この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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ゴタゴタがゴタゴタしてあれでした。

あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!


第四十三話

 

 

 日が落ちてしまい、このまま先に進むのは危険だということで街道沿いの地面に大きめの布を敷いて夜営することになった。

 光があるとモンスターが寄ってくるので、ランプなどは灯さずに暗闇の中バニルから買わされたアンデッド避けのアイテムの蓋を開け、それを中心に置いてその周りで身を寄せあって休むことにした。

 しかし、このままだとまだ不安なので見張りを付けるらしい。敵感知と千里眼スキルを持っているカズマ+俺以外の誰かで見張りを担うようだ。

 

 

「ヒデオが居れば大抵のモンスターは大丈夫だろうけど、念の為だ。寝込みを襲われちゃかなわねぇしな」

 

「俺は見張りをしなくていいのか? 気の感知とかでカズマの代わりも出来そうなんだが」

 

「それも考えたんだが、明日には紅魔の里に着くし、それにつれてモンスターも強くなってくる。なるべく休んどいてもらおうと思ってな。まぁモンスター来たら起きてもらうけど」

 

 

 なるほど。万が一と明日に備えて出来るだけ英気を養ってもらおうって事か。まぁつい最近カズマも気功術と持ち前の機転でそこそこ戦えるようになったとは言え、このパーティーの戦闘能力に偏りがあるのには変わりないしな。

 

 

「了解した。おいお前ら、カズマが言ってたように、何かあったらすぐ俺を起こしてくれて構わないぞ。あ、トイレ付いてきてとかはカズマに頼んでくれ」

 

「りょーかい。アークプリーストはトイレに行かないからそんな事ないけど」

 

「紅魔族もトイレになんて行きませんので」

 

 

 そういや前もこんな事言ってたな。あの頃の俺はミツ……ラギ? ひとり殺せない雑魚だった。懐かしいな。

 

 

「まだ言うか。よし、ダクネス以外は付いてってやんねぇからな」

 

「クルセイダーもトイレには……って、カズマ。せめて言わせて欲しいのだが……。まぁこれもカズマなりの責め……か。悪くない」

 

「何言ってんのお前……」

 

 

 勝手に納得して興奮したダクネスにドン引きするカズマ。

 このクルセイダーは相変わらず守備範囲がすげぇな……。普通に気持ち悪い……。

 カズマと同じくダクネスにドン引きしていると、めぐみんがポツリと言葉を漏らした。

 

 

「あ、そう言えばカズマとヒデオって、同郷なんでしたっけ」

 

「ん、まぁそうだな。会ったことはなかったけど……前も言わなかったか?」

 

「えぇ。けど、故郷での二人はどんな人間だったのかと……」

 

 

 どんな人間か、か……。サイヤ人でも冒険者でもない普通の高校生だとしか言いようが無いんだけどなぁ。

 よくある物語の主人公達みたいに都合よく実家が金持ちって訳でもなく、一子相伝の拳法を受け継いでた訳でもなく、ただ単に人生ツマランと常々思ってるだけの一人の人間だったな。

 

 

「どんなって、まぁ普通の学生だな」

 

「まぁ、そうだな」

 

 

 カズマは日本でもニートだったとアクアから聞いたが、ここは学生だったで通すのだろう。ここで口出ししてもいいのだが、既にカズマの株は最底辺だと思うので、これ以上下げる必要はない。

 俺はそう思っていたのだが、奴は違った。

 

 

「あれ、カズマさんって学生だったっけ? 私の記憶では今と殆ど変わらないヒキニーむぐっ!」

 

「ちょっと黙ろうかアクア!」

 

 

 余計なことは言わせまいとアクアの口を塞ぐカズマだったが、その行動は既に意味を持っていなかった。

 

 

「大丈夫ですよカズマ。今更カズマの過去が明かされたところでこれ以上評価は下がりようがありませんから」

 

「そうだぞ。時折上がったりするが、基本的に底を這いずっているぞ」

 

「ひでぇ評価だなカズマ」

 

 

 カズマを内心鼻で笑う。フッ、また勝ってしまった。

 ドヤ顔で勝ち誇っていると、くるりとこちらに向き直っためぐみんが。

 

 

「ヒデオ、あなたもですよ?」

 

「えっ」

 

 

 めぐみんに予想外の事実を突き付けられる。そ、そうかなぁ。割と株が上がることやってると思うんだけど……。

 しかしこいつの以外に高い知能で問い詰められてはボロが出る。ここは最終手段だ。

 

 

「ゴホンゴホン! あーそろそろ寝なくちゃなー! おやすみ!!」

 

「あ、逃げた」

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 寝てから何時間経っただろうか。話し声が聞こえ、ふと目が覚める。

 寝起きでまだ感覚がハッキリとしていないが、話しているのはカズマと……めぐみんか?

 

 ……コイツらは二人きりの場合、どんな話をするんだろう。無粋かもしれないが、気になる。

 それと、ここいらでカズマをからかうネタを仕入れておきたいところだ。

 

 

「――先程のヒデオが寝る前の話なのですか、カズマとヒデオは他所の国から来たんですよね? その……国に帰る事はないのですか?」

 

 

 そんな事をおそるおそるカズマに聞くめぐみん。

 

 日本に帰るか、か。日本に戻っても特に楽しい事が待ってるわけでもない。強いて言うなら漫画とかゲームとかが無いのが寂しかったりするが、それらはあくまで娯楽の道具だ。こっちの世界にだって娯楽はごまんとあるし、なんなら魔王を倒した願いで出してもらってもいい。という点から踏まえると、カズマはどうか知らんが俺は日本に戻る気は無い。あまり深く考えたことは無かったが、殆どの転生者は帰るつもりなんて無いんじゃないだろうか。

 

 

「今の所はまだ帰らない、というか帰りたくても帰れないな。まぁ、国に帰っても俺はニートに戻るだけだしな。こっちでの生活も悪くないし、紅魔の里から帰ったらバニルから三億貰えるんだ。その金でみんな揃ってのんびり暮らすのもいいな。魔王はどうせ他の奴らかヒデオが倒すし、あまり気負わなくても大丈夫だしな」

 

 

 どうやらカズマも、いつも愚痴を言っている割にはこの世界が気に入っているらしい。

 

 そうだな、魔王を倒した後は、のんびり暮らしつつ武者修行の旅に出て、時折ふらっとアクセルに帰ってきて、旅の話とかをして酒を酌み交わすのもいいかもしれない。

 そんな未来予想図を描いていると、カズマの言葉に安心したらしいめぐみんがふー、と息を吐いた。

 

 

「そうですか。……私も今の暮らしは気に入ってるのでこのままがいいです。しょっちゅう災難に巻き込まれながらも、ヒデオのとんでもない技やカズマの機転、ダクネスの硬さや私の爆裂魔法、アクアの支援とかでなんとか乗り越えていく、今の恐くも楽しくもある生活に満足してます」

 

 

 災難に巻き込まれるのは強敵と戦える機会が増えるので俺的にはありがたいのだが、カズマはそう思ってないだろう。常々働きたくない、危険な目に遭いたくないってボヤいてるからな。……ってそれは誰でも同じか。誰だって安全な所でグータラしたいに決まっている。

 というか全然ネタになる事言わねぇなこいつ。起きて損した気分だ。突然モンスター寄ってこねぇかな。

 そんな禄でもないことを考えていると、めぐみんが。

 

 

「ずっと、このまま皆で一緒に居られるといいですね」

 

 

 そう、優しく呟いた。

 

 

 ………。

 

 

 な、なんかこういうの小っ恥ずかしいな。普段からこういうのを直接言う奴じゃないから余計なのか? 何にせよ、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるからやめて欲しい。

 というか、俺が口を出す事じゃないかもだけど、カズマとめぐみん、距離近くない? 寒いからって、距離近くない? 暗くて手元とした表情は見えないけど、距離近くない?

 

 ……よし、良いタイミングで起きて甘酸っぱいであろう雰囲気を台無しにしてやろう。

 

 そう思っていたのだが。

 

 

「……すかー…………」

 

 

 めぐみんのなんとも言えない間抜けな寝息で、興が削がれてしまった。

 

 ……寝てる奴に甘酸っぱいも何もねぇな。寝よ。再び瞼を閉じたのだが、あることに気付いた。カズマの気が高まっている。何かやるつもりか? 目を凝らしてカズマの方を見ると、めぐみんの首筋に手を置いていた。

 

 そして。

 

 

「『クリエイト・ウォーター』、『フリーズ』」

 

「ひゃっ!? 冷たっ! 何事ですか!?」

 

 

 めぐみんの首筋にから水を流して背中の辺りをびちょびちょにしたと同時にキンキンに冷やすカズマ。うわぁ……。

 

 

「おはようめぐみん。見張りの途中に寝るなよ? おっと、服がびちょびちょじゃないか。乾かしてやるから脱いでくれ」

 

 

 暗くて表情は見えないが、とてもゲスい顔をしているのだろう。長い付き合いでなくてもわかる。

 

 

「大丈夫です! ……へくちっ」

 

 

 めぐみんがあまりの寒さにくしゃみをした。恐らくこれ以上甘酸っぱい感じにはならないだろう。そう思うことにして、再び眠りについた。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 翌朝。

 

 

「昨夜は酷い目にあいました……」

 

「お前が見張りの途中で寝るから悪いんだろ」

 

 

 めぐみんとカズマが睨み合いながら身支度をしている。俺が寝た後も喧嘩したんだろうな。甘酸っぱい展開にならなくてよかったよかった。

 そんな二人の会話を聞いて、俺の隣にいたダクネスがめぐみんに話し掛けた。

 

 

「めぐみん、カズマにどんな仕打ちをされたのか詳しく教えて欲しい。カズマ、なんなら実践してくれても構わない」

 

「お前ほんとなりふり構わなくなったな。これ以上俺の中のお嬢様と女騎士のイメージを壊さないでくれ」

 

 

 ダメ元でお願いしてみてもダクネスの本質は変わる事は無い。親父さんが不憫すぎる。

 

 

「ヒデオ、諦めろ。それは今更すぎる」

 

「だよなぁ……」

 

 

 カズマにトドメを刺され、ダクネスから目を逸らし遠い空を見る。あー……青いなぁ……。

 

 

「お願いしておいて返事も聞かずに諦めるのはどうかと思うのだが……」

 

「どうせ治す気が無いんだから無駄だと思ってな。もうお前はそのままでいいよ。結婚相手だって、親父さんがなんとかしていい相手を探してくるだろうさ」

 

「父の連れてくる相手はバルター殿のような好青年ばかりでな。流石にそれはちょっとな。お前達のようなクズさがないと……」

 

 

 言いながらこちらを見るダクネス。なんだその目は。まるで俺がこいつの言うクズみたいじゃないか。

 

 

「カズマはともかく俺はそこまでクズじゃないと思うんだが」

 

「だからなんで俺の名前を真っ先に出すんだよ。言っとくがお前のそういうところがクズたらしめる所以だからな」

 

 

 単に前例を出しただけでクズ扱い。こりゃあ手遅れですね。

 

 

「うむ。流石クズマと呼ばれるだけあって、他人のクズさもわかるか」

 

「そうそう……ってクズマはやめろ! ったく、誰が広めたんだこんなひでぇアダ名」

 

 

 そんな事をする奴は一人しかいないだろう。俺の後ろで笑いをこらえきれていないなんちゃって女神が一人居る。

 

 

「……プークスクス!」

 

「やっぱりおまえか! なんてことしてくれたんだコイツ!」

 

 

 思わず吹き出してしまったアクアに、やはりかといったようにカズマが掴みかかる。というか今更だと思うんだが。

 

 

「わぁぁーー!! やめ、やめて! 髪の毛を引っ張らないで! わぁぁ!!」

 

「落ち着いて下さいカズマ。昨日の夜も言った通り、カズマの評価は最底辺なんですよ? アクアの広めたアダ名なんて今更だと思うんですが……」

 

「そうだそうだー」

 

「だからヒデオは人の事言えねぇだろ……。さて、お遊びはこれくらいにして行くぞ。おら、いつまで喚いてんだお前は」

 

「最近私への扱いが酷いものになってる気がするんですけど……」

 

 

 それこそ今更な気がする。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 出発して数時間は、モンスターから隠れたり暗殺したりで安全に紅魔の里に近付いていた。

 

 しかし、もうそろそろ着くといった所で事件は起きた。

 

 

「うわぁぁー!! ひ、ヒデオー!! 助けてくれぇぇーー!」

 

「無理だカズマ! こっちも手一杯だ! クソッ! 寄るな! 近付くな! 俺にそっちの趣味はねぇ! えぇい! 舞空術!」

 

「あぁぁあ!! ひ、ヒデオー!!」

 

「チィッ! 掴まれーー!!」

 

 

 舞空術で一旦上昇した後、カズマの所に急降下で向かう。

 

 

「あ、あぁ!! つ、掴んだぞ! あ、クソッ! このっ!離せ!」

 

「逃がさないわ!」

 

 

 俺の手を掴んで逃げようとしたカズマだったが、近くに居たオークがカズマの足を掴んだ。カズマはそいつを蹴り落とそうとするが、なかなか剥がれない。

 

 

「カズマ、 俺の手をしっかり握れ! ぐぬぬ……重い……!! この豚が! カズマから離れろ!! はっ!!」

 

 

 空いている方の手でカズマの足を掴み逃がすまいとしてくるオークを撃ち落とし、カズマを脇に抱える。

 なんとか離れることが出来たが、舞空術を使っても奴らの筋力の前にはあまり意味をなさない。地面を剥がして投げてくるとか脳筋すぎる。

 

 

「あぁ! ヒデオ、早くカズマと一緒に逃げてください! さっきもアクアが言ったように、オークは強いオスに目がないんです! オークを倒してしまったカズマも、大量のオークをいなすヒデオももれなくターゲットになってます! 早く逃げてください!」

 

 

 そう叫ぶめぐみん。

 

 

 オーク、オークとは。

 

 ファンタジーものでよく出てくる化け物。女騎士やエルフなどを凌辱するシチュエーションが有名で、薄い本への出演も一定の需要がある。……というのが俺とカズマのオークに対するイメージだった。

 

 例に漏れず、というかなんというか、やはりこの世界のオークもイメージとは違っていた。

 

 まず第一に、オスのオークは存在しない。大昔には居たらしいが、絶滅してしまったらしい。たまにオスが生まれても、メスの玩具にされ大人になる前に干からびて死ぬそうだ。それならどうやって繁殖するのかと思うが、メスのオークは縄張りに入り込んだ他種族のオスを襲い、集落に連れ込んでそれはもう凄い目にあわせてくる、男にとって天敵のモンスターらしい。

 そして第二に、めぐみんが言ったようにこのオーク達はより強いオスを追い求め、より強い子を産むらしい。サイヤ人である俺はともかく、何故カズマまで狙われるのか。

 

 

 事件は三十分前に起きた。

 

 

 

「ここから先は潜伏スキルで隠れられるような場所も無く危険なので、俺が先行して様子を見てくる。何かあったら『逃走』スキルで逃げてくるか、気を解放してヒデオに助けに来てもらうのでそこんとこ頼む」

 

「俺が直接行く方が良くないか?」

 

 

 俺ならモンスターから逃げずにすむし、早く探索を済ませることが出来るはずだ。

 

 

「いや、万が一お前らがモンスターに襲われた時に俺じゃ守りきれないし、めぐみんにだって温存しといてもらいたい。だからヒデオに三人の護衛を頼みたい」

 

 

 なるほど。カズマが気付かなかったモンスターが俺達に襲いかかって来る可能性もある。それに、今日には魔王軍のいる紅魔の里に着くんだ。めぐみんの爆裂魔法はできるだけ温存しておきたいのだろう。前衛を務める俺としても、あのレベルの火力を出せるめぐみんにはここぞという所で使って欲しい。

 

 

「なるほど。了解した。合図があればすぐ瞬間移動ですぐに駆けつける」

 

「ああ、頼む。じゃあ行ってくる」

 

 

 短く返事をし、俺達の前方を進み始めるカズマ。少しの間その場で待機し、ある程度カズマと離れたところで慎重に進み始める。

 

 

 

 

 

 

 平原地帯も半ば程に来ただろうか。

 

 今は特に危険そうな気もないし、カズマから特に指示もない。途中何度か大型を見たが、上手いことやり過ごせたので交戦はしていない。少し物足りないところだが、これから嫌でも戦うことになると思うので我慢だ。

 

 そう思っていた矢先、カズマの前方にポツンと気が一つ現れた。なかなか大きめだがこの程度ならカズマ一人でも対処できるだろう。どうやらカズマも気付いているようで、身軽になるために唯一装備したダガーを引き抜き、そろりそろりと近付いていく。

 そのまま暗殺しようとしていたカズマだったが、相手に気付かれてしまったようでピタと足を止めた。逆に相手はカズマの方に一歩踏み出した。

 

 少しの間睨み合っていたように動かなかった両者だったが、やがて敵の方がカズマに飛びかかった。

 

 しかしそこは割と戦えるカズマ。数秒組み合った後、相手を戦闘不能にしたようだ。なかなかやるじゃないか。

 カズマの迅速な対応に感心していると、めぐみんがおそるおそるといったように尋ねてきた。

 

 

「あの……ヒデオ、今カズマあの敵を倒しましたよね?」

 

「ん、あぁ。殺してはいないみたいだけどな。それがどうかしたのか?」

 

「あの姿形、オークによく似ているんですが……それに、この辺りはオークが縄張りを張っていたような……」

 

 

 オークってあれか。豚の化物みたいなイメージのある、ダクネスが好きそうなモンスターか。今の奴もそこまで強くは無かったし、何が問題なのか。

 

 

「オークがやばいのか知らんが、今のヤツ程度なら何も問題ない。カズマでも倒せたくらいだし、たとえ群れで来ようと余裕だろ」

 

「あぁ、そう言えばヒデオとカズマってこの世界の常識を何も知らないおバカさんだったわね。仕方ないわねー! 教えてあげるわ! 教えてあげるので頭から手を離してほしいです!」

 

 

 こいつは悪態をつかないと何かを言えないのか?

 そんな事を思いつつもアクアの頭から手を離し、続きを促す。

 

 

「おう、早く言え」

 

「あ、危なかった……。まず、ヒデオが想像してるオークとこの世界のオークは、全く別物と言っていいわ。ヒデオの想像するオークは、女騎士やエルフを本能のままに蹂躙するケダモノってイメージじゃないかしら」

 

「大体あってる。けど、別物ってことはまたこのパターンか」

 

 

 キャベツといいスライムといい、この世界の生き物は軽く想像を越えてくる。オークも例に漏れずそうなのだろう。

 

 

「えぇ。要点だけ言うと、この世界のオークはメスしか居ないわ。そしてそのメスもオスと同様本能のままに蹂躙するケダモノ。そして、生物の本能としてより強い種を残す。……あとは分かるわね?」

 

「メス……狙われるのは男、それも強い男ってことか……!! 俺が危なくないか!」

 

 

 遠目で見た感じ、ケモミミ系女子とかではなさそうだった。タダでさえ異種間は無理なのに、見た目が醜悪とか救いようが無い。

 

 

  「ヒデオも危ないですが、もっと危ないのはカズマです! オークの縄張りでオークを倒しちゃったんですよ! 群れで押し寄せられて凄い目にあわされちゃいます!」

 

「何ぃ!? よしお前ら俺に掴まれ! カズマの所に行く!」

 

 

 三人に瞬間移動の旨を伝え、体の一部に触れてもらう。カズマの気を確認し、その場所に瞬間移動する。

 

 

「お、どうした? 瞬間移動なんてして。何か問題でもあったか?」

 

「カズマ、早く逃げるぞ! 犯されるぞ!」

 

「は? 何を言ってんだお前」

 

 

 疑問符を浮かべたカズマに、めぐみんがオークについて説明する。すると、段々顔が青ざめていくカズマ。

 

 

「やべぇじゃん。ヒデオ、舞空術だ! 俺だけでも連れて紅魔の里に行ってくれ!」

 

「合点! ……って言いたいところだけど、もう手遅れだカズマ。敵感知で探ってみろ」

 

 

 カズマに説明してる間に、大量の気がこちらに押し寄せて来ていた。舞空術で飛んで行こうにも、この人数は抱えきれない。

 

 荷物を地面に置き、すぐに動けるように構える。すると、先程カズマに戦闘不能にされたはずのオークと同じ気のオークが前に出てきた。復活早すぎるだろ。

 

 

「あら、もっと強そうなオスが増えてるわね。尻尾が生えてるところを見ると獣人の一種かしら? まぁいいわ。私達は、縄張りに入り込んだ間抜けなオスを逃がさない。安心して? 普通じゃ考えられないような凄い目にあわせてア ゲ ル」

 

 

 字面だけ見たら薄い本でよくある興奮するシチュエーションだが、実際は吐き気を催す邪悪(ケダモノ)だ。生憎俺にもカズマにもそんな趣味はない。

 それに、この獣共が思い付く程度の凄い目なんて既に味わっている。それどころかもっと凄い目を体験しているんだぞ俺達は。

 そっち方面に関してはダントツトップの日本から来た俺達に、想像力で敵う奴がいようか。

 

 

「てめぇら程度が考えつくようなシチュエーションなんて、既に経験してんだよ。あまり俺らを甘く見るなよ? 死にたくなけりゃ回れ右して帰るんだな」

 

「あぁ、ヒデオの言う通りだ。想像もつかない凄い目になんて何度も遭ってきた。なのでお引き取り願います」

 

「フフフ! 思ったよりウブじゃ無さそうね! それなら犯しがいがあるというものよ!」

 

 

 脅しにもお願いにも耳を貸さず、一歩、また一歩と俺達に近付いてくるオーク達。

 

 そして。

 

 

「あんたたち! こんな威勢のいい男達は滅多に居ないわ! 必ずお持ち帰りするわよ!」

 

 

 先頭のオークの号令をキッカケに、オーク達が雄叫びをあげて駆けてきた!

 

 

 

 

 そして、現在に至る。

 

 

 オーク達が俺を撃ち落とそうとそのへんの石や地面を投げまくってくる。それを気弾や気功波で撃ち落としているが、いかんせん数が多すぎる。

 

 

「数が多すぎる! ちょ、カズマ! お前も手伝え!」

 

「無理だ! この手を離されたら俺は……! 嫌だァーー!!」

 

 

 先程一匹のオークに剥かれそうになったのがトラウマになったのか、俺の手をガッシリと掴んで離してくれない。

 

 ……仕方ない。

 ある作戦を実行するべく、カズマを肩に担ぐ。

 

 

「カズマ、舌噛むなよ。……ダクネスー!! 今からこいつ投げるから、しっかりキャッチしてくれー!!!」

 

「なにかよくわからんが了解した!」

 

 

 息を大きく吸い込み、出来る限り大声で叫ぶ。どうやらダクネスにきちんと声が届いたらしく、返事とともに構えたのが見えた。

 

 今から俺がする事はカズマを殺す行為ではない。抱きつかれては作戦を実行出来ないので、手っ取り早く戦線離脱してもらう為に投げるのだ。

 ただ、地面に投げても普通に死ぬので、筋力と防御力の高いダクネスに向けてぶん投げる。多少怪我はするだろうが、アクアがいるから大丈夫だ。

 

 

「え、ちょ! ヒデオ、早まるな! 人は投げるものじゃない! 考え直せヒデオ!」

 

「うるせぇ! よし、ダクネス………受け取れぇー!!!」

 

「うわぁぁぁー!!!」

 

 

 情けない声と共に、まっすぐダクネスに飛んでいくカズマ。これで邪魔者は消えた。

 

 

「あら? 仲間を先に逃がしたのかしら。さっきも言ったように、私達オークは狙った獲物は逃がさない。二手に別れようが無駄よ?」

 

 

 仲間にカズマを追わせようと合図を送ろうとする先頭オークだが、そうはさせない。

 

 

「カズマは追わせねぇ。いや、()()()()()()ってのが正しいな。はぁぁぁ……!!!!」

 

 

 気を最大限まで高める。これは攻撃の準備だけが目的ではない。

 

 奴らはより強いものを本能で求めている。俺を初見で強そうと言ったところを考えると、強い者を無意識下で判断できる可能性が高い。つまり、圧倒的な強さを持つものには無条件で本能が惹かれるのではないか。

 普通のオスなんて目に入らないレベルの強さのオスがそこにいれば、本能でこちらに集まって来るはずだ。

 

 

「はぁぁぁ……!! コッチを見ろ……!!」

 

「あ、あんた、凄い強さね!! オークとしての勘が言ってるわ! 『あのオスとなら最も強い子を産める』ってね! 絶対に逃がさないわ!」

 

「そうか……! テメェらこそビビって逃げんなよ……!」

 

 

 殆どのオークが俺に視線が釘付けになっているが、まだ足りない。もっと密集させねば。この数を集めるには……!!

 

 

「不死王拳………!!」

 

 

 この技を使うのもデストロイヤー戦ぶりだ。エリス様にここぞという時以外は使用禁止されてたし、使う機会もなかった。

 

 

「10倍だぁー!!!!」

 

 

 デストロイヤー戦とは違い、なんとか耐えられるようになった10倍の不死王拳。

 

 それを今、解放した。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 10倍の不死王拳を発動すると、勝負は一瞬で終わった。別に一瞬でオーク達を消し飛ばしたのでは無い。

 

 ならば何が起きたのか。

 

 なんと、オーク達は圧倒的な強さの前に一目散に逃げ出してしまった。繁殖本能より生存本能が勝ったようだ。全滅させる事が出来ていればかなりの経験値になったのに。結構悔しい。

 そして現在はすぐそこまで来ていたゆんゆんと合流し、平原を抜けた先の森で少し休憩する事にした。

 

 

「カズマ、大丈夫か? さっきから小刻みに震えてるが。やっぱりあのオーク共ぶっ殺した方が良かったか?」

 

「い、いや、いい。思い出したくもない……」

 

 

 カズマが膝を抱え虚ろな目をしながらボソボソとそう言う。よっぽどトラウマになったらしい。

 そんなカズマを見かねたゆんゆんが、慰めるように声を掛ける。

 優しいゆんゆんなりの優しさだったのだろうが、そのワードがいけなかった。

 

 

「災難でしたねカズマさん。ヒデオさんが居て良かったです」

 

「あ、あぁ。本当にヒデオが居て助かった。……ヒデオが居なかったら今頃俺は……! あぁぁぁ……!!」

 

 

 心が弱ってる時は悪い想像ばかりしてしまうと言うが、これはその典型だ。今だってオークに凄い目にあわされることを想像したんだろう。

 魔王軍の奴らと戦った時だって文句は言えどもここまで恐怖していなかった。オーク達はうちのリーダーにしっかりとトラウマを植え付けたらしい。

 

 

「か、カズマさん落ち着いて! ほら、もう誰も襲わないから! 誰もいないから! 大丈夫よ。よーしよーし……」

 

 

 ここまで恐怖を覚えているカズマは初めて見る気がする。アクアもこんなカズマは初めてなのか、普段のように邪険に扱わず、女神を思わせる慈愛を見せている。

 

 

「……めぐみん、ゆんゆん。紅魔の里はもうすぐか?」

 

「はい。この森を抜ければ見えてくるはずです」

 

「ただ、魔王軍の拠点もあるそうなので気を付けないと……」

 

「なるほど。じゃあもう少し、カズマが回復するまで待つか……」

 

 

 戦闘面では遊撃を務めるうちのリーダーがこうなってしまっては、パーティーで魔王軍と戦うのは難しい。かと言って仲間を放置するのもアレだ。

 

 カズマが気を取り直すまで、俺も休憩しよう。

 木によりかかったが、色々な疲れがドッと出て来てしまいつい眠りに落ちそうになる。まぁ寝てもゆんゆん居るし大丈……夫。

 

 誰かの膝に寝かせられる感覚を最後に、眠りに落ちた。

 




こんな話で一万文字超えてしまった。


閲覧あざーす!

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