ゾロアさーん、そろそろ決めますよー。
地面を駆け回り、ニョロモの口から吹き出される幾筋もの【
ゾロアの【にらみつける】による鋭い眼光で射抜かれたニョロモは、その眼力に気圧され防御が疎かになってしまう。
とどめ、よろしくお願いしまーす。
ゾロアはその隙を逃さずに一気に距離を詰め、勢いそのままに、ニョロモのうずまき(内蔵が透けて見えているんだとか)目掛けて前肢での一撃、【
ニョロモを倒したゾロアは、そのままテテテッと嬉しそうに俺の元に帰ってくる。頭をわしゃわしゃと撫でてやると、気持ち良さそうに喉を鳴らしている。
まんま犬だなゾロアさん。
◇◇◇
そんな千代市民にとってお馴染みの宏瀬川、その下流にある河川敷に、俺とゾロアは朝早くから足を運んでいた。
しかしあれだな、普段ならここから見える鉄橋の上は車とか通行人がひっきりなしに通ってるけど、今日はほとんど見掛けないな。やっぱり外出制限が継続している影響か。
え、お前は良いのかって?こまけぇこたぁ良いんだよ!
今日は陽が昇る前からここに出向いて、周辺に出没するポケモンを片っ端から相手にしている。河岸と言う地形が影響しているのか、ここは街中と違って野生のポケモンが頻繁に出現するし、尚かつこちらに襲いかかって来る。
それをちぎって鼻毛…違う、ちぎっては投げちぎっては投げ…とにかくバトルを繰り返すだけの簡単なお仕事。
その甲斐あってか、バトルにおける連携も深まり、昨日は人見知り感が拭えず距離を詰めてこなかったゾロアくんも、今ではバトル後に『褒めて褒めてー』と言わんばかりに、尻尾を千切れんばかりにぶんぶんと振りながら駆け寄ってくるようになった。
実に
枕と布団が友達のこの俺が、朝もはよからわくてかしながらこんな所に赴いた目的は二つ。
一つが、パートナーであるゾロアとの親睦を深めること。それはすでに達成されただろう。この周辺の二十数体に及ぶ野生ポケモンたちは犠牲になったのだ(他人事)
そしてもう一つの目的が、野生ポケモンの捕獲だ。
昨日、スマホにいつの間にかインストールされていたトレーナー支援アプリ『TSS』には、自由にアイテムを購入及び売却が出来る機能が実装されていた。それがゲームユーザーお馴染みのアイテム屋さん、『フレンドリィショップ』だ。
その品揃えは、トレーナーランクなるものが上がるにつれて豊富になる仕様らしく、現状では次の通りだ。
モンスターボール 200BP
キズぐすり 300BP
どくけし 100BP
まひなおし 200BP
正直品揃えは心許ないが、どうせ軍資金(?)として端末に補填されていた初期BP(バトルポイント)も僅か2,000程度。万が一の時の為のキズぐすりとどくなおしを一つずつだけ購入し、残りはモンスターボールに全ツッパして即すっからかんになった。
ちなみにBPはトレーナー同士のバトルで奪うのが基本だが、野生のポケモンは稀にアイテムをドロップするようで、必要のないアイテムだったらそれを売って稼ぐのもいいかもしれない。さっき確認したら、僅かだがBPもドロップしていた。
購入したモンスターボールは8つ。数も限られている為、出来るだけ無駄使いしないようにと相手を選んでいたんだけど…。
すでに倒したポケモンは二十数体。うーん、何だろうなー…。別に格好良いポケモンが良いとか、可愛いポケモンが良いとかこだわりは一切ないんだけどね。何と言うか、食指が全く動かない。
ポッポやコラッタの他にも、ここが河岸だからか、みずタイプのポケモンが比較的多い。クラブ、トサキント、そしてさっきのニョロモ。二、三体ずつは倒しているが、どれもモンスターボールを使うには至らなかった。
うーん、こりゃ難儀しそう。
『ピジョォオォッ!』
うおっ、なんじゃあ!?
突如、立派な翼を持ったポケモンが、名乗りを上げるように大声で鳴きながら数メートル先に舞い降りてきた。こちらを値踏みするような鋭い眼光に、頭部には精悍な…たてがみ?を生やし、そして何よりも、掴んだものを離さないようにする為か、鋭く発達したと見受けられるその両足の爪こそが、このポケモンの最大の武器だろう。
こいつは、なかなかの大物のお出ましだな。
ピジョン、とりポケモン。
ポッポの進化形。縄張り意識が強く、その巣に近付こうとした侵入者を徹底的に排除する。強靭に発達したその足の爪は、餌であるタマタマを掴んで離さないそうだ。タマタマかわいそう(小並感)
足元にいるゾロアを見る。
ヒット&アウェイがお得意なようで、さっきから連戦だったが、敵の攻撃はほとんど回避、回避、アンド回避でほぼノーダメ。当たらなければどうということはない!って言ってるのが聞こえた(気がする)。
ゲームで言う所のHPゲージはほぼフルだろう。
だがこの現実世界でのポケモンの状態は、それだけでは計れない。
昨日、すっかりご飯のことを忘れててゾロアさんがおこだったように(俺の夜ご飯をシェアして何とか治めた)、空腹にもなるし、睡眠が足りなければ寝不足にもなる。
そして…バトルし続ければもちろん、その体力は奪われている。敵との駆け引きで、精神的にも疲れているかもしれない。
TSSの『ポケモンチェッカー』は、手持ちポケモンの最低限の状態異常などは示してくれるが、細かい体調管理が出来る訳じゃない。
パートナーの体調や状態をしっかりと把握し、相手を見極め、攻めるべきか、退くべきか、そのイミングを違えないこと、これがこれから学んでいかなくちゃいけない、俺のトレーナーとしての課題だ。
今、ゾロアは連戦中。やばいくらいに連戦中。
ゾロアが気持ち良いくらいに敵の攻撃を躱すもんだから、正直調子に乗りすぎた。絶対に疲れてる、はず、なんだけど…。
ゾロアはピジョンに怯える様子も見せず、俺の足元でじっとピジョンを見据えている。
なぁ、ゾロア。
ゾロアが俺を見上げ、視線が交錯する。
その顔にはやはり疲れの色が滲んでいる。それでもその瞳からは、ゾロアの闘志が見て取れる。
相手は、強いぞ?
ゾロアはこくりと頷き、再びピジョンに向き直る。
『ゾロアッ!』
ゾロアが雄々しく吼える。
それがきっかけとなり、ピジョンは空に舞い上がる。空中でクルリと縦に旋回したかと思えば、そのまま真下に急降下し、地面の手前でこちらに切り返し、そのまま猛スピードで襲い掛かってきた。
ピジョンの先攻打、【
大きな翼で風を切りながら、地面スレスレを飛んでくるピジョン。やはり早さは、相手が一枚も二枚も上手だ。
長期戦は不利、空中に逃げられても面倒、だったらーーー
ゾロア、ピジョンに合わせろ!
ゾロアはピジョンの猛スピードにも怯むことなく、真っ直ぐに飛び込んだ。しかし、ピジョンの勢いそのままの突撃は、いとも簡単にゾロアを突き飛ばす。
突き飛ばされたゾロアは回転しながら地面に二、三回打ち付けられた後、なんとか体勢を立て直して踏み止まる。結構な体格差もある、相当なダメージだろう。
ゾロア、ごめんな。でもこれで…。
攻撃を仕掛けてきたはずのピジョンだったが、遥か後方に吹き飛ばされており、よく見れば、その身体には決して小さくないダメージを負っていた。
うまくいって良かった。
長期戦は不利と判断し、玉砕覚悟で繰り出した、
ゾロアのセンスと根性に頼った一撃。
【カウンター】だ。
【ポケモンチェッカー】では、手持ちポケモンの技を確認することが出来る。
ゲームと違って、使用出来る技の数は4つまで、などという制限はない。だが、まだまだ未熟なポケモンたちは、技が多すぎると頭の中で処理がしきれず、結局は使いこなせないのだそうだ。
だからこそトレーナーが、事前にポケモンたちの技を絞ってあげ、それを軸に作戦を立て、実戦で使いこなせるように仕上げるべき、とはオペ子さんのコメントだ。オペ子さんマジ優秀。
ちなみにこのポケモンに関するオペ子コメントは、TSSのヘルプ内の隠しコマンドからたまたま発見した。
遊び心満載だなTSS。
さらにオペ子さん曰く、『ポケモンは可能性そのものです。あなたのパートナーが成長し、より絆が深くなれば、技の選択肢やレパートリーも増え、戦略に幅が出るでしょう』とのこと。
【カウンター】は本来、ゾロアがレベルアップで覚える技ではなく、たまごから成長させ生まれた際に、親から引き継ぐことが出来る『たまご技(遺伝技)』だ。
このたまご技に関しても、『親が子に遺した技は、その子の血に遺伝情報として全て刻まれ、それらを萌芽させられるかどうかは、ポケモンのセンスや努力、トレーナーの力量しだいです』だそうだ。
つまり親が使えた技のうち、その子が使用な可能な技であれば、センスや経験次第で全て習得出来るかもしれないよ、という驚きの仕様なのだ。
そしてセンスの塊であるゾロアの使用可能技の一覧には、すでにこの【カウンター】が発現していた。
【カウンター】は 、相手から受けた物理攻撃のダメージをそのまま倍返しにするという技だ。
相手の攻撃が強力であればあるほど相手に返すダメージも大きくなるが、直前の相手の攻撃を耐えられなければ意味がない。
そういう意味でも賭けの要素が強く、戦略というには烏滸がましい、ゾロア頼りの策だった。
TSSのアイテム欄から「キズぐすり」を選択。すると目の前に無数の光の粒子が集まり、みるみるうちにキズぐすりが実体化される。かがくのちからって(ry
ゾロア、と声を掛けると、ゾロアが少しよろけつつ駆け寄ってくる。無理させてごめんな。キズぐすりのノズルを引き、ゾロアにキズぐすりを噴射する。先端から噴き出された霧がゾロアの全身を駆け巡り、忽ちキズを回復していく。
回復量は小さいが、使わないよりはマシだろう。ゾロアは身体が少し楽になったのを感じたのか、不思議そうに小首を傾げ、自分の身体の動きを確かめている。てらかわゆす。
ゾロアの一撃により吹き飛ばされたピジョンもようやく体勢を立て直し、再び空に舞い上がる。カウンターを警戒してか、先程のように距離を詰めてこようとはしない。
ゾロアも戦場へと戻る。だがキズぐすりで回復したとは言え万全ではないし、疲労は蓄積している。
『ピジョッ!』
ピジョンが上空で両翼を大きくゆっくりと広げ、周囲の風を翼に纏わせる。一気に翼を振るい両翼を交差させると、巻き込まれた風が風圧の塊となって放たれる。
ピジョンによる【
二度三度と上空から放たれる、目には見えない風圧と風の刃が、容赦なく地上のゾロアを襲う。威力は然程でもないはずだが、何発も喰らってはさすがにもたない。
ゾロア、地上を駆け回れ!
ゾロアが指示に従い、疲れた身体に鞭を打ち、縦横無尽に地を駆け回る。攻撃が見えないなら、その攻撃の的を絞らせなければ良い。
走り回るゾロアの後ろに、風圧の塊が何度もぶつかる。その間もピジョンは翼を休めようとしない。
くそ、このままじゃジリ貧だ。
タイミングを見計らう。まだだ、まだここじゃない。
「アレ」が決まれば、必ずこの窮地を脱せるはずだ…!
ゾロアの尻尾や体毛に、風切りの刃がかすり始める。
まずいっ、そろそろゾロアの足も限界だ…!
頼む、耐えてくれ!
ピジョンが翼を何度も振るい、風の刃を巻き起こす。ゾロアの防戦一方が続く。
まだだ…!
まだ…まだ、まだ…まだっ……。
ふと、ピジョンが翼の動きを緩める。
来たっ、ここだ!!ゾロア……!
バシュッ!!
『ピジョォッ!?』
……ッ!?何だ…!?
ピジョンが空中で激しく吹き飛ばされ、やがて錐揉みしながらゆっくりと墜落する。
ピジョンが…
撃ち落とされた?
砲撃が飛んできた方向に振り返る。
十数メートル先の川の平瀬、その水面から青い何かが顔を見せている。
あれは…
光沢のある水色の小さな身体。
狙いを外さんとする、鈍い光を湛え鋭い眼光。
そして最も特徴的なのは、その小さな身体に似つかわしくない、不釣り合いに大きな、
体内のガスを爆発させ、圧縮した水をその大きな鋏からピストルの様に撃ち出し、飛んでいる獲物を撃ち落とす。その威力は、至近距離ならば岩石をも砕く。
みずでっぽうポケモン
ーーーウデッポウだ。
こいつが、ピジョンを?
事の次第を理解した瞬間、総身が震え、全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
ーーー面白い。
自然と口の端が吊り上がる。既に心は決まった。
よう、ウデッポウ、
ーーー俺んとこ来ないか?
◆◆◆
「
車内に少女のものと思しき声が響く。
黒瀧と呼ばれた運転手の男は、少女の指示に従い、ブレーキを踏む。二人が乗る黒塗りの高級外車が、轍を残しながら鉄橋の途上でその走行を停止する。
普段なら、こんな場所で急停車すれば、忽ち後続の車に追突され、多重事故は免れないだろう。しかし今は、前にも後ろにも、走行する車の姿は見当たらない。
政府から出された外出制限により、昨日からこんな状態が続いていた。
後部座席に座る少女は、スモークフィルムが貼られたリアドアガラス越しに、外を見詰めている。
「どうかされましたか、お嬢様?」
運転席に座る、全身黒のスーツにサングラスをかけた男が、後部席の少女に問い掛ける。
しかし少女は何も答えず、じっと窓の外を見続けている。
男は、少女が外を見詰めている様子をバックミラー越しに確認し、自らも少女の視線の先に目を移す。
少女の目の先にあるのは、千代市街地を悠然と流れる宏瀬川。
その、河川敷。
遠目にだが、一人の少年と黒い子犬の様な動物が見える。
少年は何やら河原に向かって佇んでいる様に見え、子犬の方はと言えば、少年の視線の先の河原を縦横に駆け回っている。
「あの少年がどうかなさいましたか?」
「…トレーナー」
「…?」
「…戦ってる」
男の問いに、少女は小さく呟く。問いに答えたというよりは、独り言の類い。その声は男の耳には届かなかったが、少女は元より聞かせるつもりもなかった。
少女の目に映っている光景も、男の目に映っているものと同じだ。だが、「持つ者」と「持たざる者」では、そこから得られる情報に大きな差が生まれる。
家系や血筋、という意味でも彼女は「持つ者」であり、宮城で、いや東北地方でも有数の、政財界で名を馳せる千代を代表する名家の令嬢だ。
そして彼女はもう一つ、「持つ者」としての義務を強いられることとなる。
『ノブレス・オブリージュ、マスターが旧き清浄なる世界の救世主たらんことを』
彼女の目に映っているのは、黒い子狐を自在に操る、自分と同い年くらいの少年の姿。
彼女はすでに理解していた。
あの子狐はポケモンで、
彼はトレーナー。
そしてもう一体、あの川瀬にいる青いポケモンと戦っているのだろう、と。
しかも、すでにポケモンを何不自由なく使役しているように見える。
あのポケモンが人懐っこいだけ?
彼は何かコツを知っている?
トレーナーとしての才能?
順応性、適応力、行動力?
「持つ者」としての、ーーー適性?
世界中が陥っているこの火急の事態に、自分が「持つ者」として選ばれた意味。「持つ者」として果たすべき、その役割。
彼女はそれを模索していた。
「黒瀧」
「はい」
少女は何かを決したように男の名を呼ぶ。今度はハッキリと、強い意志に裏打ちされた、凛とした声で。
河川敷から視線を外して前に向き直り、短く男に告げる。
「彼の素性を調べて」
◆◆◆
ウデッポウ、マジやばい!
何がヤバイって、その【
うは、なんか川原の石が砕けて飛び散ってるんすけどwww
『ゾ、ゾロッ!?』
ゾロアさんマジ涙目wwwてか、まだまだ動けるじゃないっすかwww
ってうおぉっ!?
あぶなっ、流れ弾が飛んできた!?ゾロアさんもうちょっと立ち回り考えて下さる!?俺の身体がスイカ割りよろしく砕けちゃうよ!?マスター不在になって野良犬になっちゃうよ!?
あ、何かちょっとこっち睨んでる!この野郎わざとか、わざとなのか!?
ふぅ、あまりに尖ったポケモンに出会ってちょっとテンションおかしくなってたわ。死にそうになってやっと冷静になれた。反省反省、てへぺろ☆
でもまぁゾロアが粘ってくれたおかげで突破口は見えた。危険なのはあの鋏から撃ち出される圧縮水鉄砲。その動きは鈍足そのもの、ほとんどその場から動きはしない。水の中なら分からないけど、スピードは圧倒的にゾロアが上だ。
そして、もう準備は整った。
『ゾロロ~…』
涙目ゾロア、情に訴え作戦継続中!さっきから隙を見ては、涙声でウデッポウの情に訴えかけている!
ピジョンをも易々と撃ち落とした冷徹な狙撃手も、所詮は人の子(違う)。あぁも泣かれちゃあ精神的な警戒心もがくっと下がるってもんよ!
さすがゾロア、演技派だな!
『ゾ、ゾロロォ~…!』
…………マジ泣き、じゃないよね?
【
ついにウデッポウが連射の手を休める。
ククク、かかった(ニヤリ)
ゾロア、すでに奴の心の防御はがら空きだ!
『…ゾロリ(ニヤリ)』
ピジョン戦から今の今まで散々逃げ回っていた鬱憤が溜まっていたのだろう。 ゾロアが禍々しいまでの黒いオーラを纏い、 嗤う。
フゥーハハハ!俺たちは今、まさしく悪役!悪の心を滾らせて 、ぶっ放してやれぇ!!
【
『ゾォォ…ロォォ…、アァァァァッ!!』
ゾロアがその小さな体に纏い滾らせていた黒く禍々しい衝動を解き放ち、圧縮された悪のオーラがウデッポウに襲い掛かる。
動きが鈍いウデッポウは避ける事も叶わず、悪の黒い奔流に呑み込まれ、上空に吹き飛ばされる。
勢い良く吹き飛ばされ、やがて川面に叩き付けられたウデッポウは、宏瀬川の水流に飲まれ、そのまま浮かんでこない。
………………
………………
………………
………………やり過ぎた。
…はっ!?
ぞ、ゾロア!泳げる!?ウデッポウを引っ張ってきて!
『ゾ、ゾロッ!』
ゾロアは俺の命令を聞くや否や、走って川に飛び込んだ。
………………
………………
………………
しばらくしてびしょ濡れのゾロアが、救助犬よろしく、ウデッポウをくわえて引き摺りながら、なんとか岸に上がってきた。
大分流されてたな。ゾロアが上がってきた岸に駆け寄る。
ゾロア、お疲れさん。
ポンっ、と頭に軽く手を置き声を掛けると、ゾロアは全身の毛をブルブルブルッと跳ねるように振るい、身体の水を勢い良く吹き飛ばす。
ぶわっ!?ちょっ!?
『ゾロッ』
してやったり、みたいな顔のゾロア。こいつめ。
まぁ俺のわがままでウデッポウを連れ戻して貰ったしな。それに強敵との連戦で本当に疲れてるだろう。
ごめんな、ありがとうゾロア。
『ゾロッ!』
尻尾を振り、嬉しそうに吠えるゾロア。
さて、ウデッポウは、と。良かった、息はあるな。【
スマホを取り出しTSSを開く。アイテム欄から「モンスターボール」を選択。モンスターボールが転送され、実体化する。
こう、かな?
モンスターボールをウデッポウの上に落とす。ボールがウデッポウの身体に当たると、ポンッと空中に弾かれ、ボールが二つにパカリと割れる。するとウデッポウの身体が赤い粒子に包まれ、あっという間にボールに吸い込まれる。
ウデッポウを飲み込んだボールがコツンと地面に落ちコロンコロンっと転がる。二度、三度と震え、やがてカチリと小気味良い音を鳴らし、その動きを止める。
動きを止めたボールを拾い上げ、まじまじと見詰める。これでゲット、でいいのかな?
『ゾロッ』
いつに間にか足元に寄ってきていたゾロアが、ズボンの裾を軽く噛みクイクイッと引っ張る。
あぁ、そうだな、帰ろう。
今日は朝からハード過ぎた。
ゾロアも疲れている為か、嫌がらずにモンスターボールに入ってくれた。お疲れ、ゾロア。二つのボールをベルトに収め、TSSから『ポケモンセンター』を選択する。するとベルトに収めたモンスターボールがどこかに転送され、画面上の看護師さんが二つのボールを抱え、いそいそと奥へ引っ込んでいく演出が流れる。ジョーイさん、ゾロアとウデッポウをよろしくお願いします。
ぐぅ、と腹の虫が鳴く。あぁ、腹も減ったな。心結の作ったご飯が食べたい。
心結の温かいご飯が待っている我が家へと帰るべく、河川敷を後にする。
しばらく歩き、自転車を停めていた鉄橋下に着いた所で、後ろから声を掛けられる。
「君、ちょっといいかな?」
急に声をかけられて少しビクッとしながら振り向くと、そこにはサングラスをかけたスーツ姿の屈強そうな男が二人立っていた。
………帰りたい(泣)