第四十話
めぐみんの言葉が理解出来なかったので、再度確認して飲み込んで頭を回してようやく理解出来た。
「…なるほどね。ゆんゆんはカズマの子が欲しいと、そう言ったわけだな」
「は、はい…。出来れば忘れてほしいです…」
俯いて顔を真っ赤にしながら言うゆんゆん。一体なぜこんなことをしたのか。
ちなみにカズマは凄い顔でめぐみんとダクネスを睨み付けている。表情筋すげぇ。
「俺もそうしたいんだがなぁ。さっきのそこの変態のブーメラン発言の通り、女の子が軽々しくそんなこと口にしちゃダメだ。ましてや相手はこのカズマだぞ? 何をされるかわかったもんじゃねぇ。腹がペコペコの時に目の前に肉を出されて我慢できる肉食動物がいるか?居ないだろ」
諭すように言うと、ゆんゆんではなくカズマが反応してきた。
「さっきから黙って聞いてりゃボロカスに言ってくれやがって! お前はどうなんだお前は! ゆんゆんレベルの美少女に言い寄られて断れるのかコラァ!!」
「無理」
「流石だぜブラザー!」
我慢?出来るわけがないでしょう。する気もないけど。
そもそも女の子が勇気を出して言い寄って来たのを断る奴はホモか不能かタダのハーレムを築く鈍感クソ野郎だ。
そいつらは俺やカズマとは違うベクトルのクズで、法では裁けない。だから…。
俺が裁く!!
新たな決意を固めて闘志を燃やしていたのだが、俺の決意などつゆ知らず。
めぐみんがまたかこいつら、といった顔でため息をついた。
「はぁ…まったくこの男どもは…。私はおろかゆんゆんもドン引きしてますよ?」
「一向に構わねぇよ」
「同じく」
こいつらに引かれてももう何も思わないようになってきた。これが慣れか。
「…なにか釈然としませんが、取り敢えずは置いときます。では本題に入りますが、ゆんゆん。何の為にこんな騒動を引き起こしたんですか? ありえないと思いますが、カズマに惚れたって訳じゃあないんですよね?」
「おいその可能性がないこともないだろ! 否定するな!」
「ややこしくなるから黙ってろカズマ。あと多分その可能性はない」
「なんだとオラァ! やろうぶっ殺してやほぐっ!」
旅行の疲れがまだ残っている状態でこの騒動が起きたので、カズマのテンションがおかしなことになっている。
そう思うことにして、取り敢えず黙らせた。
「で、本当はなんなんだ?俺としてはバニルにまた騒動が転がり込んでくるって言われて気が気でないんだが」
「ええと…この手紙を見てください」
言いながらゆんゆんが取り出したのは1通の手紙。何の変哲もない、普通の便箋だ。
「この手紙がどうかしたのか? 何の変哲もないように見えるが」
「手紙自体は普通の便箋です。ですが、内容が…」
「内容…。カズマと子作りしなきゃ一生ぼっちのまま、って内容の手紙が来たのか? 」
もしそうなら手紙を出したアホを突き止めてオハナシしなくちゃならない。
「ち、違います! …たまにアクシズ教の人から入らないと一生友達が出来ないって感じで勧誘されますけど…。とにかく違うんです! …紅魔の里、いえ、世界の危機なんです!」
何やってんだアクシズ教徒。
紅魔の里ってことは、めぐみんとゆんゆんの故郷か。それに、世界が危機ねぇ。
紅魔族は常識を失う事と引き換えに全員がかなりの強さを有している一族だと聞いた。その紅魔の里が危機?魔王軍でも攻めてきたのか?
解せないのが、なぜそれがカズマと子作りに繋がるのかという事だ。
「世界の危機がなぜカズマと子作りに発展するのですか」
「そ、それは忘れてって言ったでしょ! と、とにかく、この手紙を読んで!」
またも顔を真っ赤にしたゆんゆんが、話をそらすようにめぐみんのまな板に手紙を押し付けた。お、殺気。
「ええと…これはゆんゆんのお父さん、族長からですね。なになに、『この手紙が届く頃には、私はこの世に居ないだろう』…?」
手紙の内容に目を通していくにつれ表情が険しくなっていくめぐみん。
グシっと手紙を握るめぐみんから手紙を奪い取り、俺も目を通す。
「ちょっと貸してくれ。どれどれ…『我々の力を恐れた魔王軍がとうとう侵攻してきた。既に里の近くには巨大な軍事拠点が築かれた。それだけではない』……マジで魔王軍攻めてきてたのか。まさかバニルが言ってた騒動ってこれか?」
もしそうなら願ったり叶ったりだ。休みたいのは休みたいが、魔王軍と戦うことなんてそうそうないからな。…あれ?よく考えたら結構戦ってるような…。まあいい。
手紙には、魔法に強い魔王軍幹部が派遣されたとも書いてあった。ハンスとは違い正面から攻めるタイプの幹部か。なかなかいい相手になりそうじゃないか?
ワクワクする気持ちを抑えながら、再び手紙の内容に目を通していく。
「『この身を捨ててでも幹部と刺し違えてみせる。愛する娘よ、お前がいれば紅魔の血は絶えない。族長の座はお前に任せる。どうか、紅魔の血が決して絶えることのないように…』か…。なるほど、これでカズマに子作りを迫った訳だな」
「そ、それもあるんですが…。二枚目にその事について詳しく書いてるので…」
「二枚目…。ふむ。『里の預言者がヒモ同然の働かない男と…』なるほど、カズマのことか。『…ゆんゆんがくんずほぐれつして出来た子が魔王を討つことになるであろうと予言した』か。ゆんゆん。悪いけどこの予言嘘だぞ」
「えっ」
一つ、絶対に断言出来ることがある。
「魔王を倒すのはお前とカズマの子じゃない。この俺だ」
仮にもサイヤ人の端くれとしては、世界最強と謳われる魔王をぶっ倒してその名を欲しいままにしたい野望はある。
しかし、俺の自信満々な発言に物申す奴が出た。
自称紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみんだ。
「何言ってるんですかヒデオ。幹部に一撃でやられた分際で。魔王を倒すのはこの私です。あなたは私の横で大人しく『気』を渡しとけばいいのです!」
この間のハンスの一件を挙げ俺を挑発し、なおかつ自信満々にそうのたまうめぐみん。
いい度胸じゃねーかこのガキ。
「いい度胸だロリっ子。スライム1匹倒した程度で調子乗ってんじゃねーぞ」
「ロリ…! また言いましたね! もう許しませんよ! 表に出なさい!」
ダン!と床を踏みつけこちらに向き直るめぐみん。その瞳は興奮しているのか紅く輝いている。上等だ。
同じくめぐみんに向き直り、ザッ、と前に一歩出る。
「上下関係をはっきりさせる時が来たようだなめぐみん。どうなっても知らねーぞ?」
「謝るなら今のうちですよ。土下座すれば許してあげます」
挑発を挑発で返してくるめぐみん。
どうやらここで白黒はっきりさせなきゃならないようだ。
めぐみんと共に無言で外に出ようとしたその時、いつの間にかこちらに来ていたアクアが。
「ねぇ二人共、ゆんゆんの件はどうなったの?」
「「あ」」
忘れていた訳じゃない。他に重要な事が出来たから失念していただけだ。
△▼△▼△▼△▼△▼
めぐみん騒動の後、何とかしてゆんゆんを納得させる為に俺達が紅魔の里に出向く事となった。短期間で旅行し過ぎじゃないか?
その旨を起きたばかりのカズマに伝えると。
「で、また旅に出るのか…」
目に見えて落ち込みながら言うカズマ。まぁさっき帰ってきたばかりでゆっくりしたいはずなのにこの仕打ちはあんまりだよな。
俺も休みたいのは休みたいが、魔王軍幹部へのワクワクでなんとかなっている。
「まぁそう落ち込むな。紅魔の里はアルカンレティア経由で行くと早いらしいから、今からウィズのとこ行って明後日に送ってもらえるよう頼んでくる。温泉を気に入ってテレポート先に登録したらしいからな。てことで明日は1日ゆっくりするといい」
「そうか…。で、ゆんゆんはもう居ないっぽいけど、結局あの言動は何だったんだ?やっぱりモテ期来てた?」
可哀想に。気絶させられた衝撃で妄想と現実の区別がつかなくなっているようだ。
「残念ながら現実は非情なんだよ。ゆんゆんに送られてきた手紙に魔王軍云々以外にもなんか色々と書いてあってな。それに惑わされてた感じだ」
「なんだよ…ついに俺の時代が来たかと思ったのに」
「あんま気落ちするな。そのうち来るんじゃないか? …っと、俺そろそろウィズのとこ行ってくるわ」
ソファから立ち上がり、カズマにそう伝える。玄関に向かうと、その行動を疑問に思ったらしいカズマが声をかけてきた。
「あれ、徒歩で行くのか? 範囲的にも瞬間移動使えるだろ?」
「歩くより疲れるしなぁ。空を飛ぼうにも夜はまだ寒いし…。それに万が一ウィズの所に飛んで着替え中とかだったりしたら」
「…もう一回今のセリフを」
「着替え中…ハッ!」
なんで俺はこんな簡単なことに気付かなかったんだ! もし気付いていれば、確実にウィズと混浴が出来たのに…!
クソッ…!
「ヒデオ、気持ちは分かるが気を取り直せ。過去は戻ってこない。俺達は今に生きてるんだろ! だったらやることは一つだ!」
「カズマ…あぁ、そうだな! 俺達は過去じゃなく、未来のために戦うんだ!」
カズマと手を取り合い、ガッシリと男の握手を交わす。そしてウィズの気を探る。くそっ、バニルの気もあるから掴みづらいな…。
…よし、これか!
「あ、お前ら! 俺とヒデオは今からウィズの所に行ってくるから、先に飯食べといてくれ!」
「はいはーい。けど、二人で何しに行くの?」
「合法的な覗k…ゲフンゲフン。ちょっと紅魔の里に行く手伝いをしてもらおうと思ってな」
これは決して故意ではない。事故だ。たまたま飛んだらたまたま全裸のウィズが目の前にいたりしても俺達は全く悪く無いのだ。
「なるほど、わかったわ。いってらっしゃーい」
特に興味も無さそうなアクアに見送られ、俺達はウィズのいるところに飛んだ。
△▼△▼△▼△▼△▼
瞬間移動で辿り着いた場所には鏡と洗面台があり、その奥には風呂場へと続く扉があった。
「洗面所兼脱衣所…か」
「そうみたいだな…」
声を殺して会話をしていると、浴室の方から水音が聞こえた。どうやらあがる直前だったようだ。これなら事故として扱って貰えるだろう。
ごくりと生唾を飲み込み、扉をガン見する俺達。もはや気配を殺すことも忘れ、ただただその時を待っていた。
やがて扉に手がかけられ、躊躇なく一気に開け放たれた。
そこに居たのは。
「貧乏店主かと思った?残念!我輩でした!フハハハハ!」
「「やろうぶっ殺してやる!」」
自称魔王より強いかもしれない悪魔、バニルがそこに居た。ころしてやる!!
「お主らの悪感情、大変美味である!フハハハハ!」
感想とかなんか色々よろしゃす!