この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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ギリギリセーフ!


番外話 この世界での聖夜に祝福を!

 

 ある冬の事。

 

 

「「「メリークリスマス!!」」」

 

 

 今日はクリスマス・イブ! 本来はイエス・キリストの生誕を祝う日で、決してカップルがイチャコラするための日じゃないぞ!

 ……というのは置いといて、どうやらこの世界にもクリスマスという習慣はあるらしい。別にイエス・キリストの生誕を祝っている訳では無い。というかキリストは存在しないらしいしな。

 何を祝っているのかというと、国教であるエリス教の何たらを祝うらしい。それなら『エリスマス』になりそうなものなのだが、なんでもエリス様の好きな花である『クリス』という花から取っているらしい。まぁどうでもいいよね。

 

 

「……めりくり」

 

「ヒデオ、顔が死んでるぞ。……まぁ気持ちはわかるが」

 

 

 この世界でのクリスマスも例に漏れず、カップルがイチャコラするための口実になってしまっている。

 お前らエリス教徒じゃないのかクソッタレ。

 

 

「どうしたのよ二人共! そんな暗い顔して! 今日はめでたい日なのよ?」

 

「アクアの言う通りだ。今日はエリス教の祝い事の日だが、この日は宗派に関係なく皆が祭りを楽しむ。ほら、今日の為にと実家から高級酒が贈られてきたんだ。飲んでくれ」

 

 

 ダクネスがグラスに酒を注いで差し出してくる。気持ちは嬉しいのだが、今はそんな気分じゃない。

 

 

「気持ちは有り難いんだがな……。オレもヒデオも、今はそんな気分じゃないんだ」

 

「まぁそうだな。酔っちゃうと仕事出来なくなるしな」

 

 

 酒は飲まずにチキンを頬張るヒデオ。こいつの言うとおり、酔ってしまうと仕事が出来なくなる。

 ちなみに仕事というのは、この時期になると毎年やって来る冬の精霊『サンタ・クロース』の亜種、『ブラック・サンタ・クロース』の撃退及び討伐だ。

 この黒サンタは四年に一度しか来ない代わりに、幸福なプレゼントではなくゴミなどの忌み嫌われる物を枕元に置くのだそうだ。

 しかも、普通のサンタのプレゼントがその場にあると持って帰ってしまうという小悪党ぶり。

 ギルドには四年に一度、子供の保護者や孤児院からこいつを討伐してほしいとの依頼が来るそうだ。

 

 

「ねぇめぐみん。なんでヒデオさんとカズマさんはめでたい日なのにあんまり嬉しそうじゃないの?」

 

「二人共街中でカップルがイチャコラしてるのを見た上に仕事を依頼されたからですね。仕事の方は仕方ないですが、いい加減自分達の周りが美少女だらけというのを自覚したらどうです?」

 

 

 ゆんゆんに問われためぐみんが、やれやれといったような顔で自信満々に言ってきた。

 

 ……美少女、美少女ねぇ。確かにこの場にいる女の子は全員見てくれだけレベルが高い。そう、見てくれだけは。

 だが、中身はどうだ?

 ポンコツなんちゃって女神に、爆裂魔法しか頭にないロリっ子、誰もが引くレベルのドM、友達が居ない薄幸ぼっち。見た目の分を差し引いても黒星を背負う事になる。

 

 その事を周知している俺とヒデオは、めぐみんの言葉に顔を見合わせ。

 

 

「「……フッ」」

 

 

 鼻で笑ってやった。

 

 

「「「「なっ!!」」」」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 もうすぐ日が変わろうという時間帯。女性陣は既に酔いつぶれて寝てしまっている。

 

 依頼の準備をしていると、もう準備を終えたらしいヒデオがぶつくさ文句を言ってきた。

 

 

「しっかしよーカズマ。こんな日になんだって俺らは働かなくちゃならないんだ? この仕事するよりカップルの男の股間を潰してまわりたいんだが。リア充はいねがーつって」

 

「気持ちは分かるが抑えろ。ギルドから直々の依頼だし無下にもできないんだよ。あなた達だけが頼りなんです! とか言われたしな。それに、エリス様のための祭りを台無しにしようとするクソッタレ黒サンタなんて許しちゃおけねぇだろ?」

 

 

 受付のお姉さんのサンタコスがエロかったから二つ返事で了承したってのは内緒。

 

 

「……まぁそれはそうだな。よし決めた。黒サンタを瞬殺してからリア充をぶっ殺しに行こう」

 

「それがいい。さて、そろそろサンタ狩りの始まりだ」

 

 

 ヒデオにそう言い、ベランダに出る。

 本来のサンタ狩りなら普通のサンタも狩りに行くところなのだが、恵まれない子どもたちの為にプレゼントを配る善人を討伐するほど俺達は鬼じゃない。

 

 

「ん……。特に目立った気は見当たらないな。まだ来てねぇのか? 取り敢えず、街の方に行こうぜ」

 

「おう。寒いから乗っけてってくれ。俺は毛布かぶる」

 

「しゃーねーな……。ほれ、乗れ」

 

 

 ヒデオの背中に乗せてもらい、ついでに毛布にくるまる。この状態だと咄嗟に行動できないが、まぁヒデオがいれば大抵のモンスターは倒せるし大丈夫だろう。

 

 

「カズマよ。依頼受けたのはいいんだが、なんで俺達だけなんだ?」

 

 

 空を飛んでいると、ヒデオがそんな疑問を投げかけてきた。

 

 

「あんまり大勢でやると白サンタの方が仕事しにくくなるらしいからな。かと言って半端な強さじゃ黒サンタには勝てない。だからアクセル最強の冒険者と名高いお前が居る俺達のパーティーに依頼が来たんだろ」

 

「最強だなんて……まぁ事実だな」

 

 

 特に謙遜することも照れることも無くしれっと事実だと認めたヒデオ。なんかムカつく。

 

 

「話題に出したの俺だけどムカつくな」

 

「落とすぞお前」

 

「フフン。落とされても俺には君と同じく舞空術があるのだよ。勝った!」

 

「よし。今からお前を全力で地面に向けて叩きつけるけどいいな?」

 

「調子に乗りました謝るのでそれは勘弁してださい」

 

 

 そんな事されたら潰れたトマトみたいになってしまう。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 街に着いても特に変わった気は無かった。

 ただ待っていても寒いので、まだ開いていたウィズの店にお邪魔することにした。

 

 

「あ、カズマさん。ヒデオさん。メリークリスマス! こんな夜中にどうしたんですか?」

 

 

 店に入ると、ミニスカサンタのコスプレをしたウィズが出迎えてくれた。エロいな。

 というかリッチーなのに神聖なクリスマスを祝って大丈夫なのか?

 

 

「メリクリ。ギルドから依頼を受けたんだが、肝心の標的がまだ出て来てないんだよ。だからそれまでここで待たせてもらおうと思ってな」

 

「そうなんですね! 折角来たんですし、ゆっくりして行ってください! お茶淹れてきますね!」

 

 

 そう言い残しパタパタと店の奥へ引っ込んだウィズ。あーエロかった。

 ウィズのコスプレ姿を思い返しながら癒されているとどこからともなく、口の周りに白いヒゲを蓄え赤い衣装を身にまとった小太りの中年が現れた。

 

 

「メリークリスマス! さぁ好きなプレゼントをあげよう!」

 

 

 そう言いながら白地袋をまさぐるサンタ。

 そんなサンタを見てヒデオが一言。

 

 

「なにやってんだ? バニル」

 

 

 特に疑いもせずそう言い放った。

 気を変質させでもしない限り、気の感知持ちに変装のたぐいは効かないのだ。俺は気付かなかったけど。相変わらず変装のクオリティが凄い。

 というかこいつ悪魔なのにサンタコスなんてして大丈夫なのか?

 

 

「やはり貴様には通じぬか! フハハハハ! なに、プレゼントが思い通りの物でなかった時のガッカリの感情を頂こうと思ってな。今しがた街中に居たカップルをからかってきたところなのだ」

 

「「流石バニル!俺たちに出来ないことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる憧れるッ!」」

 

 

 普段はムカつく野郎だが、今回ばかりは感謝しかない。あざーっす!

 

 バニルに感謝をしていると、お茶を持ったウィズが戻ってきた。

 

 

「お茶が入りましたよー。あ、バニルさん。帰ってらしたんですね」

 

「うむ。ちょうど帰った方が面白いとの直感が働いてな。実際にそのようだ」

 

 

 こちらを見ながら言うバニル。相変わらず笑顔が不気味だ。

 

 

「して、貧乏店主のコスプレに目をギラつかせている二人の小僧よ。そろそろお目当ての黒サンタがこの街に来るであろう。そこでこの我輩が一つ予言してやろう。このバニル人形Mk-IIIを持って行くが吉」

 

 

 先程の白い袋から怪しい人形を二つ取り出すサンタコスバニル。めちゃくちゃにやけてるしかなり怪しい。

 

 

「すっげぇ怪しいなお前。で、この人形はどんな効果を持ってんだ?」

 

「なに、前にそこの小僧が作ったダイナマイトとやらを悪魔パワーで圧縮して出来るだけ爆裂魔法の威力に近付けたものを入れただけの、至って普通の人形である」

 

「ただの兵器じゃねぇか! これめぐみんの前で使ったら確実にキレるよな……」

 

 

 そう呟きながらも人形をしっかり貰うヒデオ。めぐみんの前で使う気満々ですね。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 世間話をしながらお茶を飲んで寛いでいると、その時は来た。

 

 

「……来た。行くぞカズマ」

 

「お、来たか。瞬間移動使うのか?」

 

「おう。じゃ二人共、行ってくるぜ。お茶ごちそうさま」

 

「はーい。行ってらっしゃい!」

 

 

 全く心配などしていない顔のウィズと、これから起こることがわかっていて笑いを堪えきれていないバニルに見送られながら瞬間移動で黒サンタの気に接近する。

 

 

 着いた場所はアクセルの街の上空。前を見ると、情報通りに真っ黒な衣装に身を包んだサンタクロースがそりで空を飛んでいた。

 

 

「Ho-Ho-Ho-……!?」

 

「よう、テメェが黒サンタだな? 俺は今からリア充をぶっ殺しに行きたいんだ。だから瞬殺させてもらうぜ。はっ!」

 

「ホッ!?」

 

 

 黒サンタはヒデオの有無を言わさぬ一撃をくらい吹っ飛ぶ。容赦ない。

 

 くるくると飛んでいく黒サンタだったが、わざわざ俺達に依頼するだけあって、黒サンタはヒデオの一撃に耐えた。

 

 

「ちっ、今の耐えるか。おいカズマ。見てねぇで手伝え」

 

「はいはい。えっと……『バインド』!!」

 

 

 持ってきていたロープを黒サンタの方に飛ばし、動きを封じるスキルのバインドを使う。

 真っ直ぐ飛んでいったロープが黒サンタを縛る。

 

 

 ことは無く。

 

 

「ホッ!」

 

 

 そりからジャンプして華麗によけられてしまった。しかし、それこそが狙いだ。

 

 

「かかったなアホが! 『スティール』!!」

 

「ホッ!?」

 

 

 スティールを黒サンタではなく、そりの方に向けて使いそりを奪う。これで奴はもう空を飛べないはずだ。

 

 

「ホー!」

 

 

 俺の読み通り、黒サンタは空を飛べずに地上に落ちていった。

 

 

 プレゼント(悪)が入った袋を持って。

 

 

「あ、不味い! 街中に逃げ込まれたら大技で消せねぇぞ!」

 

「逃げられる間にゴミをばらまかれてもアレだ! 追い掛けるぞヒデオ!」

 

 

 自由落下していったサンタを追い掛けるように、同じく地上に向かう。

 

 くっそ!黒い物体を消し飛ばすだけの簡単なお仕事だったはずなのに!

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 路地裏。

 

 

「Ho-Ho-Ho-!」

 

「まちやがれこの野郎!」

 

「足速いなあのデブ! 『バインド』!!」

 

 

 カズマがバインドを使って捕らえようとするが、ひらりと避けられてしまう。体躯とマッチしないあの身のこなしが厄介すぎる。このまま追い掛けても埒が明かないだろう。

 

 

「カズマ! 挟み撃ちだ! 回り込む!」

 

「合点!」

 

 

 カズマより飛行速度の速い俺が奴の前に回り込み、カズマはそのまま後ろを追いかける。

 

 目指すは奴の進行方向より10m先。舞空術の速度を上げ、あっという間に目標地点に辿り着く。

 

 

「おやおや、久しぶりですね」

 

「Ho-ホッ!?」

 

「速っ! だけどナイスだヒデオ!」

 

 

 足を止めた黒サンタのすぐ後ろにカズマが来ていた。これでもう逃がさない。

 

 しかし、黒いサンタは一味違った。

 

 

「ホッ!!」

 

「跳んだ! 跳躍力すげぇ! 動けるデブとはこの事か!」

 

「呑気に感想述べてる場合か! 頭上越えられたぞ!」

 

 

 奴は感想を述べる俺の頭上を通り、路地裏から大通りに抜け出た。

 

 そこには。

 

 

「HO!?」

 

 

 黒いサンタなどではなく、正真正銘、真っ赤な衣装に身を包んだサンタ・クロースが居た。

 

 

「Ho!」

 

 

 黒サンタはサンタを見た途端、親の仇でも見つけたかのように飛びかかった。どうやらサンタを倒すつもりらしい。

 

 

「させるか!」

 

 

 サンタを守るべく、瞬間移動を使い二人の間に移動する。

 

 

「ホッ!?」

 

「オラァ!」

 

 

 気合と共に、奴の股間を全力で蹴り上げる。急所攻撃が効くかはわからないが、この体勢だとこれが一番いい。

 追撃を喰らわせようと構えると、サンタの所にカズマが駆け寄った。

 

 

「大丈夫かサンタさん! ほら、ここから早く離れて! あと、街の外れにある屋敷にもプレゼント届けに行ってくれると嬉しい!」

 

「HO!」

 

 

 カズマに促され、そりを使って空を飛んで行くサンタ。これで心置き無く暴れられる。

 

 

「Ho!!」

 

「その程度の攻撃が当たると思うのか! オラァ!」

 

 

 黒サンタの鋭い突きを難なく避け、右ストレートを叩き込み吹き飛ばす。

 

 

「ホホホーホホーホホ……!!」

 

 

 何が可笑しいのか、黒サンタは吹き飛びながら笑い声を上げる。

 

 

「おいヒデオ! なんか『これが我が逃走経路だ……!!』って言ってそうだぞあのニヤケ面!」

 

「どうやらそうっぽいな! あの方向はさっきお前が奪ったそりを捨てた方向だ!」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「Ho-Ho-Ho-!」

 

「そりを取り戻したからって高笑いしてやがる! ヒデオ、撃ち落とすか?」

 

「いや、撃ち落としてもさっきと同じ事になるだけだろう。どうにかして一撃で、しかも上空で倒す方法は無いか……? 下からかめはめ波撃つとそりで妨害されるし、上から撃つと街に被害が出るな……そうだ!」

 

 

 さっきバニルから人形型爆弾を貰った。それに加えて黒サンタはプレゼントがあればそれを取るという小悪党ぶりを発揮するらしい。

 

 つまり。

 

 

「こうするんだよー!!」

 

「Ho?」

 

 

 上空に居る黒サンタの目の前にバニル人形Mk-III をぶん投げる。

 

 

「カズマ!」

 

「あいよ! 『ティンダー』!!」

 

「H……!!!」

 

 

 カズマの放ったティンダーが、アクセルの街の夜空にそれはそれは見事な爆炎を輝かせた。

 

 

「「メリークリスマス!!」」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

「……で、二人共。なにか言うことは?」

 

 

 無人の教会にクリスの声が響く。

 

 

「「メリークリスマス! クリス様!」」

 

「メリークリスマス。ねぇ、依頼を達成する為とは言え、街中で爆弾を放つのはやりすぎだとは思わなかったの?」

 

「良心の呵責が邪魔をしましたが何とか押し退けてやりましたよクリス様」

 

「いや、押し退けちゃダメでしょ。というかクリス様はちょっと……」

 

 

 バツが悪そうにポリポリ頬の傷をかくクリス。からかうのはこの位にしよう。

 

 

「エリス様の為を思ってした事だし勘弁してくれよクリス」

 

「そうだそうだ! そんなんだから貧乳なん……ヒィッ!」

 

 

 こいつホント懲りないな。エリス様とクリスに胸の話題はNGなのに。

 

 

「わた、エリス様の為なら仕方ない……か。あと、ヒデオ君は後でお話しよっか」

 

 

 ニッコリと笑うクリスを見て、ヒデオが逃げようとする。しかし。

 

 

「「『バインド』」」

 

「あぁっ! テメェカズマ何しやがる!」

 

「ここで媚びとかないと酷い目にあいそうだからな。じゃ、俺は先に帰ってるから、後よろしく」

 

「嫌だァーー!! 」

 

 

 それでもサイヤ人かと思うほど情けない悲鳴を上げるヒデオをその場に放置し、屋敷へと帰る。

 

 さーて、サンタさんはプレゼントくれたかな?

 

 

 メリークリスマス。

 




メリクリです

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