魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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第9話【接触】

その日鹿目まどかは勇気を振り絞ってある事を成し遂げようとしていた。

午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると深呼吸し、決意のこもった瞳で暁美ほむらを見る。一歩、また一歩とのし掛かるプレッシャーに負けないようしっかりと足を踏み締めてほむらへと近付いて行くまどか。

一方ほむらもまどかの接近には気が付いていた。

 

(・・・何なのかしら?今日一日見られていたけど)

 

などと、普段は自分がまどかに対してしている事を不審に思うほむら。

そしてとうとうほむらの席まで辿り着いたまどかはその言葉を口にした。

 

「ほむらちゃん、一緒にお昼ご飯食べよう!」

 

「え?」

 

やけに気合いの入った顔で近付いてくるものだら何を言われるのかと思ったらそんな事・・・

 

いつもの無表情が崩れた。一瞬だがほむらは呆れたような笑みをまどかに見せた。しかしそれを隠すようにすぐにそっぽを向き、再びまどかの方へ振り向くとまたいつもの無表情に戻っていた。

 

「せっかくのお誘いありがとう。けど今日は用事があるから遠慮しておくわ」

 

そう言うとほむらは長い黒髪をなびかせながら教室から出て行った。

だがまどかは一瞬のほむらの表情が目に焼き付いたように印象に残り、彼女の出て行った教室のドアを見つめていた。

そこへニヤニヤしたさやかともう一人の友人がやって来た。

 

「アキオさんの言葉を借りるなら振られちゃったねぇまどか!」

 

「まあ!まさかまどかさんは暁美さんにそう言う感情を!?」

 

「へ?ち、違うよ二人とも!私はただほむらちゃんとお話して、ほむらちゃんの事を知れたらな~、って」

 

まどかは以前アキオと約束した"ほむらと話をする"というのを実行しようとしたのだ。

しかしその言葉にもう一人の友人、志筑仁美は更に思考を変な方向へと向かわせてしまう。

 

「そうしてあわよくばそんな仲に!?」

 

「ちょっと待って仁美ちゃん!さっきから"そう言う"とか"そんな"ってどういう意味!?」

 

「わたくし、まどかさんには着いていけませんわ~!」

 

そう言いながら仁美は勝手に変な想像をして走り出してしまった。

 

「あちゃ~、ありゃ仁美の奴完全に暴走しちゃってるな」

 

さやかの言葉に苦笑いしながらまどは弁当を持ち、彼女と共に屋上へと移動を始めた。

その途中でさやかは昨日の事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

昨日、アキオに今の自分達でもマミを支えられると言われいてもたっても居られずにマミの下へと行くと、そこには負傷したマミの姿があった。

傷口はリボンで塞いでいるが、そのリボンを真っ赤に染める血の量が重傷だというのを知らしめていた。

そんなマミは心配するさやか達にゆっくりと語り出す。

 

「今回の魔女には私、敵わなかったわ。サトリさんが来てくれなかったらたぶん死んでいたと思う」

 

今まで命懸けという言葉を聞いて分かった気でいたがそうじゃなかった。今のマミの沈んだ様子や怪我を見ると"死"という言葉が重みを伴ってのし掛かる。

 

「ひょっとしたら暁美さんの事を勘違いしてたかも知れない・・・ごめんなさい、私、あなた達にもこんな目に合わせようとしてた」

 

そう謝りながら頭を下げるマミ。そして数秒間下げ続けた頭を上げるとマミは続けた。

 

「だからもう魔法少女の事は忘れて日常に戻って、私には関わらないで」

 

それはマミの本心。まだ出会って数日しか経っていないがまどか達との時間は楽しく、一人だった自分の心を癒してくれた。そんな大切な二人を巻き込む事は出来ない。

 

しかしそんなマミの決意にさやかは真っ向から反対した。

 

「嫌です!」

 

「美樹さん?」

 

マミとさやか、その二人の様子をまどか達はただ見守る。

言いたい事を言ってやれ、そんな風に後押しされているように感じたさやかは勢いに乗って喋り出す。

 

「私はマミさんに憧れてた。だけどそれはマミさんみたいになりたいっていうのとはちょっと違くて、正義の味方のマミさんを応援したいって事で、だけど魔法少女にならないとマミさんと一緒にいられないんじゃないかって焦ってました。けど、そうじゃないってアキオさんが教えてくれたんです」

 

そこまで聞いたアキオはうんうんと頷く。

 

「まだ魔法少女になるかどうかは保留中だけど、そんな魔法少女だとかそうじゃないとか関係無しに私はマミさんの仲間です!」

 

「美樹さん・・・」

 

そこにまどかも続いた。

 

「そうですよマミさん。魔法少女の事とは別に、友達としてこれからも一緒にいちゃ駄目ですか?」

 

そして更に思わぬ人物も彼女に声をかけた。

 

「友達という事に魔法少女かどうかなんて関係ないと僕は思うな。さやか達を危険な目に遇わせたくないというのは分かったけど、だからといってマミが孤独になる必要は無いんじゃないかい?」

 

それはキュウべえからの言葉だった。

 

「まあ僕としてはまどか達には契約して欲しいんだけど」

 

「一言多いわねアンタ」

 

余計な事を言ったキュウべえはサトリから軽い手刀を食らってしまい「訳が分からないよ」と漏らした。そんな光景を無視してアキオもマミへ言葉を贈る。

 

「確かに戦いは危険な事だ。マミちゃんも本当の意味でそれを分かったと思うけど、だからって一人で抱え込むなよ。普段はまどかちゃんにさやかちゃん、うちのミオもいるし、戦いには俺やサトリもついてる!こんなに仲間がいるんだからさ」

 

ここまでがマミの限界だった。先程泣いたばかり(さやか達は知らないが)だというのに再び涙腺が崩壊してわんわんと泣き出してしまった。

さやか達はマミを宥め、その中学生組の様子を安堵したようにアキオとサトリが眺めていた。

 

そうしてその日、本当の意味で彼女達は仲間となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

さやかがその事を思い出している間に屋上へと辿り着いた。

いろいろとあったが、さやかがこの事を思い返したのはマミのほむらを誤解していたという言葉に感じる事があったからである。

 

「まさかあの転校生でも笑う事があるなんてね。悔しいけどちょっと可愛かったじゃない!」

 

「やっぱり私達、ほむらちゃんを誤解してたのかな?案外シャイだったりして・・・」

 

以前アキオと話していた内容を思い出したまどかは彼が言っていた事を口にし、それを聞いたさやかは吹き出した。

 

「ぷふっ、それ転校生のイメージ変わるわ!」

 

ケラケラと笑うさやかだが、しばらくすると落ち着き、逆に暗い表情になった。

 

「でもあいつがキュウべえを傷付けたのは事実なんだよね」

 

その言葉を聞いてまどかもハッとなり、表情を曇らせた。

アキオ達にとってのキュウべえは胡散臭い存在だが、彼女達にとっては何でも願いを叶えられる可能性を示してくれた存在だ。そして一緒に行動する内に友達のような感覚を抱いてすらいるキュウべえを傷つけられたとあっては、誤解という可能性があってもそう簡単に割り切れるものではなかった。

 

「でも、だからこそちゃんとお話しなきゃ」

 

そう言うまどかにさやかも「そうだね」と相槌を打ち、そこでようやく腹の虫が鳴り屋上へと来た理由を思い出した彼女達は各々の弁当を広げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!・・・誰か噂でもしているのかしら?」

 

そう呟くほむらは現在見滝原デパートにいた。尚、彼女がまどかの誘いを断ったのはほんの三分ほど前で、どう考えても普通に辿り着ける時間ではなかった。

 

キョロキョロと賞品の陳列されている棚と棚の間の通路を誰かを探すように見ながら歩くと、数秒で目的の人物を見つけた。

 

「探したわ、アキオさん」

 

その言葉を聞いて即座に振り返ったのは茶髪でそれなりに整った顔をした眼鏡の男、アキオだった。

突然の来訪にも関わらずアキオはほむらを確認すると笑顔で訊ねた。

 

「ようほむほむじゃん!俺ちゃんに何か用かい?」

 

「ほ、ほむ・・・」

(突然何なのこの男)

 

ほむらはアキオの言動に出鼻を挫かれた。

 

(軽薄な男だとは思っていたけどここまで馴れ馴れしいなんて・・・苦手だわ)

 

そう思いながらも調子を取り戻そうと長い黒髪を掻き上げると、いつもの抑揚の無いトーンでほむらは語り出した。

 

「明日の午後5時、見滝原総合病院前に魔女が現れるわ」

 

その言葉を聞いた途端アキオの表情が変わった。それは先程までの軽い男ではなく、戦う者の顔付きだ。

その変化に内心驚きながらもあくまでも無表情に、ほむらは続ける。

 

「今回の魔女は今までのとは訳が違うわ、巴マミでは荷が重いでしょうね」

 

そこで言葉を終わらせてほむらはアキオの出方を伺った。いや、大体の予想は出来ている。

 

この男と巴マミは協力関係にある。魔女の情報を出せばこの男も間違いなく現場に向かうだろうし、もしかしたら"今回は"戦力を失う事が無いかも知れない。

 

そう考えるほむらだが、アキオからは予想外の言葉が返ってきた。

 

「ほむほむは良い子だなあ」

 

「は?」

 

何故?何故何の脈絡もなくそんな事を?

 

アキオは呆気に取られるほむらの頭を撫でようとするが、寸前で我に返った彼女に払い除けられてしまった。

 

「何をするの!?変態!」

 

「変態だなんて酷いな~。俺はただほむほむに良い子良い子してあげようとしただけなのに」

 

「結構よ!それにどうして私が良い子なの!?」

 

珍しく声を荒げてアキオを睨むほむら。その様子をアキオは面白そうにニコニコと見ている。

 

(やっぱりこの男、苦手だわ)

 

少し落ち着き、再び無表情を作ったつもりのほむら。しかし実際は口をへの字にしジト目でアキオをしっかり睨んでいる。

 

「ごめんごめん、怒らせるつもりは無かったんだけど・・・いやだってさ、わざわざほむほむが俺にその魔女の事を教えてくれたのってマミちゃんを心配してくれたからでしょ?」

 

「・・・っ!」

 

言葉に詰まるほむら。その様子を見てアキオは図星と思い更に続ける。

 

「正直マミちゃんの君への態度はかなりキツかったと思う。あんな態度取られたら放って置けばいいのにさ、危機を俺に教えて助けようとしてくれている。すげえ良い子だよ、やっぱり」

 

アキオの言葉にほむらは胸に痛みを感じた。

 

自分はそんなんじゃ無い。何度も切り捨ててきた・・・"今回も"救う事が叶わなければ、彼女自身が障害になるなら容赦無く切り捨てるつもりなのだ。だから自分は良い子などでは・・・

 

「とにかく、確かに伝えたから」

 

これ以上彼と話していては心が持たないと感じたほむらは、話を切り上げるように言うと踵を返した。

その背中にアキオの声が投げ掛けられる。

 

「一度マミちゃんと話をしてくれよ。ちゃんと話せばきっとお互い解りあえるからさ」

 

「・・・考えておくわ」

 

そう言ってほむらは文字どおりその場から消え去るのであった。

 

「午後5時、見滝原総合病院・・・か」

 

 

 

 

 

 

 

「病院?どこか悪いのさやかちゃん」

 

放課後、セブンスエンカウントにてまどかとさやかはサトリとミオと席を共にしてお喋りに投じていた。その最中、さやかの口から明日は病院に行くという言葉が出てサトリが心配したのだ。

 

「いやぁ、私じゃなくて、何て言うかね、幼馴染みがさ」

 

「上条くんっていうさやかちゃんの幼馴染みが入院してるんです。さやかちゃんはよくお見舞いに行ってあげてるんですよ」

 

何故か照れたように上手く話せないさやかの代わりにまどかがその理由を説明した。

その理由を聞き、今のさやかの態度でサトリはある予想を口にする。

 

「ひょっとしてさやかちゃん、その上条くんの事好きなの?」

 

「なあっ!?」

 

どうやら図星だったようだ。熟した林檎のように顔を赤くさせたさやかがしどろもどろに言い訳を始めた。その様を見て微笑ましそうに笑うサトリとミオ。

 

「むぅ、ミオめ!私の隣の席に座ってたら私の嫁にする刑にしてるところだよ!」

 

そう言いながら隣に座るまどかをさやかはうりうりと抱き締め撫で回した。

 

「ふふ、本当はその上条くんにそうしたいんじゃないの?」

 

「そ、そんな事ないって!そうだサトリさん!幼馴染みと言えばサトリさんとアキオさんはどんな感じだったんですか?」

 

なんとか矛先を変えようとサトリに話を振るさやかだが、言った後で現在アキオと結ばれているミオの前で出すべき話題ではなかったと後悔した。しかしミオは全く気にした様子を見せずむしろ「私も気になります」と言う事で、さやかに「余裕か?既にアキオさんと結ばれてる余裕なのか!?」と心の中でツッコまれてしまった。

一方のサトリは参ったなと苦笑いしながらも喋りだした。

 

「ボク達は家が隣同士で親同士も仲が良かったから結構お互いの家でご飯食べたりしてさ、家族みたいな感じだなあ。そういう訳だからたまに異性を意識する事はあっても恋愛感情は無いかな」

 

「恋愛感情は無い・・・ですか」

 

やっぱりこの話題は失敗した。

 

サトリの言葉に、もしかしたら自分の幼馴染みもそうなのではないかという考えが浮かび、落ち込むさやか。完全に自爆である。

そんなさやかに気付いたサトリは慌ててフォローする。

 

「いやでもさ、年頃の男の子なんて女の子と付き合いたいとかそういう事ばっかり考えてるものだし、さやかちゃん可愛いんだからどんどん押して行けば楽勝だって!」

 

「え?可愛いって、そうかなぁ?」

 

「うん、さやかちゃんのそうやって照れてるところ、凄く可愛いよ!」

 

「なっ・・・ミオまで。へへっ」

 

サトリとミオに褒めちぎられてすっかり機嫌を良くしたさやかに、単純だなと思うまどかであった。

 

「それじゃあサトリさん、ミオ、私達そろそろ行くね」

 

「うん、また何時でも来てね」

 

軽く挨拶を交わしたさやか達はセブンスエンカウントを出て、お互いの家路についた。

夕暮れに染まる街で、その片方を見詰める人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

空が夕暮れに包まれれば、そこから闇が広がるのもあっという間で辺りは暗くなってきた。

 

「思ったより遅くなっちゃったかな・・・え?」

 

気が付けば人気の無い一本道。さやかとも別れて一人になったまどかは目の前の街灯の下に人影を見付けた。

そして彼女がその影に気付いたのを見計らったかのように街灯に灯りが点き、その全貌を明らかにする。

 

「ひっ・・・魔女!?」

 

まどかは小さな悲鳴をあげて自分の知るなかで真っ先に浮かんだ可能性を口にした。

その人物は漆黒のローブを纏い仮面で顔を隠し、杖を突いた非常識な外観の主。まごう事なくアイオトであった。

と言ってもまどかはアイオトを知らないので今怯えているのは仕方のない事だろう。

そんなまどかの事など気にせずアイオトは彼女にゆっくりと近付いてゆく。

 

「魔女・・・か。我はあのような存在ではない」

 

気が付けばアイオトはもう目の前、手を伸ばせば届く距離でまどかは完全に硬直してしまっている。

アイオトは興味深そうにそんなまどかをじっと見詰めた。

 

どれくらい経っただろう。まどかからしたら永久に続くのではないかと錯覚する程の緊張の時間だったが、突如アイオトが動揺したように言葉を漏らした。

 

「信じられぬ、このような小さき者が・・・いや、人間とはそういうものなのか」

 

まどかには何を言っているか全く理解できなかった。むしろアイオトの動揺する様を見て怒らせてしまったのか、これから何をされるのだろうかという恐怖で心がいっぱいだった。

 

「・・・・・」

 

その様子に今更気が付いたアイオトは拳を握った状態で左手をゆっくりとまどかに差し出した。

まどかは思わず一歩後ずさるが、アイオトの拳が開かれると思いもよらぬ物が手のひらに乗っていた。

 

「怖がらせてすまなかった」

 

「え?」

 

そこにあったのは包装された一粒のキャンディ。

まどかはそれを見てこの意味不明な状況に再び硬直してしまった。その様子を見てアイオトは不思議そうに首を捻る。

 

「ふむ、人間の子供はコレで喜ぶと思ったのだがな。気に入らぬか?」

 

「あ・・・い、いえ、そんな事ないです」

 

そこでようやくキャンディを受け取るべきだと気付いたまどかは恐る恐るアイオトの手からキャンディを取った。

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

おどおどしながら礼を言うまどかにアイオトは満足そうに頷くと、歩きだして彼女の横を通りすぎて行く。

 

(た、助かったのかな?)

 

まどかがホッと一息ついた時

 

「一つ言っておく」

 

「ひゃいっ!?」

 

突然、不意打ち気味に発せられたアイオトの声にまどかは飛び上がる程驚いた。

 

「汝が言った魔女という存在、あのようになりたくなければ契約しようなどと考えない事だ」

 

「それってどういう事ですか?」

 

今まで怯えていたのに、気が付けばアイオトに質問をしていたまどか。アイオトは考えるような間を置くと、ゆっくりと喋りだした。

 

「今は知るべき時ではない。だが我は親として子である汝に忠告する、契約はするな」

 

「・・・あの、あなたはいったい?」

 

「我はアイオト。宇宙に種を蒔いた生命の祖なり」

 

その言葉を最後に今度こそアイオトは暗闇へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

「アイオトが出掛けてるなんて珍しいな」

 

一方、仕事を終え帰宅したアキオがアイオトの不在を不思議がっていた。そんな彼の呟きにアイオトの不在を伝えたナガミミは彼が外出した理由を語り始める。

 

「なんでも例の強い因果を感じたとかで、その持ち主を確認しに行くって言ってたぜ」

 

「元の世界に戻る手掛かりか・・・」

 

真剣な表情になるアキオにナガミミは浮かない顔で続けた。

 

「そう簡単な話でもないだろ。確かに因果の収束とやらに巻き込まれてこの世界に来たが、その因果の持ち主を見付けたところでソイツが俺様達を元の世界に戻せるかはまた別問題だ」

 

確かにと頷くアキオ。

あくまでも因果に巻き込まれた、要するにただの事故であり、巻き込んだからと言って元の場所に送り返せる保障は無い。むしろ単純な移動ではないだろうから同じ作用で帰れる確率はかなり低いだろう。

つまり、身も蓋も無い言い方をすれば今のアイオトの行動は無駄という事になる。

 

そんな二人のやり取りに一人手を上げて質問をする者がいた。

 

「あの、元の世界とか因果とか・・・質問しても大丈夫ですか?」

 

それは居間に座るもう一人の金髪少女、マミだった。

 

何故彼女がアキオ達の部屋にいるのかというと、昨日の魔女戦の話を聞いたミオが

 

「マミさんが怪我しちゃったならご飯の準備も大変だろうし、うちで一緒に食べよう!」

 

と提案したためである。

魔法少女の回復力は通常の人間より優れ、マミ自信も多少は回復魔法を使えるのだが、流石に太股にそれなりに大きな穴を空けられたとなっては傷は塞がっても完治まで時間が掛かるようだ。まだ普通に歩く事が出来ず、昨日のサトリやアキオの言葉もあってマミはミオのお誘いを受ける事にしたのだ。

その結果、ナガミミも長い付き合いになるのならと本来の言葉遣いの荒い素の自分でいる事にしたようだ。

 

話はマミの質問に戻る。

アキオはナガミミに視線を送ると、彼女もこくりと頷いた。それを了承と受け取りアキオはマミに今までの経緯を語り始めた。

 

元々別世界の人間だという事。そしてドラゴンという人類の敵との戦い、地球の滅亡、統合世界での決着、そして強い因果に巻き込まれてこの世界に来た事を。

最初は半信半疑だったマミだが、よくよく考えてみれば魔法少女でもないのに魔女と戦える戦闘力やキュウべえの言っていた特別な素質の事などを思い出し、なるほどと納得した。

 

「まあ俺達の事情はそんなところかな?ところで」

 

一通り話終えたアキオは今度はこっちの番と言ったように質問を口にした。

 

「マミちゃんはどんな願いで魔法少女になったんだい?」

 

その言葉を聞いた途端マミの表情は硬くなった。

 

(・・・あれ?ひょっとして地雷だった?)

 

「アキオ!女の子の大切な願い事を聞き出そうとするなんてデリカシーが無いよ!」

 

台所からミオが顔を出し叱るようにアキオを咎める。出会った頃はアキオに一方的にからかわれていたミオだが、サトリにアキオの扱いを教わって今ではここまで強く言えるようになったのだ。

 

「いや聞き出すなんてそんな・・・ごめんなマミちゃん、別に言いたくなければいいからさ」

 

「いえ、アキオさん達も素性を明かして下さったんですもの。それに私のはそんな願い事と言うほど素敵なものじゃないですから」

 

そう言い今度はマミが語り出した。

 

今から数年前に起きた交通事故。それに巻き込まれ両親は恐らく即死、そしてかろうじて息のあった自分の命が失われるのも時間の問題だった。

暗く、狭く、痛い。

誰もいるはずも無いのに助けを呼ばずにはいられなかった。

 

キュウべえが現れたのはそんな時だった。

 

そして藁にもすがる思いで再び「助けて」と口にした。

 

「今思えば後悔しているわ。あの時私は両親も助ける事が出来たのに・・・自分一人で助かって・・・」

 

「だからまどかちゃん達にはちゃんとしっかり願い事を考えて欲しかったんだね?」

 

マミはアキオの言葉に頷いた。

 

まさかマミにそのような経緯があったとは思いもしなかった。キュウべえにしても瀕死のマミの命を救ったのだから、自分達は警戒し過ぎなんじゃないかとアキオは考えを改めようとしていた。

 

だがナガミミはアキオとは違う考え方をしていた。

 

(選択肢の無い状況で契約を迫るなんて随分セコい事しやがるな。結果的にマミの命を救っているからコイツの前では言えねえが・・・)

 

そんなナガミミの考えを他所に、マミは表情を和らげた。

 

「だから私は一人でも頑張らなくちゃって思っていました。けど、アキオさん達に出会って、仲間だって言ってもらえて、私は一人じゃないんだなって」

 

言葉を口にする度にマミの涙腺は緩んでゆく。

 

「・・・だから、ありがとうございます、アキオさん!」

 

「はは、いやぁ改まって言われると照れるなあ!まっ、この話はおしまい!昨日散々泣いただろ?」

 

おどけて言うアキオにマミも笑顔で頷き、そこへミオが料理を運んで来た事で食事となった。

キュウべえ以外の人間と共に食事をするなどマミにとっては本当に久しぶりであり、飛び交う何気ない会話に暖かいものを感じ、思った。

 

何時かは彼等は元の世界へと帰ってしまう。けれどその時までは、こうして共に暖かい時を過ごしたいと、そう願っていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

夜更けとなり、健全な中学生は就寝するであろう時間に、ベッドの上に寝転ぶまどかは自分の下を訪れたキュウべえと契約の話をしていた。

 

「願い事は決まったかい?まどか」

 

しかしその問いになかなか答えられない。魔法少女になれば自分は変われるかも知れない。だが叶えたい願いなど無いし、マミに魔法少女関連には関わらないで欲しいと言われてしまっている。

そしてそこまで考えて先程の出来事を思い出す。アイオトという人物から契約はするなという警告を受けた事。

 

(それに、ほむらちゃんも・・・)

 

「ねえキュウべえ?」

 

「なんだいまどか」

 

「魔法少女になるのって、そんなにいけない事なのかな?」

 

「いけないというか、危険な事なのは確かだね。君も昨日のマミの負傷を見ただろう?」

 

そう言われてまどかの脳裏には真っ赤に染まるリボンと、歩くのも辛そうなマミの姿が浮かんだ。

しかし、だからこそ心の優しいまどかは思う。

 

「だけど私が魔法少女になったらマミさんや、アキオさん達を手助けできるかも知れないでしょ?ただなりたいってだけじゃ駄目なのかな」

 

「一応契約だからね、願いは決めてもらわないと」

 

その言葉にまどかはう~んと唸りもう一度考えるが、どうやら良い案は浮かばなかったようでため息を吐いた。

 

「でも確かに、まどかが契約すれば彼女達の力になる事ができるね」

 

まどかがぴくりと反応する。

 

「契約時の願いにもよるけど、まどかが魔法少女になったら間違いなく最強の魔法少女になるよ!君はそれだけの素質を持っている、これだけの素質を持った子は僕も初めてだよ」

 

急なキュウべえの称賛になんだかおかしくなりまどかは笑ってしまう。

自分にそんな大層なものがある訳無い。だとしたら悩んでいる自分を元気付けようとしてくれているのだろう。

まどかはそう捉えた。

 

「嘘でしょ?」

 

「いやいや、そんな事ないんだけどな・・・」

 

キュウべえの言葉を冗談半分に聞き流したまどかは、今日出会った人物に話題を変える事にした。

 

「ねえキュウべえ、アイオトって人知ってる?」

 

「アイオト?何人か心当たりはあるけどそれだけじゃ誰か分からないな・・・特徴を教えてくれるかい?」

 

「んーとね、黒いマント?ローブ?とにかく布を全身に被ってて、仮面を着けてて、杖を突いてた」

 

まどかは彼の容姿を思い出しながらポツポツと特徴を上げていく。

 

「まどか、それは完全に不審者だよ」

 

まどかもそう思う。魔女や契約の事を知っていたのだからキュウべえと関わりのある人物と考えていたのだが、キュウべえの反応からしてどうやら違うようだ。

実際はアキオ達の関係者というだけなのだが。

 

しかし、ここでまどかは彼が最後に残した言葉を思い出した。

 

「そう言えば、"この宇宙に種を蒔いた生命の祖"って言ってた」

 

これはかなりのヒントになるのではないかと期待するが、キュウべえは何も答えない。そもそもあんな目立つ外見で心当たりが無いのだから、キュウべえの知るアイオトの中に、自分が出会ったアイオトはいないのだろう。

するとあの人物は何者なのだろうか?

 

まどかはそんな事を考えながら机の上に置いたキャンディを見詰めた。

 

「すまないまどか」

 

突如今まで黙っていたキュウべえが喋りだしびくりとするまどか。

 

「少し用事が出来たから僕はこの辺で失礼するよ」

 

「あ、うん」

 

まどかの返事を聞いてキュウべえは窓から外へ飛び出した。

そして何処ともなく走りだしながら彼は考えた。

 

(不味いな・・・まさかもうこの星が見つかるなんて。それだけじゃない、何故よりにもやってまどかに接触をしたんだ?)

 

まどかが出会ったのはこの世界とは別から来たアイオトであり、今キュウべえが考えている相手とは別人であろう。しかし、それは全くの勘違いとは言えなかった。

 

アキオ達がその事に気付くのはまだ先の事だった・・・

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