この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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第三十八話

 

 アルカンレティアの源泉警備隊隊長、アルフレッド氏は後にこう語っている。

 

 

「アレは、『暴力』と『理不尽』を無理やり掻き混ぜて、何もかもを呑み込み消し去るみたいな、そんな感じの…『なにか』でしたね…えぇ、忘れるわけがない…。一緒にいた同僚も見てますから、どうぞ怪しいと思うならそいつにも聞いてください。同じ答えが返ってきますから」

 

 

 その言葉通り我々取材陣はその同僚にも話を聞いたが、本当に全く同じ答えが返ってきた。

 続いて、アルフレッド氏はこうも語っていた。

 

 

「こう…空から突然降ってくるような感じで紅い『柱』のようなものが現れたんです。そう、柱です。えぇ、唐突でしたね。なんの予兆もなかったですから。天から焔柱が登る魔法なんて、それはもう驚きましたねぇ…。けど、それだけじゃなかったんです。『柱』が天を貫いたかと思うと、後から熱風を含んだ衝撃波と爆音が源泉を中心に響いたんですわ。えぇ、とっても熱かったです。ほら、ここんとこ、火傷してるでしょ?いやぁ…熱かったなぁ…」

 

 

 そう言いながら袖をまくり水膨れを見せてきたアルフレッド氏。

 火傷を負う原因となった人に恨みはないのかと聞くと、驚きの返答が返ってきた。

 

 

「恨み?ありませんよ。ある訳が無いです。だって、その人達は魔王軍の幹部を討伐したそうじゃないですか。これは言わば名誉の負傷ですよ。いやぁ、まさかあの人達がねぇ…」

 

 

 なるほど。

 それで、その人達は今どこに?

 

 

「さぁ?旅行者、と言ってましたから今頃実家にでも帰ってるんじゃないでしょうか。なんにせよ、魔王軍の脅威から街を救って貰ったのでとても感謝しています。次会う事があったら、何かお礼をしたいですね」

 

 

 そう言ったアルフレッド氏は何故か複雑な顔をしていた。

 

 

 

 

 

『週刊ベルゼルクX年第28号 二十頁~二十二頁。温泉地アルカンレティアに現れた巨大な柱に迫る』に記載。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 マズい。この状況はマズいぞ。奇襲して首をはねるだけの簡単なお仕事だったはずだ。

 ハンスに首チョンパは効かなかったし、チョンパしたヒデオは毒で戦闘不能になり、今はダクネスに背負われている。

 どうする、考えろ…!

 

 

「おいおい。仲間が一人やられたくらいで早々に戦意喪失するのか?吹っかけてきたのはお前らだぞ?まさかあんな作戦程度で魔王軍幹部を倒せるとでも思ってたのか?」

 

 

 そう嘲笑うように言ってくるハンス。まさか一撃でヒデオがダウンするとは思ってなかったんだよチクショウ。

 

 …ヒデオが起きるまでどのくらいかかるか分からんが、時間を稼いでおくにこしたことはない。

 

 

「…ひとつ、聞きたい」

 

「なんだ?まぁいい。冥土の土産に教えてやる」

 

「何の為にアクシズ教の財源である温泉の源泉を狙うんだ?」

 

「アクシズ教という魔王軍にとっての脅威を排除するためだ。個人的な憂さ晴らしもある。ようやくこの忌々しい街からおさらば出来ると思ったところで何故か温泉が浄化された。俺の毒はそんじょそこらの奴に浄化されるほど甘くないんだがな」

 

 

 うちの女神様はスペックだけは高いからなぁ。知力はアレだけど。

 というか、アクシズ教を排除してくれるならこの行為を止めなくてもいいんじゃないか?

 そう思いつつも、質問をやめない。

 

 

「警備員の人達に聞いたんだが、管理人の爺さんが源泉に行ってたらしいんだが、それってお前がスライムらしく擬態したのか?」

 

「そうだ。なんだ、格好と体格を見るに雑魚と思ってたが案外頭が回るんだな」

 

 

 殴りてぇ!

 だが殴ったところで効かないし毒食らうのでやらない。

 つーか律儀に質問に答えてくれるんだが、実はいい人じゃないのかコイツ。

 

 ……ふと、気になったことを聞いてみる。

 

 

「擬態って、どのくらいまで真似れるんだ?恐らく爺さんと仲がいいであろう警備員を欺けたんだ。余程似てるんだろ?」

 

 

 擬態がスライムの特性でなくスキルならば。俺が覚えることも可能なんじゃないか?一回見せてもらえばそれで…。

 なんとか誘導できないものか。そう思っていた矢先、ハンスが俺の発言を褒められたと取ったのか自慢げに語り始めた。

 

 

「似てる?そんなもんじゃない。擬態ってのはな、見た目が本人そのものになるんだ」

 

「ほう。で、どうやって擬態するんだ?」

 

 

 早くデモンストレーションしろ。

 擬態を覚えることが出来れば、他人の姿であんな事やこんな事が…!

 

 ……ワクワクしてきた!

 

 俺の興味津々な反応に上機嫌になったハンスは未だペラペラと語っている。コイツ案外ちょろくない?

 

 

「やり方は言ってもわからんと思うが、擬態するには条件がある」

 

「その条件は?」

 

「食う」

 

「は?」

 

 

 くうって、あの『食う』か?

 ということはつまり、俺が擬態を覚えたとしても対象を食わないとダメってことか?

 

 ……クソ能力じゃねぇか。持ち上げて損した。

 

 

「は?ってなんだ。聞いてきたのはお前だぞ。俺はスライムだぞ?食う事が本能だ。さっきだって管理人のジジイを…」

 

 

 食った。そう言うつもりだったんだろう。

 しかし、それは叶わなかった。

 

 

「『カースド・クリスタルプリズン』」

 

 

 凍てつく様な声と共に放たれたそれが、辺りの気温を一気に下げ、ハンスの下半身を氷漬けにした。

 

 

「ッッ!?あああぁあ!!?」

 

 

 スライムに痛覚があるのかはわからないが、突然氷漬けにされ悲鳴をあげるハンス。

 

 そんなハンスに近付く者が居た。

 ハンスを氷漬けにした張本人、リッチーのウィズだ。

 普段のぽわぽわした雰囲気など嘘の様に、不死者の王の貫禄を見せつけるウィズ。

 

 

「ウィズ…!?てめぇ、何しやがる…!俺達とお前は中立のはずだろ…!約束はどこに行ったんだ!?」

 

 

 ウィズを睨みつけながらそう叫ぶハンス。

 しかし、ハンスの言い分はウィズには通じなかった。

 

 

「私が中立で、魔王軍の方に手を出さないで居る事の条件を忘れたんですか?冒険者や騎士などの、戦闘に携わる人以外を殺さない方に限る、です」

 

「覚えてる!覚えてるからやめろウィズ!頼むから魔法を解いてくれ!」

 

 

 そう叫んで懇願するが、ウィズは耳を貸さなかった。

 

 

「冒険者や騎士の方が戦闘で命を落とすのは仕方の無いことです。彼らだって日夜モンスターの命を奪ったりして生計を立てていますから。狩られる覚悟だって出来ているはずです。さっき貴方に戦闘不能にされたヒデオさんだって、貴方の能力に対して不満は言っても、そうなった事に対しては何も言いませんでした。覚悟ができているからです。ですが、管理人のお爺さんは…」

 

「わ、悪かった!すまん!今度から気を付けるから、やめろ!俺とお前が本気で戦えば…!」

 

 

 ハンスはウィズに気圧され謝罪の言葉を述べるが、逆にそれがウィズの逆鱗に触れた。

 

 

「何故私に謝るんですか?謝る相手が違いますよね?貴方が謝るべきは管理人のお爺さんですよね?何の罪もないお爺さんを殺しておいて自分だけ助かろうなんて、虫が良すぎますよね」

 

 

 そう言い放ったウィズの顔は、とても悲しそうだった。

 

 普段の温和な雰囲気とは違う本気のウィズが怖いのか、アクアとめぐみんは俺の袖をキュッと引っ張っていた。かくいう俺もちょっと怖い。

 俺の隣に居たダクネスはさすがクルセイダーと言うべきか、本気のウィズにも臆せずヒデオを背負いながらも何時でも援護できるように構えようとしていた。

 

 ……普段優くて温厚なウィズがここまでやる気を見せてるんだ。俺もここで覚悟を決めろ!

 

 

 覚悟を決め、いつでも動けるように構えていると。

 

 

「ぐー…」

 

 

 ダクネスが背負っているヒデオから、そんな音が聞こえてきた。

 コイツ…呑気にイビキなんてかきやがって。

 

 

「すかー…」

 

 

 それよりも、なんでこんな時に寝てんだこのサイヤ人。シリアスな雰囲気が台無しじゃねぇか。

 解毒は済んだはずだろ。折角俺が重い腰を上げてやる気出したってのに、何でこいつはグースカ寝てるんだ。

 

 ……なんかムカついてきた。

 

 ちゅんちゅん丸を鞘から抜き、峰打ちの構えで。

 

 

「オラ!起きろ!」

 

 

 ゴスッ!

 

 鈍い音を響かせ、奴の脳天に叩き込まれるちゅんちゅん丸。

 

 

「っ!?」

 

「いつまで寝てんだ!働け!」

 

 

 痛みに目を覚ましたヒデオの肩を追撃とばかりに揺らしまくる。

 

 

「お、おいカズマ。病人にその仕打ちは…」

 

 

 ダクネスが何か言ってくるが、耳を貸さずにヒデオを揺らし続ける。

 

 

「あばばばば」

 

「何やってんのよカズマ!解毒したとは言え、まだ動いちゃダメなの!というか動けないはずよ!」

 

「何ぃ!?なら今のコイツは爆裂魔法を撃った後のめぐみんと同じで、なんの役にも立たないタダのお荷物だってのか!?」

 

「喧嘩を売っているのなら買いますよ!?」

 

 

 さっきまでの怯えている様子はどこに行ったのか、俺に突っかかってくるめぐみんとアクア。

 そんな感じでぎゃあぎゃあと喚く俺達の様子を見て、何故か感心したように呟くダクネスとハンス。

 

 

「お前達、魔王軍幹部を前にしてその態度…さすが私の仲間だな…!」

 

「こいつら、魔王軍幹部が目の前にいるのに全く臆していないのか…?ウィズが同行してるのも納得がいった。なかなかの胆力だ」

 

 

 ダクネスはヒデオを背負っていなければ、ハンスは氷漬けにされていなければカッコイイ台詞なんだがなぁ。

 そう思いながらヒデオを揺らし続けていると、観念したヒデオが声を上げた。

 

 

「ちょ、待って、カズマやめてくれ。毒の効果とダクネスの匂いと相まって吐きそうだ。うぷっ」

 

「お、おいヒデオ。嗅いだのかお前…?いや、待て…たまたま匂いが鼻に入っただけだ…あわてるなララティーナ…。そんな事より吐瀉物まみれになるチャンスだ…落ち着け…」

 

 

 うわぁ…。さっきカッコイイと思った俺の気持ちを返してほしい。

 

 

「何を言ってるんだお前は。それと、吐きそうだから吐ける場所に下ろしてほしい…。お、おい!ガッシリと掴むんじゃない!離せ!ゲロまみれになるぞ!」

 

「望むところだ!それにお前だって離せと言う割には全く動く気配が無いじゃないか!さぁ早く!」

 

「こんな状況でも相変わらずだなお前は!毒の効果がまだ残ってんだよ!辛うじて五感は戻ったけど、四肢がピクリとも動かせないんだよ!」

 

 

 おいおいマジか。アクアの言う通りじゃねぇか。何のために起こしたと思ってんだ。

 

 

「勘弁してくれよ。お前が居なきゃどうやってアイツ倒すんだよ…いや待てよ?腕を支えてやれば…。おいヒデオ。技は使えそうか?」

 

「何を期待してるのか知らんが、気を放つ系の技は無理だ。今はそんな繊細なコントロールが出来る気がしない。暴発するか、加減ができなくて俺が怪我する。出来て気を溜めるくらいだな」

 

「マジかよ。役立たずじゃねぇか」

 

「てめぇ治ったら覚えとけよ……おいやめろ!残り少ない体力を吸うな!それより今は戦闘中なんじゃないのか!」

 

 

 おっと、忘れていた。

 ヒデオから体力を奪うのをやめてハンスに向き直ると、ちょうどハンスが自分の下半身を捨てて氷漬けから逃れていた。

 

 

「お前らのアレなやり取りで忘れていたが、俺の目的は源泉を毒まみれにすること!悪いなウィズ、お前と戦う気は無い!早く仕事を終わらせて帰らせてもらう!」

 

 

 そう言いながら失った下半身をにゅるんと生やし、氷漬けにされた下半身はその場に放置して一番近い源泉の方角へと駆け出した!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「カズマさーん!あのスライム、めちゃくちゃ速いんですけど!スライムって、プニプニして可愛いやつか、ドロドロして鈍いやつじゃ無いのー!?」

 

「俺の知ってる限りではそうなんだがな!どうもこの世界は違うらしい!」

 

 

 全くこの世界はスライムが強かったりキャベツが空飛んだりリッチーが街に住んでたりで、ことごとく予想を裏切ってくるな!

 

 

「ハンスさん、それ以上は行かせませんよ!『カースド・クリスタルプリズン』!!」

 

「クソッ!またか!やはりお前と俺では相性が悪い!」

 

 

 ウィズが先程も使った魔法で再びハンスの下半身を氷漬けにした。

 それを見てダクネスに背負われながらヒデオが感心したように呟いた。

 

 

「スゲェ魔法だなおい。ウィズの戦闘とか初めて見た。さすがリッチー」

 

「こんな時に呑気だな…背負ってる私の身にもなってくれ」

 

 

 呑気に感想を述べたヒデオに、ダクネスが悪態をつく。

 ダクネスはヒデオを背負いながら俺達に追いついているし息切れもあまりしていない。クルセイダーの身体能力のお陰か?

 

 そんな感じでハンスの足が止まった事により油断していた俺達。それが仇となった。

 

 

「油断したな!汚染するのはこんな方法でも大丈夫なんだよォー!」

 

 

 その叫びとともに自分の腕を引きちぎり源泉へとぶん投げたハンス。

 

 

「「「「あっ!」」」」

 

 

 その行動に驚く女性陣。

 

 

「カズマ!」

 

「『狙撃』!」

 

 

 ヒデオが俺の名を呼ぶのと同時に弓を構え矢を放つ。

 まっすぐ飛んで行った矢は寸分違わずハンスの腕を直撃し、無事撃ち落とすことが出来た。

 ハンスはまさか撃ち落とされるとは思っていなかったのか、俺のほうを睨みつけてくる。ギリと歯を食いしばり、今度は自分の凍っている片方の足をを複数に砕いた。あ、この量はまずい。

 

 

「これならどうだ!」

 

 

 そう叫んで次々と源泉へ投げ込むハンス。流石にこの量では俺の幸運を持ってしても無理かもしれないので援護してもらう。

 あーどっかの誰かさんが毒で倒れてなければなー!

 

 

「アクア!ジャンケンの時に使ってた運がよくなる魔法を頼む!」

 

「え、わ、わかったわ!『ブレッシング』!」

 

「『狙撃』!!」

 

 

 アクアに幸運を上げて援護をしてもらいハンスの身体を次々と撃ち落とす。

 

 それを見てヒデオが一言。

 

 

「がんばれカズマ…。お前がナンバー1だ!!」

 

「ぶん殴るぞお前」

 

 

 働いてない奴のがんばれほどムカつくものは無い。あとそのセリフはベジータが言うから響くんだよバカめ。

 そんな事を考えながら最後の一つを落とし、女性陣がホッとため息をつく。

 

 しかし、投げた毒物をことごとく撃ち落とされたハンスは、当然のように激昂した。

 

 

「なんて理不尽な命中精度だ!納得いかねぇ!」

 

 

 それを見てアクア、ダクネス、めぐみんが。

 

 

「うちのカズマさんはね!運だけは他の追随を許さないレベルに高いのよ!」

 

「そうです!この男の運を甘く見て酷い目にあってきた人を何人も見てきました!運だけは甘く見ないことですね!」

 

「そうだ!運だけは凄いんだぞうちのカズマは!魔法使いのめぐみんより貧弱なステータスながら数々の強敵と渡り合ってきたんだ!」

 

「褒めてんの?ねぇそれ褒めてんの?」

 

 

 褒めるなら普通に褒めて欲しい。わざわざ他の面を罵倒して運を強調しなくても…。

 

 

「あ、おいカズマ。またやるみたいだぞ」

 

 

 ヒデオに言われ視線をハンスの方に向けると、苦し紛れに腕をちぎって投げようとしているハンスが居た。

 ふん。何度やっても同じこと。

 

 

「何度やっても無駄だ!『狙げ…あ」

 

「どうしたカズマ」

 

「……矢がない」

 

「えっ」

 

 

 ハンスが投げた腕は、綺麗な弧を描いてポチャン、と音を立てて源泉の中に入ってしまった。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 ハンスの腕が入った事により、温泉の色は真っ黒に染まっていく。うげぇ…。

 

 

「フハハハハ!どうやら俺の物量勝ちの様だな!」

 

 

 高らかに笑い声を上げて勝利宣言をするハンス。クソッ!毒なんて食らってなければ…!

 

 悔しさに歯を食いしばっていると、この状況

 に慌てたアクアが。

 

 

「どどど、どうしよう!と、とりあえず浄化しないと!」

 

「あ、おい待て!早まるな!」

 

 

 カズマの静止も聞かずにハンスの一部により汚染された源泉に駆け出した。

 そして何を血迷ったのか、煮えたぎる上に汚染された源泉に腕を突っ込んだ!

 

 

「熱い熱い熱い!『ヒール』!『ヒール』!わぁあぁあー!熱い熱い!この熱いの何とかしてー!」

 

「何やってんだバカ!ほら、早く抜け!ええい!『フリーズ』!『フリーズ』!」

 

「あ、アクア様!すぐに手を抜いてください!火傷もそうですがハンスさんの身体の毒は先程の比じゃありませんよ!ええと…『フリーズ』!『フリーズ』!」

 

 

 フリーズでアクアが手を突っ込んだ部分の源泉の温度を下げるウィズとついでにカズマ。

 ウィズの方はさすがリッチーと言うべきか、フリーズを何度か使ううちに煮えたぎっていたはずの源泉はかなり冷却されたようだ。

 

 しかし、肝心の汚染の方はまだ直って居ないようで黒く濁ってしまっている。

 

 

「あ、熱かった…ありがとうねウィズ。カズマさんも、ちょっとだけありがとうね」

 

「いえ…」

 

「ちょっとだけってなんだ。しかし、本当にウィズの言う通りなかなか浄化出来ないな」

 

 

 そんなやり取りをするカズマ達の方を見ていると、ダクネスの隣にいためぐみんがあわわわわ、と怯えるような情けない声を出した。

 

 

「どうしためぐみん。お前ともあろう奴が。一体何が…」

 

 

 そう言いながらめぐみんの視線の先を見ると、俺も言葉を失う。ハンスが人間の姿を解除し、本来のスライムの姿に変貌しようとしていたからだ。

 そんな俺達の心情を一部代弁するかのように発言するダクネス。

 

 

「な、なんと立派なスライムだ…!毒さえなければペットにしているのに…!」

 

 

 毒がなくてもこんなんペットにしたくない。こいつ、毒で頭がやられたのか?

 

 

「あれ、ハンスだよな。気も一緒だ。アレが本来の姿か…。大きさが屋敷くらいあるぞ。おいカズマ!…ってもう知ってるか」

 

 

 事態をカズマに伝えるべく首だけを動かしカズマの方を見ると、先程のめぐみんの様に震えているカズマが居た。

 

 

「なんじゃこりゃーー!!」

 

 

 そして、情けない声でそう叫んだ。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 グミやゼリーのようにぷるん、としそうな質感で丸まっている巨大なスライムは、辺りの木々を丸呑みし、体内へと吸収していた。

 

 元の姿に戻ったハンスは、本能の赴くままに木々を喰らい続けている。そのうち俺達にも襲いかかってくるだろうし、街にだって行くかもしれない。

 

 

「いやデカすぎるだろ!ヒデオ、何とかしてくれ!」

 

「まだ無理だって!それに、半端な威力と範囲じゃこの辺りに毒の雨が降るだけだ!まだあの巨体をすっぽり覆えてなおかつ消し飛ばせる技なんて持ってない!覆えて半分だ!」

 

「じゃあ怒れ!怒って超サイヤ人になってくれ!」

 

「無茶言うな!…そうだ!ウィズ、さっきの氷の技でやってくれ!」

 

 

 氷漬けにさえ出来れば、飛び散る心配もせずに無力化出来る。

 そう思っていたのだが。

 

 

「先程の魔法でハンスさんの全身を凍らせるには、魔力が足りません!どなたかに魔力を頂かないと…」

 

 

 魔力か。俺やカズマ、ダクネスの分をあげても気休めにしかならないだろう。かと言って、アクアの魔力をウィズが取り入れてしまうと食あたりを起こす。

 となると、一人しかいない。

 

 

「「おめぇの出番だぞ!めぐみん!」」

 

「ハモった上になぜ私なのですか!魔力をあげずとも、あんなスライム程度我が最強の爆裂魔法で消し飛ばしてあげます!」

 

「おいバカやめろ!ヒデオの話を聞いてなかったのか!半端なヤツじゃあダメだって!」

 

「何ぃ!?私の爆裂魔法が半端!?いくら爆裂ソムリエのカズマでも、言っていいことと悪い事がありますよ!!」

 

 

 なんだその無意味なソムリエ。まぁそれは置いといて。

 爆裂魔法で跡形も残さないってのは良い作戦だ。出来ないという点に目を瞑れば。

 将来的にはできるのかもしれないが、今のめぐみんの爆裂魔法の範囲じゃ半分消し飛ばすのが関の山だ。

 クソッ!この状況を打開できる新技さえあれば…!

 

 …いや、待て。さっき使ってた技が有るじゃないか。加減はダクネスで実験済みだ。ありったけ、ありったけを渡せば…。

 

 

「どうしたヒデオ。急に黙りこくって。まぁ耳元がうるさくないから助かるが…」

 

「ダクネス、さっきハンスを追い掛けてる時、何か感じなかったか?」

 

「何を言ってるかはわからないが、思い返せば普段より力が漲っていたような…。それがどうしたんだ?」

 

 

 よし。きちんと影響は出てるみたいだな。

 

 

「いや、確認しただけだ。だけど、これで可能性が見えてきた!おいお前ら聞け!俺に考えがある!」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「…行くぞめぐみん」

 

「は、はい。いつでも来てください…」

 

 

 ヒデオの提案は、チャンスが一度きりの博打のようなものだ。しかし、リスクがでかい反面得られるリターンも大きいように感じた。

 

 ヒデオの出した作戦はこうだ。

 

 まずヒデオの気をありったけめぐみんに渡し、爆裂魔法を理不尽な威力と範囲に底上げする。

 次にハンスをある程度の場所に誘導し、爆裂魔法を叩き込む。

 爆心地からの熱風と衝撃は、俺達が1箇所に固まり先頭に頑丈なダクネスを配置し、その周りをウィズが『カースド・クリスタルプリズン』にありったけの魔力を込めて覆う。

 もちろん俺のなけなしの魔力もウィズに渡す。

 ウィズに気を渡すことも考えたが、凍らせた後の後処理と凍らせきれなかった時のことを考えて却下した。

 

 色々と不安な点は残るが、ここは俺の仲間達を信じよう。

 

 

「はぁっ…!!高めて…!渡す!!」

 

 

 ヒデオが気を高め、瞬間移動と同時に覚えたらしい『気の譲渡』を用いめぐみんに自らの気をありったけ渡す。

 そのエネルギーは膨大で、俺達の目にもその流れが見えるほどだった。

 

 

「お、おおおおおおっ!!?」

 

「離すなよ!絶対に離すなよ!フリじゃないからな!」

 

「わ、わかってます…!!」

 

「行くぞ!これがありったけだ!はぁぁぁぁっ!!」

 

 

 ヒデオから流れる気が凄まじいものになり、めぐみんへと流れていく。

 そしてヒデオは気を使い切ったのか、周りの気がだんだんと小さくなり、やがて消えた。

 

 

「こ、これであとは…任せたぞ…」

 

 

 ダクネスの背中に倒れるようにおぶさるヒデオ。よく頑張ったな。さっき奪った体力を返しておこう。

 

 そして、そのヒデオの隣にはめぐみんがいる。漲るパワーに戸惑いながらも紅魔族特有の紅い瞳を輝かせていた。

 

 

「これが『気』ですか…。魔力とも違う何かですが、普段から私達が持っているというのも理解出来ました…。こんなよくわからないエネルギーを攻撃に使われる相手からすると理不尽極まりないでしょう…」

 

 

 全身から紅い気を放出しているめぐみんは、杖を構えてニヤリと笑い。

 

 

「負ける気がしません!!」

 

 

 そう、言い放った。

 

 最強のエネルギー(理不尽)と最強の魔法(暴力)を備えたバカが今、誕生してしまった。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「まだ撃つなよ!?絶対に撃つなよ!?」

 

「おやカズマ。フリですか?」

 

 

 まずはカズマが囮になり、ハンスをある程度の場所に誘導して戻ってくる、という段階なのだが…。

 

 

「ねぇ早くしてよカズマ!早くしないとどんどんあの子達の温泉が汚染されちゃうんですけど!」

 

「俺だってそうしたいよ!けどさ!こいつしつこいんだもん!」

 

 

 思いのほかハンスがしつこく、作戦を遂行出来ずに居た。

 

 

「カズマ!なんか誘導できるもの持ってないのか!?」

 

「この身一つだよ馬鹿野郎!誰だよこんな欠陥だらけの作戦考えたやつ!」

 

「俺だよ!ええい!お前らもなんかないのか!食いもんなら何でもいい!」

 

 

 食うのが本能なら、優先順位くらいはあるはずだ。栄養価が高いものを狙う、とか。カズマを追い掛けているのを見ると、その線が高い。

 

 

「ええと…土産に買った饅頭とかなら…。もったいなくないか?」

 

 

 ここに来る途中で買っていたらしい土産物の饅頭の箱を差し出してきたダクネス。

 

 

「ナイスだダクネス!それ持ってろ!それと、金持ちなんだからケチケチすんな!土産なら後で皆で買いに行けばいい!」

 

「そ、そうか…?ほら、言われる通りに持ったぞ。何する気だ?」

 

「あのー!!なんでもいいんで早くしてくれませんかね!!」

 

「カズマ!今からそっちに行くから構えて待ってろ!一撃離脱だ!めぐみんとウィズも準備しといてくれ!アクアはその後ろで待機!」

 

 

 全員に指示を出し、ダクネスに背負われながらカズマの気を把握する。俺の気の量もカズマが体力を返してくれたから往復分はあるはずだ。

 

 そして。

 

 

「ヒデオー!早くしてくれー!追い込まれそうだ!」

 

「行くぞ!」

 

 

 シュンッ!

 

 悲鳴をあげるカズマに合図をし、瞬間移動を用い急接近。

 そして、ダクネスが饅頭をハンスの前にばら撒く。

 

 

「ダクネス!カズマの手を!」

 

「わかった!ほら、がっしり掴んだぞ!」

 

「サンキュー!!」

 

 

 シュンッ!

 

 

 再び瞬間移動をし、ウィズ達の元へ戻る。

 これでハンスの周りには誰も居ない。安全に、確実に消し飛ばすことが出来る。

 

 ……瞬間移動成功して良かった。

 

 だが安堵している暇はない。すぐさまめぐみんに指示を出す。

 

 

「今だめぐみん!!」

 

「はい!」

 

 

 勢いよく返事をし、眼帯を投げ捨てるめぐみん。

 

 

「これが究極の暴力にして極限の理不尽!!爆裂魔法を超えた爆裂魔法!!」

 

 

 紅い気を纏っためぐみんがその口上と共にハンスに杖の先を向けると、ハンスの身体をすっぽりと覆うデカさの魔法陣がハンスの真下に現れた。

 

 そして。

 

 

「『超エクスプロージョン』ッッ!!!!」

 

 

 魔法陣から放たれた爆炎という名の暴力が、理不尽な威力でハンスの全身を覆い尽くし、文字通り天を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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