いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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彼は、ただ泣き続けた。


行方

行方

 

…幾ばくかの時が流れた。

しかし、何かが解決したわけではない。

むしろ、状況はどんどん悪くなっている。

藤原とディレの二人は得体のしれない恐怖に苛まれ、うまく考えを纏めることもできない。

 

「………それで、これから恵と雪乃はどうするのよ」

 

口を開いたのはディレだった。

重すぎる空気の中、そのたった一言を言うだけに何回もの覚悟が必要になってしまっている。

それほどまでに、三人の出す空気は尋常なものではない。

 

「私はこの映像を不動遊星、そして遊城十代という人物に見せなくてはならない。 …現段階で標的の異常性に気付いているのは遊城しかいない…しかもそれは仮定でしかない。 迅速に知らせる必要がある」

 

「…ちょっと待って恵、不動遊星って確かこの前の大会の優勝者だったかしら? それに遊城って…彼がこの街にいるっていうの?」

 

レインの不可解な言葉に藤原が問いかけた。

一応過去を調べていたために、今出てきた二人の人物をスルー出来なかったのである。

 

「…遊城十代は確かにこの街にいる。 それはツァン、貴方も知っているはず」

 

「えぇ、そうね。 確かに先生とのデュエルの後、彼が現れたわ…私は途中で気絶しちゃったけど」

 

そう言ってディレは悔しそうに顔をゆがませた。

しかし、藤原を納得させるには十分なものであった。

 

「成程…彼にコレを言うことは良いとして、じゃあなぜ不動遊星にも?」

 

「…それに関しては言えない。 「博士」から重要機密とされている」

 

レインの言葉から、また不確定な言葉が出てきた。

藤原は少し目を細め、それを確かめようとする。

 

「博士? レイン、それは一体誰なのよ。 …これだけの技術を持っているのなら、相当な人物じゃないのかしら?」

 

「…それも言えない。 私はただ命令を受けているだけで、博士に関する情報は一切持っていない」

 

「…成程、貴方のトップは結構な引き籠りのようね…それに臆病かしら?」

 

藤原はレインから情報を引き出すため、ワザとレインを挑発した。

しかし、それに対してレインは眉一つ動かさず、ただまっすぐ藤原を見つめるだけである。

そんな彼女を見て無駄だと悟り、藤原は視線を逸らした。

 

「話を戻そうかしら、私は恵一と会おうと思うわ。 早く今の私を見せたいもの」

 

「…だったら一緒に行動する方が効率的。 今標的と不動、そして遊城の三人は同じ位置にいる」

 

「わ、私は…」

 

藤原とレインがキッパリと言う中、ディレだけが言葉を詰まらせた。

追い出すような形で山崎と別れたため、直ぐに会うことに躊躇いを感じていたのである。

 

「…何を遠慮しているのかしら、ツァン? 来ないのなら別に良いわ、その間に彼を捕まえて見せるから」

 

「っ!? あ、アンタは何を言ってんのよ! 言うに事欠いて先生をぉ!?」

 

「…ピピ、ガション。 標的の位置を再確認…完了。 標的、ビルを脱出して南に数㎞離れる。 ここからの時間を再計算…ウィーン」

 

そんなディレに藤原は余裕の笑みを浮かべ、対するディレはまた顔を真っ赤にさせて大声を出す。

レインは二人をよそに、奇怪な擬音を呟きながら山崎の居場所を探し始めた。

 

「大体アンタはいっつもいっつも変なことばっかり言って…! 初等部の頃から全く変わってないわね、そんなだから馬鹿な男に襲われるのよ!」

 

「フフ、でもそのおかげで恵一に巡り合えたんだもの、むしろ運命だったわ。 あの時、あの場所で彼に助けられたこと…たった一言の出来事だけど、それが今の私を形作っているのだから。 貴方も同じでしょ?」

 

「うっ、そ、それは…」

 

藤原とディレ、二人は同じ学年でクラスメイトであったために、昔何があったのかお互い理解していた。

故にディレは藤原の言葉を否定できなかった。

 

(…あの雨の日、忘れるわけない。 あの時先生が来なかったら…私は…)

 

恐らく、今の自分で無かった。

そう思うとゾッとした。

そして同時に、彼を思い出して心が穏やかになる。

ソレを理解して、今一度決意する。

 

「…そうね、確かにそう。 だから…」

 

「………だから?」

 

ハッキリと藤原を見据え、ディレは少しだけ素直になった。

 

「アンタにも負けない、私も先生の所に行く」

 

ソレを聞いて、藤原は満足げな表情をしてディレを見つめる。

それと同時に、先ほど全く表情を変えなかったレインが、ほんの少し眉間にしわを寄せたのを藤原は見逃さなかった。

 

(成程、恵もワケあり…ってわけね。 でも恵一、私やっぱり「我儘」だから…貴方からも一番でありたいわ、そう決めたもの)

 

(雪乃…恵は分からないけど、先生に絶対に振り向いてもらうんだから。 それが私なの、負けないわよ!)

 

(…標的、山崎恵一…先生。 私は…)

 

各々、たった一人の人間を思い浮かべて改めて決意する。

そう、彼は人間だ。

何があろうとそれだけは曲げない。

だからこそ、彼の謎を少しでも早く解決したい。

 

「…再確認する。 私たちは一度、標的と不動、そして遊城の三人に接触、その後にこのデータを見せて、調査の方針を決める」

 

「そうね、その時に出来たら恵一に一度聞いてみても良いけれど」

 

「でも、下手に先生を刺激はできないわ。 先生の中には邪神がいる。 体を乗っ取られたらそれこそ厄介になるわ」

 

お互いに考えを述べ、どうするかを決める。

 

「確かに、ならば標的にデータを見せるのは後…時機を見て私が見せる。 まずは不動と遊城に見せることにする」

 

順調に今後の行動が決まっていく。

スムーズに、高速で話し合うことで時間の無駄を割いていく。

それもそのはず、今ここにいる三人はアカデミアでもトップクラスの成績を常に叩きだす超優秀な学生である。

思考が止まる筈もない。

 

ただ順調に進んでいった。

 

 

 

 

 

しかし、そんな時にディレは違和感を覚えた。

 

(………?)

 

何かは分からない。

ただ、普段と何かが違う。

何が違うのかはわからない。

 

(何が…、分からない)

 

しかしはっきりと、その違和感は存在する。

そして気付いた。

 

いつも何かをする時、いつも無邪気にすり寄ってくる存在が…。

 

(静かすぎる…?)

 

 

 

そう、いつも傍にいる筈のウリアが騒がしくない。

しかも今は家族であるラビエルやハモンと再会できたのだ、むしろ何時もより騒がしいはず。

 

ディレが感じた違和感はコレだった。

アカデミアの課題をする時も、新聞を読む時も、テレビを見る時も騒ぐウリアを途中で諌めるのが最近の彼女の日常だった。

しかし、それがない。

 

「…ねぇ、あの子たちは?」

 

思わずそうつぶやいた。

途端、レインと藤原も異常に気づき、自分の相棒を探そうとする。

 

「…ラビエル?」

 

「…ハモン、どこ?」

 

呼びかけに応じる者はいない。

沈黙が流れるだけ。

 

「っ!? ふ、二人とも…うしろ…」

 

そんな時、ディレは何かに気付いた。

まるで何かに感づかれるのを恐れるかのように、小声で背後を見るように促す。

二人は警戒しながら後ろを見た。

 

 

 

そこには「黒」があった。

真っ黒。

染みでも傷でもない。

一目でわかった、そして理解した。

 

 

 

 

 

私たちは、攻められている。

 

 

 

 

 

「っ!! 恵、データを隠し『ヴェええイ………』」

 

しかし、遅すぎた。

ディレがレインにデータを守るように言おうとした瞬間、ソレは現れた。

真っ黒なナニカから膨大な闇が放出され、その淵より人には見れないほどの神速で、ソレは恵のデータを破壊する。

 

そして彼女たちが確認できたのは、粉々に砕けたデータと怨敵の親玉。

 

 

 

「「「アバタァーッッッ!!!」」」

 

 

 

刹那、三人は己の力を放つ。

ディレは赤い鎧を纏った武士を、藤原は金色の目を光らせる魚人を、そしてレインは腐肉を垂らすゴブリンを召喚させて敵を殲滅させようとする。

 

『覚悟ッ!』

 

『シギャァァアアアッ!』

 

『ギギャァァアアアッ!』

 

しかし。

 

『ヴェエエエェェァァアアアアアッッッ!!』

 

アバターはその内より無限の闇を放ち、モンスターたちを吹き飛ばす。

殺意は感じられないが、負かすこともできない。

 

絶対的な強者が目の前にいた。

 

「…分かっていても、歯痒いものね」

 

「っ、雪乃!?」

 

そんな中、藤原はアバターに向かって歩み始めた。

アバターは今も闇を放ち続け、恐怖を振りまく。

そんな邪神を前に、彼女は全くひるまない。

 

「…どんな気分かしら、アバター」

 

『………』

 

「たった一人の人間を操って、何をしたいのかしら? 恵一を使って」

 

『………』

 

アバターは答えない。

しかし藤原は続ける。

 

「…これだけは言っておくわ、邪神。 恵一は玩具じゃない、絶対に貴方たちから解放してみせる。 …フフ、あの時から、これだけは貴方に言いたかったのよ」

 

『…ヴェーイ』

 

「この子たちもそう…いつまでも恵一を貴方のモノにさせはしない。 覚悟なさい………必ず潰してあげる」

 

彼女の言葉を聞き終えると、アバターはゆっくりを闇を消し始め、そのまま消えていった。

あたりに光が戻り、邪神が完全にこの場から離れたことが確認できた。

 

 

 

 

 

それから少し時間が流れる。

彼女たちは出発の支度をしていた。

しかし、幻魔達は戻ってこない。

 

「ウリア達はどこに?」

 

「分からないわ、でもあの状況でアバターに聞いても無駄だったでしょうね。 …戻ってくるのを待つしかないわ」

 

「…雪乃に同意する。 ハモン達は心配だけど…今はどうすることも出来ない」

 

確かにそうであった。

幻魔達が消えたのは間違いなく邪神が原因だ。

しかし、だからと言って居場所を教えてくれるはずもない、ならば少しでも敵の平静を崩せれば良かった。

 

故に、藤原は自分たちの存在を少しでも邪神達の足枷にしようと考え、先ほどの行動をとったのである。

ディレとレインもそのことは分かっていた。

 

「…雪乃、やりたいことは分かるけど自重しなさいよ。 ホント、肝が冷えたわ…」

 

「あら、ごめんなさいね…まぁ言いたかったのは本音だったし、アバターからは殺意は感じられなかったわよ。 そんなことより恵、データなのだけど…」

 

「…残念ながらバックアップはない。 私がもう一度、コンピュータから過去の映像を出して録画するしかない。 …ただ、時間が必要。 不動遊星たちにはデータなしで会うしかない」

 

「信用してくれるかしら…? 遊城って人はともかく、不動遊星は先生のことをあまり知らないんじゃ…」

 

ディレの不安をレインが否定する。

 

「心配はない、不動と標的は既に接触済み。 不動はもう標的を友人と思っている、完全に信じるかは定かではないけど、聞く耳を持たないことはない」

 

そうして、彼女たちは出発した。

目指すは、敵の王。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちが出て行ってから数刻経った後、ディレの部屋にもう一度「黒」が現れた。

しかし、先ほどとは大きさが違う。

大人でも十分通れるほどの、しっかりとした大きさだ。

 

そこから三人出てきた。

帰ってきたウリアとハモン、そして憎き敵である邪神の一柱ドレッドルートであった。

 

「…ア゛レ、何デイなイ゛ダ?」

 

「あれっ!? ツァンちゃーん、紫炎おじちゃーん! どこ行ったのー!?」

 

「うヴぁ…うぅ…」

 

ドレッドルートはいるはずの住人がいないことに疑問を抱き、ウリアはその住人を探し出し、ハモンは先ほどイレイザーから受けた精神的なダメージのせいでまだドレッドルートの背中で震えていた。

少し経つとウリアは気まずそうに戻ってきた。

 

「えっと…ツァンちゃんたちどっかに行ってるみたいで…あはは…」

 

「…イナイ゛なラ仕方ないダ…。 ドリあエず、こノ子を横二デギる場所ヲ…」

 

「あっ、だったらそこのソファを使おっ! 冷えピタ持ってくるねー!」

 

そう言って、再びウリアは奥へと行った。

ドレッドルートは背負っていたハモンを下ろし、ソファに寝かした。

見ると、ハモンは未だに震えながら呻いている。

 

(コンナに震えデ…止メれダかラ良ガっタけど…、アバター様ハホンドに何を考えテルダ…)

 

そんなことを考えながら、彼はハモンの震える手を握った。

 

「大丈夫ダ、モウ怖グナいダ。 大丈夫、大丈夫だド…」

 

彼女の耳元で呟きながら、もう一方の手で頭を撫でる。

そんな彼に、ハモンは心地よさを感じていた。

 

「…貴方は、何でそんなに優しいの…?」

 

「んガ? 良グ分かラナ゛いケド…今ハ休むダ。 えード…病人ヲ…、いたわ…いたう? のは当然ダド」

 

優しく微笑み、彼はハモンにそう言った。

ハモンはそれを聞くと、安心しきったかのように眠りについた。

震えは止まっていた。

 

 

 

「…貴方はホントに優しいんだね、るーと」

 

ふと、後ろから声が聞こえた。

ウリアが戻ってきたのである。

 

「ア、 オ゛帰りダ。 …こノ子、力強いダナ。 眠らゼタまま手ヲ放ズのは無理ダド…。 ダカラ…ソの…」

 

「うん、別にいいよ。 というより、悪いんだけどその子が起きるまで手を握ってあげててくれないかな」

 

ウリアは近づくと、ハモンのデコに冷えピタを貼って近くの椅子に腰かけた。

そして、話し始める。

 

「…不思議だなぁ」

 

「んガ? 何がダド?」

 

「ハモンの事だよ。 この子、警戒心が私たちで一番強いから…あんまり人間とも話さないんだよね。 邪神である貴方はなおさら…のはずなんだけどね」

 

コロコロと笑いながらハモンを指さしてそう言った。

一見ただの子供でしかないのだが、ドレッドルートは「同種」であるからこそ、その中にある憂いを感じ取った。

 

「…君だちハ、人間二作らレダ神様なんダド?」

 

「うん、さすがによく知ってるね。 その通り、私たちは人間に作られた。 しかも、一番汚い心から…」

 

「汚イ゛?」

 

「うん、私たちは、人間の悪意から生み出されたんだ」

 

ウリアは、先ほどの純粋な顔ではなく、寂しそうな顔をしていた。

 

「気付いたら真っ暗でね、何にもなかった。 ラビ様が助けてくれなかったら、多分「お馬鹿」になってたんじゃないかなぁ」

 

笑いながら話し続ける彼女を、ドレッドルートは黙って見つめ、ただ聞いている。

 

「でも、そのあと私たちは使われ続けた。 どこに行っても利用されて、何もしてないのに閉じ込められた」

 

「………」

 

「ツァンちゃんだけだよ。 私のことを知って、それでも助けてくれたのは。 生まれてから、初めて善意を知ったんだ…」

 

だからこそ、と。

彼女はドレッドルートを睨みつける。

 

 

 

「貴方たちが理解できない。 なんで、恵一君を利用するの?」

 

 

 

ドレッドルートは答えない。

 

「貴方たちと恵一君は、私とツァンちゃんの関係と似てるはず。 だからハモンに対してイレイザーはあんなに怒った。 でも、アバターは違うと言ったよ。 彼を利用してるだけって」

 

「………」

 

「さっき私たちがアバターと会ったってハモンが言ったよね。 私たちが会ったのはあの黒い通り道でね、「イレイザーとドレッドルートに会え」って言ってたんだ」

 

「…アバター様ガダド?」

 

黙っていたドレッドルートは、思わず声を出してしまった。

 

「うん、でも「二人には言うな」とも言ってたんだ。 …その代わりに、ツァンちゃんたちは絶対に殺さないって」

 

「ゾれは…」

 

気付けば、ウリアは彼の目の前まで顔を寄せていた。

猫のように大きな目が、まっすぐ彼を捉える。

 

「貴方たちは、言ってることとやってることが違いすぎる。 恵一君をなんで操ってるの? しかも中途半端に。 恵一君は王様じゃないの?」

 

ドレッドルートは視線を逸らし、寝ているハモンの頭をもう一度撫でる。

優しく、ただ優しくだ。

 

「…ゾれ以上言うド、ゴの子ヲ殺すダ」

 

「そんな気ない事くらい分かるよ。 そう言うように、アバターに言われてるの? 貴方たちは、そこまでして何を隠しているの? 山崎恵一って、一体なんなの?」

 

対するウリアは、全く視線を逸らさない。

何も話さないドレッドルートを、ただ見る。

 

 

 

 

 

数分後、ドレッドルートが口を開いた。

 

「…オラも、知らナいだ」

 

「知らないの?」

 

「うン…オラ達ハただアバター様ノ言うことヲ聞いデたダケだド。 本当ハオラも知りタイダ…デモ、アバター様は信じロって…ダカら、信じルジかナイダド…」

 

苦しそうに顔をゆがませ、今までと明らかに違う様子で確かに言った。

 

「そうなんだね…分かった」

 

ウリアは深くうなずくと、ゆっくりと立ち上がり…。

 

 

 

 

 

満足したかのように、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「…やっぱり、知ってるのはアバターだけなんだね。 ありがとう、るーと」

 

 

 

そう言われて、ドレッドルートはハッと我にかかった。

彼女の術中にかかっていたらしい。

恨めしそうにドレッドルートはウリアを睨み付ける。

 

「…子供ダド思ってダダケど…上手グ誘導サれ゛タダ」

 

「うりゅりゅ、るーとこそ誘導だなんて難しい言葉、使わない方が君らしいよ」

 

コロコロと最初の時のように無邪気な笑みを浮かべる。

ドレッドルートは、ウリアの話術にはまっていたのだ。

巧みに言葉を操り、短時間で相手から情報を抜き取る技法。

彼女はそれに恐ろしいほど長けていたのである。

 

やはり彼女たちは幻魔であったのだ。

人の心をつかみ、思うがままにする「魔」を司る神。

それが彼女たちなのである、彼女たちにかかれば神でさえ同じであったというわけか。

 

「今まデの…全部ウソだったダカ?」

 

「んーん、アバターに会ったとこまではホントだよ。 私たちはただすれ違っただけ。 というより、ホントに黙ってって言われてたらハモンが言うはずないよ」

 

「アッ…ウゥ、騙されたダ」

 

悔しがるドレッドルートを見て、彼女はまた笑った。

 

「でもね、私たちの昔の事はホントだから…貴方とツァンちゃんだけだよ、昔話をしたの。 なんか疲れちゃったなーうりゅりゅ…」

 

そう言うと、彼女はドレッドルートにもたれ掛り、体を預けた。

そして彼の服を掴んで頬ずりをする。

 

「…やっぱり、貴方といると落ち着くなぁ。 ハモンが懐くのも分かるね…」

 

「…君ハ、全然子供ジャ無かっダダナ」

 

「子供だよぉ、神の中じゃだけどね」

 

言い終えて、彼女は瞳を閉じる。

完全に体をドレッドルートに預け、眠りについたのだ。

その顔は、本当にただの子供のようである。

彼女たちの壮絶な過去など、微塵も想像つかないほどに。

 

それを見て、ドレッドルートは深くため息をついた。

 

「…オラは、どうジたラ良いンだド…」

 

誰も答えてくれないと分かっていても、そう呟いてしまった。

 

信じたい者には謎多く、敵も多い。

今、自分の傍にいる二人もいつかは戦わなくてはならないのか。

 

「…嫌だダなぁ…」

 

彼は再び涙を流す。

それが己の無知を嘆いてからか、彼女たちの殺める未来を思ってからか。

定かではない。

 

暴虐の邪神は、優しすぎるがゆえに悩み続けた。

延々と、無限に、限りなく。

本当の敵は誰か、何が正しいのか、何が間違っているのか。

分からな過ぎて、しかしそれでもドレッドルートは探そうとした。

 

 

 

救われても、場所が変わっても、何も変わっていない。

世界に慈悲などなく、彼はただ涙を流し、憂う。

 

どれだけ泣こうが、涙が枯れることなど無いのだから。

 

 




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