この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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次はオリジナルでも書きます


鈍ら五重奏〜ナマクラクインテット〜編
第三十一話


 バニルとの一件があってから一月ほど。

 

 季節は春真っ只中。暦的には春の始まりくらいなのだが、今年は冬が短かったそうだ。

 恐らくヒデオが雪精を討伐しまくったから若干短くなったのだろう。

 そんなヒデオはというと…。

 

 

「頼む!」

 

「絶対に嫌だ」

 

「先っちょ、先っちょだけだから!!」

 

「しつこい!」

 

 

 さっきからダクネスと何か騒いでいる。恐らくまた例のアレだろう。

 気にせずバニルとの商売に使う商品を開発する作業に戻る。

 

 

「だから頼む!ヒデオの大きくて熱いものを私にぶち込んでくれ!」

 

「誤解を招く言い方をするな!お前街中でそれ言ったら今度こそララティーナって名前を広めてやるからな!」

 

 

 ごめんね!もう広めちゃいました!

 しかしまだその事を知らないダクネスはそれはダメだと抗議した。

 

 

「なっ!それはよせ!」

 

「だったら我慢しろ!」

 

「それは無理だ!」

 

 

 バニルとの一件でヒデオの気功波を喰らったダクネスは、どうやらその刺激と快感にどハマりしたらしい。

 こんなやりとりが毎日続いている。

 ダクネス曰く、試し撃ちの相手というていでぶち込んで欲しいらしい。

 全くこの子はもう…。

 

 ヒデオに断られ、悔しそうな顔をしながらダクネスはとんでもないことを口走った。

 

 

「くっ…!こうなったら、壊れた方の鎧で街中を歩いて、ヒデオにやられたって言いふらしてやる!」

 

 

 間違ってはいないな。ヒデオのギャリック砲で壊れたし。

 しかし、ヒデオには悪いがその姿は是非見たい。

 べ、別にやましい気持ちとかないしぃ!?

 

 ……やましい気持ちしか無かったわ。

 

 俺が俺の本性に落胆していると、ヒデオは限界が来たのか立ち上がり声を荒げながらダクネスに言い放つ。

 

 

「子どもか!ええいわかった!そこに直れ!その根性叩き直してやる!」

 

「おぉ!やっとか!待ちくたびれたぞ!さぁ!あ、ヒデオの好みで焦らしてくれても…」

 

 

 そうダクネスが言い終わる前に、ヒデオは瞬時に背後にまわり当て身をした。

 相変わらず意味わからないレベルの速さ。

 この光景も何度見た事か。

 

 ダクネスが気絶してるうちにヒデオが何処かへ逃げるというのが一連の流れである。

 

 しかし、今日のダクネスは一味違った。

 

 

「ぐ…!耐え…る!」

 

 

 なんと、ヒデオの超高速当て身に耐えたのだ。

 

 

「ど、どうだヒデオ!耐えたぞ!今のもなかなか気持ちよかったが、まだだ、まだ足りん!」

 

「もう嫌だ…!!」

 

 

 ヒデオが泣きそうな顔でこちらを見てくる。

 必死こいて魔王軍幹部を倒した結果ドMに懐かれるとか不憫過ぎる。

 不憫過ぎるので、ダクネスを諫めにかかる。

 

 

「ま、まぁダクネス。落ち着けよ。ヒデオだって仲間に攻撃したいとは思わないさ。気が向いた時とか、ストレス発散したそうな時に言ったら案外やってくれるんじゃないか?それに、願いがすぐ叶ったら味気ないだろ?」

 

「むぅ…それもそうか。ヒデオ、ストレス発散したい時は遠慮なく私に言ってくれ!」

 

 

 渋々納得したようだ。よかったよかった。

 一番のストレスの原因はダクネスかも知れないが、そこは黙っておこう。

 

 騒がしさがなくなり、やっと落ち着いて作業できる。そう思っていた時。

 

 

「カズマ!クエストに行きましょう!モンスターに爆裂魔法をぶち込みたいのです!この間は大した活躍も無かったですからね!」

 

 

 めぐみんがフンスフンスと鼻を鳴らしこちらに詰め寄ってくる。近い近い。

 

 しかし、クエストに行く気は無い。

 めぐみんを遠ざけ、正面に見据えてハッキリと言い放つ。

 

 

「嫌だよ。めんどくさい。借金があるわけでもないし、こないだの報酬だって残ってるし、なんでわざわざ働かなくちゃなんねーんだ。めんどくさいし。俺は今商売のことやってて忙しいんだよ。あっち行った。しっしっ」

 

 

 あっち行けと手を振って促す。

 すると、めぐみんは何を思ったのか俺の手を掴み…

 

 

 ガブリ。

 

 

「いってぇーー!!!」

 

ふへふほひひひはひょふ(クエストに行きましょう)!」

 

「何言ってるかわかんねぇよ!痛い痛い!離せこのロリっ子!」

 

「んー!」

 

 

 手をブンブンと振って引き抜こうとするが、離そうとしないめぐみん。このっ…!

 

 

「離せ、離しなさい!わかった、わかったから!クエストに行けばいいんだろ!」

 

「ふぅ…。やっと分かってくれましたか」

 

 

 やっと俺の手を噛むのをやめるめぐみん。

 うわぁ、ねっちょりしてる…。こいつのローブで拭いてやろう。

 

 

「ふふふ、さぁ早速ギルドに…うわカズマ!何するんですか!ローブが唾液でネトネトに!」

 

「お前の唾液だからお前が処理しろ」

 

「それくらい手を洗いに行くなりすればよかったじゃないですか!」

 

 

 ギャーギャーと喚くめぐみんを放置し、仕方無くクエストに行く準備をする。

 

 ……あ、用事があったのを忘れてた。

 

 

「あ、めぐみん。クエストに行く前に行く所あるから、先行っててくれないか?」

 

「うーん…。一人で行かせると逃げる可能性があるので着いていきます。クエストの確保はヒデオ達に任せます」

 

「了解。おらダクネス、アクア、行くぞ。ついでにちょむすけも連れて行こう。ほら乗れ」

 

「なーお」

 

 

 ちょむすけを頭に乗せアクアとダクネスを背中に乗せ飛んでいくヒデオ。

 

 …働きたくないなぁ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 ギルドにて。

 

 

「お、ララティーナじゃないか!」

 

「ララティーナさん、こんにちは!」

 

「ララティーナ!腕相撲しようぜ!」

 

 

 こいつはひでぇや。

 ララティーナの方を見ると、顔を真っ赤にして涙目になっている。

 多分カズマの仕業だな。

 

 ララティーナと呼ばれ顔を真っ赤にしているお嬢様を見てにやけていると、何を思ったのかこっちに近付いてきた。

 そして、俺の肩を掴み……。

 

 

「き、貴様…!よくも言ったァァァァ!言ってくれたなァァァァ!」

 

「ちょ、やめ、揺れる揺れる!」

 

 

 脳が、震える(物理)。

 頭に乗っていたちょむすけは咄嗟にアクアに飛び移った。

 

 

「え、冤罪だ!まだ言ってない!揺らすな!頭痛くなってきた!あと肩も痛い!」

 

「何を言うか白々しい!貴様以外に居ないだろう!ぬ!抵抗する気か!」

 

 

 まだ揺らそうとしてくるダクネスの腕を掴み、肩から離す。コイツ力強っ!

 互いに両手を掴み睨み合う体勢になる。顔近い。

 

 

「落ち着けって!よく考えろ!うちのパーティーにこんなことしそうな奴もう一人居るだろ!それにお前、前にアイツと勝負した時わざと負けてたろ!多分それがこれなんじゃないか!?あと顔が近い!」

 

 

 そう言うと、ダクネスは掴む力を緩め、手を離す。

 そして顎に手を当て何かを考える仕草をした後。

 

 

「アイツ…。カズマか!ぶっ殺してやる!」

 

 

 そう叫ぶとギルドから出て行ったララティーナ。カズマ死んだな。

 おっと、そんな事よりちょむすけは無事か?

 ちょむすけを抱えたアクアに問う。

 

 

「おいアクア。ちょむすけは無事か?」

 

「無事だけど、この子私に噛み付いたり引っ掻いたり尻尾ビンタしてくるんですけど。私の方が無事じゃないんですけど」

 

「そうか、よかったよかった。無事か。ほらちょむすけ、乗れ」

 

「なーお」

 

「ねぇ、私の心配はしてくれないの?ねぇったら」

 

 

 何故か後ろで騒がしいアクアを放置し、ちょむすけを連れ掲示板へ向かう。

 

 すると。

 

 

「おやタナカさん。こんな所で会うなんて奇遇ですね」

 

 

 カズマを魔王軍の関係者ではないかと疑っていたセナが話し掛けてきた。疑いは解けたが。

 それにしても、奇遇、奇遇か…。

 

 

「外出の度に尾行してなければ奇遇だな。今日も屋敷に来てたろ」

 

 

 そう。何故かバニなんとかさん戦後に外出していると、もれなくセナが尾行してきていたのだ。

 気の感知のせいである程度まで近付かれると普通に気付く。

 

 

「うっ…。気付かれていましたか。これでもバレないように着いて行った筈なんですけどね」

 

「潜伏スキル持ちでもない限り俺に気付かれないのは無理だろうな」

 

 

 前にカズマとかくれんぼした時に潜伏スキルを使われて気付いた。

 かくれんぼと言ってもアクアとカズマが寝てる俺の額に「肉」って書いたからぶっ殺してやろうと追いかけたら隠れやがっただけだ。

 

 俺が楽しい思い出に浸っていると、セナが訝しげな表情で。

 

 

「前にも聞きましたがあなた本当に何者なんですか?」

 

 

 そう言ってきた。何者って言われてもなぁ。

 

 

「だからサイヤ人だって。いや、そんな事はどうでもいい。何か用があるんだろ?こう見えて俺は忙しいんだ。早くしてくれ」

 

「そ、そうですか…。普段の尾行は私の個人的なアレですが、今回は違います。仕事の依頼をしたくてお伺いしたのです」

 

「依頼?詳しく聞かせてもらおうか」

 

 

 個人的なアレはスルーの方向で。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 リザードランナー。縮めてリザードン。

 それは、二足歩行する大型のトカゲで、普段は大人しく害も少ないモンスターらしい。

 しかし、姫様ランナーと呼ばれる大きなメスの個体が生まれると、途端に厄介になるそうだ。

 姫様を取り合うために速さを競うのだが、これが問題なのだ。

 同種族で競うのならまだしも、足が速い他生物を抜き去り、その数で姫様のつがいになれるかどうか決まるそうだ。

 

 どうやってカウントしてんのかな。

 

 ともかく、セナが依頼して来たのはリザードンの群れの討伐だ。

 なんか某御三家の方とややこしいからトカゲでいいや。

 セナが俺達に依頼して来た理由は魔王軍幹部討伐の実績を買ってのことらしい。

 手のひら返しとはこの事か。

 

 なので、俺達は今トカゲが出て来る平原に居る。

 

 作戦としては俺が気功波で誘導し、なんやかんやして姫様ランナーだけを討伐するそうだ。他のトカゲは姫様が消えたらどっか行くらしい。

 色々とフワッフワな作戦だが、まぁ大丈夫だろう。

 ちなみにちょむすけはウィズの所に預けてきた。アクアがバニなんとかさんと喧嘩しそうになったが、首トンで止めた。

 

 

 そろそろ頃合だろうと木の上に居るカズマに声をかける。

 

 

「おいカズマ。準備は良いか?」

 

「おう。レベル上げたいから出来れば他の奴も仕留めずに足止めしといてくれると嬉しい」

 

 

 カズマがそう返してくる。

 うん。強くなれる時に強くならなきゃな。

 カズマの向上心(?)に感心していると、めぐみんが物申した。

 

 

「あ、カズマ!ずるいのです!いくらパーティーで1番レベルが低いからといって、それはずるいのです!」

 

 

 おおかた大量のモンスターに爆裂魔法をぶち込みたいのだろう。相変わらず頭のおかしい子の考えることはわからん。

 さっきだってカズマの刀に「ちゅんちゅん丸」とかいう不名誉極まりない銘を刻んでたからな。

 

 

「いつもだいたいお前に美味しいとこあげてるんだから良いだろ!お前と違って俺は必殺技ないんだから!」

 

 

 ちなみにレベル順としてはアクア、めぐみん、俺、ダクネス、カズマである。

 雑魚は基本めぐみんに一掃して貰うし、アンデッドとかもアクアに任せるので、攻撃が当たらないダクネスと、強敵としか戦わない俺、殆ど戦わないカズマ。この三人は性質上あまり経験値が貰えないのでレベルも低い。

 

 もちろんサイヤ人の特性を活かしたあの反則技はやらない。

 

 

「むぅ…。それもそうですね。なら、今度代わりとして何かモンスター討伐クエストに行きましょう」

 

「はいはいわかったわかった」

 

 

 はいはいと適当に流すカズマ。

 めぐみん、こいつ出来るな。さり気なく言質取ったぞ。

 それに、大きい要求をした後に小さい要求をすると通りやすくなるとかいう手法があったような。

 そんな事を考えていると、トカゲの群れと思われる気が近付いてきた。

 

 

「カズマ、来たぞ!」

 

「手筈通り頼む!」

 

「了解」

 

 

 そう言い上へ飛んでいく。

 引き付けたり追いやったりするだけの簡単なお仕事だ。

 

 なんか嫌な予感がするが、気のせいだろう。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 ヒデオがトカゲの大群の上を飛び回っているのを見ていると、異変に気付いた。

 

 トカゲが全く俺達の方に来ない。むしろヒデオの方に行きまくる。

 

 はい。原因はわかってます。

 元凶のヒデオに叫ぶ。

 

 

「ヒデオ!お前速すぎ!さっきからトカゲがお前のとこしか行ってないんだが!」

 

 

 そう、あのバカがトカゲより速い速度で飛ぶので、トカゲ共は躍起になってヒデオを追いかけ回していた。

 当のサイヤ人はというと。

 

 

「こいつら抜く度にドヤ顔で振り向いて来るからムカつくんだよ!善意で抜かれてやってんのに!」

 

 

 憤慨していた。

 そう言われてもなぁ。こっちに来ないんじゃ話にならない。

 

 

「それくらい我慢しろ!作戦の一割も終わってない!なんとかしてこっちにおびき寄せてくれ!」

 

「あぁもうわかった!そっち連れてきゃいいんだろ!おら!着いてこいトカゲ共!!」

 

 

 何を思ったのか、ヒデオはこちらに向かって飛んできた。

 なるほど、速いヤツを抜こうとするのを逆手に取ったわけね。なるほどなるほど…。

 

 

「…って速い!速いよ!意外と速いよリザードランナー!」

 

 

 猛スピードで駆けてくるトカゲの大群に慌てて弓を構え、狙撃スキルを乱射していく。俺の幸運値ならほぼ当たる。多分。

 

 

「っ!『狙撃』!『狙撃』!『狙撃』!あぁっ!数が多すぎませんかね!!どれが姫様ランナーだ!?『狙撃』!『狙撃』!『狙撃(シュートヒム)』ッ!」

 

 

 全く足止めしてくれなかったヒデオを恨みつつ、トカゲ共に弓を乱射していく。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 数分後。

 

 

「あぁっ!矢が尽きた!」

 

 

 結論から言うと、ヒデオが追いかけ回されていたのは役に立った。

 大量のトカゲを誘導出来るので、何度も何度も狙撃地点におびき寄せる事が出来たのだが。

 如何せん数が多すぎた。

 矢は充分すぎるほど持って来ていた筈なのだが、尽きてしまった。

 途中姫様ランナーのつがいである王様ランナーを倒してしまったせいでトカゲがやる気になってしまったし、散々だ。

 

 未だトカゲと追いかけっこをしているサイヤ人に文句を言う。

 

 

「おいヒデオ!何一つ作戦通りに行ってねぇじゃねぇか!」

 

「経験値手に入れれたんだからいいだろ!俺も結構疲れてきた!」

 

 

 そう返してきた。

 まぁ、経験値はおいしかったが。

 もう色々とめんどくさくなってきたので例のアレでぶっ飛ばしてもらおう。

 

 

「めぐみん!出番だ!」

 

「えぇ…。出番があるのは嬉しいのですが、なんか後処理のような気分がして若干ムカつくのですが…」

 

「文句を言うな文句を!はよ!」

 

 

 そう言いめぐみんを急かす。

 

 

「納得が行かないのですが…。まぁいいでしょう!我が最強の奥義、その身でとくと味わうがいい!」

 

 

 めぐみんが詠唱を始める。

 すると、それに気付いたヒデオが焦り出した。

 

 

「えっ、ちょ、めぐみん、待て待て待て!」

 

 

 まだトカゲの近くに居るから焦っているのだろう。

 まぁアイツなら多分死なないし。うん。

 

 

「構わん!やれ!」

 

「やれ!じゃねぇんだよ!お前後で覚えとけよ!」

 

 

 そう言いながらもまだトカゲを引き付けているヒデオさん流石っす。

 

 

「ちゃんと避けてくださいねヒデオ!『エクスプロージョン』!!」

 

「えっ、ちょ、待っ!」

 

 

 ヒデオの言葉を掻き消すように轟音が轟き、爆風が吹き荒れる。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 爆炎が収まり、爆心地には大きなクレーターがあり、トカゲ達は跡形もなく消し飛んでいた。ヒデオはどこだ?

 

 

「おーいヒデオさーん」

 

 

 呼び掛けるが、返事が無い。

 消し飛んじまったか?いや、あいつに限ってそんな…。

 少し心配になってきた。

 葬式は和式にするか洋式にするか悩んでいると、ダクネスが。

 

 

「あ、カズマ!居たぞ!」

 

 

 どうやら見つけたらしい。

 

 早速近くに行き声をかける。

 

 

「おーい起きろー」

 

「」

 

 

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 

 

「おいアクア。リザレクションの準備を…」

 

「はいはーい」

 

 

 駆け寄ってくるアクア。

 慣れたものだなと感心していると。

 

 

「勝手に殺すな」

 

「うわぁぁ!喋ったー!」

 

 

 アクアがそう叫ぶ。

 見ると、死んだはずのヒデオが起き上がっていた。

 あ、これマズイパターン…。

 

 バレないようにそろそろーっとその場を離れようとする。

 

 

 が。

 

 

「一体どこに行くんだカズマよ。ちこうよれ」

 

 

 笑顔で手招きしてくるヒデオ。

 うわぁ、行きたくねぇ…。

 

 

「…拒否権は?」

 

「あると思うか?」

 

「ですよねー」

 

 

 そう言いつつヒデオからジリジリと遠ざかって行く。弱ってる今ならチャンスだ。三十六計逃げるに如かず。

 

 

 しばしの沈黙。

 

 

「…あばよ!」

 

「あっ!待ちやがれ!」

 

 

 ヒデオが追いかけてこようとするが、アクアに止められる。

 

 

「あ、ダメよヒデオ。安静にしないと。死んでないとはいえ、怪我はしてるじゃない」

 

「ぐぬぬ…!てめぇ後で覚えとけよカズマ!」

 

「いいや!覚えないね!逃げるんだよォー!」

 

 

 割とガチギレするヒデオを背に、アクセルの街へ逃げ帰る俺。

 

 ……今日は家に帰りたくないなぁ。

 

 

 

 

 




平穏とは一体…。

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