遥かなる赤き星   作:くろてつ

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記録番号11:参戦

 都合の良い事に敵機は正面から向かってきていた為、リニアカタパルトから射出されたダガーを減速させる事無く戦域へ向かう。

 既に彼我の相対距離は30kmを切っている。街一つ分の距離も宇宙機、宇宙艦の速度に照らし合わせて見れば至近距離と言って差し支えない。最悪接近戦も視野に入れなければならないと考えると気が重いが、ミュータントでない敵とはつまりスカベンジャーか、オレンジか、いずれにせよ無法者の集まりである事は想像に難くない。一応は騎士の直轄領であるヤキン・ドゥーエ・サンダーボルト混合宙域でセツルメントの軍勢から仕掛けに来る理由が無いからだ。

 FCSが敵機が攻撃半径内に入った事を知らせるアラームを鳴らせる。すぐさまトリガーを引く。一条のビームが宇宙を奔った。同時に軽く左のジョイスティックを捻りつつ押し込む。機体は左へスパイラルを描く様に上昇していく。

 相手はすぐに二発の返事をよこしてきた。先程からサンダーチャイルドもステファンのダガーもスイーパーシグナルの発信を行い、警告を発するセツルメント軍のプロトコルに沿った対応を続けているが、実弾攻撃に至っても一向に通信を開かないと見ると誤射では無く本当にこちらに対する攻撃意図があると見て間違い無い。再び一発。先の攻撃は斜め下からだったが今度は真後ろから。背中を晒すのは気持ちの良いものではないが、これだけデブリの多い宙域。しかも相対距離が20km以上ある状態ではほぼ当たらない。

 「しかしフォビドゥンを仕上げて置けば良かったか……」

 背中に推進系が固まるエールストライカーを装備しているととにかくいつもより身軽で機敏な動きが出来るのは良いが、フォビドゥンストライカーを背負っている時のような背中の安心感は得られない。

 火星に行くかも。と言う話をジョージから聞かされた時に何となく「鉄血」を思い出し、その連想から接近戦用物理装備の一つも追加してみようかと思い立ってフォビドゥンストライカーをプラモデル状態に変換したまでは良かったのだ。

 しかしエカテリーナの態度に何とも言えないモヤモヤを感じたままでのモデリングは捗らず、結果としてステファンはフォビドゥンストライカーを中途半端にバラしたままビルダールームに放置してデッキへ気分転換に出てしまっていた。

 「まヘイルよりは良いしな……」

 バスターストライカーを装備してヘイルダガーとして出る手も無くは無かったが、エカテリーナ以外がヘイルダガーを持ち出すのは僚機の随伴無しではあまり効果的とは言えない。サンダーチャイルドが無事、敵機との会敵ラインを外れデブリ帯に入った事を確認すると、ステファンはもう一度敵機を惹きつけんとスパイラル軌道に入った。

 

 艦橋の外が一瞬光ると紫電が空間の中を奔る。

 「うへ、またノイズだ」

 対空監視モニターをニネットがトントンと叩く。本来ならばサンダーボルト宙域でのみ観測される落雷現象だが、宙域の境界線近くではこうして互いの宙域固有の現象が入り混じって発生する事が多々ある。

 各種ガンダムシリーズの「暗礁宙域」が持つ特徴が混ざり合って形成されたミュータント出現宙域を航行する上でのもう一つのリスクがこれだった。

 「にしてもさっきの敵、随分近くまで寄せつけちゃったなー」

 ひとたび戦闘が始まればそれまでの落ち度は一旦不問とは言え自分の手落ちであるとしてニネットは肩を落とす。

 「仕方ないだろニネット。宙域の帯電率がこんだけ高いとなるとコーティング処理済のムーアかリビング・デッドでも無けりゃ目視しか無ぇ」

 ダンは少しだけ気まずそうに答える。その目には既にサングラスが掛けられ、落雷に備えていた。明滅する紫電とそれが放つパルスによる航行計器の不調は注意していても招かれざる客の接近を許してしまう。

 「それにこの宙域、基本的には"出ない"エリアでしたもんね」

 ヘレナが戦術モニターのサイドパネルにメモを呼び出す。ファントムペインが独自に宙域をXYZの三軸で分割・管理している情報ファイルによればこのエリアのミュータント出現率は平時でも5%を切っている静かなエリアだ。ジャンク屋やアウトローも基本的にはミュータント宙域の外縁部に立ち入る程度で、宙域同士の隣接地帯と言う奥の奥まで来る事など滅多に無い。油断していた。と言う訳では無いが、モビルスーツ戦の可能性はかなり低いと全員が思っていた。

 「まぁイザとなりゃ、イザとなりゃだがよい。エカテリーナのアレを出しゃ押し通る事も出来らぁなぁ」

 《冗談はよしとくれダン。なんだってチンピラ風情にラムの封を切ってやらにゃならないのさ。味の分からない連中に振る舞う程アタシは気前が良くなくってね》

 ガンルームで待機しているエカテリーナも会話に参加してくる。戦闘中ではあるものの、基本的にはステファンが一機追い払えばそれで終わりだし、艦機連携戦闘が必要な規模でも無い。キングは安全地帯にある。全員がモニターを注視しつつ、しかし楽観的な空気が漂っていた。

 状況がにわかに変わったのはデナン・ゾンに増援が着いてからだった。追わせつつ敵の進路をこちらが決められるからと戦場の主導権を握っていたつもりだったが、ベルガ・ダラスは一枚上手のようでこちらを追い込み猟の要領で次第にデブリの多いエリアに詰めていく。射撃についてもそれなりのものらしく、まだ掠める程度ではあるもののシールドには既に幾つかの焦げを作っていた。

 軽く舌打ちし、デナン・ゾンを仕留めようとするがその度にベルガ・ダラスが割り込んで来る。ではベルガ・ダラスを相手にするにはどうかと言えば単調ではあるが執拗なデナン・ゾンが邪魔となる。ベルガ・ダラスとデナン・ゾンの間には明確な優劣があったが、二機の間には絶対の命令系統でも敷かれているのかベルガ・ダラスを中心としたコンビネーションがきっちりと為されている。エカテリーナに増援を頼むか、と一瞬考えたものの、しかし眼前のデナン・ゾンは次第に消耗してきているように見える。どうするか?と悩んだ時、先の口論がふっと頭を過り、ここでエカテリーナと共に敵機を撃破すれば結局自分はエカテリーナの主張に同意した事になるのではないか。何か、自分だけで出来ないか。と言う声が脳内に響いた。

 そしてその欲がステファンの思考を止め、ダガーの射撃を躊躇わせる。はっと我に返った時には、眼前いっぱいにベルガ・ダラスの機影が広がっていた。咄嗟に近接防御コマンドを打ち込むが間に合わない。しまった、とステファンが目を伏せた次の瞬間、鉄骨同士を打ち付けたような鈍い音が機体を通じてコクピットに響き渡った。

 はたと顔を上げると、今度は黒では無く白の機体が目前に在った。同時に接触回線が開き、同年代に見える男が顔を見せた。

 『あ、ども。生きてます?』

 同時に相手機の装備データが転送され、敵意が無い事を示す友軍希望のアイコンが表示された。白い機体がダガーの腕を掴みそのままブーストし上昇する。一瞬押さえつけられる不快感が来たが、それはベルガ・ダラスの後ろに控えていたデナン・ゾンの射撃を強引に回避する方策だったと分かり、ステファンはひとまずはこれを友軍だと認識する事とした。

 『えっとそちらはスイーパー、だよな』

 「スイーパークラン、ファントムペイン所属だ。あのベルガ・ダラスの一団はお前とも交戦中だったのか?」

 『そだよ。お陰で相棒とはぐれちまって』

 二機は背中合わせになり牽制機動を取りつつ袋小路から離脱する。明るい所に出ると白い機体の正体はビギニングガンダムだと分かった。全体が白と青系の数色で彩られているが、よく見ると擦過傷だらけで色も褪せている。

 「ずいぶんやられているじゃないか。良い仕上げだと言うのにこんな所でやられてはつまらないだろうに」

 『そうなんだよ、分かる?折角ラメ塗料とクリア上掛け使い分けてんのにこんなクソ地味な戦いで死んだら流石に空しすぎてな』

 その一言で相手もビルダーだと理解したステファンはふっと笑みを漏らした。どこの誰とも知れない相手だが、とりあえず信頼出来る。

 「そうだな。死ぬ前に足元のシルバリングももうちょっと直したいだろう」

 『あってめ……よく見てんな……まいいや。オタク、名前は?』

ビギニングの顔がこちらを向く。精強な、しかし温和なビギニングの顔だ。

 「ステファン・ヘルブランディ。ステファンで良い」

 『了解。俺はユキト。キヨナガ・ユキトだ……んじゃ自己紹介も済んだ所で、巻き返しと行こうぜ』

 ぴったりと寄り添って飛んでいた二機は少しだけ開けた所に出ると散開し、敵機を迎え撃つ態勢に入る。白いガンダムと黒いダガー。正反対の二機はしかしぴったりと呼吸を合わせると

一気に旋回し、眼前に迫るベルガ・ダラスとデナン・ゾンを迎え撃たんと飛び掛かった。

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