この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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編集しゃっす!


第3話 この大食らいにお仕置きを!

 

 

 

 初の異世界での食事という事でゲテモノが出て来ないかと若干警戒はしたが、それも徒労に終わった。材料以外は殆ど変わらず、味も美味しい。ただ、美味いのは美味いのだが全く食い足りない。これでも五人前くらいは平らげたはずだが、全然腹が満たされない。胃袋までサイヤ人になっているらしい。嬉しいようなそこまではいらなかったような。

 自分の金なら満足が行くまで食うのだが、他人の金ってのがネックだ。いくら奢りだからといってバクバク食べては卑しいやつとして認識されるだろう。

 ひとまず状況を整理しておこう。食べながら。まず、俺はサイヤ人で大食い。カズマは奢ってくれている良い奴。そしてカズマは俺と同じく日本人で転生者。つまり、なにかしらの特殊技能を持っていて、沢山稼いでいるはず。格好がみすぼらしいのは今日がオフだから。よし、もう少しくらい食うか。

 すかさずウェイトレスを呼び、美味そうなメニューを見繕ってもらう。カズマがすごい顔で見てきてる気がするが、気のせいだろう。

 やがて出されてきたテーブルいっぱいの料理を遠慮なしに食らう。

 げに恐ろしきはサイヤ人の食欲。

 凄まじい身体能力と引換に莫大なエネルギーを消費するこの身体は、他人の懐事情などお構いなしにものを食らう。食べたものは一体身体のどこに消えていくのか。胃袋がはちきれはしないのか。消化機構はどうなっているのか。良心の呵責はないのか。キリがない。

 根底にあるのは一つ。たった一つのシンプルなものだ。

 食すという欲求のみ。

 

 人間の三大欲求である食欲。その魔力の前には皆がくっ殺。否、食っ殺である。生きとし生けるものは総じて何かを食す事によりその生命を繋いでゆく。いったい誰がその営みを阻むことが出来ようか。

 カズマの顔がえらい事になっていようが、あまりに食べるので若干ウェイトレスにドン引かれていようが、食いっぷりを見に小さな人だかりができていようが、そんなものはお構い無しに食らいつく。

 

 食事は自由だ。

 何者にも囚われることなく、ただ己の道を突き進む。

 何も考えることは無い。ただ味わえば良い。

 目で彩りを楽しみ、手で温もりを堪能し、鼻で匂いを頬張り、耳で響く音を満喫し、そして味わう。

 それが食事というものだ。

 

 

「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか……救われてなきゃダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……」

 

「……急にどうした。というかそろそろ食べ終わって欲しいなーって」

 

「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか……救われてなきゃダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……」

 

「お、おいそのやけに腹立つ顔やめろよ。そして食事の手を止めてくれ」

 

「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか……救われてなきゃダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……」

 

「ダメだコイツ聞く耳持たねぇ」

 

 

 食すという行為は時に他者に疎まれる事もある。その性質上、必ず平等とはいかなくなるからだ。だが、利益を得ている者と必ず不利益を被る者が居るのは自然の摂理だ。カズマが俺を止められないのは弱いから。まさに弱肉強食である。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 やばいやばいやばい。

 何がやばいってこいつの胃袋がやばい。かれこれ二十人前くらいは軽く平らげているのにペースが全く落ちていない。というか若干加速してる気がする。止めようにもさっきやけに腹立つ顔でスルーされたし、力ずくで引き剥がそうにもヒデオの割とでかめの体格に俺の貧弱なパワーが効くのかが疑問だ。いっそのことコイツを放置してこの場を去ってやろうか。いや、こんな事で特典持ちを手放すのは惜しい。不幸中の幸いか、ここはツケもきく。しかしあまり良い結果ではないだろう。

 これで役に立つ特典じゃなかったら酷いぞ。俺の幸運値はずば抜けてるんじゃなかったのか? ………これは置いておこう。虚しくなる。

 

 さて、コイツが食い終わるまで暇だし、こいつの特典について考察でもしよう。

 まず第一に、剣や防具など目立った装備は持っていない。他の特典持ちを見た事がないから知らんが、取り出し自由とかいう可能性もあるしこれも無視出来ない。

 次に、謎の尻尾が生えている点だ。見た感じアクセサリとかではないし、ゆらゆらと動いている。この尻尾がなんでも叶える不思議な尻尾だったりしないだろうか。これも保留。

 そして最後に、こいつの大食いっぷり。見た目は全然太ってないし、むしろ細い方だ。元々大食いだった線もあるが、特典の影響で大食いの可能性だってある。これも保留。

 となると、装備などの外的特典ではなく、体質や才能の内的特典の可能性が高い。才能のせいでカロリーを消費するから大食いになるってのもなんとか頷ける。尻尾がある点が気になるが。

 いや、待てよ? なにか、何かあったはずだ。大食漢で尻尾を持っている何かが。なんだっけか……。

 

 あ、そうだ。

 

 

「なぁアクア。お前アイツの特典について心当たりあるか? 大食漢と尻尾が手掛かりなんだが」

 

「いちいち特典の内容なんて覚えてないけど、確か尻尾を持って行く特典なんて無かったはずよ。大食いはあったはずだけど、両方ってのは無かったわね」

 

「大食いはあるのか。まぁあれも一種の才能だしな。けど、なーんか引っかかるんだよな。尻尾があって、大食漢って」

 

 

 こう、喉元まで出かかっているのに出て来ない。もどかしい。

 

 

「カズマが何に悩んでるのか知らないけど、私それだったら心当たりあるわよ。特典じゃないけど」

 

「お、マジか。教えるだけ教えてくれ」

 

「ほら、カズマも読んだことくらいはあるでしょ? ドラゴンボール。あれのサイヤ人も尻尾が生えてて大食いだったなーって。あ、けどサイヤ人になるって特典は無かったはずだから……」

 

「そんなものがあってたまるか。多分それあったら殆どの日本男児は選ぶぞ……」

 

 

 俺だってサイヤ人になれる特典があったなら迷わずそれを選んでいるだろう。それくらいサイヤ人になれるというのは魅力的だし、憧れでもある。

 ドラゴンボールを読破した奴なら一度はかめはめ波の練習したり超サイヤ人に覚醒したいと思った事があるはずだ。

 

 仮に、仮にこいつが本当にサイヤ人だとすれば、借金を背負ってもお釣りで世界を救えるレベルの特典だ。

 だが食事中で話を聞かないこいつにそれを確かめる術は……いや、ある。一つだけ、たった一つだけある。

 

 それは。

 

 

「いい加減食うのをやめろ! 喰らえ、尻尾への握撃!!」

 

「!?」

 

 

 尻尾を思いっきり握られたせいか、急に力が抜け、テーブルに倒れ伏すヒデオ。

 俺の読みは正しかった。こいつサイヤ人だ! これで勝てる!

 

 

「急にどうした……?」

 

「どうしたもこうしたもあるか。お前が話を聞かないせいで強硬手段を取るしかなくなったんだよ。だが、これでハッキリした。どうやったか知らんが、お前の特典、サイヤ人になる事だろ」

 

「おぉ、よくわかったな。種族変更ってのがあって、それでやってもらった。混血らしいけど、お前が握ってる尻尾もあるしこの大食らい。完全にサイヤ人だ」

 

「そうか、それを聞いて安心した。で、お前は俺に奢られているという立場で、これは完全に上下関係にある……あとはわかるよな?」

 

「……稼いで奢り返せばいいのか?」

 

「違えよ。パーティーに入れって言ってんだ。拒否権はない」

 

 

 拒否権が無いとはいえ、本気で抵抗されたら絶対負ける。

 だが、ヒデオの返答は意外なものだった。

 

 

「なんだそんな事か。いいぞ。なんならこっちからお願いしたいくらいだ。宜しくなカズマ」

 

 

 意外も意外。即答だった。いや、嬉しいんだけど……もうちょっと警戒しても良かったんじゃないか?

 

 

「そ、そうか。宜しくなヒデオ。……で、そろそろ食うのをやめて欲しい」

 

「まだ食い足りないが……まぁまた後で腹いっぱい食えばいいか。すいませーん、お会計お願いします」

 

 

 あんだけ食ってまだ食い足りないのか。食費がやべぇことになりそうだな。

 まぁ何にせよ、サイヤ人という最強の戦力を手に入れた訳だ。初めのうちは役に立たなくても、やがては世界最強になること請け合いだ。

 

 これで少しは楽に……なるよな?

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 カズマにサイヤ人という事がバレた。別に隠していたわけじゃないけど、よくわかったな。そしてカズマが半ば脅迫のようにパーティーに入る事を迫ってきたが、俺はこれをあっさり承諾。サイヤ人とはいえ、鍛えないと弱いままだろう。だから仲間が居るってのは有難いし、同じ日本人だからってのもある。一緒にいるメンバーもみんな可愛いし、断る理由が無い。

 

 

「早速紹介するぜ。こいつはめぐみん、名前は変だがアークウィザードだ。んで、この青い髪がアクア。アークプリーストだ」

 

「名前が変とは失礼な! ……こほん。我が名はめぐみん! 紅魔族随一のアークウィザードにして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

 

 

 めぐみんと名乗った胸部にまな板を装備した少女は、紅い瞳をキラリと輝かせて厨二心をくすぐるセリフとポーズで自己紹介をキメた。名前は変だが紅魔族随一のアークウィザードとか言ってるし、最強の魔法を使えるとも言っているし、期待ができそうだ。名前は変だけど。

 

 次いで、青い髪と雑に紹介されたアクアという美少女の自己紹介。

 

 

「青い髪ってなによ! いや、確かに青い神だけど……。まぁいいわ! 私はアクア、女神アクアよ! アクシズ教団が崇めし御神体よ!」

 

 

 突っ込みどころは多々あるが、聞き捨てならない単語が聞こえた。アクシズ教だって?

 あの俺をいきなり勧誘してきたあの? おっぱいのでかいシスターさんが信仰しているあの?

 

 

「お前が元凶か!」

 

「ね、ねぇカズマ! なんかこの人すっごく怖い顔で睨んでくるんですけど! 私何かした!?」

 

「とりあえず謝っとけ。多分お前が悪い」

 

「なんでよー!!」

 

「悪い、アクシズ教って単語にいい思い出が無くてな。さて、俺も自己紹介をしよう。俺はヒデオ。クラスはコンバットマスターだが、今日この街に来たばっかりだ。初めのうちは足を引っ張ることがあると思うが、そのうち皆を引っ張っていくようになると思うのでどうぞよろしく」

 

 

 実はこのパーティー、この街でも一級品の変人が集まっているのだが、この時の俺はまだその事実を知らない。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 先にパーティーに入りたいと言っている私を放置して他の人を入れるとは……何たる鬼畜! 許せん!

 

 ぜひとも私もあのパーティーに入れてもらいたい……!!

 

 あの尻尾がついている方の少年も、なかなかの逸材だと私の感覚が叫んでいる。

 

 ……そうだ、明日にでもクリスを誘ってあのパーティーに絡みにいこう。あの少年一人では断られてしまうが、他の人の反応はわからないからな。それに私は攻撃が当たらないとはいえ、上級職に就いている。断られる可能性の方が低い。

 

 それに、断られたら断られたでそれはそれで……。

 

 そうとなれば早速クリスを誘いに行かなくては!

 




次は初クエストです。

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