第十六話
カエル討伐終了。
アクアが例の如く突っ込んで丸呑みされたり不死王拳を使った俺の打撃ならカエルに効くことがわかったりしたが、特に問題もなくクエストは終わった。
ちなみに、報酬の大半は天引きされた。
許せん。
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時間はいつだろうか。辺りを見回すが、特に何も無い。
だが、どこか見覚えのあるその場所に、俺は、俺達は座っていた。
「佐藤和真さん。田中英夫さん。あなた達のこの世界での人生は終わってしまったのです」
女神エリスと名乗ったその人は、優しい顔でしっかりと俺とヒデオの死を告げた。
どうやら俺達はまた死んだらしい。
そう思った瞬間、目から熱いものが流れた。
「カズマ…お前…」
俺はかねてからろくでもないと思っていた世界が、案外気に入っていたらしい。
そう思いつつ、死ぬまでの経過を振り返る。
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季節は流れ、本を読んでご飯を食べて運動をする季節もほとんど終わり、ほぼ冬である。夜は真冬の気温にも匹敵する寒さを凌ぐため、本来ならば冒険者は宿や家屋などを借り、凍死の心配をせずに過ごすのだが、俺達パーティーはそんな余裕が無い。
「金が欲しい…!」
「何言ってんのカズマ?そんなの誰だって欲しいに決まってるじゃない」
俺の言葉に金が欲しい元凶の女神が話しかけてきた。こいつよくものうのうと…!
「それはそうだがアクア。この状況をよく考えろ。他の冒険者は凍死する心配なく宿でグースカ寝れる。その点俺達はどうだ?寝るのに恐怖すら覚える始末だ。つまり金が欲しいんだよ」
ヒデオも同じ理由で金を欲しがっている。そりゃそうだ。何が悲しくて毎朝まつげを凍らせにゃならんのだ。もう真冬も真近に迫ってきて、雑魚モンスターは殆ど冬眠してしまっている。お馴染みジャイアントトードも例に漏れず冬眠の時期だ。なので必然的に強いモンスターのクエストしか残っていない。
「ヒデオまで…。そんなの私だって欲しいわよ。それより女神たる私をこんな状況に追いやって従者として恥ずかしくないの?わかったら、もっと私を甘やかして。贅沢させて。褒めて褒めちぎって甘やかして楽させてよ!!」
バンッ!と机を叩き立ち上がるアクアに、俺は視線を向けて一言。
「借金だよ」
その一言にアクアは言葉を詰まらせ、気まずそうに目を逸らす。だが俺はそのまま続ける。
「お前が作った借金のせいで、ろくに金も貯めらんねぇ!毎回のクエストから殆どが天引きされていくんだぞ!?今朝なんてまつげが凍ってたんだぞ!冬に入ったら確実に死ぬ!なんだよ、異世界に来て死因が凍死って!そんなに褒めて欲しいなら報酬も手柄も借金も、全部お前のもんな!よしヒデオ、借金はこいつひとりが払うらしいから、なんかクエスト行こうぜ」
「そうだな」
そう言いヒデオと共にその場を去ろうとするが、案の定アクアが泣きついてくる。
「わぁぁ!待って!ごめんなさい!!謝るから!!それだけはやめてぇ!!見捨てないでぇぇ!ウワァァァン!!」
「あぁもうなんだよもう!!この構ってちゃんが!」
「金がないしアクアはウザいしイラつくのはわかるが落ち着けカズマ」
ヒデオに諌められ、少し落ち着きを取り戻す。そうだよな。いくらこの駄女神のせいで借金地獄の極貧生活を送ってるからって当たるのは良くないよな。そう思い俺は机に付してずんずん泣いてるアクアの方を見る。するとアクアがチラチラとこちらを見てきている。嘘泣きか。なんかまた腹立ってきた。
そんな俺達に掲示板を見に行っていたダクネスとめぐみんが声をかけてくる。
「まったく。相変わらず朝から騒がしいなお前達は」
「カズマはまたアクアをボロカスに泣かせているのですか?流石に可哀想になってきたんですが…」
「めぐみん、こいつ嘘泣きしてるからあんまり甘やかすような事は言うな。また調子に乗って今度は本当に泣かす事になる」
「そんな事より二人とも。なんかいい感じのクエストあったか?」
ヒデオが話題を変えて二人に問う。
「どれもこれも高難易度のものばかりだったな。まぁ私は全然構わないのだが」
「もう消去法で比較的マシなのを選びませんか?ヒデオの俊敏さと私の爆裂魔法があれば強いモンスターも討伐できると思うのですが」
「それ下手したら俺が死ぬパターンのやつじゃねぇか」
ヒデオがそう言うが、本当にそうするのも視野に入れている。なんやかんやで死ななそうだしこいつ。
「んー。もっかい見に行くかー」
そう言い掲示板の方へ歩いて行く。当然みんなもついて来る。
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掲示板。
「どれどれ…。うわ。本気でろくなクエストがないな…」
「白狼の群れの討伐、一撃熊の討伐又は撃退した、マンティコアとグリフォンが手を組んだので討伐…。この中だと一撃熊が一番マシか?いや、1頭とは限らんしなー」
そんなことを言いつつ掲示板を見て行く。すると目を引くものがあった。
「機動要塞デストロイヤー接近につき、偵察募集?デストロイヤーってなんだ?」
「えげつない名前だな。動く要塞ってことか?結構賞金も高いし、やばそうな相手だな」
「あれ?カズマとヒデオは知らないのですか?デストロイヤーと言えば、大きくてワシャワシャ高速移動してすべてを蹂躙する、妙に子供の人気があるやつです」
「なるほど。わからん」
ヒデオの言う通り全く持ってわからん。とりあえずめぐみんの言うことを聞き流し、ほかのクエストを見て回る。
少しするとヒデオがある依頼書を指差し、
「おいカズマ、見ろよこれ。雪精討伐だってよ。名前からして弱そうだし1匹十万エリス。これにしねーか?」
「1匹十万か…。なぁ、雪精ってなんだ?ヒデオの言う通りあんまり強くなさそうなんだが」
「雪精はとても弱いモンスターです。雪深い雪原にいると言われ、簡単に討伐できます。ですが…」
めぐみんの言葉に、ヒデオは即座に依頼書を剥がす。仕事が早い。
「雪精の討伐?雪精は特に人に害をなすモンスターじゃないけど、一匹倒す事に春が半日早く来ると言われているわ。それ請けるなら、準備してくるわね」
そう言いアクアはどこかに向かう。めぐみんも文句はなさそうだ。強いモンスターが良い!とか言いそうなダクネスの方を見る。
「雪精か…」
ダクネスは何故か嬉しそうにそう呟いた。
そんなダクネスの言葉に違和感を覚えながらも、防寒着の準備をしアクアを待ち、雪精討伐へ出発した。
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街から離れた雪原。
「なぁアクア。さっきから思ってたんだがなんだその格好。季節わかってんのか?冬だぞ?セミ取りに行く子供か?寒さで頭がやられたのか?」
カズマはアクアの格好に若干の不安と疑問を覚えたようだ。まぁ確かに討伐する格好にしてはちょっと変だ。
「あんたいい加減罰を当てるわよ。雪精を捕まえてこの小瓶の中に入れておくの。それで箱の中にでも飲み物と入れておけばいつでもキンキンに冷えた飲み物が飲めるって考えよ!」
知能が低い割にこういうのには頭が回るんだよな。まぁオチが読めそうだが。
「ダクネスの鎧はまだ修理中か。お前クルセイダーなのにそんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない。雪精はすばしっこいからな。鎧を着ていては追いかけることすらままならん。それに、少し寒いがそれもまた我慢大会みたいで…」
そう言い身体をよじらせるダクネス。装備的には大丈夫らしいが頭の方は大丈夫じゃないようだ。
「じゃ、始めるか」
カズマの号令で雪精討伐が始まった。
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情報通り、雪精はとても弱かった。だがとてもすばしっこかった。報酬十万だしこれくらいは当たり前か?そう思いつつ辺りを見回す。
「3匹目!」
カズマが雪精を追いかけ回し、剣を振り下ろす。他のみんなも同じようにしていた。
「4匹目捕まえたわ!」
アクアも順調に虫取りアミで捕まえているようだ。
ただボーッと見ていると、カズマが話しかけてきた。
「どうした?ヒデオ。お前も虫取り網にすれば良かったとか考えてるのか?それか、討伐数が振るわなかったらアクアの捕まえたやつを討伐しようとかか?」
「いや、ちょっとした小休止だ。それよりカズマ。アクアの捕まえた奴に手をだそうとするなよ?どうせアイツ泣くから」
「だよなぁ…。ところでヒデオ、お前何匹倒した?」
カズマが聞いてきたので、冒険者カードを見せる。
「どれどれ…。はぁ!?20匹!?お前どんだけ倒すの上手いんだよ!コツとかあんのか?」
カズマそう言ってきたので、俺はある程度雪精がいる方向に手をかざし、衝撃波弱めで気功波を放つ。
ジュッ。そんな音が複数聞こえ、冒険者カードに数が加算される。
「見ての通りだ。すばしっこいと言っても俺の身体能力なら普通に回り込めるしそもそも追いかける必要も無い。気功波撃てばいいだけだからな。でも簡単すぎて若干飽きてきた」
「あー…。まぁ我慢してどんどん討伐してくれ。冬を越すために金が必要なんだ」
「了解。リーダー」
少々うんざりしながらも俺は雪精を討伐しまくった。
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めぐみんが面倒だからと爆裂魔法で地面ごと雪精を吹き飛ばす。白かった地面は茶色に変わる。
スゲーなーとヒデオと共に驚いていると、唐突に強風が吹いてきた。するとダクネスがワクワクした表情で剣を構えた。
「なんだ?ダクネスの様子を見るに、なんか来るのか?」
「嫌な予感しかしない…」
そんな会話をする俺達に、アクアが話しかけてきた。
「ヒデオもカズマも、日本に住んでいたなら聞いたことくらいはあるわよね?雪精達の主にして、冬の風物詩とも言われている…」
どうやら嫌な予感は当たったようだ。めぐみんを見るとうつ伏せのまま死んだふりをしている。後で踏んでやろう。
「冬将軍の到来よ!」
「バカか!この世界の奴らは、人も食い物もモンスターも、みんな揃って大バカだ!」
全身を白く染め上げ戦国武将のような格好をした冬将軍と呼ばれるそれは、俺が叫ぶと同時に刀を抜き襲いかかってきた!
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冬将軍は殺気と存在感を放ちながら、刀を構える。そして白刃を煌めかせ、一番近くにいたダクネスに斬りかかった。
「くっ!」
ダクネスが冬将軍の一撃を大剣で受け止めようとするが、キンッと音を立て、ベルディアの剣戟をもしのいだ大剣はあっけなく真ん中でへし折られた。
「ああっ!?私の剣が!」
アクアがダクネスと冬将軍から距離をとり話し始めた。
「冬将軍。国から高額賞金をかけられている特別指定モンスターの一体よ。冬将軍は冬の精霊。精霊は出会った人の思念により実体化するの。けど、冬に外を出歩くの日本から来たチート持ちくらいだから…」
アクアの説明を、俺と共に剣を構えダクネスの隣に立つカズマが遮る。
「つまりコイツは、日本から来たアホが冬といえば冬将軍みたいな感じで連想したから生まれたのか!?なんて余計なことをしてくれたんだ!そもそも冬の精霊なんてどうやって戦えばいいんだよ!」
精霊が実体化したというくらいなのだから下手な攻撃は通用しないだろう。それにしても気の大きさがやばい。下手したらウィズ並かそれ以上だ。
俺達がかなり焦っていると、アクアはせっかく捕まえた雪精を解放しだした。
「二人とも聞きなさい!冬将軍は寛大よ!きちんと礼を尽くせば見逃してくれるわ!」
アクアはそう言って、素早くひれ伏し頭を地面に近づけた。
「土下座よ!みんなも土下座をするの!早く!」
アクアの土下座はそれはそれは見事なものだった。
「なぁカズマ。アイツって元何だっけ」
「一応だが女神だな。プライドはどっかに捨ててきたらしいが」
何の迷いも葛藤もなく素早く土下座をするアクアと、さっきからずっと倒れ伏したままピクリとも動かず死んだふりをしているめぐみんにはいっそ清々しささえ感じられた。
冬将軍は、頭を下げた二人に興味はないのか、俺達の方を向く。カズマも慌てて土下座をしようとするが、ダクネスは未だ突っ立ったままでいる。
「おいなにやってんだダクネス!早く頭を下げろ!」
ダクネスは悔しそうに折られた大剣を見つめながら言う。
「私にだってクルセイダーとしてのプライドがある!モンスターに頭を下げるなど…!」
そう言うダクネスの頭を無理やり俺とカズマで下げさせる。何でこいつはマジで危険な状況に限って変なプライドを見せるんだ。カズマも同じことを思っているようで、
「普段はホイホイモンスターに付いていこうとするくせにこんな時だけ下らんプライドを見せるな!」
「くっ!二人がかりで無理やり頭を下げさせられるなど、どんな御褒美だ!あぁ、雪がちべたい…」
頭を地面に押し付けられているダクネスは頬を紅く染める。この変態は置いといて俺も頭を下げねーと。
頭を下げようとするとアクアが叫ぶ。
「二人とも!武器!武器を捨てなさい!」
俺達は慌てて武器を捨てた。カズマは慌てたのか、頭が地面から離れてしまっている。嫌な予感がする…!
「カズマ!頭を上げるな!」
俺はそう叫ぶ。冬将軍は居合の構えをしている。冬将軍が刀に手を触れたかと思うと…
スッ。
そんな音が聞こえ、後からチンという音が聞こえる。刀を鞘に収めた音だ。速すぎてほとんど見えなかった。
ザッ。何が地面に落ちる音が聞こえた。
瞬間、俺は冬将軍から距離を取り気を開放。そして不死王拳を使う。
「2倍じゃ足りねぇ…!4倍…、いや、6倍だー!!」
間違いなく過去最高の気を放出する。周りの雪が溶ける。身体がビキビキと音を立てているが気にしている時間はない。
「ばっ…!やめなさいヒデオ!」
アクアがそう言うが、もう遅い。怒りで我を忘れかけている。
「この野郎ッ!よくもカズマを!!」
そう叫び剣を携え突撃する。冬将軍に向かって振り下ろすが、軽くいなされる。さらに安物の長剣は冬将軍の一撃であっけなく折られた。このままだと斬られるので超速で退る。ビキッ。また体が変な音をたてる。気にしている暇はない。
「だだだだだだだっ!!」
フルパワーで気弾を放つ。それも数十発。
しかし、冬将軍は未だ健在。俺の方を見たかと思うと、一瞬で距離を詰め刀を振り下ろす。
それを俺は辛うじて右に避ける。ビキキッ
ザン。
即死には至らなかったが、左腕が斬り落とされてしまう。だが痛みは少ない。アドレナリンが出まくっているのだろう。だが腕を失ったことを気にしている暇はない。早くしないとこのまま出血多量で死んでしまう。
「関係あるか!か、め、は、め…!!!」
残った右手に全ての気を集中させる。これを撃てば気を使いすぎて俺は恐らく死ぬ。だが関係ない。もう後戻りは出来ないのだから。
冬将軍は再び距離を詰め、今度は横薙ぎに刀を振るい、俺を横に両断する。しかし、冬将軍が斬ったソレはスーッと消える
残像である。
残像を囮にし冬将軍の真上にジャンプしていた俺は、そのままかめはめ波を放つ。
パキン。何かが壊れる音がした。だが関係ない。
「消えろ!!波ァァーーー!!!」
ズドォォォォォン!!
そんな轟音が辺りに響き渡る。
間違いなく直撃した筈だが、地面に着地し冬将軍の生死を確認する前に、俺の意識は途切れた。
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完全に思い出した。どうやらカズマも思い出したようだ。
そんな俺達に女神様が声をかける。
「あの…。大丈夫ですか?」
「あっ…。すみません。取り乱しちゃって」
謝るカズマだが、エリスと名乗った女神様は慈愛に満ちた表情で首を振ると、
「何も恥じることではありません。大切な命を失ってしまったのですから」
そんな優しい事を言うエリス様に、カズマが問う。
「あの、俺達を斬ったあのモンスター、どうなりました?」
確かにそれは俺も気になる。あの時はカズマが殺された事で取り乱し怒ったが、今は落ち着いている。果たして一矢報いることは出来たのだろうか。
「田中英夫さんの捨て身の一撃でダメージは負いましたが、貴方がたを斬った後は消えてしまったようです」
一応ダメージを与えた様だが、命をかけた一撃でも倒せないってどういう事だよ。俺が悔しそうな顔をしていると、
「ヒデオ、お前冬将軍と戦ったのか?普段は冷静であんまり危険な事をしないお前が?」
「いや、その、アレだ。うん」
カズマが殺された怒りで我を忘れかけたから、など本人に言えるはずもなく、取り敢えず誤魔化す。
「アレってなんだよ…。まぁいいか」
そんな会話をする俺達にエリス様が声をかける。
「佐藤和真さん。田中英夫さん。せっかく平和な日本からこの世界に来てくれたのに、このような事になり申し訳ありません。せめて私の力で、次は平和な日本で裕福な家庭に生まれ、何不自由なく暮らせるように、転生させてあげましょう」
そう言えば死んだら記憶なくして赤ちゃんが何も無い天国に行くかだけだったな。にしてもまたあの労働がすべての世界に戻るのか。ちょっとやだなー。
俺がそんなことを考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
《さあ帰ってきなさい二人共!こんな所で何あっさり殺されてんの!私と一緒に魔王を倒すんでしょ!》
アクアの声だった。
「ちょ、なんだ!?」
カズマは突然響いてきたアクアの声に戸惑っている。このいる場所が狭いのか反響しまくってんなー。うるせぇ。
俺がそんなことを思っていると、エリス様が声を上げて慌てだした。
「えっ!?この声、アクア先輩!?随分先輩に似てるなーって思ってたけど、まさか本物!?」
そんなエリス様の声は聞こえていないのか、アクアが続ける。
《ちょっと二人とも、聞こえる?あんたらの体に、『リザレクション』かけたから、もうこっちに帰ってこれるわよ!あんたらの目の前の女神にこっちへの門を出してもらいなさい》
おぉ!アクアのヤツ、たまにはいいことするじゃねーか!カズマもそう思ってるようで、かなり喜んでいる。
「おし!待ってろアクア!今そっちに帰るからな!」
「やったなカズマ!これでまた冒険出来るぞ!」
喜ぶ俺達に、エリス様が慌てて言う。
「ちょ、ちょっと待ってください!ダメですダメです!一度生き返った人は天界規定により、これ以上の蘇生は出来ません!そうアクア先輩に伝えてくれませんか?」
規定ってなんだよ規定って。ドラゴンボールでも最終的には何回でも生き返ってたじゃねーか。それくらい許してくれよ。
「おいアクア!聞こえるか!?なんか、天界規定とやらで、俺達もう生き返れないんだってよー!」
カズマが虚空に向かってそう叫ぶ。
すると一瞬静かになり、
《はぁー!?誰よそんな頭の固い事言ってる馬鹿な女神は!ちょっとアンタ名乗りなさいよ!こんな辺境担当の女神が、日本担当のエリートな私にどんな口きいてんのよ!!》
アクアがそんなチンピラじみたことを言う。その言葉にエリス様はとても顔をひきつらせている。
「えっと、エリスって女神様なんけども…」
カズマがそう言うと、アクアは素っ頓狂な声を上げ、
《はぁ?エリス?この世界で国教として崇拝されるからって調子に乗ってお金の単位にまでなった上げ底エリス!?ちょっと二人共、それ以上その子がゴタゴタ言うなら、その胸パッド取り上げ》
「わぁぁぁ!!わかりました!わかりましたから!特例で認めますから!今門を開けます!」
アクアの暴露を遮り、エリス様は顔を赤くして指をパチンと鳴らす。それにしても、パッドなんだな。
「さぁ、これで現世と繋がりました。まったく、こんな事は普通ないですよ?お二人共、この事は、内緒ですよ?」
おちゃめにウインクをして囁く。俺達はそれを見て苦笑を浮かべると、門を押し開けた。
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声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。爆裂魔法が好きそうな声だなーっと思っていると、段々と意識が覚醒してくる。
「カズマ!ヒデオ!起きてください!」
俺とヒデオに縋り泣くめぐみんの声。
左側に気配がある。どうやらヒデオと並んで寝転がっているようだ。まだ雪原にいるようで、背中が冷たい。しかし、後頭部は温かく柔らかい。目を開けると、俺を見下ろすアクアと目が合う。膝枕してくれていたようだ。
「あ、気がついた?まったく、あの子は頭固いんだから」
「おぉ、気がついたか二人とも。良かった…」
「ん…。あぁ」
隣からヒデオとダクネスの声が聞こえる。ヒデオはダクネスに膝枕されているようだ。
めぐみんが意識を取り戻した俺達に気付き、抱き締めてくる。
生き返ったことを喜んでくれるのは嬉しいが、なんか恥ずかしいな。
「…どうしたアクア。ニヤニヤして」
「ねぇカズマ。照れてないでなんか言いなさいよ。私たちになにか言うことあるでしょう?」
無性に腹が立つ笑顔を浮かべ、アクアがそんなことを言ってくる。そんなアクアに俺は一言。
「あ、チェンジで」
「上等よこのクソニート!そんなにあの子のところへ行きたいならすぐ送ってやるわ!」
アクアが俺を押さえつけ殴ろうとしてくる。
「や、やめろ!生き返りたてほやほやの人間は労われ!」
そんなアクアをダクネスがなんとか落ち着かせ、俺は体を確かめながら起き上がる。
「具合は大丈夫ですか?どこか悪いところは?」
めぐみんが心配そうに聞いてくる。特には異常は見当たらない。
「一応大丈夫っぽい。そう言えば、俺とヒデオはどうやって殺されたんだ?」
そんな俺にヒデオが言う。
「お前あのバケモンに首チョンパされたんだよ。んで俺は多分出血多量&気の使いすぎと不死王拳の上限オーバーで死んだ」
「首ちょ…!」
思わず絶句し、自然と首筋をなでる。
傷跡とかは残っていないが、それでも首をはねられ殺されたという事実に背筋が凍る。
「それにしても、ヒデオがあんなに怒るなんてねー」
「ちょ、それは言うな。俺もどうかしてたんだ」
アクアがヒデオをからかう。なるほど、ヒデオは俺が殺されて怒ってくれたのか。なんか照れくさいな。
照れて頬をかいている俺に、ヒデオが話しかけてくる。
「なぁカズマ。クエスト、どうする?」
そんなのはもう決まっている。この世界の冬は、強い者のみが活動を許される過酷な季節。俺達のような駆け出しが踏み入っていい場所ではないのだ。
俺は一言。
「撤収」
雪精討伐、リタイア。
・コンバットマスター
この作品の主人公(仮)、ヒデオの職業。己の肉体で戦う脳筋系上級職。一応剣術も覚える事が出来る。同じ系統の下級職にファイターというものがある。割と融通が効く職。
・気功術
ヒデオの冒険者カードに何故かデフォルトで存在したスキル。気功波やかめはめ波など、ドラゴンボールっぽい事なら何でも出来る。クラスが冒険者なら覚えることが可能だが、性質上かなりポイントを食うのでオールマイティなカズマには向いていない。スキルポイントを割りふる度にレベルが上がり、新しい技が覚えられる。
・気功波
気功術の基本中の基本。体にある気をそのまま放出する。溜め撃ちが可能。最小威力で着弾点が燃える。衝撃波強め、などの設定ができる。
・気弾
これまた気功術の基本中の基本。体にある気を圧縮し放出する。こちらも溜め撃ち可能。連射も可能。着弾点が爆発する。
・気の開放
文字通り体の気を開放し色々と強くなる技。疲労が早くなる。ヒデオの気の色は黄色。
・かめはめ波
ご存知かめはめ波である。気を圧縮、増幅し放つ技。気弾や気功波等とは比べ物にならない性能を持つ。不死王拳2倍時のヒデオのかめはめ波で、魔王の加護を受けたベルディアの鎧を砕く威力がある。爆裂魔法には劣る。上位互換に超かめはめ波がある。
・舞空術
初期は鶴仙流の奴らが使っていた恐らくドラゴンボール史上一番頻繁に使われている技。結構な速度で飛べるが、使用者が貧弱すぎると風圧とか色々なものに耐えれない。
・気の感知
殆ど敵感知と同じだが、相手の力量や体力などを気の残量により計ることが出来る。便利。
・ファイナルエクスプロージョン
某王子が某魔人を倒すために命を投げ打って発動した技。恐らく爆裂魔法より強い。だが死ぬ。
『さらばだ。ブルマ、トランクス。そして、カカロット』
・おっぱい星人
クリスがヒデオに抱いた最初の印象。ないよりはある方が良い派だが、結局は顔。
・徒手空拳
格闘技全般が使えるようになるスキル。合気道からボクシング、果てはコマンドサンボまで幅広く取り揃えております。
・不死王拳
アンデッドというかリッチーのスキル。不死王拳はヒデオが名付けた。界王拳の下手したら死ぬバージョン。気の色が赤紫っぽくなる。倍率を上げると段々と濃く禍々しくなっていく。上限を超えると身体がえらいことになる。全能力が飛躍的に向上するが、その分疲労や苦痛、魔力などの消費量なども同じだけ上がる。まさに諸刃ブレード。ヒデオ(ベルディア討伐時)は2倍まで耐える事が出来る。2倍以上も発動は出来るが多分死ぬ。