ポケモンのいる(非)日常   作:ゾゾ

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第一章【真っ新な世界】
5月15日(月)①自宅


 

 

 …うーん、うん?

 

 

 

 あれ?いつの間にか寝てた…のか?

 

 

 

 全然記憶にないな。

 

 

 

 しかも机に突っ伏して寝るとか、ベタな受験生じゃあるまいし。せめてベッドで寝ろよ、地味に首が痛いだろーが。と、寝る前の自分に文句を言ってみる。

 

 寝起きとは言え、何かいつもより頭がボーッとする。今何時だろう、まだ早い時間ならベッドで寝直したいんだけど……スマホ、スマホっと。ぬう、もう7時前か。さすがに二度寝は出来そうにないな。

 

 

 しかし何だろうな、本当に昨晩の記憶がないぞ?

 

 

 確か昨日はリビングで晩御飯を食べて、心結とアニメのDVDを観て、風呂に入って、部屋に戻ってきて。いつもの自分ならPCで動画を見たり、スマホをいじったり、あるいは小説を読んだりしているはず。でも、その辺りからの記憶がすっかり抜けている。

 

 

『コンコンッ、ガチャッ』

 

「お兄ちゃん、朝だよー…ってあれ、もう起きてたの?」

 

 

 部屋のドアをノックしガチャリと開けて現れたのは、妹の心結(みゆ)。毎朝わざわざ起こしに来てくれる出来た妹なのだが、何故か怪訝な顔をしている。

 

「いやいや、だってお兄ちゃん、いつもは心結が起こしに来ても爆睡じゃん。しかも朝から机に向かってるし。布団と枕だけがお友達のお兄ちゃんがだよ?」

 

 朝から辛辣だな。今日も我が妹君は平常運転だ(誉め言葉)。昨晩の記憶がなくてちょっと不安になってたけど、とりあえずお兄ちゃん一安心。

 

「まあいいけど。朝ご飯出来てるから、早く顔洗っておいでよ。パパとママは珍しく寝坊してさっき慌てて出ていったから」

 

 どうやら我が家の家計を支える母君とクソ親父はすでに仕事に出掛けたようだ。いつも俺が起きる頃には家を出ているから知らないけど、そうか寝坊したのか。昨晩は遅くまでお楽しみだったんですかね。息子が何者かに記憶を奪われている(厨二思考)間に何してんだ。母さん次も妹でよろしく。クソダメ親父はとっとと金稼いでこいや。

 

 と、いつもの朝なら寝惚け眼で一切目に入っていない我が妹の姿を改めて眺める。

 

 前髪を下ろして流し、全体的に浮遊感のある黒髪のショートボブ。着丈が長めのロンTから見えるホットパンツ、そこから伸びる細長い健康的な生足。さらに猫のワンポイントをあしらえたシンプルな紺のエプロンを翻し、まるで新婚さんの雰囲気を醸し出している女子中学生が、そこにはいた。

 顔もそこらの読者モデル(笑)より数段可愛いと、実の兄の俺が見ても思う。血の繋がりがあるからこそ何の情欲も湧きはしないが自慢の妹だ。可愛い妹というものはそれだけで価値があり、本来は国が威信をかけて保護すべき宝であるとすら思う。全く日本は何してんだ税金返せ。

 

「…?何ぼーっとして、変なの。あ、変なのはいつもか」

 

 そう言って国宝級の妹は悪戯っ子のように笑い、くるりと踵を返し部屋を後にする。

 

 朝から下らないことを考えていたなと自省し、のそりと椅子から立ち上がりため息をつく。

 

 

 はあ、顔洗ってこよ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 顔を洗ってリビングに入ると、テーブルには朝食が並んでいる。今日はフレンチトーストに、ウィンナー、スクランブルエッグ、トマトとレタスのサラダにコーンポタージュと、洋風の朝食だ。

 

 リビングチェアに腰をかけ、両手を合わせ、いただきます、と一言。

 

 徐にフレンチトーストを手に取り、頬張る。うっすらと蜂蜜がかけてある為やや甘めだが、適度に溶けた一片のバターがほんのり塩分を効かせ、味を引き締めている。蜂蜜のほんのりとした甘さとバターの塩分、トーストの香ばしさがうまく調和し、幸せが口に訪れる。

 フォークでウィンナーを突き刺し口に運んでかぶり付くと、パキリと小気味良い音をたてて千切れ、少しだけ肉汁を滴らせる。トマトケチャップやマスタードはつけずに、ウィンナー本来の味を楽しむ。

 スクランブルエッグは少量の砂糖と牛乳を加えてほんのり甘めに仕上がっているが、トマトケチャップを少し加えて味を引き締め、スプーンデ掬い取り口に運ぶ。優しい味だ。

 トマトとレタスにはフレンチドレッシングがかけてある。シャッキリとした食感と共に、野菜の瑞々しい水分が口の中に広がる。ドレッシングもかけすぎると塩辛くなりがちだが、適度な分量を弁えている為、野菜本来の味を邪魔することなく引き立てている。

 コーンポタージュにはシャキシャキとしたコーンの粒々はもちろんだが、スープの脇の小皿に添えてあるクルトンも加えれば、さらにカリッとした食感も楽しめる。ポタージュスープを口に含めば、滑らかで優しい生乳の柔らかい味が口に広がる。パセリの乾燥粉末を添えて、見た目にもアクセントを加えている点が実に高評価だ。

 

 

「どう、おいしー?そかそか、うん、当然だねっ」

 

 

 心結はシンクで食器や鍋を洗いながら徐に此方に振り向き、味の感想を訊ねてくる。

 心の中では雄弁に、それは長々と味の批評を行っているのだが、実際には口下手な為、ただこくりと一つ頷くことで是と意思表示を行う。家族相手ですらコミ障過ぎて泣ける。そんな我ながら薄いと思う反応を見て心結はうんうんと満足げに頷き、また洗い物を再開する。

 

 

 ママンとクソダメガネ親父は一家の家計を支えるべく仕事で家を空けていることが多く、基本的に家事が出来ない。食事は、俺と心結が幼い頃こそインスタント食品でどうにか賄っていたが、心結は小学生高学年になる頃にはすでに家事に覚醒。炊事、掃除、洗濯などの家事全般を、我が家の生命線である大天使こと覚醒ミユエルが取り仕切るようになっていた。

 

 俺?俺はムリ、家事とか(笑)やる気スイッチが全然見当たらないもん(爆)。

 

 すっかり一家を支える極太の屋台骨に成長を遂げた『熾天使覚醒ミユエル★ 7(ウルトラレア)』に感謝の祈りを捧げつつ、朝食をペロリと平らげ食器を下げる。シンクで洗い物を続ける心結に、ごちそうさま、と一声かけると、洗い物を続けながらちらっとこっちに視線を向け柔らかく微笑んだ。

 

 

「ん、お粗末様でした」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 食事を終えて歯を磨き、制服に着替える。早起きしたおかげで、登校時間までまだ余裕がある。今日の占いで恋愛運でも確認するかとリビングに戻り、テレビのスイッチを点ける。リビングのテーブルにはティーカップとソーサーが二組みと、ティーポットが用意されており、うっすらと茶葉の香りがリビングに漂っている。心結も今は自室で着替えているようだが、どうやら先に用意してくれていたようだ(至れり尽くせり)。

 

 ティーポットの紅茶をカップに注ぐと、湯気と共に紅茶の芳醇で高貴な香りがより一層漂う。。角砂糖一片とミルクを少量淹れて優しくかき混ぜる。少しおいて馴染ませてから口に含む。…茶葉のチョイスもその淹れ方も完璧、か。奴は想像以上の化け物だな。中三にして女子力カンストの妹に戦慄しつつ、紅茶をもう一口含み、ほうっと一息をつく。

 

 

 そこでようやくテレビから流れる朝のニュースの音声が耳に届いてきた。

 

 

『…と、いうことなんですが、これは一体何が起こっているんでしょう?』

 

『ぼ、僕に訊かないでくれないか。僕は政治が専門であって、動物関係は専門外なのだよっ』

 

 

 千代(せんだい)テレビのニュースの顔であり、北東大学政経学部政経学科卒の美人アナウンサー門馬美玲(もんまみれい)の問い掛けに、政治アナリストのおっさん(名前は知らん)が何やら取り乱している。

 

 動物関係?

 

『っ!ここで続報が入りました!本日未明より各地で相次いでいる謎の生物の目撃情報ですが、徐々にその生物による被害が判明しており、その規模は日本各地に拡がっている模様です』

 

 謎の生物?…被害?

 

『中継が繋がっているようです!現在、千代駅前に居る、えと、小澤さんより伝えてもらいます。小澤さーん、そちらはどんな状況ですか?』

 

 千代駅前、地方都市である千代のまさに中心部だ。何か事件でもあったのか。と、テレビの映像がテレビ局のスタジオから、中継先の千代駅前東口のペデストリアンデッキに切り替わる。そこから届けられた映像のあまりに現実離れした光景に、一瞬我を忘れて呆然としてしまう。

 

 

『はうううぅぅぅん!可愛いいいいぃぃぃぃ!何この生き物ぉぉぉ、お持ち帰りしたいぃぃぃいん、ハァハァ』

 

『ちょ、ちょっと小澤さん!?小澤さーん!?中継!中継繋がってますよ!?生ですよーっ!?』

 

 

 中継先の小澤さんと呼ばれた女性リポーターが恍惚とした表情でピンク色の何かと戯れながら、公共の電波でトリップしてた。

 

 でも問題なのはそこじゃない。いや、確かに放送事故的な意味では非常に問題だし、恐らくネット掲示板では今年の放送事故大賞的なスレで、早くも大賞候補にノミネートされるだろう。

 

 だが何度も言うが、問題はそこじゃない。そんなことじゃないんだ。本当に問題なのは、トリップ小澤(命名)が戯れているピンク色の生物だ。その生物、いや動物?には見覚えがある。俺の知っている『あれ』に似ている。それが映像の中で人間とリアルに触れあっているように見え、トリップ小澤を『メロメロ』にしている。だが、俺の知っているそれはあくまで架空の存在で、現実には存在しない、存在し得ない、そのはずなのに。

 

 

『プギュィ!』

 

『キャッ!?』

 

 

 突如、そのピンク色の何かが鳴き声をあげ、小澤さんをはたいて突き飛ばす。突然の出来事に小澤さんは『メロメロ』状態から我に帰って呆然としている。その顔には真っ赤な紅葉マークが出来ている。

 

 赤く腫れている頬を左手で押さえながらへたりこんでいる小澤さんを前に、ピンクのアレはクリッとした大きな瞳を閉じて、鳴き声をあげる。その声はどこか心地の良い音階を奏でており、映像を通して見ているだけだと言うのに、まるで『うたう』ように紡がれるその声は、頭と心に直接響いてくる。

 

 

『プププゥ♪ピピプゥ♪ピピププゥ♪』

 

『…はにゃぁ』

 

 

 小澤さんは情けない声をあげ、がくりと頭を垂れる。そのまま動かなくなったかと思えば、スースーと心地良さそうな息遣いが聞こえてくる。仮に文字に起こせば『Zzz…』が適当だろう。集音マイクから拾われ聞こえてくるその息遣いは、明らかに小澤さんの寝息だった。

 

 歌い終えたピンクのソレは、目の前の人間が動かなくなったのを確認し、急にくるりと振り返りカメラ目線になる。何かを確かめるような視線を送ってきた後、最後に一声鳴き声をあげてフレームアウトし、カメラもその姿を追うことはなく、そのまま戻ってくることはなかった。

 

 

 後に残されたのは、地面に腰を下ろし涎を垂らし眠る女性リポーターと、その情けない姿を立ったまま撮り続ける男性カメラマンの姿だけであった。

 

 

 と、ふいに映像が切り替わる。

 

 

『すー………すー………』

 

『グガァァァ…グゴォォォ…』

 

 

 映像が中継先からスタジオに切り替わると、スタジオの門馬アナはデスクに突っ伏しており、自称政治アナリストのおっさんは目を閉じ口を半開きにしたまま天を仰ぎ、地響きのようないびきをかいている。

 

 

 咄嗟に映像がお花畑に切り替わり、オルゴールの癒し系メロディが流れてくる。画面にはそのまま例のテロップが表示される。

 

 

 ーただいま大変お見苦しい映像が流れました。復帰するまでもう暫くお待ちください。ー

 

 

 千代終わってた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 それから他のチャンネルにも切り替えてみたが、どこも同じような緊急ニュースが放送されていた。

 

 謎の動物が線路上を闊歩、都市部の交通網が完全に麻痺。謎の生物が湖に現れ、5月だというのに水面が凍結。謎の鳥が群れで空中を飛んでおり、航空機が飛ばせない。謎の生物が怪電波を発し、通信網に影響を与えている。謎の巨大な虫が畑の作物を荒らしている。謎の生物が、謎の動物が、謎の怪物が…etc.

 

 千代だけではなく日本中でその被害が報告されており、それはどうやら海外でも同じような被害が報告されているようだ。インフラへの甚大な影響はもちろんだが、すでに人間への被害もでており、それを受け『事態が沈静化するまで各家庭や施設から決して出ずに、むやみに謎の生物に近付いてはならない』という旨の外出制限が発表され、国家規模で事態の収集に乗り出しているようだ。

 

「何か怖いね、何が起こってるんだろ…」

 

 心結はテレビを見つめながら不安を口にする。朝から一緒にリビングでテレビを見ているが、ずっと同じような被害状況を伝えるニュースだけで、何も解決の糸口が見えていないのが現状のようだ。

 

 ちなみに高校二年生の俺と、中学三年生の心結の本分たる学校の授業だが、文科省からの通達が出たようで、各学校は一時的に休校を決定。それを受けて平日だというのにこうして心結と家にひきこもっている、というわけだ。謎の生物さんマジグッジョブ。

 

 

 にしても…謎の生物、か。

 

 

 各テレビ局は共通して、この一連の騒動の原因を『謎の生物』や『謎の動物』と伝えている。そう、誰もこの生物の正体を、コレだ、と特定していない。そして今、国をあげてその生物の正体や対処法を究明しようとしている。だが個人的にはそれは問題じゃない。問題なのは『何故その正体が分からないのか』だ。

 

 テレビで次々と流されているニュース映像には、その謎の生物が多数映り込んでいた。その正体を俺は全て『知っている』。もちろんマイナーなものも混じってはいたが、中には誰もが『知っているはず』の生物も映っていた。

 

 それはスマホで撮ったらしき映像で、『国民的キャラクター』と言っても過言ではない丸々とした愛らしい黄色いネズミを、面白半分で触ろうとした男性に、そのネズミが強烈な電気を放ち威嚇する、という映像だった。

 

 それを見たコメンテーターは、『可愛いのにおっかないですねぇ、電気ネズミとでも名付けましょうか(ドヤァ)』とか言っていた。

 

 

 

 

 

 いやあれ『ピカチュウ』だし。

 

 

 

 

 

 そう、あのピカチュウだ。日本国内はもちろん、今や世界中で愛されている世界的キャラクターを、テレビ関係者が『知らない』なんてことがあり得るのか?

 

 その映像がテレビで流れた時に心結にも知っているかどうか訊ねてみたが、答えは否だった。子供の頃、心結にピカチュウのぬいぐるみをプレゼントしたことがあり、それを今でも部屋に大切に飾っていたはずだ。それを『知らない』と言うのだから、これはきっとそういうことなのだろう。

 

 

 

 世界から『ポケモンの存在が消えている』。

 

 

 

 そして何故か俺は『ポケモンを知っている』。

 

 

 

 これが何を意味するのかは正直分からない。分からないが、情報というのはそれを有しているだけでもアドバンテージとなる。突然現れたポケモンたちによって日本が、いや世界中が現在進行形で混乱に陥っているこの状況に置いて、ポケモンの情報を有しているというこの事実は絶対的な強みだ。だが、むやみにそれをひけらかすことの危険性も懸念しなくちゃならない。『ポケモン知ってる俺カッケーwww』は完全にアウトだ。

 

 

 状況を整理したい、まずは情報収集だな。

 

 

 世界からポケモンというコンテンツが消えた影響は?

 逆に、現実世界に出現したポケモンたちによってもたらされた変化は?

 

 俺以外にポケモンの記憶を持っている人間は?

 

 まずはそのあたりを調べてみよう。

 

 そして最も気になるのは、アレの存在。

 

 ポケモンと言えば、その記号ともシンボルとも言える、あのアイテム。

 

 モンスターたちを収めることが出来るオーバーテクノロジーの塊。

 

 ポケモンが『ポケットの中のモンスター』たる所以(ゆえん)

 

 

 モンスターボール。

 

 

 何がきかっけでこんな世界になったかは分からないが、事実としてポケモンが現実に現れたんだ。なんとなくだが、その存在も必然だと思う。

 

 ポケモンゲットだぜ!が現実世界で可能かもしれないというこの状況。やばい、ついニヤニヤしちゃう!世界始まってたわ!

 

 

 

 うはwww夢が広がりんぐwww

 

 

 

 …?何か視線を感じる。

 

 

 

 ぐっ、ついテンション上げてたら心結が少しひいてる。

 

 表情筋仕事しろ!と思える程に無表情で笑顔が下手な俺が笑うと、目が笑っていないのに口角の片方だけをニヤリと吊り上げる、(いびつ)な笑顔が完成する。

 

 違うんだ妹よ、お兄ちゃん別に悪いこと考えてるとか、ましてやイヤらしいことを考えてるとか、そんなんじゃないんだからね?勘違いしないでよね!?(必死)

 

 

 ああ、ダメだこれ、完全に誤解した目してる。とりあえず自分の部屋行こう。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 あれから自室に逃げ込み、パソコンを駆使して小一時間程情報収集をしてみて色々と分かってきた。

 

 

 軽いジャブとして、検索エンジンで『ポケモン』と入れて検索をしてみた。HIT件数は82件。昨日までであれば軽く億は下らないはず。

 

 それはやはりポケモンというコンテンツが消失もしくはリセットしたことを意味し、にも拘わらず、誰かが『ポケモン』という単語をネットワーク上で使用したという証左だ。

 

 

 それはつまり、俺以外にもポケモンの存在を記憶している者がいるということに他ならない。

 

 

 一つ一つ情報を確認してみたが、それは個人ブログだったり、あるいはネット掲示板だったりしたが、そのほとんどがSNSのつぶやきの類いだった。

 

 

『これ確か、ポケモン?だよね?』

 

『うはwポケモンうじゃうじゃでワロタwww』

 

『目指せポケモンマスター(錯乱)』

 

『何で誰もポケモンって言っても分かってくれないの…?(´;ω;`)』

 

『あ…ありのまま(中略)朝起きたら庭にポケモンがいたんだ。何を言っているか分からないと思うが(ry』

 

『…ポケモン覚えてる人いないのかな?』

 

 

 概ねこんなところだ。すでにSNS上で情報交換をするなどし、動き出している人たちも確認出来た。だが正直、その中身は薄い。

 

 つまりそれは『ポケモンというコンテンツの記憶がある』ということだけあって、『ポケモンそのものの知識』を有している訳ではない、ということ。

 

 前者は、ピカチュウはポケモンというゲームのキャラクターであり、アニメや映画にもなっており、世界的にも人気だ、という程度。

 

 後者は、ピカチュウはポケモンであり、でんきタイプ。みずタイプやひこうタイプに強いが、じめんタイプなどには弱く、進化するとライチュウになる、などのゲームの知識があるということ。

 

 そして、SNS上のやり取りを見るに、その知識には多大な差があり、圧倒的に前者が多い。

 

 ゲームやアニメの深い知識を有している者もいるはずだが、みだりに情報をひけらかしていないのだと思う。おそらく、俺と同じように情報というアドバンテージを生かす機会を伺っているのだろう。

 

 それが分かっただけでも十分な収穫だ。いずれは彼らとコンタクトを取るつもりだが、今はまだ積極的には関わらないがいいだろう。

 

 

 

 そして一番の収穫は、あるギャルのSNSでの他愛のないつぶやき。

 

 

『うちのスマホ朝からおかしいんだけどまぢ怖い』

 

 

 考えてみれば、今やSNSのつぶやきはそのほとんどがスマホを経由して発信されていると言っても過言じゃない。遡って調べてみれば、ポケモンに関してつぶやいた人間のほとんどが、まず最初に自分のスマホの異常を口にしていた。

 

 

 そういえば、朝起きて時間を見るために触ってから、スマホを弄っていないな。

 

 デスクから離れ、ベッドに放っていたスマホを手にし、ロックを解除する。

 

 

 そこには見慣れない画面がひろがっていた。お気に入りのアニメの壁紙に設定していたはずだが、よりシンプルで幾何学的な模様が絶えず形を変えるライブ壁紙のようなものに変わっており、アプリのアイコンも見慣れたそれとは全く異なっている。

 

 なるほど、これOSが全く違うんだ。

 

 見馴れないアイコンにはなっているが、良く使用しているアプリは一通り確認出来た。お気に入りのムフフな画像たちも消えていなくて安心した。

 

 

 で、これだ。

 

 

 見覚えのないアプリ。

 それでいて見慣れたアイコン。

 

 シルバー一色のモンスターボールのアイコンに、『TSS』の文字。

 

 

 ……これ開いたらアカンやつじゃないよね?

 

 

 ウィルスをバスターするアプリとか入れてたっけ?個人情報抜かれたりしないよな…。俺の個人情報には大して価値はないが、心結の個人情報を抜かれでもしたら俺のちっぽけな命をもってして償うしかない。

 

 

 意を決してアプリをタッチし起動する。

 

 モンスターボールのアイコンが滑らかに開くアニメーションが展開し、そこからしばらく幾重ものシステムメッセージが流れ、やがて三行の文字列に収束する。おお、すげースタイリッシュ。

 

 ーーーT:RAINER's

 ーーーS:UPPORT

 ーーーS:YSTEMS

 

 トレーナーズ…サポート、システム…?なるほどそれで『TSS』か。そのままの意味なら、それはつまり…。

 

 

『はじめまして、マスター』

 

 

 うおっ、ビックリした。急にスマホが喋った。しかもすげー美人さんボイス。でもねオペ子さん、急に喋るのはやめてね、肩がビクッとするから。

 

『まずはトレーナー登録及び端末認証登録を行います。液晶画面の目印に目線を合わせ、モンスターボールアイコンをタッチして下さい』

 

 インカメラが起動し、画面に俺の顔が映し出される。相変わらず表情が死んでるな。表情筋仕事しろ(本日2回目)。

 

 目線を目印のラインに合わせ、画面の下部でくるくしてるモンスターボールをタッチする。シュウィィィンと、スタイリッシュな効果音が鳴り、Please wait…の文字と共になんかピカチュウが画面で踊ってる。うお、タッチすると反応して踊りを変える!かわゆす!

 

 しばらく指先で踊るピカチュウと戯れていると、ピコンッというスタイリッシュでもない効果音が鳴り、Complete!!の文字。やっと終わったか。あ!ピカチュウがペコリとお辞儀をして去っていってしまった…。名残惜しいが仕方ない、バイバイピカチュウ。しかしムダに凝ってるなコレ。

 

『トレーナー登録が完了致しました。マスターは151番目のトレーナーです』

 

 151番目…。すでに150人が登録してるってことか。これは多いと見るべきか、少ないと見るべきか。だが少なからず、俺以外にもこの状況に順応している人間が居たってことだな。

 

『なおこの端末には、マスターの虹彩情報と静脈情報が登録されました。以降、この端末は虹彩認証と静脈認証のダブルロックによって保護され、第三者による端末使用が不可能となりますのでご注意下さい』

 

 おお、ムダにスタイリッシュで高機能!これで夜中に嫁にスマホを覗かれて不倫がバレる心配もなくなるぜ!いや、逆に怪しまれるか…?ま、心配性な嫁も、ゲスな不倫相手もいないけどな!

 

 

『次に、最初のパートナーとなるポケモンを三体の中から選んでいただきます』

 

 

 …っ!来たか!

 

 

 初代から脈々と受け継がれる恒例の通過儀礼、御三家チョイス!

 

 ほのお、みず、くさの三つのタイプのポケモンの中から一体を選んで、最初のパートナーとなるポケモンを決めるイベント!ポケモンマスターになる為の最初の一歩であり、長い冒険を一緒に歩むことになる大切なパートナー選びだ。

 

 

『この三体は、マスターの虹彩および静脈パターンから独自の計算式によって導き、抽出されます』

 

 

 へぇ、ホント凝ってるな。じゃあ選ばれた三体は俺と生体パターン的な相性が良いってことか。身体の相性が良いとか、あらやだ卑猥!

 

 

『それでは、こちらの三体の中からお好きな一体をお選び下さい』

 

 

 コロンコロンコロンッ…と、スマホの画面に三つのモンスターボールが現れる。

 

 どんなのが選ばれたのかなー。オラ、すっげーわくわくすっぞ!

 

 どれどれ、ポチっとな。

 

 

 一体目は…お、ベトベターか。

 

 ベトベター、ヘドロポケモン。

 月からのエックス線を浴びたヘドロがベトベターに変化したらしい。汚い場所や汚いものを好み、工場からの廃液を飲んで生きているとか。

 

 

 二体目は…ふむ、スカンプー。

 

 スカンプー、スカンクポケモン。

 おしりから強烈に臭い液体を飛ばして身を守る、まさにスカンク。その臭いは半径2キロにも及び、周りのポケモンは逃げ出してしまう。

 

 

 三体目…………ヤブクロン。

 

 ヤブクロン、ゴミぶくろポケモン。

 ゴミ袋が産業廃棄物と化学変化を起こしてポケモンに生まれ変わったらしい。不衛生な場所を好み、口から吐き出すゲップのようなガスは人を寝込ます程だとか。

 

 

 …これ確か、全部『あくしゅう(悪臭)』の特性持ちだったよね?明らかな悪意を感じるんだけど…。

 

『生体パターングループ、"鼻つまみ者"。非常にレアです』

 

 んなレア嬉しくねーよ!臭いの?俺臭いの!?俺が嫌われ者って言いたいの!?てか臭いのこっちだから!こっちが鼻摘まんじゃうから!

 

 

『お好きな一体をお選びください(笑)』

 

 

 くっそ、オペ子に半笑いされた!そんなムカつく音声収録してんじゃねーよ!

 

 もういいよ!こいつだこいつ!スカンプー、君に決めた!まだ他の二体よりは動物っぽいし、怒らせたりしなきゃ臭い液体も飛ばさないだろ!(半ギレ)

 

 

 スカンプーの入ったモンスターボールをタッチする。一瞬、スマホの画面にノイズが走り、再びPlease wait…の文字。今回はダンシングピカチュウの演出はないようだ。残念。

 

 

『質量データの読み込み完了。端末の周囲に転送します』

 

 

 て、転送?

 

 

 疑問に思いつつもスマホから顔を上げると、青白い光の文字列が目の前に展開され、やげて球状に収束。放たれた光に目が眩み一瞬目を逸らすと、カツンッ、コロンコロン…という音が足元から聞こえた。

 

 そこには見覚えのある球が。床に転がっている球を拾い上げて、繁々と眺める。赤と白のコントラスト、中央に黒のラインが通り、丸いボタンが一つ。間違いない、モンスターボールだ。

 

 本当に転送されてきたのか…。

 

 かがくのちからってすげー!

 

『それでは、ノブレス・オブリージュ。マスターが真っ新(まっさら)な世界の救世主たらんことを』

 

 え、ちょ、待て待てオペ子、説明なさすぎだろ!おーい、オペ子ー?オペ子さーん?……くそ、マジでいなくなりやがった。これからどうすりゃいいんだよ。

 

 手にはモンスターボールが、床には一緒に転送されてきたのか一部が機械構造になっている不思議なベルトが残されていた。恐らくボールを収納出来るベルトだろう。

 

 手にしているモンスターボールを改めて眺める。やっぱり、これも存在してた。きっとこの中にはさっき選んだスカンプーが収まっている。

 

 そしてオペ子はそれを『最初のパートナー』と言っていた。

 

 つまり、二番目、三番目のポケモンも仲間に出来るということを示唆している。

 

 

 

 よし、まずは外に出てみよう。

 

 

 

 外出制限が出されているけど、とりあえずは大丈夫だ。ゲームの序盤で、草むらに飛び込む主人公が否応なくポケモン博士に引き留められる場面があるが、それは主人公がポケモンを持っていないからだ。

 

 

 そして今、俺の手には最初のパートナーがいる。これで手筈は整った。

 

 

 さぁ、冒険だ!

 

 

 

 

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