魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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今回訳あって16話と続けて連続投稿してます。
なので先にこっち来ちゃった人は前の話を読んでね!



第17話【見滝原の余所者】

 佐倉杏子は思った。今日は厄日だと。目の前にはブロンドの髪を左右で縛った少女のような魔女。後ろには使い魔ではないが味方でもない恐竜のような二体の化け物。そして挟まれた自分の懐には

 

「ぱぱあああぁぁ!!ぱあぱああぁ!!!」

 

 幼さ故に敏感に周囲の殺気を感じ取り、パニックになってしまった幼稚園児程の男の子がいた。

 

(ったく、どうしてこうなっちまったんだよ・・・ほんとツイてないね)

 

 何故このような状態になってしまったか。それを説明するには30分程時を遡る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さやか達から離れた場所で杏子は変身を解き、人混みに紛れた。

 

(ほんとむかつく!こっちは文字通り生きるためにやってるってのによ!世のため人のためってそんな甘っちょろい考えだから巴マミも死んじまったのさ)

 

 以前この街に来た際に出会った魔法少女、巴マミは杏子のグリーフシードのために使い魔を見逃すやり方を否定した。だが

 

(こっちの事情も知らねえくせに!)

 

 人には人の事情がある。杏子は生きるために魔法を使える状態を、グリーフシードを確保する必要があるのだ。そして更に言うなら杏子の利己的な言動には過去の出来事が起因している。

 

「くっそ・・・あんな奴に会うなんてツイてねえな。嫌な事思い出しちまったじゃんか!」

 

 そう言いながら普段着のパーカーのポケットからRockyと書かれた菓子箱を取りだし、入っていたチョコプレッツェルをボリボリと勢い良く食べ始めた。

 

 そうして菓子を食べ終わる頃には、いつの間にか人混みから離れ人気の無い公園に辿り着いていた。杏子はドカッとベンチに座り込み空を見上げながら考えた。

 

(どうすっかなあ・・・アイツらとまた出会うかも知んないけど、最近どういう訳か風見野で魔女に遭遇しないんだよな。グリーフシードも心許ないし)

 

 それは彼女の住む風見野市に魔女が現れないという訳では無い。

 

(魔女の反応を捉えても結界に辿り着く頃には既にその反応は消えてる。これが毎回同じ魔女の反応なら逃げるのが異様に上手い魔女って事で説明はつくが、そうでもない。別の魔法少女に先回りされてるとしても、風見野で魔法少女なんかと会った事ねえしな)

 

「そこの君!ちょっといいかな?」

 

 杏子の思考はそこで中断された。明らかに自分に向けられた声に振り向くと、そこには眼鏡を掛けた三十前半ぐらいの男性が両膝に手をついて肩を揺らしながら呼吸をしていた。その様子から何かがあった事が伺える。

 しかし杏子はその男性よりも別の事に気を取られた。

 

(魔女の気配!?かなり近いな・・・)

 

「この辺で三才くらいの男の子を見なかったかな?黄緑色のパーカー着てて、まだ上手く喋れないような」

 

「悪いけど見てないね」

 

「そうか、ありがとう!」

 

 男性は少し落胆したような顔をしながらも、すぐさま走り去った。

 実際杏子はそのような男の子など見ていない。見てはいないが心当たりはある。

 

「チッ、三才つったらまだ何も分かんねえガキじゃねーか・・・さすがに知っちまった以上目覚めが悪いしな。まっ、使い魔じゃなくて魔女なら放っておく理由はないよねえ?」

 

 誰に言うでもなく呟くと、杏子は立ち上がりソウルジェムの反応が示す方向へと歩き出した。

 そして一層強くソウルジェムが反応する場所まで来ると変身し、目の前にある空間の歪みを槍で切り裂いた。

 

 切り裂かれた入り口から結界の中に入る杏子。するとその中は巨大な玩具箱やクレヨン、積み木などまだ幼い子供の部屋を連想させる物が散乱し、それらの大きさ故に自然と迷路になっていた。

 だがその迷路で迷うのは普通の人間くらいで、杏子は魔法少女として優れた脚力でジャンプすると自分の背丈よりも高い玩具箱の上に軽々と乗った。

 

「さあて、例の子供が魔女に拐われたなら」

 

「うわあああん!!!」

 

 突如として聞こえた大きな声。その声の発生源は高所から結界内を見下ろす杏子にはすぐに分かった。自分がいる場所からそんなに離れていない、むしろ魔法少女である彼女にとってはすぐにでも着ける場所に小さな男の子と、それを黒塗りされたような光の無い真っ黒な目で見詰める魔女がいた。魔女は少女のような外見に反し4 メートル程はあろう巨人だった。

 

「ビンゴ!やっぱ一緒にいたか」

 

 槍を構え、脚にグッと力を入れる。あの魔女が男の子に手を伸ばすより早く、その手を抉り取れる自信が杏子にはあった。しかし杏子は気付いた。迷路を完全に無視して魔女に猛スピードで近付く存在に。

 

「んな!?何だよアレ!!」

 

 マズイ!

 

 その言葉が脳裏に浮かぶのと杏子の脚が動いたのは同時だった。

 

 一気に飛び出した杏子は僅か数秒で男の子の下まで来ると、その子を抱えて一気に横に跳んだ。魔女は突如現れた侵入者を見て一歩足を退くが、次の瞬間魔女の後ろにあった玩具箱が吹っ飛び、更なる侵入者の襲撃を受けた。

 

 それは青い甲殻を持つ四足の恐竜。大きさは人間よりは大きいが魔女よりは小さい。しかし勢いよく魔女に飛び掛かるとそのまま押し倒し、細かい牙が並んだ口で魔女の首筋に何度も噛み付いた。

 更にもう二匹遅れてやって来ると一匹は最初の恐竜と同じように魔女に噛み付き、もう一匹は杏子達の存在に気付き、こちらを伺うようにゆっくりと二人の周りを歩き出した。

 

「何がどうなってやがんだ?コイツら、魔女じゃねーのか?」

 

 突然の出来事に半ば混乱する杏子だが、それでも冷静に務めようとこちらを見詰めながら周る恐竜に死角を見せないように杏子もその場で回りながら頭を働かせる。

 

(まずこの結界の魔女は間違いなく今集られてる金髪だ。だがコイツらは使い魔でも無さそうだし、ゲームじゃないが他の魔法少女が呼び出した召喚獣とかか?)

 

 だが正体が分からなくても考えている時間は無い。ただ一つ杏子にも分かる事は、目の前の恐竜は自分達の事も獲物として認識しているという事なのだから。

 獲物の動きを観察するためゆっくりとその周囲を周る様は完全に狩人である。

 

 この状況の中、真っ先に動いたのは魔女だった。

 

「ウエアあああああ!!!!」

 

 耳を塞ぎそうになるほどの声量で鳴くと、下半身がプロペラ飛行機の使い魔の群れが飛んできて魔女に噛み付いている恐竜に対し落書きのような爆弾を投下した。

 突然の爆撃に恐竜は飛び退くが、上空から更に使い魔が追撃をかける。

 

 一方、先程の魔女の奇声には杏子も気を取られた。その隙は一瞬だが、彼女達を狙っていた恐竜はそれを見逃さなかった。

 一気に飛び掛かり両前足で杏子を押さえ込もうとするが、寸前で気付いた杏子が槍を横にしてそれを受け止めた。魔法少女でなければ反応出来たとしてもこの時点で体格差からくる重量に耐えきれず押し潰されていただろう。しかし本来なら杏子は受け止める必要など無く、避ける事は簡単に出来たはずなのだ。彼女がそうしなかったのは自分の側にいる男の子の為であった。

「チッ、おい逃げろガキンチョ!!」

 

「ふぇ?」

 

 何が起こっているか理解できず頼れる人間もいない中、突然そう言われても三才の男の子には動く事が出来ない。

 

「邪魔だ離れてろ!!」

 

 その強い口調で言われて状況を理解したのか、はたまたただ単に杏子が怖かったのか定かではないが男の子は泣きながら走り出した。

 

 それを確認した杏子は一度槍を持つ手に力を入れ一瞬だけ押し返すと、瞬時にその場から離脱する。文字通り足枷の無くなった前足は勢いよく地面を叩き付け陥没させた。

 恐るべき力だと杏子は舌を巻くが、しかし今は勢いよく両前足を地面に着けた事による隙が生じており杏子の次の攻撃を避ける事は出来ない。杏子は一度跳躍すると、落下の勢いを乗せながら槍を恐竜の額に向けて突き出した。

 

 その突きは鈍い金属音を鳴らし恐竜を弾き飛ばす。

 

「何だと!?」

 

 だがそれは杏子の望んだ結果ではなかった。本当なら今の攻撃で脳髄を突き貫くつもりでいたのだ。

 

「あの甲殻は伊達じゃねーって事か・・・」

 

 弾かれた恐竜は体勢を立て直すと、改めて杏子の方を向き歯を食いしばるような仕草を見せた。杏子がその様子を不審に思った次の瞬間、その口が開かれ火炎弾が発射された。

 

「!?」

 

 何とか反応して横に飛ぶが、足元を狙った火炎弾が地面に着弾するとナパーム弾のように燃焼物が飛散し杏子にも降り掛かった。

 

「つあっ!?」

 

 それも運悪くそれなりに大きな塊が杏子の右肩にぶつかった。幸いあまり粘性は無くそのまま体に付いて燃えるという事は無かったが、格好がノースリーブのため直に肌に触れてしまい真っ赤に火傷を起こしていた。反射的に右肩を押さえようとするが、逆に触れた瞬間に激痛が走り顔を歪める。

 獲物が弱ったのを確認した恐竜は再び口をグッと閉じてまた火炎弾の構えをとった。だが一度見た攻撃でやられる程杏子もやわでは無い。

 

 恐竜が口を開いた瞬間、普通の人間なら火炎弾の範囲から逃れようと逃げるだろう。しかし杏子は逆に恐竜に突っ込み、火炎弾を僅かに体を反らすだけでかわしてみせた。そして右肩に走る痛みを歯を食い縛りながら耐えて、まだ開かれたままの口内へ槍をぶち込んだ。

 

「へへっ、さすがにこっからなら通るよな?」

 

 口から槍を飲まされた恐竜は大人しくなり、びくんびくんと体を震わしている。そしてとどめと言わんばかりに杏子は更に槍を奥へとねじ込んだ。

 すると完全に恐竜は動かなくなり力無くその場に崩れ落ちると、その体はドロリと溶けだした。

 

「うぇ・・・ほんと何なんだコイツ」

 

 ズルリと槍を引き抜くと、先程逃がした男の子を探そうと振り返るが、杏子の目に映ったのは最悪の光景だった。

 

 男の子は必死になって逃げたのだろう。まだあまり上手く走れない足で必死に。それが功を奏して先程の火炎弾に巻き込まれる事は無かった。

 

 しかし、逃げた先には残りの恐竜と魔女がいた。

 

 恐竜と魔女、それぞれに挟まれる形となった男の子を見た瞬間杏子は走った。

 

(あたしのせいだ・・・まだあんな子供に周りの状況を確認しながら逃げるなんて出来る訳ねーじゃねーか!)

 

 杏子が辿り着いた時には恐竜は男の子ごと魔女を燃やそうと、魔女は使い魔に男の子ごと恐竜を爆撃させようとそれぞれが動いていた。

 

 杏子は男の子を抱えようと腕を伸ばそうとして、その際に感じた激痛に反射的に引っ込めてしまった。

 

「しまった・・・!」

 

「ぱぱあああぁぁ!!ぱあぱああぁ!!!」

 

(ったく、どうしてこうなっちまったんだよ・・・ほんとツイてないね)

 

 恐竜の口が開かれようとする。しかも今回は二匹同時、もう男の子を抱えては逃げ切れない。

 

 男の子を置いて逃げるか、それとも自分が盾になるか。

 

(駄目だ、わっかんねーよ。頭ん中真っ白ってこういう事言うんだな)

 

 正に絶望の縁。だが次に彼女の耳に入ったのはその身を焦がす炎の音でも、見捨てられた幼子の悲鳴でもなかった。

 

「私が代わりに!」

 

 幼さの割りに決意のこもった声。それが聞こえたと同時に自分達の前に人影が降り立った。

 直後に火炎弾がその人影に直撃した。

 

「な、なんだあ!?」

 

 突然の出来事に今度こそ頭の中が吹っ飛んだように呆然と目の前の暴煙を見詰める杏子。しかしそうしている間に今度は使い魔の群れがプロペラ飛行機に乗って迫って来ていた。

 

「残念、やらせないよ!」

 

 今度は女性の声が聞こえると、使い魔達は突如ぐったりし始めて爆弾を投下する事なく次々と落下していった。

 

「何がどうなってやがんだ?」

 

 すると目の前の煙の中から一人の少女が出てきた。

 

「えと・・・大丈夫?」

 

「いやいやアンタこそ大丈夫かよ」

 

 今確実に恐竜二匹の火炎弾が直撃した人物に心配をされるという珍妙な展開に思わずツッコミを入れてしまう杏子。その手もビシッと"なんでやねん"の形になっている。

 

 しかしその少女は着ていた丈の短いワンピースに少し煤が付いてる程度で本当に怪我などは見られない。

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 少女が「ほら」と確認させるように動くと羽織っているマント、薄紫の髪にクリーム色のメッシュが入った長髪と顔の左右から垂らした髪の先に結んだ宝石が揺れた。だが杏子としては無傷なのもそうだが、更に気になる事があった。

 

(猫耳・・・だよな?魔法で生やしてんのか?)

 

 そう、少女の頭には獣のような耳が生えていた。それも作り物には見えず、時々ピクリと動いてまでいた。

 

「イルカちゃん、その子怪我してるみたいだから治してあげて!」

 

 今度は背後から声がし、振り向くとそこにはメイドがいた。どこをどう見てもメイド、魔女結界にメイドという非日常+非日常の光景に自分が今どういう状況か忘れそうになる。

 どういう状況か・・・

 

「そうだ!そんな悠長にしてる状況じゃないよ!」

 

 しかし慌てて訴える杏子にメイド服を着た赤毛の女性はニコリと笑うと恐竜を指差した。

 それにつられて杏子も恐竜の方を見ると、なにやら必死に目を擦っている。そしてそれは魔女も同様だった。

 

 訳が分からないと言った様子の杏子を他所に、メイド服の女性は未だ泣き止まない男の子をそっと抱き締めて優しく頭を撫でた。

 

「怖かったねえ、もう大丈夫だよ」

 

 その聞く者を安心させるような声と、体を包む温もりに男の子も落ち着いたのか漸く泣き止んだ。

 

「まろかぁ?」

 

「まろかじゃないよ、お姉さんはあおいっていうの」

 

 一方杏子も、イルカと呼ばれた獣耳の少女の魔法によって火傷の治療を受けていた。

 

「悪いね、余所者の面倒見させちゃって」

 

「ううん、気にしないで。それに、余所者って言ったら私達もだし・・・」

 

(・・・そうか、確かあの得体の知れない黒髪がこの街に魔法少女は二人だけって言ってたっけ)

 

 すると男の子をあやしていたあおいがスッと立ち上がり、イルカの顔にも緊張が浮かぶ。それを見た杏子にも分かった。

 

 敵に掛けた術が解ける。

 

「ぼく、お名前は?」

 

「タツヤ!」

 

「そっか、タツヤ君か。じゃあタツヤ君、もう少しだけ我慢したらこの怖いのは無くなるから、それまで頑張ってね」

 

 そう言ってあおいは男の子、タツヤの頭を撫でるとイルカに向き直った。

 

「イルカちゃんはリトルドラグをお願い!二体だけど大丈夫?」

 

「うん、任せといて」

 

 その短いやり取りを終えるとイルカは腰から下げた鞘からエメラルドを加工したかのような美しい刀身の短剣を、あおいは空間に歪みを発生させるとおもむろにそこに手を突っ込み禍々しい大鎌を取り出した。

 イルカは恐竜・・・いや、リトルドラグを、あおいは魔女をそれぞれ睨む。

 

「ちょっと待ちなよ!」

 

 しかし今にも飛び出しそうな二人を杏子は止めた。

 

「あたしは何をすりゃ良いのさ?」

 

「あなたはタツヤ君の側にいてあげてくれないかな?」

 

「はあ?お守りかよ」

 

 納得がいかないといったように声をあげる杏子だが、そんな自分のコートが引っ張られるのを感じ視線を下に向けると、タツヤが杏子のコートの裾を掴みながら不安そうな表情で見上げてきていた。

 その光景は杏子にかつていた家族の姿を思い出させる。

 

「チッ、分かったよ。ただしあの魔女のグリーフシードはちゃんと使わせてくれよな」

 

「グリーフシード?まあ、いいよ」

 

 若干歯切れ悪く答えるあおいだが、再び魔女へと向ける顔は完全に戦闘モードだ。

 

 一方、あおいと杏子がやり取りをしている間に一足先にイルカはリトルドラグに向かって走り出した。

 リトルドラグも眼が治ったのか、一匹は正面から、もう一匹は横へと回り込むように動き始める。

 

 正面からのリトルドラグの飛び掛かりを横に飛んでかわし、着地と同時に短剣を構える。

 

「雷の刃!」

 

 その言葉と同時に刀身を指でなぞると、刃はバチバチとスパーク音を鳴らしながら放電し始めた。しかしそのまま斬りかからず更にステップで横にずれる。するとつい先程までイルカがいた場所をもう一匹のリトルドラグが押し潰した。

 二匹による連携をイルカは見切っていたのだ。

 

「はあっ!」

 

 そして今真横にいる二匹目の脇腹に短剣を突き刺すと、刃が纏う電撃によってリトルドラグは感電してガクガクと大きく震えた。

 

「なんだよアイツ、あの恐竜と戦い慣れてんのか?」

 

 杏子はイルカの戦いぶりにそのような感想を抱く。二匹の連携を見切っていたのもそうだし、攻撃する際も自分のように甲殻に弾かれる事なく比較的柔らかそうな脇腹を狙った。とても初見の動きとは思えなかったのだ。

 

 その頃、あおいは魔女と対峙していた。先程墜落した使い魔達は全身を切り刻まれたかのようにズタズタに裂かれ、消滅を始めている。

 

「さてと、あなたも化け物みたいだし、あんな小さい子を襲った報いを受けてもらうよ」

 

 あおいは大鎌を構え魔女に向かって跳ぶと、その刃を魔女の右肩に降り下ろした。

 

「アアアアァァッ!!!!」

 

 悲鳴をあげながら魔女は暴れるが、その抵抗とは逆に刃は魔女の皮膚を裂きズブズブと沈んでゆく。そして魔女の左手があおいを殴り付けようとしたところであおいは大鎌を抜き離脱した。

 魔女は流血する右肩を押さえるとその場で膝をついて痛みに唸り動かなくなってしまった。

 

「イルカちゃんにリトルドラグを任せて正解だったかな、やっぱ人の姿だとやり辛いわ。しかも子供の姿っていうのが尚更」

 

 そう言いながらあおいは大鎌をくるくると回し始める。

 

「だからさっさと終わらせるよ!」

 

 一層速く大鎌を回転させると魔女の傷口が更に切り裂かれたかのように開き、押さえていた左手の指も見えない力に切り刻まれてしまった。

 

「早いとこ終わらせてイルカちゃんの元に行かせてもらうよ」

 

 大鎌を引き摺りながらコツコツと歩いて行くあおい。その姿は先程タツヤをあやしていた天使のような姿と一変し、命を刈り取る死神のように見えた。

 

 そして魔女の元へと着くと、大きな魔女の首を切り落とすのに十分な大鎌を持ち上げる。そして狙いを定めるため視線を落とした時に気が付いた。自分の足元に先程杏子達を襲おうとしていたプロペラ飛行機と似たような落書きがあることに。

 

「まだ魔女を倒してねーのに油断してんじゃねー!!」

 

「!?」

 

 杏子の声が響いたのと使い魔達が落書きから実体化したのは同時だった。今度の使い魔の下半身はクレーン車。ワイヤーをあおいの足に絡ませ思いっきり後ろに引っ張った。

 一体ならともかく複数による奇襲には抗えずあおいはそのまま前から倒れてしまった。

 

「そんな、さっきの奴らだけじゃなかったの?いつの間に・・・」

 

 驚いている間にも残りの足、両手を四方から絡み取られてしまう。その様はまるで小説のガリバーのようだ。だがガリバーと違う点は、彼女よりも更に大きな魔女がいる事である。

 

「あおいさん!!」

 

 あおいの危機に気付いたイルカが叫ぶ。だが

 

「お前はそいつらの相手をしてろ!あたしが行く!」

 

 以外にも杏子が自ら助けに行くと申し出た。

 

「その代わりそいつらを絶対こっちに通すなよ」

 

「・・・分かった、守るのは得意だから!」

 

 そう言うとイルカは獣のように俊敏な動きで二体のリトルドラグを翻弄し始めた。一体はまだ先程の電撃で動きが鈍いとは言え、リトルドラグ自体もかなり素早い相手。そんな二体を捌くイルカの動きには思わず杏子も舌を巻いた。

 しかし今は見入っている場合ではない。

 

「タツヤっていったっけ、すぐ戻るからここでじっとしてろよ?」

 

 杏子はタツヤの頭を軽くぽんぽんと叩くと、一気にあおいに近付く魔女へと突っ込んだ。

 

「てめえも、あたしの事忘れてんじゃねー!」

 

 その勢いのまま突き出された槍は魔女の喉元を捕らえ、次の瞬間には魔女の首をはね飛ばした。そしてそのまま槍を魔法で伸ばすと鞭のように振るいあおいを拘束する使い魔を一掃した。

 

 あまりにも呆気ない幕切れ。魔女が倒された事によって結界が消滅しようとするが、そんな中リトルドラグは健在だった。

 

「マジか、やっぱ魔女の類いじゃねーのかよ!?つか、このままアイツらが結界から解放されたら洒落になんねーぞ!」

 

「その前に倒す!」

 

 起き上がったあおいはすぐさま駆け出し、杏子もそれを見て後に続いた。

 杏子の言う通りこのまま現実世界にあのような化け物が放たれたらどれ程の被害が出るか分かったものではない。

 

 駆け寄ってくる二人に気付いたイルカはあおいに向かって叫んだ。

 

「あおいさん!一匹は感電してるよ!」

 

「分かった、多分左かな?あなたはイルカちゃんともう一匹をやって」

 

「ああ!」

 

 あおいと杏子は二手に別れてそれぞれの標的へと向かって行く。

 

 あおいは動きの鈍いリトルドラグへと向け、先程魔女にしたように大鎌を回し始める。

 

「《魂のオラクル》!」

 

 次の瞬間、リトルドラグは見えない力によって全身を切り刻まれた。その姿はいつの間にか切り刻まれていた最初の使い魔達と同じである。

 そして崩れ落ちるリトルドラグの首に大鎌の刃を当てると、その頑強な甲殻をものともせずに斬り落とした。

 

 一方、既に半分近く結界が消滅している中杏子とイルカはまだまだ動き回るリトルドラグに手を焼いていた。イルカの動きもかなりのものだが、彼女には仕留めきるだけの力が無かったのだ。

 

「何とかして《エレキソード》を当てられれば・・・」

 

 もう片方のリトルドラグと同じようにエレキソードによる麻痺を狙うイルカだが、相手も仲間のやられた姿を見てイルカに対し隙を見せないでいた。

 

 そうこうしている間にとうとう結界が完全に消滅し、現実世界へと戻って来てしまった。突如一変した世界にリトルドラグは動揺したように辺りをキョロキョロと見回すが、それが運の尽きだった。

 

 ジャラジャラと音を鳴らしながら胴体に巻き付く物。それは多節棍となった杏子の槍だった。

 

「ひっくり返りやがれ!!」

 

 思いっきり槍を引くとその言葉通りリトルドラグは仰向けにされてしまった。周囲の変化に気をとられ踏ん張る事が出来なかったのだ。そしてその腹にイルカが電撃を纏った短剣を突き刺し、槍を再び連結させた杏子もそれに続き槍を突き刺した。

 しばらくびくびくと足を動かしていたが、やがて完全に動かなくなりその身体は溶け始めた。

 

「え、これは?」

 

 その光景に目を丸くして食い入るように見詰めるイルカ。その姿を見た杏子には疑問が浮かんだ。

 

「何だ?戦い慣れてるような気がしたけど初めてだった?さっき私もおんなじ奴倒したけどこんな風に溶けて無くなっちまったよ」

 

 しかしその杏子の言葉にイルカは首を横に振り否定する。

 

「違う・・・戦うのは初めてじゃないけど、倒したドラゴンがこんな風になるなんて」

 

「私が倒したリトルドラグも消えちゃったよ」

 

 呆然とするイルカに、タツヤを連れたあおいが歩いてきた。

 

「あおいさん!これってどういう事ですか?」

 

「それは私にも分からないかな。だけど今はそんな事より・・・」

 

「タツヤァー!!」

 

「パパ、パパだぁ!」

 

 遠くからタツヤのお父さん、杏子はこれで会うのが二回目となる人物が走って来た。

 

「タツヤ!良かった・・・」

 

「パパあぁぁ!」

 

 タツヤのお父さんは無事な姿を確認すると脱力したようにその場に座り込み、タツヤもあおいの側から離れお父さんに抱き付いた。

 

「すいません、ありがとうございます」

 

 息も絶え絶えになりながらもしっかり杏子達にお礼を言い、更にタツヤの頭を撫でている姿からお父さんの人柄の良さが伺える。

 そんなお父さんにあおいが返答を返した。

 

「いえ、タツヤ君野良犬に追いかけられちゃったみたいで、気が付いたら知らない場所だったらしいんです。だから私達でこの公園を探してたらこんな時間になっちゃってすいません」

 

 えへへと苦笑いしながら言うあおい。勿論真っ赤な嘘である。

 

「そうだったんですか!わざわざありがとうございます!」

 

 しかしこれでタツヤが勝手に何処かへ行ったと不条理に叱られる事は無いだろう。

 

「それじゃ僕達はこの辺で。ほらタツヤ、お姉ちゃん達にありがとうとバイバイ」

 

「うん!おねーちゃありがと!バイバイ!あおねーちゃバイバイ!」

 

「うん、バイバイタツヤ君」

 

 しばらく振り返りながらずっと手を振るタツヤを見送った後、あおいは近くのベンチに掛けてあった大きめのパーカーをイルカに手渡した。

 

「随分と懐かれてたね、あおいさん」

 

「う~ん、最初まろかって呼ばれたし、私のソックリさんでもいるのかな?」

 

 雑談をしながらイルカはパーカーを着るとフードを被った。大きめのサイズ故に、それは獣耳をすっぽりと包み隠す。

 それは再び杏子に疑問を与える。

 

「なあ、わざわざ隠すんなら魔法を解けばいいだろ?てかさ、いつまで魔法少女の姿でいんだよ」

 

「え?」

 

「魔法・・・少女?」

 

「「「え?」」」

 

 この時初めて杏子はこの二人と認識が噛み合ってない事に気が付いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、杏子は余計な事をしてくれたよ」

 

 杏子達三人の様子を伺っていたキュゥべえは呟いた。

 

「子供を助ける事が余計な事か」

 

 するとそれに答えるように別の人物も呟く。その声にキュゥべえは振り返り見上げると、そこには彼にとっても意外な人物がいた。

 

「まさか君の方から姿を見せてくれるとはね、アイオト」

 

 それはアキオ達の前から姿を消したアイオトだった。アイオトは見上げてくるキュゥべえを無視し、先程の親子が歩いて行った方を見詰めている。

 

「説明しろって事かい?彼は鹿目タツヤ、鹿目まどかの弟さ」

 

「それで?」

 

「まどかは君を含め周りの人間に契約をしないように言われているし、彼女自信ももう契約する意思は無い。だけど大切な弟が死んでしまったら、それらを振り払ってでも叶えたい願いはできるよね」

 

「汝はそのためにあのような小さき者を殺めようとしたのか」

 

「一応言っておくと僕は彼に対し殺意を持ってあの状況を作った訳じゃないよ。彼があの魔女に襲われたのは偶然だし、僕があの魔女を実験に使ったのも彼を殺そうとして選んだ訳じゃない。まあ実験で死亡率が上がるのは理解してたけどね」

 

「屑め。汝らには感情というものが無いらしいな」

 

 心底軽蔑したように言うアイオトだが、キュゥべえはそれを気にした様子を見せない。いや、実際気にしてないのだ。

 

「生憎とその通りだよアイオト。だけどそれについて君がとやかく言うのはお門違いなんじゃないかな?なにせ僕達が感情を無くしたのは君達ドラゴンのせいなんだから」

 

「ほう?」

 

「君達ドラゴンは感情を好む習性があるよね。僕達の母星に飛来したフォーマルハウトは一思いに滅ぼす事無く、敢えてじわりじわりと僕達を追い詰め絶望へと落としていった。だから僕達は母星を棄て、再び襲われないように感情をも捨てたのさ」

 

「フォーマルハウトか、あやつらしいな。だが感情を捨てるなどそのような事・・・」

 

「不思議な話ではないだろう?この地球でだって生き残るために自ら捕食者に対し不味くなろうという進化をした生き物がいるんだからね。これも生き残るための手段さ」

 

「・・・そうか、ならば汝らはドラゴンに勝つ事など出来ぬ。例え《ドラゴンクロニクル》を解析してもな」

 

 それを最後にキュゥべえに背を向け歩き出すアイオト。キュゥべえは感情の無い瞳でその姿をただ見詰めるだけだった。




前回と今回でこの話におけるキュゥべえの設定がだいぶ明らかにされました。さて、キュゥべえはドラゴンに対抗するため何を目指しているのか・・・

今回の問題発言
「フォーマルハウトか。あやつらしいな」
私はフォーマルハウトが出てくる2020Ⅱをやった事がありませんすいませんテキトー言いました

容姿&ボイス

ダイスケ
容姿:エージェント通常カラー
ボイス:F

あおい
容姿:ゴッドハンド通常カラー
ボイス:G

イルカ
容姿:フォーチュナー通常カラー
ボイス:O

ちなみにあおいとまどかの中の人は同じです。だからタツヤの発言は中の人ネタという作者にしか分からないネタ・・・
それを踏まえた上で今後も多分そういうまどかとあおいのネタ出てくるかも知れません

それと次の投稿は1ヶ月以上掛かるかもしれません。前書きに書いた"訳あって"が関係してるんですが、失踪はする気ないので、今後ともよろしくお願いします!
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