いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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男は、かつて誇り高き騎士を目指した。


騎士

騎士

 

イギリス、ウェールズ。

 

自然豊かな深い森の奥深くに、その集落はあった。

 

不思議な集落であった。

 

世界では毎日数々の発明が目紛しく誕生しているというのに、その集落はまるで中世の小さな村を思わせる。

 

農夫が干し草を束ね、少年がヤギを先導し、母親は赤ん坊を抱えながら家事をする。

 

青年は鍬を持って田畑を耕し、娘は集まり歌を歌い、老人は楽しく談笑する。

 

その村には若い働き手が少なく、あまり作物が得られない日々が続いていたが、そこには都会の忙しさが全くなかった。

 

誰かが疎外される事も無く、協力し合い、助け合っている。

 

蹴落とされる事も、欺かれる事も、騙される事も無い。

 

明るく、静かで、平和な。

 

理想郷を体現させたかの様な、理想の空間。

 

そんな村が、確かに存在した。

 

 

 

そこに、とある家族が存在した。

 

優しい両親、腕白な兄、そして無邪気な妹。

 

どこにでもいそうな、仲の良い四人家族。

 

ただ、家族はあまり裕福ではなかった。

 

もともと村全体が食物に富んでいなかったのだから無理も無いが。

 

他の家族から食べ物を分けてもらえる時もあるが、それでも得られる食物が少なかった。

 

だが、家族はとても幸せだった。

 

確かに、この村には外の世界のように便利な器具は存在しない。

 

食べ物も、満足にある訳ではない。

 

しかし、そこには不変の愛が存在したのだ。

 

毎日何があったのかを夕食に話し、笑い合い、時には喧嘩をし、それでも大切な日々を過ごしていた。

 

 

 

ある日、兄は両親にある事を伝えられた。

 

村の秘密、なぜこの集落は外界との関わりを一切断ったのか。

 

それを伝えられたのである。

 

代々一族に伝わる、とあるデッキと共に。

 

村の人々には、特別な力があった。

 

森の妖精達と心を通わせる能力。

 

知る人が見れば、それは「カードの精霊の力」と呼んだであろう力。

 

村の人々は昔から、この能力を生活に役立てていたのだ。

 

薪を割るには風の刃を、卵を焼くには炎の盾を、穀物には水の龍を出現させ、潤いを与えていたのだ。

 

そして、兄にも例外無くそれがあった。

 

親から渡されたデッキを手にした瞬間、突然目の前に何かが現れたのだ。

 

ソレは兄の前で跪き、恭しく腰に着けていた剣を差し出すとこう言った。

 

 

 

「我は貴方の剣であり盾、騎士としての誇りを胸にお使い下され」

 

 

 

それから、少年の世界は変わった。

 

大切な家族、村の人々を守るため、毎日力を得る修行を行った。

 

その剣を持って、誇りを胸に戦う。

 

かっこいい騎士を夢見て、切磋琢磨し続けた。

 

そんな兄を見て、妹も毎日応援し続けた。

 

満足にご飯を食べられなために痩せ細り、頬が痩けても、毎日修行してクタクタに疲れて帰ってくる兄を、満面の笑みで迎えた。

 

両親は、そんな二人を優しく見守り続けた。

 

兄は、ただそんな毎日が幸せだったのだ。

 

 

 

 

 

しかし、そんな日々も長くは続かなかった。

 

ある日、外界から男がやって来たのだ。

 

間違って森の深くに入ってしまい、途方に暮れている時にこの集落を見つけたそうな。

 

 

 

男は集落を見て愕然とした。

 

この村には発達した文明は無いが、不思議な力を有していた。

 

しかも、一人や二人ではなく全員が。

 

男は考えた。

 

もし、これを外の奴らに伝えたら、とんでもない報賞が得られるのではないか?

 

男は下劣な人間であった。

 

集落の人々が助けてくれた恩を忘れ、私利私欲のみを優先し、そんな事を考えていたのである。

 

 

 

 

 

その後、男は帰った後に集落の事を公表し、世界は注目した。

 

特に、とある一国が強く目を向けた。

 

この力を研究すれば、すごい発明ができるのではないか?

 

そんな事を考え、国の政府は集落に兵士を派遣し、研究材料の確保を企てた。

 

そして兵士が集落を見つけ出し、たくさんの人が連れて行かれたのである。

 

中には抵抗する者もいた。

 

自分の力で兵士を脅し、帰るように訴えかけた。

 

そんな者に対しては、兵士は容赦なく弾丸を撃ち込んだ。

 

血飛沫に怒号が飛び交い、多くの人が抵抗もできずに連れ去られていった。

 

 

 

兄がそれに気付いたのは、日課の修行を終えた後だった。

 

いつものように森から村に帰って来たが、様子がおかしかった。

 

遠くにまで届いていた、新鮮な肉が焼けるような臭い。

 

それは顔見知りだった人々が焼ける臭いだった。

 

笑顔でパンをくれたおばちゃん、一緒に釣りをしたおじいさん、よく遊んでいた子ども達。

 

それが血だらけになり、村の中央に集められて燃やされていた。

 

少年は家へと駆けた。

 

嫌な想像が頭から離れない。

 

ソレを払拭するために、そして安心したいがために、全速力で自宅へと向かった。

 

 

 

だが家に着いた時、兄を待っていたのは破滅だった。

 

広がる赤、破壊された家具。

 

その中央に、何かがあった。

 

服を着ているソレは、兄が今朝まで父と、母と呼んでいたものだった。

 

そして二人に抱かれるように、妹と呼んでいたものが横たわっていた。

 

兄には理解ができなかった。

 

膝をつき、しかし涙は流れない。

 

呼びかければ起きるような、そんな気がしてならなかった。

 

それほどまでに、信じられなかった。

 

 

 

そんな時、何かが蠢いた。

 

兄がそれに気づき、見てみるとそれは妹だった。

 

妹は傷を負っていたが、深い傷は無かったのだった。

 

兄は両親の死体から妹を放し、応急処置を施した。

 

最初は息を荒げて苦しそうにしていたが、呼吸も整い始め、何があったのか兄に説明した。

 

それを聞いて、兄は怒りを感じずにはいられなかった。

 

助けてもらったのに、仇で返した男を殺したい程に。

 

しかも、襲撃の原因となったであろう男に覚えがあった。

 

あの男、嫌な予感がしていたのだ。

 

集落から出したら、きっと嫌な事が起こる、そんな気がしていたのだ。

 

そう思っていたら、ハッと気付くと妹が怯えた表情でこちらを見ていた。

 

恐らく、自分は怖い顔をしていたのであろう。

 

怯える妹に謝り、男は今後の事を考えた。

 

もうこの集落には、恐らく自分以外の生き残りはいないのだろう。

 

兵士が残っているかは分からないが、此処に居続けるのはマズい。

 

そう思い、妹の手を取って外に出ようとした。

 

 

 

しかし、それがいけなかった。

 

玄関の先には、未だ兵士が残っていたのだ。

 

兵士は兄達を見つけるとすぐさま発砲し、殺しに掛かった。

 

兄は騎士を召喚しようとしたが、間に合わずに死を覚悟した。

 

だが、兄に痛みは来なかった。

 

軽い衝撃。

 

後ろに突き飛ばされ、目の前に広がるのは、自分を庇い被弾する妹だった。

 

妹は大きく音を立てて倒れ、土だらけになる。

 

兵士はそんな妹を見て、「化け物め」と言い気持ちの悪い笑みを浮かべた。

 

 

 

その時に、遂に兄は限界に達した。

 

守るための剣を向け、妹を攻撃した兵士の首を一瞬で切り裂き、倒れる妹のもとへと言った。

 

妹は生きていてはいたが虫の息であり、いつ事切れてもおかしくはなかった。

 

妹は震える手で兄の手を掴むと、こう言った。

 

「お願い、私達の分まで生き残って。 ごめんね、お兄ちゃん」

 

兄は叫ぶようにソレに応じると、妹は息絶えたのであった。

 

兄に残ったのは、何も守る事ができなかった無念と、深い憎しみのみであった。

 

 

 

 

 

兄は世界を憎んだ。

 

なぜ、家族が、仲間達がこんな目に遭わなくてはならなかったのか。

 

それは世界が狂っているからだ。

 

狂った世界の狂った人間。

 

そんな奴らが世界に跋扈しているから、我らの様な被害者が出てくる。

 

「ならば、変えよう」

 

兄は全てを変えようと決意した。

 

誇りを捨て、復讐の改革を果たそうとしたのだ。

 

そのために、新たな力を得ようとした。

 

人を狂わす、悪魔の力。

 

それを求め、騎士の静止の叫びも聞かずに悪魔と出会った。

 

そして騎士の力を捨て、悪魔と契約した。

 

悪魔は正しく非道であった。

 

兄が躊躇う程の外道に走らせ、それにより兄の力を大きくさせて行った。

 

兄は、すでに妹との約束も忘れ、さらなる狂気に落ちて行った。

 

必要ならば誰でも殺す、冷酷非道な頂点。

 

ただ世界を正しくするため。

 

そのためだけに、兄は正気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、兄、ディヴァインはようやく過ちを自覚した。

騎士を捨て、誇りを捨て、悪魔の力を手に入れた自分に、最早残っているものは何も無かった。

 

邪神を操る少年にしか見えない英雄。

彼がアバターを召喚した時、断罪を求めた。

このどうしようもない自分を、裁いてくれる神を求めた。

そしてそれは、奇しくも叶った。

 

「あぁ、邪神よ。 私を裁いて下さるのか」

 

黒く歪んだ太陽が、彼には光に見えた。

自分が掴めなかった、世界を変えうる力。

憧れ、求め続けた、大切なものを守れる絶対的力。

 

さぁ、私を殺してくれ。

手をかかげ、邪神の救いを強く求めた。

願わくば、家族と同じ場所には逝かぬように。

底の底へと堕ちれるように。

 

ディヴァインは、安らかに、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

しかし、それは果たされなかった。

あの時、妹が自分を庇って死んだあの時と同じ衝撃。

優しく突き飛ばされ、尻餅をつく。

なぜ、今更誰が自分を助けるというのか。

 

頼む、もう生かさないでくれ。

私は、もう疲れたんだ。

 

ゆっくりと目を開き、自分を助けてしまったその者を見た時、ディヴァインは今度こそ動けなくなった。

 

 

 

助けた者は、死んだはずの妹と、捨ててしまった騎士だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ…、なぜ…お前達が…ここに…いる?」

 

『…貴方を、再び守るため』

 

そう騎士は言い切った。

ディヴァインは信じられなかった。

ここまで堕ちた自分を、なぜもう一度助ける?

 

『さぁ、私を再びお使い下さい。 我が新たな力で、邪神を!』

 

こんな自分を助けて、今更何になる。

 

「…ふざ…けるな…」

 

『………王…?』

 

「巫山戯るなと言ったんだ! 私はもうお前の王なんかではない! 誇りをすて、化け物に魂を売ったクズだ! お前はその場にいただろう!!」

 

ディヴァインは、ただ喚き散らしてしまった。

かつての騎士の誇りはとうになく、しかして昔とまるで変わらない姿で再開した騎士が、眩しすぎた。

最早視る事すら苦痛でしかなかった。

 

「私はもう死ぬんだ! お前が来ても、私はすでに騎士などではない! 人を殺す事に躊躇いすらない!」

 

ディヴァインは叫びながら、自分の前髪を掻き上げた。

そこにはやけどの様な痛々しい傷があった。

 

『ッ!? その傷は…!』

 

「見ろ、これが今の私だ。 名も知らない記者を襲い、その結果に受けた傷だ。 この傷が、もう戻れない事を物語っているだろう! さぁ邪神よ、早く私を殺してくれ!!」

 

『………ヴェーイ…』

 

ディヴァインの呼びかけに答えるかの様に、アバターはその内より闇を放ち、それをディヴァインに向ける。

しかし、騎士がそれを阻止する。

 

『王、気を確かに! あの時、私も力が足りなかった。 しかし、今は力を手に入れた。 これがあれば、貴方は戻れる!!』

 

「五月蝿い! 黙れ! 今更、今更どうしろと言うんだ! お前を使う資格など私には『いい加減にして下され!!』」

 

叫びを遮り、騎士はディヴァインを殴り飛ばした。

その腕は震えていた。

 

『貴方は逃げているだけだ。 光を捨て、再び光を前にする事が怖いだけなのだ!』

 

「お前に、お前に何が分かる!」

 

ディヴァインは頬を拭いながら立ち上がった。

その目は揺らぎ始めていた。

 

「あぁ怖いさ! 私は堕ちてしまったというのに、未だ輝きを失わないお前が怖い! 戻るのが怖い!」

 

『………』

 

「わ、私には…もう守る者もない…。 何も残っていない…それなのに、お前はまだ…。どうしてなんだ…」

 

『…お兄ちゃんを、ずっと思ってたからだよ』

 

答えたのは聞き覚えのある声だった。

ハッとして後ろを見ると、死んでしまったはずの妹がいた。

生前と変わらない、痩せ細った、それでも美しい。

そんな、優しい妹。

 

「…リサ、なんでお前が…」

 

『アルと同じだよ。 お兄ちゃんを守りたくって、死にきれなかったんだよ。 だから、もう闇から戻って来てよ』

 

唖然としている兄を抱きしめ、妹は優しく諭した。

 

『もう苦しまないで、私達が支えてあげるから。 これからはずっと一緒なんだよ』

 

「…いいのか?」

 

『いいよ』

 

「たくさん殺したんだぞ?」

 

『じゃあ、償わなくちゃね、生きて』

 

「戻れぬとこまで堕ちたんだぞ?」

 

『ならば、我らが意地でも引き戻します』

 

 

 

気付くと、デッキが光っていた。

かつて見た、優しき力。

少年の頃、無邪気に鍛え、夢見た。

闇を振り払う気高き誇り。

 

ソレを見て悪魔は再び喚き散らしていたが、最早ディヴァインには届かない。

 

その光はやがて手札に移り、墓地を浄化していった。

そして光がはれると、ディヴァインの手札に新たな五枚のカードが出現した。

笑い、共に修行した騎士達。

ソレを見て、遂に瞳から涙がこぼれた。

 

「…ありがとう。………ありがとう…!」

 

ディヴァインは小さく笑うと、手札よりモンスターを召喚する。

小さな光より現れたソレは、闇を前に気高く。

輝く剣を携え、仕えるべき主のフィールドに現れた。

 

聖騎士アルトリウス

ATK1800 DEF1800

聖騎士団に所属する聡明な青年騎士。

導かれるかの如く分け入った森の中、ついに運命にたどり着く。

そして青年は大きな一歩を踏み出すのだ。

――これは全ての始まりであり、大いなる叙事詩である。

 

「力を貸してくれ…アルトリウス………!!」

 

『…仰せのままに、王』

 

こうして兄は、再び剣を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…間に合ったか、畜生!」

 

「はっ、はっ…あ、貴方は誰なの?」

 

「うっせぇ! お前はキリキリ走れ!」

 

「ひうぅっ! ごめんなさい!」

 

そんな事が起きていたビルの階段では、少年と少女が走っていた。

少女は先程まで騎士達と行動を共にしていた瀬良であり、もう一人の少年は鮮やかな赤髪の口の悪い少年であった。

 

「はぁー、クソ! ホント無茶な事ばっか言ってくれるぜ! 口調も変わって性格もキツくなったかよ!」

 

「だ、誰の事言ってるの?」

 

「お前にゃ関係ねーよ走れぇぇっ!!」

 

「ごめんなさい!」

 

エレベーターが壊れてしまったために、二人は階段で行かざるを得なかった。

瀬良は赤髪の少年に追いつくために、必死に走る。

そのために、周りをあまり見れていなかった。

 

「ん? うおっ、なんだ?」

 

「ふみゅ!」

 

瀬良は突然に階段横から現れた影に気付かずぶつかってしまった。

自分たちより大きい人は、どうやら複数いるようだった。

 

「大丈夫ですか、十代さん」

 

「あぁ、問題ないぜ遊星。 それよか、こっちの子が…おい、大丈夫か?」

 

ぶつかった男はすまなそうな顔をして膝をつくと、転んでしまった瀬良に手を出した。

 

「あ、ありがとうございます。 えと、貴方達は…?」

 

「ん、俺か? 俺は遊城十代。 こっちは不動遊星で、後ろの二人が龍亜と龍可だ」

 

「「よろしくね」」

 

同じタイミングで挨拶をする双子を見て少し驚いたが、ビルに入ってから誰にも会っていなかったために瀬良は少し安心した。

 

「私はあゆみ・J・瀬良です。 よ、よろしくおねがいします…」

 

「おう、よろしくな。 それで、あゆみはどうしてこんな所にいるんだ? ここのビルの関係者…ではなさそうだし」

 

「えっと、それはそこの彼がいきなり連れて来て…なんでどこかに行こうとするの?」

 

瀬良が状況を説明しようとしたとき、なぜか赤髪の少年は抜き足でどこかに行こうとしていた。

 

「ぎく…な、なんでもねぇよ! …で、お前らは逆になんでいるんだ?」

 

「あぁ、俺たちはこのビルに変な力を感じて…いや、なんて言ったらいいかな…」

 

妙なことを言って子どもを混乱させる訳にもいかず、遊城は困ったがそれに不動が割り込んで適当に言い訳を言った。

 

その時。

 

「…イレイザー?」

 

「あ?」

 

龍可がいきなり口を開いた。

赤髪の少年を見ると、なぜか邪神の名前を言ったのである。

 

「どうしたんだよ龍可、いきなり」

 

「ご、ごめん…龍亜。 彼を見ると、なぜかイレイザーの事を思い出して…。 ねぇ、貴方の名前は?」

 

「…答える義理はねぇよ。 それよか、早く上の階へ行け。 お前らの目当てはそこにあるぜ。 …それじゃ、あばよ」

 

そう言うと、赤髪の少年はいきなり走り出すと、どこかへと消えて行ってしまった。

 

 

 

「な、なんだったんだあの子。 あゆみ、知り合いなのか?」

 

「いえ、さっきあったばかりのはずですが…」

 

その場にいる全員が混乱したが、とりあえずは上に向かおうとした。

確かに、感じた力は上から感じたのだ。

しかも、あの邪神も感じる。

 

「まぁ、考えても仕方ないか…。 それじゃあ上に行くか、皆」

 

不動が前に立ち、上の階へと進んだ。

そこで、彼等は信じられないものを見る事になる。

 

 

 

 

 

「すまない、邪神の王よ。 まだ私は死ぬ訳にはいかない様だ」

 

「あ、そうですか…。 はぁ、とりあえず、助かってよかったです」

 

 

 

 

 

上に到着すると、山崎と誰かがデュエルをしていた。

遊城は無かったが、他の人はその相手に見覚えがあった。

 

「アイツは確か…十六夜アキと一緒にいた…」

 

「…!! ディヴァ…イン…!」

 

不動や双子は大会のときを思い出し、瀬良は自分が拉致されたときの事を思い出していた。

 

「ん? お前らあの人の事分かるのか?」

 

「はい、見覚えがある程度ですが…、なぜこんなところに…」

 

「…私も、見覚えがあるだけです」

 

不動達は憎々しげに、そして瀬良は怯えるようにそう答えた。

 

「…そうか。 まぁ、何が目的か分からないが、今は見る事しかできないな。 恵一がなんでいるかも分からないが、後で問いつめるか」

 

「はい」

 

そう言い合い、不動と遊城、そして他の者達もディヴァインと山崎のデュエルを見届ける事とした。

 

 

 

 

 

「行くぞ、私はまず魔法カード手札抹殺を発動」

 

手札抹殺

お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。

 

『き、きひひ。 そうだ、お前はそうやって戦えばいいんだ。 そうすりゃコッチも文句は…』

 

『黙っていろ、悪魔め!!』

 

メンタルスフィアデーモンが何かを言おうとした時、アルトリウスがそれを止めた。

眉間にしわを寄せ、悪魔を睨んで叫ぶ。

 

『王は最早貴様の人形ではない! 私が王を支えるのだ!』

 

『ひっ!? な、何言ってやがんだ! コイツは俺を選んだんだぜ? 今更光りに戻れるかよ馬鹿が!』

 

すでに余裕は無くなってしまっているが、それでも悪魔は虚勢を張り、騎士に憎たらしい事を言い放つ。

それをディヴァインは静かに聞いていた。

 

「………」

 

『そうだろウスノロ? お前には復讐の力が必要だ。 ほら、そんな邪魔臭い光なんざ捨てちまえよ』

 

「…黙れ」

 

『………はぁ?』

 

「黙れと言ったんだ! 私はもう、復讐に目を眩ませたりはしない! 己の罪を受け入れる! 死んだ者、その者達に、生きて償う!」

 

ディヴァインはそう言うと、捨てた手札の枚数分カードを引く。

ちなみに、山崎は手札がゼロなので何もできなかった。

 

「これがその第一歩だ、発動死者への手向け!!」

 

死者への手向け

手札を1枚捨て、フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを破壊する。

 

『な、まさか!?』

 

「そのまさかだ。 私が選択するのはスフィア…お前だ!!」

 

ディヴァインが宣告した瞬間、フィールド上に不気味な棺桶が現れ、その内より無数の布切れが現れた。

悪魔はそれに恐怖し逃げようとしたが、布切れはそれを良しとせず瞬時に悪魔に絡み付くと、黄泉へといざなう。

 

『なんだ、これはぁ! ふざんけんなっ! ウスノロ、早くこれを解け! 俺がいなくちゃこのデュエル勝てねぇぞッ!!』

 

「…お前にも、迷惑をかけたな…。 だが、悪いがもうお前は使わない…さらばだ、我が憎しみの炎よ…」

 

『ふざけんなぁぁぁぁぁあぁあああああああぁぁぁぁぁぁああ………………』

 

断末魔の叫びを上げ、長年ディヴァインを洗脳し続けた悪魔は遂に黄泉へと送られた。

 

「続けて、天よりの宝札を発動! …よし、ハンマーシュートを発動する!」

 

天よりの宝札(漫画オリジナル効果)

お互いのプレーヤーは手札が六枚になるようにカードを引く。

 

ハンマーシュート

フィールド上に表側攻撃表示で存在する攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊する。

 

突如、巨大なハンマーが表れてアルトリウスをコピーしていたアバターへと落ちて行った。

しかし。

 

 

 

『ヴェエエエエエアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

 

アバターが謎の雄叫びを上げると、ハンマーに突然ひびが入り、くだけてしまった。

 

「ッ!? なぜハンマーシュートが効かない!?」

 

「…魔法カードには、明記されてはいないが下級と上級が存在する。 そして最高神は、上級魔法しか効かないんだよ しかもこれは、種族に起因するものじゃない。 あくまで最高神であるアバター自身が持つ効果だ」

 

『そんな効果が!?』

 

驚くディヴァインと騎士を前に、山崎は静かに説明を始めた。

ディヴァインから見ると、それは恐怖でしか無い。

しかし、逃げようとは思わない。

支えてくれる者を再び手に入れたから。

 

「…まぁ、アバターには他にも能力があるけど、あれはアバターを通常召喚できた時だけに発動するし、特殊召喚じゃ何も無いから気にしなくていいか…」

 

(なんだ? 邪神の王は何を…いや、今は気にしていられない。 問題は…)

 

このターンで、どうやって邪神を墓地に戻すか。

先程の件でアバターに手札の魔法が効くとは思えない。

しかし、このターンを逃せば自分に勝ち目は無い。

 

(考えろ、抜け道はあるはずだ…。 どうすれば邪神を倒せる。 どこかに弱点は…)

 

そんな時、ディヴァインは気付く事ができた。

あの邪神。

あれは墓地より叩き起こされた状態であり、その起因はリビングデッド。

あれを破壊できれば、アバターを落とせる。

 

『…王よ』

 

その時、騎士がディヴァインに話しかけた。

ディヴァインが騎士を見ると、騎士はその手に小さな光を持っていた。

 

「…それは?」

 

『私が貴方のために得た力です。 この星には無い、遥か宇宙の先にある、古の力です。 どうか、これをお使い下さい!!』

 

そう言い、騎士はディヴァインのデッキに光を与えた。

その光は形を成し、黒いカードとなって現れた。

 

「…分かった、使わせてもらうぞ!」

 

『はい!』

 

ディヴァインは覚悟を決め、アバターと山崎を見据えた。

その瞳に、最早恐怖は写っていない。

 

「私は手札より、聖騎士ガウェインを特殊召喚する!」

 

聖騎士ガウェイン

ATK1900 DEF500

自分フィールド上に光属性の通常モンスターが存在する場合、このカードは手札から表側守備表示で特殊召喚できる。

 

第二の騎士は現れると、ディヴァインの近くで跪き涙を流した。

 

『王、よくぞお戻りに…!』

 

「長らく待たせてしまったな…どうか今一度力を貸してくれ、ガウェイン」

 

『喜んで!!』

 

 

 

 

 

「………なんだこれ、何するつもりだ? チューナー…ではないし…攻撃力も高くない…同じ光属性だけど何て言う事も無い…。 うーん、レベル4の戦士族………レベル? おい、まさか………」

 

 

 

 

 

山崎はそんな事を言っていると、何かに気付いたのか顔を青くさせ始めた。

そんな彼を見て、ディヴァインは勝利を確信する。

 

「行くぞ! 私はレベル4のアルトリウスと、同じくレベル4のガウェインを………オーバーレイ!!」

 

ディヴァインの言葉に応じ、二人の騎士は目を合わせてうなずくと、高く跳躍して光り輝き一つに重なる。

 

「な、なんだあれは…!?」

 

「オーバーレイ…シンクロではなく?」

 

「「…きれい………」」

 

遠くから見ていた不動や遊城は未知の力に疑問を抱き、双子はあまりの美しさに感嘆のため息をついていた。

 

 

 

「騎士よ、今こそ凱旋の時だ! 悪列憎悪の先にある、真なる光で全てを救え!!」

 

刹那、ディヴァインのフィールドにいきなり赤いカーペットが現れた。

そしてその内より、光り輝く鎧をまとった聖騎士の王が顕現する。

 

「天へと至らん! 聖騎士王アルトリウス!!!」

 

聖騎士王アルトリウス

ATK2000 DEF2000

「聖騎士」と名のついたレベル4モンスター×2

このカードがエクシーズ召喚に成功した時、自分の墓地の「聖剣」と名のついた装備魔法カードを3種類まで選択してこのカードに装備できる。

また、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

自分フィールドの「聖剣」と名のついた装備魔法カードの数まで、フィールド上の魔法・罠カードを選んで破壊する。

 

その剣には、闇を切り裂く果てのない光が宿り。

その鎧には、全てを守る堅牢さが増し。

その瞳には、決して恐れぬ勇気が現れていた。

 

「…それが、お前の新たな力か。 アル」

 

『はい、唯一無二の至高の剣です。 ………さぁ、この力で!』

 

「あぁ! 私はアルトリウスの効果を発動する!!」

 

聖騎士王は大きく腕を振ると、目の前に四つの剣が現れた。

いずれも、名のある光の剣である。

 

「アルトリウスの第一の効果。 それは召喚に成功した時、墓地にある剣を三つまで選択し、装備する事ができる効果だ!」

 

「い、いつの間にそんなにカードを…あ、手札抹殺の時か!!」

 

「ご名答! 私は聖剣ガラティーン、アロンダイト、そしてカリバーンを選択する! ソードオブオーダー!!」

 

聖剣ガラティーン

戦士族モンスターにのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、自分のスタンバイフェイズ毎に200ポイントダウンする。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分フィールド上の「聖騎士」と名のついた戦士族モンスター1体を選択してこのカードを装備できる。

「聖剣ガラティーン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

また、「聖剣ガラティーン」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

聖剣アロンダイト

戦士族モンスターにのみ装備可能。

1ターンに1度、装備モンスターの攻撃力を500ポイントダウンし、相手フィールド上にセットされたカード1枚を選択して破壊できる。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分フィールド上の「聖騎士」と名のついた戦士族モンスター1体を選択してこのカードを装備できる。

「聖剣アロンダイト」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

また、「聖剣アロンダイト」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

聖剣カリバーン

戦士族モンスターにのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

また、1ターンに1度、自分は500ライフポイント回復できる。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分フィールド上の「聖騎士」と名のついた戦士族モンスター1体を選択してこのカードを装備できる。

「聖剣カリバーン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

また、「聖剣カリバーン」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

聖騎士王は三本の剣を顕現させると、静かにアバターを睨みつけた。

 

「さらに、アルトリウスの第二の効果を発動。 アルトリウスは降臨の犠牲となった同胞を一人、墓地へ送る事で装備してる剣の枚数分魔法、トラップカードを破壊できる! 行け、アルトリウス! ライト・リベレイション!!」

 

聖騎士は光を宿した剣の一振りを構え、その一撃を放った。

それは光の波動となって山崎のフィールドに降り注ぎ、リビングデッドの呼び声に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を、誰もが疑った。

 

「な、リビングデッドが!?」

 

「十代さん、何が起こってるんです!」

 

「詳しい事は分からないが、恵一はリビングデッドの呼び声っていう柱でアバターを出していた。 そして、あの男はその柱を砕いたんだ…」

 

「それは、つまり………ッ!?」

 

その瞬間。

 

『ヴェ……エ…ア………』

 

聖騎士王をコピーしていたアバターの動きが止まった。

形を崩し、元の球体に戻ったと思ったら、今度は中から途方も無い闇を放出させ、震え出した。

先程まで放っていた歪な光を無くし、乾いた色となる。

 

「あの、アバターが…、苦しんでいる?」

 

不動が、思わずそう呟いた。

恐怖の根源、ドレッドルート。

抹消の邪竜、イレイザー。

その化け物の頂点に至る最高神、万能の太陽アバター。

 

伝説でも、誰も倒す事ができなかったとされる史上最悪のモンスター。

それが、目の前でもがき苦しんでいる。

 

 

 

 

 

さらに、その中央よりピシリと音を立ててヒビが入った。

そのヒビは勢い良くアバターの全体に広がって行き、最早球体を保つ事すらできない。

 

そして、遂に。

 

「神が………堕ちる…」

 

『…………ヴェ……………エ……………』

 

 

 

漆黒の太陽は音も無く崩れ、フィールドより完全に消え去った。

 

 

 

 




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