし、気づいたらここにいたのである。
「えーと、確か不動のスターダストがイレイザーに突っ込んで行って…そこから…、なんだっけ?」
全く思い出せないでいた。
とにかく、この訳の分からない状況を打破するために、出口を探そう。
そう思い、山崎恵一は歩みを始めた。
しかし…
「一寸先も、遠くの彼方も、全部真っ黒だ…」
全く風景が変わらない状況に、五分もしないうちに根を上げてしまったしまった。
遂には座り込み、ふて寝を開始した。
「ていうか、ここはどこなのさ。 おーい、ふどー、双子たちー、どーこー?」
ゴロゴロしながら、うわ言のようにつぶやく。
完全にあきらめムードであった。
しかし、そこに一筋の光明が現れる。
ガシャン
バックライトをつけたような音が後ろからして、山崎は気になって後ろを見ると、天から一筋の光が降りてきており、その光の先に人がいた。
中性的な顔。
茶髪の髪を刈り上げ、さっぱりとした髪形をしている。
ヒョロイわけでもなく、ゴツイわけでもない。
現代のイケメンと言えば、まさしく彼の様な者を指すのだろう。
そんな人物が、光の中で立っていた。
真っ赤なドレスを着て。
「…は?」
美人が着たならば誰もが振り返るであろう露出度の高いドレスを着たイケメン。
意味不明すぎた。
(なにこれ。 なんだこれ!? いったい何が起きてる!? この人だれ!?)
「えっと、貴方は…」
なぜか正座になり、山崎は女装イケメンに話しかける。
そして、女装は厳かに口を開いた。
「とりあえず王様、この度はデュエルを邪魔してすいませんでした」
ドレスのヒラヒラを両手でたたみ、地面に手を付けて土下座してきた。
シュールの一言であった。
「え? お?」
「只今より、アバター様より科せられた罰を行います。 お目汚しは承知の上ですが、どうか見て頂きたいです」
顔を真っ赤にして、イケメンはそう言ってきた。
眉間にしわが寄りまくっている。
そして、こちらに迫ってきた。
「は? ちょ、来ないで」
「スタジアムは死ぬ程キツかったので、刈り上げで妥協してもらえました。 もちろん、ルートからも承諾済みです。 さぁ、私の即席ダンスを見てください」
そう言うと、男は目の前で止まり、冒涜的な踊りをしだした。
見たものの精神をすり減らす、背徳的な踊り。
山崎は、そんな地獄を最前席で見せ続けられた。
「ひぎゃあああああ!?」
五時間も…。
「うわあああああぁァァァァアアア゛ア゛ア゛!!!?」
ものすごい勢いで飛び起きると、そこは自室だった。
滝のように汗が流れ、動悸が激しくなっている。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…。 い、今のは…!?」
信じられない。
夢であったとしても、許されない地獄だった。
「しかも、なんで途中で起きられないんだよ…。 他の夢なら、逆にすぐ覚めるのに…」
山崎は起きて冷蔵庫から麦茶を取り出すと、一気に飲み干した。
何度も深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「安心しろ、僕。 さっきの変態は、ただの夢だ。 友人でも、身近にいる存在でもない…!」
そう言い聞かせ、精神を安定させる。
そうだ、夢だ。
現実じゃない。
ただの妄想だ。
いや、妄想でもありえないが。
(とにかく夢だ、落ち着け…。 ………、よし、落ち着いた)
自分自身に暗示をかけ、無理やり冷静になった。
自分の記憶から消そう。
そう決意した。
多分デュエルした時に倒れちゃったから、不動が心配して自宅に送ってくれたんだろう。
心配させた。
後で菓子折りもってお詫びしに行こう。
うん、そうしよう。
グゥー…
その考えに至った時、急にお腹が鳴った。
そう言えば、おとといくらいから何も食べてなかった。
よく動けたものだ。
「…、ちょっとドライブしようかな…」
ついでにどっかのファミレスでバカ食いしよう。
そう思って、一応デュエルディスクとデッキを持って、愛車の軽自動車に向かっていった。
その時、ふと目に入った邪神イレイザーの頭部が妙に小さかったことが気になったが、すぐに忘れた。
「あー…、一杯食べたー…」
一時間後、山崎は近くのファミレスに着くと、手当たり次第食べたいものを注文し、全て平らげた。
うどん、そば、オムライス、ステーキ、コーンスープ、サラダなど、気になったものは全て注文し、一気に食べたのであった。
財布の中身が途中で心配になったが、店の中になぜか無人銀行があり、安心して食べた。
「うーん…どうしようか…。 まだ寝る時間でもないし、かといってサテライトに行くには準備が足りな過ぎるし…」
「失礼、貴殿は山崎恵一殿か…?」
いろいろ悩んでいると、後ろから声が聞こえた。
「んお?」
振り返ると、真っ黒なローブを着た黒人さんがいた。
日本語達者だな。
「えっと、貴方は…?」
「これは失礼、ご挨拶が遅れました。 私の名はディマク、貴方と同じ、悪しき神を操る者です」
そう言うと彼は懐から一枚のカードを取り出した。
あのカードは…
「おぉー、地縛神かー…。 ひっさしぶりに見たなー…、貴方はこれを使ってるんですか?」
「フフ…、やはり地縛神のこともご存知でしたか。 やはり底が知れませぬな」
いや、有名なんだからそれくらい知ってるよ。
確かフィールド魔法がないと自滅するんだっけ?
「まぁ、そのことはいいでしょう。 この度は、貴方を我らの下にお誘いしようと考えまして、こうしてやってきたのです」
ん?
我ら?
仲間がいるのか。
「えっと、どういうことですか? 僕何かこれといったものはないんですけど…」
「…そこまでの一般人への擬態の徹底、感服いたす。 しかし、我らとの間では不必要。 どうか素を出していただきたい」
いや擬態って。
僕は普通に一般人だよ?
素がこれだよ。
「あの、訳が分からないんですけど…」
「…あくまで恍けるか…。 …いいでしょう、神を持つものとして、屈服させて連れて行くまで!」
そう言ってディマクさんはデュエルディスクを構えると、辺り一面に紫色の炎が噴き出てきた。
不規則に走っていく炎は、何かの絵を描いているように見えた。
ただ、残念ながら巨大すぎるので、空から見ないと多分わからないだろう。
うっ、ちょっと吐き気が…。
「うぷ…。 …えーと、どういうこと?」
「分かるでしょう? これは神々の戦い。 歴史に記されることすらなかった貴方の邪神。 それを今、我が地縛神 Cusilluがお相手致す。 いざ、尋常に勝負!」
…なにがなにやら。
とりあえずデュエルがしたいのだろうか?
…だったら。
「はい、いいですよ。 僕なんかでいいのな「何やってんのよ! バカ先生!!」」
…おやぁ…?
聞き覚えのない声が聞こえ、振り向くと少女が一人立っていた。
ピンク色の髪。
少し赤い頬。
強い意思のある瞳。
そして、見覚えのある制服。
「…えーと、アカデミアの子かな?」
「っ!? な、なによ…、忘れたフリまでしなくてもいいじゃないのよ…。 そんなに恨んでるの…? …くっ! そんなの今はどうでもいいわ! アンタ、何をしてるか分かってるの!?」
?
何言ってんだこの子?
独り言が多い子だな。
「えーと、つまりどういうこと?」
「っ! ここまで言ってるのに…! もういいわ! 強引にでも連れ帰るから! 来なさい、紫炎!!」
彼女はデュエルディスクを構えると、何かカードをセットして召喚した。
あれは…、六武衆デッキの切り札「紫炎」か。
「やりなさい紫炎。 あのバカ教師を連れ出すのよ!」
『承知致した、姫。 ヌオオォォォォ!!』
あれ、今喋った?
…幻聴か。
いやそれよりも。
紫炎は彼女の掛け声に応じると、いきなりこちらに飛んできて、周りにあった炎を切り裂いた。
「なっ!? いくら精霊とはいえ、神によって作られた炎を容易く!!?」
「残念だけど、こっちもそれらしい力を持ってるのよ。 あくまで模した力だけど、パワーはそれに匹敵するわ。 そうでしょ?」
『うりゅー…』
おや?
またなんか聞こえた。
今度は違う声だ。
いや、どっちかっていうと鳴き声か…?
「そ、それは…! なぜ貴様のようなただの学生がそれを持っている!?」
「ふん! 直にボクの下まで来たのよ。 そこのバカのカードから守ってほしいってね。 まぁ、助ける代わりに私もこの子の力を使わせてもらってるけど」
なに、なんの話?
状況が掴めん。
とりあえず二人は顔見知りじゃないのかな?
そんなことを考えていると、さっきいた紫炎が僕の真後ろに迫っていた。
『御免』
「え? うおっ!?」
紫炎は僕を担ぎ上げるとものすごい高さを跳び、あの女の子のもとに降りた。
ちょ、これソリッドヴィジョンじゃないの?
どういうこと!?
新手のマジック!?
ディマクさんは、いきなりの行動に茫然としている。
ダメだ、分からな過ぎる。
「さて、嫌でしょうけど来てもらうわよ。 絶対に、アンタを闇に染めたりなんてしないから」
「は? 何言ってるの?」
「いいから、来なさい! 行くわよ紫炎!」
『ハッ』
そう言うと紫炎は再び僕を担ぎ、さらに肩に女の子を乗せて飛び立った。
どういうことよ…。
ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。