この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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なんか、こう、あれ。やる気?


第二十七話

 

 朝。

 

 

 

 昨日ヒデオがクエストから帰って来た後もダクネスは帰って来なかった。

 かなり心配になってきたので、今晩も帰ってこなかったらあいつらと相談して手を打つとしよう。

 

 そんなことを考えながらリビングに行く。

 そこには。

 

 

「…あれ。ヒデオだけか?めぐみんとアクアは?」

 

 

 ヒデオがちょむすけと戯れていた。俺に気付いて居たのか、戯れながらおはようと言ってくる。気の感知便利すぎない?

 

 

「二人共どっかいったみたいだな。俺も今起きたばっかだから詳しくは知らんが」

 

「なるほど。怪我は大丈夫なのか?治しては貰ってたけど」

 

 

 昨日血だらけで帰ってきたのにはびっくりした。

 アクア曰く大した怪我じゃないらしかったが、それでもあの血だらけの姿は怖かった。

 

 

「あぁ。木の破片で出来たかすり傷だけだったからな」

 

「そうか、なら良かった」

 

 

 乗り気じゃないとヒデオにクエストを断ったが、理由は他にもある。

 いくらヒデオが強いと言っても、俺たち全員を庇いながらの戦闘は無理がある。普段は盾役のダクネスが囮になるのだが、帰ってこない状況ではそれも無理だ。

 なので、大所帯で行くよりソロで行かせる方が安全と判断した。昨日はゆんゆんと一緒に行ったらしいが。

 そんなことを考えていると、ちょむすけを撫でながらヒデオが。

 

 

「どうする?飯作んのもダルいだろ。どっか行くか?」

 

 

 と言ってくる。

 確かにわざわざ二人と一匹のために朝飯を作るのも億劫だ。ここは賛成しよう。

 

 

「そうだな。ついでにアクア達も探そう」

 

 

 ヒデオが居ればすぐ見つかるだろう。

 

 

「よし、決まりだな。ちょむすけ、お前も行くか?」

 

「なーお」

 

 

 ヒデオに誘われたちょむすけはそうひと鳴きし、ヒデオの頭に飛び乗った。

 

 

「懐かれてんなお前」

 

「尻尾を気に入ったんだろ。懐いてくれるのは嬉しいんだが、捕まえたーって感じでゴキブリとか見せてくんのはマジでやめてほしい」

 

 

 そう遠い目をしながら言うヒデオ。確かにそれは勘弁願いたいな。

 

 こうして俺達は、野郎二人と猫一匹というなんとも珍妙なパーティーで街へと繰り出した。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 街。

 

 

「普段より人居すぎてキモいんだが」

 

「キモい言うな」

 

 

 なぜこの駆け出しの街がそこそこ賑わっているのか。

 その理由は、先日成し遂げた超大物賞金首機動要塞デストロイヤーの討伐が挙げられる。

 物珍しさに観光客としてほかの街から人が訪れ、アクセルの商人達がそれにあやかろうと色々とする。その為に材料を取り寄せると、その業者が口コミで広めた。

 

 つまり、なんやかんやでジワジワと繁盛している、という事だ。

 

 

「カズマ、お前元引きこもりなのに人混みとか大丈夫なのか?」

 

「引きこもり言うな。しかし、本当にいつもより多いな。この街ってあの店以外に何かあったか?デストロイヤー討伐のお陰か?」

 

 

 少し感心しながら言うカズマ。

 そんなカズマにふと聞いてみる。

 

 

「カズマ。お前商売するとか言ってたけど、このビッグウェーブとは言えないけどそこそこの波に乗らなくていいのか?」

 

 

 あまりこういうのには詳しくないが、流行には乗った方が良いのでは?

 しかし、カズマは一応考えてはいるようで。

 

 

「確かに商売はするが、俺はこういうのにはあんまり影響されない系のヤツを作る。だから慌てる必要も無い」

 

 

 なるほど。何を作るかわからないが、こいつの幸運値なら大抵のものはヒットしそうだ。

 

 ……アクアが関わらなければ。

 

 

「まぁ何にせよ期待して待っとくよ」

 

「そうしてくれ。で、飯なんにする?」

 

「んー。朝はガッツリ行きたいんだよなー」

 

 

 何かで読んだが、朝たくさん食べて夜少なくするのが良いらしい。

 

 

「朝は。って、お前三食全部ガッツリじゃねぇか。俺たちパーティーの一番の支出はなにか分かってんのか?テメェの食費だよ大食らいが」

 

 

 カズマの言う通り、俺はよく食う。エンゲル係数上げまくりである。

 サイヤ人になってから食事の量がかなり増えた。燃費がいいのか悪いのかわからないが、不憫なボディだ。

 

 

「つって、お前がただの大食らいなら追い出してるんだがなぁ…。一番の支出の原因と同時に一番の稼ぎ頭でもあるんだよな…」

 

 

 頭を抱えながらそう嘆くカズマ。

 ははっ、照れますな。

 

 

「ま、食ったぶん稼ぐつもりだからそこは気にすんな」

 

「お前は有言実行するからあんま強く言えないんだよ…」

 

 

 ため息をつきながら歩くカズマに着いていく。

 すると、気になるものが目に入った。

 

 

「なぁ、アレ」

 

「なんだ?えーと『カエルの唐揚げ10kg、30分以内に食べきったら三万エリス』…か。よし、朝飯は決まったな。行ってこいサイヤ人」

 

「合点。ちょむすけ、カズマに乗っといてくれ」

 

 

 そう言い頭のちょむすけをカズマに乗せる。

 

 

「なーお」

 

「頑張れよー」

 

 

 カズマとちょむすけに見送られながら件の店へと行く。

 

 

「お、なんだ兄ちゃん。何食う?」

 

 

 店長っぽいおっさんが注文を聞いてくる。

 メニューにあるそれを指差しで注文すると、おっさんはさっきとはうって変わって真剣な顔つきで。

 

 

「…いいのか兄ちゃん。失敗したら一万エリスだぞ?この店は今までも兄ちゃんみたいな前途ある若者を何人も屠ってきた。それでもやるかい?」

 

 

 そう脅してくるおっさん。

 なめんな。俺は混血とはいえサイヤ人だ。この程度5分で片付けてやんよ。

 というか屠っちゃダメだろ。

 

 

「御託はいいから早く持ってきてくれ。仲間待たせてんだ。5分でカタをつける」

 

「ほう。いい覚悟だ。後悔しても知らねぇぞ?」

 

 

 奥へと引っ込むと、会話中に盛り付けしていたであろう山盛りの唐揚げが来た。重そう。

 ここで俺がビビってリタイアしてたらどうするつもりだったんだろうな。

 

 

「じゃあいくぜ。カエル大食い……ファイッ!」

 

 

 いつの間にか集まっていたギャラリーに見守られる中、俺は夢中で唐揚げに食らいついた。

 

 

 

 

 5分後。

 

 

 

「うぷっ。もう飽きた」

 

 

 これが限界、と唐揚げを口に放り込みそう呟く。どよっとざわめくギャラリー。

 

 サイヤ人の俺でも流石に同じものをこんだけ食べるのは無理がある。揚げ物だしな。

 そう考えると、フードファイター凄いな。

 大食い選手達に感心しながら空を仰いでいると。

 

 

「なん…だと…!?」

 

 

 おっさんが驚愕の声をあげた。

 

 

「どうしたおっさん。何を驚いてるんだ?」

 

「…フッ。俺もヤキが回ったか。本当に5分で完食されちゃあな…」

 

「おっさんの感傷とかどうでもいいから早く金よこせ」

 

「ひ、ひでぇな兄ちゃん…。ちっ、しゃーねぇ。持ってけ泥棒!」

 

 

 そう言いながらおっさんが金を渡してくる。

 誰が泥棒だ誰が。

 金を確認していると、違和感に気付く。

 

 

「…おいおっさん。七万エリス位あるんだが、どういうこった?」

 

 

 なぜか倍額以上の七万エリスが入っていたので、おっさんに問うた。

 すると。

 

 

「ん?あぁ、兄ちゃんの食いっぷりが凄まじすぎてな。完食されまいと、こっそりもう10kg追加したんだよ。それも完食されちまったがな。んで、負けを認めた証として20kg分とプラス一万エリス…お、おい兄ちゃん。なんで頭を掴むんだ?金はちゃんと払ったし色つけて渡したし文句はないででででっ!や、やめろ!潰れちまう!」

 

「てめぇの方がよっぽど詐欺師じゃねぇか!!てめぇ、もし俺が20kg完食出来なかったらどうするつもりだったんだコラァ!」

 

 

 おっさんの頭から手を離し胸ぐらをつかみぐわんぐわん揺らす。

 卑怯というかなんというか、店側の特権で理不尽な目にあっていたことに怒りを覚える。

 

 

「おいやめろヒデオ!白目剥いてるから!泡吹いてるから!」

 

 

 おっさんをシェイクしていると、カズマが止めに入ってきてお馴染みの尻尾を掴んできた。

 

 

「ぐぬぬ…」

 

 

 理不尽には怒ったがお金は得したので渋々引き下がる。

 理不尽、ダメゼッタイ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「まったく、騒ぎを起こしてくれやがって」

 

「俺悪くねぇだろ。完全にあのおっさんが悪い」

 

 

 カズマとちょむすけの分の朝飯もすませ、今はぶらぶらと街を歩いている。

 するとちょむすけが俺の髪の毛を引っ張りはじめた。禿げるからやめい。

 

 

「おいちょむすけ。俺の髪の毛を引き抜こうとするな。まだ早い。抜くの早いよ」

 

「なーお」

 

 

 ちょむすけを頭から下ろす。

 すると、地面に降り立ち着いて来いと言わんばかりに前へ進んだ。

 なんだ?そこ行けニャンニャン?

 

 特にすることもないのでカズマと共にちょむすけに着いて行く。

 

 すると。

 

 

「あれ、ちょむすけ?どうしたの?めぐみんは?」

 

 

 昨日俺とクエストに行ったアークウィザード、ゆんゆんが居た。

 

 

「おーいゆんゆん」

 

「あ、おはようございますヒデオさん!昨日はどうも!カズマさんもおはようございます!」

 

 

 片手をあげて挨拶をすると、ちょむすけを抱きながら元気よく返してくるゆんゆん。元気なのはいい事だ。

 

 

「おはようゆんゆん。昨日はヒデオが世話になったな。で、何してたんだ?」

 

「暇だったので色々見て回ってるんですよ…一人で」

 

 

 悲しそうな目をしながら言うゆんゆん。

 やめろ。その技は俺に効く。

 

 

「そうか…。この際だし一緒に回らないか?」

 

 

 カズマがそう提案する。

 特に断る必要も理由もないので賛同する。

 

 

「だな。どうするゆんゆん」

 

「え、あの…。はい!よろしくお願いします!」

 

 

 こうして俺たち一行にゆんゆんが加わった。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 三人で串焼きを買って食べたり、カズマが射的でズルして怒られたり、ちょむすけが金魚すくいに興味津々だったりと色々あった。

 

 さて次は何をしようかとぶらぶらと歩いていると。

 

 

「はいはいはい!よってらっしゃい見てらっしゃい!アダマンタイト砕き、アドマンタイト砕きだよ!参加費は五千エリス、今の賞金は二十万エリスだよ!」

 

 

 なにやら人だかりからそんな声がする。

 アダマンタイトって、確かめちゃくちゃ硬い石じゃなかったか?

 他の冒険者たちが挑戦しているのを見ていると、ふとカズマが。

 

 

「壊せれば何してもいいらしいな。ヒデオ、どうだ?」

 

 

 そんな事を言ってきた。

 確かにワンチャンあるだろう。

 周りへのリスクを考えなければの話だが。

 

 

「確実に壊すとなると明日から俺がブタ箱に入ることになるがいいのか?」

 

「…ちなみに気功波禁止な」

 

「ちぇっ」

 

 

 挑戦するか悩んでいると、よく知った気が近づいてきた。

 

 

「真打ち登場」

 

 

 もはや頭がおかしいだけで通じるようになった爆裂狂こと、めぐみんである。

 

 

 とりあえずこの馬鹿が何かをする前に、その場にいた冒険者全員で取り押さえた。

 

 

 

 

「下ろしてくださいヒデオー!私の爆裂魔法ならアダマンタイト如き一撃で屠れますから!!」

 

「その一撃が問題なんだろうが!あ、すいませんね、出来ればこの商売はやらない方がお互いの為に…」

 

「そ、そうですね!お騒がせしましたー!」

 

 

 めぐみんを担ぎながらアダマンタイト砕きの店主に謝る。

 ここで問題起こしたらカズマの裁判が不利になるかもだからな。

 他の冒険者にも諭され、店主は急いで店じまいをした。

 

 めぐみんと合流したついでにアクアの居場所を聞いた。

 なんでも、芸で金を稼いでる人の隣で無償でもっと凄い芸を披露したんだとか。鬼かあいつは。

 

 

 めぐみんを加え少しだけブラブラと回り、ゆんゆんと解散して屋敷へと帰る。その途中でアクアとも合流した。

 

 

 ……ダクネスが帰ってきてるといいんだが。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 翌朝、屋敷。

 

 

 昨日はあの後帰ったらダクネスが居た、なんてことは無く、ダラダラと内職したり商品案を考えたりして過ごした。

 

 今日も今日とて商品開発。俺がアクアと暖炉前争奪戦をしていると。

 

 

「この気は…」

 

 

 ヒデオがそう呟く。誰か知り合いか?

 そう思い誰だろうと心当たりのある人物を思い浮かべる。またセナか?

 俺が頭を悩ませていると。

 

 

「大変だ!みんな、大変なんだ!」

 

 

 高級そうな白のドレスを身に纏い、同じく白のハイヒールを履いた三つ編みの美女が屋敷へと入ってきた。どこかの令嬢か?

 というか、誰?

 

 

「……!?」

 

 

 ヒデオに至っては知り合いが来ると思っていたのに全く知らない人が来たせいか、目を何度も何度もこすっている。バイキン入るからやめなさい。

 

 

「…あんた誰?」

 

「!?」

 

 

 そう言われた美女は信じられんとでも言わんばかりの顔で俺を見た。

 いやほんと誰。

 こんな知り合い居たっけな、と再度脳内の記憶を掘り起こしていると、ヒデオが。

 

 

「…カズマ。多分そいつダクネスだ」

 

「えっ!?この美女があのドM!?」

 

「ドエ…!?帰ってきたばかりだというのに、カズマは容赦ないな…」

 

 

 頬を赤らめながらいう金髪美女。

 あ、完全にダクネスだこれ。

 

 

「あら、ダクネス。おかえりなさい!」

 

「おかえりなさいダクネス。色々とあるでしょうが、とりあえずは風呂に入ってゆっくり休んでください」

 

「風呂…?いや、今はそんな暇はないんだ。一刻も早く…」

 

 

 なにやら焦っているダクネス。

 理由はわからないが、焦る事があるらしい。それとも、俺たちに心配をかけないようにしているのだろうか。

 しかし、傷心の仲間を放っておけるほど俺達は人間が出来ていない。

 

 

「まぁ落ち着けって。疲れたろ。肩でも揉んでやろうか?カズマ、茶でも淹れてやれ」

 

 

 ヒデオがそう言いダクネスをソファに座らせようとする。

 お茶か。心を落ち着かせるにはいいかもな。

 淹れてやろう。

 

 

「わかった。落ち着くのを淹れてやるからな。待ってろ」

 

「…4人とも、なんだか妙に優しくてむず痒いのだが…。と、とりあえずお前達の方が落ち着け!私の話を聞け!」

 

 

 ダクネスがそう言うと、皆自然と黙る。

 ちゃんと話を聞いてやらんとな。うん。

 

 

「…憐れむような目で見られているのはなんだか納得いかないが、とりあえず用件だけ言う。皆、これから私の実家に来てくれ」

 

 

 よく分からないが、俺達はとりあえずダクネスの実家に行くことになった。

 

 

 ???

 

 

 一体どういうことだってばよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想とかくれるとモチベになるので嬉しいです。

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