いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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幻魔との戦闘を経て、遂に世界は狂い出す。


ダークシグナー事件
反応


反応

 

「…そうか ではあちらも動いた、ということか」

 

「はい、続けて幻魔の存在も確認できました」

 

「…厄介だな… 早々に手を打つか…」

 

何処とも分からぬ館の一室。

 

アバターがディレを連れて消えていった時から数時間後、何者かが集まっていた。

数は四名。

一人が女性で、他は男性である。

全員が深くフードをかぶっており、その顔を見ることはできない。

 

「名前はツァン・ディレ かつて山崎恵一の教え子だった者だ …残念ながら幻魔との接触方法は分からなかった」

 

その内の一人がテーブルにパサリと写真を放る。

それには、山崎と別れた後にできたであろう友達と笑いあうディレが写っていた。

 

「調査が早いな、鬼柳 さすがは元最強チームのリーダーか 並みの行動力ではないな」

 

「…昔の話をするんじゃネェ! いくらアンタでも次言ったら殺すからな!!」

 

茶化すように昔話をした男に対して、写真を持っていた男は睨んで殺気を放った。

フードより僅かに見える髪は青白く、その瞳は黒く歪んでいる。

 

「クク、そう熱くなるな ただの戯言よ」

 

それに対し、茶化した男は涼しい顔で男を制する。

男は指先より闇を発現させ、そこより小さな蜘蛛を発現させる。

 

「…ルドガー様、その蜘蛛は?」

 

ソレを見て、最初に発言をしていた男が疑問を投げかけた。

その服は他の者たちと同じく黒を基調としており、所々に黄色いラインが走っている。

 

「なに、幻魔を操る少女と暴邪の君、そしてシグナー共への興を増やそうと思ってな ディマク、お前も次こそ彼の者を逃がさずに連れてこい」

 

そう言うと赤いラインの入った黒いローブを纏う者、ルドガーは外に数匹の蜘蛛を放った。

蜘蛛は己の主の命を全うするために、真っ先に標的の下へと向かう。

 

「…待って下さい、ルドガー様」

 

「なんだ、ローラよ」

 

しかし、それを遮る声があった。

ルドガーが振り向くと、そこには紅一点であるミスティ・ローラが立っていた。

 

「山崎恵一への攻撃は止めて下さい 彼は私が連れてくるわ」

 

「…何を言っている、それは私の任だ お前の出る幕はない!」

 

しかし、ローラの言葉をディマクは遮る。

ローラはディマクを睨みつけ、体の淵より闇を出そうとする。

 

「ふん、そう言って逃がしたのは貴方でしょう? それに彼は私の大切な存在よ、今度こそ邪魔はさせないわ」

 

「勝手な事を…!」

 

まさに一触即発。

直ぐにでも争いが起きそうな空気の中、ソレを制したのはルドガーであった。

 

「二人ともよせ そこまで行きたいのなら暴邪の君はお前に任せようローラ ディマク、お前は本来の任であるエンシェントフェアリーの封印の守護を続けよ」

 

「…ありがとうございます、感謝するわ」

 

「くッ…御意に」

 

ルドガーの言葉を聞いてローラは喜び、ディマクは悔しそうに頭を下げた。

 

「鬼柳、お前は予定通りしばし様子を見て、そのままシグナー共にデュエルを仕掛けよ」

 

「分かっている、やっとアイツを仕留められるんだ 容赦しネェ…!!」

 

全身から兇悪な闇を放ち、復讐に燃える男、鬼柳京介はそう言い放った。

全員の今後の動きを決めると、リーダーであるルドガーは全員に号令をかける。

 

「皆、よく聞け」

 

その言葉に、鬼柳も、ディマクも、ローラも振り向く。

 

「これより我らは本格的に行動を開始する 成功には栄光を、失敗には死を シグナーとの戦争に勝利し、我らの世界を築くのだ」

 

ソレを聞いて、三人は静かに頷くと部屋から姿を消した。

 

 

 

蝋燭の明かりのみが輝く部屋の中、ルドガーは嗤う。

 

「ククッ、シグナーに加え、幻魔や三邪神までもが我が壁となるか… 三位一体となり、我が暴走を止めてくれることを祈るか…」

 

そう言うと、ルドガーも姿を消し、部屋には完全な静寂が満ちていった。

 

 

 

 

 

しかし、ルドガー達は気づかなかった。

多数ある蝋燭のうちの一本。

その光があまりにも明るかったこと、そしていつもと違う異色を放っていたことに。

蝋燭はルドガーがいなくなったと同時にその炎を大きくさせ、部屋一面に炎をうねらせる。

 

そして、その中より何かが現れた。

その体は赤黒く、生きるものに恐怖を与える雰囲気を放っている。

 

『…ふぅ…、アバター様もメンドい仕事をくれるもんだぜ…』

 

その正体は、異形の竜であるイレイザーであった。

竜は先程まで蝋燭の一本に化け、ルドガー達の会話を聞いていたのである。

 

『それにしても、こんなに近くてもバレないたぁ…案外上手くいくもんだな…』

 

バレてしまった時には乱闘の一つでもかましてやろうかと考えていた竜にとっては、気づかれなかったことは少し拍子抜けだったりする。

竜は凝ってしまった肩をゴキゴキと鳴らし、周りの様子を見る。

 

『…なんとも陰気くせぇとこだな まぁ、俺が言うのもなんだがよ… それよか、次に王様の所に来るのはミスティ・ローラか…』

 

竜は太陽よりダークシグナーに関する情報を貰っていた。

全員がどのような人間であり、どんなデッキを持っているのか。

 

そして、ソレを知っているからこそ竜は疑問を持つ。

 

『なんで十六夜のガキんとこじゃネェんだ? アイツは弟の復讐をしたいんじゃねぇのかよ』

 

そう、竜はローラという人間が弟の復讐のためにダークシグナーになったことを知っていた。

そして、今はなぜか十六夜アキを仇だと思っていることも。

 

『んぁー…どういうことだ、よく分からん …いや、待てよ あの女の弟って確か…』

 

彼女の行動の理由を考え、その根源を探ろうとした。

そして竜は何かを思いつき、内心舌打ちをついた。

 

『…そういうことか…、だとすると王様がヤベェな… クソッ! 手遅れになる前に動くか!!』

 

そう言うと竜は自身に膨大な闇を展開させ、天井を突き抜けて外へ出る。

 

『まずはアバター様に報告、そこから非常時に備えてシフトを外してもらって「家」で待機…だな、よしっ!!』

 

己のすべき最良の行動を見つけ出し、竜は王の下へと飛び立つ。

自らの主を守るために。

 

そして竜が王の下についた時、空は明るく、光あふれる朝を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ、気づけば日が変わり、太陽が昇っていた。

正確には、午前の時が過ぎてすでに昼を迎えている。

 

学生が学校にて勉学に励み、サラリーマンが会社で働き、主婦は家事を終え休憩をするであろう時間。

 

そんな時、ある場所に無機質な声が響いた。

 

「対象が幻魔の片割れである神炎皇を持つ少女、ツァン・ディレを相手に漆黒の太陽を召喚し圧倒 その後ツァン・ディレが戦意を喪失し、ターンを放棄したことによってデュエルは決着した」

 

何処かはわからない。

薄暗く、温かさを感じない一面コンクリートで固められた空間。

周りにはモニターが多く存在し、それはネオドミノシティの全域を映している。

そんな部屋の中心で、声の主はパソコンの前に座っていた。

 

カタカタカタ…

 

機械音とキーボードを打ち続ける音しか聞こえない部屋。

そこで彼女は瞬きもせずに作業を続ける。

 

「その後、旧デュエルアカデミアにて別格の偉業を成し遂げたとされる遊城 十代が現れ、未来にて博士が提唱する予定である「闇の召喚条件の柱」と同じ内容の仮説を漆黒の太陽に投げかける…」

 

『ヴぁーい…』

 

「…大丈夫、無理はしてない 私は、これくらいじゃ壊れないから…」

 

無表情でモニターを見続ける少女、レイン恵は作業をする手を止め、自分を労ってくれたパートナーを見つめてそう言った。

ただし、その時も表情に変化はない。

 

『ヴぁーヴぁ…』

 

「うん、あとはこれをまとめて、彼のデッキのデータを抽出したら終わり」

 

レインはパートナーに対して抑揚のない口調でそう言い終えると、またモニターを見てパソコンを操作し始めた。

彼女はもう数時間も同じ姿勢で作業を続けているのに、その動きには一切の無駄も、ブレもない。

 

 

 

彼女は、とある研究者に作られた存在であった。

生まれたのは病院ではなく研究所。

何もわからず生まれ落とされた彼女は、父である研究者に使命を与えられ、学生を装って対象を見続けていた。

 

その事に対して罪悪感も何もなく、ただ任務を果たすために生き続けていたのである。

それが自分の生まれた意味だと、そう思い続けて。

 

 

 

「今回のデュエルにて、彼のデッキには威嚇する咆哮が少なくとも二枚ある事が判明 そして、チューナーであるゾンビキャリアとシンクロモンスターであるデスカイザードラゴンと呼ばれるモンスターを確認した」

 

彼女は昨日行われていた、山崎とディレのデュエルと全て観察していた。

いや、ソレだけではなく、山崎がドレッドルートを召喚したフォーチュンカップでのデュエルも、サテライトにてジャッカル岬を相手に行ったデュエルも、そしてそれ以前の教師時代の時のデュエルも、全て見ていた。

例外なく、一切合財、全てである。

 

それは、己の創造主が与えた使命を果たすため。

 

「なお、どちらにも隠された能力があると思われるが、今回のデュエルにてそれが明かされはしなかった 今後の調査にてソレを明らかにするとともに、直接対象と接触することを中心にして段階を進めることとする… …これで終わり」

 

彼女は最後の仕事を終え、「保存送信」と書かれたボタンを押した。

これにより彼女が入力したデータはコンピュータの中枢へと送られ、絶対に消されることが無くなるのである。

 

「ふぅ…、少し疲れた 何か飲み物はある?」

 

『ヴぁいッ!!』

 

パートナーはレインの言葉に反応すると、部屋の奥にあった冷蔵庫からペットボトルを取り出して彼女に渡した。

ソレを受け取ってゴクゴクと飲むと、彼女は呼吸を整える。

 

「ぷは…、体中に水分が回って、溜まった熱を発散できている…これが、「おいしい」… やっぱり、あの人が言っていたことは正しい…仕事をした後の一杯は…格別…」

 

彼女は水を飲み終えると、机の上にあったデッキとデュエルディスクを持ち、部屋の扉に手を掛ける。

観察対象に対して接触を試みるために。

 

「…ついでに、貴方の家族の所にも行ってあげる 多分、今もあの人と一緒にいると思うから」

 

『ヴぁ!? ヴぁッヴぁーい!!』

 

ソレを聞いて、パートナーは軽く小躍りをして喜ぶ。

しかし、それを見て彼女は笑わない。

笑えない。

そんな感情は、創造主より与えられてない。

 

だが…

 

「フフ、待ってて すぐに会わせてあげるから」

 

彼女は「笑うこと」を真似る。

笑うことは大切だと教えてくれた、対象である彼の言葉を聞いて。

自分を人と見てくれる、彼を知るために。

敵になるかもしれない自分を、生徒として優しく接してくれた彼のために。

 

「…でも、私は機械だから…」

 

彼女はそう呟くと、また無表情になって扉を開けた。

外には光が満ちており、今まで薄暗いところにいた彼女はその光を眩しく感じながらも、歩み始める。

 

「ついてきて、ハモン …自立型機動コンピュータ・ヒューマノイド型mk.34レイン恵 これより対象への直接干渉を開始する」

 

幻魔の雷を携えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

ネオドミノシティ、トップス層。

 

多くの成功者、富豪たちが集まる場所であり、そこには高いビルが建っている。

高い、大きいは人間にとって強さの象徴であり、綺麗に整備されている高級マンションやビルは、そこに住む者たちの経済的なレベルの高さを示している。

 

そんなトップス層の中でも、一際目立つ館があった。

近代的な造りの建造物が多い中、その館は中世のヨーロッパを思わせるようなレンガ式の大豪邸であり、前を通る者たちは例外なくその門を見てしまうほどだ。

 

「………」

 

そして豪奢なのは外装だけではない。

館の中は床が大理石で固められており、壁には名の知れた芸術家の絵や彫刻が飾られている。

さらに中には数百名のメイドや執事が揃っており、主の生活を隅々までサポートしている。

それに隙はなく、侵入者など存在しない。

 

「………」

 

そんな人類の栄華を極めたかのような館の庭に、その者はいた。

薄紫色の長い髪を二つにまとめ、絹のような白い肌を持つその者は、豊かな自然の生える見事な庭の中心にある椅子に座って書物を読んでいた。

隣のテーブルには数冊の本と紅茶が置かれており、ペラペラとページをめくる音以外に生じる音はない。

 

「…ふぅ、この本にもなかったわね… 当たり障りのない事ばかり…本当につまらないわ」

 

とてつもないスピードで本を読み終え、館の主である藤原 雪乃はそう呟いた。

 

その顔は人形のように整っており、氷のような冷徹さを感じられる。

 

「もう何百冊と読んでいるのに、あの人の記録はどこにもない… やっぱり、直接行くしかないのかしら…」

 

彼女は数年前から、暇さえあれば歴史に関する書物を読み漁る生活を送っていた。

その理由は、自分を射止めた存在について知るためであった。

 

いや、正確にはその者を縛っている悪しき神。

何十年も前から彼の体を蝕み続け、未だ存在する異物。

それに関する情報を知ろうとしていたのだ。

 

「デュエルキング、武藤遊戯がただ唯一エグゾディアの召喚を成功させた海馬瀬戸との伝説のデュエル… あの人はそれ以前から武藤遊戯と接点があった そして、あのカードも…」

 

彼女は別の本を取り出すと、該当するページを出す。

その本を含め、テーブルにある書物には多くの伏線が目印として貼られており、どれだけ深く読んだかを物語っていた。

 

「以後、ペガサス・J・クロフォードが主催したデュエルキングダムや、旧ドミノシティを舞台としたバトルシティ大会、そして詳細が分からない海馬コーポレーション内での派閥争いや、アメリカやエジプトでの騒動… その全てに彼は関わっている 例外はないはずなのに…その記述がない」

 

酷使させてしまった目を軽く擦り、藤原は言葉を続ける。

 

「デュエルアカデミアにおいてもそう 彼がいた頃に起きた怪奇現象についての記述は多少あるのに、肝心の彼に関するデータはまるでない…貴方達のことでさえ、ちょっと書いてあるのにね」

 

『…ラビィ…』

 

「フフ、気にしなくてもいいわよ、貴方が悪い事なんてないもの だけど…、どうしてここまで…やっぱり隠蔽されていると思うべきなのかしらね…」

 

藤原は背後に現れた「小さい相棒」を優しく撫でると、軽く背伸びをして残っていた紅茶を飲みほした。

そして立ち上がると、深くため息を吐いて館に向かう。

相棒はそんな彼女を見て、テーブルにある本やティーカップを持ってついて行った。

 

『ラービィ、ララッビぃ…』

 

「えぇ、いい加減待つのは飽きたの そろそろ此方から出向いていくわ」

 

彼女はすれ違う使用人に軽く挨拶をしながら自室へ向かう。

その歩みに、揺らぎは決してない。

 

「大丈夫よ、別に死にに行くわけではないのだから …それに、ある興味深い話を聞いたのよね」

 

『ビィ?』

 

「彼、昨日の夜に誰かとデュエルしていたようなの その相手がね、真っ赤な竜を召喚したっていうのだけど…もしかして、貴方の家族じゃないかしら?」

 

その言葉を聞いて、彼女の相棒は目を輝かせた。

精霊界にて、あの化け物じみた強さを持つ邪神を相手にして以来、彼は家族と離ればなれになっていたのである。

しかし、自分も普通の存在でないために気軽に誰かを頼るわけにもいかなく、途方に暮れていたところを藤原に偶然出くわしたのである。

 

『ラビィッ! ビエェールァ!!』

 

「フフ、あまりはしゃいじゃダメよ アッチに感づかれたら、こっちも動き辛いから 接触するまでは静かにしていてね」

 

『ラァビィ!』

 

彼女は自室に戻ると軽く化粧を整え、身支度をして外へと出る。

真っ赤なアカデミアの制服を身に纏い、腰に彼女の大切なデッキを携え、デュエルディスクを装着して家を出た。

 

「さて…数年ぶりね、今から捕まえに行くから待ってなさいよ恵一… フフ、逃がしはしないわよ? さぁ、ついてきなさいラビエル」

 

『ラビィ!』

 

まるで獲物を見る捕食者のような、冷たくゾッとするような、それでいて燃えるような情熱を感じる笑みを浮かべて、藤原は動く。

 

幻魔の皇を従えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じく、同時刻。

 

イレイザーによってディヴァイン率いるアルカディア・ムーブメントは施設の一つを手放すことになってしまっていたが、未だその力は健在である。

 

彼らは一つの所に戦力を集中させているわけではなく、多くの所に支部を築いている。

竜が滅ぼした施設はその末端に過ぎなかったのである。

 

さて、そんなアルカディア・ムーブメントの別の支部。

地下深くの研究施設にて、とある少女が泣いていた。

 

その髪は深い黒色であり、長い前髪を分けて流している。

そして右側の髪の束をまとめているゴムには、小さな髑髏の装飾があしらってある。

 

「試験番号25! さっさとデュエルを始めるんだ!」

 

「…やだ、もうデュエルしたくない…やだよぉ…」

 

彼女はある日突然誘拐され、気づいた時にはこの施設の牢獄に閉じ込められていたのである。

なぜか、理由は単純。

彼女にも、十六夜 アキと同等の力があったのである。

 

人を傷付けることしかできない哀れな力。

ソレを生まれた時から持っていた彼女は自分を深く毛嫌いし、デュエルすることすら拒否していたのである。

 

 

 

少し彼女の説明をしよう。

 

まず、彼女に親はいない。

名札が刺繍された毛布と共に、何処とも知れない場所に放り出されたのである。

サテライトにて生まれた彼女に、親の代わりに育ててくれる存在はなく、赤ん坊だった彼女はただ泣くことしかできなかった。

 

しかし、彼女は今生きている。

彼女を拾ってくれた人がいたからだ。

妙な片言が目立つ日本語を話す老人は、彼女を見て光る何かを感じ、連れて帰り育てたのであった。

 

そんな感謝するべき老人が彼女にデュエルを教え、その呪われた力を自覚させてしまったのだから皮肉なものである。

 

 

 

つまり、彼女にとってデュエルは義祖父が教えてくれた大好きな遊びである反面、二度とやりたくない事でもあったのである。

 

 

 

だが、それでも彼女はたくましく生き続けた。

いつか自分の力を役に立てたいと。

今は毛嫌いされても、いつか認められるようになりたいと。

 

義祖父は、いつも努力は必ず報われる、そう言ってくれていた。

だから、毎日頑張り続けたのである。

 

 

 

しかし、結果として彼女の努力は報われず、かえって彼女の首を絞めていった。

 

アルカディア・ムーブメントの研究員の一人が、そんな彼女の力を聞いて連れ出したのである。

自らの戦力を増やすために。

 

そして今の施設に運ばれた後、こうして能力の研究モルモットとしての毎日を送っているのである。

 

 

 

しかし、そんなことは彼女の知ったことではない。

役立てたい力を、傷つけるために使いたくなんてない。

やりたくないことを強要され、うずくまって顔を伏せてしまう。

 

「クッ、聞き分けのないガキが…また電撃を喰らいたいか!」

 

「ヒッ!? い、いやぁああぁああああ!!!」

 

研究員はそんな彼女を睨みつけて手元のボタンを押す。

それにより、彼女に付けられている首輪から電流が流れ、彼女にダメージを与える。

 

「あぐ、あああぁぁあああ゛あ゛!!」

 

「オラ! さっさとカードを引け! お前がやらないとコッチもデータを取れねぇんだよ!!」

 

数秒間電撃を与えて、研究員はボタンからその手を放した。

痛みから解放されて彼女は音もなく倒れ、涙を流す。

こんな理不尽を与える神を、世界を呪いながら…。

 

「ふぇ…、えぐ…もうやだ… やだよぉ… なんで、こんな力…」

 

「ハッ、ガキが… 泣いたら許してもらえると思ってんのかよ ほら立て! これが終わったらまた違う実験が待ってるんだからな!」

 

何週間も能力を強要され、彼女の我慢は限界まで来ていた。

 

楽になりたい、もういやだ。

あんなに頑張ったのに、どうしてこんな目にあっているんだ。

ただ、誰かの助けになりたかっただけなのに。

 

もう、何も感じたくない。

 

そんな考えが、彼女を支配していってしまったのである。

痛みが、苦しみが、彼女から正常な判断を奪っていく。

光のない目から涙を流し続け、彼女はそれでもいいかと思ってしまった。

 

人形として生き、この名前も知らないグループの一人として働き、敵を能力で倒していく。

所詮、自分の力はそんなことにしか使えないんだ。

 

こんなにつらいなら、頑張らなくてもいいではないか。

 

(そっか、私の努力って、全部無駄だったんだ…)

 

 

 

 

 

そう思って、遂に抵抗をやめて能力を行使しようとした時、光は訪れた。

 

 

 

 

「ちょッド待つダ、そごの人!!」

 

 

 

義祖父とは違う、変な訛りの日本語。

それが妙に印象的で、彼女は閉じかけた瞳を開いて前を見た。

 

そこには、趣味の悪いサングラスで顔を隠し…

 

「だ…れ…?」

 

「だ、誰だテメェは…!?」

 

ぼろ布のマントを纏った…

 

「ぜ、ぜーぎのヒーロ゛ーダド!!」

 

緑色の髪の少年が、変なポーズをして立っていた…。

 

 




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