この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

25 / 62
ヒロインではない。
多分オリジナル。


第二十六話

 カエル事件の翌日、ギルドにて。

 

 

 一人で出来る仕事探しなう。

 

 しかし、どれもソロじゃ厳しそうなやつばかり。

 誰か一人、せめて後衛が居れば…。

 

 ちなみにカズマ達は誘っても乗り気では無かったので置いてきた。

 

 

 知り合いで後衛ができそうな奴がいないかと、ギルドの中を見回していると。

 

 

「…」

 

 

 一人、食事をするでもなく仕事を探すでもなく、ただじっと座っている少女が居た。

 

 ゆんゆんである。

 

 そういえば昨日上級魔法使ってたなこの子。暇ならクエストについてきてもらおう。

 

 思い立ったが吉日、早速声をかける。

 

 

 なるべく怖がらせないように…。

 

 

「おーい。ゆんゆん。なにしてんの?」

 

「ひゃっ!え、と、あの、ご、ごごご、ごめんなさい!あ、ヒデオさん…」

 

 

 声をかけると、何故か謝ってきた。

 

 

「何も悪いことしてないんだから謝らなくていいぞ。もっかい聞くけどなにしてんの?」

 

「え、いや、あの、その…特には」

 

「暇か?」

 

「ま、まぁ。端的に言えば…」

 

「よし。なら、クエスト行かねぇか?今ちょうど後衛できそうなヤツ探してるんだよ。昨日上級魔法使ってたよな?」

 

「…」

 

 

 俺の言葉に固まるゆんゆん。

 しまった。誘うのが早すぎたか?

 

 

「いや、別に断ってくれても構わな」

 

「行きます!!行かせて下さい!」

 

 

 言い終える前に食い気味で、しかも顔を近づけながら言ってくるゆんゆん。

 心無しか目がキラキラしてる。誘われたのがそんなに嬉しかったのか?

 

 

「お、おう…。じゃあ、どれ行くかは決まってないから一緒に見ようぜ」

 

「はい!」

 

 

 元気よく返事をしたゆんゆんを連れ再度掲示板へ向かう。

 それにしてもこの子、チョロ過ぎない?なんか色々と心配になるんだが…。

 それと、紅魔族にしては大人しい。

 めぐみんがおかしいだけで他のみんなは大丈夫なパターンがあるかもしれない。

 

 

 いや、名前のセンスは全然大丈夫じゃなかったわ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 クエストの場所へ馬車で移動中。

 距離はそうでもないけど、場所がわかりにくいらしく、行きは馬車に乗る。帰りは自力で帰ってきてとのことらしい。

 馬車に揺られて数分。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 会話がない。

 ど、どうしよう。何か話題振った方がいいかな…?なんで誘ってくれたの、とか聞いた方がいいのかな…?

 そんなことを考えていると。

 

 

「なぁゆんゆん」

 

「ひ、ひゃい!」

 

 

 急に話しかけられたから噛んじゃった…。

 変な子だと思われてたりしないよね…?

 

 

「今のもそうだが、何かビビってる?俺の事怖い?」

 

「い、いえ!そんなことは…。ただ、男の人と2人きりというのはお父さん以外では初めてで…」

 

 

 尻尾が生えてて空飛んだりしてたから変わった人だな、とは思ってたけど、怖くはない…はず。

 こ、これは緊張!そう!緊張してるだけなの!

 

 

「なるほど。緊張してんのね」

 

「は、はい…」

 

「そう、ならよかった」

 

 

 私が怖がってないかと声をかけてくれてたみたい。良い人だ…。

 よし、思い切って聞いてみよう。この人ならちゃんと答えてくれるはず。

 

 

「あ、あの、ヒデオさん」

 

「なんだ?」

 

「なんで私なんかを誘ってくれたんですか…?」

 

 

 やった!言えた!

 私の質問に、ヒデオさんは少しばかりんーと悩むと。

 

 

「ギルドに居たし、知り合いだったし、後衛できそうだったから」

 

 

 ギルドで誰かに話し掛けられるのを待つ習慣をしていてよかった…!

 やった、やったよ!お父さん、お母さん!私、一緒に冒険してくれる人が出来たよ!

 

 

「ありがとうございます!」

 

「感謝されるようなことをした覚えは無いんだが…。むしろこっちがありがとうだよ。本当にいいのか?俺みたいなのにホイホイ着いてきて」

 

 

 照れくさそうに頬をかきながらお礼を言ってくるヒデオさん。

 私なんかを誘って、更に私が言うべきお礼を言ってくれるなんてとっても良い人!

 私が喜んでいると、ヒデオさんが。

 

 

「というかゆんゆん。今回のクエスト、本当に大丈夫か?」

 

 

 また私の心配をしてくれてる!とっても良い人!

 この人に心配かけちゃダメよゆんゆん!元気よくお返事しないと!

 

 

「はい!大丈夫です!私に任せてください!」

 

「そうか、なら良かった。女の子は虫嫌いな子が多いからな。ジャイアントホーネット討伐、着いてきてくれて助かるよ」

 

 

 ジャイアントホーネット。端的に言えば、大きさが中型犬くらいあって、毒針を持っていて、噛む力も強く、1匹のさらに巨大な女王蜂に付き従い、群れで生息する蜂。

 徒党を組まれるととても手強いけれど、毒液は薬にもなるし、強靭で硬い針や顎は装備品や調理器具として重宝される。巣で取れるハチミツも、とても甘くて美味しい。それに、薬効成分もあるんだとか。

 

 正直言ってあんまり得意では無いけど、それを言っちゃうとヒデオさんの期待を裏切ってしまう。ここは我慢よゆんゆん!

 

 そう自分を奮い立たせていると、巨大蜂が生息する森に着いた。頑張ろう!

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 ゆんゆんを誘って二人でクエストに来たのはいいものの、機嫌が良すぎて逆に怖い。

 何が楽しいんだ?鼻歌歌ってるし。

 

 

「なぁゆんゆん」

 

「はい!」

 

 

 元気よく返事をしてくるゆんゆん。

 うん、やっぱり怖い。なんでこんなに機嫌が良いんだ…。

 カズマとかと長い間過ごしていて身についた、なにか裏があると勘繰ってしまう癖。

 恐らくそれが得体の知れない恐怖を生んでいるのだろう。

 

 

「もう一度聞くが、本当に大丈夫か?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

 

 さっきも大丈夫だと言っていたが、気を遣わせないように嘘を言っているのかもしれない。実際に蜂を見てしまったら恐怖で固まるかも。

 まぁその時はその時でなんとかするか。

 

 

「無理になったら正直に言ってくれると助かる。その時は何とかするから」

 

「はい!わかりました!私は大丈夫です!」

 

 

 さっきから返事と大丈夫しか言っていないが、本当に大丈夫か?

 

 とりあえずゆんゆんに気を配りつつ、森の奥へと進んでいると。

 

 

「っと、ストップだゆんゆん」

 

「はい!」

 

「静かに」

 

「…はい」

 

 

 前方に、気が複数ある。

 特定の箇所に集まっては散らばる。それを繰り返している。

 恐らくこいつらがジャイアントホーネットだろう。

 クエストの内容は巣の破壊と女王蜂の駆除なので、取り巻きは相手にする必要は無い。女王を倒すと勝手に死ぬらしい。

 

 

「居る。10、20…。多すぎない?」

 

「そんなこともわかるんですね!すごい!むぐっ」

 

「大声を出すな」

 

 

 興奮して声を上げるゆんゆんの口を抑え黙らせる。せ、セクハラじゃないから!流石に会って2回目の女の子にセクハラするほどクズじゃないし…。

 ミツルギの仲間は女として見てないし、エリス様は女の子って年齢じゃ…いや、エリス様マジピチピチギャル。

 

 

「どうするか…」

 

 

 謎の悪寒が走ったことは置いといて、作戦を考える。

 女王を倒せばいいのだが、そこにたどり着くまでかなり厳しそうだ。

 なんでも、隊列のようなものを組んで襲いかかって来るとか。

 かめはめ波で巣ごと消し飛ばすのも考えたが、森に被害が出るし、何より素材買取の報酬が出ない。

 

 

 考えた結果、正面突破することにした。

 こっそり巣だけを破壊する事も考えたが、巣と思われるものを取り囲むようにしているようなので、正面突破が楽との結論に至った。

 途中ゆんゆんにも意見を求めたが、すごいですと大丈夫ですしか言わなかったので聞くのをやめた。

 

 

「行くぞ」

 

「はい!」

 

 

 作戦的にはもう静かにする必要は無いので特に何も言わない。むしろ騒がしくしてくれる方が助かる。

 出来るだけ音を立てながら巣へと近付いて行く。

 すると、気が近付いてくる。数は一。偵察か?

 

 

「来たぞゆんゆん!」

 

「はい!『ライト・オブ・セイバー』!!」

 

 

 上級魔法で蜂を両断するゆんゆん。

 俺もこういうビームソード系の技欲しい。剣は携えてはいるがあまり使っていない。

 

 体液が仲間を呼んだのか、はたまた別の何かが仲間を呼んだのかわからないが、とりあえず大量の気がこちらへ近付いてきた。

 ホントだ。隊列みたいな並び方してる。

 

 

「ゆんゆん、飛ぶぞ、捕まれ!それと、目を瞑れ!」

 

「えっ、はい!」

 

 

 蜂に視認された所でゆんゆんを背負い、舞空術で蜂たちの上を取る。

 視線がこちらへ向いたところで、必殺。

 

 

「かかったなアホが!太陽拳!」

 

 

 カッ!!

 

 

 蜂たちの視界を強烈な光で埋め尽くす。

 前が見づらくなった蜂たちは動くのをやめた。隙だらけだぜ!

 正面突破とは言ったが正々堂々とは言っていない。勝てばよかろうなのだー!

 

 

「フハハハハ!死ね!三連気円斬!」

 

 

 地面に着地し、気円斬を放つ。

 きっちり三列に並んでいた蜂たちは、気円斬でスパパパパーンと両断されていった。

 

 

「す、すごい…」

 

 

 蜂が一瞬にして壊滅状態になったことに驚くゆんゆん。

 

 

「わりぃな。イイトコやれなくて」

 

「い、いえ!」

 

 

 そんな話をしながら素材を回収する。がっぽりですわ。

 回収を続けていると、学習したのか今度は上から攻めてきた。

 

 

「おっと、お連れさんが来た。今度は上からだ。さっきの作戦は恐らく通じないから、遠距離攻撃で倒すぞ」

 

「わかりました!『ライトニング』!」

 

「気円斬!」

 

 

 ゆんゆんは雷の中級魔法で、俺は気円斬で蜂を屠っていく。

 かめはめ波よりは森に被害が出にくいし、ある程度硬くても倒せるのは便利だ。気の消費が大きめだが、まぁそこはご愛嬌。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 あの後も何度か来た蜂を完封していたら、やがて諦めたのか蜂がいなくなったのかわからないが、襲撃がパッタリと止んだ。

 襲撃を待ってやる必要も無いので、とりあえず素材回収を終わらせよう。これが終わったらあとは女王だけかな?

 

 無言で作業するのもあれなので、雑談でもしよう。

 

 

「このクエスト案外ちょろいな。その気になれば一人でもいけそうだな」

 

「えっ…」

 

 

 自分は必要ないと言われたと思ったのか、ゆんゆんの顔が青ざめていく。

 しまった。デリカシーがなかったか。とりあえずフォローしておこう。

 

 

「あ、いや、ゆんゆんが居ることによって俺の仕事がかなり減ってる。二人の方がやりやすいし、ゆんゆんは近接も遠距離もいけるから、俺はゆんゆんの事を心配せずに自分の仕事に集中出来る。つまり一人でも無理なことは無いけど来るなら二人以上って事だ」

 

「そ、そうですか…」

 

 

 フォローになってるかはわからないが、とりあえず顔は元に戻ったので一安心。

 というかこの子めんどくせぇ!

 

 自分に自信が無いのか人見知りしてるのかわからないがやたらと引っ込み思案だし、めぐみんみたいな頭のおかしいアークウィザードじゃないにも関わらずギルドに一人で居た。パーティーを組んだことがないとも言っていた。

 まさか、この子ボッチ?

 

 

「うーん…」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 顔を覗き込んで聞いてくるゆんゆん。近い。

 

 

「なぁゆんゆん」

 

「はい!なんでしょう!」

 

 

 笑顔が眩しい。

 本当にこんなに純粋な子にこんな事を聞いて良いんだろうか。

 いや、聞かないと何も始まらない。

 

 

「もしかして、友達あんまりいない?」

 

「うっ!」

 

「図星か…」

 

 

 俺の言葉にショックを受けて言葉を詰まらせるゆんゆん。

 うーん。この容姿と能力なら友達とかすぐできそうなんだけどなぁ。よし。

 

 人生相談をしてあげるわけじゃない。

 そこまで人生経験を積んでるわけでもないからな。

 ただ、パーティーメンバーの友人が不憫なのは見てられないってだけだ。

 

 

「1つ言うけど、もっと自分に自信持っていいぞ。友達が欲しいってんなら俺とかカズマとか、パーティーの奴らが喜んでなってやる。誘ってくれたらクエストとかも着いていくし、暇ならいつでも屋敷に遊びに来てくれても良い。どうだ?俺と友達にならないか?」

 

 

 ちょっとクサすぎるか?まぁいいか。思い返してベッドで悶えてヘドバンするだけだしな。

 

 俺の言葉にゆんゆんはまたもや固まった。今日何度目だ?

 やがて、声を振り絞り。

 

 

「あ、ありがとうございます…!不束者ですが、是非よろしくお願いします!」

 

 

 涙声で礼を言ってくる。

 不束者ってのは他の人に聞かれたらちょっと誤解を生みそうだが、まぁいいだろう。

 

 

「じゃ、よろしくな」

 

「はい!」

 

 

 ゆんゆんと友情の握手を交わそうと手を差し出したその時。

 

 

「ワタシのカワイイしもべたちをコロしたのはアナタたち?」

 

 

 片言で、抑揚もどこかおかしい声を発し、蜂たちがやって来ていた方向からそれは来ていた。

 気付かなかった…?

 いや、感じてたはいた。巣から感じ取れたでかい気だ。

 一瞬でここまで来たのか?

 

 

「ゆんゆん、下がれ」

 

「っ!はい!」

 

 

 ゆんゆんを背に庇いソイツの前に立つ。

 大きさは大人の女性くらいで、顔や体の造形も足が六本あるところと蜂の針の部分や羽根の部分を除けばほぼ人間だ。恐らく女王蜂だろう。

  強さ的には初心者殺しくらいか?

 それにしても、人語を発するのが解せない。

 人の形を模してるのが関係してるのか?声帯は真似できても、言葉の意味はわからないはず。

 そういう風に聞こえるフェロモン的なものがあるのか?

 色々と考えるが、今は気にしている暇はないので考えるのをやめる。

 

 

「ネェ、キいてるの。アナタたちのシワザ?」

 

「……そうだと言ったら?」

 

「ユルさない」

 

「そうか。なら死ね」

 

 

 一瞬で背後に周り、暗殺者さながらに首を捻じ折る。

 アクアが居なく蘇生できない状況では容赦はしない。

 どのみち駆除しないとダメだしな。

 

 

「あ…れ…?」

 

「わりぃな。恨むなら、依頼だした奴を恨んでくれ」

 

 

 俺は仕事でやってるだけだから。生活のために仕方なくだから。だからゆんゆん。そんなドン引きした目で俺を見ないでくれ。

 

 

「……容赦ないですね」

 

「ま、まぁモンスターだしな。人語を話して容姿が女でもーーー」

 

 

 関係ない、そう言おうとした時。

 

 

「女でも、何ですって?」

 

 

 ガンッ!!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「…え?」

 

 

 ヒデオさんが消えた。いや、消えたんじゃない。吹っ飛ばされたんだ。吹っ飛ばされたであろう方向の木々が折れている。

 私は転んでしまった。突き飛ばされた感覚がしたから、多分ヒデオさんが庇ってくれたのだろう。

 立ち上がろうと足に力を入れたその時。

 

 

「あら?貴女を狙ったのに、なんで居るの?まぁいいわ。覚悟はいい?」

 

 

 さっきヒデオさんに首をへし折られたはずの女王蜂がさっきよりより人間らしい姿になり立っていた。

 

 

「…ひっ!」

 

 

 腰が抜けてしまって、立てない。

 この女王蜂の顔はとても整っていて優しい顔をしているのに、恐怖で腰が抜けてしまった。

 い、嫌…!

 

 

「あぁ、その顔、ゾクゾクするわ…!」

 

 

 恍惚とした表情を浮かべる女王。気持ち悪い…!

 仮に魔法を使おうにも使う前にやられてしまうだろう。

 

 

「こ、来ないで!」

 

「ダメよ。行くわ」

 

 

 ジリジリと近付いてくる女王。

 ヒデオさん、助けて…!

 

 

「ふふふ。あなたの泣き顔、とっても可愛かったわ。その顔、頂戴ね」

 

 

 そう女王が言い、私の顔に手をかけようとする。あまりの恐怖に目を瞑る。

 

 あぁ、私、ここで死ぬんだなぁ…。もっと色々な事をしてくれば良かった…。来る途中で見た露店の串焼きも食べたかったし、射的もやってみたかった。めぐみんにだってもっと勝ちたいし、一緒に冒険してくれる仲間だって欲しかった。

 そんな私の思いも知らずに、女王は淡々と。

 

 

「さよなら」

 

 

 そう言ってくる。腕を振りかぶる音が聞こえる。

 あぁ、神様。来世は、友達がたくさん出来ますように…。

 

 

 

 

 何秒経っただろうか。おかしい。

 一向に腕が振り下ろされる気配がない。

 もしや私は気が付かないうちに死んでしまったのかもしれない。

 

 恐る恐る目を開けると、そこには。

 

 

「わりぃゆんゆん。危ない目に遭わせちまったな」

 

 

 血だらけになりながらも、女王の腕を左腕一本で止めている私の人生初の男友達が居た。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「……離しなさい。一体誰の腕を掴んでると思っているの?」

 

「でかい虫だろ?つーか腕ってより足だろこれ」

 

 

 さっきより流暢になった人語を話す女王蜂。見た目もかなり変わってるし、気の大きさも桁違いだ。ゆんゆんを庇ったとは言え、吹っ飛ばされてしまった。

 一体何をしたんだ?

 

 

「バカにして…!」

 

「あぶねっ」

 

 

 尻の部分についている針を触手のように伸ばし俺に刺そうとしてくる女王。当たらんわこんなん。

 針の進行方向には木があり、針が刺さる。

 すると、木がしぼんだ。

 

 

「は?」

 

「隙だらけよ!死になさい!」

 

「あぶねっ」

 

 

 おいおい待て待て。木が一瞬でしぼんだぞ。栄養とか何やらを吸い取ったのか?

 ふと周りを見てみると、草木はおろか、さっき倒した蜂の死骸までしぼんでいる。

 なるほど。養分を吸い取ってパワーアップするタイプね。

 

 しかしそれだけで人語を発するのはおかしい。

 いや、待てよ?吸収したらそいつの能力や記憶を使えるとかいうのが吸収持ちの特権じゃなかったか?

 まさかこいつ。

 

 

「ちょこまかと…!この!この!」

 

「おいお前」

 

「はぁ…!はぁ…!何よ!」

 

 

 息を切らしながら若干キレてる女王に聞く。

 

 

「人を食ったことあんのか?」

 

 

 俺の読みが正しければ、こいつは過去に人を吸収し、人語を手に入れた。それはまぁいい。食われたやつがドジだっただけだからな。

 しかし問題はここからだ。こいつが街に行くとどうなる?声は人間と同じ。見た目も、精巧なコスプレと思われるだろう。隠れて人を襲うことが出来るわけだ。それだけはいけない。

 駆除できなかった俺の責任になるかもだし、なにより色々と厄介すぎる。ここで駆除しよ。

 

 

「えぇ。とっても美味しかったわ」

 

「そうか。聞いたのは特に意味無いけど死ね」

 

「その手は食わないわよ!」

 

 

 俺が何かをする前に回避する女王。

 ちっ。

 

 

「…ねぇあなた。さっきから女の私に随分と容赦ないけど、それでも男なの?」

 

「は?」

 

 

 何を言ってるんだコイツは。

 確かに俺はムカつく奴以外には基本的に女には手を出さない。そこに容姿とかは関係ない。

 しかし、こいつは根本から勘違いしている。

 

 

「女?何言ってんだ?この場に女なんてゆんゆん以外にいねーだろ」

 

「じゃあ私はなんなのよ?見なさいこのボンキュッボンを!舐め回したくなるでしょう!」

 

「気持ち悪いことを言うんじゃねぇよ虫が。女?お前は女じゃない。雌だ」

 

 

 いくら見た目が美人でももとが虫ならそいつは雌だ。異種だ。

 元が人間のリッチーや、人型悪魔のサキュバスは例外。

 しかし、俺の言葉を女王は理解が出来ないらしく。

 

 

「…は?」

 

「は?じゃねぇよ。お前、自分が人間だとでも思ってんの?そりゃお前は傍から見たら蜂のコスプレした美女だ。だがな、実際はどうだ?美女のコスプレしたクソでけぇ蜂だろ?これはもう殺すしかないだろ。ってことで死ね」

 

「ちょっ!」

 

 

 俺の攻撃を回避する女王。

 だから避けんな。

 

 

「人の形をしたわたしを殺すなんて可哀想と思わないの!?」

 

「てめぇに対する慈悲の気持ちはまったくねぇ。大人しく死んで換金されてくれ」

 

 

 イライラさせてくるな。このクソ蜂。

 俺はな、女体化とかマジ無理だしふたなりも厳しいって感じの性癖を持ってんだよ。

 つまりお前はギルティ。

 

 

「なっ…!わかったわ!正々堂々決着をつけましょう!」

 

 

 そう言いながら空を飛ぶ女王。

 加えて。

 

 

「ここまで来れるならね!」

 

「そうか分かったなら死ね」

 

「えっちょっ、待っ!」

 

 

 舞空術を使い一瞬で近付き、呆気にとられている間に蹴りで叩き落とす。

 しかし、流石は女王と言ったところか、かなり硬い。まだ死んでいないようだ。ちっ。

 

 

「に、人間が空を飛んだ…。あ、有り得ないわ…」

 

 

 有り得るんだなこれが。

 女王の前へ着地する。

 

 

「おとなしく死ぬってんなら楽に殺してやるけど?どう?」

 

「バカ言わないで。空を飛んだのは驚いたけど、あなた程度にやられるはずがないじゃない」

 

「そうか。気円斬」

 

 

 間髪入れずに気円斬。はよ死ね。

 

 

「その技の危険性は私のしもべたちから学んだわ!当たるもんですか!」

 

「ふーん。すかさず気円斬」

 

「だから当たらないと言って…えっ。なんで私の体がそこにあるの?」

 

「そりゃ当たったからだろ。そいそいそい」

 

「えっ、ちょ!私の体が細切れになっていく!な、なんでその光の円が自在に動いてるの!?」

 

「言う必要はない」

 

 

 そう言い頭も両断する。やっと黙った。

 

 

「ふぅ…任務完了」

 

「…な、なんというか、凄いですね…」

 

 

 今まで空気だったゆんゆんが引きながらそう言ってくる。もう慣れた。ぐすん。

 

 

「よし、ハチミツとこいつの素材回収して帰るか」

 

「は、はい…」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 帰り道。空。

 

 

「あ、あの、ヒデオさん」

 

「なんだー?」

 

「最後の技、あれ何なんですか?」

 

 

 ふむ。ゆんゆんになら教えてもいいか。友達だしな。

 

 

「あぁ、あれな、繰気弾って技があるんだが、それを気円斬にしただけだ」

 

 

 要は、自在に操れる気円斬である。なにそれ怖い。

 魔閃光と共に覚えた繰気弾の『繰』属性の気を気円斬に無理やり練りこんだだけだ。気の消費がかなり大きいから1発くらいしか撃てないが、普通に強い。

 

 

「なるほど…。あ、もう一つ聞いていいですか?なんで最後怒り気味だったんですか?」

 

 

 仲良くなったおかげか、フランクに接してくるゆんゆん。いい事だ。

 

 さて、質問されたので答えてやろう。

 答えは決まっている。

 

 

「俺、虫大っ嫌いだから」

 

「えっ」

 

 

 予想外の返答が返ってきたせいか、ゆんゆんは間抜けな声を上げた。

 

 仕方ないじゃん。キモさには強さも弱さも関係ないし。

 

 

 

 

 




感想、評価、その他もろもろよろしくでーす。


・ジャイアントホーネット
でかい蜂。色々と素材が取れる。そこそこの強さ。


・ジャイアントホーネットクイーン
他生物から養分などを吸収することによりその能力を奪う事が出来る。養分さえ吸えば致命傷も治る。人を吸収したことがある個体なら美女の姿をしている。スリーサイズは栄養価に起因する。

・繰気弾
ヤムチャ。


・繰気斬
気円斬を作る際に『繰』属性の気を気合いと根性と素敵な何かで無理やり練りこんだ技。無理やり練りこんでいるので、気の消費がアホみたいにでかい。けど強い。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。