魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~ 作:祇園 暁
「嘘・・・マミさんが?」
二体の魔女が現れたその日、アキオ達はまどかとさやかを家まで送ったあとミオとナガミミを呼んでセブンスエンカウントに集まっていた。
尚、ほむらはいつの間にかあの場からいなくなっていた。
マミの死を聞いたミオはショックでそれ以外の言葉が出てこない。
当たり前だ、この世界で初めて仲の良くなった人物が、こんなにもあっさりといなくなってしまったのだ。今聞いた事実を否定して欲しくてアキオ、サトリ、マスターの順に視線を向けるがいずれも顔を背ける事しか出来なかった。
「仲間だって言ったのに、彼女のために俺は何も出来なかった・・・」
「悔やんでも仕方ねーぞアキオ。まだ魔法少女候補の小娘共がいるんだろ?」
気持ちを沈めるアキオに対してナガミミは現状を確認させる。
「こういう言い方は悪いが、マミの死が契約のストッパーになればいいがな」
非情に聞こえるかも知れないがナガミミの言う事には一理ある。それを分かっているからナガミミの発言を咎める者はこの場にはいなかった。
「しかしこれで顔を知る魔法少女は暁美ほむらだけになった訳だ」
マスターは空気を変えようと話題をマミの死から残る魔法少女へと移した。
そのマスターの発言にこの場にいる者はアキオを見た。今のところまともに彼女と接触したのはアキオだけなのだ。
アキオは全員の視線を受け、「まいったな」とぼやきながら左手で頭を掻こうとして失敗した。
「ぃって!?痛~・・・」
その左腕は病院ではめられたギプスにより固定されており、つい無意識に動かそうとして激痛が走ったのだ。
魔女戦で負った怪我は骨折。幸い軽いものだったため入院せずに済んだがご覧の有り様、アキオは戦線離脱だろう。
痛みが治まったところでアキオはほむらについて考えるが
「ほむほむに対して、なんの情報も無いな」
そう、彼女は謎が多すぎた。そもそも魔法少女自体マミ以外には知らず、どのような思想をもつ者がいて魔法少女としてどのように生きているのか、大雑把な傾向すら分からなかった。
「結局我々に出来るのはあの二人の少女を見守りながら、一般人に被害が及ばぬよう魔女を倒すことだけか」
現状マスターの言うその通りだろう。情報が少なすぎるのだ。
結局それ以上進展は無く、今日のところは解散となった。
「まどかちゃんとさやかちゃん、大丈夫かな?」
なんとかマミの死を受け入れたミオは、仲良くなった同い年の二人の心配をするのであった。
気が付けばカーテンの隙間から光が部屋へとさしていた。小鳥の囀りも聞こえ、今が朝だという事が分かる。
その様子を確認するとまどかはゆっくりとベッドの上で半身を起こした。
(私・・・あれからどうやって帰って来たんだっけ?)
ぼーっとしながら昨日の記憶を再生しようとする。
すると浮かび上がるのはマミの首がゆっくりとずれ、バランスの悪かった積み木のように急に頭が落下して血の噴水が噴き出した光景。
「ひっ・・・」
必死に別の事を思い出そうとするが、その他の事はまるで箇条書きにされた文字のように簡潔にしか分からないのに、マミの最後の光景だけは今でも頭にこびりついて離れなかった。
「酷いよ・・・なんでマミさんが・・・」
まどかは悲しみと恐怖に震え、しばらく膝を抱えてベッドから降りられないでいた。
「でもって~、ユウカったらさ、それだけ言ってもまだ気付かないの!」
何時もの通学路に着くと、さやかとキュウべえ、そして仁美が待っていた。そしてさやかは昨日の事なんて無かったかのように笑い話を始めた。
さやかも昨日自分と同じ光景を見たはずなのにどうしてそんな明るく振る舞えるのか。
『さやかちゃん・・・昨日の事・・・』
『ごめんまどか、今はやめよ。また後で』
まどかは堪らずキュウべえを介したテレパシーで語りかけるが、返って来た声は今明るく話している顔からは想像出来ない程暗かった。
そうだ、さやかも辛いのだ。辛くないはずが無い。あれだけマミに憧れていたのだから。
昼休み。
まどかとさやか、そしてキュウべえは屋上に来ていた。しかしまどかとさやかの二人はまるで精気の無い顔をしている。
何時もの失笑してしまう担任のプライベート話も、授業も、友達の話さえ今日の出来事は頭の中に入っていなかった。
「なんか、違う国に来ちゃったみたいだね」
唐突に喋り出すまどかの声は、やはり精気が無い疲れきったかのような声だった。
「学校も仁美ちゃんも、昨日までと全然変わって無いはずなのに、なんだかまるで知らない人達の中にいるみたい」
昨日あれだけの事があったにも関わらず世界は何も変わってない、マミが死んでも当たり前のように日常が過ぎてゆく光景にまどかは違和感を感じずにはいられなかった。
そんなまどかにさやかは同じく暗いトーンで返す。
「知らないんだよ、誰も。魔女の事、マミさんの事。私達は知ってて、他の皆は何も知らない。それってもう違う世界で違うもの見てるのと変わんないんだよ。私達はもっと早くにその事に気付くべきだったんだ」
そしてそこで一旦言葉を切ると、少し躊躇い気味にさやかは問いかけた。
「まどかはさ、まだ魔法少女になろうって思ってる?」
その言葉にまどかは息を飲んだ。瞬間、昨日の光景が再び蘇る。何度も頭の中で再生されても決して慣れる事の無い親しい人の死の光景。
まどかはさやかの問いに何も返せず、震え出した自分の体を抱き締める事しか出来なかった。
そんなまどかの姿を見てさやかは優しく彼女を抱き締めてあげる。
「仕方ないよ・・・結局私達は分かった気でいただけで、何も分かってなかったんだ」
「マミさんを助けるって言ったのにずるいって・・・卑怯だって分かってる。でも私、あんな死に方したらって思ったら息も出来ないぐらい苦しくて・・・無理だよ、あんなの嫌だよ・・・」
途中で泣き出しながらも胸の内を吐き出したまどかは抱き締めてくれるさやかにしがみついた。
幸せな家庭で死などと縁の無かったのに加え、優しい性格のまどかには普通ではあり得ないマミの死が余程ショッキングで辛かったのだろう。さやかだって辛いのは同じはずだと分かっていても、親友の優しさに今だけは縋りたかった。
そしてさやかも、そんなまどかを支えられるのは同じ事情を知る自分だけだと自分に言い聞かせる事でなんとか平静を保っていた。
しばらくして、まどかが落ち着いた頃合いを見てさやかはキュウべえに問いかけた。
「ねえキュウべえ、マミさんがいなくなって、この町どうなっちゃうの?誰が魔女から皆を守るの?」
「長らくここはマミのテリトリーだったけど、空席となったら他の魔法少女は黙っていないだろう。恐らくはすぐにでもグリーフシードを目当てにやって来るだろうね。暁美ほむらがどういうスタンスなのかはまだ分からないけれど、ひょっとしたらグリーフシードを賭けての争いになるかも知れない」
「そんな・・・同じ魔法少女同士なのに?」
「しかもそんなグリーフシードだけが目的なんて」
キュウべえの話す内容にまどかは困惑し、さやかも表情を険しくさせる。
それに対してキュウべえは諭すような口調で続けた。
「グリーフシードは魔法少女にとって無くてはならない存在だからね。でも、そんな彼女達を批判出来るのは、同じ魔法少女としての運命を背負った者だけじゃないかな」
魔法少女としての運命。
それは魔女との命懸けの戦いをし続けるという運命。
そして敗北の意味を知ってしまったまどか達はキュウべえのその言葉に何も言えなかった。
その日の放課後、さやかは恭介のお見舞い、仁美はお稽古事、そしてまどかは日直の仕事で遅くなり一人で学校の正門を出た。
「あ、まどかちゃん!」
「え?」
精神的に疲労しきったまどかに声をかけたのはミオだった。まどかを見付けすぐに駆け寄って来るミオ。その顔には不安げな表情が浮かんでいる。
「大丈夫まどかちゃん?」
「ミオちゃん?どうしたの?」
「その、マミさんの事聞いて・・・」
その言葉にまどかは表情を暗くする。その様子にミオは相当まどかがまいってしまっている事を見抜いた。
「私、まだまどかちゃん達と出会って全然経って無いけど、友達だと思ってるの。だからね、まどかちゃんが辛かったら私に出来ることがあればしてあげたい!」
そう言いながら手を握って来るミオに、まどかは瞳に涙を溜めた。
「ミオちゃん・・・私、そんな風に言ってもらえる資格なんて無いよ。マミさんを助けるって言ったのに、いざとなったら怖くて何も出来ない・・・今だってマミさんの代わりに魔女と戦えない、卑怯者だもん」
まどかはマミの死の責任が自分にあると思っていた。だからさやかに仕方がないと言われても自分を責める事を止められなかった。
だがミオはゆっくりと首を振り、握った手に力を入れた。
「違うよ。資格が無い事なんてない。ただ私が友達を・・・まどかちゃんを助けたいだけなんだから」
それは嘘偽りの無いミオの本心。どんなにまどかが自分を卑下しようとミオは彼女を助けたいという気持ちを曲げる事は無いだろう。
そしてその想いはまどかに届いた。
「ごめんねミオちゃん。心配かけちゃって」
「ううん。私もまどかちゃんの気持ち、分かるもん」
まどかは瞳に溜まった涙を拭うと、ある願いを切り出した。
「あのね、ミオちゃん。私、マミさんのお家に行きたい」
その言葉にミオは頷き、まどかと二人でマンションへと歩きだした。
道中、二人は無言だった。
正直まどかは今自分から話しかける気力は無い。
「まどかちゃん、私の話をしてもいいかな?」
しかし突拍子も無くミオが問い掛けた。まどかがそれに頷くと、ミオは一度深呼吸してから語りだした。
「私ね、沢山人が死ぬところを見てきたの」
「えっ!?」
予想だにしない内容にまどかは驚きの声をあげた。まだ魔法少女の事を知らないかつてのまどかなら質の悪い冗談だと思っていただろうが、今はそのように思う事が出来ない。
「私もまどかちゃんみたいに戦ってくれって言われた事があってね、と言ってもナビゲーターとしてだけど。それまでの私は何の取り柄も無くて、ずっと周りの人達に迷惑かけてて、そんな私が皆の命を預かるような仕事を出来るはずがないって、怖くて逃げ出しちゃったの」
そこまで聞いてまどかは自分の境遇と重ねていた。契約を持ち掛けられているという点は勿論、自分には何も無いという部分にも。
仕方ないよ。
そう言う言葉がまどかの頭に浮かぶが、ミオの話はまだ終わらない。
「だけどね、その後にアキオに助けてもらう事があって、死ぬかもしれないのにどうしてって聞いたら、ただ"助けたかったから"だって・・・普通はそれだけで動けない、アキオが特別なんだって思ってたんだけど、アキオを見ていたら違った。ただアキオは自分に出来る事を単純に頑張ってるだけなんだって気付いたの。それから私も、私に出来る事を頑張ろうってナビの仕事を始めたんだ。それから沢山のお友達が出来た・・・行方不明だったお父さんにも、自分からは名乗ってくれなかったけど会えた」
そう語るミオはとても愛おしそうに記憶を蘇らせる。だが次の言葉はまどかに衝撃を与える。
「だけど、皆死んじゃった」
「そんな・・・」
思わず口元を押さえ、ミオを心配そうに見詰めるまどか。
「悲しくて、辛くて、それでも、皆がいた事を無かった事にしたくなくて、私もアキオ達も出来る事をやろうって最後まで諦めなかった」
「・・・じゃあ、私も出来る事、魔法少女になって魔女と戦わなくちゃいけないのかな?」
そのまどかの言葉にミオは首を振り否定する。
「ううん。私が言いたいのはまどかちゃんはもう十分頑張ってるから、そんなに自分を責めないでって事」
まどかにとってそれは思いがけない言葉だった。自分は何を頑張っているというのか、何も出来ないで見ている事しか出来なかった自分に何故そのように言うのか。
その声にならない疑問に答えるようにミオは続けた。
「まどかちゃんは魔法少女の事を知ってから、マミさんの戦いを側で見てあげていたし、昨日の魔女の事も自分に出来る事をしようとしてマミさんに教えたんでしょ?」
「でもそれってやっぱり、戦う力があるのに安全な所でただ傍観してるだけだよ」
「そんな事無い!魔女との戦いが命懸けだって事をまどかちゃんは知ってたでしょ?その上でマミさんの側にいたんだから、その時のまどかちゃんは勇気を持ってたはずだよ!まどかちゃんも頑張ってたんだよ!」
ミオの勢いにまどかは否定の言葉を見失ってしまう。しかし一方のミオはう~んと唸って先程の勢いを無くしてしまっていた。
「ごめんねまどかちゃん。私、こういう事に慣れてなくて何だか自分でも何を言ってるのか何を伝えたいのか分かんなくなってきちゃったよ」
その言葉にまどかは思わず吹き出してしまった。
「え?え?私変な事言っちゃったかな?」
おろおろしだすミオに、一時的だった笑いが止まらなくなってしまった。
「分からない・・・分からないけど何だかさっきのミオちゃん、すっごくドジっ娘だなぁって・・・ふふ」
恐らくは真剣な話からの勝手に混乱するミオの姿が笑いのツボに入ったのだろう。他人や後の自分が見たら何が可笑しいのか分からないが、この瞬間の笑いをまどかは止める事が出来なかった。
息が切れるほど笑ったところでまどかはようやく落ち着きを取り戻し、ミオに向き直った。
「ごめんねミオちゃん。でもミオちゃんが私を励ましてくれようとしてるのは分かったから」
その言葉にミオは怒るに怒れなくなるが、心なしかまどかの顔に精気が戻っているように見え、むしろ嬉しさが沸き上がった。そんな彼女の顔は笑顔だ。
「もうまどかちゃんたら!・・・でも、やっと笑ってくれたね」
対するまどかも、まだ少し疲れた様子はあるが笑顔を作って返した。
「うん、ミオちゃんのおかげでね。ありがとう」
そうして、彼女達はマンションまで辿り着くのであった。
ほむらは昨日戦いがあった場所、見滝原総合病院前まで来ていた。
彼女は病院の壁の一点、結界があった場所をジッと見詰め昨日の乱入者を思い出す。
(結局昨日のあのトカゲは何だったのかしら?グリーフシードは落とさなかったし、お菓子の魔女の使い魔とも全く違う・・・なによりあんなの今まで見た事無いわ)
「お?ほむほむじゃん!」
思考するほむらの耳に入ってくる声。それが誰のものか振り向くまでも無く彼女には分かった。
「巴マミが死んだ次の日なのにも関わらず元気そうね、アキオさん?」
そう、そこには笑顔で近付いてくるアキオの姿があった。そもそも自分の事をほむほむと呼ぶ人間をほむらは彼以外心当たりが無かった。
アキオはほむらの言葉を気にせず彼女の隣まで来ると同じように結界のあった場所を見詰めた。
その表情からはいつの間にか笑顔は消え、眉をひそめ愁然とした顔になっていた。
「悲しいさ。けど何時までも悔やんでたってマミちゃんは戻ってこない」
「・・・意外とドライなのね」
「おっと!冷酷な人間だなんて思わないでくれよ?俺はマミちゃんの事を忘れない・・・例え元の世界に帰っても、絶対に」
「そう、巴マミは幸福者ね」
「だと良いがな」
そしてしばらくの沈黙。
その間にほむらはアキオについて考える。
(巴マミの死に動揺しているのは昨日と今の態度から偽りのないものと見ていいでしょうね、彼は本当に巴マミの仲間だった。なら彼は何者?間違いなく魔法少女では無い・・・とは言い切れないわね。例外。例えば何らかの理由で男ではあるがキュウべえが契約を持ち掛けた魔法少女の男版。それならば昨日魔女の結界に単独で侵入して生還したのも頷けるわ。いや、でも初めて会った時に彼はキュウべえを知らない風だった。・・・そう言えばさっき"元の世界"って)
「ほむほむさあ」
突然呼ばれてほむらの思考は中断された。
「もし良かったらこの後お茶しない?」
先程までの憂い顔は何処へやら、そう誘いをかけるアキオの顔はいつもの笑顔に戻っていた。
「中学生をナンパするなんて、あなたロリコン?」
「ロリコンちゃうわ!ちょっとばかし真面目な話をしようと思ったのさ。魔法少女、そして俺達の事についてね」
「!」
それはほむらにとって願ってもない提案だった。
ほむらもアキオ達同様に相手の事を知りあぐねているのだ、堂々と話を聞けるのであれば乗らない手はない。それにもし何らかの罠だとしても隙を突かれなければ彼女は自分の魔法で逃げ切れる絶対の自信を持っていた。
「分かったわ、そのお誘いを受ける事にするわ」
その言葉を聞いてアキオはニコッと笑うとポケットから畳まれた紙を取り出し、それをほむらへと渡した。ほむらが怪訝な表情でその紙を広げると、それはセブンスエンカウントのチラシだった。
「先にその店で待っててくれ。地図はそれに載ってるからさ」
「あなたは?」
「俺はほら、コレ」
そう言って右手でギプスで固定された左腕を指差した。
それを見てほむらも納得してその場から歩きだした。
ほむらが見えなくなった頃、アキオは未だにその場から動かず、顔を再び悲痛なものへと変えていた。
「ごめんマミちゃん・・・デパートで俺達は君に助けられたのに、俺は君の事を・・・」
この悲しみは何度経験しても慣れない、いや、慣れてはいけないものなのだろう。
しばらくしてアキオもその場から静かに立ち去るのであった。
最近ようやくセブンスドラゴン二週目を始めましたがやはり二週目だと色々気付く事がありますね。ノーデンスウォッチとかそんなんプロローグ以降忘れてましたよw
ちなみに結局またアキオ達を作ってプレイしてます。