いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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彼のモンスターは危険なものになってました。


サテライト

サテライト

 

なんかよく分からんが、逮捕された。

正直に身に覚えがなさ過ぎて混乱しています。

…、あ、もしかして十六夜さんとの件かな?

いや、別に襲ってねぇし。

そもそもなんだよエンコーって。

金なんてねぇよ、むしろあっちの方が持ってるよ。

まぁ、服とかは奢ってあげたけど。

学校から警察の所に連行されているとき、なんか同僚の先生がニタニタ笑っていたけど、なんだろう。

いいことでもあったのかな。

 

そこから警察に行って、抵抗もむなしく私は有罪となり、マーカーとやらを付けられるようになった。

マーカーというのはあれだ、要は犯罪者の前科を目視できるようにしたものらしい。

んで、そこで問題が起きた。

僕、怪我治るんだったわ。

 

「イタイイタイイタイ! 痛いって! もうあきらめてくださいよ! もうアカンて! 溶けるって! あいっだぁぁぁ!!?」

 

「くっ、どういうことだ!? なぜこいつにはマーカーが付かない!」

 

「知らんがな! そんな事知らんがな! とにかくやめてって! いだぁぁいいぃぃぃよぉぉぉぉ! ぬおおおぉぉぉぉぉぉぁぁぁああああ!!」

 

っていうことがあって、正直めちゃくちゃ痛い思いをした。

最後なんて目を閉じて叫びまくっちゃったよ。

痛みが引いて、周りを見ると警察の人がなんかこっちを見ておびえていた。

そんなに変な顔してたかな?

 

まぁ、なんやかんやあってマーカーは付いた。

顔中に。

あれ、なんでだ?

顔をどの角度から見てもマーカーが見える、全方位対応バージョンができあがっていた。

まぁ、なんかファッションみたいでかっこよかったから放置した。

 

投獄されてから、新人いびりとかあったら嫌だなーって思ってたら、特にそんなことはなかった。

むしろ、皆優しくしてくれた。

いい感じのベッドもあったし、ご飯もまぁまぁおいしかった。

正直、嬉しい反面落胆した。

外にいるより感じがいい、良すぎる。

こりゃ犯罪者もなくならないわ。

 

あ、そうそう。

僕のデッキは死守したよ!

二つに分けて後ろのポケットに入れて行ったら、見逃してもらえた。

いやぁ、よかったよかった。

 

 

 

 

 

side執行員A

 

俺はしがない警察官だ。

その中でも、最も嫌われている刑の執行を担当している。

まったく、なぜ俺がこんなことをしなくてはならないのだ。

こんなことをするために、私は警察になったのではない。

 

町の危険を脅かす者どもを自分がデュエルで拘束する。

そんな警察官がかっこよくって、就いたというのに…。

 

はぁ、こんなことをグダグダ言っても仕方ない。

新人のころにノルマを達成できなかった自分の責任なんだ。

文句を言ってる暇があったら仕事をしよう。

真剣にやっていれば、そのうちまた日の目を浴びることができるかもしれないからな。

 

 

 

そして、今日の収容者がやってきた。

話を聞くと、コイツは町で先生をやっていたが、生徒に欲情して援助交際をした挙句、襲ってしまった変態らしい。

全く、バカなやつだ。

せっかく教職という素晴らしい職に就けたというのに、自らその栄光を踏みにじったのだからな。

まぁいい、犯罪者は犯罪者らしく、独房にて反省してもらおう。

 

だが、この犯罪者はなにかおかしかった。

何か、雰囲気が違う。

犯罪者特有の感じがしない。

もっと、こう、恐ろしいなにか。

そんなものを感じてしまった。

 

いかんいかん、何を考えているんだ私は。

ただの犯罪者におびえるとは。

さっさとマーカーを付けて終わらせてしまおう。

そう思って、いつものように機械をソイツに押し付け、起動させた。

犯罪者が苦痛の悲鳴を上げる。

無理もない、顔を焼かれるのだからな。

私は、苦しそうに体をよじらせるソイツを、ただ眺めていた。

 

…、おかしい。

機械がなぜこうも長く動き続けている?

マーカーを付けるこのマシンは、犯罪者の体に必要以上の負荷をかけないために、マーカー付与が完了次第すぐに動きが止まるようになっている。

だが、機械は全く止まっていなかった。

不審に思って一度マシンをはずし、犯罪者の方を見てみた。

そして、驚愕した。

 

(ついていない…、いや、治っている!?)

 

ある筈のマーカーが、ソイツの顔にはなかった。

なぜ?

故障でもしたか。

いや、アイツが上げていた悲鳴は本物だ。

実際に起動していた。

ならばなぜ?

どうしてだ?

考えが付かない。

思いつきもしない。

 

言いようもない焦燥感が、私を襲っていた。

目の前のこの男が、怖くて怖くて仕方がなかった。

 

(くそ! なんだコイツは! ふざけるな、たかが犯罪者の分際で!!)

 

私はもう一度ソイツにマシンを固定させ、顔の至る所を焼かせた。

悲鳴がさらに大きなものとなる。

はは、ざまぁみろ。

警察様に刃向いやがって、犯罪者が。

そう思って、せせら笑っていると…。

 

「NUOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

何かが起こった。

 

いきなりアイツは今までにない声量で雄叫びを上げると、黑い何かを噴出させた。

ソレは地面に、壁に、天井に付着すると、どんどん大きくなり、部屋を侵食していった。

 

おかしい、なんだこれは、私はこんなもの知らない!!

私は恐怖に駆られ、アイツを放置して部屋から出ようとした。

しかし、開かない。

なんどドアノブを回しても、開かない。

鍵が閉まっているわけではない。

押しさえすれば、開くはずなのに。

見えない何かが、遮っている。

 

壊して開けようともした。

何度も壁に突進し、携帯していた銃も撃った。

しかし、ドアは開かない。

外に連絡しようとしても、全くつながらない。

この部屋は、収容所ではない別の空間になってしまったというのか。

 

(なんだ、これは!? なにが起きてる! 脱出できない、連絡もできない! おかしい! 誰か、誰か来てくれ! くそ! どうなってるんだ!!?)

 

混乱による焦りが頂点に達しようとしたとき、背後から何かを感じた。

見るな、見るな… 見るな!!

体の内の何かが叫んでいる。

見たら終わりだ。

振り向いたら、だめだ!

 

体がガクガクと震え、意識が朦朧としてくる。

見なかったらいい、そのうちこの闇も、なにもかもなくなる!

そう自分に言い聞かせた。

そうだ、逃げてしまえばいい。

怖いなら、見なければいい。

人間は、そうやって危険から逃げてきたんだ。

そうすればいいじゃないか、誰が自分を責めようか。

そう思って、私は縮こまって動かないようにした。

 

これで安心だ。

閉じこもっていれば、何もできないだろう。

はは、化け物め、私は勝ったぞ!

さっさと逃げるなりしてどこかへ行ってしまえ!!

そう勝ち誇り、私はさらに身を固めていった。

 

 

 

…いや、違うだろう。

私はふと、何かを思い出した。

私は、何のためにここにいるんだ。

犯罪者に罪を償わせるためだろう。

それがなんだ。

目の前にいる得体のしれない犯罪者から身を隠し、己の保身だけ図ろうとしている。

 

違うだろう。

私はなんだ。

警察だ。

市民の安全を守る、誇りある存在だ。

化け物なんぞに屈してたまるか。

 

こいつが外に出たら、何が起きる!?

何をしでかすか分かったものではないぞ!

ここで私が止めなくては、きっと多くの人が苦しめられ、嘆く。

だったら、私がすべきことはなんだ!!

 

震える足を立たせる。

自分の頬を打ち、喝を入れる。

逃げるな、立ち向かえ。

我らは、守るために存在する。

かつて新人であった私に、ゴドウィン長官が言ってくれた言葉。

その言葉を頭の中でもう一度唱え、目を見開く。

その眼に先程のような疲れ切った感じはない。

大切なものを守る、戦士の眼だ。

 

そして、男は振り返り、得体のしれない化け物と対峙した。

 

 

 

目の前には、言いようのない「何か」が浮いていた。

 

手を伸ばせば、届くような距離。

小さくも絶対的な存在感を放つそれは、丸い球体で、ミニサイズの太陽のように思えた。

 

(これ…は…?)

 

彼がおもむろに手を伸ばそうとした瞬間、球体に異変が生じた。

球体はいきなり不規則にうごめきだしたのだ。

グニャグニャと形を変えていくそれは、まさしく闇。

するとソレはいきなり霧のように霧散すると、何かを形造っていった。

足、膝、腰、胸、腕、肩。

まるで人間のようなソレに見覚えがあった。

 

(俺…か…?)

 

自分を形造っていく真っ黒なそれは、遂に完全に自分を作り出した。

全てが同じだ。

体格も、着ている服も、顔も。

いや、違う。

決定的な差がある。

此奴には、何をしても勝てない。

本能がそう叫んだ。

 

そいつは目を開き、私を見つめ…

 

「……………」

 

何かを呟き、私のもとにゆっくりと歩き始めた。

地獄からきた亡者のような、底冷えする声。

そんな声に、私は耐え切れず座り込んでしまった。

 

(ひ、いぃ…! 来るな… 来るな… 来るなぁ!!!)

 

心底おびえきって、私は少しでもソレから遠ざかろうとする。

そして、私を飲み込もうと目の前まで来た瞬間。

闇の主が起きた。

 

「うぇええ…、マジで痛かった…。 ん? どうかしましたか? すっごい汗かいてますけど」

 

アイツはそんなことを言ってきた。

その声は、あまりにも邪気がなく、今さっきまでの修羅場が嘘のように感じた。

 

(なんだったんだ…、今の光景は…)

 

混乱しきっていると、犯罪者がこれからどうしたらいいか聞いてきた。

本来なら自分が独房に連れて行くべきなのだが、足が動かない。

仕方ないから、自分で行くように言った。

ある程度歩いてたら、別の看守がいるから、ソイツにまかせた。

 

犯罪者は俺の言葉にお礼を言うと、すぐさま出て行った。

同時に、私は安堵した。

危険は去ったのか。

いや、そもそも私は何を見ていたのか。

あの恐ろしい闇はどこにもなかった。

去り際にアイツの顔を見ると、至るところにマーカーが付いていた。

おそらく、自分が付けたマーカーは全てしっかりとついていたのだ。

 

(夢…だったのか…?)

 

そうだ、全部夢だったんだ。

アイツの顔中にマーカーを付けてしまったのも、機械の事故だ。

明日、上に相談しよう。

今日は疲れた。

帰ったら、冷蔵庫の中にあるビールをまず飲もう。

それから風呂に入って、夕食を作ろう。

ちょっと贅沢して、高めの肉でも使おうかな。

あぁ、だったらまずデパートに寄らなくてはな。

他愛もない事を考え、私は体を動かそうとした。

 

 

 

 

 

しかし、その考えは間違っていた。

恵一が去って行ったあと、黑い「ソレ」はまた現れた。

そしてそれは、目視できないほどのスピードで警察官のもとまで来て、彼を黒に飲み込んでいった。

安堵から恐怖に切り替える暇すらなかった。

偽りの安らぎを抱え、彼の意識はなくなっていった。

 

その後、交代の時間になってやってきた他の執行官が見たのは、真っ黒に変色した動かない同僚であった。

 

 

 

 

 

Side山崎

 

っつーわけで、僕はありもしない罪をなぜか償うことになり、4年間収容されてしまった。

監獄の中では特にこれといった事件はなく、普通に真人間として生活していった。

なんか僕だけ看守さんの目が厳しかった気がしたけど、別にいいか。

 

その中で、ある男の子と知り合った。

 

「あ、けーすけー!」

 

このラリーとかいう名前の子だ。

なんか他の筋骨隆々とした男に絡まれていたのを助けたら、一緒に行動するようになった。

今も僕を見つけて抱き着いてきた。

 

なんか、他の人といるのが怖いらしい。

無理もないか。

この子、男と思えないほどかわいいもんな。

男しかいない牢獄では、まさに格好の餌食だろうて。

掘られちゃたまらんだろ。

うんうん、僕にそのケはないから安心してね!

 

彼は窃盗かなんかの軽い罪で捕まったそうな。

こんな幼い子が…、盗みをするのか…。

この世の無情に嘆くと同時に、それでも健気に頑張り続けるこの子を急に応援したくなった。

ついでに、すごくかわいく思えた。

ペット的な意味で。

一家に一人欲しいわ。

 

だからついつい彼を抱き上げて、抱きしめてしまった。

最初はジタバタしてたけど、最終的には大人しくなった。

調子に乗って、膝に乗せてお腹ポンポンしちゃったよ。

顔真っ赤にしちゃってた。

そんなに恥ずかしかったか、ごめん。

 

 

 

そんなこんなで、僕は出所した。

出所したと言っても、前とは違う、サテライトってとこだけど。

なんか、犯罪とか犯した人は、サテライトに送られるらしい。

すっげぇ差別だな、ゴドウィンさん何とかしてください。

 

ついでにラリー君もついてきた。

出所するタイミングは一緒だったらしい。

正直右も左も分からない状態で、すっごく心細かったからちょっと安心した。

案内とか、してくれないかなー。

って思って、彼に誘ってみたら、快諾してくれた。

すっごい勢いで。

そうか、キミも心細かったんだな。

一緒に頑張って行こうね!

 

そう思って彼の手をおもむろに掴むと、握り返してくれた。

また顔を赤くしてたけど、もしかして僕すごい恥ずかしいことしてるかな…?

 

 

 

それから数日が経って、事件が起きた。

 

ラリー君が闇市の商品を勝手に持ってきちゃって、追われてしまうこととなったんだ。

あー、こりゃまずいな。

なんとかしないと今後も執拗にやってくるな、あいつら。

それに謝ってどうにかなる連中でもないみたいだ。

いかにもぶっ殺します、って顔してたもん。

嫌だな、無法地帯。

 

そんなこんなで彼を連れて逃げていたけど、限界が訪れた。

ラリーがへばってしまったんだ。

いや、それだけなら僕がおぶってあげればいいんだけど、如何せん僕も体力はない。

彼を背負ってから僕もすぐに疲れてしまい、もう追ってはすぐまで来ていた。

よし、彼だけでも逃がそう。

僕だけなら、なんとかなるかもしれない。

アイツらだって、簡単に殺しはしないだろう。

ラリーを残したりなんかしたら、アイツらに何されるか分からない。

主にお尻的な意味で。

商品は壊しちゃったと言えば、許してくれる…かな?

この世界はデュエルに勝てばなんでもいい、ってルールがあるみたいだけど、さすがに盗みにそれは適応しないだろう。

ましてやここは無法地帯だ。

何が起きるか分からない。

 

そう思って彼を逃がそうとしたら、彼がいきなり愚図り始めた。

こんな彼は初めてだったので、ちょっと困惑した、そしてかわいかった。

何を言ってもいやいやと首を振る彼に四苦八苦していると、遂に追手が追いついてしまった。

あぁ、もうだめか。

せめて彼だけでも助けてあげたかった。

短い人生だたなぁ。

二度目だけど。

一度目終わってなかったけど。

 

そう思い覚悟を決めると、なんか聞こえた。

 

 

 

「おい、デュエルしろよ」

 

 

 




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