話の内容や流れは大きく変わっていく可能性があります。
それでもいいという寛大な心の持ち主な読者様はどうぞ読んでください。
俺は今、来るはずの無い場所をこの足で踏みしめていた。
周囲を海に囲まれたこの場所は、大地ではない。人の手によって海を埋め立て、最新の科学によって絶対的な安全が約束された人口島。その広さは小島と呼ぶには聊か大きいが、島と言うには少し小さい。そこは人の感覚によって差があるので詳しくは言及しないでおこう。
島の上には最新科学が結晶化したような建造物が立ち並ぶが、自然の緑が皆無というのではなく、調和している部分も見られている。
プールにグラウンド、奥に見える都市の一部を切り離したかのような仰々しい校舎、ドラゴンボ〇ルのベジ〇タの装備の肩部分に似ているアリーナ。
窓越しに部屋の中の生徒が見えるが、そこに男子生徒の姿は一つとして見えな―――――いや、一つだけ見えた。しかしそれ以外に見えないのは間違いなさそうだ。
いや、俺も窓越しに見えたアイツもだが。
この場に男子学生がいること自体がおかしいのだ。
そう、このIS学園にいること自体――――――
この世界は極めて歪に構成されている。正しくは天才によって歪められてしまった世界だ。
一つ一つが直線に、平凡に、変化に乏しくあった。少しの変化では何一つ変わることの無い、鉄柱のようなこの世界は。
まるで絵本の中の登場人物のような天才が振るった鋼の鎧によって、ぐにゃりと、いとも容易く、それこそ道端に捨てたガムが形を変えるほどに。
あっけなく世界の有り様は変わってしまった。
天才が振るった鋼の鎧。その名を『インフィニット・ストラトス』。無限の成層圏の名を冠したこの鎧は、通称『IS』と呼ばれ、この世界で最強の武装として君臨した。
パワードスーツでありながらその機動力は現行する最新の戦闘機を上回り、ミサイルが直撃しようとも搭乗者が死ぬことはない程の防御力を誇る。史上最強の鎧だ。
その存在も凄まじいものだが、その存在をこの世に轟かせた状況もまた忘れられぬほどの物であった。
世界中のシステムを同時にハッキングし、全世界から一斉にミサイルを発射させた。各国は何者かによる攻撃と判断し陸海空の全戦力を投入し、標的の撃破にあたった。その標的と言うのがISだ。
そこは海上。敵は一体。
しかし、その一体は全方位から雨のように迫るミサイル全てを破壊し、攻撃してきた戦闘機、戦艦を行動不能にした。それも、死傷者零という、現行の軍事技術をナメるような結果を残して。
その後に製作者である篠ノ之束は、ISの核であるISコアを各国に贈呈し、その数は467。しかしそれは贈呈された後に量産した簡易コアを含めた数であって正確な数値ではない。
そんな最強の鎧にも、代償はある。
アキレウスのアキレス腱然り、弁慶の脛然り、ジークフリートの背中然り。
代償は搭乗者の限定。搭乗が許されるのは、女性だけであるという大きな欠点。それが、世界を歪めた正しき原因。歴史上の特異点。時の流れの異物。
しかしそれを改良するだけの科学力を持った学者、技術者はおらず、量産機でさえも男性の搭乗は不可となった。製作者である篠ノ之束が製作方法を公開していないからである。
それが三年前の大事件。『白騎士事件』として、世界中にその名を轟かせた。
そこから世界中で徐々に性差別が行われるようになり、人類平等を謳っていた国はくるりと掌を返し女尊男卑を叫ぶようになった。日本は未だに男女平等を謳うが、国内事情は世界の波に呑まれていた。
ISに関する知識が乏しかった当時、世界各国はISに関する知識を深めようと、不可侵の学園を作ることになった。
その学園の名を、IS学園。場所は製作者、篠ノ之束の生まれた国の領海内に決められ、急ピッチで建造が行われた。
そんな時に起きたのが我が父上が起こした大事件。
『ソードアート・オンライン』と呼ばれるVRMMORPGゲームを発売し、その当日にして3ケタの死者を出し、二年と言う歳月を経て最終的に四千にまで膨れ上がった。
そしてその後に非人道的な実験が同じくVRMMORPGゲームで行われていたことが発覚し、世界中の注目を集めた。
それが一年前のことだ。
俺は親父の遺書に書かれていた暗号を解き、記されていた場所で運命の出会いと、勇者としての責務を与えられた。
暗い空間に跪くようにして鎮座する紅白の鎧。
それが俺と俺専用のIS【ヒースクリフ】との出会いだった。
そして今年、【織斑一夏】という全世界で初の男性IS操縦可能者の存在が明らかになった。
俺はその波に乗り、自らの存在を発表。世界で二人目の男性操縦者として世界に報道された。
政府はその存在の貴重性から、学歴、性別を問わずに、本人の意志すらも無視してIS学園への強制入学を行わせた。
その転校する日というのが今日なのだが、護衛車の予定通路で事故が起きて到着時刻が大幅に遅れてしまい、漸く到着した所であった。
「現在時刻ヒトヒトサンマル」
今の時刻を口に出す。
到着時刻は午前7時30分。大幅も大幅だ。
まあ理由があるので仕方ない。
事故だけではなく、道中で反男性IS集団の過激派に襲撃されたり、飲み物に毒が盛られていたので全ての飲食物の検査などと色々あってのことだ。
何故か慣れたことのようになってしまっているが、それは俺が茅場明彦の息子だからであろう。
「貴様が転校生か?」
不意に威圧するかのような問いかけが下方から聞こえた。それは俺が空を見上げていたからだ。
顔を下に向けて声の主と対面する。
紺より濃いが黒よりも青いスーツに身を包み、その手にあるのは出席簿。その顔は凛とした佇まいで、万物を切り裂こうかというほどに鋭い。髪は瞳の色と同じ闇夜色で、光を反射し煌めく毛先は夜空を具現化したかのような美しさがあった。
「……………」
だがその刀剣の刃のような美しさは、その存在感だけで人の威勢を切り裂き、威圧し、押し黙らせる。
それは容姿だけが理由ではない。
目の前に立つ女性は織斑千冬。世界初の男性IS操縦者である織斑一夏の姉であり、ISの腕を競う大会〈モンド・グロッソ〉にて優勝したこともある生粋の武人でもあるからだ。それは普段の呼吸、足運びにも影響は出ていて、俺には彼女の立ち姿が難攻不落の城塞のようにも見えた。
それを感じ取った俺は押し黙り、威圧に叛逆しようと虚勢を張って威圧を相殺し身構える。
しかし、彼女の表情は一転する。
「フフッ、すまなかったな。聞き方を変えよう」
柔らかく暖かい笑みを浮かべて、再び俺に問いかける彼女は、先程の者と同一人物であるとは思えない様な笑みを浮かべた。
「君が、明彦さんの息子なんだね?」
「!!」
親父の名を口に出してくる者は過去にも多くいた。
しかし、その全てが憎悪に染め上げられたものばかりだったが、彼女の言葉は違った。
敬意と親愛。
彼女の言葉からは、その二つを感じられた。
その事実に俺は驚いたが、親父と親しかったということに、少しほっとした。
俺も硬く強張った表情を解いて、右手を差し出す。
「はじめまして、織斑千冬さん。IS学園1-1に所属となります、茅場守流と言います」
「こちらもはじめまして。そして、これからよろしく頼む。1-1担任、織斑千冬だ」
差し出した右手に彼女も右手を重ね、握り合う。
ここから、俺の新しい学園生活が始まる。