この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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第2話 この転生者に同郷を!

 眩い光が収まり、目を開けると、辺りには日本とは違う街並みが広がっていた。人々も現代人とは違う外見をしていて、エルフだったり、獣人だったり、鎧姿だったりと、本当にゲームの世界に来たみたいだ。

ジャージ姿が珍しいのか、道行く人がチラチラと視線をやってくるのがわかる。

 

 

「ん? ポケットになにかが……コインか?」

 

 

 ふと、ズボンのポケットに重さを感じたのでまさぐってみると、見たこともない硬貨が数枚入っていた。この世界のお金だろうか。

 どのくらいの価値かはわからないが、天使さんがサービスしてくれたのだろう。ありがたく頂戴しておく。

 

 

「こういう場合はまずギルドだかなんやらへ……と、その前に」

 

 

 肝心も肝心の、はたしてサイヤ人になれているか、だが。

 サイヤ人おなじみの例のアレを見るべく、おそるおそる臀部に目をやると、綺麗な毛並みの尻尾が、ゆらゆらと揺らめいていた。

 

 

「っし!」

 

 

 思わずガッツポーズ。道行く人が変なものを見る目で見てるが気にしない。

 

 

「さて、無事サイヤ人になれてるとわかった事だ。今後の方針を考えながらギルドにでも行くか」

 

 

 ほとんど身一つで新天地に飛ばされたので、早く仕事やら住居やらを見つけ、身を固めなくてはならない。オーソドックスなパターンだが、やはりギルドに行き冒険者となるのが手っ取り早いかもしれない。

 

 

「……で、ギルドどこ?」

 

 

ゲームならばチュートリアルが出るのだが、生憎とここは現実だ。ギルドに行こうにも、肝心の場所がわからない。人に聞こうにも、行く人来る人が何故か俺を避けて通って行くので、話しかけようにもなかなか出来ない。

 手当り次第デカい建物に突撃していこうかと思い始めていると。

 

 

「お兄さん、なにかお困りですか?」

 

 

 いかにも私はシスターですよって感じの見た目の女の人が声を掛けてきた。

 聖職者として困ってる人は見過ごせないタチなのかな。だとしたらとてもありがたいが、なんだろう。本能が全力で警鐘を鳴らしている気がするんだが。

 

 

「あ、あぁ……はい。この街にははじめて来たですが、冒険者ギルドの場所がわからなくて。お姉さん、知ってますか?」

 

 

 嫌な予感がするとはいえ、人の厚意を無碍にすることはできない。それにこんな美人でおっぱいの大きいお姉さんが変な事をしてくるわけがない。知ってるぞ。美人とイケメンは性格もいいんだ。ただしイケメンは死ね。

 

 

「あぁ、冒険者になる為にこの街に来たのですね。ようこそ、駆け出しの街アクセルへ。冒険者ギルドは、あの道をああ行ってこう曲がれば着くはずですよ」

 

「教えてくれてありがとうございます」

 

「いえいえ。困っている人を助けるのは、聖職者として当然の事ですよ」

 

 

 お姉さんはそう言って優しい微笑みを見せたが、俺は薄目の下の鋭い眼光を見逃さなかった。

 

 

「では、俺はこれで。ご縁があればまたどこかで!」

 

 

『逃げよう』と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!

 

 

「あ、ちょっと待ってください。ムムム、あなた……只者じゃないですね。ですが普通に冒険者をしているだけではその才能は開花しない、と私の予感が言ってます」

 

 

 去る素振りを見せた途端、お姉さんは目の色を変えて詰め寄ってきた。いい匂いがするけど、とてもこわいです。

 

 

「おや、どうすればいいのか、みたいな顔をしていますね」

 

 

 この状況をどうしようかと考えているだけである。

 

 

「その才能を開花させるには、私が崇拝しているアクア様を崇める教団、アクシズ教に入信して頂ければ! スグにでも! 才能は開花するでしょう! 手続きは不要! この入信書にサインするだけであなたは晴れてアクシズ教徒! さぁ、遠慮なくどうぞ!」

 

「遠慮しておきます」

 

 

 あまのじゃくを発揮したわけではない。このお姉さんからは若干婚期に焦りを見せているアラサー女性と似た匂いがする。

 

 

「またまたー。そんなこと言わずに!」

 

「いやいや。あまりそういうのは興味が……力強っ!?」

 

 

 手の中に怪しげな紙を押し込んできたので振り払おうとするも意外な怪力になす術なく受け取ってしまう。ちっ、美人だからと鼻の下を伸ばしていたのが仇になった。ちなみにお姉さんの手はとても柔らかいです。

 

 

「えぇと……今すぐには決められないので、一度持ち帰って善処して前向きに検討しようと試みますね! ではこの辺で! フンっ!!」

 

「あぁっ……! 待って! せめて、せめてサインだけでも!」

 

 

 半ば無理矢理脱出し、一目散に駆け出す。目指すは冒険者ギルドだ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

「ふぅ……。ここか」

 

 

 全速力で駆けた先には、かなり大きめの建物がずどーんと構えていた。看板には冒険者ギルドの文字。お姉さんの案内は正しかったようだが、途中でアクシズ教とやらの教会に向かってるんじゃないかと疑ってしまった。申し訳……なくないな。

 

 

「たのもう」

 

 

 大きな木製の扉を押し開け、そろりと中に入って行くと、やたらと露出度の高い服を着たウェイトレスが出迎えてくれた。

 

 

「いらっしゃいませ! お食事ならお好きな席へ、お仕事関連なら奥へどうぞ!」

 

 

 異世界の食事にも興味はあるが、今は金がないのでとりあえず言われるがまま奥へ。

 奥には受付と、クエストやらを張り出しているであろう掲示板があり、ちょうど冒険者らしい人がそのまえでうんうん悩んでいた。さて、受付は数人の職員が待機しているが、どこにいけばいいのだろうか。

 

 ――よし、ここは素直に一番綺麗なお姉さんのところに行くか。おっぱいでかいし。

 

 

「あのー、すみません」

 

「はい! 本日はどういったご要件で?」

 

「冒険者になりたいんですが、どうすればいいですか?」

 

「それならこちらでご登録出来ますよ。登録料千エリスが必要になります」

 

 

 なんと、金がいるのか。……もしやこの時のためのお金なのか? 先程ポケットに入っていたお金を全て出し、職員に手渡す。

 

 

「これで足りますか?」

 

「はい、千エリスちょうどいただきます。ではこちらの同意書をご確認の上、署名をお願い致します」

 

 

 渡された同意書に一通り目を通し、サラサラっと名前を書いてお姉さんに返す。

 

 

「はい、お預かりします。……タナカヒデオ様ですね。では、そちらの機械に手をかざしてください。冒険者カードの発行をします」

 

 

 言われるがまま機械に手をかざすと、何かを感じ取った機械がキリキリと動き出す。しばらくして機械が動きを止めると、出来たてほやほやの冒険者カードが出てきた。

 

 

「えーと、タナカ様のステータスは……。おお! 生命力、筋力、敏捷性の三つが特に高いですね! 知力と器用も平均より高いですし、魔力はそこそこで、幸運が少し低いです。ですが、幸運値はあまり冒険に関係しないので問題ないでしょう。上級職は格闘メインのものなら、下級職は何にでもなれますね!」

 

 

 特に高い三つはサイヤ人ボディのおかげだろろうか。そういえば、さっき結構な距離を全力疾走したのにあまり息が上がらなかった。尻尾が示していたとおり、転生した時点でサイヤパワーを遺憾無く発揮していたらしい。……ということはつまり、あのアクシズ教のお姉さんはサイヤ人並の筋力を有していたのか? 怖すぎる。

 

 

「……格闘家的なものってありますか?」

 

 

 ひとまずアクシズ教のお姉さんの事は記憶から抹消し、手続きへと意識を戻す。

 せっかくサイヤ人になったのだ。ここはステゴロ一択だろう。

 

 

「己の肉体で敵を薙ぎ倒す、コンバットマスターというものがあります。ですが実を言うと、剣士職より短いリーチな上に、タンク職より耐久面で劣り、火力も魔法使いの足元にも及ばなくて。あまりこの職を選ぶ方は居ないんですよ。タナカ様のステータスなら剣士やタンクの上級職も可能ですが。それでもコンバットマスターにしますか?」

 

 

 ひでぇ言われようだなコンバットマスター。確かに素手で殴るより剣で斬った方が殺傷能力は高いし、剣戟が効かない相手というのも少ないだろう。しかも素手で闘うという特性上、鎧などはあまり身に付けれないので耐久にも不安が残る。極めつけは瞬間最大火力。これを魔法使いと張り合える職は存在しないだろう。

 

 しかし、それは普通の人間の場合だ。

 俺はサイヤ人だ。

 打撃が効かない相手には効くまで浴びせればいい。攻撃は当たらなければどうということは無い。火力なんて将来的に太陽系ごとぶっ壊せるレベルになる。

 

 

「はい。コンバットマスターになります」

 

「承りました。コンバットマスターですね。……それでは、タナカヒデオさん! あなたのご活躍を期待しています!」

 

「ありがとうございます。これからお世話になります」

 

 

 しかしいくらサイヤ人とは言え、鍛えなければ他の冒険者と大差ないはず。はじめのうちは剣を使う事にしよう。未来トランクスも使ってたしセーフだろ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 めぐみんと共にギルドで遅めの昼食を食べていると、日本人ぽい見た目の男がギルドに入ってきた。

 背丈は日本人にしてはそこそこ大きくて、腰のあたりに尻尾が生えているが、ジャージを着ているところを見ると十中八九転生者だろう。という事は何かしらの特典持ちだ。あいつがどんな奴だろうと、普通の知能さえあればうちのポンコツ駄女神より遥かに役に立ってくれるだろう。

 是非とも勧誘したい。

 

 

「カズマ。どうしたのですか? 受付の方など見て」

 

 

 受付をじっと見ている俺を怪しく思ったらしく、めぐみんが食事の手を止めてそう言ってきた。説明するのがめんどくさいな。適当に濁そう。

 

 

「ちょっとな。なに、大したことじゃない」

 

「ふぅん……まぁいいです」

 

 

 俺の対応を不思議に思いながらも、めぐみんは食事に戻った。

 誤魔化す必要は無いのだろうけど、事細かく説明する義務もない。

 勧誘しようかなって意思を見せているだけで、勧誘するとは言っていない。

 

 そうこうしているうちに、例の尻尾男は冒険者登録を終えたらしい。お姉さんがちょっと興奮してるところを見るとアクアの時のようにステータスが高いんだろうな。

 あいつの元のステータスが高いのか転生特典のおかげかわからないが、パーティーに入った場合うちの駄女神と一日一発のロリっ子よりは役に立つだろう。

 

 

「ちょっと良さそうなクエストないか見てくるわ」

 

 

 尻尾男が登録を終えて掲示板に向かうのを見届け、少し間を空けて俺も掲示板へ向かう。いきなり話し掛けたら怪しまれるかもだからな。悩んでる新人に助言をするベテラン冒険者の気持ちで行こう。まだこの世界に来て一ヶ月しか経ってないけど。

 

 

「花鳥風月ー!」

 

「流石アクアさん! 俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ!」

 

「そこに痺れはするけど憧れはしないよね」

 

 

 カウンターの方でアクアがやたらとすごい宴会芸を披露してひと騒ぎになっているが、今はそれどころではない。上級職という単語を聞いたハイエナ共が寄ってくる前に、尻尾男を囲おう。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 受付のおっぱいが大きいお姉さんに礼を言って、早速依頼でも受けてみようかと掲示板へと足を運ぶ。

 掲示板には色々と依頼やらお知らせやらが貼られていたのだが、その中で一際目を引くものがあった。

 

 

『パーティーメンバー募集! アットホームで和気藹々としたパーティーです! 報酬は出来高制、日々少数精鋭で頑張っています! 即戦力を探している為、上級職のみの募集となっております』

 

 

 うわぁ。すごい。悪い意味ですごい。ブラック企業の求人みたいだ。

 こんなんでまともに、もといまともな人くるのか? イラストはやたらと上手いが書いた奴絶対アホだろ。

 

 

「なにか探してるのか?」

 

「!」

 

 

 急に後ろから声をかけられ、尻尾がビーンと立った。

 何事かと振り向くと、だいたい俺と同い年くらいの、ジャージ姿の男が立っていた。日本人だろうか。

 

 

「……いや、ただの暇つぶしだ」

 

「ふーん。ひとつ聞くけど、お前日本人だろ? ジャージ着てるし」

 

 

 ジャージ着てるから日本人というのはなんとも安直な考え方だが、実際合っているので何も言えない。

 

 

「あぁ。ついさっき転生してきた。という事はお前もか?」

 

「おうよ。ついさっきてことは俺の方がちょっとばかし先輩だな。あんまり勝手とか分かんねぇだろうし、同郷のよしみだ。色々と教えてやるよ。俺は佐藤和真。お前は?」

 

「俺は田中英夫。よろしくな」

 

「よろしく。一緒に飯でも食いながら話そうぜ。来たばっかで金もなさそうだし、奢ってやるよ」

 

「お、マジか。ありがてぇ」

 

 

 カズマと名乗ったジャージ男は親切にも初心者の俺に色々と教えてくれる上に飯まで奢ってくれるらしい。ここはこの提案を喜んで受け入れよう。

 

 

「ちょっとだけ先輩って言ってたけどどのくらい前に来たんだ?」

 

「ひと月行くか行かないかくらいだ」

 

「本当にちょっとじゃねぇか。だから全然冒険者っぽい格好じゃないんだな」

 

「そういうことだ」

 

 

 そう肯定するカズマだが、ひと月もあれば特典持ちならばかなり稼げるのでは?冒険に直結するものじゃないのか?

 いや、天使さんはすぐ死なれて困るから渡すって言ってたし、どんなものでもある程度以上は戦えるってことだ。

 今日はたまたまオフでジャージを着ているだけなのかもしれない。

 実はとんでもない雑魚なんじゃないかと疑ってしまったが、杞憂だろう。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 ヒデオと名乗ったコイツはほいほいと簡単に着いてきた。いくら俺が親切そうに見えたとはいえ、もう少し警戒しても良かったんじゃないか?

 

 

「好きなもん頼んでくれていいぞ」

 

「おう、サンキュ。すいませーん」

 

 

 そう言うと、ヒデオは早速ウエイトレスを呼び止めてアレコレ注文し始めた。

 奢るとは言ったが、財布の厚み的に出来ればあまり食べないで欲しいというのが本音だ。

 どのくらい食べるのだろうとハラハラしていると、いつの間にか芸を終えて戻って来ていたアクアがヒデオに聞こえないように囁いてきた。

 

 

「ちょっとちょっと。どうしたのよカズマ。あんたが見ず知らずの他人に奢るなんて。頭でも打った? 回復魔法かけてあげようか?」

 

「喧嘩売ってんのかお前。

 ……いいか? こいつの格好を見ろ。ジャージだ。という事は転生者だ。

 ……あとはわかるな?」

 

「?」

 

 

 マジかこいつ。これまでも何人もこの世界に送ってきたんじゃないのか。

 

 

「……転生者って事はチート持ちだろ? コイツを今のうちに懐柔しておいてあわよくばパーティーに入れるんだよ。パーティーに入ってくれなくても、強い奴と知り合いになれるってのは大きい」

 

「なるほど! 頭良いわねカズマ! これで私達もむぐっ」

 

「しっ! 声がでかいんだよ。聞こえたらマズイ。

 ……幸い飯に夢中で気づいてないみたいだし、このままイイ感じにやるぞ」

 

 

 口を塞がれながらもこくこくと頷くアクア。どうやらわかってくれたみたいだ。これにて一件落着と思っていたのだが、今度は会話の一部を聞いていたらしいめぐみんが同じくヒソヒソと話し掛けてきた。

 

 

「カズマカズマ。この人をパーティーに入れるのですか?」

 

「まぁ入ってくれれば嬉しいが……」

 

「なるほど。では昨日来たって言ってた人はどうなるのです?」

 

 

 あの妙に色気のある姉ちゃんのことか。

 仲間が増えることは喜ばしいんだろうけど、なんだかなぁ……。

 クルセイダーとか言ってたが、俺の勘があの姉ちゃんはこの二人のように残念な性格だと言っている。これ以上問題児は増えて欲しくないんだが。

 

 

「そんなの言ってたっけか? 酔ってて覚えてない」

 

「思いっきりシラフだった気がするんですが……」

 

 

 この時の俺は日本人の知り合いができた事に浮かれて気付いていなかった。

 

 ヒデオが俺を他のチート持ちと同様に稼いでいると買い被っている事に。

 

 ヒデオの胃袋のデカさが規格外な事に。




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