インフィニット・ストラトス 天才の息子は   作:双盾

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うぉっほーい!!!
初&祝!!!8700文字超え!!!!
しかしこれ以上オラに頑張れと言われたって無理でっせ。
徹夜して漸く1話しか作れない……この文才の無さ……笑え……笑えよ………
とにかく!!お気に入りが増加してました感謝!!!
今後ともご愛読おなしゃす!!


5 織斑、オルコットを煽る(無自覚

朝。先に目を覚ましたのは俺だった。

眩しい日差しはカーテンで遮られ、隣のベッドではルームメイト………?いや、友達なのか?俺はそう思ってるけど。まあ同室の更識簪が夢の中。朝起きて美少女の寝顔を見られただけで今日一日を乗り切れそうな気になった。眼福眼福。

 

「お、ね……ちゃ………」

 

ボソリ、と簪が小さく寝言を零す。そっとベッドから抜け出し、その顔を見ると、簪は苦しそうに、あるいは悔しそうに顔を歪め、涙を零していた。

 

(お姉ちゃん………)

 

俺は、簪が零した寝言を聞き逃さなかった。

そういえば、兄弟関係とかは話題に出なかったな。今日、少し聞いてみるか………いや、それは俺が関わっていい問題なのか?簪から口に出さない以上、言いたくない理由があるのではないか?それとも単に、俺が聞かなかったからなのか?

少し、少しだけ、聞いてみよう。地雷でないことを祈ろう。

 

「大丈夫……大丈夫だ………」

 

そっと、手を髪に触れさせる。そのまま優しく髪をなでおろす。手を離して、また手を置いて、髪を撫でる。

幼い頃、まだ父が人間らしさが残っていた頃。母親が死んでから、俺は寂しさに夜な夜な泣くことがあった。そんな時に父がよく頭を撫でてくれた。

 

その大きく暖かな手は、不思議と心を落ち着かせ、涙で顔を濡らした俺はゆっくりと夢の中へと微睡んでいった。

そんな懐かしい記憶を頼りに、俺は父の真似をして、簪の頭を撫でていた。

俺の髪より明らかに柔らかく、細く、美しい簪の髪を撫でる。

 

「あ……ぅ…………ん…………すぅ………すぅ………」

 

しばらくすると、苦しそうに布団を握る手は緩み、苦悶を浮かべていた表情も穏やかになった。

俺ができるのはこれくらいだ。だが、こうして簪の苦しみを僅かでも和らげる術を教えてくれた親父に、俺はありがとうと心の中で唱えた。

 

時計を見る。まだ起こすには少し早い。そんな時間。

俺は歯を磨き、寝間着から制服に着替える。寝癖も無く、男であるが故に準備に時間はかからない。

 

「しっかし、ここにはティーバッグはあるが、茶葉は無いな………あの店通販やってたかな……」

 

ついでに愚痴るならティーポットあるなら急須くらい置いとけやと言いたかったが、一人愚痴ったところで誰も相手にしてくれない、寂しいだけだ。なら、無駄なことはしないに限る。

 

とりあえずポケットからスマホを取り出し、ア〇ゾンで急須と茶葉をポチッておいた。いやー化学は進歩したなー。

 

「っと、もうそろそろ起こした方がいいか?」

 

艦〇れで遠征を出した後で時間を確認すると起きるには丁度いい時間になっていた。演習で単縦陣形を選択して、俺は簪を起こしにかかった。

 

起きろーと言いながら肩を掴んで簪を揺する。

けれども簪はうぅんと声を漏らしただけで身体を反対側へと向け寝転がる。どうやら朝には強くないらしい。これも萌ポイントの1つではあるが、いや実際可愛いのだが。だ・が!

 

「かーんーざーしー」

 

「んぅぅ………もう少し…寝かせてよ…本音…………」

 

「いや俺は守流やで~?本音さんちゃうで~?」

 

簪は本音という人と俺を勘違いしているらしい。すっかり気を許しちゃってるあたりそうとう仲のいい人物。しかもこの様子だと毎朝起こされてるようだ。

しかし起きてもらわんと。遅刻して恥をかくのはいやだろう。

 

「簪、かんざしー?起きてくださいよーっと」

 

がばっと布団を剥ぐ。昨晩の清楚な寝間着が布団の上で簪の肌を覆っている。

布団を剥いだ時に肌を撫でた温かい風。それは布団の中に籠っていた簪の体温だと思うと、まるで簪の素肌に触れているような感覚に陥り、顔が赤くなる。

 

「んん~……かーえーしーてーぇ………」

 

「はーいはい、少し失礼ますねー」

 

簪の背中と布団との間に右手を差し入れて、簪の肩を掴んで、よいせっと言って彼女の上体を起こす。

 

「んぅ………は、ぇ?…………本音……じゃ、ない?」

 

「ようやく目を覚ましたかい?お姫様」

 

「……!?かっ、茅場…さん……?!」

 

ボンッと音がして、湯気の爆炎の奥で簪は、一瞬にしてその白い肌を赤く染める。

 

「そう、俺は茅場だ。さぁさぁ、起きて顔洗ってきな。準備が整うまで待っててやるで」

 

「っ~~~~!!!!!」

 

ばっと布団から飛び出すと寝起きとは思えないほどの速さで脱衣所へと駆けて行った。

いやまあ俺を勘違いした程度でそこまで恥ずかしがらんでもいいのに。俺だっておこってる訳じゃないし。美少女の目覚まし時計やれてるだけでもありがたいと思わないと。

とりあえず簪が準備終わるまではゆっくりゲームして待ってるか。

 

艦これは後は遠征帰還待ちだし、刀剣乱〇の日課やったあとは………Fete/G〇のAPが回復するな。艦こ〇も刀剣〇舞も大体のキャラは揃えたし、資材も十分すぎるんだよなぁ。それに比べてFGOは………うぇひひひ。リセマラァ……ガチャァ………課金………ひひっ………まわしゅのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

 

……………はっ!?俺は一体何を……思い出せない……確か……うっ、頭がっ!!

なんてことをしていると、寝間着から制服に着替えた簪が俺に声をかけてきた。

 

「あ、あの……」

 

「ん?おう、準備できたみたいだな。じゃ、食堂行くか」

 

「あっ、えぁ……はい」

 

簪の手を引いて食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「さて、俺はとろろ蕎麦単品の大盛りだな。簪は何にするんだ?」

 

「わ、私は……これ……」

 

簪が選んだのは二種類のサンドイッチだけだった。やはり女子らしく小食だな。俺も朝食は小食だが。なんつって。しかしそれでもこれは少なすぎじゃないか?とは口には出さずに、食券をおばちゃんに渡して適当に空いている席に着いた。

 

料理が出来て呼び出されるまでの間、俺は簪と雑談に花を咲かせる。

すきな食べ物だったり、すきなテレビ番組だったり、好きなマンガだったり………

朝の食堂はかなり人が多く、呼び出しがされるまでが長い。そんな時間も、簪と話をしているだけで、何だか楽しく思えた。

 

(これが青春ってやつなんだろうな……)

 

過去に青春らしい青春を過ごせなかった俺は、この強制入学に、初めて感謝をした。

ってか青春らしい青春ってなんだ?海に向かって友達と叫ぶ?ラッキースケベする?セーシュンのばっかやろー!!とか叫ぶ?どれも偏見に満ちてるな。1番目は友達いないからアウト。2番目は痴漢で現行犯逮捕でアウト。3番は不審者通報でアウト。全部ダメじゃん。

 

「おっ。茅場か?よう!」

 

「ん。織斑か。おはよう」

 

そんな風に考えていると、通路を通りがかった織斑が声をかけてきた。

その後ろには、長い黒髪を後ろで一つに結った少女が、同じくこちらを見ている。

彼女は篠ノ之箒。かの大天災こと篠ノ之束の妹で、全国剣道大会で優勝経験もある人物だ。ちなみにその大会でリーファさんは3位だったらしい。いやそれでも十分凄いのだが。

 

「っ」

 

きゅと、織斑たちからは見えないように、小さく俺の制服の端を掴まれた感覚があった。それは簪によるもので、簪は怒りを少々混えた視線を織斑に送っているが織斑はそれに気付いていないようだった。

そういえば、簪の専用機は織斑の所為で……

織斑は、俺の隣に座る簪に気付き、声をかける。

 

「茅場の隣の子は?」

 

「こちら更識簪。俺のルームメイトだ。で、そちらさんは篠ノ之箒さんですな」

 

「なんだ知ってるのかよ」

 

そこで織斑は、あそうだ。と何かを思い出したように言ってきた。

 

「隣に俺達座っていいか?座る場所少なくてさ」

 

「っ!!」

 

織斑のその言葉に、簪の表情は強張る。服の裾を握る力も強くなった。

たしかに、織斑はこの学園でたった一人の男子学生という共通点で、良い関係を築いていけたらと思う。そうすれば間接的にだが、織斑先生に媚を売ることもできる。

だが………

 

「すまんが、他を当たってくれないか?」

 

「なんでだよー」

 

そこは空気読んで理由を聞かずに引き下がってくれればよかったのに。

簪、すまんと目配せして簪の肩を抱き寄せる。

 

「俺ら今いちゃらぶしてんのさ。これ以上は言わんでも分かるな?」

 

「「「っ!?!?!?」」」

 

簪と織斑と篠ノ之は、それぞれ考えていることや感じたことは違うのだろうけど、皆同じような反応をした。それは周囲の生徒にも聞こえていたらしく、ざわざわとその空間自体がざわめく。

直後、顔を赤くした織斑が慌てたように言った。

 

「すすすすすすまん!!!ほ、箒。別を探そう!」

 

「そ、そうだな!」

 

そう言って二人は足早にその場を駆け離れていった。それを見て、俺は簪の肩から手を離した。

簪の顔は、しゅぅぅ…と湯気を上げており、よほど恥ずかしかったであろうことを感じられた。もちろんそれは俺も例外ではなく、俺の顔もかなり赤くなっているのだが。

 

「何かすまんな簪」

 

「あ、いえ、その………」

 

「しばらくは噂になるだろう。ホントにすまなかったな」

 

その時、タイミングよくと簪の料理が完成したらしく呼び出しの番号の張られた機械が振動する。

俺は簪にここで待っててくれと言って料理を取りに行った。

料理を取りに行った時、おばちゃんが「何か騒がしいねぇ」と言っていたので、俺は

「何なんでしょうね、朝っぱらから」と答えを知っているにも関わらず、それを曖昧に

返して二人分の料理を持って元居た場所へと戻っていった。

 

「取ってきたぜ。早速食べようぜ」

 

「あ、はい」

 

いただきますと言って、俺は蕎麦に、簪はうどんに箸をつけた。

 

 

 

 

 

 

食後、俺達はそれぞれの教室へと別れる。その瞬間が少し寂しくて、俺は少し表情に出してしまったかもしれなかったが、俺から見た簪の表情も、少し寂しそうに見えたが、すぐに教室に入って行ってしまい、果たしてその表情が見間違いではなかったのだろうかと思った。ただ俺がそう勘違いしただけなんじゃないだろうか?と。

 

しかしそんなことをぼうっと考えていると、はっと我に返り、教室の、自分の机へと着席した。

その後すぐに織斑先生が入ってきて、授業が始まった。

 

「さて、それでは授業に………と言いたいところだが。昨日のクラス代表の話は茅場のいないときにしてしまったからな、改めて投票等をしてもらいたい」

 

その言葉にクラスがざわつき、刹那先生の喝が入りクラスは静まり返る。昨日の内に見慣れたこの光景に、俺は溜息を吐いて話の続きを聞く。

 

「昨日も話したが、クラス代表は文字通り。クラスの代表として対抗戦や雑務を行ってもらう役割だ」

 

ええー。これは絶対誰も手を上げないパターンの物じゃないですかやだー。残念ながら、このクラスには何でも知っていそうだが知っていることだけしか知らない猫の怪異に憑かれた女子も、殴り書きの手帳を持ってる仮面優等生もいない。誰もやりたがらないのは明白であった。

 

「よって、昨日と同じように推薦したい者がいる場合はしてくれて構わない。自薦他薦は問わない。また、推薦された者には拒否権は無いものとする。いいな?」

 

はぁ!?ふっざけんなよおい!!千冬さん!!織斑先生!!拒否権下さい!!絶対俺指名されちゃうじゃないですかやだー!!運よく織斑に票が集まってくれればいいんだが、奇跡はそう簡単には起きないんだよー!!俺の兄貴も言ってた、奇跡ってのは、自分で起こすもんだって!!でも無理なモンは無理!!

 

そしてクラスの女子が、一斉に喚きだす。

しかし一言一言の長さや発音は違えど、皆が発しているのは2つの言葉だけ。俺と織斑の名前だ。

 

そんな騒ぎの中で織斑を見ると、織斑は厳しい表情をしていた。

そういう表情もしたくなるだろうけど、織斑の表情はもっと違う者に向けられているような―――

 

「納得いきませんわ!男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと!?」

 

バァン!!!と机を叩く大きな音を立てて一人の女子生徒がいた。

それは、昨日の夕方、最後までクラスに残っていた外国人であることが明白な少女だ。

 

「分かってはいたことだが…………何だオルコット」

 

「昨日も言った通りですが、ただ物珍しいというだけで男子を選ばれてもらっては困ります!いいですか私はこの国にサーカスを見に来ているわけではないのです!」

 

おお!態度や言動は腹立つが、この面倒な役割をやろうって女子がいるなら俺は全力で応援するぜ!!

 

「私はISの技術をまなぶために来たのですっ!大体っ!文化・技術が後進的な発展途上国で暮らすことすら、私には耐えがたい苦痛であって!!!!」

 

随分とヒステリックな嬢ちゃんだな。簪を少しは見習ってほしいもんだ。

しかし日本って発展途上国だったのか。初知りだ。

俺は先進国の1つだと思ってたんだがなぁ………アニメという文化とか、和の心とか、宮〇駿を筆頭に、細〇守とか新〇誠のアニメーション映画とか、その他電化製品とか………

ちなみにアニメーション映画で好きなのはそれぞれで『風立〇ぬ』『サマーウォー〇』『言の〇の庭』だったりする。

 

そんなことはいい。とにかくこのまま誰も何も言わず、オルコットが代表になれば、あるいは織斑が。結局俺以外がなってくれれば誰でもいいんだ!!!

 

神よぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!

おっと、後者は違ったか。ありゃピックアップ中で爆死した時の俺の叫びだったわ。

 

「イギリスだって島国だろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

「貴方!私の祖国を非難するのですか!!」

 

ぉぉぉぉぉぉおおおおおりぃぃぃぃぃむぅぅぅぅぅぅらぁぁぁぁぁぁくぅぅぅぅぅん?君は何でそう俺の邪魔をしたがるのかなァ?

そんなこというからオルコット嬢噛みついちゃったじゃないですか~

 

「先に非難したのはそっちだろ?」

 

だからなんでそう煽るようなこと言うの!?何?馬鹿?馬鹿なの?死ぬの?

 

「黙りなさい!男のくせして」

 

「いやそれはおかしい」

 

「なんですって!?」

 

しまった。声に出てたか。

いやだってそうだろ。言いたくなる気持ちも分かってくれ。男女差別…………性差別とかよくないと思いまーす。日本だって無差別を謳ってる国な訳ですし?まあここはどこの国にも属していない場所だから日本の常識が通じるとは限らないんだけど、イギリスもまだそこまで性差別は酷くなかったと思ったのになぁ………

 

「決闘ですわ!!」

 

どうしてそうなった。

 

「いいぜ。四の五の言うより分かりやすくていい」

 

何でアンタも受けてんの?ここはさらっと流そうよ?ね?この流れだと確実に俺受けなきゃいけないじゃん。それ以前に織斑先生が強制的に決定するんだろうけどさ。

はぁ、と大きなため息を一つ吐いて。俺は机に突っ伏した。

負けたよ。完敗だ。それを祝って乾杯しようぜ。ホントはやけ酒したいだけですどうもすいません。それに祝えるようなことでもなかった件について。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、そして茅場はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

これでまとまったように見えるなら貴方の目、あるいは耳か脳は異常です。病院へ行くことをおすすめします。具体的には眼科と耳鼻科と脳外科あたりに――――――あだっ!?

 

「何を馬鹿なことを考えている。これはその分だ」

 

何で俺の脳内まで見透かしてくるんですかねぇ。

 

 

 

 

 

 

「簪。ボクもう疲れたよ…………」

 

「………死んじゃうの?」

 

もうそんくらい疲れたってことだよ。

そう言って俺は布団に倒れこむ。どっと疲れた。具体的には胃と腸と頭が。過敏性腸症候群と胃痛持ち舐めんなよ?絶賛薬漬けの生活おくってっからな?それだけ聞くと覚醒剤やってるみたいだが全く違います。まあカプセル剤だから中身が覚醒剤だったとしても分からんわけだが。

 

「なんかISで決闘することになった。一週間後」

 

「……何だか……大変…だね」

 

簪はそう言うと、そっと俺のベッドに腰掛け、俺の頭を撫でる。

白く細く。しかし女子特有の柔らかさと滑らかさのある手が俺のさして手入れもされていない髪の上を滑っていく。髪越しに感じる掌が、とても暖かくて、何故か気が緩んで、俺は知らず知らずに涙と嗚咽を零していた。

少しして、泣き止むと俺は簪に謝罪する。

 

「すまんなぁ。突然泣き出したりして。気持ち悪かっただろう?どうぞ罵ってくれて構わない」

 

「あ、いえ…そんなこと…無い…です」

 

「思えば今日の朝だって…………ほんとにすまない………」

 

何度今日だけで謝ったことだろうか?これじゃジーク君をすまないさんとか言ってらんないじゃないか。俺がすまないさん2代目を受け継いじゃう勢いだ。

 

「その…えと……」

 

何だろう?簪が何か言いたげに必死に言葉を紡ごうとしている。

そして、漸く何を言いたいのかをまとめたのか、ゆっくり息を吸って言葉を吐き出した。

 

「すまん…とか…より……ありがとう…とかの…方が……嬉しい、です」

 

「――――――――――」

 

その瞬間、俺は、何も言うことができなくなった。

そして俺は。

 

「ふっ。カッコいいこと言ってくれるじゃねぇか」

 

これがイケメンだったら「イケメン!抱いて!!」とか言ってたんだろうけど。いや言わないな。それは俺が女で簪が男だった場合だ。

まあ最も、その逆。俺が男で簪が女であったとしても、俺は惚れていたんだろうけど。

 

「まあ、何だ。元気出た。ありがとよ」

 

「!!は、はい!」

 

くっ、まただ。

この、彼女の白百合のような笑顔を向けられると、胸が締め付けられるような感覚が俺を襲う。その締め付けを彼女へと向けて、俺と言う存在に締め付けようと、俺だけ見ろと縛り付けてしまいそうな――――――

 

「と、ところで」

 

おい俺。話題の変え方下手過ぎんだろ。昨晩のことを思い出せよ。

そう自分の事を叱咤しつつも俺は言葉を続けた。

 

「何で頭を撫でてくれたんだ?」

 

「え、あの……嫌……でしたか?」

 

「いやいや違う。違うからね!?ただこう……触るのが嫌とかさ、そういうのが無かったのかなーって」

 

女子特有の、自分の好きな人以外に触れることを生理的に嫌うとかいう特性?本能?よく分からんがそういうやつがいるらしい。

もしかしたら簪は無理をして俺を慰めてくれたのかもしれない。そう思うと俺は悔しくなった。

しかし簪はそれを否定した。

 

「いえ…嫌とかは……無くて。その……今日、懐かしい……夢を…見たんです。

 お姉ちゃんとの……大切な……」

 

それはそうなんだろう。けども、あのうなされ方は、トラウマレベルでの何かがある。そんな夢だったはずだ。いい夢ではない、悪夢の類だったはずだ。

そう思っていると、簪が言葉の続きを紡ぎ始めた。

 

「最初の方は……あまりよくなかった……けど、最後の方……は、優しく抱きしめられて……

 その………頭を撫でられたんです。

 それで…その暖かさが……起きても……まだ…残ってるような……そんな気がして

 それを思い出して……だから………」

 

「そう、か」

 

短く、俺はそう答えた。それを聞いた簪は、俺の機嫌を損ねたと感じたのか、謝罪の言葉を並べながら頭を下げた。

俺は簪の謝罪の理由を否定した。

 

「いや、いい夢……だったんだよな?」

 

「……はい」

 

「うん、なら良かった」

 

自分の右手を眺めながら、手の皺を指でなぞって、掌を閉じた。

うん。俺の行いは間違いではなかった。親父から学んだ術が、今ここで役に立った。根本的な原因は解決できていないが、それでも、簪に安らぎを与えることができた。

それだけで、俺は、良かったと思えた。

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ」

 

「はい?」

 

俺はベッドの上をごろんと180度回転し、仰向けになり簪を見る。両手を大きく広げ、大の字になって全身の力を抜いて、だらしない姿で簪に質問した。

 

「簪は、お姉さんがいるんだね」

 

「えっ!?どうしてそれを!?」

 

おお、めずらしい。簪が声を出して驚くなんて。そんなに知られたくなかったことなんだろうか?とりあえず俺は簪の質問に答える。

 

「何でって、さっき言ってたじゃないか」

 

「あっ」

 

えっ、気付いてなかったの?と、俺は驚き質問すると、赤面したまま無言で肯定を示すように頭を縦に振る。ううーん、家族に対してコンプレックスというか引け目と言うか、家族の事を隠したい、知られたくないとか思ったこと無かったから良く分かんないけど、そんな簡単に零しちゃうもんなのかなぁ。

 

「ま、言いたくないなら別に聞かないけどね」

 

「……………………………………」

 

簪は長い沈黙。その表情は暗く、俺では分からない重荷をその小さく華奢な背に抱えて生きてきたのだろう。

俺は様々な負の感情を浴びてきた。けども、どれもが一瞬、一時的なもので、自分が消えてなくなる寸前まで精神をすり減らしたことなど1度しかない。

だから俺は、黙って脱衣所へと向かった。

簪は、小さく言った。

 

「貴方なら、分かってくれる……かもしれない」

 

「え―――――――っ!?」

 

俺は首だけを後ろに向けて聞き返そうとした。

その時ふっと、暖かさのある重みが俺の背中を押した。

その視界の端が捉えたのは、俺の背に体を預けるように押し付ける簪の姿だった。

 

「聞いて……くれますか?」

 

その声音は、今まで聞いてきたどの声よりも重く、しかし脆く、少しの動きでもあれば壊れてしまいそうな儚さがあった。

簪の最深。簪が抱える、隠し通したかった自らの弱み。

それを、俺に託して良いのか。俺なんかに、託して良いのか?

しかし簪は言ったのだ。

 

『貴方なら、分かってくれる……かもしれない』

 

俺になら、分かるかもしれない何か。それは俺にも分からないかもしれない。

しかし、簪が俺をそれだけ信頼してくれているという証でもある。

ならば俺はそれに応えよう。

簪の弱さの核を、護ってあげられるだけの存在になれるという証明をしよう。

かつて親父がアインクラッドで、機械を超えた愛という思いの力を照明した時のように。

 

「聞かせてくれ。君が、何を思っているのか」

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