Jの想い
「努力はいつか、必ず実を結ぶのデース」
おじいちゃんがいつも私に言っていた言葉。
「どれだけ苦しくても、諦めてはダメなノーネ」
「どこまでも愚直に進むことが肝要なのデアール」
おじいちゃんのお友達が言っていた言葉。
私はその言葉たちを信じて生きてきた。
頑張れば、努力すれば、進み続ければ、必ず光は訪れると。
だから、決して後ろを見なかった。
私を助けてくれた、大好きなおじいちゃんの名前に恥じないように。
おじいちゃんに拾われてから、私は他人にあまりほめられることはなかった。
何かあるとすぐに失敗し、周りからは「社長のお荷物」だと思われることが多かった。
作ったデッキも強くなく、おじいちゃんにはおろか、おじいちゃんがやっていた会社の社員の人たちにすらあまり勝てないでいた。
そんな私を見て、おじいちゃんは私を未完成であると言い続けていた。
だから、頑張り続けた。
頑張り続ければ、必ず認められる時が来るだろうって。
毎日本を読んで勉強をして、実技練習をして、諦めなかった。
そんな日が続いたある時、おじいちゃんから自分について教えてもらった。
捨てられていたとか、そんな事ではなくって、私の中にある力のこと。
私には、所謂カードの精霊さんとお話しする力があるみたいだった。
昔、おじいちゃんは同じ力を持っていたみたいだけど、自分の間違いを改めて力を失ったらしい。
おじいちゃんは変な目を使ってその力を起こしていたみたいだけど、私には先天的にあるそうだ。
確かに、私が使うデッキの子たちとは昔からお話ができていたし、デュエル中にアドバイスを受けていた時もあったけど、みんな同じだと思っていた。
皆が私を毛嫌いする原因が、お荷物であったこと以外にもあったということだ。
最初はショックだったけど、おじいちゃんは使い道を誤らなければすごい力になるって言っていたから、すぐに立ち直った。
逆に、この力を世界に活かしていきたいと思った。
他人を傷つけることも、助けることもできるであろうこの力を、皆のために、おじいちゃんのために使うんだ。
そうすれば、皆も笑ってくれる。
皆幸せになれる。
それをおじいちゃんやおじいちゃんのお友達に言ったら、微笑んで優しく撫でてくれた。
それだけで、私はどんなに辛くても頑張れる気がした。
あぁ、私が作りたいのはこういう世界だ。
おじいちゃんたちみたいに、世界中の皆を笑顔にする。
そう誓った。
でも、そう簡単にはいかなかった。
この世界は、異端をもっとも毛嫌いする。
私が自分の力を自覚しだしてから、社員の人たちからの拒絶がさらにひどくなっていた。
今までは、まだ抑えていたところがあったのだろう。
でも、おじいちゃんが力を教えたという事実を知ってからは、もう遠慮なんてなくなっていた。
挨拶も無し、会話も無し、視線を合わせることすらなくなってしまった私にとって、常に話ができる相手はおじいちゃんだけだった。
でも、おじいちゃんには心配させたくなかったから、自分のことは言えなかった。
今日は楽しかったと嘘を言って、自分を偽り続けていた。
お話をする時のおじいちゃんの笑顔が嬉しくって、そのために頑張ってきたのだから。
でも、おじいちゃんは私の目の前で死んでしまった。
真っ白な部屋の、真っ白なベッドの中で、安らかに死んでしまったんだ。
あの時の喪失感は、今も残っている。
本当にどうしようもなく、何もできなくなってしまう時があった。
だけど、私はそれでも努力を続けた。
おじいちゃんが死んで、社員の人たちからの拒絶がさらにエスカレートしていっても、追い出されてサテライトに戻ってしまっても、諦めなかった。
ずっとずっと、おじいちゃんの言葉を信じて、今まで生きてきた。
そして、私は今努力の末、訳の分からない人たちに攫われて力の行使を強制されている。
力を使わなければ、ビリビリする痛みを与えられて、体中が痛くなる。
でも、その人たちが使わせたい力は、私が一番発揮したくない力だった。
傷つけることしかできない、どうしようもない力。
いやだ。
私は、それをしないために今まで努力してきたのに。
何度も断った、拒絶した。
でも、許されなかった。
毎日罵倒とビリビリを与えられて、私の体はどんどん壊れていった。
夜も碌に眠れず、あの痛みを思いだしていつも震えてしまっていた。
助けてくれる人なんていない。
見てくれる人なんていない。
私はその時、初めて知った。
努力なんて、報われない。
誰も、見ない。
助けてくれない。
認めてくれない。
褒めてくれない。
励ましてくれない。
愛してくれない。
おじいちゃんが言ってくれていた言葉は、嘘だったんだ。
…だったら、もう頑張る必要なんてない。
力を思うままに使って、今まで私を苦しめてきた奴らを、粉々にしてしまえばいい。
自分だけが笑っている世界を作ってしまえばいい。
簡単な事だった。
「アは…、アハは…」
結局、無駄だったんだ。
光なんてないんだ。
(そっか、私の努力って、全部無駄だったんだ…)
じゃあ、もう我慢なんてする必要ない。
そう思って、自分の中のナニカを消してしまおうと思った。
その時
「ちょッド待つダ、そごの人!!」
闇を切り裂く声が聞こえた。
優しくって、温かくって、聞き心地のいい声。
おじいちゃんやお友達の人以外の、全く邪気のない声。
なぜか、胸が高鳴った。
諦めかけた夢が、もう一度花開いた。
ボロボロになって、震えてしまっている体にムチ打って、その声が聞こえた方向を見る。
そこには、先のとがった趣味の悪いサングラスを付けて、薄い黄土色をしたボロボロのマントを羽織った…
「ぜ、ぜーぎのヒーロ゛ーダド!!」
思っていたのとちょっと違う、微妙な光がそこにいた。
「…あ? なんだよ、ただのガキじゃねぇかよ…」
研究員は、突然研究に割り込んできた邪魔者を見てそう言った。
それもそうだろう、数名しか知らないはずの施設の奥深くにて自分の研究を止める輩などいる筈がない。
そう思い緊張して見た其処には、そこらの空き地で遊んでいるようなただの子供しかいなかったのだ。
「どっかの部屋から逃げ出した実験体か オラ、優しくしてやるからコッチに来いよ でなきゃ、テメェも痛い目に合わすぞ」
そう言って研究員は緑髪の少年に向かって歩き出した。
その手には特殊な首輪が握られている。
「なんだ、首輪が取れてんのかよ 手間かけさせんじゃネェよガキが」
「…イダイ目にア゛うのは、おマ゛エダド…」
「あ? おーおー、随分怖い事言ってくれるじゃんか ホラ、碌に喋ることもできてないのにどうするんだ? やってみろよ!」
研究員は、少年の妙な喋り方をバカにして両手を挙げて挑発した。
少年を見てバカにするような表情をし、どうせ何もできないだろうと高をくくっていた。
しかし、その表情はすぐに崩れる。
否、表情を変えることすら許されなかった。
「…必ざつ、レバーブロ゛ー…」
少年は研究員に向かってパンチを放った。
腕さえあれば誰でもできる、至極簡単な攻撃だった。
しかも、それをするのは中学生にもならないであろう子供である。
通常ならば避ける必要もない。
しかし、その規格がおかしすぎた。
音速を超える神速。
音を、そして光すらも置き去りにする、本来あり得る筈のないスピード。
時の流れすら凌駕するであろうスピードが、少年から繰り出されたのである。
そこから放たれたパンチは大人の発達した堅牢な骨を易々と砕き、中の内臓に直接ダメージを与えたのだ。
痛いなんてものではない。
痛みを感じる暇すらない。
研究員は、バカにしたような表情のまま横に倒れ、泡を吹いて気絶してしまった。
「…手加減はじたダ ………、でもぎゅーぎゅー車は呼ぶダ…」
そう言うと、少年はおもむろに懐から携帯みたいな何かを出すと、病院に電話した。
秘密結社の支部の位置が公表される瞬間であった。
「…あ、あの…」
「ハい゛、なぜがオラが来だとぎには倒れでて…はイ゛、あどはお願イ゛じまずダ」
「あの!」
「む゛ー…、ちょっど、電話しでるガラあどで………エ゛?」
少女の呼びかけに少年は築いて振り向くと、なぜか顔を青くして固まってしまった。
滝のように汗を流し、通話中だった携帯を落としてしまっていた。
先程のパンチをした者とは思えない姿だった。
「…大丈夫?」
「ヤバいダ不味いダこまっだダ どうじよう我慢でぎなぐて出てギダげどモ…、うワ゛ー、ごれぜっだいレイザーに怒ラれルダ!」
少年はウガーッ、と叫びながら頭を掻きむしり、ダンダンと地団太を踏み始めた。
何か大切な事を破ってしまったのだろうか。
少女はそんな少年を見てそう判断した。
そして、少女は少年の傍まで寄って、肩を叩くと。
「えーと…、だ、大丈夫…ですか…?」
そう尋ねた。
その言葉にやっと少年は自我を取り戻した。
「ハッ!? お、オラはいっだイ…! ぞ、ぞうダド! バレる前に゛なんどかじないど…! ギミ、名前は!?」
「え!? わ、私の名前は…」
少女は、自分をどう言おうか言葉を詰まらせた。
今の自分は、どう呼ぶべきなのだろうか。
見たこともない母が付けてくれた名前を言うべきなのか。
はたまた、義祖父が与えてくれた新たな名を付け加えて名乗るべきか。
いや、もしかしたらどちらを言う資格もないのかもしれない。
義祖父の言ったことを破り、暴走しかけてしまったのだから。
そう思ってしまったのである。
「………」
「ンお゛、どうジたの? 大丈夫?」
少年は少女を不審に思って、その伏せる顔を覗き込んだ。
「え!? う、ううん、何にもないよ 大丈夫…」
いきなり眼前に現れた少年の顔に驚いたが、少女はどうにか返事を返す。
しかし、その内に抱えていた不安を隠しきることはできなかった。
少女の眼は汚れきり、瞳から二つの滴が流れていた。
ソレに気付いたが、少女は止めることができなかった。
(ダメ、助けてくれた子の前で… この子は何も関係ない… だから…)
この不安を、言ってはダメだ。
自分の中で押しとどめなくては。
今までも、そうしてきたではないか。
おじいちゃんにやっていたように、笑顔で大丈夫だと言うだけだ。
慣れているではないか。
苦しみを押しとどめ、ただ頑張ってきたんだ。
助けられた今、もう諦める必要なんてない。
そう少女は思い、あふれる涙を何とか止めようとする。
だが、一人で生きるその困難さ、苦しさを自覚してしまった彼女にとって、涙を止めることなど不可能であった。
そんな中、その涙を止めたのは奇しくもその少年であった。
「…泣いデるダ?」
少年は少女の涙を拭い取り、少女の肩を優しくたたいた。
「…オラはギミの苦労ヲじらないし、理解ずるこどモデギなイダ… でモ、今だけハ頼っでクレでもいいダ 抱えずぎタラ、駄目になっぢゃうガラ…」
そう言って、優しく微笑んだ。
その笑みは、かつて自分が愛した義祖父のソレにそっくりであり、そして見たこともないはずの存在を連想させた。
(…ママ…パパ…)
その瞬間、少女は少年に抱き着いていた。
気づけば、思うままに泣いていた。
せき止めていた思い、感情、その全てを少年にぶつけた。
先程までの涙とは違う。
悔しさや惨めさではなく、ただ激情を響かせた。
誰かにぶつけたかった、自分だけの想い。
それを少年に叫んだ。
少年は、ただ泣きじゃくる少女の頭を撫で、静かにあやし続けた…。
少女はひとしきり泣いた後、少年に向き合っていた。
「ごめんね…ありがとう、全部受け止めてくれて…」
「お、オラ、ベづにぞんナこど…」
「ううん、貴方のおかげで、私は自分を吐き出すことができた… …ねぇ、貴方の名前は?」
少女は、少年に突然名前を聞いてきた。
その問いは自分が聞いていたというのに、いきなり投げ返されて少年は戸惑ってしまっていた。
しかしこの少年、変に律儀なところがあるのか何も言い返さず、彼女の問いに応えようとしてしまった。
本来の名は、言ってはならぬというのに。
「エ!? あ、えード…、どうじよう…」
少年は狼狽え、迷っている様子を見せて今度は頭を抱え始めた。
なぜか、少女はそんな姿を見て可愛く思っていた。
その数分後、少年は意味不明な言葉を呟きながら。
「ど、ドレッド…いや、ルート…ヴーん…ドレル…あ゛ー… ルートルートルートルートルートルートルートルートるーと… ……………とーる…」
そう答えた。
「…透?」
「ぞ、ぞうダド! オラの名前はドオル ドオル・ゼロだド!!」
透・ゼロ。
本名なのか偽名なのか、絶妙にあやしい名前。
だが、少女はソレに満足した。
「そう、透君って言うんだ… ねぇ、透君 貴方はこれからどうするの?」
「どうずるっで?」
透は頭上にハテナを浮かべながらそう聞いた。
少女はそんな彼を見て苦笑をすると、説明を始めた。
「この施設にいてもどうしようもない、じゃあ逃げ出さなければならないけど、何処に逃げようか、ってこと」
「…あ゛、ぞーカ… ………! だ、だったラいいトコがあるダ! そごに連れて行ぐダ!!」
透は少女の言葉を聞いていきなりそう言ってきた。
その目は輝いており、先程までの焦ったような、困っているような感じがない。
「そこって、どんなとこ?」
「あの゛ネ、マーザってひとガやっでる家で、やざしいヒドが一杯いるダ! ………うん、こうずれば直接的にハ関わら゛ないじ…、コロザなぐても済むダ…」
何か穏やかではないことも聞こえたが、とりあえず少女は無視した。
それほどまでに、自分を受け止めてくれた透の事を信頼できていた。
盲信。
会って間もないというのに、ある意味では狂っているかのように少女は透を見続けた。
それは子供の純粋さからか、はたまたそれ以外の何かなのか…。
「…分かった、貴方が良いのなら連れて行って…」
少女はそれに気付かずに透の手を持つ。
その手は緊張しており、なぜか顔も熱く感じた。
だが、ソレがなんなのか少女には分からない。
内に芽生えたそれを自覚するのは、おそらく数年も先なのだろう。
「…わがったダ… ジャア、目をつぶるダ…」
その瞬間、少女の周りに闇が幾重にも迫ってきた。
少女はなぜか恐怖を感じず、その闇に身を委ねる。
やがてその闇は少女の髪で隠れている右目に集中していき、ナニカを形作る。
太く、不規則に広がるそれは、明らかに意思を持って動いていき、形を作っていく。
知っている者ならば、それをウジャト眼と呼んだだろう。
知る者ならば今の彼女の姿は、まさしくかつての義祖父であった。
闇を纏い、己の身に余る何かを納めた人間。
今の彼女を表すのならば、ソレが一番合うのだろう。
そして少女は、宿りつつある力の強大さを感じ取っていた。
だが、少女は恐怖しない。
次第に意識を奪っていく闇受け入れ、優しく抱きしめる。
そして完全に意識を失う一歩手前に、一つ過ちを犯していたことに気付く。
「ま、待って!」
自分は、まだ名前を言ってない。
立ち直させてくれた彼に、自分を教えていない。
「私の名前はあゆみ! あゆみ・J・瀬良だよ!!」
そう言い切って、彼女は今度こそ意識を失った。
瀬良あゆみとしての自分。
義祖父の遺志を受け継いだ、誇り高きJの想い。
その二つを受け入れ、少女は新たな一歩を歩み出した。
闇は、そんな彼女を祝福するかのように、荒々しく吹き荒れていた。
それが良かったことか悪かったことか、知るのもまた闇のみである。
「なるほどなー、それでお前はアイツと会ったってわけか、遊星」
「はい、十代さん」
夕暮れ時。
太陽が山崎とディレを連れて去った後、不動遊星たちは遊城十代達と会合し、状況の説明をしている。
不動たちは遊城たちの騒動を近くで見ていたのである。
すぐに向かっていくべきだとも考えたが、十六夜や川井が出していた壮絶な殺気や遊城の力を目の当たりにし、不用意に突っ込むよりもまずは事の流れを見るべきだと判断したのである。
そして遊城達や不動達はそのまま行動を共にし、山崎の捜索を始めたのであった。
その中に十六夜や川井、そして不動と一緒にいた双子もいる。
「そういや、お前は恵一の奴の情報を手に入れたと言っていたが、その中には何があったんだ?」
「…私も、その情報を見てみたいです。 まぁ、大した情報はないでしょうけど」
「不動遊星、私にも見せてくれないかしら?」
そして今、話の話題は不動が入手した情報であった。
遊城や十六夜はかなり興味を持っていたが、川井はあまり気にしてはいなかった。
彼女はリアルタイムで山崎の動向を見続けていたのだ、どうせ有力な情報などないと思っていたのである。
「…いや、その事なんだが… 中身はやはり大したものではなかった アイツが不死である事、そして邪神の事が曖昧に書いてあるだけだったんだ」
「別に気にすんなって! 情報なんて後で本人から全部聞けばいいんだからよ いや、本人っていうか本神だがな」
「「遊星…」」
申し訳なさそうに顔を伏せると、それを遊城と双子が慰めた。
「…やっぱり… でしたら、もう私がここにいる必要はないですね…」
「私も… 先生は自分で助けないと、意味なんてないのだから…」
逆に、十六夜と川井は必要なものが手に入らないと知った瞬間、分かれて単独行動をすると言い出した。
もとより彼女たちは一人で行動しようとしていたのである、無理に一緒にいる必要などないのだ。
「ちょ、ちょっと待てよ二人とも!」
しかし、それを遊城が止めた。
「戻って一人で探すのもいいけどよ、やっぱり皆で探したほうが早いって思わないか? ネオドミノは広いが、これだけ能力を持った仲間がいればすぐに見つけられるはずだぜ!」
確かに、ただの人間だけしかいなかったのならば難しいが、今いる人間の大半は何かしらの能力を持っており、捜索能力も格段に上だ。
これを使わない手はない。
いくら邪神が相手だとしても、何処にいるかぐらいならば分かるだろう。
不動や双子もそれを理解しているからこそ、彼女たちに期待の眼を向けた。
だが、彼女たちはそれを良しとしない。
「…何か、忘れてはいませんか?」
先陣を切ったのは川井だった。
「私たちは仲間なんてものではありません 協力する道理なんてないでしょう?」
「まぁ、そうかもしれないけどよ… 協力すれば、それだけ早く動けるだろ お互い思うところがあるかもしれないけどさ、ここは皆で…「いい加減に、黙ってください」」
遊城はなんとか彼女を説得しようとしたが、川井はそれを途中で遮った。
その眼には静かな殺気が込められている。
「恵一さんは私のものです 貴方たちなんかに渡すつもりはありません …それか、無理にでも協力させますか? 力で…」
彼女は恐ろしい波動を放ち、デュエルディスクを構えた。
「…協力は、できないのか…」
「えぇ 私はもう元には戻れない …お兄ちゃんの言葉を遮ったあの日から、一人で歩き続けると決めたのだから… 貴方もそうでしょう、十六夜さん」
彼女は、先程まで事の顛末を眺めていた十六夜に話しかけた。
十六夜は否定も肯定もせず、ただ川井を睨みつける。
「………」
「先程は殺し合いになりそうになったけど、本当の意味で私は貴方の一生懸命なところが大好きですよ 同じ人を想っていなかったら、応援したいと思ってしまうほどに」
川井は静かに彼女を見つめ、真っ直ぐに言葉を伝える。
その眼は先程のような狂ったものではなく、かつての無邪気な少女の物であった。
「ただ一人のために走り続ける貴方は、かつての私にそっくりです ただ純粋に走り続けていた…」
「私は…」
「だからこそ、私は共にはいれません 貴方は…私のように堕ちてはいけません…」
その場にいる、誰もが黙ってしまった。
不動も、双子も、十六夜も、そして遊城ですら、川井という存在を知らない。
彼女が今まで何をしてきたのか、図ることもできない。
だが、その憂いを感じることはできた。
十六夜を優しく悟る彼女の姿は、今にも崩れてしまいそうなほどに儚く、脆いものになってしまっていたのである。
「…だけど、それでもお前は…ッ!? 避けろ、静香!!」
話しかけようとした瞬間、遊城は彼女に回避を促した。
川井はソレを察知し、後ろに大きく跳躍し…なかった。
「………ほら、戻れない…」
その姿より、あふれ出る闇が彼女が守った。
闇は盾となり、剣となり、攻撃が放たれた方向に悪しき波動を放つ。
もう、先程の少女の面影はなく、狂った殺戮者の姿がそこにあった。
「出番ですよ、お義姉さまたち おいしいご飯が待ってます」
その言葉と共に、彼女の周りより地割れが生じ、さらに大きな殺気が流れる。
「そ、そんなどこから!?」
緊張が流れ、双子の片割れである龍亜がその先を見る。
そこには、六人の人影があった。
「…我らはダークシグナー 悪しき神に従う者なり…」
誰かはわからない、真っ黒なローブに身を纏い、その腕には蜘蛛のような形をした痣が光っていた。
「ダークシグナー…お義父様が言っていた、地上に縛られた悪神の人形… 貴方たちも、邪魔をするの…です…ね…!!」
「クッ、ダークシグナーか!」
「ちょっと待て遊星、アイツらなんなんだよ!」
「説明は後です! とりあえずはアイツらを倒さないと…! 下がっていてください、十代さん!!」
不動はデュエルディスクを構え、十代に逃走を促す。
しかし、遊城はそれを良しとしなかった。
「へへっ、誰が逃げるかよ こんなヤバいのは久しぶりだ、ワクワクしてきたぜ! …だが、子供たちはどうすんだ?」
遊城はディスクを構え、眼前の敵を捕らえる。
「…相手のうち二人は任せます… あとの四人は…、私が殺す…アはッ!!」
川井は獰猛な闇の下、格好の餌食を前に狂笑を浮かべた。
「…待って、私も戦うわ…」
そう言って、十六夜もディスクを構えた。
「戦って、先生を救う… そして、貴方の事も…知る…!」
その強い光を目に宿し、川井を見てそう言った。
腕には、真っ赤な光が放たれていた。
「…でしたら、一人は任せます あとの三人は、私がやります」
「おいおい、大丈夫なのかよ静香 一人で三人も」
「外宇宙の力をを舐めないでください …では、行きますよ、お人形さん達…」
各々の覚悟を確認し、目の前の敵を確認する。
「お前をブッ倒すことに、ワクワクしてきたぜ!!」
一人は背後にいる翼を持った友と共に。
「俺たちの未来は、貴様たちの好きにはさせない!!」
一人は白い竜と共に。
「…真っ赤な薔薇の魔女の力、今こそ…!」
一人は薔薇を模した竜を侍らせ。
「アハはっ、侵略者の闇を見せてあげます!!」
一人は途方もない闇を放ちながら。
「「「「デュエル!!!」」」」
敵を粉砕するため、挑む。
ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。