この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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風邪ひいてるんでクオリティは勘弁(言い訳)


第三十四話

 

 

 貧乳盗賊団と遭遇してから数日後。屋敷にて。

 

 

「温泉に行くわよ!」

 

 

 アクアが突然そんな事を言い出した。

 こいつの奇行はいつもの事なので、特には気にならない。

 

 それにしても温泉か、いいね。

 浴衣、覗き、混浴…楽しみはいくらでもある。

 

 しかし、唐突過ぎやしないか?

 同じくそう思っていたらしいカズマがアクアに問うた。

 

 

「行くのはいいんだが、急にどうした?」

 

 

 そう言われると、アクアは得意気に笑い懐から何かを取り出した。

 

 

「ふっふっふ!聞いて驚きなさい!商店街の福引きで、水と温泉の都アルカンレティア行きの無料乗車券が当たったの!きっと日頃の行いが良いお陰ね!」

 

 

 なんと。幸運が最低レベルの駄女神にこんな幸福が訪れようとは。

 こいつ明日死ぬんじゃねぇか?

 

 

「なるほど。よし!今までの数々の功績へのご褒美として皆で行くか!」

 

 

 カズマがそう言うと、皆快く賛成した。

 

 何気にこのパーティー初の遠出なので、楽しみだ。

 

 しかし、一つ気がかりな事というか、不安な事がある。

 

 

「なぁカズマ」

 

「なんだ?」

 

「アクアが当てたってだけで何か起こりそうな予感がしてならないんだが」

 

 

 一やると三くらいやらかす駄女神が当てたという時点でかなり不安だ。

 

 

「不安になることを言うな。けどまぁ、大抵の事は何とかなるだろ」

 

 

 そう言うカズマ。確かにコイツの言う通り、よっぽどでもない限り何とかなるだろ。

 それでも一抹の不安は残っているが、旅行自体は楽しみだ。

 

 

 この時は、まさかあんな事になろうとは思いもしていなかった。

 

 

 …って言うと本当に何か起きそうだな。やめとこ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 アルカンレティア行きの商隊の馬車の中。

 ちなみにアクセルからアルカンレティアまでは数日かかる。

 

 

「誘っていただいてありがとうございます。私、温泉大好きなんですよ」

 

 

 そう礼を言ってくるウィズ。喜んでるみたいだし、誘ってよかった。

 

 ウィズは店の事があるからと始めは断っていたが、バニルに『店の事は我輩に任せて行ってくるがいい。居られると邪魔である』と言われ来ることになった。

 これはバニルの本心だろうが、当のウィズはバニルなりの気遣いだと言っていた。

 自覚のない悪ほど恐ろしいものはない。

 ゆんゆんも連れてこようとしたが、用事があるらしくまたの機会に、との事だ。

 めぐみんがゆんゆんに『あなたに用事なんてあるんですね』と言って喧嘩になったのは割愛。

 

 

「そいつは良かった。まぁ気負わずに楽しんでくれ」

 

「はい!」

 

 

 そうカズマに言われ、元気よく返事をするウィズ。うん。元気なのは良いことだ。

 

 例の如くちょむすけと遊んでいると、定員オーバーにより後ろの荷台に乗っているアクアが不機嫌そうに話しかけてきた。

 

 

「そろそろお尻が痛いから代わってほしいんですけどー!」

 

 

 アクアが何故荷台に乗っているかというと、カズマにジャンケン三連敗を喫したからである。

 カズマ曰く、日本にいた頃からジャンケンでは負け無しらしい。運すげぇな。

 

 

「もうちょっとで休憩に入るはずだから、その時に代わってやるよ」

 

 

 俺がそう言うと、アクアは上機嫌で鼻歌を歌い始めた。ちょろい。

 

 

 

 その後も談笑したり景色を眺めたりしつつ旅路を楽しんでいると、それは来た。

 

 

「なぁヒデオ。ちょっと気の感知を広げてみてくれないか?2キロくらいまで」

 

 

 窓の外を眺めていたカズマが突然そんな事を言ってきた。急にどうした?

 

 

「どうした急に。まぁいいけどよ…。どれどれ。えーっと…なんだコイツら。多いし速いな」

 

 

 商隊の進行方向より右に1.5キロほどの地点から大量の気が近付いて来ている。それもかなりの速度で。

 その旨をカズマに伝えると、やはりかと言ったようにため息をついた。

 

 

「見間違いとかじゃなくてやっぱりなにか居るのか…。すんません、なにかが土煙をあげて近付いてきてるんですが、それもかなりの速さで。何ですかアレ」

 

 

 そう御者のおっさんに聞くカズマ。

 

 おっさん曰く、この辺りで土煙を上げてかなりの速度で移動する生き物といえば、リザードランナーくらいらしい。

 しかし、リザードランナーは俺らが倒したのでその可能性は低い。という事で、考えられるのは「走り鷹鳶」という名の鳥くらいだそうだ。

 鷹と鳶の異種間交配の末に生まれた鳥類の王者で、翼はあるが飛べず、その代わりに得た強靭な脚力で野を駆け回るらしい。

 飛べないのに鳥類の王者とかどういう事なの。

 走り鷹鳶は硬い壁などにぶつかる寸前で避け、男らしさを競うのだそうだ。チキンじゃないけどチキンレースだな。

 

 奴らはより硬い壁を求めるので、おっさんは大丈夫だろうと言っていたが。

 

 

「現在この馬車に、走り鷹鳶が狙っているであろう硬い壁が一人居ます」

 

 

 そう、カズマの言う通り、この馬車内には殆どのスキルポイントを防御系スキルに振るバカがいる。硬さを求めるあまり筋トレをしまくり乙女としての尊厳を失いそうなお嬢様がいる。

 

 

「カズマの言う通り、この馬車には腹筋が割れそうで気にしているお嬢様がいる。そこらの岩石より硬いであろうコイツが走り鷹鳶の標的にされていてもおかしくない」

 

「なっ…!お嬢様はやめろ!それに、割れてなどいない!うっすらとすじが入っているだけだ!腹筋が割れているといえばお前だってバキバキだろうヒデオ!それに、かなりいい身体をしているとゆんゆんから聞いたぞ!」

 

 

 そう反論してきて俺の腕や脚をさわるダクネス。くすぐったい。

 だが、お前の筋肉とはものが違うのだよ。

 

 

「なっ…!柔らかい…だと!?」

 

「ふっふっふっ。質のいい筋肉ってのはな、普段は柔らかいんだよ。テメェのガチガチに固まった筋肉とは違うんだよ!おら、仕返しだ!」

 

 

 仕返しとばかりにダクネスの腕をさわる。決してセクハラではない。

 

 

 ふにっ。

 

 

 !?

 

 

「柔らかい…だと!?」

 

「ふははは!お前のよく買ってくる筋トレ本、私も読ませて貰ってるからな!あれはいいものだ!」

 

 

 勝ったと言わんばかりの表情でふはは、と高笑いするダクネス。バニルに憑依されてから笑い方が伝染ったか?

 俺がえも言われぬ悔しさに歯を食いしばっていると。

 

 

「いや、どうでもいいから話を聞け」

 

 

 呆れつつ怒っているカズマがそう言ってきた。

 

 はい。聞きます。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 作戦はこうだ。

 狙われているダクネスをヒデオが抱えて飛び走り鷹鳶を誘導する。そして同じくヒデオに乗っためぐみんの爆裂魔法で一網打尽。

 完璧だ。

 ウィズが爆裂魔法役を申し出たが、めぐみんの熱意に押し負けて引き下がった。

 

 

「よし、頼むぞ3人とも!」

 

「今こそ私たち爆裂コンビの名を知らしめる時が来ましたねヒデオ!」

 

 

 なんだその物騒なコンビは。

 

 

「前から思ってたが俺爆裂魔法使えないしその名前はちと違うんじゃないか?」

 

「似たようなことできるし、別にいいんじゃないか?そんなことより早く行って欲しい」

 

「はいはいわかったよ」

 

 

 そう言うとヒデオは二人を乗せ飛んでった。やっぱ便利だな舞空術。

 飛んでいく三人を見守っていると、ウィズが。

 

 

「大丈夫でしょうか…」

 

 

 と、三人の心配をしていた。

 ふむ、安心させてやるか。

 

 

「大丈夫だって。アイツらを信じろ。本来の力を発揮できなかったとはいえお前の友達とタイマン張って勝ったアホと、そのアホの全力に耐えたバカに、デストロイヤーにトドメをさした頭のおかしい娘だぞ?心配すんな」

 

 

 性格はともかく性能(一部)には全幅の信頼を置いてます。これで性格が完璧ならなぁ…。

 

 

「…それもそうですね!信じて待ってることにします!」

 

 

 そう俺に笑いかけるとウィズはちょむすけを膝に置き弄び始めた。

 

 信じろとは言ったけど、信じるの早くない?

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 数日後。アルカンレティア正門。

 

 

「本当にありがとうございました!」

 

「いえいえ。当然の事です」

 

 

 そう顔を引き攣らせながら言うカズマ。

 

 俺達は走り鷹鳶を一網打尽にした後も、様々な災難に巻き込まれました。

 夜中にアンデッドが襲撃してきたり、さてもうすぐアルカンレティアってところで初心者殺しが出てきたり、またアンデッドが襲撃してきたり。

 

 お察しの通り、アンデッドはアクアのせいです。はい。

 

 半ば自作自演のような活躍のおかげで、俺達はすっかり商隊の英雄になってしまった。

 商隊の方々はなにかお礼をしたいと言ってきた。しかし流石にこんなマッチポンプで報酬は貰えないので断った。

 しかし、なんて謙虚な方々なんだ!って感じで美化されてしまい、もうなんだこれ状態である。

 

 

「報酬は要らないと言っていましたが、だからといって何もしないのは違います。なので心ばかりのお礼ですが、私が経営しているホテルの宿泊券をどうぞ!」

 

 

 そう言い商隊のおっさんが出してきたのは人数分のチケット。

 

 

「いえ!こんな大層なもの受け取れません!」

 

 

 それを見て断るカズマ。

 

 

「いやいや!是非受け取ってください!」

 

 

 なんとしてもお礼をしたいおっさん。

 

 

「いいですって!」

 

 

 それでも断るカズマ。

 

 

「さぁさぁ遠慮せずに!」

 

 

 満面の笑みのおっさん。

 

 

「要らねえっつってんだろ!」

 

 

 遂にキレたカズマ。

 

 

「またまたー。はい、どうぞ!」

 

 

 無理やりカズマの手に宿泊券をねじ込むおっさん。

 

 

「それでは!本当にありがとうございました!」

 

 

 逃げるように去っていく商隊。

 最後まで勘違いさせたままだったな。

 

 

「…どうする?これ」

 

「貰ったもんは使うしかないだろ。捨てるのは申し訳ないしな」

 

「だよなぁ…」

 

 

 はぁ、と深くため息をつくカズマ。気持ちはわかる。

 

 

 なにはともあれ、無事アルカンレティアについた俺達。

 

 

 旅行はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 




あと5話でアルカンレティア終わらせたい

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