いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

30 / 31
少年と男は、時を見つめる。


灰色

灰色

 

二柱の邪神との激戦を終え、ディヴァインや不動たちはビルを後にしていた。

知らぬ間に日は沈み、辺りは真っ暗になっている。

 

「…あそこで、とりあえず休むか」

 

近くに小さな公園を見つけた不動はそう言い、皆それに賛成した。

特に龍亜と龍可、そして瀬良は精神的にも疲れ切っていたためか、着くと同時にその場に座り込んだ。

 

「…疲れたー…」

 

「はぁ…はぁ…」

 

「う…ごけ…ない…」

 

「皆、よく頑張ったな。 今はしっかり休め」

 

不動は息を荒げる3人に労いの言葉をかけ、気絶している山崎の方を見た。

彼はデュエルの後、遊城にここまで運ばれ、今はベンチに横にされている。

 

(恵一は…あのデュエルで邪神を二柱も召喚した…その「代償」もいつもの倍…倒れるのも当然か…クッ)

 

傍から見れば、本当に普通の少年だ。

世界に及ぶ運命を持っているとは思えない。

普通に学校に通い、友と笑い、家族と暮らす。

そんなただの学生。

 

眠っている姿もそうだ。

恐ろしいほど静かに眠るその姿に、邪悪な気配は一切感じられない。

故に不動もその心を痛める。

目の前で苦しんでいる友を、救うことが出来ない自分が許せなかった。

 

(どうしたら…恵一を救える…! あの邪神から…!)

 

顔を伏せ、拳を振るえるほど握りしめながらそう思った。

 

 

 

「…悔しいのかい?」

 

 

 

そんな彼に話しかける者がいた。

不動が顔を上げると、そこには先ほど山崎と激戦を繰り広げていたディヴァインがいた。

 

「アンタは…」

 

「…面と向かって話をするのは初めてだったね、私の名は…言わなくても分かるか。 私も君の事は良く知っている」

 

「ディヴァイン…アルカディアムーヴメントの総帥。 いい話は全く聞かなかったが…」

 

「なるほど、組織名を知っているだけでも上等だ。 良い情報屋が仲間にいるんだな」

 

「…まぁな」

 

ディヴァインは友好的に話し、不動も彼の言動に敵意を感じなかったために言葉を返す。

そんな不動に優しく微笑み、ディヴァインは話を続ける。

 

「君たちの目的も…邪神の王だったのだろう?」

 

「王…恵一の事か?」

 

「あぁ、そうだ。 異質な邪神を操るさらに異質な存在…無の中に秘めた邪気を思えば、王と呼ぶに値するだろう…」

 

そう言ってディヴァインは眠る山崎を見る。

しかしそこには、膨大な闇を統べる王とはとても思えない青年がいるだけである。

それを彼は「無の中に秘めた邪気」と言った。

不動はその言葉を頭の中に何度も浮かべながら、もう一度山崎を見た。

 

「…アンタは、どう思う? 恵一に住み着いている、あの邪神達を…」

 

「…分からないな、分からないことだらけだよ。 神々の目的も、邪神の王の考えも…」

 

自嘲気味に微笑み、ディヴァインは目を閉じる。

そこに悪の組織の総帥であった頃の面影は全くない。

 

「…せっかくだ、向こうで話そう。 コーヒーでも奢ろうか」

 

「…ミルク入りのモノを頼む」

 

「分かった…他の子にも、何か持って行こう」

 

そう言いながら、二人は公園の隅にある自販機まで歩いて行く。

不動は隣を歩くディヴァインと言う男を見る。

彼の認識では、ディヴァインと言う男は非道を体現したかのような存在であった。

確かな情報ではないが、世界中の「特別な力」を持つ人間を掻き集め、散々利用していたとか。

殺しや、それ以上の行為もしていたと聞く。

 

だが、目の前の男は全く別の人間に見えた。

あと少しで辿り着くところで、不動はその疑問を言葉に出した。

 

「…なんというか、全く違うな」

 

「何がだい?」

 

「アンタの事だ、ディヴァイン。 俺が聞いた話じゃ、そんな穏やかな表情は絶対にしないと思っていたが…」

 

「…フッ、確かに。 ついさっきまでなら…君の言った通りだっただろうな」

 

ディヴァインはまた微笑み、自販機にたどり着くと最初に不動が言っていたミルクコーヒーを選んだ。

次に自分のコーヒーを買い、それをゆっくりと飲む。

 

「…美味いな。 思えば、缶コーヒーなんて初めて飲む」

 

「………」

 

「おっと、話がそれたか。 そうだな…私の心境の変化は、間違いなく邪神のおかげだ」

 

「…邪神が?」

 

不動はその言葉を信じられず、少しだけ目を細める。

しかし、ディヴァインはそんな不動を気にすることもなく話を進める。

 

「まぁ、疑うのは無理もないだろうが…事実だ。 私やアルは邪神であるドレッドルートに救われた」

 

「ドレッドルートに?」

 

「あぁ、あの邪神の攻撃を受けた後、私やアルは闇の淵に堕ちた。 しかし、それをドレッドルートが助けた…あのたどたどしい口調でな。 間違えることは無いだろう」

 

不動はそれを否定できなかった。

彼の中でも、ドレッドルートは不明な点が多すぎた。

古くはフォーチュンカップの時、十六夜アキの休憩室で出会った時から。

アバターやイレイザーよりも恐ろしく、凶悪な外見をしているにも関わらず、なぜかドレッドルートだけはよく分からない存在であったのだ。

 

「………」

 

「確かにアバターやもう一体の神…イレイザーだったか。 その二体は君たちの認識通り凶悪なモノなのかもしれない…しかし、それだけではないさ」

 

「…だが、だったらなぜ恵一は操られている? ドレッドルートもそうだ。 もしアンタの言うように心優しい存在だったとして…なぜ恵一を助けようとしない? 少なくとも、俺たちと接触しようとするはずだ」

 

「そこまでは分からないさ。 だが、悪という単純な枠で収まるほど、邪神は簡単な存在でないのも確かだ…」

 

そう言うと、ディヴァインは缶に残っていたコーヒーを一気に飲み干し、近くのゴミ箱に入れた。

そして無数の星がキラキラと輝く夜空を見上げた。

 

「…話は変わるが…不動遊星、君は『時』というものをどう考える?」

 

「時?」

 

「あぁ、そうだ。 …時は皆に平等だ。 等しく流れ、巻き込む。 そこに差別はないが、容赦もない」

 

空を見上げながら、言葉を続ける。

不動はそんな彼からなぜか目を放せなくなり、ジッと見続ける。

 

「ソレをどう思うかは人の勝手だ。 愛し、共に流れるか。 憎み、そこにとどまり続けるか…」

 

「………」

 

「だがな、誰にでも『今日』は必ずやってくるものなんだ。 楽しくても、苦しくても…確実に舞い戻る。 …私は、今まで憎み続けていた。 復讐にしがみつき、今を見ようとしなかった」

 

「アンタは…」

 

「私は友や妹…そして邪神の前で誓った…もう二度と踏み外さないとね。 私はようやく時を愛することが出来たんだ。 今更何ができるか、今はまだ分からないが…それでも、私は生きて償いをしていく。 そう思えたんだ」

 

言い切って、ディヴァインはゆっくりと首を動かし、不動を見つめた。

不動はそんな彼を見て何かに気付いたかのようにハッと目を見開き、言葉を投げかけた。

 

「…邪神も、同じだというのか? 時と同じく…見方次第で善悪の両方になりえると?」

 

「…どちらが正解なのか、それは邪神自身しか分からない。 だが、決めつけてもう一つの可能性を見失ってはいけない…ということだよ。 今は黒か白か判断するには材料が足りなさすぎる…焦る気持ちも分かるが、事態は灰色でしかないことを忘れてはいけないよ」

 

「…そうだな」

 

最初と変わらず、不動は素っ気ない返事をして視線を逸らした。

しかし先ほどまであった焦りは無くなっており、落ち着きを取り戻したようだった。

その様子にディヴァインは満足し、他の者達の分の飲み物を買い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったら、私の中の真っ黒な憎しみは…どうなるのかしら? ディヴァイン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、これなら大丈夫か」

 

少しだけ時は遡る。

 

2人が話をしている場所、そこから少しだけ離れた所にある木に隠れて遊城はそうつぶやいた。

ゆっくりと目を閉じながら座り込み、ようやく「力」を弱めることが出来たのだ。

 

『…本当に良かったのかい?』

 

そんな彼に、相棒であるユベルが話しかける。

ユベルも遊城にしか見えない状態で、臨戦態勢を取り続けていた。

 

「あぁ、あれならもう闇には堕ちないさ…お前も、もうソレ解いていいぞ」

 

『なら、そうさせてもらおうか。 …それにしても、あの男がもし危険な状態だったらどうするつもりだったんだ?』

 

「…その時は…俺が倒したさ。 もう力を使えないまで、な」

 

ユベルの何気ない質問に、彼はキッパリとそう答えた。

その瞳に揺らぎはなく、ユベルもそんな彼にまんざらでない様子であった。

 

『まったく…大したヒーローだよ、君は。 あの男にそんなことをしたら、きっとあの騎士や小娘は君を憎み続けただろうさ』

 

「…俺はもう子供じゃない。 傷つくのが怖くって、誰が救えるかよ…そのために大人に…覇王になったんだからさ」

 

『なるほど、さながらダークヒーローだニャー…。 それはDの領分だと思っていたけど…十代君はよくばりだニャ』

 

「へへっ、何を今更言ってるんだよ。 俺は昔っから欲張りだぜ!」

 

そう言って、彼は少年のような満面の笑みを浮かべた。

ユベルと大徳寺はそんな彼に呆れながら優しく微笑んだ。

 

 

 

そんな時だ。

 

 

 

『…ッ!? 十代、この感じは…』

 

「あぁ、多分敵…しかもかなりデカいな。 狙いは…恵一か…?」

 

『まぁ、十分あり得るだろうね。 アイツは今弱っている、狙うなら絶好の機会だ』

 

『ニャニャ…十代君、どうするんだニャ!?』

 

「決まってるぜ、先生…」

 

遊城は重い体を無理やり立たせ、瞳を閉じて全身に力を込める。

体の周りに風が巻き起こり、輝く闇が彼を包む。

 

「…俺はヒーローだ。 やることは決まってるだろう」

 

そしてオッドアイとなった目を開き、ソレのもとへと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿にディヴァインは見覚えがあった。

真っ黒で鮮やかな長髪。

絹のように細やかで雪のように真っ白な肌。

そして絵に描かれたかのように整った顔。

 

「…ミスティ…ローラ…?」

 

ディヴァインはそう言葉を漏らした。

 

「ふん、さすがに分かるようね…。 それで、答えをくれないかしら? 貴方のくだらない野望のために死んだ私の弟…その無念はどうなるの? 私の憎しみは?」

 

「…トビーのことか」

 

「目の色が…しかもこの感じ…コイツもダークシグナー…!?」

 

ゆっくりと近づく彼女を見ながら、二人はそれぞれ反応する。

 

「あの子の名を…軽々しく言わないでちょうだい…貴方にはここで死んでもらうわ」

 

「悪いな、私はもう死ねない。 私を信じてくれる者のためにも…生きてこの罪を償う義務がある」

 

「そんなこと、私は望んでいないわ…私が望むのは貴方の死。 そして…」

 

ローラは二人から視線を逸らし、公園の奥を見た。

その方向にはベンチで眠り続ける山崎がいた。

彼女はそんな山崎をうっとりと見つめ、舌なめずりした。

 

「フフ、まさか本当に私の目的が同じところに居るなんてね…感謝するわよ」

 

「…? 誰かいるのか…?」

 

ローラはそう呟いて後ろの方を見た。

対する不動は彼女の言葉に疑問を抱き、その方向を見る。

 

そして、動きが止まった。

 

 

 

 

 

「…だから言っただろうが、先公とあの男は一緒にいるってな。 …それより、約束は守れよ? 先公は俺が貰うからな」

 

ローラの視線の先。

そこには不動の目の前で消えたジャッカル岬が、腕を組んで立っていた。

 




ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。