いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

6 / 31
狼は、思い人を追ってサテライトへ向かった。




 

「おい、デュエルしろよ」

 

そんなどっかで聞いたようなセリフの先には、これまた個性的な髪形をした男がいた。

誰だろ、この子は。

鋭い目をしてるなぁ。

しかも初対面の人に命令口調とは、なかなか度胸のある子だ。

お兄さん気に入りました。

怖いけど。

 

っと、この子今なんて言った?

デュエル?

どういうこと?

 

…、あ、そうか。

デュエルってそのままの意味か。

つまりは決闘、一対一の殴り合いをご所望と。

ずいぶんとまぁアグレッシブな子だったか。

 

「俺が勝ったらそこの二人を見逃せ。 もちろん、その子が盗ったものは返させてもらう」

 

ほほぉー、ずいぶんと漢だね。

お兄さん高ぶってきちゃったよ。

あれだけの人数を一人でサバこうとは、なかなか言えたものじゃないね。

こうなったら全身全霊で応援し「ちょっと待ちやがれ」…ん?

 

「さっきから何言ってやがる。 俺たちゃ別にデュエルなんてしようとは思っちゃいねぇよ。 しかも、当の二人じゃなくてなんでテメェとやらなくちゃならねぇんだ、無関係の奴は引っ込んでやがれ」

 

あちゃー、やっぱそうだよな。

あっちもけっこうお冠のようで、せっかく来てくれたのにお気に召さないようだ。

まぁ、こっちもそんな事言ってられないけどね。

 

「…、だったら俺じゃなければいいんだな?」

 

そういうと変な髪形の男はこっちの方に歩いてきた。

ん?

なんか雲行きが怪しいぞ。

男は僕たちの前で止まると、ラリーの方をジッと見てきた。

 

「ゆ…、遊星…」

 

お、なんだ知り合いなの?

遊星っていうんだ、いい名前だね。

 

「ラリー、捕まった時に助けられなかったのはすまなかった。 だが、なんで出所してまた早々盗みなんてしたんだ」

 

「そ、それは…。 ちょっとけーすけに…」

 

そういうとラリーは顔を赤くしながらコッチをチラチラ見てきた。

なんだい?

もよおしたのかい?

蹴られた、ゴメン。

 

「…、そういえばアンタは?」

 

「僕? ぼくぁ、山本恵介って者です。 冤罪でここに来ました」

 

「冤罪…、そうか、アンタも苦労したんだな。 俺は不動遊星。 ラリーの仲間だ」

 

おぉ、やっぱり知り合いだったのね。

うん、挨拶もしっかりしてくれたし、アカデミアの生徒たちより礼儀正しいじゃないか。

 

「うい、よろしくおねがいします。 ところで、この局面、どうしますかの?」

 

「あぁ、その事なんだが…、二人とも、デッキを持っていたりするか? アイツらは、お前たちとのデュエルなら受ける可能性がある」

 

え、デュエルってマジでカードのほうなの?

ホントに?

…、なんとも言えないな、まさか喧嘩もデュエルで決めるとは…。

そんなにカードが好きなのか、あの子たち。

カード脳ここに極めり、だな。

まぁ、学校ができるくらいだからなぁ。

 

「ゴメン、俺はカードなんて持ってなくって…、あ、で、でもけーすけなら…」

 

ん?

どうしたんだいラリー君、こっちを見て。

…、もしかして、僕に戦えと?

この負け確率90%の僕に?

きっついなぁ…。

 

「? アンタ、デッキを持っているのか? だったら…」

 

「いや、持っているはいるんだけど、正直弱すぎてあてにならないっていうか…いやなるんだけど、なりすぎて弱いというか…」

 

「?? 何言ってるんだ? とにかく、デッキを持っているならデュエルしてくれないか? 大丈夫だ、最悪俺が何とかする」

 

そう言うと不動は僕の手を取ってアイツらの前まで連れて行く。

えー…、本当に使うのかよ…。

 

「…なんだ、話し合いは終わったのか? …あぁ、その男とならデュエルしてやってもいいぜ、かかってきな」

 

そう言うとあっちの方もやる気満々なようで、コッチを睨みつけてきた。

おいおいおい、このままじゃアカンでしょ。

なんとか…、なんとか突破口を…、…!

そうや!

 

「で、でも! 僕デュエルディスクとか持ってないし…。 とてもデュエルなんか…」

 

これでいける!

あとは謝って見逃してもらえば…

 

「それなら心配ない、俺のを貸そう」

 

あ、そうですか。

ちょっと、そんなドヤ顔でこっち見ないでよ不動。

うわー、腕に固定するタイプなんて久々だなぁー…。

先生になってからはずっと肩にかけるタイプの奴だったし。

お金なかったからクロノス先生のお古ずっと使ってたわい。

 

「おっし、それじゃデュエルのはじま「おい! ちょっと待てこら!」」

 

いやいや始めようとしたら、なんか来た。

なんだあの子。

大きな声がすると思ってそっちをむくと、どっかで見たような帽子をかぶった女の子が立っていた。

うわ、アカデミアの制服だ。

なつかしいなー。

ていうか元気いいなあの子。

あんなに勢いよく走ってきて、スカート短いから見えそうだったよ。

 

「ど、どうしたんすか、姐さん」

 

「なんか面白そうなことしてるじゃねぇか…。 それなのにこの俺を置いてくとは言語道断だ! このデュエル俺に代われ!」

 

「えぇ!? そ、それは…」

 

「あぁ!? 俺の言うことがきけねぇってのかよ!! いいからそこをどきやがれ!」

 

そう言うとその子はさっきまでいた男を蹴飛ばし、僕の前まで来た。

 

「さて…、おい、ウチのもんに手ぇだしてくれたんだ。 覚悟はできてんだろうなぁ?」

 

「ん? あ、はい。 とりあえず頑張りますんでよろしくお願いします」

 

「…、なんか変なやつだな…。ていうか、あんたどっかで… まぁいいか、俺の名前はジャッカル岬だ! お前は?」

 

「僕ですか? 山本恵介と言います、以後よろしく」

 

「はっ! よろしくされるかは今から次第だ! いくぜぇ!!」

 

「「デュエル!」」

 

ジャッカル岬 LP4000

 

山本恵介(山崎恵一) LP4000

 

「先手必勝! 行くぜ、ドロー!!」

 

ヴぁ!? いきなり先攻盗られた?

今までもそうだけど、なんでみんなあんなに先行強引にとるんだよ。

後攻になると若干へこむし。

 

「俺はゴブリン突撃部隊を攻撃表示で召喚! カードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

ゴブリン突撃部隊

ATK2300 DEF0

このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になり、次の自分のターンのエンドフェイズ時まで表示形式を変更する事ができない。

 

ほぉ、いきなり攻撃力2300か…。

しかもカードを二枚も…。

…、多分そのうちの一枚は…、あれか、なるほど。

 

「うい、それでは僕のターン。 モンスターを一枚セット、さらにカードを一枚伏せてターンエンドです」

 

「へ! 攻撃もできないチキン野郎が! 俺のターン!」

 

チキンて、勝てないんだからどうしようもないでしょうが。

…、来るかな?

 

「俺はもう一体ゴブリン突撃部隊を召喚! 二体で攻撃だ! いくぞゴブリンども! 突撃指令! 二部隊連携、ゴー!!」

 

彼女の指令に従って、多くのゴブリンがこっちにやってきた。

涎を垂らしながら。

ヴぇえ、気持ち悪い!

いかん!

我慢できないが…、耐えるぅ!

 

「! 破壊されたのはピラミッドタートルです。 効果でデッキから新しいカメを、さらに破壊されたので最後のカメを特殊召喚します」

 

ピラミッドタートル

ATK1200 DEF1400

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

砂埃が晴れた後、僕の前に大きなピラミッドを担いだカメさんが現れた。

なんか周りを見ながらプルプル震えてる、かわいいなコイツ。

 

「…チッ! バトルフェイズの終わり、ゴブリンたちは守備表示になる。だがターンの終わりにこいつを発動するぜ! いくぞ、スキルドレイン!!」

 

スキルドレイン

1000ライフポイントを払って発動できる。

このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の全ての効果モンスターの効果は無効化される。

ジャッカル岬 LP3000

 

あぁー…、やっぱり来たかー…。

大抵攻撃した後にデメリットがあるモンスターをぼんぼん出すデッキには、あれがあるよなー…。

…、ていうか…。

 

「ねぇ…、こういうのもなんだけど…、バトルの時に発動しとけばキミのゴブリンは守備にはならなかったんだけど…。 そこんとこどうなの?」

 

「え? …!! う、うるさい! テメェに言われなくても分かってら! これは、えっと…、あれだ! お前に猶予を与えてやっただけだ! それに俺の手札にはもっと強力なカードがある。 どっちにしてもお前の負けだ!」

 

なんか怒られた。

顔真っ赤にしながら。

別にむきにならなくてもいいのに…。

 

しかも手札教えちゃったし。

「デュエル教訓2-7、効果発動のタイミングは最高の時をねらえ。 カードを100%活かせないともったいないよ?」

 

あ、しまった。

昔の癖が出ちゃった。

一応先生だったからなぁー…。

 

「うるせぇ! そんな事分かって…、ん? お前、なんで教訓を知ってるんだ? ていうかお前、やっぱどっかで見たな…?」

 

そう言ってジャッカルさんは僕の方をジロジロ見てきた。

あー、ばれたかな?

するとジャッカルさんは僕の方を見て目を見開くと、満面の笑みで…

 

「…あ! 思い出したぜ! お前全然生徒に勝ててなかったカス教師か! 顔中マーカーだらけで気づかなかったぜ!」

 

とか言って来た。

 

「え!? けーすけが…、先生…?」

 

うぇー、ばれたか…。

しかもラリー君たちにも聞かれたっぽいし。

 

「そうだそうだ、確か学校にいた頃に見たことあるわ。 お前、テストとかでも絶対勝てるとかでほとんどの生徒に舐めきられていたよな!」

 

「…、どういうことだ。 ラリー、なんでネオドミノの教師がここにいるんだ」

 

「分からないよ…、さっきも言ってたけどけーすけは間違いで捕まったんだし…」

 

あっちこっちでいろんな話をしてるなぁ。

やっぱり教師がサテライトにいるのはおかしいのか。

そりゃそうか、不良教師ウェーイ。

 

「みんな噂してたぜ。 アカデミア創立以来の最悪のクズ教師ってな! 授業で知識を教えることはできても自分が弱いからだーれも相手にしないんだよなぁ! そのくせテストの時には自分の昇級のために生徒たちにタカられてたって話だぜ!」

 

「! クズ…だと…!?」

 

「な、なんなんだよアイツ、けーすけの事悪く言いやがって! けーすけも何とか言ってよ!」

 

あー、反論したいんだけどね。

正直本当の事だし何とも言えないなぁ…。

 

「まぁー…、ダメ先生だったのは否定しないよ。 正直自分でもがっかりするくらいの弱さだったし」

 

「はっ、ほら見ろ、俺の言ったことは正しいじゃねーか。 それにしても哀れだよな、アンタも。 魔女なんか助けたせいでありもしない罪で捕まってさ。 ホント、甘ったるい先公だよ、アンタは。 自分を貶してた生徒に対しても普通に接していたし。 上から水かけられても笑顔で許してたよな!」

 

…、よく知ってるなこの子。

確かに十六夜さんはあんまり笑わないからか魔女とか言われてたし、水を掛けられた頃もあったわな。

顔ちょっと見るだけでここまで思い出すもんなのか。

んぉ?

ていうかこの子…。

 

「お前弱すぎて小学の担任すら任せられていなかったよな! しかも残業押し付けられてばっかで、帰りも日が変わる勢いだったじゃねぇか! 最悪夜中の二時くらいに西区のマンションまで帰ってたな! ハハ、全く、時間がいつもズレやがるからあの時はコッチもホントに苦労したぜ…。 せっかくアンタの好物作ってやっても、当の本人がいなけりゃどうしようもねーじゃねーか…。 でもあれだよな、アンタ休みの時間にはいつも校舎裏の木陰で寝てるから、時間割さえ把握しとけば見つけれないって訳じゃなかったな。 あの時のお前の寝顔は見ものだったぜ。 あまりにも無防備だったからよ、ついつい襲いそうになって…」

 

「ね、姐さん…?」

 

いきなり僕情報を流し始めた女の子は、下っ端らしい人に変な目で見られてた。

ラリー君や不動も困惑しているようだね。

そりゃそうか。

目の前であんなに詳しく他人の情報さらされたら困りもする。

 

っていうか、この子やっぱり…。

 

「…、ねぇ、キミもしかして、灰村 岬さん?」

 

「! 覚えてたのか!? 先生!!」

 

あー、やっぱりそうか。

なんか目をキラキラさせてこっちを見てくるし…。

どういうことやねん。

 

「…、どういうこと? けーすけ…」

 

僕が知りたいわい。

そんな怖い目で見ないでよ。

川井さんみたいだよ、ラリー君。

 

それにしても…、灰村さんか…。

この子も十六夜さんと同じで一人ぼっちの時が多かったからよく話していたな…。

それから、授業をする時によく絡まれていたと思う。

何かに付けて悪口言って殴ってくるから困った子だったな。

でも僕の好物、オムライスゥを作ってきてくれるから嬉しかった。

毎日毎日作ってくれてたから申し訳なかったんだよねぇ…。

…ん?

そういや、なんでこの子ここにいるんだ?

 

「やっぱり灰村さんかい…。 でもなんでキミこんなとこに居るの? 別に犯罪したわけじゃないでしょ?」

 

「!! えっと…、それはだな…。 こ、こっちの方が強いやつがいると思ったからだ! 俺は今に満足しねぇ! 常に切磋琢磨、上昇気流の女なんだよ!」

 

へぇ、そうなんだ…。

…、上昇気流ってどういうことだ?

まぁいいや。

確かにこっちの方がサバイバル的な何かができるだろうし、楽しいとは思うけど…。

もしかして、学校も辞めたんじゃなかろうか?

だとしたら、ちょっとヤバいんじゃないのかな…。

 

未来ある女の子が、こんな無法地帯で武者修行。

変な男に捕まったりしたら大変だ。

 

「…、もしかしてあの人、けーすけが捕まったこと知って、会いに行くためにここに来たんじゃ…。 じゃあ、最初の素っ気ない反応も、けーすけを奪うための…」

 

「? どうしたんだ、ラリー。 さっきから考え事か?」

 

あっちもあっちでなんか喋ってる。

どうしたらいいんだろ、この状況。

…、あぁ、別に勝てばいいのか。

そうだな、勝てばラリー君は助かるし、灰村さんを正しき道に戻せる気がする。

そうだそうだ、とりあえずかちゃーええんだよ。

 

でもどうしようか。

相手のフィールドにはデメリット無しの強力モンスター。

しかも僕のモンスター達は蘇生効果を消されてる。

これじゃアンデッドの意味が無い。

ただのキモイおっさん達だよ。

あ、カメさんは違うよ?

 

んー、でもどうしようか、多分次にドローした時にはあいつらが来るだろうし、突破口を期待できない。

手札にもなにかあるわけじゃ…、あ。

あったわ、これでいけるんじゃなかろうか。

 

「何やってんだよ先公。 とりあえずあれだぞ? お前が負けたら俺のモノになってもらうから覚悟しろよ? 別にそこのヤツが盗んだ事は別にどーでもいいからよ。 ほら、また毎日オムライス食わせてやるぜ、ずっとな!」

 

「ね、姐さん!!?」

 

ふぉ!?

なんか罰ゲームの内容が変わってる!?

たこ殴りじゃないの!?

ていうか、あの子はなんであんなに笑顔なんだよ。

なんで彼女のモノになるのよ、しかも俺が。

あ、でもラリー君が無事なら別にいいかな。

別に学校にいても殴られてたし、多少の打たれ強さならある、と思う。

 

「な! 何言ってんだよあの女! そんな事でけーすけをモノにするなんて…絶対に許さないからな! おい! 聞いてんのかよ帽子女ぁ!」

 

ラリー君は必死に僕の奴隷化を止めようと言ってくれている。

優しい子だな、ラリー君は。

自分がどうなるか分からない状況だってのに、僕の事をかばってくれるのか。

後でイイコイイコしてあげようね。

 

さて、とりあえず勝ちますか。

 

「僕のターンですね、ドロー。 残念ですが灰村さん、僕は貴方の奴隷になるつもりはありませんよ」

 

「ブッ!? だ、誰が奴隷にするって言った! あ、でもそれでもいいか…? ってそんなことより、どういう事だ、勝率10%のアホがどうやってこの状況覆すんだよ」

 

「まぁ見てなさい。 来たカードは…、やっぱりアンタかこの真っ黒ゴムボールめ…」

 

ドローしたカードはやっぱり使用禁止のカードだった。

でもまぁ、手札の方で何とかなるか。

 

「まずは伏せてあったカードを一枚発動、強制脱出装置。 これでキミのモンスター一体を手札に戻します」

 

強制脱出装置

フィールド上のモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。

 

発動すると、突撃部隊の前にEXITと書かれた巨大な機械が現れる。

逃げ惑うゴブリン達をあっけなく吸い込んだ装置は、標準を灰村さんの手札に合わせる。

 

「へっ、そうはさせるかよ! トラップカード発動、魔宮の賄賂! コイツでアンタのトラップを無効化する!」

 

魔宮の賄賂

相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 

しかしあとちょっとで発射、という所で機械は壊れ、代わりに僕のもとに謎の金貨が現れた。

 

「ほら、賄賂だぜ先公。 カードを一枚引きな!」

 

うむ、指示通りに引くとするか。

まぁ、今更引いてもしょうがないんだけどね。

 

「…デュエル教訓、応用3 目先のデメリットに捕われるな。 貴方がトラップや魔法に対する対策を練っていた事は分かっていましたよ。 本命はこっちです。 マジック発動、ライトニング•ボルテックス!」

 

「な、なんだと!?」

 

ライトニング・ボルテックス

手札を1枚捨てて発動できる。

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

「なるほど、相手の伏せカードの中身を知るために、まずはあえて強制脱出装置を発動したのか…。 恵介…だったか、強いなアイツ」

 

「だろ! けーすけは誰にも負けたりなんてしないよ! 刑務所でも俺を守ってくれたし、本当に強いんだから!」

 

あー、そこのお二方、そんなに目を輝かしてこっち見ないでよ、別に当然の事なんだから。

それに灰村さんが何もせずに放置していたらもう詰んでたんだから。

 

「だ、だが先公のフィールドには弱っちいアンデッドしかいねぇ! この状況でも何の問題も無いだろうがよ!」

 

うん、完全に油断してるな、あの子。

いいだろう、いいだろう。

たまには先生らしい事してやろうか。

 

「灰村さん、僕はまだ召喚をしていませんよ? 私はゾンビマスターを攻撃表示で召喚します」

 

ゾンビ・マスター

ATK1800 DEF0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札のモンスター1体を墓地へ送る事で、自分または相手の墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を選択して特殊召喚する。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「ふん、別にそいつが加わっても合わせて3000だ。 俺のライフはまだ少しも削れて…あ…」

 

灰村さんはようやく自分の状況が理解できたのか、顔を青くし始めた。

逆に不動やラリー君はものすごい勢いで喜んでいる。

まぁ、助かったんだし。

そりゃ喜ぶよね、よかったね!

 

「デュエル教訓 1-1 ライフは大切に、ってね。 強力なカードには必ず裏があるんだ、次はちゃんと把握しておくようにね。 行くよ! まずはピラミッドタートルで攻撃、カメぇビーム!」

 

ピラミッドタートルは目から謎の光線を出し、灰村さんはそれをモロに食らってしまった。

 

「よし、これでとどめ…!」

 

思えば勝つのは久しぶりだなぁ。

前はいつ勝ったっけ?

確か初等部の子相手だったな。

「うわーん、カモ先生に負けたー!」ってその場で号泣してたな。

他の先生の目が痛かった。

あの時はホントに困った。

勝っても怒られるし、負けても変な目で見られるし、どうすりゃいいのか分からなかったなぁ…。

 

死ぬ程どうでもいいな、まぁいい。

久々の勝利だ!

そう、俺のデッキは多くの低級ゾンビモンスターを召喚し、相手をボッコボコにするビートデッキ…、いやいやいや………。

 

「そういうデッキじゃねーから! いけ! ゾンビマスタァー!!」

 

僕の魂の叫びにゾンビマスターは大きな金切り声をあげて応える。

その手の先には、冥界よりアンデッドを呼び出すための霊糸が見える。

 

「生者をも操れ、死者の先導者! 必殺、パペットマペット!!」

 

僕の命令のもと、ゾンビマスターは灰村さんに突撃して行った。

そして目の前まで来ると手のひらを地面につけ、足下から無数の霊糸を出し、彼女にまとわりつかせる。

そして電撃が流れるエフェクトが見えると、彼女のライフはゼロになった。

 

ジャッカル岬 LP0

 

「うぐぁぁぁ!! あと、あとちょっとで…、あとちょっとだったのに! くっそぉぉ!!!」

 

彼女は膝をついて何度も地面を殴り始めた。

相当悔しそうだな。

無理も無い、学校で僕に負けるのは一生の恥とさえ言われてたもんな。

 

「やったぁ! けーすけが勝った! どうだ、この凶暴女! お前なんかにけーすけは渡さないんだからな!!」

 

おや、ラリー君も嬉しそうだね。

しかし相手を貶すのは頂けないね。

これは後でお仕置きかな、夜ご飯は彼の嫌いなピーマンを入れちゃおう。

 

まぁ、とりあえず勝てた。

よかったよかった。

 

「やったな、恵介」

 

「おぉ、不動。 ありがとう、なんとか勝てたよ」

 

「フ、さすがは教師、といった所か。 ところで、これからどうするつもりなんだ? 前まではネオドミノに住んでいたと聞いたが…」

 

…あ、そういや考えてなかった。

出所してからはラリー君と一緒に野宿したりしていたけど、ぶっちゃけこれからのことなんて頭に無かった。

困ったクマった。

 

「ね、ねぇ。 だったらさ、僕たちの所にこない? とりあえず家とご飯はあるし、野宿よりいいと思うんだけど…」

 

「え、いいのかい? だったらお兄さんすっごく嬉しいんだけど…」

 

「そうか、なら決まりだな。 まずはマーサに掛け合ってみるか。 早速行くか、ラリー、恵介」

 

「うい」

 

「やったぁ! これでけーすけと一緒だ! これからも宜しくね、けーすけ!!」

 

すると、ラリー君が嬉しそうに僕に抱きついて来た。

そうか、そんなに嬉しいか。

感激で泣きそうだよ。

 

「うんうん、こちらこそよろしくね、ラリー君、不動」

 

あぁ、住む場所が決まって良かった。

これからどうしようか。

まずは職だな。

求人広告とかあるのかな、ここ。

そんな事を思いながら僕たちはマーサさんとかいう人の所に向かっていった。

 

 

 

 

 

恵一達が去っていった後、ジャッカル岬はまだ悔しがっていた。

部下の男達が何を言っても相手にせず、ただただ項垂れていた。

 

無理も無い。

彼女は学校から消えた恵一を探しにサテライトまで来たのだ。

せっかく会えたというのに、未だに素直になれず、しかも自分のモノにする事ができなかったのだから。

 

分かるとは思うが、彼女は恵一に惚れていた。

きっかけは他愛もないことだ。

出会いは十六夜 アキと同じ初等部にいた頃。

当時気が強く、男も女も突っぱねて一匹狼であった彼女に対して、唯一対等であったのが彼であった。

恵一は岬が何度殴ったり蹴ったり、時には酷い悪口を言っても彼女から離れる事は無く、いつも気にかけてくれていた。

彼の事を意識するのは、必然とも言えた。

 

しかし彼女は自分を素直に表現する事ができず、自分が彼の事を好きだと気付いても何も言えず、逆に殴る量が増えてしまう始末だったのである。

 

彼女は考えた。

どうしたら彼をモノにできるか。

いろいろな本を読んだ結果、男の胃袋を征する事ことが大切だと知った。

だからこそ、彼女は恵一の大好物を探り、毎日作っていった。

その度に嬉しそうな表情をする恵一の顔を見て、顔を赤くさせる毎日が続いた。

しかし、それでも告白する日が来る事は無かった。

 

そして、あの日が来た。

いきなり彼は、岬の前から消えたのだ。

彼女は目の前が真っ暗になった。

食事も喉を通らない日が続いた。

そんなある日、変な噂を聞いた。

 

山本先生は、魔女に操られて捕まった。

 

そんな話を聞いた。

魔女、確か自分と同い年の、よく分からない理由で皆から避けられているヤツ。

友人のいない岬も、そのくらいの事は知っていた。

 

(そうか、先公は魔女とか言う女に騙されて…)

 

急に怒りがわいて来た。

大好きだったアイツは、魔女に捕まって、そのせいで全部奪われたんだ。

 

(許さねぇ…、絶対に許さねぇ!!)

 

 

 

そこから先、彼女はあまり覚えていない。

覚えているのは、目の前で力なく倒れている魔女と、血に染まった自分の腕とそれを抑える教師達。

 

暴行事件を起こした彼女は、審議のもと停学処分となった。

しかし、彼女にとってはどうでもよかった。

頭にあるのは、常に一緒にいてくれた愛しい存在。

 

停学を言い渡されたその夜、彼女は家から飛び出した。

行き先はサテライト。

もとからこうするつもりだった。

経路も考えてある。

 

(今、行くからな。 先公…)

 

そして彼女は旅立った。

どれだけでも待つ覚悟はあった。

居場所のなくなったアイツの居場所を、俺が作る。

そう決めていた。

 

 

 

そして、灰村の名を捨ててサテライトの一区画を牛耳るようになった彼女は、恵一の出所を待ち続けたのであった。

 

 

 

だからこそ、今の彼女の心境は計れるものではない。

全てを捨てて一緒にいる覚悟を決めたというのに、その相手はどこかに行ってしまったのだ。

心の中で、ドロドロとした何かが生まれていた。

そうだ、盗られたのなら盗り返せばいい。

襲ってでも、殺してでも、奪ってしまえばいい。

そんな感情が彼女の中で蠢き…そして…

 

 

 

 

 

その感情を、彼女は一瞬で消し飛ばした。

今までよりも強く地面を叩き付けると、勢い良く立った。

その顔は、晴れ晴れとしている。

 

「はぁ…、まったく、奪ったってどうにもならない事くらい分かるだろーが…」

 

彼女、灰村 岬はもとより正々堂々を重んじる女である。

灰村を捨てて得たジャッカルの名は、伊達ではない。

非道など、決してしない。

必ず、自分の力で振り向かせてみせる。

 

「待ってろよ、クソ先公! 絶対に私のモノにしてやるからなぁーー!!!」

 

誰もいない広場で高らかに叫ぶ。

孤独を嫌う、一匹狼の決意。

 

漆黒に染まる夜空のもと、闇の洗礼を受けて、彼女は大きく決意したのであった。

 




ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。