この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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あぁ、駄女神さま。編
第1話 かの種族を異世界に!


 

 気が付くと、真っ暗な場所に居た。何事かと辺りを見渡しても、ぽつんと置いてある二対の椅子以外は特に何も無い。

 最後の記憶は確か、課金しようと深夜にコンビニに行って……それで……。

 

 その先を思い出せずにいると、目の前の椅子に光が差し込んだ。

 すると、この世のものとは思えない程の絶世の美女が、ゆっくりと舞い降りてきた。優しげな顔つき、豊かな胸、露出度が高く布も薄そうな服。そして、美しい白の翼。

 まるで絵画の天使だ。

 

 その天使はこちらを見て、とても悲しげな顔で。

 

 

「田中英夫さん。貴方の日本での人生は、終わってしまいました」

 

 

 慈しむ様なとても優しい声音で、ハッキリと、俺の死を告げた。

 

 ……え? 

 

 

 ────────

 

 

 数分後。

 

 

「……すいません。取り乱して」

 

「いえ、お気になさらず。皆さんそうなられますから」

 

 

 天使さんは優しく微笑んで、俺の非を咎める事はしなかった。天使さんマジ天使。

 恥ずかしくて見せられないが、それはそれは醜く慌てた。リアルに「アイエエエ!? ナンデ!? 死亡ナンデ!?」となったのは初めての体験だ。死ぬのはじめてだから当たり前だけど。

 

 

「死因は?」

 

「不幸にも通り魔に刺され、出血多量で死んでしまいました」

 

 

 そのあたりの記憶は全くないのだが、自分が死ぬ瞬間なんて見たくも覚えていたくもない。おそらく、それを気遣ってくれた天使さんの配慮なのだろう。

 

 

「……さて、若くして亡くなった田中さんには、三つの道を選んで頂かなければなりません」

 

 

 天国に逝くか地獄に落ちるか、だろうか。いや、三つと言っているし、輪廻転生的なのもあるのかもしれない。そもそもこういうのは生前の行動によって決まるもんじゃないのか? 仮に好きなのを選べるってんなら、地獄なんて行かない奴がほとんどだと思うが。

 

 

「ではひとつずつ説明していきますね。まず一つ目は元いた世界、田中さんの場合は日本──地球ですね。そこに記憶を失って新しい人間として生まれ変わる。二つ目は肉体を失い魂として天国に行く。まぁ、天国は何もなくて、日向ぼっこくらいしかやる事がないのでつまらないですが……。最後は、元いた世界とは全く違う世界に記憶と肉体はそのままに転生する。といったラインナップになっております。……私見を述べさせて頂きますと、田中さんのような方には最後の選択肢がオススメかと」

 

「オススメの理由は?」

 

 

 何故わざわざ一番めんどくさそうなのを勧めてくるのか。なにか理由があるはずだ。

 

 

「田中さんはゲームやマンガが好きでしょうか?」

 

「人並みには」

 

「なら良かったです。私がオススメする世界、田中様からすればいわゆる異世界ですね。その異世界では魔法やスキル等が使え、モンスターと戦うことだって出来ます。勿論魔王だって居ます。ゲーム好きの田中様にはうってつけではないでしょうか?」

 

 

 そうニッコリと笑いかけてくる天使さん。その笑顔はとても美しいのだけれど、何か胡散臭い様な気がしてならない。このまま鵜呑みにして大丈夫なのだろうか。

 しかし、不安になりながらもゲームのように魔法やスキルを使ってモンスターと戦い、そしてあわよくば魔王を倒した英雄として名を残したい、と思ってしまっている自分が居るのも確かだ。

 生命がダメになるかならないかなんだ、やってみる価値ありますぜ! 

 

 

「じゃあせっかくですし、異世界でお願いします」

 

「ありがとうございます。……それでは決定されたようですので、もう少し詳しく説明させて頂きます。私がオススメした異世界には、先程言ったようにモンスターと魔王軍、魔王が居ます。当然魔王は世界征服を目論み、人々を蹂躙して行きます。そうして亡くなってしまった人々のほとんどが、その世界に転生したがらないのです。このままではその世界に子供が生まれなくなり、やがて人類は終わりを迎えてしまいます」

 

 

 世界にある魂の量は一定というよく物語とかでありそうなやつなのだろうか。ソウルソサエティ的な。なんにせよ、減ったぶんの釣り合いを取らないとダメらしい。

 

 

「そこで、別の世界で亡くなってしまった人々をその世界に転生させるのはどうか、という事になったのです」

 

 

 なるほど、体育の授業とかでチームの人数が足りなければ他チームから引っ張ってくるのと同じようなもんか。神様も大変だな。

 しかし、元いた人が殆ど戻りたがらない世界なんて、誰が行きたがるんだろう。いくら魔法と魔王のファンタジーに心踊ったとはいえ、出来れば恐ろしい目には遭いたくない。

 

 

「その話だけ聞いたらなんかその世界に転生する気が失せてきたんですが……」

 

 

 平和で便利な日本よりも過酷な環境で育った人達が揃って音を上げる世界なんて、日本でぬくぬくと育った俺が行ってもソッコー死ぬだけだ。折角のオススメを無下にしてしまうのは大変申し訳ないが、こればっかりは仕方ない。

 やっぱ無しで、と言おうと口を開くが、それを遮るように天使さんが説明を付け加えた。

 

 

「安心してください。貴重な人材をそのまま送るなんて馬鹿な真似は致しません。その世界の言語と文字を自動的に習得させた上に、一つ、何かを一つだけ、何でも一つだけ持っていける権利を差し上げています。本当に何でも構いません。使い切れないほどの大金ですとか、全てを断ち切る剣や、世界一の才能を持って行く事も可能です。田中様の一つ前の転生者様は、それまでこの仕事を担当していた女神様を連れて行きましたから」

 

 

 女神連れてくとかアリなの? 女神って言うとめちゃくちゃ美女で、優しくて、慈愛に溢れてて、おっぱいデカくて、魔王を足止めしたり、勇者を支援したりするアレだろ? そんなのめちゃくちゃ強くないか? 

 

 ……本当になんでも、なんでもか。それなら行ってみるのも吝かではない。しかし、いざそうなるとなにも思い浮かばない。何か参考になるものが欲しい。

 

 

「目録みたいなのありませんか?」

 

「ございますよ。こちらをどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 天使さんが手をかざすと、どこからともなく分厚い本が現れた。

 不思議な力に興味を持ちながらも、パラパラと目録に目を通していく。エクスカリバー、グングニル、ミョルニル、その他諸々。

 ゲームや漫画で散々使った武器を実際に使えるというのだからテンションは上がる。

 

 

「へへへ……なんにしようかね」

 

 

 心踊りながら目録を見ていくと、はたとページを捲る手が止まる。

 待てよ? 俺の前にも、何十人何百人、下手すりゃもっと転生者が送られているはずだ。それなのに、なぜ魔王がまだ倒されていない。生半可な強さでは、魔王には太刀打ち出来無いんじゃないか? それに、俺の精神的な問題として、最初から最強になると天狗になってしまいそうだ。貰うなら最初から最強なやつじゃなく、鍛えて徐々に最強になるやつがいい。

 そう思い直し、再び目を通していくと一つだけ、気になるもの……というより異質なものが目に入った。

 

 

「種族チェンジ……? なんだこれ」

 

 

 それは、特殊な才能でも武器でもないのに、目録に書いてあった。字面からして種族を変えるのはわかるが、他のと比べるとあまり役に立ちそうにない。

 すると、俺の呟きを聞いていた天使さんが疑問に答えてくれた。

 

 

「あぁ、それはですね、文字通り種族を変更するんですよ。田中様は今は分類的にはヒューマンですが、エルフや獣人といった亜人などに転生の際になれるというものです。しかしほかの特典と比べて恩恵が少ないので、今までに選んだ人はいません」

 

 

 やっぱりか。長生きしたいならエルフも良さそうだけど、長生きしたいわけでもないし、ケモ耳になりたい訳でもない。

 これもなし、とページを捲ろうとするが、ある一つの考えが浮かんだ。

 もしこれが出来ればマジで最強になれるし、最初から最強って訳でもない。鍛えて最強になるタイプだ。希望とがっちり合うし、なによりその種族になりたい。

 

 

「あの、これって想像上、というか実在しないものにもなれたりするんですか?」

 

 

 天使さんにおそるおそるといったように聞いてみる。というかそうじゃないと困る。俺の中にある最強のイメージは、いくつか揺らぎもしてきたが、結局のところ最強議論が行き着くのは彼らだ。

 幼い頃から憧れたその種族になれるチャンスに、心が震えた。

 

 

「一応可能です。しかしその場合純粋種ではなく、混血になってしまいますが」

 

 それを聞いて、思わずガッツポーズをしてしまう。テンションだって最高潮だ。幼い頃から憧れた種族に、自分がなれるというのだ。テンションが上がらない方がおかしい。それに、あの種族は地球人との混血ならより強いとか聞いたことがある。

 

 

「決まりました! この種族変更でお願いします!」

 

 

 天使さんに決定の旨を伝え、勢いよく椅子から立ち上がる。

 オラ、ワクワクすっぞ!! 

 

 

「承りました。それでは、どのような種族に変更なさいますか?」

 

 

 天使さんがやっと決めたか、みたいな目をしてる気がしないでもないが、今はそれすらどうでもいい。

 ワクワクする気持ちを抑えながら、声が上ずらないように深呼吸し、大きな声でハッキリと天使さんに聞こえるように伝える。

 

 

「ドラゴンボールの、サイヤ人でお願いします!!」

 

「サイヤ人……ですね。はい、承りました。では準備が完了しましたので、そこの円の真ん中に立ってください」

 

 

 天使さんに促され、何やらよく分からない模様が刻まれた円の中心に立つ。これがマジックサークルとか、魔法陣とかいうやつか。

 天使さんは中心に立ったのを確認すると、何やらブツブツと唱え、そして口上を述べ始めた。すると魔法陣が光り、不思議な力が俺の身体を浮かびあがらせはじめた。

 

 

「さあ、勇者よ! 願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っています! 魔王を倒した暁には、あなたの望みを一つだけ叶えて差し上げます! ……さぁ、今こそ旅立ちなさい!」

 

 

 天使さんに優しい笑顔で見送られ、異世界へと旅立った──!! 

 

 

 

 

 


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